有価証券報告書-第35期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/24 15:01
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87項目

研究開発活動

中期経営戦略「Your Value Partner 2025」に基づき、世界に変革をもたらす革新的な研究開発を推進しました。その具体例として、2019年5月に発表したIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想に向けてグローバルを含む要素技術開発や産業での活用事例の創出に取り組むだけでなく、多様な領域で新たな価値創造の源泉となるため、様々な分野の産業界の方々とともに、産業競争力の強化や社会的課題の解決をめざす取り組みを推進しました。
なお、IOWNは主に、光技術を適用する「オールフォトニクス・ネットワーク」、サイバー空間上でモノやヒト同士の高度かつリアルタイムなインタラクションを可能とする「デジタルツインコンピューティング」、それらを含む様々なICTリソースを効率的に配備する「コグニティブ・ファウンデーション」の3つで構成されます。
○ IOWN構想を支える研究開発
・コンピュータの中で情報を処理・演算する装置であるプロセッサ内部の信号伝送を光で行うことで、電気での処理に起因する消費電力と発熱増大の問題を解決し、超低消費電力・高性能な情報処理を実現する光電融合プロセッサの実現をめざし、ナノフォトニクス技術を用いた光トランジスタ等、超小型光電変換素子を実現しました。
・現在の秒の基準である原子時計を超える精度を持つ光格子時計を複数つなぎ、時間の比較実験を行うために、国立大学法人東京大学との光周波数伝送実験をNTT東日本の光ファイバ網を使用して行いました。その結果、比較実験に必要な周波数精度を達成し、実験実施に向けて大きく前進しました。
・国立大学法人京都大学と、テクノロジーの進化と人が調和する新たな世界観を構築するプロジェクトを発足しました。哲学を始めとする人文・社会科学の知を活用し、リアルとバーチャルが融合する世界での新たな世界観の構築をめざします。
○ 研究開発のグローバル化
・2020年1月、業界におけるリーダーシップ及びIOWNの軸となる技術分野で優れた専門性を有するNTT・米Intel Corporation・ソニー株式会社の3社は、IOWN Global Forumを米国で設立しました。2020年3月からは広く会員募集を開始し、多くの国内外の企業がメンバーとして加入するとともに、オンライン会議を活用しながら、具体的な技術検討に着手しました。今後、様々なパートナーの皆さまとIOWN構想の早期実現をめざします。
・基礎研究の強化を目的に、2019年7月、3つの研究所を擁するNTT Research, Inc. を米国シリコンバレーに開設しました。量子計算科学、医療・健康・ヘルスケア、基礎暗号・ブロックチェーンの各分野において、米国や欧州の大学・研究機関等と共同研究を開始しています。
○ B2B2Xモデル推進及びデジタルトランスフォーメーションの推進に向けた研究開発
・米MLB(Major League Baseball)のライブビューイングにおいて、従来4台のカメラで撮影していたワイド映像を1台で撮影可能とする視差なしワイドカメラを活用したUltra Reality Viewing技術を実現しました。視差をなくすことにより被写体の正確な形状での撮影等を可能にしました。
・PSTNマイグレーションに向け、従来の電話網として使用されているメタルケーブルを継続利用したまま、変換装置を経てNTT東日本・NTT西日本のIP網(NGN)へつなげつつ、他事業者とのIPでの接続や、中継/信号交換機のIP化を可能とする基盤的技術を実現しました。
・国立大学法人北海道大学、岩見沢市と連携し、遠隔監視による無人状態での農機完全自動走行を実現するため、最適な測位・位置情報配信方式や、最適なネットワーク技術、IoT機器データの収集やAIによる分析について検証を開始しました。
○ その他最先端研究の推進
・国立大学法人東京工業大学と、超高速に動作する全光スイッチを世界最小の消費エネルギーで実現しました。プラズモニクスと呼ばれるナノサイズの光導波路に光を閉じ込める技術と、優れた光特性を有するグラフェンを結合させることで、電気制御では到達不可能な超高速スイッチ動作を低消費エネルギーで実現することに成功しました。この技術を用いることで、将来の光情報処理集積回路における超高速制御への活用をめざします。
・シート状の炭素材料であるグラフェンを自発的に円筒状の三次元構造に変形させ、その内部で神経細胞を長期培養することで、マイクロ~ミリメートルスケールの微小な神経細胞ファイバを再構築する手法の開発に成功しました。これにより、幹細胞を用いた再生医療の基盤技術や、損傷した生体組織に埋め込むフレキシブル刺激電極の作製技術、薬剤スクリーニングのための生体組織作製技術等、新たなバイオデバイス応用に繋がると期待されます。
・JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)と、地上と宇宙をシームレスにつなぐ超高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラの実現をめざした協定を締結しました。両者の技術融合による社会インフラ創出に向けて、宇宙光無線通信、次世代地球観測、低軌道衛星と地上局間通信等の分野で共同研究を実施します。
・電波の届きにくい海中の通信エリア化に向け、海中の伝搬路変動を克服する超音波MIMO多重伝送技術により、現在より2桁高速な1Mbit/sの海中通信を実現しました。
これらの研究開発活動に取り組んだ結果、当事業年度において当社が要した費用の総額は1,023億円(前期比3.1%増)となり、その対価として、基盤的研究開発収入1,005億円(前期比2.6%増)を得ました。
なお、当連結会計年度における各セグメントの研究開発の概要は、次のとおりです。
セグメントの名称金額
(百万円)
摘 要
移動通信事業92,804通信事業の競争力強化に向けた移動通信ネットワークの高機能化、及びスマートライフ事業の拡大をめざしたサービスやデバイスの分野におけるイノベーション創出に向けた研究開発等
地域通信事業84,091IP・ブロードバンド化の進展、ユーザニーズの多様化に対応するアクセスサービスの拡充及び付加価値の高いサービスの研究開発等
長距離・国際通信事業20,392IPネットワークからプラットフォームの分野における高い付加価値をもったサービス開発等
データ通信事業21,793システムインテグレーションの競争力強化に向けた技術開発等
その他の事業106,311ICT社会の発展を支える高度なネットワークと新サービスを実現する基盤技術や、環境負荷低減に貢献する技術、通信・情報分野に大きな技術革新をもたらす新原理・新部品・新素材技術に関する研究開発等
小計325,391
セグメント間取引消去100,500
合計224,891