有価証券報告書-第94期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

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2019/06/25 15:00
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93項目

研究開発活動

当社は、需要家のニーズや環境・エネルギー等に対する社会的ニーズが多様化するなかで、「技術先進性」の拡大を通じた利益成長に資する研究開発分野に対し、重点的に経営資源を投入しています。鉄鋼研究所、先端技術研究所及びプロセス研究所の3つの中央研究組織と各製鉄所に配置した技術研究部が強固な連携体制を構築し、「リサーチ・アンド・エンジニアリング」の理念のもと、基礎基盤研究から、応用開発、エンジニアリングまでの一貫した研究開発を推進しています。2018年4月には高度IT活用に関する研究機能強化のため、当社グループ内当該分野トップクラスの研究者を集結させた「インテリジェントアルゴリズム研究センター(略称:IA3センター 呼称:アイ・エー・キューブ)」を設立しました。
当社の強みは、①研究開発とエンジニアリングの融合による総合力及び開発スピード、②需要家立地の研究開発体制と需要家ニーズに対する的確なソリューション提案力、③高度な基盤技術に基づく新技術の開発力、④製鉄プロセス技術を基盤とした環境・エネルギー課題への対応力、⑤産学連携、海外アライアンス及び需要家との共同研究です。これらの強みを活かし、鉄を中心とした新しい機能商品をはじめ、革新的生産プロセスの創出と迅速な実用化を図っています。
当連結会計年度における当社及び連結子会社全体の研究開発費は720億円です。各セグメントの研究主要課題、成果及び研究開発費は次のとおりです。
(製鉄)
当セグメントに係る研究開発費は628億円です。
当社は、3地点の研究開発センター(富津市、尼崎市、波崎市)を軸に、①鉄鋼研究所では、鉄鋼材料・商品と利用技術・ソリューション研究開発、②先端技術研究所では、共通基盤技術研究及び新素材事業を中心とした製鉄以外のセグメント事業支援開発、③プロセス研究所では、設備エンジニアリングと設備保全技術開発を担当する設備・保全技術センターと密接な連携を図りながら製鉄プロセス関連の研究開発に取り組み、開発の短期化・効率化を目指し、鉄源コストの削減・基幹ラインの生産性の抜本的向上等の研究開発の加速化を進めてまいりました。
<薄板>・当社は、次世代自動車とその要求性能を想定した、次世代自動車構造コンセプト「NSafe®-AutoConcept」を構築しました。本コンセプトでは先進的な素材開発に加え、性能を引き出すための最適な部品構造とそれを具現化する加工技術を組み合わせることにより、軽量化ソリューションを中心に、燃費・電費性能、走行・衝突安全性能、音振動・静粛性能に至るまで、自動車全体の付加価値向上策を提案するものです。今後も社会・産業の変化に対応した素材とソリューション提供を通じ、自動車産業のベストパートナーとしての役割を果たす努力を継続してまいります。
・当社は、自動車部品の中でも複雑な形状でかつ成形が難しい骨格部品に適用可能な、高成形性980MPa級ハイテン(冷延・溶融亜鉛めっき鋼板)を開発し、日産自動車㈱が北米で発売した新型車に世界で初めて採用されました。同ハイテンは、緻密な成分設計と製造技術の確立により金属組織を最適化した結果、従来の590MPa級ハイテンと同等の成形性を有しています。本開発により当社は980MPa及び1,180MPa級両方の高成形性ハイテンを供給する世界初の鉄鋼メーカーとなります。今後もハイテンの機能向上を進め、自動車軽量化とお客様での価値創造に貢献してまいります。
・当社は、マツダ㈱ (マツダ)と共同で1,310MPa級冷延ハイテン(1,310MPa級ハイテン)を用いた車体構造用冷間プレス部品の開発に取り組み、マツダ新型乗用車「MAZDA3」に世界で初めて採用されました。当社が1,310MPa級ハイテンの課題であるプレス成形性を解決する工法を提案し、マツダと共同で生産技術面、性能面の課題を解決したことで、1,310MPa級ハイテンが車体構造部品へ採用されました。
