有価証券報告書-第95期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/07/02 15:00
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94項目

研究開発活動

当社は、需要家のニーズや環境・エネルギー等に対する社会的ニーズが多様化するなかで、「技術先進性」の拡大を通じた利益成長に資する研究開発分野に対し、重点的に経営資源を投入しています。鉄鋼研究所、先端技術研究所及びプロセス研究所の3つの中央研究組織と各製鉄所に配置した技術研究部が強固な連携体制を構築し、「リサーチ・アンド・エンジニアリング」の理念のもと、基礎基盤研究から、応用開発、エンジニアリングまでの一貫した研究開発を推進しています。
当社の強みは、①研究開発とエンジニアリングの融合による総合力及び開発スピード、②需要家立地の研究開発体制と需要家ニーズに対する的確なソリューション提案力、③高度な基盤技術に基づく新技術の開発力、④製鉄プロセス技術を基盤とした環境・エネルギー課題への対応力、⑤産学連携、海外アライアンス及び需要家との共同研究です。当社はこれらの強みを活かし、鉄を中心とした新しい機能を持つ商品開発をはじめ、革新的生産プロセスの創出と迅速な実用化を図り、持続可能な開発目標(SDGs)に沿った社会の発展に貢献してまいります。
当連結会計年度における当社及び連結子会社全体の研究開発費は776億円です。各セグメントの研究主要課題、成果及び研究開発費は次のとおりです。
(製鉄)
当セグメントに係る研究開発費は695億円です。
当社は、3地点の研究開発センター(富津市、尼崎市、波崎市)を軸に、①鉄鋼研究所では、鉄鋼材料・商品と利用技術・ソリューション研究開発、②先端技術研究所では、共通基盤技術研究及び新素材事業を中心とした製鉄以外のセグメント事業支援開発、③プロセス研究所では、設備エンジニアリングと設備保全技術開発を担当する設備・保全技術センターと密接な連携を図りながら製鉄プロセス関連の研究開発に取り組み、開発の短期化・効率化を目指し、鉄源コストの削減・基幹ラインの生産性の抜本的向上等の研究開発の加速化を進めてまいりました。
<薄板>・当社が開発した自動車部品の軽量化と材料使用料削減を可能とする超高強度鋼板の加工技術が第8回ものづくり日本大賞において製造・生産プロセス部門経済産業大臣賞を受賞しました。成形性が低い超高強度鋼板をL字やT字状の複雑な形状に成形するためのプレス工法「自由曲げ工法」を開発し、材料歩留まりの改善とともにセンターピラーやフロントピラーなどの自動車骨格部品への超高強度鋼板(980 MPa、1180 MPa 材)の適用が可能となりました。当社は車体軽量化による走行時のCO2排出削減と、鋼材使用量削減による鋼材製造におけるCO2排出削減を実現し、合計 24 kt/年のCO2排出削減に貢献しています。
・当社は、パナソニック㈱より同社商品のCO2削減や商品力強化に貢献し、特に優秀と認められた提案に贈られるECO・VC賞の金賞を2010年度から10年連続で受賞しました。今回の受賞は、加工後に塗装されていた鋼板を高加工性白色ビューコート®に置き換えることを提案し、パナソニック㈱における後塗装の省略によるコストダウン、品質改善、生産性向上を実現したことが評価されました。今後も鉄の可能性を最大限に引き出した新商品開発、シミュレーション技術による素材から加工方法までの一貫した提案により、お客様の要望にお応えしてまいります。
・当社は、優れた表面硬度と疲労強度が得られるガス軟窒化鋼板を開発し、ユニプレス㈱が製造するトルクコンバータ用のダンパープレートの材料に採用されました。ダンパープレートは高強度・高耐摩耗性・高精度が求められる部品です。当社は鋼材中の化学成分の最適化により、浸炭窒化処理を行った熱延鋼板と同等以上の表面硬度と疲労強度を、より低温の熱処理(ガス軟窒化処理)で実現しました。この鋼板とユニプレス㈱の独自技術を組み合わせることにより、ダンパープレートの生産性と品質の向上が可能となりました。同鋼板を用いたダンパープレートは、トランスミッション(AT・CVT)の専門メーカーであるジヤトコ㈱が製造する軽自動車専用新型無段変速機(CVT)のトルクコンバータとして搭載されました。
