有価証券報告書-第179期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

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2018/06/27 15:02
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研究開発活動

当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、リテール&プリンティングソリューション、ストレージ&デバイスソリューション、インダストリアルICTソリューション領域を中心に、人々の暮らしと社会を支える事業領域に注力し、確かな技術で、豊かな価値を創造し、持続可能な社会に貢献してまいります。
エネルギーシステムソリューションでは、従来エネルギーのさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術とサービスを提供することで、低炭素社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。ストレージ&デバイスソリューションでは、ビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、ストレージ領域、産業・車載領域、IoT(Internet of Things)領域などに向け、新しい半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。インダストリアルICTソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かしたIoT/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスをお客様と共創してまいります。
当期における当社グループ全体の研究開発費は1,787億円(メモリ事業分野に係るものを除く。)であり、各事業セグメント別の主な研究成果及び研究開発費は次のとおりです。
なお、メモリ事業分野に係る当期の研究開発費は1,191億円であり、東芝メモリ㈱が中心となって、3次元フラッシュメモリなどの半導体製品の研究開発を行いました。
(1) エネルギーシステムソリューション
東芝エネルギーシステムズ㈱が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術により、エネルギーの安定供給や低炭素な社会インフラを実現する研究開発を行いました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は274億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。
・当社と国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構は、重粒子線がん治療装置向けスキャニング照射機器の大幅な小型化を実現する技術を開発しました。従来機器では、2台のスキャニング電磁石(※1)をビーム進行方向に並べて配置していましたが、本機器では当社のコイル巻線製造技術を活用することで1台の電磁石として配置することに成功しました。これにより磁場を効率良く発生させ、照射位置までの距離を従来機器の9mから3.5mまで短縮することができるため、重粒子線用回転ガントリー(※2)を従来の約2/3まで小型化することが見込まれています。既に開発済みの超伝導偏向電磁石と今回開発した機器を併せて、世界最小の回転ガントリーを実現させ、次世代型重粒子線がん治療装置への適用を目指します。
・電力事業者が電力の供給計画を立てる上で必須となる電力需要予測において、多地点における気象情報の作成と、AIを活用した複数の予測手法の組み合わせを特徴とする高精度な予測システムを開発しました。供給エリア内の多地点における気象予測値を作成し、気象情報と電力需要実績値の関係を効率良く機械学習させるスパースモデリング技術(※3)を開発、さらに、深層学習を用いた需要予測の結果値をAIを利用して最適に組み合わせることで、高精度な需要予測を実現しました。今後、より多くの地点の需要実績値をAIに学習させることで、さらなる予測精度の向上を追求し、電力事業者の効率的な需給運用を支えるシステムへの導入を目指します。
(2) インフラシステムソリューション
東芝インフラシステムズ㈱、東芝エレベータ㈱、東芝ライテック㈱、東芝キヤリア㈱が中心となって、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は392億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。
