有価証券報告書-第19期(令和3年4月1日-令和4年3月31日)

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2022/06/17 14:35
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143項目

対処すべき課題

(1) 会社の経営の基本方針
当社は、双日グループ企業理念、双日グループスローガンを掲げ、当社グループの事業基盤拡充や持続的成長などの「双日が得る価値」と、国、地域経済の発展や人権・環境配慮などの「社会が得る価値」の2つの価値の実現と最大化に取り組んでおります。
(双日グループ企業理念)
双日グループは、誠実な心で世界を結び、新たな価値と豊かな未来を創造します。
(双日グループスローガン)
New way, New value
(双日の価値創造モデル)

(2) 今後の見通し及び対処すべき課題
「中期経営計画2023」について
当社グループは、2021年4月からの3ヶ年計画である「中期経営計画2023」~Start of the Next Decade~を策定し、2030年における当社グループの目指す姿として「事業や人材を創造し続ける総合商社」を掲げました。必要なモノ・サービスを必要なところに提供することを総合商社の使命と捉え、「マーケットインの徹底」、「社内外での共創と共有の実践」、「スピードの追求」により競争優位・成長を追求し、併せて必要となる組織や人材の変革を継続することで、持続的な価値創造を実現していきます。

「中期経営計画2023」で目標としている経営指標は次のとおりです。

当社の株主資本コストが8%程度であることを踏まえ、経営指標としてROE目標を10%超としています。この目標を達成するために、社内管理指標として投下資本に対する基礎的営業キャッシュ・フローの比率を示すキャッシュリターンベースでのROIC(CROIC)を導入し、各セグメントにおける達成すべきCROICの目線を価値創造ラインとして定めております。
成長の実現に向けて、以下に示す注力領域を中心として、戦略に裏付けられた規模感のある新規投資の実行と、既存ビジネスの収益構造の抜本的な変革の双方に取り組んでいます。新規投資については、キャッシュ・フローをマネージした規律を堅持しつつ、メガトレンドを踏まえた成長領域や新たな領域における投資を中期経営計画3ヶ年で合計3,300億円(うち300億円は人や組織改革に向けた非財務投資)程度を実行することにより、企業価値の着実な向上を実現しています。