・当社は、スパングル仕上げの溶融亜鉛めっき鋼板について、環境対応型クロメートフリー新商品「スパングルジンク™」として発売を開始しました。スパングル仕上げのめっき鋼板は主に建築物の空調ダクト用途にて使用されておりますが、鉛・六価クロム等環境負荷物質使用低減の社会的要請が高まっております。本製品はスパングル仕上げの鉛フリー化と表面処理のクロメートフリー化により、社会ニーズに応えた環境対応型新商品として実現したものです。今後も環境対応型商品の開発・販売により、環境にやさしい社会実現に貢献してまいります。
・当社と東洋製罐㈱ (東洋製罐)は、共同で業界最軽量となるスチール缶を開発しました。開発した185g用スチール缶は従来缶に対して6%超の軽量化により業界最軽量を実現しました。この軽量化は従来の板厚0.185mmの鋼板に対し、成形時の破断原因となる介在物を低減した板厚0.170mmの極薄鋼板の開発に加え、東洋製罐の製缶プロセスの工夫により実現したものです。スチール缶の軽量化は、鋼板製造工程や輸送時のCO2排出量削減に寄与します。今後も地球環境に優しく、食品安全性に優れたスチール缶の開発に取り組んでまいります。
・当社は、パナソニック㈱より同社商品のCO2削減や商品力強化に貢献し、特に優秀と認められた提案に贈られる「ECO・VC賞」の金賞を2010年度から9年連続で受賞しました。今回の受賞はモータのVA・高効率化を実現する新電磁鋼板シリーズの開発・提案による大幅なCO2削減が評価されました。今後も鉄の可能性を最大限引き出した新商品開発、シミュレーション技術による素材から加工方法まで一貫したご提案により、お客様のご要望にお応えしてまいります。
<厚板>・当社が開発した衝突安全性に優れる船体用高延性厚鋼板NSafe®-Hullにより、深刻な海洋汚染をもたらす船舶事故時の油漏洩防止による環境保全への貢献が評価され、公益社団法人市村清新技術財団より第51回(2018年度)市村賞において市村産業賞貢献賞を、当社、今治造船㈱、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所の三者で共同受賞しました。同鋼板の適用により衝突時の破口に伴う油漏洩の危険性を大幅に低減可能で、生態系破壊の防止やその補償のための経済損失の低減に寄与します。
<鋼管>・当社は、地球環境に配慮した油井管用ねじ継手新製品CLEANWELL® DRY STを開発し販売を開始しました。油田・ガス田掘削に使用される油井管は、鋼管をねじ継手で締結し使用されます。通常は締結箇所の焼付防止のため、環境負荷が大きいグリスが塗布されますが、そのグリスが海中に流出することが課題でした。本製品は固体潤滑被膜の活用により、グリスを使用しなくても、高い機能性(防錆性、耐焼き付き性、耐衝撃性、気密性及び繰り返し締結性)を有し、環境負荷物質の排出ゼロを実現したねじ継手です。さらに取扱い及びリペア等が容易なため、掘削能率向上による油田開発プロジェクト全体のコスト削減にも貢献します。
・当社が開発した高圧水素用ステンレス鋼HRX19®は、70MPa級の高圧水素環境下で使用可能であり、溶接施工もできる世界で唯一の材料です。本鋼を溶接施工した配管を使って建設された水素ステーションの商用化が実現され、CO2 排出を大幅削減するための水素社会基盤構築に貢献してきました。その功績が高く評価され公益社団法人市村清新技術財団より第51回(2018年度)市村賞において市村地球環境産業賞貢献賞を、公益社団法人岩谷直治記念財団より第 45 回(2018年度)岩谷直治記念賞を受賞しました。いずれも環境・エネルギー分野において、顕著な産業上の貢献が認められる業績を表彰する賞であります。今後も世界最高の技術とものづくり力を追求し国連で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)にも合致した製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献してまいります。
