有価証券報告書-第149期(平成26年4月1日-平成27年3月31日)

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2015/06/24 15:02
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研究開発活動

帝人グループでは、ブランドステートメント"Human Chemistry, Human Solutions"のもと、人々の暮らしを豊かにし、社会の発展に貢献することで事業の持続的成長と収益性向上を実現するための研究開発をグローバルな視野で推進しています。研究開発活動への積極的かつ効率的な投資を継続して実施しており、国内8ケ所、海外7ケ所のグローバル研究開発ネットワークにおいて1,600名余りの研究者が、基礎研究を含めたグループ全体の研究開発戦略に基づく研究開発活動を推進しています。
中長期経営ビジョン「CHANGE for 2016」で定めた帝人グループの成長戦略と、それを支える経営基盤の強化を基軸に据え、既存事業の深化、幅出しに加え、「グリーンケミストリー」「ヘルスケア」及びこれらの「融合領域」を研究開発の重点技術領域と定めて、基盤・基幹強化を進めています。更に平成26年11月公表の修正中期計画では、発展戦略の主要施策として「複合化」と「融合」による「ソリューション提供」の実現に向けた重点資源投入を行う事を発表しました。高機能素材、ヘルスケア、ITという3つの異なる事業の強みを複合化、融合し、競争力のある素材を用いたソリューション提供型ビジネスの構築による高収益事業創出に向け、研究開発を着実に進めています。サプライチェーンやビジネスモデルの変革を念頭におき、素材等の一次製品の提供ではなく付加価値をつけた部材・デバイスまでを作り上げて納入する、またIT技術を活用しヘルスケア分野で新しいサービスを提供する等、従来型のビジネスの域を超えた価値創造、ポートフォリオ変革に積極的に取り組んでいきます。
なお、平成26年度から研究開発機能の強化と研究開発成果の早期事業化の推進を目的にいくつかの組織改編を進めています。まず平成26年4月には、従来の技術最高責任者、研究部門、エンジニアリング本部及び原料重合技術開発部を統合し、技術本部を設置しました。平成27年4月からは、プラットフォーム構成技術(基盤・基幹技術)の強化・拡充と出口発想に基づくソリューション開発力の強化を目的に技術本部内に技術開発部門とその下部組織である加工・ソリューションセンター(松山拠点)を新設しました。併せてこれまで技術本部直下組織であった先端技術開発センターを同部門へ編入、更に大阪研究センターの機能も同拠点へ統合しました。また、技術本部直下に新たに情報分析班を設置し、研究開発プロジェクトの的確な評価・検証、新規研究開発領域の検討・提案を行う体制を整えています。また、産官学連携等のオープンイノベーションの推進、知財戦略や構造解析能力等、研究開発活動を支える機能・組織の見直しとインフラ機能の強化、技術系人材の育成を一層推進しています。
人材育成に関しては、高分子・バイオ関連分野の大学教授や研究者が集まるフォーラムの開催、学界・学術研究機関等の有識者による技術アドバイザリー会議の開催、国内外の最先端研究機関への若手研究員派遣等を積極的に推進しています。平成22年度ノーベル化学賞を受賞され、帝人グループの名誉フェローにご就任いただいている根岸英一 米・パデュー大学特別教授には、国内研究員のコンサルテーションと「Teijin Limited Director of the Negishi-Brown Institute」としての派遣研究員への直接のご指導を継続してお願いしており、幾つかの新しい技術開発成果が生まれつつあります。
なお、当連結会計期間の研究開発費は324億円(前期比2億円増)でした。
また、報告セグメントごとの研究開発活動の概要は次のとおりです。
高機能繊維・
複合材料事業
: 平成26年4月に原糸やテキスタイルの商品開発拠点として帝人(中国)商品開発センターを開設しました。これにより、中国国内で原糸から最終製品までの研究開発に対応することが可能となり、更に量産に至るまでをワンストップで完結できることから、中国・アジア地区で迅速な顧客対応が可能となります。
また帝人グループが発展戦略における成長コンセプトの1つとして掲げた「高機能複合材料による顧客価値の実現」の一例として、高機能繊維を使用した木造建築物用集成材(AFRW:Advanced Fiber Reinforced Wood)を開発し、木造中低層建築物への展開に向けた技術プロジェクトを開始しました。建築物の軽量化や耐震性の点で近年注目されている建築物への木材活用を促進するソリューションとして、アラミド繊維や炭素繊維、及びそれらのハイブリッドによるAFRWの技術開発を進め、建築物への適用ノウハウを集積していきます。これを契機として、より社会的ニーズの大きい建築構造材向けの複合材料開発にも取り組んでいきます。
アラミド繊維分野では、消防隊員が救助活動の際に着用する救助服及び活動服向けに、独自の素材・織物技術を駆使することにより高い伸縮性とスムーズな肌触りを実現するアラミド繊維織物を開発しました。更に平成27年央には、世界最高レベルの優れた熱防護性と安定した高い染色性を有する新規メタアラミド「Teijinconex neo」の生産をタイにて開始するべく準備を進めており、これら防護衣料向けのラインナップをより一層拡充することで、国内に加えアジア・新興国においても需要獲得を推進していきます。
また、パラアラミド繊維「トワロン」が、深部採掘作業において、鋼ワイヤー製の巻上ロープを使用する場合と比較して、CO2排出量を年間100,000トン以上削減し、20%の省エネルギーに貢献することが、Teijin Aramid B.V.独自の算定モデルで確認されました。これを受けて、Teijin Aramid B.V.と、カナダ政府やカナダの複数の鉱山、米国のロープ製造会社等の間でコンソーシアムが設立され、現在、鋼ワイヤー製のロープと「トワロン」製のロープを比較した事例研究が重ねられています。
ポリエステル繊維分野では、㈱ニトリの商品開発力と帝人の技術により、両社一貫の体制で素材開発から商品企画、販売までを行う共同プロジェクト“新「機能商品」開発プロジェクト”を推進しています。帝人素材である超極細ナノファイバー「ナノフロント」の摩擦力をストッパーとして活用した「ひもなしらくらく掛ふとんカバー」を開発し、6月より㈱ニトリにて販売を開始しました。また、9月には身体から発生する水蒸気を吸収して発熱する「オプトマックス ECO」を使用した「あったかパジャマ」も同様に販売を開始しています。
更に、既に図書館等で使用されている「セルフォーム」の二次元通信技術をベースとした棚管理システム「RecoPick」が、このたび「第16回自動認識システム大賞 優秀賞」を受賞致しました。今後「セルフォーム」については、携帯情報端末と連動した O 2 O(Online to Offline)型マーケティングツールといった新たな用途展開を進めていきます。
炭素繊維・複合材料分野では、航空機用途において、エアバス社の最新鋭中型機であるA350XWB(エクストラ・ワイド・ボディ)機向け炭素繊維強化熱可塑性樹脂積層板(テナックス TPCL:ThermoPlastic Consolidated Laminates)の認定作業を終了し、同機への搭載が決定されました。また、熱硬化性CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の新たな生産技術や高速硬化プリプレグ、超高耐熱プリプレグの開発を推進し、各種技術開発も加速させています。また、金型に合った炭素繊維シートを形成する(プリフォーム)にあたって、予め炭素繊維に熱硬化性樹脂を付着させた繊維(バインダー繊維)を活用することにより、炭素繊維の端材を極小化し、部品の製造コストを低減する自動製造プロセス(PvP : Part via Preform)を開発しました。
量産車構造部材等への適用を目指す熱可塑性CFRP「Sereebo」については、複合材料開発センター(愛媛県松山市)と米国の用途開発センター(ミシガン州)との連携により、具体的な部品開発と量産化プロセスの確立に向けた複数のプロジェクトを着実に推進しています。ゼネラルモーターズとの共同開発は商業化に向けた最終段階に入りつつあり、「材料」としての正式な認定を取得しました。
なお、自動車向けの高付加価値CFRPビジネスを加速させるため、これまで複合材料開発センターが担ってきた熱可塑性CFRPのマーケティング機能と、グループ会社である東邦テナックス株式会社が担ってきた熱硬化性CFRPのマーケティング機能を平成27年4月に統合し、炭素繊維・複合材料事業本部直轄の組織「オートモーティブ事業開発推進グループ」として再編することとしました。これに伴い複合材料開発センターは、今後、個別テーマの技術開発機能に特化して取り組む組織となり、「複合材料技術開発センター」と改称します。
当セグメントに係る研究開発費は48億円です。

