有価証券報告書-第36期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/18 15:01
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【項目】
106項目

研究開発活動

当社グループは、ネットワーク、AI・IoT・コネクティッド、サービスの各分野において、実用的な研究開発と先端的・長期的な研究開発の両面に取り組んでまいりました。この結果、当連結会計年度における研究開発費の総額は24,007百万円となりました。なお、当社グループにおける研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。
研究開発活動の主なトピックスをご紹介します。
1.ネットワーク
次世代移動通信システム「5G」(以下、5G)の本格展開に向けて、ネットワークの構築コスト低減や用途に応じた柔軟なサービス提供が求められています。また、近年自然災害が多数発生し、被災者救助のために携帯電話の利用が困難なエリアでの通信手段確保に対するニーズが高まっています。以上の点を踏まえ、Telecom Infra Project(以下、TIP)への参画やオープンソースソフトウェア(以下、OSS)の活用、アニーリングマシンによる基地局パラメータ最適化、5Gの無線技術に5G専用のコアネットワーク設備を組み合わせた構成(以下、スタンドアローン構成)での実証実験、災害救助における携帯電話活用に関する研究開発等に取り組んできました。
TIPは、通信ネットワーク装置内のソフトウェアとハードウェアの分離によって装置のコスト削減を実現するとともに、通信インフラの高度化を後押しすることを目的として設立されたプロジェクトです。当社は、TIPにおけるテレコム分野のイノベーションを加速するための開発・検証施設であるTIP Community Labを日本で初めて東京都内に設立しました。また、TIPプロジェクト内に、新たにバッグボーンネットワークに関するサブグループを創設し、ルーターなどの装置に関してホワイトボックス化に向けた技術開発を推進します。
2019年6月には、OSSを活用したルーターを当社が開発し、WIDEプロジェクトが運用管理するネットワークに導入しました。WIDEプロジェクトでは、2019年1月からルーター開発に関するワーキンググループが発足し、当社は主要メンバーとして高速・高品質なIPネットワーク実現に貢献しています。こうした取り組みを通して、IPネットワークを構成する機器であるルーターの電力・スペース・コストの効率化を推進していきます。
量子コンピュータの一方式である量子アニーリングマシンの活用に向けた初期評価として、2019年11月にはデジタル回路によるアニーリングマシンを用いて、基地局のパラメータを最適化する技術検証を実施しました。基地局のパラメータ設定の組合せ数は膨大であり,従来のコンピュータで最適な設定を算出することは困難でした。本技術検証では、首都圏内の市街地にある基地局のパラメータをアニーリングマシンで最適化し、フィールド評価の結果、無線の品質改善に繋がることを確認しました。
5Gのスタンドアローン構成の実用化に向け、2020年2月には通信機器ベンダー各社と共同での実証実験に成功しました。スタンドアローン構成は4Gのコアネットワークを利用する5Gのノンスタンドアローン構成とは異なり、5G技術のみでエンドツーエンドの通信が可能となります。そのため、ネットワークスライシング技術やモバイル・エッジ・コンピューティング技術と組み合わせることで、「超高速」「多数同時接続」「低遅延」といった5Gの特長を最大限に引き出し、お客様のご要望に沿った多様な通信サービスの提供が可能となります。
2019年11月には国内で初めて、小型携帯電話基地局を搭載したヘリコプター(以下、ヘリコプター基地局)を用いて、携帯電話の利用が困難なエリアでの通信手段確保と迅速な救助活動を目的とした実証実験に成功しました。災害時に携帯電話サービスの提供が困難な状況においても、上空からの電波によりエリア化された範囲内において、一時的に携帯電話による通信が利用できることを確認しました。加えて、ヘリコプター基地局の移動管理機能により、携帯電話から発信される電波を捕捉することで、ヘリコプター基地局がカバーするエリア内の携帯電話の在圏状況や位置推定が可能になります。これにより、災害時に携帯電話サービスの提供が困難な場合においても、被災者の位置を特定し迅速に救助することが可能になります。
2.AI・IoT・コネクティッド
自動運転サービスの実証、雑談対話型AIを搭載したロボットの開発、IoTを活用した野生動物自動捕獲の実証実験等、高齢化や労働力不足等の社会課題解決を目指した研究開発に取り組んできました。
2019年6月から7月にかけて、茨城県常陸太田市での中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービス実証実験に参加しました。本実証実験は、中山間地域におけるファースト/ラストマイルサービスとしての自動運転サービスが導入される際に必要となる技術やサービス内容を検証・検討することを目的としております。当社は、運転手が存在しないレベル4自動運転に必要となる、遠隔からの車両運行監視システムを提供しました。こうした取り組みを通して、地域産業の高度化や豊かな交通社会の実現に貢献していきます。