・当社は、変圧器の電力損失や騒音の低減に寄与する方向性電磁鋼板「オリエントコアハイビー®」を開発し、一般社団法人電気学会が選定する第13回でんきの礎において鉄鋼製品で初めて顕彰されました。当社は、この技術を用いて1968年から鉄鋼製品の商業生産を開始しており、現在では全世界にライセンス供与しています。当社は、電力システムを支える基盤材料としての同鋼板の供給を通じて世界全体の省エネルギー化に貢献してまいります。
・日鉄日新製鋼㈱(2020年4月1日に当社と合併)は、高耐食性を有するZAM®鋼板の利用技術開発を進め、「プレス金型に対する潤滑(滑り込み)性」と新加工技術である「絞り加工部の板厚減少抑制技術」を組合せためっき鋼板加工技術を開発しました。同鋼板は加工の厳しい自動車用モーターケースに採用されました。
<厚板>・当社は、衝突安全性に優れる船体用高延性厚鋼板「Nsafe®-Hull」を開発し、深刻な海洋汚染をもたらす船舶事故時の油漏洩防止による環境保全への貢献が評価され、公益財団法人大河内記念会の第66回(令和元年度)大河内賞において大河内記念生産賞及び第8回ものづくり日本大賞製造・技術開発部門九州経済産業局長賞を受賞しました。今回の受賞は、第51回(2018年度)市村賞において市村産業貢献賞に続く受賞であり本技術水準及び産業上の有用性が高く評価されたものです。加えて、同鋼板は、今治造船㈱が新たに開発した最新鋭の超大型原油タンカー(載貨重量31万トン)に当社製の原油タンカー用高耐食性鋼板"NSGP®-1, NSGP®-2"とともに世界で初めて同時採用されました。当社は船舶のさらなる大型化が進展するなか、衝突安全性のみならず、座礁に対する安全性の確保に向けた高延性厚鋼板の供給を通じて世界の環境保全に貢献してまいります。
<鋼管>・当社は、日鉄ステンレス㈱が開発した省合金型二相ステンレス鋼 「NSSC2120®」と同等材質の「YUS®2120シームレス鋼管」を新たに開発し、商業生産 を開始しました。「YUS®2120シームレス鋼管」は、汎用鋼である「SUS304シームレス鋼管」と比較して省合金型でありながら2倍の強度と同等以上の耐食性を実現しました。「SUS304シームレス鋼管」の代替として「YUS®2120シームレス鋼管」を適用することで、最大50%の薄肉設計や耐食性改善による設備長寿命化等ライフサイクルコスト低減への寄与が期待できます。当社は今後も伸び行くインフラ需要に鋼材供給から貢献してまいります。
・当社と日鉄ステンレス鋼管㈱が製造・販売する高圧水素用ステンレス鋼「HRX19®」が、東京ガス㈱と日本水素ステーションネットワーク合同会社が共同で建設し、2020年1月16日に開所した「豊洲水素ステーション」に採用されました。同鋼管は、70 MPa級の高圧水素環境下で使用可能な鋼管で、溶接施工可能な唯一の材料です。数多くの継手部を溶接継手施工することで、水素ステーションのコンパクト化及び継手部からの水素漏れのリスクを排除し、施工及びメンテナンスコストの低減に貢献します。
・当社の子会社である山陽特殊製鋼㈱は、各種工業炉における燃料削減とCO2排出削減を目的としたエネルギー効率の向上に貢献する、高温強度と耐高温腐食性に優れた次世代型レキュペレータ(廃熱回収装置)用耐熱鋼を開発しました。山陽特殊製鋼㈱は、レキュペレータ用の伝熱管として用いられる高クロムフェライト系耐熱鋼「SICシリーズ」を開発・製造・販売しておりますが、このたび開発した耐熱鋼は、SICシリーズの中で耐酸化性と耐高温腐食性が最も優れる「SIC12」をベースに高温強度を大幅に向上させました。この耐熱鋼をレキュペレータの伝熱管に適用することで、各種工業炉のエネルギー効率向上による燃料削減とCO2排出削減への貢献が期待されます。
<棒線>・当社、アイシン・エィ・ダブリュ㈱及び愛知製鋼㈱が共同開発した、レアメタルレスを可能にした次世代高強度鋼材「MSB20」と歯車の開発が、第8回ものづくり日本大賞において製造・技術開発部門経済産業大臣賞を受賞しました。燃費向上のための自動車部品の高強度化による小型軽量化とともに、レアメタルの将来的な資源枯渇と価格高騰の懸念から、部品適用鋼材の省レアメタル化が求められております。「MSB20」を適用したマイルド浸炭歯車は、従来の浸炭歯車に対してレアメタル(クロムやモリブデン)の使用量をゼロとしつつ、強度の25%向上を達成しました。
