有価証券報告書-第172期(令和2年1月1日-令和2年12月31日)

【提出】
2021/03/26 14:41
【資料】
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【項目】
139項目

事業等のリスク

当社グループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を以下に記載しています。ただし、すべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見出来ない、または重要と見なされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。当社グループではこのような経営及び事業リスクを最小化するとともに、これらを機会として活かすための様々な対応および仕組み作りを行っております。
なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。
当社グループのリスク管理体制
当社グループでは、下図のようなコーポレートガバナンス体制の下、経営目標の達成を阻害する将来の不確実な要因としてのリスクの管理を所管する内部統制・リスク委員会を設置しています。2020年は内部統制・リスク委員会を3回開催し、ERM(Enterprise Risk Management: 全社的リスクマネジメント)のアプローチを基軸に、グループ経営上重要なリスクを識別・評価し、そのリスクの顕在化の予防および顕在化した場合の影響の最小化のため、リスク・スポンサーを選定、リスク対応計画の策定と実施を委任し、その対応状況のモニタリングを定期的に行っていました。
また、国内事業である電通ジャパンネットワーク(以下、DJN)に内部統制・リスク委員会、海外事業である電通インターナショナル(以下、DI)にリスク委員会を設置し、同様のリスク管理活動を行っています。2020年は、DJN内部統制・リスク委員会を6回、DIのリスク委員会を4回開催いたしました。
コーポレートガバナンス体制

(1) 景気変動ならびにコロナ禍が加速する社会的変革に伴うリスク
当社グループの業績は、景気によって主要な顧客である企業からの予算が増減されることが多いため、景気変動の影響を受けやすい傾向があります。とりわけ、新型コロナウイルスの世界的蔓延に伴うマクロ経済の減速の継続が、当社グループの業績に引き続き悪影響を及ぼす可能性があります。コロナ禍の影響は、経済面に留まらず、生活者の意識と行動様式の変化を加速させ、企業も、D2Cコマースのチャネル構築やデジタルトランスフォーメーションの実装など企業活動の本質的な転換が迫られる中、当社グループへの顧客のニーズは、従来の広告・コミュニケーション領域を超え、高度化・複合化しており、当社グループが適切な対応ができない場合は、中長期的な事業成長に悪影響を及ぼす可能性があります。
(2) 中長期の視点での新たなビジネス開発に伴うリスク
当社グループは、上記のような事業環境の変化に速やかに対応し、新たな事業機会を的確に捉えるための事業変革を企図した「中期経営計画―構造改革と事業変革による持続的な成長の実現―」を策定し、2021年2月に発表いたしました。本計画では、広告マーケティングで培ったノウハウをデータとテクノロジーと融合し進化させるとともに、「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」事業と位置付けた顧客企業の事業変革を支援する領域の強化による成長戦略の実践を骨子のひとつとしています。しかしながら、グループ内のイノベーションの不足、生活者動向の読み違い、過度に楽観的な事業計画、共同事業パートナーとの交渉難航などの理由で、これらのビジネス開発が中長期的に収益化できず、当社グループの業績に悪影響が出る可能性があります。また、仮に中長期的に収益化できる事業であっても、投下した資本の回収に遅延が出た場合、一時的に当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(3) 人材に係るリスク
当社グループの成長力および競争力は、優秀な人材の獲得と維持に依存します。
そのため、労働市場の逼迫による人材不足等に起因して、当社グループが必要な人材を十分に確保できない場合、顧客への高付加価値のサービス提供ができずに当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループの「中期経営計画―構造改革と事業変革による持続的な成長の実現―」の実現のためには、社員のエンゲージメントが重要であり、グループ内で、ダイバーシティ&インクルージョンなどを含めたビジョンや価値観を実行できなかった場合、あるいは社員のモチベーションを保つことができなかった場合、社員のロイヤルティが低くなり、優秀な人材を惹きつけ維持することが難しくなるリスクが存在します。