<棒線>・当社が開発した環境負荷低減型超ハイテン橋梁ケーブル用鋼線材が、大河内記念会の第65回(2018年度)大河内賞において大河内記念生産賞を受賞しました。今回の受賞は第47回(2014年度)市村賞における市村産業賞本賞、公益社団法人発明協会の2016年度全国発明表彰における日本経済団体連合会会長賞に続く受賞であり、本技術水準及び産業上の有用性が高く評価されたものです。今後も世界で計画される長大橋のみならず、構造物ロープや送電線などの交通・エネルギー分野への高強度ワイヤ素材供給を通じ、世界各国のインフラ整備に貢献してまいります。
・当社は、燃費改善効果の高い中・小型自動車の無段変速機(CVT)に使用される、耐摩耗性に優れる肌焼き鋼を開発しました。CVTではプーリーと呼ばれる円錐状の金属部品でベルトを挟み、プーリーとベルトの摩擦力でトルクを伝達するため、部品に耐摩耗性が要求されます。そのため部品表層の炭素濃度を高める浸炭と呼ばれる表面硬化処理が行われますが、本開発鋼により同じ浸炭工程でも表層をより硬化させ耐摩耗性をより高めることが可能となりました。本開発鋼を用いた自動車部品は、CVT搭載車に広く使用され自動車の品質・信頼性向上に貢献しています。
<建材>・当社は、日本集成材工業協同組合及び一般社団法人全国LVL協会と共同で「木鉄ハイブリッド耐火柱(本耐火柱)」を開発し商品化しました。国は国産木材の公共建築物への利用促進取り組みを進めていますが、一方で耐火構造が求められる建築物の場合、木材だけでは部材断面が大きくなる課題がありました。そこで角形の鋼管柱周囲をスギ材で被覆することで、木材の質感・温もりを生かし、小断面積で1時間の耐火性能を確保しつつ、木の温もりを持つスレンダーな柱が実現可能となりました。日本に広く生育するスギを用いた本耐火柱は、その質感に加え国産木材の利用促進するものであり、公共建築物を中心に広く普及することが期待されます。
<チタン・特殊ステンレス>・当社と日鉄住金防蝕㈱(2019年4月1日付で日鉄防食㈱に商号変更)は、「明治期に建造された鋼製灯台への長期耐久性防食仕様の適用」におけるチタン箔を用いた防食工法への取り組みが評価され、国土交通省他主催の第二回(2018年度)インフラメンテナンス大賞優秀賞を受賞しました。静岡県の掛塚灯台は明治30年(1897年)の建造後120年経過した歴史ある建造物ですが、同工法適用により従来比で60年超の耐久性向上、及び約半分となったライフサイクルコストが高い評価を受け、今回の受賞に至ったものです。当社グループは、今後も海洋土木部門をはじめ様々な分野でインフラの長寿命化を実現し、社会基盤構築に貢献する製品・技術を提供してまいります。
・当社は、高機能化が求められる電子デバイス機器等への使用に適した精密加工用ステンレス鋼板の製品ラインナップを「FYGRASTM」としてブランド展開を開始しました。近年、スマートフォンに代表される電子機器では、デバイスの多機能化や高密度化が進められ、優れた板厚精度や平坦性に加えて、フォトエッチングやレーザーカットといった精密二次加工にも優れたステンレス鋼板が求められています。本製品は、当社の材料造り込み技術により、最薄80ミクロン厚の鋼板内に1ミクロンクラスの超微細結晶粒を実現し、お客様に安心してご使用頂ける製品です。
<交通産機品>・当社が開発した中・大型商用車に使用される永久磁石式の補助ブレーキ装置(リターダ)が、第53回(2018年度)機械振興賞において機械振興協会会長賞を受賞しました。当社は本製品開発を通じて、車重規制緩和、燃費改善、排気ガス規制、ドライバーの疲労軽減などの社会的ニーズへの対応を行ってまいりました。また補助ブレーキ装置の製品ラインナップの拡充、さらに軽量化による車両の燃費向上や磁石最少化によるレアアース原料使用削減など低環境負荷製品開発という新たな社会的使命に応える技術開発にも努めてまいりました。
