有価証券報告書-第102期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

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2019/06/18 15:01
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95項目

研究開発活動

ソニーは「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」として、テクノロジーを通じて世界を感動で満たすという使命に基づいて研究開発を推進していきます。経営の方向性としての「人に近づく」を実現するために、Real-time(時間価値)、Reality(空間価値)をお客様に対する顧客価値として提供していきます。
ソニーの研究開発組織(コーポレートR&D)では「ソニーグループ全体への貢献」「中長期的な骨太の技術テーマ設定」「オープンイノベーションの強化」を実行していきます。中長期に向けた研究開発に注力し、重点領域として差異化につながる「入力/把握」「Agent処理」「出力/表現」の領域への取り組みを推進しています。また、エンタテインメント、金融などへも技術の展開を強化していきます。SDGs、ESGの観点から、安心安全の提供、資源・環境問題の解決への技術貢献についても検討を進めています。
ソニーは、個々の事業の競争力強化及び責任と権限の明確化を目的として事業の分社化を進めるとともに、各事業を支える本社機能及びプラットフォーム機能などの再編も実施してきました。コーポレートR&Dは、日本のほか、海外にある複数のR&D拠点と連携して推進しています。それぞれの地域の特徴や強みを活かした研究開発活動を行ない、大学や研究機関との連携も進めることで、開発のスピードアップや効果的な成果につなげていきます。また、顧客との共創をともなうプロジェクトについては、実組織の枠組みを超えた横断的なチームを編成し、フレキシブル且つスピーディーに英知を結集して活動を推進していきます。
2018年度の研究開発費は、前年度に比べ227億円(4.9%)増加の4,812億円となりました。金融分野を除く売上高に対する比率は前年度の6.3%から6.5%になりました。
研究開発費の主な内訳は次のとおりです。
項目2017年度
(億円)
2018年度
(億円)
増減率
(%)
G&NS1,0621,163+9.5
HE&S580609+5.0
IP&S586574△2.0
MC554445△19.8
半導体1,0721,242+15.9
コーポレートR&D449459+2.3