<建材>・当社は、木造住宅での鋼板使用量を拡大すべく開発を進めているスチールハウス工法で獲得した知見と技術を用いて、木造住宅向け金物の開発にも注力しています。当社は、住宅用金物メーカーの㈱タツミと共同で、接合金物として最適な素材と形状に進化させた木造住宅向け新型金物「TCW」を開発しました。TCWは、当社の「スーパーダイマ®」を使用して、従来の接合金物「テックワン®」に比べてコンパクトでありながら耐力向上を実現しました。
・当社は覆工板「メトロデッキ®」を約50年ぶりに改良しました。「メトロデッキ®」は地下鉄工事をはじめ地下街の建設、地下配管工事等の各種路面掘削工事や仮設橋梁、作業構台等に使用されております。「メトロデッキ®」はスリップ防止のため、表面に格子模様の凹凸を付与しておりますが、凹部に雨水等が溜まりやすく水はけも悪いことから、雨天後も滑りやすくなる問題がありました。当社は、滑り抵抗値を15%向上させつつ、格子模様の凹凸を変更し、排水性を向上させ路面乾燥時間を1/5に短縮した新しい縞模様の「メトロデッキ®」を開発しました。当社は「メトロデッキ®」によって車両・建設機械の走行安全性の向上に貢献致します。
<チタン>・当社が開発販売している意匠性の高い「TranTixxii®(トランティクシー)」が太宰府市のモニュメントや謙信公武道館(新潟県立武道館)の入り口庇屋根と正面入口のサイン、浄土宗大本山増上寺大殿の屋根瓦にそれぞれ採用されました。加えて、「TranTixxii®」は寺田倉庫株式会社が運営する画材ラボ「PIGMENT TOLYO」とのコラボレーションにより絵画用基底材カラーチタンパネルの提供を開始し、さらに富士フイルム製デジタルカメラのボディ外装に採用され、着実にその販路を広げております。「TranTixxii®」は当社独自の最先端技術によって、様々な色彩色調を実現可能な高い意匠性を持ち、さらに軽量で耐食性に優れた素材特性をも持ちます。今後も当社は、チタンの優れた特性を活用した様々な用途におけるニーズにお応えしてまいります。
・当社と日鉄防食㈱はチタンの高い耐食性を活かして、鋼構造物へのチタン材適用拡大を推進しております。国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の種子島宇宙センターで、チタン箔の優れた防食特性が評価され、チタン箔による防食工法が採用されました。種子島宇宙センターは、三方を海に囲まれることから塩害が非常に厳しい環境下にあります。防食工法が採用された箇所は、大型ロケット組立棟の扉上部のガイドレール部であり、腐食により扉の開閉に不具合が生じるとロケットの発射に支障をきたしうる非常に重要な箇所です。今回のチタン箔施工により、メンテナンスの省力化及びライフサイクルコストの低減とロケット発射の定時性への貢献が期待されています。
・当社が開発したチタンローフィンチューブが、船舶用冷凍・冷蔵機器メーカーの日新工業㈱の漁船向け船舶用冷凍機の熱交換器に採用されました。チタンローフィンチューブは、チタン管表面に転造によりフィンを成形することで通常管に比べて2倍以上の伝達面積を実現した製品です。伝達面積を増やすことで、熱交換能力のアップとそれに伴う省スペース化に寄与し、さらにチタンの持つ優れた耐食性により海水やアンモニア等の腐食しやすい冷媒を使った船舶用冷凍機の熱交換器や空調設備に適用可能であり、漁船冷凍機の信頼性向上と長寿命化に貢献します。
<交通産機品>・当社が開発した中・大型商用車に使用される永久磁石式の補助ブレーキ装置(リターダ)が、第52回(令和元年度)市村産業賞において貢献賞を受賞しました。これは第53回(平成30年度)機械振興賞における機械振興協会会長賞に続く受賞であり、本技術水準及び産業上の有用性が高く評価されたものです。既存の流体式や電磁石式のリターダには装置寸法や重量、メンテナンス性に課題があり、国内ではほとんど使用されておりませんでした。当社は、ネオジウム磁石に着目し、その磁力を活用した小型軽量でメンテナンスフリーの世界初となる永久磁石式リターダを開発・実用化し、車重規制緩和、燃費改善、排気ガス規制、ドライバーの疲労軽減等の社会的なニーズに対応しております。当社は、世界唯一の永久磁石式リターダメーカーとして、海外販売や間接輸出により世界の交通安全や国産車両の競争力強化に貢献してまいります。