当社グループは、長期的に目指す方向性として「an invitation to the never before.」というタグラインと8つの行動指針「8 WAYS」からなる新しいビジョン&バリューを掲げ、世界中の電通グループ内の企業・個人、さらには外部パートナーとの価値創造に向けたチーミングを推進・加速することで、多様性を競争力につなげていく企業風土の浸透に取り組んでいます。
(4)事業の構造改革に係るリスク
当社グループは、事業・競争環境の急速な変化に対応するため、構造改革の加速を決定しました。海外事業においては、2年間で、現在160以上あるエージェンシーブランドの数を6つのグローバルリーダーシップブランドへ統合します。また、国内事業においては、「ビジネスフォーメーションの変革」「人財フォーメーションの変革」「オフィス環境の進化」を推進します。この構造改革により、新たな事業モデルの導入を加速してクライアントへより良いサービスを提供し、従業員満足度の向上、収益の拡大およびオペレーティング・マージンの改善を目指します。しかしながら、同構造改革が想定通りに進まなかった場合、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(5)既存の広告業界の競争環境と構造変化に起因するリスク
① 広告業界競合社との価格競争のリスク
当社グループは、国内・海外を問わず、競合する広告会社グループやデジタルエージェンシーグループとの競争にさらされており、顧客企業における潜在的なマーケティング予算削減のニーズに対し、とりわけメディアプランニング・バイイングの領域において、価格競争が激化する恐れもあります。
当社グループは、長年の経験で培った生活者インサイトと統合されたソリューションを提供しており、このような高付加価値を引き続き提供することで、競合社との差別化が図られ、強固な顧客との関係性を維持し、過度の価格競争を回避できると考えております。
② グローバル企業の扱い喪失リスク
当社グループの顧客には、グローバルレベルで事業を展開する企業が多数含まれます。これらの顧客は、広告キャンペーンの統一性を担保する必要性や効率的な運用の観点から、グローバルレベル(あるいはAPAC等の地域レベル)で取り扱い広告会社を選定する入札(グローバルピッチ)を実施することがあります。グローバルピッチは対象となるメディア予算などの取扱高が多額になる傾向があります。
今後、当社グループの既存顧客が実施するグローバルピッチで当社グループが敗北した場合、当社グループの収益減少につながる可能性があります。または、これらのピッチで勝利するために従来よりも低マージンでの受注を余儀なくされた場合、当社グループのオペレーティング・マージンの悪化につながる可能性があります。
一方、そういったクライアントに対して、提供する価値に対する正当な対価を得るため、全社的な取り組みを推進しております。
③ メディア環境の構造変化に伴うリスク
生活者を取り巻くメディア環境は、イノベーションを背景に、グローバルレベルで大きくデジタルへとシフトしています。当社グループは、このメディア環境の構造変化を商機と捉え、次世代のメディアにグループのリソースを柔軟に配分・投下し、常に最新の生活者の行動原理に合わせたマーケティングソリューションを顧客企業に提供しています。
しかしながら、当社グループが、メディア環境の構造変化に迅速かつ適切に対応できない場合、メディアからの収益の喪失、顧客との関係性の悪化などに繋がり、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、このメディア環境の構造変化は、国・地域ごとに異なる形態および時間軸で進行しており、当社グループが、一部の国・地域において、この潮流に乗り遅れるリスクもあります。
④ 他業種との競争の拡大
当社グループは、同業の広告会社グループやデジタルエージェンシーグループとの競争に加え、この数年でコンサルタント、テックカンパニーなど他業種との新たな競争にさらされています。顧客からの広告・マーケティング活動の効率化・最適化の要求が強まり、生活者ひとりひとりにカスタマイズしたマーケティング・コミュニケーションへの要求が高まる中、データアナリティクス領域、カスタマーエクスペリエンス(CX)領域、コンサルティング領域の企業と競合するケースが増えております。
今後、当社グループの既存の基軸事業である広告マーケティング領域と他領域の間の境界線が今後ますます曖昧になり、他業種との競争が激化した場合、当社グループの収益の一部を他業種の競合社に奪われる可能性があります
当社グループは、この業界構造の変化を商機と捉え、広告マーケティングで培ったノウハウを、データとテクノロジーと融合して進化させ、コンシューマー・インテリジェンスを活用した統合ソリュ―ションを提供するモデルを確立していきます。
⑤ 海外におけるインハウス化の潮流
