訂正有価証券報告書-第196期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/11/11 14:02
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84項目

研究開発活動

当社グループは、「感動を・ともに・創る / 私たちは、音・音楽を原点に培った技術と感性で、新たな感動と豊
かな文化を世界の人々とともに創りつづけます」を企業理念に掲げています。これを支えるために、ヤマハの強みである「技術×感性」で新たな価値を創造するべく、コア技術の更なる高度化と拡張のための研究開発を進めております。取り組んでいる研究開発の領域は、アコースティック技術、デジタル技術、感性評価技術、解析・シミュレーション技術、製造技術等、音そのものに留まらず、基礎から応用まで、音の活用を支える技術分野に大きく広がっています。
当連結会計年度は、「本質×革新」の追求により製品・サービスの付加価値を向上するために、「飽くなき表現力の向上」「感性を科学する」「イノベーションの創出」「AIによる技術革新」をテーマに研究開発を進めました。
当社グループの研究開発体制は、楽器事業については当社楽器事業本部、及びYamaha Guitar Group, Inc.の開発部門、音響機器事業については当社音響事業本部、NEXO S.A.、Steinberg Media Technologies GmbH、Yamaha Unified Communications, Inc.の開発部門、その他の事業については当社電子デバイス事業部、ゴルフHS事業推進部及びヤマハファインテック株式会社の開発部門、全社横断的R&Dについては当社技術本部研究開発統括部が担う形で構成しております。
当連結会計年度における主な成果をセグメントごとに示すと次のとおりであります。
なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は24,814百万円であります。
1 楽器事業
ピアノ関連では、サイレントピアノ後付けユニット「RSC2シリーズ」を開発しました。「RSC2シリーズ」は、音源を刷新し、世界的に評価されている当社のコンサートグランドピアノ「CFX」とベーゼンドルファー社のフラッグシップモデル「インペリアル」をサンプリングした音源を新たに搭載しました。「CFX」音源では、ヘッドホン着用時でも立体感のある自然な音を楽しめる「バイノーラルサンプリング」を採用し、豊かな音を自然な感覚で演奏することが可能です。また、当社の無料アプリ「スマートピアニスト」と連携させて各種機能をスマートデバイス上で操作できるなど、利便性が向上しました。「RSC2シリーズ」は、昭和40年代以降に製造された殆どの国内向けヤマハアップライトピアノに取り付けできます。
管弦打楽器関連では、管楽器の新製品として、「Alto Venova(アルト ヴェノーヴァ)」を開発しました。カジュアル管楽器「Venova」は、管楽器の本格的な演奏感や表現力をより気軽に、より身近に楽しんでいただける、まったく新しいタイプのアコースティック管楽器です。「Alto Venova」は、2017年に発売したソプラノ音域を奏でられる「Venova」の手軽さはそのままに、初めての人でもより演奏をし易く、落ち着いた音色を奏でることができるアルト音域のモデルです。また、革新的進化を遂げた新世代のサイレントベース「SLB300」を開発しました。ヤマハ独自の「SRTパワードシステム」によりコントラバスのボディ共鳴音をシミュレートし、エレクトリック楽器でありながらアコースティック楽器のような自然な響きとレスポンスを再現したモデルです。ステージ上で通常のコントラバスを演奏するには、煩雑な音響セッティングが必要な上、ハウリングの心配もありますが、「SLB300」はケーブルを挿すだけで、コントラバスの理想の音色で演奏することができます。また、「ハイブリッドシェル構造」を採用したシステムドラムス「ライブカスタム ハイブリッドオーク」を開発しました。「ライブカスタム ハイブリッドオーク」は、2013年に発売した「ライブカスタム」のパフォーマンス性能を進化させた新モデルです。ライブ環境でのパフォーマンスをさらに追求するため、バスドラムには新たに開発した「ベースエンハンスメントウェイト」を搭載し、低音域がより強化された芯のある太いバスドラムサウンドを実現しました。シェルフィニッシュには日本の伝統的な木材加工方法である「浮造り“UZUKURI”」を採用し、オーク材特有の木目を強調する独特かつ高級感のある仕上げとしました。なお、「エレクトリックバイオリンの意匠」が、「令和元年度全国発明表彰」の第一表彰区分の特別賞「日本弁理士会会長賞」を、また、受賞発明の実施等に関し「発明実施功績賞」を受賞しました。
