有価証券報告書-第36期(令和3年4月1日-令和4年3月31日)

【提出】
2022/06/24 15:01
【資料】
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【項目】
150項目

研究開発活動

当社グループは、通信を基盤とした様々なサービスの提供を目指し、AI、IoT、ロボット、6G、HAPS、自動運転や量子技術などの先端技術の研究開発を実施しています。「情報革命で人々を幸せに」という経営理念を実現し、通信を介してヒト・モノ・コトをつなぎお客さまに新たな体験や価値を提供するため、より良い技術の実現を目指して日々研究開発に取り組んでいます。
なお、当社グループの研究開発は複数のセグメント間に共通した基礎技術に関するものがほとんどであるため、特定のセグメントに区分して記載していません。
(研究開発活動の目的)
お客さまに対して最先端技術の製品を安定的に供給していくこと、および当社グループ内での情報通信技術の中長期的なロードマップを策定していくことを目標に、情報通信技術に関わる最先端技術の動向の把握、対外的なデモンストレーションを含む研究開発および事業化検討を目的としています。
(研究成果)
当連結会計年度における研究開発活動の主な成果は以下の通りです。
デジタルツインを活用した 『次世代AI都市シミュレーター』の研究開発を開始
国立大学法人東京大学、当社、小田急電鉄㈱および㈱グリッドの4者は、東京大学と当社が行うBeyond AI 研究推進機構の研究テーマの一つとして、来訪者の行動変容を促す人流誘導アルゴリズムを実装する『次世代AI都市シミュレーター』の研究開発において連携し、研究を開始しました。1日の乗降客数が10万人を超える小田急線海老名駅とその周辺地域を研究の対象とすることで、都市におけるAI活用の有用性を、効果的に検証します。
オンラインでの消費活動の普及や、新型コロナウイルス感染症拡大に伴って生活様式が大きく変化する中、新たな都市づくりに向けて、スマートシティに関する取り組みが加速しています。スマートシティの実現に当たっては、データの可視化や分析だけでなく、データによる予測を基に、人々に役立つ情報と価値を提供して人々の行動変容を促し、地域全体の最適化と活性化に貢献することが重要です。
地域におけるより多様なデータを活用し、人流誘導に加えて、エネルギーや物流の効率化など、環境負荷軽減に貢献する都市づくりの検討を進めます。また、今回の研究結果を基に、実用性・汎用性が高いソリューションの開発を進め、人と人を結び、地域への来訪者、住民、企業・自治体などの地域に関わる全ての人にとって価値のあるスマートシティの実現を目指します。
JR西日本と当社、「自動運転・隊列走行BRT」の実証実験を開始
西日本旅客鉄道㈱と当社は、自動運転と隊列走行技術を用いたバス高速輸送システムBRT(以下「自動運転・隊列走行BRT」)(注)の実証実験を専用テストコース(滋賀県野洲市)で開始しました。
両社は、まちづくりと連携した持続可能な地域交通としての次世代モビリティサービスの実現に向けて、「自動運転・隊列走行BRT」の開発プロジェクトを2020年3月に立ち上げました。このプロジェクトでは、日本初となる連節バスの自動運転化および自動運転バス車両の隊列走行の実用化を目指して、専用テストコースの設置など実証実験に向けた準備を進めてきました。このたび、専用テストコースの走行路が完成することに伴い、3種類の自動運転車両(連節バス・大型バス・小型バス)を用いて、車種が異なる自動運転車両が合流して隊列走行などを行う実証実験を開始しました。
テストコースでの実証実験を通して、「自動運転・隊列走行BRT」の技術確立とシステムの標準パッケージ化を目指し、2020年代半ばをめどに次世代モビリティサービスとして社会実装を進めていきます。
(注)Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム
ITU-RでHAPSの「電波伝搬推定法」の国際標準化を達成
