有価証券報告書-第96期(平成31年1月1日-令和1年12月31日)

【提出】
2020/03/30 13:03
【資料】
PDFをみる
【項目】
88項目

研究開発活動

グループ横断型研究開発体制「サッポロイノベーションラボ」ではグループR&Dの研究領域として、「お客様を知る」、「おいしさを探す」、「おいしさをつくる」、「おいしさを保証する」の4つを設定しており、「長期経営ビジョンSPEED150」に示された「異次元のスピード」を研究開発分野でも具体化するため、グループ内外を問わずに企業、大学、研究機関等との協働(オープンイノベーション)を進めております。
サッポログループではかねてよりビール原料である大麦に由来する「SBL88乳酸菌」の機能性研究を重ねてきました。中でも起床時の疲労感や眠気を軽減する睡眠の質改善機能について、大規模ヒト臨床試験でその効果を確認しました。2019年2月に新設したサッポロウエルネスラボ社にて本研究成果の商品化を進め、7月に機能性表示食品として消費者庁により受理され、商品名「スイッチ乳酸菌」にて2020年の上市を予定しております。
グループ基盤研究の中心である価値創造フロンティア研究所とおいしさ技術研究所では、研究領域に沿って次の研究を進めております。
「お客様を知る」感性・情報科学研究では、お客様の価値観や食習慣、嗜好を綿密に調査し、データを解析することによって、新商品の企画、中味開発に役立つ知見を提供しました。また、最先端のAI(人工知能)技術を活用し、いくつかの質問に答えるだけで、お客様個々の嗜好に合った商品を推奨するシステムを開発しました。
「おいしさを探す」素材・機能研究では、大麦、ホップ、レモン、大豆、乳酸菌等の素材の健康機能についての研究開発を行っております。「ポッカレモン100」からのクエン酸摂取による骨密度増加についての研究成果を発表し、レモンの健康機能に関する認知度を高めてきました。
「おいしさをつくる」発酵・微生物研究では、創業以来酒類の研究開発で培ってきたサッポログループのコア技術のひとつである「発酵」をさらに深化させて、酒類のほか食品・飲料の価値創造を目指しております。素材開発・加工技術開発・おいしさ分析研究では、レモン、大豆等が本来持つ良さを引き出した新素材の開発や、安全・安心でおいしい食品を製造できる加工技術の開発、様々な「酒」「食」「飲」のおいしさを機器分析等によって明らかにする研究開発を進めており、「豆乳ヨーグルト」、「和ら麦」のおいしさの見える化についての学会発表を行い、商品価値向上に寄与しております。
「おいしさを保証する」品質保証研究では、これまで以上にお客様の安全・安心志向や健康意識に応えるため、原料・製品の安全性分析及びそれを支える分析新技術の研究に継続して取り組んでおります。
これらの基盤研究に基づき、以下の各セグメントの研究開発を進め、「お客様に食を通じた幸せをお届けするために、『創り』、『造り』続けます」という研究開発ビジョン、さらにはその先にあるお客様の笑顔を実現すべく、サッポログループは挑戦を続けて参ります。
当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は30億円です。
セグメントの状況は次のとおりです。
[酒類事業]
1.商品開発について
酒類の商品開発については、お客様の生活、嗜好の変化や、今後予定される酒税改定等の環境変化を見据え、新たな価値創造に取り組んできました。
ビールテイストでは、通年新商品として、2月に120年以上の歴史を誇る「ヱビス」ブランドから、「濃密な香り、コク、余韻」が特長の本格的なエールタイプのビールである「ヱビス プレミアムエール」を、4月には好調な新ジャンル市場に向けて高発酵・強炭酸を実現した「本格辛口」、並びに当社が開発登録した世界に誇れるホップである「ソラチエース」を使用した「SORACHI 1984」をそれぞれ発売しました。
基軸ブランドでは、3月に「サッポロ生ビール黒ラベル」をリニューアル発売しました。サッポロビール社ではビールの「泡の色」を測定する方法を開発、「鮮度が良いビールの泡はより白く美しい」ことを解明(※1)しましたが、原料・製法・品質管理への徹底した取り組みに加え、製造方法をさらに工夫し、その測定技術を活用することで、より「白く美しい泡」を実現しました。また8月には「麦とホップ」のリニューアルを実施しました。麦とホップだけ(※2)でつくる素材への徹底したこだわりや長期熟成に加え、当社の新ジャンルで初めてビールの伝統的な仕込方法である1回煮沸法(※3)を採用し、飲み飽きないビールらしいうまさを実現しました。
2020年に向けては、当社の2大ブランドである「サッポロ生ビール黒ラベル」と「ヱビスビール」に採用している麦芽とホップを一部使用し、「力強く、飲み飽きない旨さ」を実現した新ジャンル商品「サッポロ GOLD STAR(ゴールドスター)」を開発しました。