当社は、株主の皆様に対して、安定的かつ継続的に配当を行うと共に、内部留保の拡充と有効活用によって株主価値を向上させることを基本方針としています。この基本方針のもと「中期経営計画2023」においては、 連結配当性向30%程度を基本とします。
また、下限配当について、PBR1倍に至るまでは時価DOE4%、PBR1倍到達後は簿価DOE4%と設定しました。つまり、PBR1倍に至るまでは、実質的に配当利回り4%をお約束し、PBR1倍到達時には当社が考える資本コスト8%程度の半分を還元することになります。
「中期経営計画2023」の詳細は、当社ウェブサイト(https://www.sojitz.com/)をご参照ください。
当期の取り組みについて
「中期経営計画2023」の初年度である2021年度の当社グループの業績は、石炭などの資源価格の上昇による金属・資源での増益に加え、「中期経営計画2017」以降において実行した新規投資の収益化などにより、当期純利益は823億円、ROEは12.2%となり、期初に公表した計画及び期中に修正した見通しを超過達成しました。新規投資については、中期経営計画における成長戦略に定めた領域を中心に、米国省エネルギーサービス事業会社、アフリカガス小売事業会社、水産食品加工会社、㈱JALUXへの公開買付など、1,500億円程度実行しました。また、既存事業の変革については、パートナーとの提携による不動産事業の構造改革に着手しました。
外部環境については、ロシアによるウクライナ侵攻を始めとした地政学リスクを含め、今後も著しい変化が続くと認識しており、多様な変化に伴うリスクを適切にマネージすると共に、自らの変革の機会と捉え、価値創造に向けた取り組みが必要と考えています。引き続き、2030年の当社の目指す姿に向けた施策、「マーケットインの徹底」、「社内外での共創と共有の実践」、「スピードの追求」により競争優位の獲得と事業の成長を追求し、併せてそれに必要な組織改革や人材の高付加価値化を継続することで、成長の実現を通じた持続的な価値創造を実践していきます。こうした取り組みに関する対話や情報の発信を社内外に対して拡充することにより、成長期待の醸成、さらにPBR1倍超の実現を目指します。
本部別成長戦略
自動車
自動車の卸売・組立事業と小売事業を中核とし、成長市場のアジア・ラテンアメリカなど、成熟市場の日本・米国などで展開しています。地域密着型のセールス・マーケティングとアフターサービスの強化、デジタル技術の活用などを通じた事業のバリューアップと共に、有望市場でさらなる事業領域の拡大を図ります。また、販売金融事業や時代の変化を捉えた自動車関連サービスにも積極的に取り組み、豊かなモビリティ社会に貢献していきます。
航空産業・交通プロジェクト
ボーイング社とのパートナーシップを活かした取り組みの深化に加え、ビジネスジェットや機内食などの航空関連事業の強化、空港運営事業での収益拡大に取り組んでいます。加えて、北米鉄道事業や新興国での交通インフラビジネス、船舶関連事業にも取り組み、空港・港湾、その間を移動する人・モノを融合したソリューションを創出すると共に、外部パートナーなどとの事業の「共創と共有」を積極的に推進し、バリューアップを図ります。
インフラ・ヘルスケア
新興国を中心としたインフラ・ヘルスケア関連の需要増や気候変動、デジタル化、価値観の多様化などのグローバルな社会課題に対し、エネルギー、通信、都市インフラ、ヘルスケアなどの事業領域において、当社ならではの機能・発想を複合的に組み合わせることで新たなソリューションを提供し、価値を創造していきます。
金属・資源・リサイクル
金属資源や鉄鋼分野における上流権益投資及びトレーディング事業に加えて、リサイクルを含むサーキュラーエコノミーの領域など、社会ニーズに対応した新規事業の創出・推進に取り組んでいます。資源関連ビジネスの変革を推進すると共に、近年の脱炭素に向けた潮流を踏まえて、省資源化、循環型社会の実現に向けたリサイクル事業を最注力テーマと位置づけ、市況に左右されない事業を構築していきます。
化学
メタノールをはじめとする基礎化学品、合成樹脂を中心とする機能性材料、工業塩・レアアースといった無機化学品などの幅広いトレードや事業の展開に加え、新規環境事業開発にも取り組んでいます。強みのある事業を伸ばすと共に、脱炭素・循環型社会の実現に向けた取り組みを強化し、優良な事業資産を拡充していきます。
生活産業・アグリビジネス
持続可能な消費と生産をテーマに、東南アジアなど成長著しい地域において、アグリビジネス事業、食料事業、飼料畜産事業、林産資源事業などの既存事業を強化すると共に、周辺事業の拡大に取り組んでいます。先進国における社会課題の解決からの価値創造をテーマに、日本の地域創生にも取り組み、優良な事業資産を拡充していきます。
リテール・コンシューマーサービス
食品や消費財の流通事業、商業施設運営事業、不動産事業など、消費者のニーズに応える事業を国内外で展開しています。ベトナムやインドなど成長が期待される新興国において、既存事業の変革を推進すると共に、人々に「生活の豊かさ」と「利便性」をもたらす新規事業を創出していきます。また、日本国内におけるリテール領域の強化にも取り組み、収益源の多様化と持続的な成長を目指します。
持続的成長に向けた取り組み
1) サステナビリティに関する取り組み
当社グループは、将来に亘り「2つの価値」を創造し続けるため、事業を通じて中長期的に取り組む6つのサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を定め、グローバルな環境・社会課題の解決と企業活動との融合促進及びその体制の構築に取り組んでいます。

また、パリ協定や、持続可能な開発目標(SDGs)などのグローバル課題を踏まえ、「脱炭素社会実現」と「サプライチェーン上の人権配慮」を当社グループの責務と考え、当社の戦略へ反映させるべく2050年長期ビジョンである「サステナビリティ チャレンジ」を設定しています。

「中期経営計画2023」では、脱炭素社会や循環型社会を見据えたビジネスや、トランジション期間に必要なインフラ型ビジネス・サービスを強化すると共に、恒常的に人権尊重の取り組みを拡大していきます。
● 「サステナビリティ チャレンジ」“脱炭素社会実現”に向けた取り組み
当社グループは、事業を通じた脱炭素社会の実現に向けて、当社グループのCO2排出量削減を加速し、将来の脱炭素社会への耐久性を高めると共に、この社会移行を新たな「機会」と捉え、幅広い分野におけるビジネス構築を進めています。
2021年3月には、「サステナビリティ チャレンジ」を実践すべく脱炭素方針を策定し、具体的な目標を設定しました。「中期経営計画2023」においては、方針の本格稼働に向け、各種施策を実行していくと共に、Scope3や削減貢献量(Scope4)の把握と計測を行います。
2021年度はサプライチェーン上でのCO2排出(Scope3)に関する定性分析及び一般炭と石油ガスに関する発電セクターの定量分析を実施しました。Scope4についても今後計測を行っていきます。