・当社が開発した鉄道用低騒音歯車装置が、第54回(令和元年度)機械振興賞において機械振興協会会長賞を受賞しました。鉄道輸送は、エネルギー効率が高く、迅速かつ治療な輸送が可能であり、社会インフラとしての役割発揮が大きく期待されています。新幹線を中心に、輸送速度向上ニーズに応えるためには安全性、環境規制と乗り心地改善に向けた社内外の低騒音化が必要不可欠でした。特に、車外騒音は歯車装置から発生しており、その低騒音化が強く望まれていました。当社は、歯車噛み合い音の原因である振動起振力を従来品より1/6にする3次元歯車設計手法を確立するとともに、加工機メーカーと共同で開発したソフトにより高精度かつ高効率な歯面研削技術を開発し、鉄道輸送のさらなる高効率化に貢献してまいります。
<製鉄プロセス等>・当社が開発した製鋼プロセス「YES」(Yawata Environment-friendly Smelter)が、平成31年度文部科学大臣表彰において科学技術賞(開発部門)を受賞しました。これは第64回(平成29年度)大河内賞 大河内記念生産特賞に続く受賞であり、本技術水準及び産業上の有用性が高く評価されたものです。転炉プロセスに合金鉄溶解炉プロセスを組み合わせたYESは炉底からアルゴンガス等を吹き込み、装入物の溶解と反応を促進させ、クロム含有のスクラップ、ダスト、スケール、転炉スラグを全量、さらに外部調達のクロム含有のスクラップのリサイクルが可能となり、環境面だけではなく生産性の向上とコスト削減が達成されます。
・当社が開発したLEDドットパターン投影方式平坦度計を用いた高強度熱延鋼板の高精度製造技術が、第8回ものづくり日本大賞において製造・生産プロセス部門優秀賞を受賞しました。熱間圧延時の幅方向の伸び率不均等(平坦度)を高精度に測定し、圧延機をリアルタイムで制御して薄鋼板を製造する技術を開発しました。高輝度LEDで形成した光のパターン画像を処理することで、刻々と変化する圧延中の鋼板の瞬間的な形状をとらえ、圧延ロールの湾曲度と平行度を独立制御し、熟練した作業者の介入がなくても平坦度を自動修正することが可能になりました。同技術の開発により、水冷時温度むらや表面疵等の形状起因の不良発生が制御適用前に比べて約30%減少し、高強度鋼板の生産性と品質の向上が達成されました。
<スラグ・セメント>・当社が展開するビバリー®シリーズのなかの、鉄鋼スラグによる多様な生態系サービスをもたらす海の森再生技術(ビバリー®ユニット)が、第52回(令和元年度)市村賞において市村地球環境産業賞を受賞しました。さらにビバリー®シリーズは、第2回エコプロアワードにおいて主催者賞(優秀賞)を受賞しました。ビバリー®ユニットは、製鋼スラグと腐植土を活用した海域向けの施肥材であり、多様な生態系サービスの提供と藻場(ブルーカーボン生態系)によるCO2吸収・固定による地球温暖化抑制に関する技術を開発・実用化しました。当社は2004 年からビバリー®ユニットによる海の森再生に着手し、北海道増毛町舎熊海岸で6tを埋設して海水の鉄濃度の上昇と藻場の再生(約0.6ha)を確認し、さらに2014年には同町別苅海岸で45tを埋設して約1.5haの藻場再生と1.8倍のウニ漁獲高の向上を確認しました。着実にビバリー®シリーズの生態系サービスへの有用性を実証しています。当社は、ビバリー®ユニットを全国38箇所に展開しており、調査した30箇所の再生藻場面積は約3.2haであり、ブルーカーボンとして固定化されたCO2は年間最大115tと試算しています。
(エンジニアリング)
当セグメントに係る研究開発費は20億円です。
日鉄エンジニアリング㈱における研究開発への取組みは以下のとおりです。
・製鉄プラント分野 当社との共研を中心とした先進的製鉄プロセス関連の開発
・環境分野 溶融炉競争力強化、土壌浄化技術の開発
・エネルギー分野 オンサイト発電の高効率化/操業支援
・海洋分野 海底パイプライン敷設の自動化・高速化・高品質化
・建築分野 免制震デバイス商品の開発、次世代商品の探索
・陸上パイプライン分野 陸上パイプライン溶接技術の開発
(ケミカル&マテリアル)
当セグメントに係る研究開発費は41億円です。
日鉄ケミカル&マテリアル㈱における研究開発への取組みは以下のとおりです。
・コールケミカル製品、化学品、機能材料、複合材料等に関する研究開発
(システムソリューション)
当セグメントに係る研究開発費は19億円です。
日鉄ソリューションズ㈱における研究開発への取組みは以下のとおりです。
・システムの構築・運用における品質及び生産性の向上
・ITサービスの競争力強化、価値共創の取組み
・IoT、AI・データ利活用領域への取組み