伸長の続くRTD市場では、外食市場でのレモンサワーの伸長等に着目し、レモンにこだわったレモンサワーとして、グループ企業であるポッカサッポロフード&ビバレッジ(株)が開発したレモン果汁を使用した「レモン・ザ・リッチ」を4月に発売しました。また既存ブランドについては、2018年の発売以来ご支持をいただいている「サッポロ チューハイ99.99〈フォーナイン〉」の積極的なフレーバー展開を行い、計画を上回る販売実績を達成しました。
またご家庭で好みの濃さ、飲み方で楽しめるRTSカテゴリーでは、「濃いめのレモンサワーの素」を10月に発売し、好調に推移しております。
ワインについては、2020年に向けて100mlあたり175mgのポリフェノールを含み、更に乳酸菌が入った「ポリフェノールでおいしさアップの赤ワイン〈乳酸菌プラス〉」を開発しました。
※1 Brewing Summit(ブリューイングサミット:2018年8月12日~15日・米国サンディエゴ)にて報告
※2 麦芽、大麦、大麦スピリッツを使用した麦100%の商品
※3 仕込釜において、煮沸を1度行うことで麦のうまみを引き出す、ビールで用いられる伝統的な仕込方法
2.研究開発について
「酒」分野の研究開発を担うサッポロビール社酒類技術研究所では、「おいしさをつくる」と「おいしさを保証する」の一環として、ビールの泡の色の定量化に世界で初めて成功し、ビール品質との相関関係を明らかにしてきました。R&D部門で連携し、米クラフトビール発展の起点となった自社開発品種「ソラチエース」や新品種のホップ香り成分の研究成果で世界をリードし、国際的なビール学会でも好評価を得ております。酒類原料に含まれるアントシアニンが、醸造工程で生成するジアセチル濃度に影響を与えることを明らかにしました。他にも、芋焼酎の製造方法では、外部機関とも協働して、もろみを最適な条件で焦がすことで(焦がしもろみ製法)新たな風味を造り出す等、ビールテイスト以外でも様々な研究開発を進めております。
同じくバイオ研究開発部では、酒類の「おいしさをつくる」大麦・ホップの育種・開発を行っております。同部が開発したLOXレス大麦は、カナダ、オーストラリア、欧州及び北海道で品種開発が進められており、カナダ産の「CDC PlatinumStar」が「サッポロ生ビール黒ラベル」に「旨さ長持ち麦芽」として使われております。国産初のLOXレス大麦「きたのほし」(商標名)は、北海道産ビール大麦の主力品種として大規模生産されており、「サッポロ生ビール黒ラベルエクストラブリュー」にも採用となりました。また、2019年9月には、国内で札育5号を新たに品種登録出願しました。
一方、クラフトビールの伸長で注目されるホップでは、新品種の開発と生産が進んでおります。鮮烈なマンゴー香が特徴の「フラノマジカル」が北海道の契約生産者圃場で初めて収穫されたほか、2018年に品種登録申請した柑橘香が特徴的な次世代新品種「フラノクイーン」の試験圃場での生産も開始しました。同部が開発した「ソラチエース」「フラノブラン」「フラノローザ」等も「フラノマジカル」とともに、「SORACHI 1984」をはじめとする当社クラフト商品としてお客様に提供されております。また、国産ブドウ調達への技術支援にも取り組んでおり、ホップでウイルスフリー試験管苗を培養増殖する方法を応用して、ブドウ苗木の大量生産を可能とする技術の開発も進めております。
酒類事業の研究開発費の金額は12億円です。
[食品飲料事業]
「食品飲料」分野においては、「おいしさを探す」一環として、当社とポッカサッポロフード&ビバレッジ社が協働し、レモンの摂取による健康状態への効果を調査する研究を、国産レモンの産地である広島県の大崎上島町にて、ここ数年にわたって地元自治体や大学と協働して進めており、2020年には一部の成果の発表を予定しております。さらに同地では、国産レモンの省力化栽培・供給拡大を念頭に、ICT(情報通信技術)を活用して天候に応じて自動で最適な肥料や水やりを行うレモン栽培、休耕田のレモン栽培への活用等の研究開発を継続しております。
また、「食品」分野の拡大加速のため、「おいしさをつくる」例として、ポッカサッポロフード&ビバレッジ社では「発酵」により豆乳に含まれるイソフラボンを吸収しやすく変化させ、群馬工場での大型豆乳ヨーグルトやストロー付き豆乳ヨーグルト(ドリンクタイプ)の上市に結び付けました。
一方、神州一味噌社からは2019年の新商品として、「パパッと味噌パウダー」を開発・発売しました。これは、だし入り味噌をそのままフリーズドライパウダー状にし、おみそ汁はもちろん、振りかけるだけで、べたつくことなく簡単に料理になじみ、これ1本で様々な料理の味がおいしくまとまる新しいタイプの味噌となっております。
食品飲料事業の研究開発費の金額は9億円です。