有価証券報告書-第151期(令和3年4月1日-令和4年3月31日)

【提出】
2022/06/29 14:20
【資料】
PDFをみる
【項目】
140項目

研究開発活動

当社は、高度な技術で様々な社会課題を解決し、持続可能な社会の実現に貢献するべく、既存事業の強化と変革、新たな価値創出に向けた研究開発をバランスよく推進してまいります。収益向上の原動力となるコア技術を強化するとともにAI等の基盤技術の継続的深化を図り、脱炭素社会等の実現に向けた新技術の探索・創出を推進してまいります。また、大学など社外研究機関とのオープンイノベーションを積極的に活用し、開発加速と価値創出に取り組んでまいります。
当連結会計年度における三菱電機グループ全体の研究開発費の総額は1,951億円(前連結会計年度比102%)であり、事業セグメントごとの主な研究開発成果は以下のとおりです。
(1) 重電システム
発電機・電動機などの回転機、開閉機器・変圧器などの送変電機器や受配電機器、交通システム、ネットワークソリューション機器、昇降機などの基幹製品の競争力強化に向けた開発を行うとともに、監視制御システム、電力情報システム、ビル管理システム、映像情報システムなどIT応用システムの開発を行っています。当該分野における研究開発費は361億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① マルチリージョン型デジタル電力最適化技術
カーボンニュートラルを目指す企業向けに、自己託送制度*1を活用した複数拠点間での再生可能エネルギー由来の電力の融通と、各拠点の分散型電源・蓄電池の運用及び環境価値証書*2の購入に関する計画を自動で最適化する「マルチリージョン型デジタル電力最適化技術」を開発しました。これにより、電力及び環境価値の調達コストを最小化するとともに、拠点ごとの脱炭素化目標の達成に貢献します。
② 三菱ネットワークカメラ・システム「MELOOK 4」
ネットワークカメラ・システムの新製品として「MELOOK 4(メルックフォー)」を開発し、動画圧縮規格H.265の採用による映像記録の長時間化、ONVIF®*3対応カメラ収容による接続可能なカメラ種別の拡大などを実現しました。安心・安全に対する社会的関心の高まりとともに多様化するネットワークカメラ・システムへのニーズに対応し、セキュリティーの強化や作業性の向上などに貢献します。
③ 水面状況監視サービス「みなモニター」
準天頂衛星システム「みちびき」の補正信号を活用して3cm(RMS*4)以内の精度で水位(水面の標高)を計測するブイ型水面センサーをため池に浮かべて、スマートフォンやタブレットでため池の水位や水温、雨量などの各種情報を確認できる水面状況監視サービス「みなモニター」を開発しました。農業水利施設の維持管理業務を効率化し、防災・減災に貢献します。
④ 海外向け機械室レス・エレベーター「NEXIEZ-MRL Version2」
スムーズな戸開閉を実現するドアシステム、かご内のウイルス等を抑制する「ヘルスエアー」機能搭載の循環ファン、サービスロボットや多様なメーカーのビルマネジメントシステムとの連携機能を開発しました。運行効率向上やウイルス対策ソリューションを提供し、建物の価値向上及び利用者の安心・安全、快適性、利便性向上に貢献します。
(2) 産業メカトロニクス
FA制御システム機器、サーボモーターなどの駆動機器、配電制御機器、メカトロ機器、産業用ロボット、電動パワーステアリングなどの自動車用電装品、カーマルチメディア機器、予防安全(自動運転)システム、ADAS*5などの競争力強化に向けた開発を行っています。当該分野における研究開発費は639億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① CFRP*6 用炭酸ガス三次元レーザー加工機
自動車などに使用される軽量・高強度の CFRP 用レーザー加工機として、CFRP 用炭酸ガス三次元レーザー加工機を開発しました。世界で初めて*7発振器と増幅器を同一筐体に統合した炭酸ガスレーザー発振器と独自の加工ヘッドを搭載し、CFRP 製品の高速かつ高品位の加工を実現することで、これまでの工法では困難だった CFRP 製品の量産化に貢献します。
② CLAS*8対応車載向け高精度ロケータ
事故を起こさないADASと自動運転の実現に向けて、高精度地図データと準天頂衛星によるCLASを用いて、自車位置を50cm精度(95%値)で測位可能なCLAS対応車載向け高精度ロケータを開発しました。高精度・高信頼性・リアルタイム性を廉価な車載用CPUで実現し、安心・安全な車社会に貢献します。
(3) 情報通信システム
情報通信インフラや宇宙関連システムなどの開発を行っています。当該分野における研究開発費は80億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① 準天頂衛星「みちびき」初号機後継機