また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークを踏まえて、積極的な情報開示と透明性向上、ステークホルダーとの対話に努めています。

● TCFDのフレームワークに沿った取り組み
・ ガバナンス
社長(CEO)が委員長を務める「サステナビリティ委員会」を年に4回以上開催しています。また、サステナビリティ委員会にて検討・協議された方針や課題などは、経営会議及び取締役会へ付議又は報告され、取締役会はこのプロセスを定期的に監督し、必要に応じて対応の指示を行っています。
・ リスク管理
サステナビリティ委員会において、当社グループが行う各事業におけるCO2排出リスクを評価・特定しています。加えて、投融資審議会での審議過程において、個別事業のリスクの確認を行うと共に、こうした会議体における議論の内容は各営業本部にも共有しています。また、毎年実施するステークホルダーダイアログにおいても気候変動関連の「リスク」と「機会」が当社事業に与える影響について討議・確認しています。
・ 戦略
将来への「リスク」、「機会」については、年代毎に技術動向や世の中の動きを見立て、当社としての考え方や対応方法を整理しています。これらの見立ては現時点の将来見通しに基づいたものです。刻々と変わる社会動向や技術革新など外部状況の変化に合わせて柔軟に対応していきます。
○ 事業別CO2排出量の計測・把握
当社は、自社が排出するCO2(Scope1/2)削減を脱炭素社会実現に向けた責務と考えています。また、脱炭素社会の実現には、自社の排出に加えて、サプライチェーン上のCO2(Scope3)までを含めた取り組みが必要であると考え、当社にとって有意なセグメントからサプライチェーン上のCO2(Scope3)の計測・把握を始めています。なお、Scope3については、サプライチェーン上のCO2排出量の多い箇所を将来的に排出削減ストレスが掛かる可能性が高い「リスク」と捉えると同時に、サプライチェーン全体での削減貢献による新たな事業創出の「機会」であるとも捉えて取り組みを進めており、今後、こうしたCO2の削減貢献量をScope4として開示していきます。
<サプライチェーン上でのCO2排出量が多い当社の事業とその削減貢献策>
本部リスク機会
サプライチェーン上で一般的にCO2排出の多いとされる事業
Scope1+2+3
うち、サプライチェーン上の
当社の事業
(Scope1/2)
削減貢献の可能性のある分野
自動車本部・運輸、自動車製造・トレーディング、ディーラー・バイオ燃料の販売・電気/水素利用車、機体の開発・販売
航空産業・交通プロジェクト本部・航空機の運航・船舶の運航・ビジネスジェット・パーツアウト・船舶運航管理
インフラ・
ヘルスケア本部
・石油ガスによる発電・石油ガスによる発電・再生エネルギー・トランジション期間を支えるガス火力発電・省エネサービス
金属・資源・リサイクル本部・一般炭による発電・高炉製鉄・非鉄金属・ニッケルの精錬・セメント原料製造・発電用途の一般炭権益
・原料炭権益・電炉・水素還元・CCS・カーボンクレジット創出
・非鉄金属・ニッケルトレード・EV関連
・セメントトレード・CO2等を原料とした製造
化学本部・化学品製造・化学品製造・化学品輸送・化学品トレード・バイオケミカル・使用電源の再エネ化
生活産業・アグリビジネス本部・製紙・農林水産品生産・農林水産品加工・製紙・紙リサイクル
・農林水産品生産・農林水産品加工・森林吸収・カーボンクレジット創出・廃熱利用
・肥育・飼料製造・植物肉
リテール・コンシューマー
サービス本部
・不動産建設・不動産運営・不動産運営・省エネビル、ZEB・ZEH

