有価証券報告書-第12期(平成25年4月1日-平成26年3月31日)

【提出】
2014/06/20 9:06
【資料】
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【項目】
61項目

事業内容

当社は、医薬品の研究開発・販売を主たる業務としております。
当社の創薬事業の内容は次のとおりであります。
(1)DDS技術
当社は、DDS製剤の医薬品研究開発事業を行ってきた大学発ベンチャーである株式会社エルティーティー研究所の創薬事業を継承した企業であります。
当社の事業及び研究開発の特徴は産学連携であります。会社設立時より当社は独自の研究施設を有しておらず、慶応義塾大学、聖マリアンナ医科大学、日本大学を中心に共同研究を行っております。
当社の事業領域であるDDS製剤の概要は以下のとおりであります。
(DDSとは)
薬を服用した時、実際に患部にたどり着いて効き目を発揮するのは、飲んだ量のわずか100分の1~1万分の1程度に過ぎず、薬の成分の中には生体内で速やかに分解されて効力がなくなるものや、必要のない部位に作用し副作用を引き起こすものもあります。これらの点を改善し、効用を高める技術がDDS(ドラッグデリバリーシステム:薬物送達システム)であります。
DDSは、薬の投与部位から作用発現部位に至るまで、薬物の体内動態を1つのシステムとして捉え制御することにより、薬の効用を高める一方で、薬の量、投与回数及び副作用を軽減し、患者様のQOL(※)向上に大きく貢献するものであります。さらに、これまで治癒が困難とされてきた様々な疾病、難治性希少疾患の治療にも活路を開くものとして大きな期待が寄せられております。DDSは薬物に新たな生命と役割を与え、薬物治療の可能性を切り拓く究極の創薬システムであります。
※QOL(Quality of Life)とは、生活を物質的な面から量的にのみとらえるのではなく、精神的な豊かさや満足度も含めて、質的にとらえる考え方であります。
(DDSの3大テクノロジー)
理想的な薬物投与を可能にするDDSの3大テクノロジーとして、次の3つの基幹技術が知られています。
1.ターゲッティング(標的指向型DDS)
疾患の病変部位へ集中的に薬物を到達させる技術で、以下の2つに分類されます。
受動的ターゲッティング:薬物運搬体(キャリアー)の粒子径や親水性などの物理化学的性質を利用して薬物の体内動態を制御する方法であります。
能動的ターゲッティング:薬物運搬体に、特殊な仕組み(例えば、抗体や糖鎖などを結合したキャリアーを利用)を付け加えて標的組織への指向性を制御する方法であります。その特性から「ミサイルドラッグ」と呼ばれることもあります。
2.放出制御[徐放](放出制御型DDS)
製剤からの薬物放出をコントロールする技術で、薬物が病変部位に到達した時点で薬物を放出し、薬物が溶け出すタイミングを、投与してからの経過時間によってコントロールします。薬物の効果を高める要素として、目標とする病変部位で薬効が現れる濃度以上、毒性(副作用)が現れる濃度以下の必要量を設定することが重要であります。
3.バリアー(障壁)の通過・吸収促進(吸収制御型DDS)
皮膚・粘膜などからの薬物の吸収改善や血液脳関門通過の技術であります。
先述した3つのDDS技術を単独あるい複数組み合わせることにより、これまでほとんど例のない性質を持つ様々な製剤の開発が可能になります。その結果創製されたDDS製剤は、難治性希少疾患に対する治療の可能性を切り拓くと共に、薬物本来の有効性の増強と副作用の軽減を実現し、また、治療の利便性や患者様のQOL向上に大きく寄与するなど薬物治療の面から医療に革新をもたらします。
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(DDSと医薬開発システム)
DDSは、既に臨床で使用されている既存薬を改良して、一部の安全性試験などを省略でき、効率的かつ高い成功確率で医薬品を開発できる製剤化技術であります。また、望ましい薬効がありながら、その副作用や製剤上の理由で開発を断念した薬物をDDSにより実用化することも可能であります。
昨今の医薬品開発戦略では、DDSを組み入れた医薬開発システムとして、新規医薬候補の最適物質を探索する時間を省いて開発初期段階からDDSを導入し、種々の問題を克服することにより新薬開発に要する開発期間の大幅な短縮とコストの削減、開発リスクの低減をはかり製品化・上市の早期実現を目指す方法も有力なものとなっております。その一例として、当社のDDS製剤開発モデルにおける開発初期段階の開発期間について、下図のとおり一般的な医薬品開発の場合と比べて大きく短縮されます。
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(現在製品化されている製剤について)
1.リポPGE1製剤
当社の提携企業である北京泰德制药股份有限公司の売上の多くを占めている慢性動脈閉塞症治療剤である「リポPGE1製剤」(カイシ/北京泰德制药股份有限公司)は、体内でPGE1の不活性化を防ぎ、障害血管部位へターゲッティングさせるために、下の図に示すような200nm(ナノメートル=10億分の1メートル)程度の直径の脂肪微粒子内にPGE1(プロスタグランジンE1)を封入してその粒子の周囲をレシチンで覆った製剤であります。なお、日本においてはパルクス(大正製薬株式会社)、リプル(田辺三菱製薬株式会社)として、韓国においてはエグランディン(ミツビシタナベファーマコリア株式会社)として既に製品化され現在でも販売されております。
0101010_003.png2.その他
その他に当社の技術を利用して製品化されたものには、静注用非ステロイド鎮痛消炎剤の「ロピオン」(科研製薬株式会社)、「カイフェン」(北京泰德制药股份有限公司)や「ファルネゾンゲル」(大鵬薬品工業株式会社)、「ファルネラートゲル」(株式会社クラレ、大日本住友製薬株式会社)といった経皮吸入型ステロイド剤があります。
(開発中の製剤について)
開発中の製剤対象疾患特徴
PC-SOD NE
(吸入製剤)
特発性肺線維症PC-SODは当社の発明品で臨床効果が既に認められている製剤であり、特発性肺線維症やCOPDは現在他に有効な薬剤がなく、早期上市が期待されています。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
PC-SOD
(注射剤)
特発性肺線維症
潰瘍性大腸炎
ステルス型ナノ粒子
PGE1製剤
(LT-0101)
慢性動脈硬化、間歇性跛行
脊柱管狭窄症等
1回の投与で長期間効果が持続する次世代の製剤であります。
ステルス型ナノ粒子
PGI2製剤
(LT-0111)
肺動脈性肺高血圧症1回の投与で長期間効果が持続する次世代の製剤であります。