2019年5月には、テレビ番組に連動し、視聴者の世代や顔ぶれに応じて幅広く話題を展開できる雑談対話型AIを搭載したロボットをNHK放送技術研究所と共同開発しました。本取り組みでは、視聴者の世代や顔ぶれに合わせた「対話パーソナライズ技術」、番組内容に連動しながら幅広い話題を楽しめる「話題連動型発展対話制御技術」を新たに開発しました。「対話パーソナライズ技術」は、夫婦で番組を視聴する場合、子供や孫と一緒に視聴する場合など、異なる場面に応じて適切な対話を実現します。また、「話題連動型発展対話制御技術」により、進行中の番組の話題と共通性を持ちながら、別の視点を持った話題を紹介したり他の雑談に発展させることが可能です。こうした取り組みを通して、ロボットとともにテレビを楽しむワクワク視聴ができる世界の実現を目指します。
2019年9月には、深刻な農作物被害をもたらしている野生イノシシによる被害低減のために、IoTを活用した自動捕獲の実証実験を開始しました。本実証実験では、設置した大型の囲いわなをスマートフォンやタブレットなどのモバイル機器から遠隔監視・遠隔操作する機能に加え、わな内外の獣の状況を判別して自動捕獲する機能を搭載したIoT自動捕獲システムを導入しました。これにより定期的な見廻りが省略できるほか、一度の捕獲頭数の増加やわなを回避する個体の発生防止など、捕獲の効率化が期待されます。
3.サービス
非通信領域の事業強化のため、エネルギー、コマース、エンターテインメント、ヘルスケア、災害医療など、幅広いサービスにつながる研究開発に取り組んできました。
2019年5月には2018年度に引き続き、経済産業省が実施する「平成31年度 需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント構築実証事業費補助金/VPPアグリゲーター事業」に採択されました。本実証事業では太陽光発電や蓄電池などの分散したエネルギーリソースを効率的に管理・制御し供給力・調整力として活用するバーチャルパワープラントの構築を行いました。また、2021年開設予定の需給調整市場への参加も視野に入れ、周波数調整制御をはじめとした市場の技術要件を満たす制御の確立とエネルギーリソースの種類・数量の拡大を目指し、技術開発を推進しました。
2019年10月には、ECサイトにおける推薦システムの信頼性向上を目的として、悪意のある攻撃者からデータポイズニング攻撃(システムからの出力を意図的に操作することを目的として、学習に用いるデータ集合に不正なデータを混入する攻撃)を受けた場合でも、意図的な閲覧履歴(以下、不正データ)を除去し、行動履歴からユーザの嗜好を正しく学習するAIの開発に成功しました。本AIを用いることで、ECサイト運営者は攻撃者からの影響を受けずに、ユーザの嗜好に合った商品の推薦が可能となりました。
2019年10月には、スポーツ選手の技術向上に役立てることができる、アスリート育成支援システムを開発しました。本システムでは、スポーツ行動認識AIを活用しスマートフォンで撮影した競技者の映像から65カ所の骨格点を抽出して競技者の動きを捉え、フォームや身体の使い方を認識し、分析することが可能です。加えて、センサー内蔵型ボールを使い、ボールの速度や回転数、回転軸などのデータと競技者の動きを組み合わせ、競技者の動きがボールに与える影響などを分析し、フォームの改善点などをアドバイスすることが可能です。
2019年7月には、人の咀嚼運動を検出するウェアラブル筋電計と、咀嚼運動をゲーム化するスマートフォン・アプリを開発しました。咀嚼運動には、肥満予防、歯周病の予防、脳の活性化による認知症予防などの、さまざまな効果があることが知られています。ウェアラブル筋電計は、小型軽量サイズで手軽に使用できるメガネ型で、Bluetoothでスマートフォンと接続し、咀嚼運動を含む筋電信号を送信します。スマートフォン・アプリは、受信した筋電信号を分析して咀嚼運動を検出し、検出結果に連動して進行するゲームアプリで、早食いを気付かせ、時間をかけてよく噛んで食事をすることへの意識付けを促します。
2019年8月には、5GとVRシステムを活用した災害医療対応支援と医療教育現場での遠隔教育に関する実証実験を行いました。災害医療対応支援では、災害現場に高精細の360度カメラを設置し、5Gを活用して映像をVR空間上に配信・投影し、VR空間内で医療従事者や消防機関が連携して現場を指揮・支援するシステムを構築しました。遠隔地からでも現場にいる職員に対して指示を出すことが可能となり、救命活動を円滑に進められることを確認しました。医療教育現場での遠隔教育では、5GとVRを組み合わせ、VR空間上での設備見学やディスカッションなどの双方向コミュニケーションに関する実証実験を行いました。設備の設置場所に置かれた高精細360度カメラから、5Gを活用してVR空間にその映像を配信・投影し、VR空間を複数の遠隔地にいる参加者が共有することで、集合が難しい場所でのバーチャル会議や高精細映像による遠隔からの設備視察などが可能になることを確認しました。