○ 当社が考える脱炭素ロードマップ
脱炭素社会の実現に向けて「必要な技術」や「社会ニーズ」を年代毎に想定し、当社の「リスク」と「機会」を整理しています。
- 2020年代から増加している再生エネルギーやサーキュラービジネスは恒常的に拡大し、将来的には余剰再
エネ電力を使用したグリーン水素の活用が見込まれます。
- ただし、脱炭素社会への移行には、再生エネルギー普及時の不安定さを下支えするトランジション期間が
必要と考えています。
- 当社は、トランジション事業として、高効率のガス火力発電や省エネサービス事業を推進することで、脱
炭素社会への移行を事業機会につなげていきます。
- なお、技術動向は刻々と変わるため、随時見直しを行い、当社の「対応の方向性」を定期的に更新してい
きます。
<脱炭素ロードマップ>
○ シナリオ分析の実施
外部調査、内部分析も踏まえ、「リスク」と「機会」が、当社グループの事業活動、経営戦略、財務計画に対する影響がより大きいと考えられる事業分野について順次シナリオ分析を行い財務への影響を分析しています。なお、今後、物理的リスクについても分析を行っていきます。
<シナリオ分析>
リスク機会
石炭権益事業・分析手法
ネットゼロシナリオを含む2050年までの複数のシナリオを前提として、需要と価格見通しを想定し、当社保有資産価値を分析 ・財務影響
最も厳格なネットゼロシナリオが現実化した場合でも、一般炭権益は2030年までにゼロ化すべく対応中で影響ない見通し。原料炭権益も代替技術の開発動向を注視しながら2050年までのゼロ化方針で対応中であり、一部保有資産の劣化懸念の影響は限定的
当社グループが分析するいずれのシナリオにおいても、再生可能エネルギーの需給増加が見込まれています。当社グループは、脱炭素への移行を事業機会として捉え、再生可能エネルギーに注力しております。また、脱炭素社会実現に向けて不可欠なサーキュラーエコノミーにおいても取り組みをさらに強化します。
発電事業・分析手法
2050年までの複数のシナリオを前提として、炭素価格と需要変動の影響及び当社保有資産のコスト競争力を分析 ・財務影響
炭素価格や需要変動の影響を受ける発電所は限られており、また、影響を受ける発電所も、財務インパクトとしての資産劣化の影響は想定されない

・ 指標と目標
既存事業と、今後新たに取り組む新規事業に分け、対応方針・目標を設定しました。既存事業はScope別に削減目標を策定、また、新規事業は脱炭素社会への移行を「機会」と捉え、積極的に推進し、ネットゼロまでの考え方を個別に整理していきます。
上記技術動向、並びに上記「リスク」と「機会」の精査を踏まえて、2021年3月に公表した「脱炭素方針」とその進捗は以下のとおりです。
<脱炭素方針と進捗状況>
<権益資産推移>
なお、上記目標は、現時点の将来見通しに基づいたものであり、社会動向や技術革新の状況の変化によって柔軟に見直しを行います。

● 「サステナビリティ チャレンジ」“サプライチェーンを含めた人権尊重”に向けた取り組み
当社グループは、グローバルに事業を展開する総合商社として、多岐に亘る業界のサプライチェーンに関わっています。そのため、サプライチェーン上の人権尊重に努めるべく、環境・人権リスクの把握及び低減を図っています。
取り組みにあたっては、「国際人権章典」及び国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」を支持し、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」のフレームワークに沿って推進しています。
<「ビジネスと人権に関する国連指導原則」が定める人権対応のフレームワーク>
・ 当社取り組みの全体観
前中期経営計画において、一般的な環境・人権リスクの高い「高リスク事業分野」における、グループの該当状況を特定し、各事業現場での対応状況を確認しました。「中期経営計画2023」では、この土台をより強固なものにしつつ、さらに当社グループ方針の周知・課題認識の徹底を図ります。

・ 方針の策定・周知
当社グループは、「国連グローバル・コンパクト」の10の原則などを踏まえて、「双日グループ サプライチェーンCSR行動指針※」を策定しています。サプライヤーやグループ会社に対して、当社方針の周知を行うと共に、以下に掲げる項目の理解と実践を求めています。

グループ内においては、「人権尊重が経営の最重要課題の1つである」という認識を徹底するため、各社から「人権尊重への理解と事業現場への認識徹底」を行う旨の確認書を取得しています。また、サステナビリティ推進室がこれらのグループ各社の責任者との直接対話を通じ、方針や取り組みの周知及び現場意見の聴取を行っています。
・ リスク評価
当社グループの事業は多岐に亘り、川上から川下までサプライチェーンに広く関わっています。英国NGO「ビジネスと人権リソースセンター」が保有する環境・人権リスクの発生事例データベースをもとに、当社グループの事業の中でも特にリスクが高い事業分野を特定すると共に、サプライチェーン全体において一般的にどの位置で環境・人権リスクが発生しやすいか、分析・確認をしています。