準天頂衛星「みちびき」初号機後継機を開発し、軌道上での初期機能確認を完了しました。その後、準天頂衛星システムサービス株式会社による試験・検証等を経て、内閣府によるサービスを開始しました。後継機は初号機に比べ耐久性が向上したことで、より安定した測位サービスを実現し、打ち上げ済の2号機、3号機、4号機とともに、衛星測位サービスや高精度測位補強サービス等の提供に貢献します。
② 骨格情報から人の行動を検知するルールベース行動解析技術
映像から抽出可能な人の骨格情報の位置・角度・速度などを組み合わせて定義した検知ルールを基に、行動を解析する技術を開発しました。学習データの準備が困難な複雑動作や複数人行動を検知する際の学習量を削減し、行動検知システムの導入コスト削減及び短期導入に貢献します。
(4) 電子デバイス
様々な事業分野を支える半導体デバイスなどの開発を行っています。当該分野における研究開発費は95億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① 高性能パワー半導体モジュール
再生可能エネルギー電源用DC1500V電力変換機器に適応した、「産業用2.0kV IGBT*9モジュールTシリーズ」を開発しました。独自の最適化を施したSi半導体チップにより高電圧動作対応と低電力損失を両立し、業界初*10の耐電圧2.0kVを実現しました。複雑で部品点数が多い回路構成を不要とした機器設計が可能となり、太陽光発電や風力発電などの電力変換機器の小型化・低消費電力化に貢献します。
② 次世代高速光ファイバー通信用デバイス
光トランシーバー*11用の半導体レーザーダイオードチップとして、「広動作温度範囲CWDM*12 100Gbps(53Gbaud*13 PAM4*14) EML*15 チップ」を開発しました。EMLチップの高性能化と独自の構造により、4チップでデータセンターの400Gbpsの通信速度を実現しながら、5℃から85℃の広い温度帯対応によりチップ冷却機構が不要となり、光トランシーバーの低消費電力化と低コスト化に貢献します。
(5) 家庭電器
空調機器、調理家電、家事家電、照明機器、電材住設機器などの開発を行っています。当該分野における研究開発費は434億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① ルームエアコン「霧ヶ峰FZ・Zシリーズ」と連携する「ロスナイセントラル換気システム<スマートe-FloTMシステム対応>」
当社のIoTライフソリューションプラットフォーム「Linova(リノバ)」を用いることで、業界で初めて*16ルームエアコンと連携*17する住宅用全熱交換型換気機器「ロスナイセントラル換気システム<スマートe-FloTMシステム対応>」を開発しました。室内の快適性をさらに向上(CO2濃度を最大約23%低減*18、霜取り運転*19時の室温低下抑制)させて効率的な省エネ換気(消費電力量を最大約24%削減*18)を実現し、カーボンニュートラルな社会の実現に貢献します。
② 「ヘルスエアー」技術で浮遊する新型コロナウイルスの低減効果を確認
当社独自*20の「ヘルスエアー」技術を開発し、実空間を模擬した1立方メートルの空間に浮遊する新型コロナウイルスの残存率を5分間で99%以上低減しました。ウイルス・菌抑制などの空気清浄技術を向上し、「ヘルスエアー」技術を搭載した製品群により室内空気質の改善に貢献します。
(6) その他・共通(新技術・基盤技術)
社会課題解決による顧客価値の創出を目的として、新技術・基盤技術の研究開発を推進しています。当該分野における研究開発費は340億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① ZEB*21 関連技術実証棟「SUSTIE」が運用段階において『ZEB』*22を達成
ビル設備とオフィスの状態をシミュレーションする技術とAI技術「Maisart*23」を組み合わせて事前計画型のZEB運用技術を開発し、「SUSTIE」を1年間運用した結果、創エネルギー量が消費エネルギー量を上回る『ZEB』を達成しました。今後の『ZEB』 普及を促進し、カーボンニュートラルに貢献します。
② 「MelCare(メルケア)見まもりサービス」
高齢者施設を対象に、入居者の転倒検知から普段の睡眠状況まで複数の見守り項目をまとめて把握できる「MelCare見まもりサービス」を開発しました。居室内の状況をAI技術「Maisart」を組み込んだ AI スマートセンサーで把握し、クラウドとの連携で異常があった場合には素早く介護従事者に通知することで、業務負担を軽減させ、高齢者に寄り添った質の高い介護サービスの提供を実現します。
③ ロボット導入を容易にする「ティーチングレスロボットシステム技術」