・当社は、西日本旅客鉄道㈱の新型寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」向けに、ディーゼル発電機で発電した電力とバッテリーアシストによる新開発の小型ハイブリッド駆動システムを納入しました。駆動システムのうち、モーターとバッテリーの制御を行う主変換装置について、鉄道向けの半導体に比べ低圧の自動車等向けパワー半導体を採用するとともに、装置外側の冷却フィンの設置が不要な水冷方式を採用することで、小型・軽量化を実現しました。バッテリーには当社製リチウムイオン二次電池「SCiB™」を採用しました。ブレーキ時に発生する回生電力を充電し、加速時にこの電力を使うことで、エネルギーを効率的に使用し燃費を向上させ、高い環境性能の実現に貢献しています。
・「SCiB™」の次世代品として、負極材に黒鉛の2倍の容量を持つチタンニオブ系酸化物を用いたリチウムイオン電池の試作に成功しました。この負極材は、超急速充電や低温充電時でも耐久性と安全性に優れ、当社独自の合成方法により、結晶構造中にリチウムイオンを効率的に供給できます。これにより、「SCiB™」の特徴である高い安全性と急速充電特性を維持しながら、単位体積当たりの負極容量を従来に比べ増加させることができました(※4)。32kWh電池容量搭載のコンパクトEVを想定した場合、6分間の超急速充電で、走行距離320km(※5)を可能にします。今後も電池の急速充電、長寿命、高エネルギー密度化に関する研究開発を継続し、製品化を目指します。
(3) リテール&プリンティングソリューション
東芝テック㈱が中心となって、リテール&プリンティングソリューション分野における新しい製品やサービスを提供するための研究開発を行いました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は281億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。
・経済産業省及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業の一環として、電子レシートの社会インフラ化実証実験を行いました。東芝テック㈱が運営している電子レシートシステム「スマートレシート®」をベースにした電子レシートプラットフォームを使用することで、従来個別に開発、利用されていた電子レシートアプリケーション等をシームレスに連携でき、消費者の選好を正確に理解した商品開発やサービス提供が可能となります。
・NEDOの委託事業として、電子タグ(RFID)を用いたサプライチェーンの情報共有システムの実証実験に参加しました。メーカーやコンビニ等と共同でRFIDを活用して、サプライチェーン全体の商品に関する情報を国際標準に準拠したデータで一元管理、共有できるシステムを開発するとともに、電子タグ発行、入出荷及び販売データエントリーデバイスを提供し、有効性を検証しました。
(4) ストレージ&デバイスソリューション
東芝デバイス&ストレージ㈱が中心となって、ストレージ製品や、IoT、車載、産業向けなどの新しい半導体製品を提供するための研究開発を行いました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は440億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。
・データセンタやストレージシステム向けに、CMR(従来型磁気記録)方式で世界初(※6)となる記憶容量14テラバイト(※7)のニアライン向け3.5型HDDを開発しました。HDD内部に空気より軽いヘリウムを封止し、従来よりもヘッドの位置決め精度改善やディスクを安定的に回転させることにより、高記録密度化と低消費電力化を実現しました。さらに小型・薄型化技術によりディスク9枚を搭載することで、CMR方式で14テラバイトという大容量化を達成しました。
・スマートフォンなどのモバイル機器向けに、従来の高周波スイッチに加え低雑音アンプに適した高周波半導体用プロセス「TarfSOI™(※8)」の次世代プロセスTaRF10を開発しました。本プロセスを用いて低雑音アンプを試作し、周波数1.8GHzにおいて低い雑音指数(※9)0.72dBと電力増幅率16.9dBの高い性能を達成しました。これにより低挿入損失のスイッチと低雑音アンプの同一チップへの混載が可能となりモバイル機器の受信感度を大幅に改善できます。当社は今後も次世代移動通信向けの市場要求に応えた高周波IC製品を開発していきます。
(5) インダストリアルICTソリューション
東芝デジタルソリューションズ㈱が中心となって、IoTやAIなど企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は67億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。
・東芝コミュニケーションAI「RECAIUS™(リカイアス)」の新たなサービスとして、次世代のIVR(※10)「RECAIUS通話エージェント」の提供を開始しました。本サービスは、当社が長年培った音声対話技術や自然言語処理技術により、お客様からのお問い合わせを音声認識し、質問の意図を正しく理解した上で、簡単な問合せは自動で即座に回答し、高度な問合せは適切なオペレーターの窓口へ繋ぐことを可能とするものです。これにより、オペレーターは高度な専門知識が必要な問合せ対応に注力でき、お客様の待ち時間も削減できるなど、コールセンター業務の働き方改革・利便性向上に貢献します。