上記で特定した高リスク事業分野に対し、以下のPDCAによる確認を行う体制を構築しました。
①グループ内、取引先を対象とする網羅的なアンケートの実施
②グループ会社各社へのヒアリングを通じたモニタリング
③現地実査を含む人権デューデリジェンスの実施
・ 改善・救済/実績開示
特定した高リスク事業分野については、当社グループ会社のみならずサプライチェーンにおける対応について問題がないことを確認しました。その上で、外部専門家の意見も聴取し、さらに強化・改善すべき事項の洗い出しを行っています。これら高リスク事業分野において、PDCAサイクルを通じた継続的な改善を進め、適時・適切な開示を行います。

2) 組織や人材の変革に向けた取り組み
● 人材戦略に関する基本方針
当社グループでは、2030年の目指す姿として「事業や人材を創造し続ける総合商社」を掲げています。多様性と自律性を備えた個の成長が、企業の価値創造の源泉であると考え、人材戦略を支える3つの柱として「多様性を活かす」、「挑戦を促す」、「成長を実感できる」を据えています。「多様性を競争力に」をテーマに、社員の多様なバックグラウンドを活かし、多角的な視点からマーケットニーズを発掘すると共に、Hassojitzプロジェクト(後述)をはじめとする「挑戦」の機会を設け、所属本部外での海外トレーニーなど新たな経験を積み、「成長」を実感できるサイクルを繰り返すことで、社員の成長が当社の成長へとつながる仕組みづくりを推進しています。
<当社の成長に向けた人材戦略>
当社では、人事施策の浸透度を定量的に効果測定しながら当社の人づくりを実行するため、2021年6月に以下のとおり「人材KPI」を設定しました。外部環境や人事施策の浸透状況に応じて柔軟な見直しができるよう動的KPIとし、場合によっては具体的施策の見直しなども踏まえながら、モニタリングする体制を整えています。
<人材KPI(動的)と2021年度の実績>
[人事施策の柱①「多様性を活かす」]
当社では、人材の多様性を、変化の激しい市場環境に対応し、常に迅速に事業創造できる組織の力へと変えるため、女性、外国人、様々な経験を持つキャリア採用者など、多様な人材の採用、起用を積極的かつ継続的に行いつつ、それぞれの特性や能力を最大限活かせる職場環境の整備や管理職層の教育などの取り組みを進めてきました。これら多様な社員から、新たな着想や意見を多面的かつ効果的に取り込むことで、双日の価値創造につなげる環境づくりを目指しています。
○ 女性活躍推進
当社では、ダイバーシティマネジメントの専任組織を設け、人事部とも協調しながら、各種施策を実施しています。2030年代に女性社員比率50%程度を目指し、中長期の視点で、当たり前に女性が活躍する環境づくりを進めています。将来的に組織の意思決定に関わる女性社員を増やしていくために、各世代層のパイプライン形成と経験の蓄積、キャリア意識の醸成に注力しており、女性総合職の海外・国内出向経験割合を2023年度に40%とするKPIを設定するほか、女性課長職比率などについても、目標を設定しています。
2021年度には以下の取り組みを実施しました。
- 積極的な女性総合職の新卒採用及び中途採用の継続
- 女性管理職の登用促進
- 若手女性総合職の海外・国内出向経験割合の向上
- 30歳前後の女性総合職を対象とした経営陣によるメンタープログラムの実施
- 管理職層を対象にしたエグゼクティブプログラムなど外部研修への派遣

