有価証券報告書-第121期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/28 15:16
【資料】
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【項目】
153項目

研究開発活動

当社グループでは、デジタルテクノロジーにより、「人」「企業」「システム」「プロセス」「データ」などが複雑かつ無限につながる社会において、あらゆる局面で求められる信頼「Trust」を確保することを重要な技術戦略に位置付けております。そして、このデジタル時代のTrustの実現と共に、デジタル技術とデータを駆使して革新的なサービスやビジネスプロセスの変革をもたらす、DX(デジタルトランスフォーメーション)企業を目指し、イノベーションが絶えず生まれるために必要な先端テクノロジー開発に取り組んでおります。
当社グループの事業は、「テクノロジーソリューション」、「ユビキタスソリューション」及び「デバイスソリューション」の各セグメントにより構成されており、上記の研究開発方針のもと、それぞれの分野ごとに研究開発活動を行っております。「テクノロジーソリューション」では、次世代のサービス、サーバ、ネットワーク等に関する研究開発を行っております。「デバイスソリューション」では、電子部品(半導体パッケージ及び電池)等の各種デバイス製品及び関連技術に関する研究開発を行っております。
当社グループの当年度における主な研究開発活動の成果は、以下のとおりです。また、当年度における研究開発費の総額は、1,138億円となりました。このうち、テクノロジーソリューションに係る研究開発費は1,057億円、デバイスソリューションに係る研究開発費は80億円です。なお、ユビキタスソリューションに係る研究開発費はございません。
・教師データなしで通信アクセスデータや医療データなど、分布・確率が未知の高次元データの特徴を正確に獲得できるAI技術「DeepTwin(ディープツイン)」を世界で初めて開発しました。情報通信分野で長年培ってきた映像圧縮技術の知見を活かし、ディープラーニングで最適化することで、本質的な特徴量を正確に獲得することに成功しました。データの特徴を正確に捉えるというAIの根本的な課題を解くため、様々なAI技術の判断精度向上に貢献します。
・企業や官公庁などの組織間でやりとりをするビジネスデータが改ざんされていないか、真正性を保証するデジタルトラスト仲介技術を開発しました。ニューノーマルではテレワークの推進で押印などの対面作業を減らしたデジタル業務が求められています。本技術はユーザー端末とクラウドサービスの間にTrust as a Service (TaaS)層を設置し、個別の業務システムに特化せず、ビジネスデータに対する個人ごとの署名を付与・管理し、データの作成過程を統合管理することが可能になります。
・中分子環状ペプチド創薬において、組合せ最適化問題を高速に解く新アーキテクチャー「デジタルアニーラ」とHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)を活用することで、創薬の候補化合物となる環状ペプチドの安定構造探索を12時間以内に高精度で実施することに成功しました。現在、コロナ阻害薬の開発にも適用し、前臨床試験に進んでいます。今後、本技術を含む「デジタルアニーラ」を創薬開発に広く活用してもらうことで、医療分野における社会問題の解決に貢献していきます。
・製造や物流、災害対策、新薬開発など、様々な要因の組み合わせから最適な解をより早く見つけ出したいというニーズがあらゆる分野で高まっています。今回、メガビット級の大規模問題に対応する、新たな並列探索技術を開発しました。組合せ最適化問題を高速に解く計算機アーキテクチャー「デジタルアニーラ」に本技術を適用し1Mbit規模の大規模問題である多品種少量のサーバ生産スケジュールを決定する問題の求解を実証しました。
・がんの遺伝子ネットワーク分析を、スーパーコンピュータ「富岳」を用いて1日以内で完了させることに成功しました。「富岳」で、発がんに関連している可能性の高い遺伝子間の影響関係を表すネットワークを抽出し、説明可能なAI技術「Deep Tensor(ディープ テンソル)」でがんの浸潤や転移との関連を予測し、その予測根拠を提示することを可能にしました。通常のスパコンを活用しても数か月かかる分析時間を大幅に短縮し、24時間以内で完了しました。
・工場での作業や危険行動など、人の複雑な行動を関節の動きで特徴量を抽出し、高精度に認識するAI技術を開発しました。隣り合う複数の関節の接続関係を捉えることで、箱を開けて物を取り出すというような複雑な行動を映像から正確に認識できるようになります。行動認識分野での骨格データを用いた世界標準のKinetics-Skeletonデータセットによるベンチマークで、開梱作業、物を投げるなどの複雑な行動での正解率が大きく向上し、世界一の認識精度を達成しました。
・マスクを着けていても本人確認ができる、非接触でクリーンなマルチ生体認証技術を開発しました。開発したデータ拡張技術により顔情報を生成して対象者を絞り込み、手のひら静脈認証で本人を特定します。マスク着用なしと同等レベルの99%以上の高精度で本人特定が可能です。本技術は、米国国立標準技術研究所(NIST)の顔認証ベンダーテストで、マスク着用顔画像を模した評価データセットで国内ベンダー首位の高精度を達成しました。
・AIが判定した結果に対して改善していく手順を自動で提示する、反実仮想説明AI技術を世界で初めて開発しました。例えばAIが不健康と判定した結果から「筋肉量を1kg増加し、体重を1kgを増加すれば健康になれる」といったアクションを示すことができます。糖尿病、ローンの与信審査、ワインの評価の3種類のデータセットで検証し、少ない労力で推定結果を望む結果に変更するための適切なアクションと実施順序の取得を確認しました。
・津波浸水予測を一般的なパソコンでも数秒で高精度に予測する、AIモデルの構築に成功しました。「富岳」を使って多数の高解像度津波シミュレーションを実施し、そこから得た津波波形と浸水状況を教師データとして、新たなAIモデルを構築しました。このAIモデルはパソコンで実行でき、地震発生時に観測した津波波形を入力することで、津波到達前に沿岸域の浸水状況を3m単位の高い空間解像度でリアルタイムに予測することができます。