当社と当社子会社であるHAPSモバイル㈱は、成層圏通信プラットフォーム(High Altitude Platform Station、以下「HAPS」)の移動通信システムを実現するために、高高度における電波の干渉量の推定と通信エリアの設計を行うことができる世界共通のモデルを新たに開発し、この新しいモデルが国際電気通信連合の無線通信部門(以下「ITU-R」)(注1)のHAPS向け「電波伝搬推定法」へ追加・改訂され、ITU-R勧告P.1409-2として発行されました(注2)。この推定法は、国内での審議を経て、日本案としてITU-Rに提案されたものです。当社とHAPSモバイルは、HAPS事業の実現に向けて、HAPSに係る電波伝搬モデルに関する国際標準化活動を行ってきました。両社が開発した新しいモデルが追加・改訂されたHAPS向け「電波伝搬推定法」が国際標準化を達成したことは、HAPSの事業展開を目指す世界の事業者にとっても大きな一歩となります。
今回の国際標準化により、HAPSの商用化を目指している世界各国の事業者は、この推定法を活用することで、電波干渉の影響などを踏まえ、既存の無線通信システムとの周波数の共用・共存の検討や、HAPSを活用した無線通信システムの設計を効果的に行うことができます。当社とHAPSモバイルの両社は、HAPSの商用化に向けた国際標準化活動をはじめ、各国の規制当局に対する働きかけやHAPSのエコシステム構築などを引き続き推進していきます。
(注1)国際電気通信連合(ITU)は、情報通信技術のための専門機関です。無線通信部門は、国際電気通信連合の部門の一つで、無線通信に関する標準化や勧告を行う機関です。傘下に数々のStudy Group(SG)を持ち、Recommendation(勧告)を策定しています。
(注2)2012年に国際標準化されたHAPS向け「電波伝搬推定法」に追加・改訂され、2021年10月にITU-R勧告P.1409-2として発行されました。
日本初、自動走行ロボットと信号機の連携による屋外配送に成功
当社と佐川急便㈱は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」の事業実施者として、2021年4月下旬に自動走行ロボットによる屋外配送の実証実験を実施し、日本で初めて(注)信号機と連携した屋外配送に成功しました。
今回の実証実験で、自動走行ロボットと信号機の連携システムを開発し、ロボットが信号機の表示情報を受信し表示に従って交差点を横断することで、公道を安全に走行しながら荷物を配送しました。また、走行時における荷物の温度変化および段差による衝撃を測定し、ロボットによる配送の有効性を確認した他、スマートフォンのアプリケーションで、ロボットの現在位置の確認や目的地到着時の通知受信機能についても実証を行いました。
当社と佐川急便は、今後も自動走行ロボットによる配送サービス実現に向けて実証実験を継続していきます。
(注)2021年6月15日時点(両社調べ)。
完全ワイヤレス社会の実現に向けたワイヤレス電力伝送の高周波化および通信との融合技術に関する
研究開発を推進
当社、国立大学法人京都大学および学校法人金沢工業大学は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の「Beyond 5G研究開発促進事業」に係る2021年度新規委託研究の公募(第1回)で、「完全ワイヤレス社会実現を目指したワイヤレス電力伝送の高周波化および通信との融合技術」が研究課題として採択され、共同研究を開始しました。
「Society 5.0」社会が到来することで、2035年には全世界のIoTデバイス数が1兆個に到達して、一人100台以上のIoTデバイスを扱うような世界になることが予測されています。近年、5Gの整備によって、膨大な通信トラフィックを処理できるネットワークインフラが構築されていますが、IoTデバイスのバッテリー交換や給電方法が課題になっています。バッテリー交換のコスト削減や給電方法の簡略化を実現するには、給電のワイヤレス化が重要なテーマです。また、Beyond 5Gの世界を見据えて、データのみではなく電力についてもワイヤレス化するといった、完全ワイヤレス社会の実現に向けた研究開発が必要になります。
完全ワイヤレス社会の実現に向けて、ワイヤレス電力伝送の高周波化や通信との融合・連携、基地局電波の電力利用などの技術について、研究開発を進める予定です。
上記の他、LINE㈱との経営統合により、主にAIやFintech等の研究開発費が増加し、当連結会計年度における研究開発費は42,802百万円となりました。