女性活躍の目標に掲げる女性総合職の新卒採用比率は2018年度以降継続して30%以上を維持(2022年4月入社の女性総合職比率は44%)しており、昨今では女性の中途採用も強化しています。加えて、積極的な女性の管理職登用を進めた結果、2022年4月時点で女性課長職比率は10.5%となり、2023年度の目標を前倒しで達成しました。また、ライフイベント前に海外トレーニーや海外駐在を経験できるようキャリアの早回しを積極的に進めており、女性総合職の海外・国内出向経験割合は34%まで向上しています。加えて、内部昇格および社外からの人材獲得により、女性の執行役員数は2022年6月現在で2名となっています。
このほか、当社は女性がキャリアを止めることなく活躍できる環境を整えることが重要であると考え、早期復職支援や柔軟な働き方の推進による仕事と育児の両立支援にも取り組んでいます。2022年4月には、男性社員の育児参加の促進を念頭に育児制度の改定を行いました。男性が積極的に育児参加することで、職場全体が育児への理解を深めると共に、育児を応援する職場環境の醸成にもつながると考え、管理職を含む全社員を対象に新たな育児制度の説明会を実施しました。人材KPIとして育児休暇取得率100%を設定し、性別に関わらず活躍できる職場、組織、会社を目指し、業務効率化やチームマネジメント力の強化にも取り組んでいます。また、多様な属性・価値観を持つ社員の個を活かし、組織の成果につなげるダイバーシティマネジメントの重要性を伝える施策として、部長研修ではアンコンシャスバイアスをテーマとした研修を行ったほか、全部課長向けにeラーニングでイクボス研修を実施し、「双日イクボス宣言」への賛同を確認しています。
これらの様々な女性活躍推進の取り組みにより、2022年3月には、女性活躍推進に優れた上場企業を表彰する「なでしこ銘柄」に6年連続6回目の選定をされました。
(ご参考)
■ 双日、なでしこ銘柄に6年連続で選定(2022年3月)
https://www.sojitz.com/jp/news/2022/03/20220323.php
■ 女性活躍推進法に基づく「一般事業主行動計画(2021年度~2023年度)」
https://www.sojitz.com/jp/csr/employee/pdf/kodo2021.pdf
○ 中途採用者の活躍
当社では、経営人材、DXなどの専門人材、女性・外国人などの多様性を強化すべく、中途採用にも注力しています。2022年3月末時点で、管理職ポストにおける中途採用者の割合は約2割、役員ポストでは約3割を占めています。なお、2021年度の採用に占める中途採用者の比率は29%でした。今後も引き続き、毎年の新規採用者数の約3割を中途採用者としていく予定で、そのうち半数程度を女性とする方針です。また、2021年12月には、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)として社外の女性人材を当社の執行役員に迎えました。これまでに他社で培った知見や女性ならではの視点などを経営や現場との対話に活かし、新規事業の創出と事業モデルの変革に繋がるデジタルの実装を加速していきます。(DXの取り組みについては、後述「3)DXの取り組み方針について」をご参照ください。)
○ 外国人人材の活躍
海外事業会社を起点に現地ネットワークに入り込み、事業領域の拡大や新規事業の創出につなげるため、外国人人材のCxOポストをさらに拡大し、2021年度時点で40%である海外事業会社の外国人CxO比率を、2025年度までに50%超に引き上げることを目指しています。また、今後は、こうした海外事業会社の外国人トップの経験知見を、海外地域の当社グループの運営にも生かし、域内での意見交換/情報共有を通じ共創と共有を促す仕組みも構築していきます。
[人事施策の柱②「挑戦を促す」]
変化が激しいこの時代に重要なことは、新たな視点によりユニークな発想を見出し、発想の実現に責任と覚悟を持つことと考え、とことんやり抜く探求心と自立心を持った社員の挑戦を促しています。未来の飛躍に向けた成長を続けるために、既存のビジネスや固定観念の枠を超えて価値創造できる人材の育成に取り組んでまいります。
○ 発想×双日 Hassojitz プロジェクト
当社における「さらなる成長」を考え、未来構想力や戦略的思考を定着させるべく、2019年に新規事業創出プロジェクト「発想×双日プロジェクト(通称:Hassojitz プロジェクト)」を開始しました。2020年には「起業家精神」をテーマに、対象を全社員へ広げ、「やる気があれば、誰でも挑戦できる。ただし、実現までコミットする覚悟はあるか。」というコンセプトのもと実施しました。このプロジェクトでeスポーツ関連の事業を考案したチームは、将来の事業化を見据えて2021年度に事業会社を設立し、当時チームリーダーを務めた2022年4月時点で入社5年目となる社員がその事業会社の社長に就任するなど人事施策の一環として着実な成果が見え始めております。2021年は「共創力」をテーマに、将来を見据えた上で自前主義から「共創と共有」をもとにした実現確度を高めた取り組みを目指し、プロジェクトを行いました。3年間の活動を踏まえ、発想を起点とした事業創出を加速させるべく、2022年度は案件検討段階でのインキュベーション体制をより充実させる予定です。
