有価証券報告書-第180期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

【提出】
2019/06/25 10:20
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142項目

研究開発活動

当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、リテール&プリンティングソリューション、ストレージ&デバイスソリューション、インダストリアルICTソリューション領域を中心に、人々の暮らしと社会を支える事業領域に注力し、確かな技術で、豊かな価値を創造し、持続可能な社会に貢献してまいります。
エネルギーシステムソリューションでは、従来エネルギーのさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術とサービスを提供することで、低炭素社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。ストレージ&デバイスソリューションでは、ビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、データセンター向けなどのストレージ領域、産業・車載領域などに向け、新しい半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。インダストリアルICTソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かしたIoT/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスをお客様と共創してまいります。
当期における当社グループ全体の研究開発費は1,675億円であり、各事業セグメント別の主な研究成果及び研究開発費は次のとおりです。
(1) エネルギーシステムソリューション
東芝エネルギーシステムズ㈱が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術により、エネルギーの安定供給や低炭素な社会インフラを実現する研究開発を行いました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は180億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。
・超臨界CO2サイクル火力発電システムのパイロットプラント向け燃焼器の初着火に成功しました。本燃焼器は、300MW級商用プラントに適用可能な燃焼器と同サイズの50MWth(※1)燃焼器です。今回実施した試験は、共同開発者のうちの1社であるネットパワー社が建設した超臨界CO2サイクル火力発電システムのパイロットプラントに、当社が設置した燃焼試験設備を組み合わせた燃焼試験です。本試験の成功により、実用化に向けた大きなマイルストーンを達成しました。
・福島第一原子力発電所2号機の原子炉格納容器内のペデスタル(※2)内部にある堆積物に接触し状態を確認するための調査装置を開発しました。これに先立ち、技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)と共に耐放射線性の高い内部調査装置も開発しており、2018年1月の調査では、原子炉格納容器内部のプラットホーム下部の堆積物を確認しました。今回、堆積物に接触して状態を調査するためのフィンガ機構を内部調査装置に追加し、2019年2月の調査では堆積物への接触に初めて成功しました。
(2) インフラシステムソリューション
東芝インフラシステムズ㈱、東芝エレベータ㈱、東芝ライテック㈱、東芝キヤリア㈱が中心となって、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は423億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。
・新構造のリチウムイオン二次電池を開発しました。エレクトロスピニング技術(※3)の応用により、絶縁性に優れる樹脂製の極薄ナノファイバー膜をコーティングした電極を用いることで、絶縁体として一般的に使用されるセパレータが不要となります。このコーティング膜は従来のセパレータでは実現困難な薄さにできるため電極間距離を極限まで近づけることができ、その結果、電池容量の増加及び入出力特性の改善が可能となります。一例として、当社のリチウムイオン二次電池「SCiB™」にこの新構造を適用した場合、既存の10Ahセルと同じサイズのままで、従来の1,800Wから2,200Wへの出力性能の向上を達成しました。本技術により、高価な薄膜セパレータを用いても実現が困難な電池性能を、低コストで実現できます。
・内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム「レジリエントな防災・減災機能の強化」の施策として、国立研究開発法人情報通信研究機構をはじめとする研究グループと開発し、世界初(※4)の実用型「マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)」を用いた実証実験を開始しました。本レーダは、30秒から1分で雨雲の高速三次元観測が可能なフェーズドアレイ気象レーダと雨量を高精度で計測できるマルチパラメータレーダの機能をあわせもった気象レーダで、急激に発達する積乱雲による豪雨から国民の安全を守るとともに、特に夏季に開催される競技の運営にも役立つ技術です。
(3) リテール&プリンティングソリューション
東芝テック㈱が中心となって、リテール&プリンティングソリューション分野における新しい製品やサービスを提供するための研究開発を行いました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は278億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。
・沖縄県全域の小売り64店舗にて、「電子レシートによる沖縄主婦の生活利便性向上プロジェクト」を実施しました。本プロジェクトは、当社が運営している電子レシートシステムを使用した国内初の取り組みとして、沖縄県内の業種、業態の異なる小売店舗間において送客クーポン発行などの販売促進連携による買い回りを実現したものです。電子レシートシステムをプラットフォームとして活用することにより、消費者や企業にとって利便性の高いシステムを構築しました。
