有価証券報告書

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2021/06/22 15:01
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事業等のリスク

当社グループの主たる事業である海上輸送の分野において、世界各国の経済情勢やテロ・戦争その他の政治的、社会的な要因、自然現象・災害、及び伝染病、ストライキ、その他の要因による社会的混乱等により、予期せぬ事象が発生した場合には、関連の地域や市場において、事業に悪影響を及ぼす可能性があります。この他に当社グループの事業活動や業績、株価及び財務状況等において、悪影響を及ぼす可能性があると考えられる主なリスクには、次のようなものがあります。
当社はこれらのリスクに対し、経営会議の下部機関である投融資委員会や安全運航対策委員会等において関連するリスクの把握、分析及び評価を行い、その結果を取締役会及び経営会議における意思決定に反映させています。さらに、「トータルリスクコントロール」として、当社及び当社グループ会社が保有する資産について、その価値変動リスクを統計的に分析し、数値化したものを定期的に取締役会に報告しています。取締役会をはじめとする意思決定機関は報告されたリスク量を評価、分析した上で、投資判断を行い、当社グループの事業全体のリスクコントロールを図っています。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社グループが判断したものです。
(1) 海運市況の変動
当社グループの主たる事業分野である海運事業の運賃・傭船市況は、世界各国の景気動向や商品市況、政治・社会的な要因及び自然現象・災害等の影響、海上荷動き量や船腹供給量等の増減を受けた船腹需給の不均衡等の影響により、大きく変動する可能性があります。当社グループは2021年3月末時点で、ドライバルク船、油送船、自動車船、LNG船、コンテナ船など約810隻の船舶を運航し、資源から製品まで様々な種類の貨物を運んでおります。貨物・船型ごとに需給があり、それぞれに市況が形成されておりますが、それらの市況には相関関係が高いものがある一方、経済環境によってはマイナスの相関が働いて相互に打ち消し合うものもあります。中長期契約を結ぶことができる船種であるか、どの程度の市況エクスポージャーを持つかも勘案しつつ、最適な事業ポートフォリオを組むことによって、リスクを軽減しながら、より高く安定的なリターンの追求に努めております。また、顧客との長年の信頼関係で築き上げた中長期契約により、安定した将来のキャッシュフローを堅実に積み上げ、運航コスト削減に努めることによって、海運市況変動による業績変動のリスク軽減に努めておりますが、当社想定を大きく超える大幅な市況下落は当社グループの損益に悪影響を及ぼします。
(2) 為替レートの変動
当社グループの事業では、売上のうち、米ドル建ての海上運賃収入が多くを占めております。費用についても、船舶資本費、燃料費、海外における荷役費・一般管理費等、米ドル・現地通貨建ての費用があります。費用のドル化を進めるとともに、通貨ヘッジ取引を行い、米ドルの為替レート変動による悪影響を最小限に止める努力をしておりますが、外貨建て収入が費用を上回っていることにより、他の通貨に対する円高(特に米ドルに対する円高)は当社グループの損益に悪影響を及ぼします。また、海外子会社が保有する船舶資産やそれにかかわる負債等、外貨建てのものを有するため、円建ての連結貸借対照表においては、換算時の為替レートにより、元の現地通貨における市場価値が変わらなかったとしても、計上する換算価値が影響を受ける可能性があります。
(3) 船舶燃料油価格の変動
当社グループの事業では、船舶運航のための燃料の調達が不可欠なものとなっております。燃料費については、燃料ヘッジ取引により調達コストの平準化・削減に努めておりますが、その上昇は当社業績へ悪影響を及ぼします。船舶燃料油の市場価格は概ね原油価格に連動しており、世界の景気動向、産油地域をはじめとする地域情勢、米国を中心とする在庫水準、投機資金の流入等により影響を受ける可能性があります。また、今後SOx(硫黄酸化物)やCO2の排出量を抑制する環境規制の強化・拡大に伴い、環境負荷の低い良質な燃料の使用、追加設備の船舶搭載が求められ、燃料油コストや船舶コストの上昇が予想されます。当社グループは顧客の理解を得ながら運賃等への反映を行っていきますが、全てのコスト上昇を反映できない場合には、燃料油価格の変動等で当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。
(4) 金利の変動
当社グループの事業では、船舶等の新設や更新のために、継続的な設備投資を行っております。有利子負債の削減に努めておりますが、運転資金及び設備資金は主として外部借入れにて行っております。固定金利での借入れや金利スワップ取引により金利の固定化を進めておりますが、変動金利で調達している資金については、金利の変動の影響を受けます。また、金利の変動により、将来の資金調達コストが影響を受ける可能性があります。
(5) 公的規制