○ 双日アルムナイ
退職後も経済・社会活動を続ける当社OB/OGと当社役職員との人的ネットワークの形成・拡大により、当社のビジネス領域の拡大を促進するプラットフォームとして活用すると共に、緩やかな当社グループの形成を通じ、現状の事業領域に捉われない新たな事業機会の創出やオープンイノベーションを促進していきます。Hassojitzプロジェクト最終発表会の審査委員に双日アルムナイ幹部を招き、社外で培った知見をもとにしたフィードバックやアドバイスを得て、イノベーションの質を高めています。「退職しても双日と関わりたい」と思われる企業であり続け、外部知見を価値向上に活かしていきます。
○ 独立・起業支援制度
「独立・起業する社員を支援する制度(独立・起業支援制度)」を導入し、独立・起業を企図する社員のために当社のリソース(資金・情報・ネットワーク)を提供し、事業推進を支援します。なお、Hassojitz プロジェクトを通じて発案されたアイデアも、この制度を適用して事業化・独立・起業することが可能となります。「事業や人材を創造し続ける総合商社」として、当社は会社と独立・起業を目指す個人を含めた全社員の望むキャリアパスを支援すると共に、起業家精神を持ち積極的に挑戦し続ける人材の確保・育成、企業文化の変革を目指します。
○ 双日プロフェッショナルシェア株式会社
これからの時代を見据え、年功序列や終身雇用という概念にとらわれず、多様な価値観やキャリア志向を持つ全ての社員が、高いモチベーションを維持し、働き続ける環境を整えています。その施策の1つが、双日プロフェッショナルシェアの設立です。35歳以上の社員の多様なキャリア・ライフプランを支援するプラットフォームで、「70歳定年」「就業時間・場所の制限なし」「副業・起業」を可能とし、社員一人ひとりが新たなキャリアパスで活躍し続けられるよう支援します。実際に、当社グループ外からの業務受託もあり、当社の経験を社会への貢献につなげる事例も出始めています。
○ デジタル人材育成
当社では、デジタルは顧客・社会ニーズを価値創造につなげる上での大前提であり、全従業員が持つべき共通言語と位置づけています。DXを事業の変革・競争力強化を実行するための手段とし、事業モデル、人材、業務プロセス面での改革により、価値創造に貢献していきます。社内外のデータやデジタル技術を利活用することでビジネスモデルや業務プロセスの変革を実践できる人材を 「デジタル人材」と定義し、その育成に注力しています。具体的には、入門レベル、基礎レベル、応用レベルに分類し、5年以内に全社員が基礎レベルまで修了、このうち600名が応用レベルを修了することを目標に掲げています。2022年3月末時点では、入門レベルであるITパスポート試験は総合職の60%、事務職の40%が資格を取得しました。引き続き、攻め(DX)と守り(情報セキュリティ)の両輪を意識した基礎レベルコンテンツを拡充させていくと共に、応用レベルについても2022年夏に開講する予定です。
[人事施策の柱③「成長を実感できる」]
失敗を許容する風通しの良い風土の中で、社員が積極的に「挑戦」することで、「成長」を実感し、社員一人ひとりの「多様性」が育まれていく好循環が生まれています。当社では、社員自らが成長・貢献を実感できることが重要な報酬の1つと考え、社員と会社が選び合い、高め合う環境をこれからも築いていきます。
○ 指導員制度、メンター制度
当社では、新入社員を「現場が育てる」施策として、指導員制度とメンター制度を設けております。指導員は、新入社員と同じ部署の先輩社員が務め、1年間のOJTを通じて、所属部署での業務知識や社会人としての基礎知識を指導します。メンターは、新入社員とは異なる部署のベテラン社員が担当し、業務から離れた視点で、新入社員の視野を広げ、キャリアプラン形成のサポートとなるようメンタリングを行います。
○ 海外トレーニー制度
当社では、400社を超えるグループ会社を通じて多様なビジネスを展開しており、それぞれの事業会社の経営を担う人材の育成は重要な課題です。経営人材の育成・確保のため、海外トレーニー制度、MBAプログラムへの派遣制度、語学自己研鑽制度など、様々な研修を行っています。2021年度は20ヶ国に海外トレーニーを派遣(うち46%が女性社員)、日本とは異なる現場を早期に経験し、さらなる成長につなげていきます。
○ 研修プログラム
当社では、自ら考え、行動し、やり抜くことで、世界を舞台に「価値を創造することのできる人材」を育成すべく、各種研修を実施しています。全ての世代・階層に提供するデジタル人材育成プログラムなどのコンテンツのほか、新入社員向けや管理職向けの研修、役員向けの研修など、それぞれの世代・階層に合わせた様々な研修コンテンツを提供し、個の成長をチーム・組織の成長へつなげていく取り組みをしています。また、次世代経営幹部人材には、将来を見据えた戦略思考や行動変革につなげるため、エグゼクティブコーチングや他社とのワークショップなどの機会を設けています。このように、若年層から管理職層に対して幅広く育成機会を提供することにより、将来の経営人材層を計画的に育成していきます。