1.PC-SOD NE(吸入製剤)
「PC-SOD」は、活性酸素(スーパーオキシドアニオン)を生体内で消去する酵素(スーパーオキシドジスムターゼ、SOD)にレシチン誘導体分子を共有結合させた、タンパク医薬の製剤であります。同製剤は、これまでに注射剤の静脈内投与で第Ⅱ相臨床試験まで研究開発を進めて参りましたが、静脈内投与では患者様が長期の入院を余儀なくされるため、通院のみで治療が可能な新しい投与方法(ネブライザーを用いた吸入投与)を考案しました。現在、特発性肺線維症やCOPDを対象疾患とする治療薬を開発中です。
2.PC-SOD(注射剤)
「PC-SOD(注射剤)」は第Ⅱ相臨床試験を実施し、潰瘍性大腸炎と特発性間質性肺炎の2疾患で既に臨床効果を確認しております。今後の臨床開発を進めるため、現在はライセンス供与に向けた活動を行っており、当社の中国プロジェクトのパイプラインでもあります。
3.ステルス型ナノ粒子PGE1製剤(LT-0101)
「ステルス型ナノ粒子PGE1製剤(LT-0101)」は、「リポPGE1製剤」に続く第三世代のPGE1製剤と位置づけております。「リポPGE1製剤」は優れた医薬品でありますが、体内において不安定であるため連日投与する必要があり、患者様は入院治療が必須となります。そこで当社は、2~4週間に1回投与すれば効果が持続し、通院のみで治療が可能となるような徐放性PGE1製剤を開発しました。ナノPGE1の技術は120nm程度の粒子径を持ち、生体でゆっくりと分解されるポリ乳酸などのポリマーに薬物を封じ込めたもので、ターゲッティング能力にも優れ、炎症部位に集まった後に炎症部位で徐放性を発揮できる特長をもっております。
4.ステルス型ナノ粒子PGI2製剤(LT-0111)
心臓から肺に血液を送るための血管を肺動脈といいますが、この肺動脈の血圧が異常に上昇するのが肺高血圧で、進行すると死に至る希少疾患です。国内の患者数は平成20年に1,140人とされていますが、年々患者数は増加しており、新規治療薬が求められています。
現在、PGI2あるいはその誘導体の補充療法が肺高血圧症(PAH)治療に有効であるとされていますが、既存のPGI2製剤は代謝時間が極めて早く、連続投与が必要であるために患者様にとって大きな負担となり、肺以外の血管拡張による体血圧低下の副作用も懸念されます。これらの点を、当社の持つDDS技術であるナノ粒子化により持続性を高め、同時に副作用軽減を行います。
(中国プロジェクト)
当社の提携企業である北京泰德制药股份有限公司は、当社が開発した「リポPGE1製剤」の販売によって急速な成長を遂げており、当社はその利益から株式持分相当額の配当金を得ております。同社のパイプラインは数品目あり、その中で平成18年に発売を開始した「非ステロイドリポ製剤」の売上は順調に推移しております。その他にも「PGI2錠剤」があり、平成20年に販売を開始しております。また、「フルルビプロフェン(貼付剤)」の開発が平成18年から始まり、平成21年に販売を開始しております。さらに、当社よりライセンスアウトを行った「PC-SOD(注射剤)」及び「AS-013」の研究開発等、毎年着実に開発・申請活動を継続しております。
(2)ドラッグ・リポジショニング研究
(ドラッグ・リポジショニング研究とは)
当社は産学連携を中心とした協力体制のもとドラッグ・リポジショニング(DR)研究に取組んでおります。DR研究とは、既存医薬品の新たな薬理作用を発見し別の疾患治療薬として開発したり、既存医薬品の作用・副作用機構を解明し、それに基づいて既存医薬品を新たな医薬品として開発する研究であります。
先端的な創薬技術によって新薬が次々に承認された1990年代以降、新薬承認数は減少しつつあります。これは、既存の技術等から生み出す新規医薬品ターゲットの枯渇や臨床試験の厳格化、医薬品開発にかかる費用の増大により、新薬開発が非常に困難になっていることが主な要因として挙げられます。
これらの問題を一挙に解決し、医薬品開発の成功率を向上させ、開発にかかる莫大な費用と時間を削減することができる手法がDR研究であります。DR研究は、欧米に比してわが国は立ち後れているのが現状です。しかし、今後は当社が中心となり、わが国の医薬品産業の活性化に寄与することを目標に事業を推進して参ります。
(開発中の製剤について)
開発中の製剤対象疾患特徴
NSAID
(LT-0201)
炎症性疾患副作用が少ない新しい非ステロイド系抗炎症薬であります。
癌幹細胞分化誘導剤
(LT-0301)
癌幹細胞の分化を誘導することで、抗癌剤耐性や癌の転移等の問題を解決する製剤であります。
COPD治療薬
(LT-0302)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)既存の消化管運動改善薬を経気道投与すると炎症や肺気腫を抑制する効果のある製剤であります。