ギター関連では、アコースティックギター「FG/FS Red Labelシリーズ」を開発しました。「歌のためのアコースティックギター」というコンセプトの元、50余年で培った設計ノウハウと最新の音響解析シミュレーションや木材改質技術などの最新テクノロジーを掛け合わせ、歌を引き立たせる暖かく豊かな音色を実現しました。ピックアップシステムを搭載したモデルでは、従来のピックアップでは難しいとされていた弦の振動、ボディの振動、胴内の響きの全てを余すことなく集音する新システムを開発、ステージ上でもアンプを通してギターの自然な生音を表現することで歌を引き立たせる新たなエレクトリック・アコースティックサウンドを実現しました。また、アコースティックギター「STORIA」を開発しました。「STORIAシリーズ」は、「ギターを演奏してみたい、自分のそばにギターを置いておきたい」というニーズに応え、ギターをもっと身近なものとして感じて頂けるよう弾きやすさと個々のライフスタイルに馴染むデザインを追求した新シリーズです。また、ギターアンプ 「THR-IIシリーズ」を開発しました。2011年に発売した「THRシリーズ」は、ステージやスタジオを離れてもいつでもギターを弾いていたいギタリストのニーズを満たすデスクトップアンプとして既存のギターアンプとは異なるユースケースに着目して新たな市場を切り拓き、今では世界中の数多くのギタリストに愛用されているギターアンプです。第二世代となる「THR-IIシリーズ」は、音、デザイン、機能性のあらゆる角度から仕様を見つめ直し、新たな価値を盛り込んでモデルチェンジした製品となります。大型ステージアンプでも小型練習用アンプでもなく、ギター演奏を楽しむ時間を豊かにする「第3のアンプ」として、今後も世界中のギタリストの期待に応えて行きます。なお、アコースティックギター「STORIA」が「2019年度グッドデザイン賞」とドイツのデザイン賞「iFデザインアワード」を受賞し、ギタースツール「solo」がドイツのデザイン賞「Red Dotデザイン賞 プロダクトデザイン2020」を受賞しました。
電子楽器関連では、電子ピアノ「Clavinova(クラビノーバ)」の新製品として、「CVP-800シリーズ」を開発しました。アコースティックピアノに近い弾き心地を実現する「GrandTouch(グランドタッチ)鍵盤」や、ヤマハのコンサートグランドピアノ「CFX」とベーゼンドルファーのフラッグシップモデル「インペリアル」からサンプリングした最新のピアノ音源を搭載し、ピアノとしての基本性能が向上しています。さらに、細部までリアルに再現した豊富な楽器音色やさまざまな「スタイル(自動伴奏)」によって、臨場感のあるアンサンブル演奏を体験できます。BLUETOOTHオーディオや当社の無料アプリ「スマートピアニスト」にも新たに対応し、より多彩な楽しみ方を可能にしました。また、電子キーボード「Remie(PSS-E30)」「PSS-A50」を開発しました。「Remie(PSS-E30)」は、初めてキーボードを購入される方やお子様にも最適なモデルで、リアルな楽器の音色のほか、動物の鳴き声などの多彩な効果音と、家族みんなで音と親しめる音当てクイズモードを搭載し、音楽に対する興味や好奇心を刺激します。「PSS-A50」はアルペジエーターや音を多彩に変化させるモーションエフェクトを搭載し、パフォーマンスからレコーディング、音楽制作でも活用できる高機能モデルです。表情豊かな演奏が可能なタッチレスポンス機能付き鍵盤を備え、簡単な操作でクリエイティブな演奏を楽しめます。なお、ステージピアノ「CP88/CP73」が「2019年度グッドデザイン賞」、「アジアデザイン賞2019」の「Silver Award」、「iFデザインアワード」と「Red Dot デザイン賞 プロダクトデザイン2020」を、ショルダーキーボード 「sonogenic SHS-500」が「iFデザインアワード」と「Red Dot デザイン賞 プロダクトデザイン2020」を受賞しました。
