有価証券報告書-第77期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 13:17
【資料】
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【項目】
162項目

事業等のリスク

当社におけるリスクは、事業ポートフォリオの分散をグローバルに進めていることや、経営環境の変化等を受けて、一層多様化・複雑化してきております。そのようななかで、あらゆるステークホルダーの視点に立ったリスク管理を実施することは経営の重要な課題であると認識しております。
こうした観点から、東京海上グループは、リスク軽減・回避等を目的とした従来型のリスク管理にとどまらず、リスクを定性・定量の両面のアプローチから網羅的に把握したうえで、これらのリスク情報を有効に活用して会社全体の「資本」・「リスク」・「リターン」を適切にコントロールする「リスクベース経営(ERM*1)」態勢の強化に取り組んでおります。
当社においても、ERM態勢の強化を通じた統合的なリスク管理を行うことにより、健全性を確保しつつ、再保険の活用等により限られた資本を有効に活用して収益性(資本効率)の向上を図っております。
なお、本項においては、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は本有価証券報告書提出日現在において判断したものであります。
*1 ERM:Enterprise Risk Management
(1)定性的リスク管理
定性的リスク管理においては、環境変化等により新たに現れてくる「エマージングリスク」*2を含めたあらゆるリスクを網羅的に把握して経営に報告する態勢としており、当社を取り巻くリスクについて随時経営レベルで論議を行っております。
こうして把握したリスクについて、経済的損失額や発生頻度といった要素だけでなく、業務継続性やレピュテーションの要素も加えて総合的に評価を行い、当社の財務の健全性、業務継続性等に極めて大きな影響を及ぼすリスクを「重要なリスク」として特定しております。
*2 エマージングリスク:環境変化等により新たに現れてくるリスクであって従来リスクとして認識されていなかったもの、あるいは、リスクの程度が著しく高まったもの。
○エマージングリスクの洗い出しと重要なリスクの特定プロセス
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○重要なリスクの主な想定シナリオ
重要なリスク主な想定シナリオ
1国内外の経済危機、金融・資本市場の混乱①リーマンショック級の世界金融危機が発生し、当社保有資産の価値が大幅に下落する。
②地政学リスクの顕在化等により金融・資本市場の混乱が生じ、当社保有資産の価値が大幅に下落する。
2日本国債への信認毀損①政府の信用力低下により日本国債が暴落し、当社保有資産の価値が大幅に下落する。
3巨大地震①首都直下地震の発生により、多額の保険金支払が発生する。また、当社の事業継続に重大な影響が生じるほか、当社保有資産の価値が大幅に下落する。
②南海トラフ等の海溝型巨大地震により、多額の保険金支払が発生する。また、当社の事業継続に重大な影響が生じるほか、当社保有資産の価値が大幅に下落する。
4巨大風水災①日本で巨大台風や集中豪雨による大規模な風水災害が発生し、多額の保険金支払が発生する。また、当社の事業継続に重大な影響が生じる。
②同一年度に複数の巨大ハリケーンが米国東海岸に上陸し、多額の保険金支払が発生する。
5火山噴火①富士山の大規模噴火による多量の降灰により、広範囲で交通網寸断、停電、通信障害等が発生し、首都機能が麻痺する。また、当社の事業継続に重大な影響が生じるほか、当社保有資産の価値が大幅に下落する。
6パンデミック①新たな感染症の蔓延により多くの人が亡くなり、多額の保険金支払が発生する。また、当社の事業継続に重大な影響が生じるほか、当社保有資産の価値が大幅に下落する。
7革新的新技術による産業構造の転換①コネクティッドカー、自動運転、カーシェアリング、電気自動車等の普及により、自動車保険を中心に収益が減少する。
②異業種の企業が保険業界に新規参入し、個人マーケットを中心に当社の営業基盤を侵食することにより、収益が減少する。
③当社が革新的新技術への対応遅れから競争優位性を失い、収益が減少する。
8サイバーリスク①サイバー攻撃により当社のシステムや販売チャネルのシステムで障害が発生し、当社の事業継続に重大な影響が生じる。また、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。
②顧客企業においてサイバー攻撃による被害が急増し、多額の保険金支払が発生する。
9テロ・暴動①当社の重要拠点近くで大規模なテロや暴動が発生し、当社の事業継続に重大な影響が生じる。
10コンダクトリスク①当社や保険業界の慣行が世間の常識と乖離して不適切な企業行動とされ、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。
11法令・規制への抵触①当社の取引きが国内外の法令・規制に抵触し、監督当局に対して多額の課徴金や和解金の支払いを余儀なくされる。また、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。
12システム障害①当社のシステムや販売チャネルのシステムが障害等により長期間停止し、事業継続に重大な影響が生じる。また、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。