電子材料・
化成品事業
: 樹脂分野では、「テオネックス」(PEN樹脂:ポリエチレン・ナフタレート樹脂)が、世界で初めての透明樹脂製ボディの消火器に採用されました。PEN樹脂の耐腐食性、耐候性、耐薬品性等の優れた耐久性が評価され、従来の鉄製よりも本体重量で約50%の軽量化を実現しています。
また、平成26年5月には、自動車用樹脂グレージング技術について、樹脂窓の課題であった「歪のない大型製品の成形」「金属との接着信頼性確保」「耐候性向上による長期信頼性確保」を、樹脂窓に適した素材と、その加工技術の開発により解決した点が評価され、公益社団法人高分子学会が主催する「平成26年度 高分子学会賞」(技術)を受賞しています。
更に、次世代のコンパウンド技術としてナノ分散アロイ技術の開発に取り組んでいます。このたび山形大学との共同研究成果を発展させることにより、ポリカーボネート樹脂(PC)とこれまで相溶化が困難とされていた他素材とのアロイ化について実用化の目処がつきました。PCのもつ耐衝撃性・耐熱性・難燃性等の優れた特長を維持したまま、低比重化や耐薬品性の向上が可能であり、PCコンパウンド製品の用途拡大が期待されます。今後も本技術を基盤として高機能性コンパウンド製品のラインナップ拡充に取り組んでいきます。
加えて、昨年度開発した新規リン系難燃剤「FCX-210」について用途展開のための研究開発、市場ワークを進めた結果、エレクトロニクス、自動車市場において一定の目途がついたため、台湾の化学メーカーであるチーテック・テクノロジー社(本社:台湾・台北市)と製造委託契約を締結し、このほど竣工、稼働した同社の設備で量産を開始しました。
フィルム分野では、「世界最高位の難燃性(UL規格:VTM-0)」を有するPETフィルムの量産化技術を確立したことに加え、PENフィルムにおいてVTM-0を取得しました。PETフィルムにおいて難燃性ラベルやフレキシブル基板用途を中心に市場展開を進めるとともに、PENフィルムにおいても、更なる高耐熱性を強みとして、FPC、耐熱電気絶縁用途等の高耐熱性を要求される用途に幅広く展開していきます。
当セグメントに係る研究開発費は42億円です。