1.NSAID(LT-0201)
アスピリンなどの非ステロイド系抗炎症薬「NSAID」は世界でもっともよく使われている医薬品でありますが、その胃潰瘍副作用が大きな問題になっています。当社は大学との共同研究において、この胃潰瘍が発症するメカニズムを解明し、胃潰瘍副作用の少ない「NSAID(LT-0201)」(当社保有特許)を開発しました。今後、共同開発を行う製薬企業を探索し、開発ステージを進めて参ります。
2.癌幹細胞分化誘導剤(LT-0301)
「癌幹細胞分化誘導剤(LT-0301)」は、癌幹細胞の分化誘導作用をもった製剤であります。既に医薬品として長期にわたり使用されている製剤について、当社と熊本大学でDR研究を行い、癌幹細胞の分化誘導作用を発見しました。癌細胞の中には、癌幹細胞と呼ばれる未分化細胞(※)が少数含まれており、これが抗癌剤耐性、癌の転移や再発の原因となります。「癌幹細胞分化誘導剤(LT-0301)」は、癌幹細胞の分化を誘導することでこれらの問題を解決し、癌治療を根本的に変える可能性を持つ画期的な医薬品であり、今後、共同研究先を探索して参ります。
※癌の未分化細胞とは、細胞分裂が活発で増殖を続ける悪性度の高い細胞のことであります。
3.COPD治療薬(LT-0302)
当社の推し進めるドラッグ・リポジショニング(DR)研究により、40年以上の使用実績のある消化管運動改善薬をCOPDの動物モデルに経気道投与すると、炎症や肺気腫を顕著に抑制することが確認されました。また同製剤は、既存薬と同程度の気管支拡張作用も併せ持つことが確認され、気管支拡張作用と抗炎症作用を併せ持つ世界初の医薬品となる可能性を持っています。今後は動物モデルでの評価が良好であった場合、非臨床試験を実施して参ります。
[事業系統図]
以上で述べた事項を事業系統図によって示すと次のとおりであります。また、関連会社である株式会社I&L Anti-Aging Managementについては企業活動を休止し、休眠中のため重要性の判断から記載を省略しております。
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