楽器事業の研究開発費は9,802百万円であります。
2 音響機器事業
AV機器関連では、フロントサラウンドシステム 「YAS-209」を開発しました。「YAS-209」は、ネットワーク機能・音声操作用マイクを搭載することにより、音声コントロールや「Spotify」「Amazon Music」といった音楽配信サービスにも対応した2ユニットタイプのフロントサラウンドシステムです。専用アプリ「Sound Bar Controller」での操作をはじめ、今回新たに「Amazon Alexa」による音声での本体操作にも対応しました。さらに、バーチャル3Dサラウンド技術「DTS Virtual:X」の対応により、前方・左右・後方だけでなく、高さ方向の音場も感じることができる臨場感溢れるサウンドを再現します。また、完全ワイヤレスBLUETOOTHイヤホン「TW-E3A」、BLUETOOTHイヤホン「EP-E30A」を開発しました。「TW-E3A」「EP-E30A」では、ヤマハならではの「音・音楽のリアリティー表現」として、音量に応じて音のバランスを最適化して、耳への負担も抑えるヤマハの独自技術「リスニングケア」を搭載しました。音質やスタイルにこだわりを持つ人をメインターゲットに、ヤマハならではの「音・音楽のリアリティー表現」「感動の音楽体験」を提供してまいります。
業務用音響機器関連では、NEXO社の新製品として、スピーカーシステム「GEO M12」を開発しました。「GEO M12」は、幅70cmというコンパクトな筐体に12インチのLF(低域)スピーカーユニットを収め、NEXO社の持つテクノロジーを凝縮した、2wayフルレンジキャビネットの「GEOシリーズ」のフラグシップモデルとなるラインアレイタイプのスピーカーです。また、パワーアンプリファイアー「PCシリーズD/DIモデル」を開発しました。「PCシリーズ D/DIモデル」は、従来のアンプに求められてきた高い出力、高い音質、高い安定性などの基本性能に加えて、近年ニーズが高まっている豊富な信号処理能力、標準化しつつあるオーディオネットワーク規格「Dante」への対応をはじめ、独自のインプットマトリクス機能までを搭載した新世代のパワーアンプリファイアーです。また、ポータブルPAシステム「STAGEPAS 1K」を開発しました。「STAGEPAS 1K」は、「いつでも、どこでも、ステージに」をコンセプトとする「STAGEPASシリーズ」で実現してきた性能と利便性をさらにブラッシュアップし、高い音質・音圧と軽量・コンパクトなキャビネット設計、本格的なミキシング機能とシンプルな操作性といった、ポータブルPAシステムに求められる、相反するニーズを高い次元で両立しました。また、音場支援システム「AFC4」を開発しました。「AFC」は、空間が建築物として持っている固有の音響特性を活かしつつ、室内の響きを豊かにするソリューションです。音源自体にリバーブを付加して音の印象を変化させる手法とは異なり、空間自体の音の広がりをコントロールすることで、楽器や声の自然な聞こえ方を保ちながら、残響時間・音量感を変化させることができます。最新モデルの「AFC4」では、96kHzに対応したプロセッシング能力と多彩な調整機能を備え、これまで以上に質の高いイマーシブな空間演出を実現します。
音楽制作機器・ソフトウェア関連では、Steinberg社の新製品として、「Nuendo 10」を開発しました。「Nuendo 10」は、ポストプロダクション、ゲームオーディオなどの映像用音響制作に特化した業務用DAWソフトウェアの最新バージョンです。今回は、ロケ収録した映像の音声をリファレンスとして、同時録音した音声ファイル群から読み込み可能な「フィールドレコーダーインポート」機能や、ビデオトラックの編集点を検出する「ビデオカットディテクション」機能を搭載し、映像制作における音響効果用の機能を強化しました。また、ユーザーインターフェースやワークフローに改良を加えるなど、ポストプロダクションにおける業務効率も飛躍的に向上しています。