ヘルスケア事業: 医薬品分野では、平成26年5月に、英国の製薬メーカーであるシグマ・タウ・ファルマ社と同社が創製したADA欠損症治療剤「EZN-2279」の日本における独占的開発・販売契約を締結し、日本における臨床開発の準備を進めています。更に、医薬品技術と素材技術を融合させた画期的な医薬品として、止血・接着効果の高い外科手術用シート状フィブリン糊接着剤「KTF-374」の開発を推進することとし、帝人ファーマ㈱と一般財団法人化学及血清療法研究所が共同で日本における臨床開発の準備を進めています。平成26年9月には、その一環として、岩国事業所(山口県岩国市)に融合製剤棟を新設することとしました。
平成26年6月には高尿酸血症・痛風治療剤「フェブリク錠」の新剤形・新用量として「TMX-67XR」の臨床開発に着手し、気管支喘息治療薬として開発中の「PTR-36」は平成26年12月に第2相臨床試験に移行しました。更に、平成27年2月には、小型で服用しやすく、1日1回の服用で効果が持続する去痰薬「ムコソルバンL錠45mg」(一般名:アンブロキソール塩酸塩)の製造販売承認を取得しました。
在宅医療分野では、東日本大震災以降、医療従事者や在宅酸素療法で療養中の患者さんから寄せられた要望や不安・不便の声に応え得る機能を備えた新製品2機種を、平成26年6月に上市しました。
呼吸同調式レギュレータ「サンソセーバー5」は、呼吸同調器と減圧器が一体となっているため、酸素ボンベへの装着が容易です。本装置を酸素ボンベに装着することにより、装着しない場合に比べ、酸素ボンベの持ち時間が約4倍に長くなり、1分当たり7リットル相当の流量に対応することができます。また、操作部や計器にランプや蓄光シート等を備えているため、暗い場所での視認性が向上しています。
在宅医療用酸素濃縮装置の新機種「ハイサンソ5S」は、これまでの安心・安全機能はそのままに、オプションの非常用バッテリーを装着することにより、停電発生時に患者さんが落ち着いて非常用酸素ボンベからの酸素吸入に切り替えることができます。また、Bluetoothをリモコンに採用することにより、トイレや階段の昇降等、酸素が必要な生活シーンに合わせ、手元で酸素流量の変更や電源操作を行うことが可能となります。
これら2製品とも順調にレンタル台数を伸ばしており、今後は主力製品として市場に展開していく予定です。。
当セグメントに係る研究開発費は145億円です。

製品事業: 帝人フロンティア㈱を中心に新製品の企画開発を主とする研究開発を行っています。多様化・細分化する市場ニーズに沿った新製品開発のために、試験反作成、品質調査、物性テスト等の試作・試験を実施しています。
当セグメントに係る研究開発費は5億円です。

帝人㈱で行うコーポレート研究(グループ共通の基礎研究及び新事業・新製品創出)では、帝人グループの発展戦略を実現すべく、素材技術・ヘルスケア技術・IT技術の融合により、新事業の創出を目指して研究開発に取り組んでいます。
高変換効率太陽電池を製造するための材料となる「NanoGramシリコンペースト」、及びその素材性能を最大限に引き出すための加工技術を世界で初めて開発し、今後太陽電池メーカーへのマーケティング活動、共同開発活動を本格的に展開し早期採用を推進していきます。
先端医療材料等の事業化への取り組みの一つとしては、「心臓修復パッチの開発」が経済産業省の医工連携事業化推進事業に採択され、大阪医科大学、福井経編興業㈱との共同開発を行うこととなりました。本プロジェクトでは、強度と伸長性を同時に実現する従来にない「自己組織に置換され、伸長する心臓修復パッチ」の開発を目指します。
またポリ乳酸繊維を使用した圧電ファブリックを関西大学との共同開発で開発しました。「着用するだけで精緻な動きを精緻に再現する」ことにより、これまで成し得なかったセンシング技術を確立し、これを用いた製品の市場展開を目指します。
これらに係る研究開発費は83億円です。これらの費用については、各セグメントへの配賦は行わずに「消去又は全社」に表示しています。