なお、2018年度の主な研究開発活動及び成果には、以下のものがあげられます。
(1)G&NS
・PlayStation™Network(PSN)
2019年3月末時点でPSNの月間アクティブユーザー数は9,400万を超え、着実にサービスの基盤を拡大しています。『Marvel's Spider-Man』など強力なソフトウェアラインアップ及び革新的なネットワークサービスにより、PlayStation®4プラットフォームの普及・拡大を推進し、これまで以上に充実したインタラクティブなエンタテインメント体験を提供していくことに取り組んでいきます。
・PlayStation®4用ソフトウェア『Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018 - "光" & "誓い" - VR』
宇多田ヒカルライブツアーから"光"と"誓い"の2曲を収録したPlayStation®VR用コンテンツは、単なる映像ではなく、VRの世界に没入することで新たな感動や映像体験を提供しています。撮影には、業務用4K小型カメラ、シネマ用カメラ『VENICE™』を組み合わせて開発した撮影システムを使っています。このプロジェクトには、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ、コーポレートR&D等が参加し、ソニーグループの技術を結集したPS VRならではの臨場感あふれるライブ体験を味わうことができるコンテンツを作り上げました。
(2)HE&S
・ブラビア®MASTER Series『Z9G』
2019年1月に開催されたCES 2019において、ソニー初の8K液晶テレビ ブラビア® MASTER Series『Z9G(98/85V型)』を発表しました。次世代高画質プロセッサー「X1™ Ultimate」に、8K超解像アルゴリズム用の専用データベースを内蔵し、あらゆるコンテンツを8K解像度にアップコンバートする「8K X-Reality™ PRO」を実現しています。また、進化した独自のバックライト技術「Backlight Master Drive」において、8K用に最適化したバックライトLEDモジュールと制御アルゴリズムを新規に開発しました。これらの技術を組み合わせることで、映像を高精細・高コントラストでリアルに映し出します。
・ワイヤレスノイズキャンセリングステレオヘッドセット『WH-1000XM3』
従来の4倍の信号処理能力を持つ新開発の「高音質ノイズキャンセリングプロセッサー QN1」は、飛行機のエンジン音などの低域のノイズ及び人の声など中高域のノイズをより効果的に低減します。同プロセッサーに高品位なヘッドホンアンプを内蔵したことでさらなる高音質化も実現しています。これらにより、様々なシーンで快適に高音質な音楽に浸れる機会を提供します。
・全方位からの音に包まれる新しい音楽体験「360 Reality Audio™」
オブジェクトベースの空間音響技術を活用し、全方位からの音に包まれる新しい音楽体験「360 Reality Audio」は、主要音楽レーベルや音楽配信サービスなどと連携し、対応コンテンツの制作から配信、再生に至るまでの技術提供を通じて、エコシステムの形成を進めます。また、クリエイターやアーティスト、音楽ファンに向けてこの音楽体験を広く提案し、新しいエンタテインメントの創出を目指してまいります。
(3)IP&S
・APS-Cセンサー搭載ミラーレス一眼カメラ『α6400』
最新の画像処理エンジン BIONZ X™や動体予測アルゴリズムなどフルサイズミラーレスカメラ開発で培った最先端技術の搭載により、世界最速0.02秒のオートフォーカスや高精度・高追従のリアルタイム瞳AF、高い精度で被写体を認識し追従し続けるリアルタイムトラッキング、よりスムーズで安定した動画撮影時のファストハイブリッドAFなど、大幅なAF性能の向上を実現しています。
・HDR映像制作ワークフロー『SR Live for HDR』
スポーツ中継や音楽ライブなどのライブ映像制作領域において、4K HDR/HD SDRの映像を同時かつ効率的に制作することが可能なソリューションとして『SR Live for HDR』を推進しています。このソリューションによって、映像制作対応オペレーターやシステム機材など従来のHDシステムと同様の操作性や運用で、効率的に4K HDR/HD SDRの同時ライブ映像制作が可能です。
(4)MC
・スマートフォン『Xperia 1(エクスペリア ワン)』
2019年2月に開催されたMWC19 Barcelona(旧称:Mobile World Congress)」において、ソニーの技術を結集したフラグシップモデル『Xperia 1(エクスペリア ワン)』を発表しました。新しいコンテンツ体験を実現するアスペクト比21:9画面を採用し、4K有機ELディスプレイと瞳AFを搭載したトリプルレンズカメラを搭載。さらに、長年、放送局や映画製作の現場で広く採用されているソニーの業務用モニターや業務用カメラの技術を取り入れた機能を搭載し、クリエイターが意図した映像表現やクリエイティブな撮影体験を楽しむことが可能です。
(5)半導体
・積層型CMOSイメージセンサー技術“Pregius S™(プレジウス エス)”
産業の高度化、工場のスマート化・自動化の流れを受け、より高精度で高速な処理が求められる製造・検査・物流などの産業機器向けに、歪みの無い高い撮像性能と小型化の両立を実現する独自の裏面照射型画素構造のグローバルシャッター機能を搭載した積層型CMOSイメージセンサー技術“Pregius S(プレジウス エス)”を開発しました。今回開発した独自の裏面照射型画素構造のグローバルシャッター機能を搭載した積層型 CMOSイメージセンサーを積層する信号処理回路の派生展開等も含めて、今後様々な産業機器や高度道路交通システムなどへの採用に向けて商品開発を進めてまいります。
・スマートフォン向け積層型CMOSイメージセンサー
業界最多となる有効4800万画素のスマートフォン向け積層型CMOSイメージセンサー『IMX586』を商品化しました。世界で初めて0.8μmの微細な画素サイズを開発したことで、1/2型(対角8.0mm)でありながら、高性能なデジタル一眼カメラに匹敵する有効4800万画素を実現することで、スマートフォンのカメラでも高解像度な美しい画像を残すことができます。
・大河内記念生産賞の受賞
高性能化と小型化が進むスマートフォン向け積層型CMOSイメージセンサーに対して、ソニー独自のCu-Cu(カッパー・カッパー)接続と呼ばれる新しい積層技術を導入し、その量産化を実現したことが評価され、公益財団法人大河内記念会から「第65回(2018年度)大河内記念生産賞」を受賞しました。Cu-Cu接続は、画素チップと論理回路チップをそれぞれの積層面に形成したCu端子で直接接続しているため、イメージセンサーのさらなる小型化と生産性向上を可能にしました。
(6)コーポレートR&D
・イノベーションスタジオ
2018年6月、米国ロサンゼルスのソニー・ピクチャーズエンタテインメントの敷地内に、ソニーの先端映像技術を集めた「イノベーションスタジオ」をオープンしました。このスタジオでは、テクノロジーを駆使し、従来フォーマットに加えVR、ARやMRなどのコンテンツ制作ビジネスを手掛けます。たとえば、映画やテレビドラマの撮影セットを予めデジタル画像として保存しておくことで、実際にセットを組み立てることなく、バーチャルセットでの再撮影が可能になるというReality(空間価値)を提供しています。
・ディープラーニング(深層学習)の開発用フレームワーク「Neural Network Libraries」
ソニーは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)が構築・運用する世界最大規模のAI処理向け計算インフラストラクチャである「AI橋渡しクラウド(ABCI)」を活用し、「Neural Network Libraries」による学習・実行が世界最速クラスのスピードで実行できることを実証しました。このフレームワークを用いることで、人工知能(AI)開発の大幅な効率化を実現できるようになることを示しました。ソニーは今後も関連する技術開発を継続し、AI技術を利用した社会の発展へ貢献していくことを目指します。
・米国カーネギーメロン大学(CMU)との研究開発契約締結
ソニーとCMUは、AIとロボット技術が、より人々の身近な存在になると共に、社会の基盤として人類の未来に貢献する存在となることを目指して研究開発契約を締結しました。その一つの題材は調理とデリバリーです。このテーマでは、多様な可能性から想定されるメニューの選択と食材の制約などから生じる修正や再提案、調理過程の計画、不定形で柔らかい素材の加工や組み合わせ、美的要素も加味した配膳、オフィスやテーブルへのデリバリーなど、今後、AIとロボットが我々の身近な存在となるために必要な技術要素の多くが包含されています。