・クラウドサービスとの拡張性と独自機能の強化により働き方改革をサポートする複合機e-STUDIOシリーズを開発しました。近年、働き方改革によりモバイルワークのような場所を選ばず仕事ができる仕組みや、業務を効率化し生産性をあげる対応が求められており、クラウドサービスはその実現に有効なツールとして、今後も更なる活用が見込まれています。当シリーズでは、クラウドサービスとの連携、スキャン機能の強化などによりお客様の働き方改革をサポートしています。また、当社の特長である特殊用紙印刷の操作を改善し、より使いやすくしています。
(4) ストレージ&デバイスソリューション
東芝デバイス&ストレージ㈱が中心となって、データセンター向けなどのストレージ製品や、車載、産業向けなどの新しい半導体製品を提供するための研究開発を行いました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は459億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。
・自動運転の実現に貢献するため、離れた物体までの距離情報をレーザ照射により3D画像として得る技術「LiDAR」(※5)の長距離測定精度を向上する技術を開発しました。長距離を測定するには、太陽光などのノイズの影響を小さくするための平均化処理を行いますが、被写体が存在しない領域または測定限界距離において、前述の平均化処理により連続した誤検出が発生していました。そこで、距離データの確からしさに基づいてノイズを除去して誤検出を防ぐアルゴリズムを確立しました。本技術と当社独自の計測回路技術(※6)を併用することで、従来の約1.8倍の測定距離を実現しました(※7)。これにより、高速走行中の車両や障害物の早期検知、市街地走行中の歩行者の見落とし低減を実現します。
・自動車や鉄道等の電化製品等に搭載されているモータを駆動させるパワー半導体を、従来より高効率にスイッチングできる駆動回路技術を開発しました。本回路は、当社が新たに開発したフィードバック技術を用いることにより、温度などの環境変動やモータの動作状態の変動の影響を受けずにスイッチング遷移速度を一定に保ち、パワー半導体のスイッチングの際に生じる電力損失を、従来の駆動方法と比べて低負荷時で25%、常温時で20%低減できることを確認しました(※8)。また、今回開発したフィードバック回路を搭載したパワー半導体をCMOSチップに集積化することに成功しました。これにより、パワー半導体の小型化・低コスト化を実現しつつ、電力損失の低減が期待できます。
(5) インダストリアルICTソリューション
東芝デジタルソリューションズ㈱が中心となって、IoTやAIなど企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は68億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。
・東芝アナリティクスAI「SATLYSTM(サトリス)」で得た知見を集積・標準化し、誰でも手軽にAIを利用できるように目的ごとに特化させたAI分析サービス「SATLYSKATATM(サトリスカタ)」を商品化しました。第一弾として、故障履歴から適切な調達数を予測し部品在庫を最適化する「SATLYSKATATM保守部品在庫最適化」と、ウェアラブルデバイスによる作業行動の見える化で作業効率を支援する「SATLYSKATATM作業行動推定」の二つのサービスの提供を開始しました。
・東芝コミュニケーションAI「RECAIUS™(リカイアス)」の新たなサービスとして、トラブルなどの対応事例を知識として蓄積・活用することで、さまざまなAI業務ソリューションを実現する「RECAIUS ナレッジプラットフォーム」の提供を開始しました。例えば、装置の不具合が発生したとき、保守員が不具合をテキストで入力することで、他の情報と統合して現在の状況を認識し、近い事例や調べるポイントを提示します。この仕組みにより、経験の浅い保守員の業務遂行を支援できます。
(6) その他
研究開発センターを中心に、将来に向けた先行・基盤技術の研究開発を行いました。当期の研究開発費は267億円です。当期の主な成果としては次のものが挙げられます。
・生きた細胞内での遺伝子の活性状態を観察することができる「生細胞活性可視化技術」を開発しました。従来乳がん診断では、死滅したがん細胞を用いるためがん細胞の活動状況を捉えることができず十分な知見を得られませんでした。そこで当社独自の分子構造設計技術を適用したナノカプセル(生分解性リポソーム)で検査用遺伝子を細胞内に導入した後、細胞培養用に独自開発した、カメラ機能を担うCMOSイメージセンサー上で培養することで、検査用遺伝子が活性状態に応じて放つ微弱な発光を撮像することができます。観察は一細胞単位で経時的に行うことができ、高精度の診断が可能となることに加え、少量の組織採取で済むため、患者の負担軽減にもなります。
・生産品の品質確認において、多量のデータの中から少量の不良品データを教師なしで高精度に分類する深層学習「深層クラスタリング技術」を開発しました。従来のクラスタリング技術では、良品に対して不良品の数が少ない場合、不良品データ群を正しく分類できない課題がありました。「深層クラスタリング技術」は、類似度の高いデータ同士が離れなくなるような独自の学習基準を導入し、少量のデータ群が他のデータに混入することを抑制し、少量のデータ群を独立したクラスタとして分類することが可能になりました。本技術で世界共通の手書き数字の公開データを分類したところ、教師なし学習での分類精度が従来の93.8%から98.4%に向上し、世界トップレベルの分類精度を達成しました(※9)。
(注)※1:MWth: megawatt thermal(メガワットサーマル)。ワットサーマルは熱出力の単位。
※2:原子炉圧力容器を支える鉄筋コンクリート製の構造物。
※3:原料である高分子溶液に高電圧を加えて紡糸する技術で、常温での紡糸が可能でかつ高耐熱性、高腐食耐性などの特徴を持つ材料からナノファイバー不織布を形成できる。数十nm~数μmの範囲での繊維径制御が可能となる。
※4:水平偏波と垂直偏波を同時に送受信する二重偏波機能を有し、10方向以上を同時に観測可能なDBF(デジタル・ビーム・フォーミング)のリアルタイム処理機能を搭載した気象観測専用のフェーズドアレイレーダとして世界初。
※5:Light Detection and Ranging
※6:長距離計測用と短距離計測用の2つの回路で構成された独自の計測回路技術。長距離にある物体を高い解像度で検知することができる。2018年2月に半導体国際会議ISSCC2018にて発表。
※7:従来の計測ロジック技術との比較。2018年3月時点、当社シミュレーション結果に基づく。
※8:2019年2月20日時点、当社調べ。
※9:2018年3月28日時点、当社調べ。