ネットワーク機器関連では、スピーチプライバシーシステム 「VSP-2」を開発しました。会話の中に含まれる個人情報(スピーチプライバシー)について配慮を求める社会的ニーズの高まりを受けて、当社は2011年に、主に薬局や病院などの小規模エリアやパーソナルスペースに向けて、スピーチプライバシーシステムの初代モデルとなる「VSP-1」を発売しました。一方で、オフィスでもマスキングのニーズが高まっており、「VSP-2」は、そのようなオフィス環境にも導入しやすいように、音源となるアンプと音を発するスピーカーを分離させたセパレート型を採用することで、壁や天井へスピーカーを柔軟に設置可能とし、さらに、今回新たに搭載した情報マスキング音の調整機能により、遮音性能不足の会議室やオープンな打合せスペースなど、設置環境にあわせた最適なマスキング環境を実現します。また、インテリジェントL2スイッチ「SWX2310シリーズ」を開発しました。「SWX2310シリーズ」は、2015年発売の「SWX2300シリーズ」の後継として、主に中規模以上のネットワークでスイッチ間の中継を行うフロアスイッチとしての利用を見込み、新たにGbE LANポートを48ポート搭載した「SWX2310-52GT」をラインアップへ追加しました。新機能として、医療、文教(教育施設)ネットワークでの利用が多いダイナミックVLANを利用した認証機能に対応し、中規模以上のネットワークを利用するお客様へ「より安心・安全なネットワーク」を提供します。加えて、全モデルでネットワークの可視化機能「LANマップLight」を搭載し、スイッチのWeb GUIを通じてLANの状態を一目で確認することで、SOHOや中小企業などIT専任者がいない環境でも簡単に確認や設定をすることができます。
音声コミュニケーション機器関連では、ユニファイドコミュニケーションスピーカーフォン「YVC-330」を開発しました。「YVC-330」は、チームコラボレーションに重心をおいた働き方やオフィス空間の変化に対応し、騒がしいオープンスペースから小・中規模の会議室まで、オフィスのあらゆるシチュエーションで快適な遠隔会話体験を実現するスピーカーフォンです。新たに開発した音声信号処理技術「SoundCap」により、会話を妨げるような周囲の環境音が多く存在するオープンスペースでも、雑音を抑制することで発話者の声を明瞭に相手側に届け、快適な遠隔会議を実現します。また、オープンスペースでの遠隔会議が開催可能になることで、会議室の確保が難しい場合でも、オフィス内のどこからでも遠隔地にいる相手とのチームコラボレーションを可能にします。
音響機器事業の研究開発費は11,135百万円であります。
3 その他の事業
FA機器事業関連では、ヤマハファインテック株式会社が高周波特性測定装置「MP502/MP502-A」を開発しました。近年、5G通信サービスの開始・普及に伴い、電子回路基板市場において高周波信号対応の回路基板生産が増加しており、それら基板にはより優れた周波数特性が求められます。従来の基板の周波数特性検査はテストクーポンを用いた抜き取り検査により実施されてきました。「MP502/MP502-A」は、市販のベクトル・ネットワーク・アナライザを組み合わせることで、実製品パターンの高周波特性を高速・高精度で検査することができる新しい装置です。
ゴルフ事業関連では、ゴルフクラブ「RMX(リミックス)」2020年モデルを開発しました。すべてのクラブにおいて、飛距離を重視した上で性能を徹底的に追求し、大型ヘッドの採用(ドライバー)やソール形状の見直し(フェアウェイウッド・ユーティリティ)、素材・製造方法の変更(アイアン)など、従来モデルから大幅な改良を加えました。ボール初速を最大限高めるため、ドライバー、フェアウェイウッド、ユーティリティに、新テクノロジー「BOOSTRING(ブーストリング)」を搭載し、飛距離アップを実現しています。アイアンは、軟鉄鍛造の限定モデル「RMX 020」と、クロムモリブデン鋼による一体鋳造を採用した「RMX 120」、反発性能向上によって飛びが進化した「RMX 220」の3種類を揃えています。
その他の事業の研究開発費は3,877百万円であります。
当社グループの当連結会計年度末における日本での特許及び実用新案の合計所有件数は2,515件であります。