重要なリスク主な想定シナリオ
13重要情報の漏えい①当社社員や外部委託先社員の不正持出しにより大量の顧客情報が漏えいし、お詫び費用等によって多額の損失が発生する。また、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。
②当社、外部委託先および代理店に対するサイバー攻撃により大量の顧客情報が漏えいし、お詫び費用等によって多額の損失が発生する。また、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。

(2)定量的リスク管理
定量的リスク管理においては、格付の維持と倒産防止の観点ならびに当社およびその子会社・関連会社全体での資本の有効活用を図る観点から、資本・リスクを一元的に管理する統合リスク管理を行っております。なお、統合リスク管理は当社を含む東京海上グループ全体で運営しており、この枠組みの中で当社の統合リスク管理態勢を整備しております。
当社およびその子会社・関連会社が保有するリスクについて、所定のリスク保有期間および信頼水準に基づき、発生する可能性がある潜在的な損失額を定量化しております。定量化の手法としてはバリューアットリスク(VaR)*3というリスク指標を採用しております。定量化されたリスクをもとに各事業分野に資本を配分するとともに、その範囲内で適切な事業運営を行っております。リスクが顕在化した場合においても資本の範囲内で損失を吸収できるよう、適切にリスクをコントロールしております。
また、定性的リスク管理において特定した「重要なリスク」のうち、経済的損失が極めて大きい表中1から4の想定シナリオに基づくストレステストを実施することにより、事業継続の検証を行い、資本の十分性および資金の流動性に問題がないことを確認しております。
*3 バリューアットリスク(VaR):将来の一定期間のうちに、一定の確率の範囲内で被る可能性のある最大損失額のことをいいます。
(3)BCPの策定
重大な災害が発生した場合においても、重要業務を継続し早期復旧を図るため、災害に関するBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を策定するとともに、定期的に訓練を実施するなどし、備えております。
(4)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響につきましては、保険引受面においては、経済活動の落ち込みに伴う保険料収入の減収、海外を中心とした新種保険等の保険金支払の増加、資産運用面においては、金利低下によるインカム利回りの低下や、株価下落等に伴う減損の計上等があります。
本有価証券報告書提出日現在において想定される主な影響は、次のとおりであります。
分類区分主な影響
保険引受国内自動車保険:新車販売減少による減収の一方、交通量減少による事故減少で保険金支払が減少
傷害保険:旅行者数の減少に伴い、旅行傷害保険料が減少
海上保険:世界的な物流減に伴い、貨物保険料が減少
新種保険:感染症を明示的に補償する一部の特約(特定業種向け等)での保険金支払が増加
海外興行中止保険:イベントの中止や延期に伴う保険金支払が増加
休業利益保険:感染症を明示的に補償する一部の契約での保険金支払が増加
信用・保証保険:経済停滞の程度が大きくなった場合、保険金支払が増加
資産運用金利低下に伴うインカム利回りの低下
米国拠点で保有する株価下落に伴う米国会計基準上の評価損
デフォルト率上昇に伴う信用リスク資産の減損