・画像、センサーデータ、業務データなどを解析し、システムの最適化・自律化を支援するAIサービスを東芝アナリティクスAI「SATLYS™(サトリス)」として提供開始しました。「SATLYS™」は、AI技術を活用し、高精度な識別、予測、要因推定、異常検知、故障予兆検知、行動推定などを実現します。本技術は、東芝メモリ㈱の四日市工場における半導体製品の歩留監視や、ドローンによる送電線異常検知などに展開しています。また、部品の余寿命予測、品質劣化の予兆検知、製造工程の不良要因分析、熟練者に代わる異常の自動判定などへの適用も進めています。
(6) その他
研究開発センターを中心に、将来に向けた先行・基盤技術の研究開発を行いました。当期の研究開発費は333億円です。当期の主な成果としては次のものが挙げられます。
・世界で初めて10Mbpsを超える鍵配信速度(13.7Mbps)を実現する量子暗号装置の開発に成功しました(※11)。量子暗号技術は、秘匿性の高いデータ通信の暗号化に適していますが、送受信者間で必要となる共通の暗号鍵の生成処理速度の向上が実用化の課題となっていました。当社は今回、従来のソフトウェア処理をより高速に処理できる専用回路を用いたハードウェアや、光子通信の誤り特性を加味した処理規模の少ない誤り訂正方式を開発するとともに、従来のデータ変換処理の多並列処理化を達成したことで、鍵生成処理の高速化を実現しました。今後も金融・医療・通信インフラ等の分野での実用化を目指し、量子暗号技術の普及に貢献していきます。
・独自の塗布印刷技術を用いて樹脂フィルム基板上に作製した5cm×5cmのペロブスカイト太陽電池(※12)モジュール(※13)で、エネルギー変換効率10.5%(※14)を達成しました。今回、フィルム基板を用いたペロブスカイト太陽電池向けの成膜プロセス技術や、モジュール作製のためのスクライブ(※15)プロセス技術を開発したことで、上記の変換効率を達成しました。本技術はフレキシブルなフィルム基板を用いていることから、ロール・ツー・ロール方式(※16)で作製でき低コスト化が可能です。また、高効率のポテンシャルを持つペロブスカイト太陽電池のため、更なる高効率化が期待できます。
(注)※1:磁場を高速に変化させることにより、荷電粒子ビームをビームと直行する患部の断面方向に対し、2方向に走査するための機器をいいます。
※2:CT、MRI、X線治療機のドーナツ状の筺体を指します。患者は、その筐体の中に入って診断・治療を受けます。CTやX線治療機では、X線発生装置がガントリー内を移動して、患者にX線を照射しますが、陽子線や重粒子線治療装置の場合は、放射線発生装置が治療室の外に設置されるものの、患者の周囲を照射口が回って照射をおこなう点で同じことから、こうした装置を回転ガントリーと呼びます。
※3:高次元のデータの中から有意な情報を抽出する機械学習の技法で、今回は多地点の気象情報の中から電力需要に影響の大きな地点を抽出するのに適用しています。
※4:本成果は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業の成果を一部活用しています。
※5:JC08モードでの走行距離換算。
※6:高さ26.1mmの3.5型HDDとして、2017年12月時点、当社調べ。
※7:1テラバイトは10の12乗バイトによる算出値。
※8:TarfSOI™(Toshiba advanced RF SOI):当社が高周波半導体用に独自に開発したSOI-CMOS(Silicon On Insulator-Complementary Metal Oxide Semiconductor)フロントエンドプロセス。
※9:雑音指数(Noise Figure):増幅回路における入力端および出力端の信号対ノイズ比。小さいほど雑音が小さく特性が良い。
※10:IVR(Interactive Voice Response System、音声自動応答装置):発信者のダイヤル操作に合わせて、あらかじめ録音してある音声を発信者側に自動的に再生するコンピュータシステム。
※11:10kmを想定した光ファイバー環境における結果。
※12:光吸収層がペロブスカイト結晶で構成されている太陽電池。
※13:セルは太陽電池の基本単位の素子、モジュールは複数のセルを電気的に接続したもの。
※14:太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換する効率。2017年9月25日時点で世界最高の変換効率。一般財団法人電気安全環境研究所の測定による。
※15:セルの直列接続構造を形成するために、電極上の膜の一部分を取り除き、電極を露出させる工程。
※16:シート状の材料やデバイスの製造において、一つの製造プロセスの前と後でロール状に巻き付けながら大量生産を行う方法。