・当社は、㈱日立製作所 鉄道ビジネスユニット(以下鉄道BU)より、「Supplier of the Year 2018」を受賞しました。同賞は鉄道BUの全取引先の中から、品質・コスト・納入・開発などで、過去1年間最も貢献度が高いと評価された取引先に授与される賞であり、当社は、同社の鉄道車両向けへの車輪や車軸、台車等の高品質・高性能な鉄道車両品の長年にわたる納入、同社グローバルプロジェクトに対する積極的な協力への評価及び今後のパートナーシップ強化への期待より、今回の受賞となりました。今後もお客様のニーズに的確にお応えし、伸びゆく世界のインフラ事業に技術力と製品提案力で貢献してまいります。
<製鉄プロセス等>・当社、当社子会社の日新製鋼㈱(2019年4月1日付で日鉄日新製鋼㈱に商号変更)及び新日鉄住金エンジニアリング㈱(2019年4月1日付で日鉄エンジニアリング㈱に商号変更)は、JFEスチール㈱、㈱神戸製鋼所と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「環境調和型プロセス技術の開発/水素還元等プロセス技術の開発」(COURSE50)プロジェクトに参画し、高炉を使用した製鉄プロセスにて発生するCO2の排出量を約30%削減する技術開発に取り組んでいます。2008年開始の本プロジェクトは、10年間の第1開発段階(フェーズⅠ)を計画通り完了し、水素を活用した試験高炉操業及び世界トップレベルのCO2分離回収技術を実現しました。今後2030年の実用化を目指した技術開発に、現在も引き続き取り組んでおります。
・当社は、2000年よりコークス炉化学原料化法によるプラスチックリサイクルに取り組んでおり、2008年に100万トン、2013年に200万トンと順調にリサイクルを進めてきましたが、このたび2018年11月14日に累計リサイクル量で300万トンを達成しました。コークス炉化学原料化法は、既存のコークス炉にてプラスチックを高温に加熱して得られる熱分解物を、製鉄原料、製鉄所内のエネルギーとしてほぼ100%有効利用するものであり、これまでの累計環境負荷削減効果は、CO2削減量としては約960万トン、埋立処分回避量として約1,200万m3となります。今後も本取組みを通じ、省エネ・CO2削減、循環型社会の形成に貢献してまいります。
<スラグ・セメント>・当社は、製鉄工程で副次的に生産される製鋼スラグを原料とするカルシア改質材により、浚渫土を改質し海域での浅場造成資源として有効活用したこと、通常浚渫土改質に使用されるセメントに対してCO2を排出抑制したこと等の取組みが評価され、2018年度リデュース・リユース・リサイクル(以下3R)推進功労者等表彰において、3R推進協議会長賞を東亜建設工業㈱、君津市、千葉県漁業協同組合連合会と共同で受賞しました。今後も製鉄副産物及び建設副産物の有効活用の観点を含め、社会インフラ整備に幅広く貢献してまいります。
(エンジニアリング)
当セグメントに係る研究開発費は25億円です。
新日鉄住金エンジニアリング㈱(2019年4月1日付で日鉄エンジニアリング㈱に商号変更)における研究開発への取組みは以下のとおりです。
・製鉄プラント分野 当社との共研を中心とした先進的製鉄プロセス関連の開発
・環境分野 溶融炉競争力強化、バイオマス利用技術開発、土壌浄化技術の開発
・エネルギー分野 オンサイト発電の高効率化/操業支援
・海洋分野 海底パイプライン敷設の自動化・高速化・高品質化
・建築分野 免制震デバイス商品の開発、次世代商品の探索
・陸上パイプライン分野 陸上パイプライン溶接技術の開発
(ケミカル&マテリアル)
当セグメントに係る研究開発費は49億円です。
2018年10月に統合発足した日鉄ケミカル&マテリアル㈱における研究開発への取組みは以下のとおりです。
・コールケミカル製品、化学品、機能材料、複合材料等に関する研究開発
(システムソリューション)
当セグメントに係る研究開発費は16億円です。
新日鉄住金ソリューションズ㈱(2019年4月1日付で日鉄ソリューションズ㈱に商号変更)における研究開発への取組みは以下のとおりです。
・システムの構築・運用における品質及び生産性の向上
・ITサービスの競争力強化、価値共創の取組み
・IoT、AI活用領域への取組み