当社グループの主たる事業分野である外航海運業では、設備の安全性や船舶の安全運航のために、国際機関及び各国政府の法令、船級協会の規則等様々な公的規制を受けております。また、その他の事業分野も含め、事業を展開する各国において、事業、投資の許可をはじめ、運送、通商、独占禁止、租税、為替規制、環境、各種安全確保等の法規制の適用を受けております。これらの規制を遵守するためにはコストが発生しており、また、これらの規制が変更された場合、若しくは新たな規制等が導入された場合には、新たなコストが発生する可能性があります。加えて、当社グループは、これらの規制の遵守体制を構築し、運用状況について情報収集を行っておりますが、関係当局による調査の対象となることや、その調査の結果によっては処分や処罰を受けることがあります。それらにより、当社グループの活動が制限される可能性や、事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(6) 気候変動リスク
国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)においてパリ協定が採択、各国で批准されたのを機に、気候変動や地球温暖化の原因とされる温室効果ガス(GHG)の削減を目的とした取り組みが世界的に進められております。今後、地球温暖化対策として規制の強化等により、これらに関連する対策費用が増加した場合や、特定地域における法令又は規制を遵守することが困難になった場合には、当該地域における当社グループの事業運営が影響を受ける可能性があります。
船舶は世界中の海上を移動するため、一国だけで対処することができない問題が多く、国際的な取り組みが不可欠であるため、国際海運におけるGHG排出目標は国際海事機関(IMO)において決定されました。
当社グループは気候変動リスクの重要性を認識し、2020年6月にIMO目標の達成へ向けたコミットメントをより明確化した「商船三井グループ 環境ビジョン2.0」を制定しましたが、加速する世の中の動きを踏まえ、2021年度には「環境ビジョン2.1」にアップデートします。環境ビジョン2.1では、ネットゼロエミッション目標時期の前倒し(2050年まで)、インターナルカーボンプライシング導入、クリーン代替燃料の導入、省エネ技術の導入、及び効率運航の深度化を通じて、ネットゼロを可能にするビジネスモデル構築、低・脱炭素事業の拡大に取り組みます。しかしながら、これらの取り組みでも気候変動リスクを完全に回避することは困難であり、地球温暖化対策として規制の強化等により、当社グループの業績及び財務状況が影響を受ける可能性があります。
(7) 取引先との関係
当社グループが船舶を調達するにあたっては、自らが保有するほか第三者からの傭船による場合があります。また船舶の投入先については、特に鉄鋼原料船、油送船、LNG船部門等において、顧客との中長期契約に基づく安定利益の積み上げを重視しております。それらの取引先の経営状態の悪化や船舶を投入予定のプロジェクトの遅延等により、契約の全部または一部が履行されない場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループの顧客は、製造業、小売業、エネルギー関連等多岐にわたっております。これら取引先の開発、生産、販売計画等の動向により、当社グループの事業及び業績が影響を受ける可能性があります。
(8) 投資計画の進捗に関わる影響
当社グループは、競争優位を保ち、リターンをより確かなものにするべく、海洋事業を中心として当社グループが強みを持つ分野に経営資源を重点的に投入しておりますが、投資先の関係国の政治情勢、経済状況、自然災害、関係国政府の方針変更・規制・制裁、パートナーの動向、技術的課題、投資相手先の信用リスク等によって、投資が想定通りに進捗せず、投下資金の回収不能、撤退の場合に追加損失が発生するリスク、及び計画した利益が上がらないなどのリスクを負っております。
船舶投資等は新造船の発注から竣工までには数年の年月を要します。その間の輸送需要の変化で業績が影響を受ける可能性があります。建造中の事故等に伴う納入遅延の可能性や、造船所の経営難など造船所自体に関わる要因によっても影響を受ける可能性があります。
新規の投資決定にあたっては、投資の意義・目的を明確にした上で、投資のリスクの可能性・規模を認識・測定し、事業特性を踏まえて決定した投下資金に対する利回りが期待収益率を上回っているか否かを評価し、選別を行っております。しかしながら、このような投資評価の段階での案件の選別を厳格に行っておりますが、期待する利益が上がらないというリスクを完全に回避することは困難であり、事業環境の変化や案件からの撤退等に伴い、当社の業績及び財務状況が影響を受ける可能性があります。また、融資においては、融資先の財務状況等を定期的にモニタリングして回収懸念の早期把握や軽減を図っておりますが、融資先の信用リスクの悪化に伴う貸倒引当金の計上等により、当社グループの業績及び財務状況が影響を受ける可能性があります。
(9) 船舶の運航