<研修プログラム>
○ ジョブローテーション制度、社内公募制度
当社では、管理職登用までに2つ以上の異なる業務(出向や海外駐在を含む)を経験して多様な専門知識とスキルを身に付けるジョブローテーション制度や自らが思い描くキャリアを切り拓く機会としての社内公募制度など、社員の育成促進とキャリアの幅を広げる制度を導入しています。当社は、社員とキャリアプランを共有するために定期的に面談を実施するほか、異動して約半年後のタイミングでアンケートを行うなど、社員のモチベーションをモニタリングできる体制を整え、必要に応じて面談を実施しています。また、2020年度からは昇格要件として求める経験年数を短縮し、経験を積むスピードを早めています。
[多様な人材の活躍を支える制度]
当社グループの成長は社員と共にあると考え、多様な価値観やキャリア志向を持つ全ての双日パーソンが、挑戦・成長を積み重ねることで、高いモチベーションを維持しながら自律的に働き続けられる環境を整えていきます。
○ 健康経営
当社グループにとって最大の財産である社員一人ひとりとその家族が心身共に健康であり、社員が働きやすさと働きがいを持てる健全な職場環境づくりは、会社の重要な責任の1つと考えています。社員が仕事に対する高い意欲を持ち、最大限の力を発揮することが組織力向上につながり、当社が掲げる「新たな価値と豊かな未来の創造」を実現するという考えに基づき、2018年3月に健康維持・増進に関する『双日グループ健康憲章 "Sojitz Healthy Value"』を策定しました。疾病の未然予防・健康増進に加え、仕事と治療の両立を図るべく、健康推進室の体制を強化し、各健康関連施策を実施すると共に、定期健康診断の一次受診率100%を継続しながら、早期発見・疾病予防を高めることを目指し、二次検診受診率を人材KPIとして定め、2022年3月末時点では49%まで向上しています。
2022年4月からは、女性活躍推進の取り組みを健康面でも後押ししています。子宮頸がん・乳がん検診の対象を全年齢に拡大し、思わぬ疾病によりキャリアが長期に亘り中断されることを防ぎます。月経や更年期症状などによる影響を低減し、日頃から心身共に健康で安定的に力が発揮できるよう、社内に気軽に相談ができる婦人科嘱託医を配置、不妊治療に関わる相談窓口も設けています。また、外部企業と契約し、医師や専門家によるオンラインセミナーの開催や、同社が提供するサービスを通じて社員やその配偶者の不妊治療の支援も開始しました。今後も、女性社員のキャリアとライフを支援する取り組みを整えていきながら、全社員が心身健康な状態を維持し活躍し続けられる環境を整備していきます。
<健康経営>
<多様な人材の活躍を支える主な制度・取り組み一覧>
3) DXの取り組み方針について
当社は、デジタルを顧客・社会ニーズを価値創造につなげる上での大前提であり、全従業員が持つべき共通言語と位置づけております。「中期経営計画2023」のもと、2030年に「事業や人材を創造し続ける総合商社」であるという目指す姿に基づき、デジタルを活用して事業モデル・人材・業務プロセス面での変革を進め、企業価値の向上を目指しています。事業モデルについては、デジタルの実装・活用による既存事業モデルの変革と、新しい柱となる事業の創出の2軸で進めています。多数の異なる業種の事業が存在する総合商社業態では、全社一律のやり方ではDXの推進が困難であり、デジタル企業への変革に向け、事業毎の個別実装を推進すると共に、個別事業毎にDXを推進する人材を育成しています。
2021年4月より社長を委員長とするDX推進委員会を設置し、全社一体となった推進体制としています。DX実装の最高責任者であるCDOを社外より招聘すると共に、情報セキュリティの最高責任者であるCISOを設置することで、DX実装の加速化とデータ活用の加速に向けたセキュリティの強化を両輪で推進し、新規・既存事業双方のデジタル化を推進しています。
こうした体制及び人材育成といったDXを推進する上での土台は整備されてきており、今後、具体的な個別実装による事業変革・創出を実現していきます。

(3) 利益配分に関する基本方針
当社の利益配分に関する基本方針につきましては、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」をご参照下さい。
※将来情報に関するご注意
本資料に掲載されている業績見通し等の将来に関する記述は、当社が現在入手している情報及び合理的であると判断する一定の前提に基づいており、業績を確約するものではありません。実際の業績等は、新型コロナウイルス感染症の収束時期や、内外主要市場の経済状況や為替相場の変動など様々な要因により大きく異なる可能性があります。重要な変更事象等が発生した場合は、適時開示等にてお知らせします。