有価証券報告書-第99期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

【提出】
2019/06/27 14:45
【資料】
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【項目】
171項目

研究開発活動

当連結会計年度は、国内土木事業、国内建築事業及び海外建設事業を対象に研究開発活動を行い、その総額は515百万円となりました。なお、連結子会社においては、建設事業に係る特段の研究開発活動は行っておりません。
総合技術研究所では「技術は人のため、地球に生きる皆のために使われるべきものであり、技術を使う我々は、それを理解し事業活動を持続していく」として、市場の要求を的確に捉え、社会に役立つ企画提案力を強化し、事業量の確保と利益向上を図ってまいります。また、産・官・学との連携やオープンイノベーションを推進し、スピード感を持って技術の先端化(差別化)に取り組みます。
技術開発については、本社技術部門及び全国支店と連携し、即応可能な技術開発を行っております。コスト低減、施工効率向上への対応及び設計変更や施工方法変更に対する現場支援を迅速に行うことにより、利益向上及び瑕疵の縮減を図り、会社業績への貢献を常に希求しております。
(1) ドラム型遠心装置を活用した沿岸域構造物の耐波安定実験
波浪・地盤・構造物の相互作用を実応力場にて再現できるドラム型遠心装置を駆使し、沿岸域構造物の耐波安定性の検証実験を行ってまいりました。今般、新たな造波機構の導入により、高波浪に誘起される海底地盤液状化と構造物被災の連成シミュレーション実験が可能となり、その成果は国際シンポジウム「Physical Modelling in Geotechnics 2018」において注目を集めました。地球温暖化に伴う沿岸域災害の増加、南海トラフ巨大地震及び津波に対する備えとして、各種シナリオに基づく被災メカニズムの解明と効果的な対策について研究を続けています。また、日本とは異なる施工環境下にある海外の現場においても、安全・安心な設計・施工法に対して強力にサポートすべく当装置を大いに活用しております。
(2) 作業船の機能付加
活動領域を港湾区域から外洋に拡げることを目指して、2016年度に自航式多目的船「AUGUST EXPLORER」を建造いたしました。より大水深域での作業ができるよう、水中における吊荷の位置測位システムの精度向上を図り、波浪による吊荷の動揺抑制システムの開発によって作業の安全と効率向上を図るなど、本船の信頼性を高めていくことで外洋における構造物の撤去設置事業の獲得、海洋再生エネルギー事業など領域拡大に結び付けてまいります。
また、2018年度に当社とタチバナ工業株式会社が共同で建造した非自航グラブ浚渫船兼起重機船「拓海」(たくみ)では、浚渫工事の見える化を図るなど、ICT施工管理システムの導入により、施工の効率性向上に取り組み、浚渫事業の生産性向上を図っております。
(3) i-Construction推進への取り組み
i-Constructionを推進するため、研究開発委員会を設置し、建設ICTの研究・開発・普及促進を図る体制を構築しています。
建設ICTは、ICT要素技術の研究、CIM等システムの構築、ソフトウエアの開発、機械装置の開発・改良、現場に合せたカスタマイズ及び現場への普及促進など、多様な研究開発が必要なため、それぞれの専門部署で研究開発を推進するとともに、同委員会で効率的かつ効果的な建設ICTの研究開発体制の運用を図ってまいります。
2018年度は、京都府舞鶴港でのCIM活用工事の実施、宮崎県細島港で実施したケーソン自動据付(函ナビ-Auto)など自動化技術の開発及びタブレット導入により施工管理の効率化を推進しました。今後もi-Constructionを推進し、生産性向上を目指してまいります。
(4) 重力式係船岸の増深工法の確立
近年、貨物船舶の大型化やクルーズ船の増加に伴い、既設岸壁増深のニーズが各地で高まっております。法線の前出しなど大規模な改修が必要な重力式の既設岸壁では、基礎マウンドに可塑状グラウトを注入して増強し、岸壁の増深を行う工法が国立研究開発法人港湾空港技術研究所と一般社団法人日本埋立浚渫協会によって開発されました。
当社は、京浜港ドックを実験フィールドとする「海岸・港湾技術の早期実用化に向けた実証実験」(関東地方整備局公募)において五洋建設株式会社と共同研究を行い、可塑状グラウト充填による増深工法の実証実験を実施いたしました。これにより増深工法の実物規模の基礎データを取得することができ、今後の実用化に向けて弾みがつくものと考えております。
(5) プレキャスト桟橋の接合構造の開発