業界初*24となる音声による作業指示や簡単な項目選択により専門知識がなくても容易にロボット動作プログラムを自動生成でき、人と同等の作業速度を実現する「ティーチングレスロボットシステム技術」を開発しました。メニューが頻繁に切り替わる食品工場での盛り付けや物流センターでの仕分けなど、これまでロボット導入が難しかった作業工程の自動化促進に貢献します。
④ 「制御の根拠を明示できるAI技術」
AIが制御を行った際に、その制御の根拠や将来の状態を明示し、ブラックボックスを解消するAI技術を国立研究開発法人理化学研究所と共同で開発しました。AIによる制御の根拠を人が理解できるほか、早い段階でのメンテナンスや素早い復旧を可能とし、より安心してAIを利用できる社会の実現に貢献します。
⑤ ASIC*25のコンパレータ低消費電力設計技術
ワンショット型コンパレータを内蔵した業界トップ*26の低消費電力化ASICを開発しました。瞬間的に大電流を流す電流制御回路と待機電力なしで結果を保持するラッチ回路を持ち、IoT機器の低消費電力化に貢献します。
⑥ 電動パワーステアリング用モーターの構造共通化
標準機種とともに回路を二重化した機種をラインアップに加え、ADASの機能安全規格に対応した中大型車のパワーステアリング向けインバーター一体型モーターを開発しました。インバーターの基本構造を共通化し実装する部品の組合せで機能を切り替えることで設備の共用化と開発期間の短縮を実現し、安心・安全な車社会に貢献します。
*1 電力会社が保有する送配電ネットワークを利用して、自社発電所で発電した電力を自社内の別の需要地点に送電する仕組み
*2 再エネの発電によって発生する「環境価値」や温室効果ガスの排出削減効果を、承認機関の認証を通じて「証書」の形にしたもの。現在国内では、非化石証書、Jクレジット、グリーン電力証書などがある
*3 Open Network Video Interface Forumの略:ネットワークカメラ製品のインターフェース規格標準化フォーラム。なお「ONVIF」はONVIF,Inc.の登録商標です
*4 Root Mean Squareの略:二乗平均平方根。地点の測定値の精度を表現するために使われる
*5 Advanced Driver Assistance Systemの略:先進運転支援システム
*6 Carbon Fiber Reinforced Plasticsの略:炭素繊維強化プラスチック
*7 2021年10月14日現在(当社調べ)
*8 Centimeter Level Augmentation Serviceの略:センチメータ級測位補強サービス
*9 Insulated Gate Bipolar Transistorの略:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ
*10 2021年6月9日現在、DC1500V電力変換機器用IGBT モジュールにおいて(当社調べ)。
*11 電気信号と光信号を相互に変換する電子部品
*12 Coarse Wavelength Division Multiplexingの略:光通信における波長多重化通信技術の一つで、20nm 間隔の複数波長の信号を1本の光ファイバーで伝送する方式。今回は1271,1291,1311,1331nm の4 波長を採用
*13 baud:1 秒間の変調回数を表す単位。53Gbaud の場合1 秒間に530 億回変調する
*14 4-level pulse-amplitude modulationの略:4値パルス振幅変調。従来の「0」と「1」から成る2値のビット列でなく、4値のパルス信号として伝送する方式
*15 Electro-absorption Modulator integrated Laser diodeの略:電界吸収型光変調器を集積した半導体レーザーダイオード
*16 2021年10月13日現在、家庭用ルームエアコンと住宅用全熱交換型換気機器において(当社調べ)。
*17 ルームエアコン「霧ヶ峰」(2022年度モデルの一部機種)に対応
*18 ルームエアコンとロスナイセントラル換気システム<スマートe-FloTMシステム対応>の連携制御有りの場合と無しの場合の比較
*19 ルームエアコン暖房時に室外機に霜が付くと暖房運転を停止して霜を溶かす運転機能
*20 2021年8月5日現在、放電電極をリボン形状にした空気清浄デバイスにおいて(当社調べ)。
*21 net Zero Energy Buildingの略
*22 年間の一次エネルギー収支がゼロまたはマイナスの建築物。ZEBの定義における最高ランクの評価
*23 Mitsubishi Electric's AI creates the State-of-the-ART in technologyの略:全ての機器をより賢くすることを目指した当社のAI技術ブランド
*24 2022年2月28日現在、産業用ロボットメーカーの提供する作業指示手法において(当社調べ)。
*25 Application Specific Integrated Circuitの略:特定用途向け集積回路
*26 2021年1月21日現在(当社調べ)