有価証券報告書-第124期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 9:06
【資料】
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【項目】
167項目

研究開発活動

当社グループは有用な製品とサービスを社会に提供して、人類社会の幸福に貢献するという企業理念のもと、基盤となる事業ドメイン「社会インフラ」および「産業設備」において、鋭意研究開発活動に努めております。近年は新事業創造に向けた研究開発成果の早期創出を目指して、コーポレート研究開発部門(クリモト創造技術研究所)と各事業部門との連携をより一層強化しており、市場直結型の技術開発を推進すると共に、オンリーワンの高機能材料ならびにその生産プロセスの開発に取り組んでおります。
当連結会計年度の研究開発費の総額は1,588百万円であり、セグメント別の研究開発費は、パイプシステム事業283百万円、機械システム事業177百万円、産業建設資材事業163百万円であります。主な研究概要とその成果については次の通りであります。なお、研究開発費については、コーポレート研究開発部門で行っている新規分野開発と基盤技術研究の費用963百万円が含まれております。
~主要研究開発活動~
(社会インフラ関連)
① 水道管路耐震化に向けた製品の開発
地震が頻発するわが国において、管路の耐震性を高めることは重要課題でありますが、現状耐震性を有する管路比率は40.3%程度に留まっております。ところが管路更新が捗らず、管路の老朽化は年々進んでいるため耐用年数を超過した管路の比率(管路経年化率)は既に16.3%を超えています。そのような状況を踏まえ、管路更新・耐震化促進に資するため、長寿命を特長とする耐震管GX形のラインナップを拡充(呼び径350mmの追加、全口径75mm~400mm)し、拡販に努めており、全国の政令指定都市をはじめ多くの事業体様にご採用いただいております。また、GX形に加え、さらに低コストで軽量化を実現したNS形(E種管)のラインナップにより、事業体様からの多様な要望に応え、市場での拡販を精力的に進めて参ります。
さらに喫緊の課題となる中大口径管路の更新事業においても、当社独自工法となる「ハイブリッドシステム工法」により売上拡大を図るとともに、昨今、開発された中大口径耐震管US-R方式により工期短縮およびトータルコストの更なる削減を図り、水源から末端に至るトータル的な老朽管路の更新、耐震化に貢献すべく、取り組んで参ります。
② インフラ向け更生管の開発、自動車・鉄道分野ならびに橋梁補修分野への新規参入
当社は連続FW成形*技術をコア技術として、電力ケーブル保護管、下水道管および農業用水管など主にインフラ市場向けにFRP(M)管を販売してきました。しかし、近年インフラ設備は成熟期を迎え、既存設備の更新や長寿命化が課題となっております。そこで、当社は今日まで約50年間培ったFRP製品に関する技術力を生かし、施工性に優れ、かつ高耐震性、高強度を有した更生工法の開発に注力しております。
自動車分野ではコンポジット新製品や生産設備販売ビジネス、また鉄道分野では今までにない高機能なFRP新商材を基軸に新規参入を進めております。併せて、橋梁補修分野に関してはFW成形および引抜成形技術も活用し、軽量性および耐食性に優れた製品展開を進めて参ります。
* FW成形:フィラメントワインディングと呼ばれるFRP成形法の一種。
(産業設備関連)
① 二次電池向けプロセス設備の開発
自動車メーカが掲げるEV化への展望を始めとする世界的な二次電池市場の拡大を見据え、二次電池電極製造市場へ装置・システム・プラントで積極参入すべくプロジェクトを2011年より立ち上げ活動を推進・継続しています。営業活動、PR効果促進はもとより日進月歩で開発される各種電池材料に対する技術ノウハウの獲得・構築およびコストダウンを加味した各装置の改良・改善に取り組んでおり、販売実績も得られて参りました。当社住吉工場内テストセンターに、長年の粉体装置事業で培った技術を活かした電池スラリーの混練設備(ドライルーム)、電池原料の乾燥・焼成・粉砕設備を設置し、顧客対応実証実験と自主実験による研究開発を進め、さらに創意工夫を重ねて改良・改善を行い、国内外に営業展開を進めて参ります。
② サーボプレスの応用技術開発
当社は近年、湿式クラッチブレーキの開発、サーボプレスの開発を行い、納入実績を積み重ねております。サーボプレスにおいては油圧装置と組み合わせた複合成形にも取り組み、鍛造技術の開発を進めております。更に、数年前に開発済みのM2M(遠隔監視装置)に加えて、プレスの状態が把握でき、保全性が高まる「見える化」の開発も進めており、両輪により営業活動を強めていく予定であります。
(コンポジットプロジェクト関連)
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のハイサイクル成形システムおよび成形品の開発
炭素繊維強化プラスチックは軽くて強いという性質を持つ優れた部材であり、近年では金属製部品の代替として様々な分野・製品への適用が進んでおります。しかしながら、自動車部品など身近な製品へのさらなる普及のためには、製造コストの低減や生産サイクルの短縮、品質管理の強化など様々な課題を克服する必要があります。
当社は、混練装置やプレス機などの設備製造技術と国内有数のFRP成形実績を基盤とし、独自のCFRP量産テクノロジーの開発を進め、各種課題の解決に取り組んでおります。主な取り組みとしては、Carbon-LFTDシステム*1、ハイサイクルRTMシステム*2およびCFRP引抜成形について、デモ成形設備を導入し、具体的なCFRPパーツの設計、試作、量産から設備までのトータル・ソリューション開発を進めております。2019年11月完成の「新コンポジットセンター」を早期に稼働させて、成形設備および成形品分野での事業展開を目指します。
*1 Carbon-LFTDシステム:原材料である炭素繊維ロービングと熱可塑性樹脂を直接混練してプレス成形するCFRTP
成形システム。
*2 ハイサイクルRTMシステム:積層された炭素繊維シートに、熱硬化性樹脂を注入・含浸させ、加熱硬化させて成
形するシステム。
(クリモト創造技術研究所関連)
磁気粘性流体(MRF)の開発
磁気粘性流体とは、油の中に鉄微粒子を分散させた機能性流体であります。流体に磁力を与えると急激に粘性が増して半固体状態になり、磁力を取り除くと流動性のある液体状態に戻るという特徴があります。これを利用して、自動車用ダンパー等に実用化されております。当社では、鉄微粒子を今までより小さいナノサイズにしたMRF(商標名:SoftMRFⓇ)を新たに開発し、従来適用例が少なかったクラッチ、ブレーキ等の回転系デバイスへの採用に取り組んでおります。鉄微粒子のナノサイズ化によって、流体の再分散性および耐久性が向上しました。また、この流体を用いたデバイスは俊敏な磁気変化に対する応答性能が優れていることから、リアルな触感を発現できます。これらの特長を活かしてSoftMRFⓇの製品として下肢装具関節部への適用やVR(バーチャル・リアリティ)アクティビティおよびゲーム機部品への採用が実現しました。これらの採用実績をベースに、今後、市場拡大が予想されるハプティクスデバイス*関連分野をはじめ、産業分野での実用化を目指して、流体のバリエーション拡大、コストダウンと安定生産技術の確立を進めると同時に適用範囲を拡大しSoftMRFⓇの販売を進めていく予定であります。
* ハプティクスデバイス:人間が手などを使って得る触覚や力覚を情報として扱う学問分野をハプティクスと称し
ここではナノMRFを使って主に力覚を人工的に与えられるデバイスを指します。