当社グループは、「安全運航と海洋・地球環境の保全」を経営理念に掲げ、独自の「MOL安全管理制度」を確立し、船員教育や訓練システムを充実させて事故を起こさないよう万全の体制をとっております。しかしながら、常時約810隻(短期傭船等を含む)の船舶を世界中で運航しており、万一洋上で不慮の事故、特に油濁事故及びそれに起因する海洋汚染等が起こった場合は事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループは運航する船舶への海賊・テロ行為について対策を講じておりますが、万一襲撃を受けた場合は事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。当社は、2020年7月にばら積み貨物船WAKASHIO(長鋪汽船株式会社の子会社から当社がチャーター)がモーリシャス島沖で座礁し、燃料油が流出した事故を踏まえ、現場である本船側のみならず、当社陸上側からの支援体制、船主、船舶管理会社の管理体制を見直しました。また、再発防止策の取り組みにおいては、推定原因に対して、安全意識の不足に対する再発防止、安全航海に必要な規程の確認不足及び履行不十分に対する再発防止、運航品質の強化、及びハードウェア対応の4項目を軸に、総額約5億円相当をこれら再発防止策に投じます。当社、船舶、および船主を含む関係先と着実にこれら再発防止策を実行する体制を共に築き、サプライチェーン全体における安全品質水準の一層の向上に向けて継続的に取り組みます。
(10) 自然現象・災害、及び伝染病に関するリスク
地震等の災害や感染症の流行により、当社グループの運航船・事業所・設備や社員に被害が発生し、事業活動に支障が生じる可能性があります。
当社グループでは、災害や感染症の流行に際して、運航船と役職員の安全を最優先に確保し、事業の中核である「海上運送サービス」の提供継続と、万が一それが中断した場合に早期復旧を図ることを目的に、事業継続計画(BCP)を策定しております。この事業継続計画では、船舶の安全運航維持に関わる業務、運送契約、傭船契約の履行、財務手当て、要員確保等の実施に向けて対応組織、権限等を整備し、具体的な実施手順をマニュアル化しております。また、以前から災害等を想定した本社・社外での訓練等を定期的に実施し、そこで明確になった課題に対処することで、より実効性を高めております。しかし、これによっても災害等による被害を完全に回避できるわけではなく、被害発生時に当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。
<新型コロナウイルス感染拡大による影響>新型コロナウイルスの感染拡大リスクに対して、当社は2020年2月3日に対策本部を立ち上げ、如何なる状況にあっても、当社の社会的使命である輸送インフラとしての役割を、物資の安定的な輸送継続を通じて果たすべく、次の3点を最重要課題と掲げ、対応してきました。
①当社運航船の安全運航、安定輸送の徹底
②顧客・取引先等と当社役職員の安全確保・感染拡大の防止
③感染拡大リスクの長期化を想定した上での事業継続体制の構築
なお、当社は2020年3月9日に本社・全支店を全面的な在宅勤務に移行させ、感染拡大状況にあわせて在宅勤務比率を調整し、当社役職員の安全確保、及び感染拡大防止に努めています。
(11) 情報システム事故等による影響
当社グループの事業及び業務は、情報システムに大きく依存しており、重大ICTインシデント(ICTシステム障害、サイバー攻撃、自然災害、オペレーションミス等を起因として発生または発生の可能性があるセキュリティ・プライバシーの侵害及び当社グループの信頼低下等)が発生した場合には、当社グループの事業が大きな影響を受ける可能性があります。当社グループでは「重大ICTインシデント対策本部規程」及び「重大ICTインシデント対応ガイドライン」において、グループ共通のインシデントレベルの判断基準、インシデントレベルに応じた対応方針を定めております。重大なICTインシデントが発生した場合には、対策本部が設置され、ステークホルダー(株主、顧客、メディアなど)への報告・説明、技術的・法的対応等を速やかに組織的に実施し、当社グループの利益、ブランド、信用を著しく損なう事態の発生を防ぐ体制としております。
(12) 船舶等の売却等における影響
当社グループは、海運市況の動向や船舶の技術革新による陳腐化、又は公的規制の変更等による使用制限等により、保有する船舶を売却する場合や傭船する船舶の傭船契約を中途解約する場合があります。また、海運市況の悪化に伴い、保有する船舶の固定資産の収益性が低下し、減損損失を計上する可能性があります。その結果として、当社グループの業績及び財務状況が影響を受ける可能性があります。
(13) 投資有価証券における評価損の影響
当社グループは、投資有価証券のうち時価のあるものについて、期末最終営業日の市場価格による時価評価を行っております。その結果、株式市況の変動等により投資有価証券評価損を計上し、当社グループの業績及び財務状況が影響を受ける可能性があります。
(14) 繰延税金資産の回収可能性
当社グループは、将来の課税所得の見積りに基づいて繰延税金資産の回収可能性を評価しております。その見積額が減少し、将来において繰延税金資産の一部又は全部が回収できないと判断した場合、あるいは税制変更等による税率の変更があった場合、繰延税金資産を取崩し、税金費用を計上することとなり、当社グループの業績及び財務状況が影響を受ける可能性があります。なお、当社及び一部の連結子会社は、2020年度から連結納税制度を適用しております。
なお、上記は当社グループの事業その他に関し、予想される主なリスクを具体的に例示したものであり、ここに
記載されたものが当社グループのすべてのリスクではありません。また、将来の予測等に関する記述は、現時点で入手された情報に基づき合理的と判断した予想であり、潜在的なリスクや不確実性その他の要因が内包されております。従い、実際の業績は、見通しと異なる結果となる可能性があります。