建設工事における担い手不足対策として、国土交通省はコンクリート構造物のプレキャスト化を推進しており、桟橋形式の上部工築造工事において、従来の「場所打ちRC構造」では、鉄筋型枠支保工の組み立て解体やコンクリート打設作業が干満帯での海上作業となるため、現場作業が大幅に省人化できるプレキャスト方式が有効な手法として注目されております。当社は、プレキャスト部材の接合構造を簡素化できる技術の開発を進め、モデル実験により構造形式と強度の関係について実験データを取得いたしました。これにより、桟橋施工の無支保化と現地溶接を削減できるプレキャスト工法を実用化し、国内はもとより海外港湾施設工事への展開を図ってまいります。
(6) 管理型処分場の造成・閉鎖技術
東京港及び兵庫県尼崎沖処分場で鋼管杭の引抜箇所の底面粘性土遮水層を現状復旧するための埋戻材として、土質系遮水材HCB-F(ハイブリッドクレイバリア-フライアッシュ)が採用され、施工が完了いたしました。今回の実績では、遮水性能の実証データを得ると同時に、管理型処分場の底面遮水材としての適用を示すことができました。今後の管理型処分場建設における遮水技術として活用を推進するとともに、処分場の建設・管理技術を研究開発し、円滑な資源循環社会の実現に向けて貢献してまいります。
(7) TOYO-RCS構法の設計施工案件への適用・実証
2015年度に建築技術性能証明を取得した東洋建設式RCS接合構法を、自社設計施工の実物件に適用し、その成果を評価しました。
本構法は大スパンを可能とし、かつ低コスト・短工期の構工法として考案された、柱・RC(鉄筋コンクリート)造、梁・S(鉄骨)造(下線部を合わせRCS構法と呼称)をもとに、段差梁など適用範囲を広げ、更にコストダウンなどの改良を行った構法です。現場施工において、コンクリート打設計画、仮設計画、揚重計画等の改善点が確認できましたので、これらの計画策定に反映させ、今後の案件に展開してまいります。
(8) 繊維植込みシートを用いたタイル張付けモルタルの剥落防止工法
コンクリートの表面に繊維を植込み、モルタルによるタイル張り仕上げの剥落を防止する技術を建設会社9社で共同開発し、建築技術性能証明を取得いたしました。本工法は、専用の「繊維植込みシート」を用いて繊維をコンクリート表面に植え込むことによって、モルタルでタイル貼りした際のモルタル層を含めたタイルの落下を、繊維のモルタル層を保持するアンカー効果により防ぐものです。
これまでの繊維素材を使ったタイル剥落防止工法では、シートが残存するためコンクリートの充填状況確認が難しいとの課題がありました。本工法では、繊維植込みシートを型枠内部に貼り付けてコンクリートを打ち込み、脱型後にシートを剥がして繊維のみをコンクリート表面に植え込むことが可能となるため、コンクリートの充填状況確認が容易に行えるメリットがあります。
(9) 環境配慮型コンクリートの実用化
建築構造物の躯体には、「普通ポルトランドセメント」を用いたコンクリートの使用が一般的ですが、高炉スラグ微粉末を混和材として使うコンクリートを適用可能とするための調査研究を進めております。製鉄の過程で廃棄物として排出されるガラス質の物質である高炉スラグをコンクリートに使用することで、低炭素化社会へ貢献するとともに廃棄物処分量の低減が期待できます。
室内や実機実験を踏まえ、2019年度は建築技術性能証明を取得予定であり、建築構造物の躯体への適用を図ってまいります。
(10) マスターフレーム構法コストダウンのための設計法改良
耐震診断や耐震改修の法整備などに伴う地震対策に対する市場拡大に伴い、自社保有技術の耐震化工法(マスターフレーム構法)の活用展開を図っておりますが、同構法は耐力面やコスト面で採用機会を逃すという課題がありました。そのため、設計方法の見直しにより構造性能を向上させ、コストダウンを図る取組みを進めており、2019年度は改定性能証明を取得する予定です。
(11) 「BIM-DPX※1(BIMによるデジタルプロセス トランスフォーメーション)」の開発
生産性を大幅に改善させる手段としてBIM(Building Information Modeling)によるデジタルプロセスへの変革を進めており、従来型の二次元図面による情報伝達プロセスから、クラウドサーバーを活用したリアルタイム情報共有によるBIMを中心とした三次元図面情報共有プロセスへの移行を強力に推進しています。
「BIMによるデジタルプロセス・トランスフォーメーション」と称するこの取り組みにより、設計や納まり上の問題を未然に防止し、施工段階においても、専門工事会社を含むすべての関係者が施工上の課題を短時間で発見・解消できるようになり、業務の円滑化、意思決定の迅速化、手戻り工事の削減、施工品質及び顧客満足度の向上といった効果が現れております。
また、「TOYO設計施工BIMフォーラム2018」を社内で開催し、役員、社員間による広範かつ活発な意見交換を行いました。引き続き活用段階へと急速に進むBIMによるデジタルプロセストランスフォーメーションの開発を進めてまいります。
BIM-DPX※1 (商標登録申請中): BIM–Digital Process Transformation の略称。「BIMによるデジタルプロセスの浸透が、建設業の取組みをあらゆる面でより良い方向に変化させること」と当社が定義したもの。英語圏ではtransを「X」と略すことが多いことから「DPX」としている。