この数年、海外の広告市場、とりわけ米国市場を中心に、顧客企業が従来広告会社に外注してきたマーケティング活動の一部を顧客内部で実施する潮流(インハウス化)が広がっており、旧来型の広告会社の提供サービスへの需要が減るとともに、顧客のインハウス化を支援できるコンサルティング機能への需要が高まっています。
当社グループは、CXマーケティング・サービスラインを中心にこの潮流に対応したコンサルティング機能の強化を図っておりますが、当社グループ傘下の一部の広告会社は、この潮流の影響を受けて収益が減少する可能性があります。
(6) コンテンツ事業に係るリスク
当社グループは、国内・海外を問わず、映画への制作出資やスポーツイベントの放送権の仕入販売などのコンテンツ事業を展開しております。これらのコンテンツ事業には、収入を得る前に支払が先行するもの、収支計画が多年度にわたるものが多く含まれております。また、大型のスポーツイベントの協賛権や放送権の獲得などには多額の財務的コミットメントを必要とするものもあります。
当社グループはこれらのコンテンツ事業領域に長く従事しているため一定の精度で収支計画を立てる知見を有しており、また多くのコンテンツ事業案件をポートフォリオとして管理することでコンテンツ事業のリスク分散を図っております。
しかしながら、コンテンツ事業の収入を左右する生活者の反応を確実に予測することは困難であり、案件が収支計画通りに進捗しない場合、また、当社グループによる仕入金額を下回る金額でしか協賛権や放送権を顧客に販売できない場合、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(7)DI社に係るのれんおよび無形資産の減損リスク
当社は2013年3月の英国の大手広告会社Aegis Group plc(以下、イージス社)買収後、当社グループの海外事業の推進を一本化して現電通インターナショナル社(以下、DI社、旧電通イージス・ネットワーク社)に再編しました。
当社グループは、イージス社の買収、およびその後DI社がグローバルレベルで実施した、多数の会社の買収に伴い、多額ののれんおよび無形資産を計上しております。
当社グループは、主に海外事業における業績の低迷やコロナ禍によりさらに高まる事業環境の不透明感を踏まえ、2020年は毎四半期末に減損テストを実施してきました。その結果、コロナ禍の長期化によりさらに高まる事業環境の不透明化を考慮し、2020年度決算で海外事業において1,403億円ののれん減損損失を計上しました。
今後の減損テストの結果、再び減損損失が発生した場合、当社グループの業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(8)情報セキュリティ・サイバーセキュリティに係るリスク
当社グループは、その業務遂行の過程で、顧客企業の未公開の商品・サービス情報や事業戦略に係る情報を受領することが頻繁にあります。当社グループでは情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格を取得するなど、情報管理には万全を期しておりますが、万一情報漏えい等の事故が発生した場合、当社グループの信頼性が損なわれ、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、想定外の外部サイバー攻撃、従業員またはサプライヤのアクションによって、重大なビジネスシステムおよびデータの機密性、完全性または可用性が脅かされ、その結果、重大な運用・規制・財務・レピュテーション上の、またはクライアントへの影響が生じる可能性があります。
当社グループでは、セキュリティリスクへの対応を確かなものとするため、国内・海外のネットワークのセキュリティ部門を束ねるグループ・セキュリティ機能を設け、進化する脅威の需要協を継続的に評価し、ERMアプローチに沿ったリスク管理とコントロールの有効性評価を行っています。
(9)法規制・訴訟等に係るリスク
① 労働法規に違反するリスク
当社グループは、社員ひとりひとりが恒常的に良好なコンディションを維持できる労働環境を整えることを経営の最優先課題の1つとして取り組んでおりますが、同労働環境の整備が維持できない場合、当社グループの社員のモチベーションおよびパフォーマンスの低下、優秀な社員の外部流出、多様性ある人材の獲得の困難化などの事態が発生し、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当社の完全子会社である株式会社電通を中心に2017年度から継続的に取り組んでいる労働環境改革により、国内における社員の労働環境は着実に改善されているものの、労務管理上の不祥事が再発した場合、当社グループのレピュテーションが大きく悪化する可能性があります。
② 個人情報等に係るリスク
当社グループは、その業務遂行の過程で、顧客企業にとっての既存顧客・潜在顧客の個人情報を受領することがあります。また、顧客企業からの消費者ひとりひとりにカスタマイズしたマーケティング・コミュニケーションへの要求が高まる中、パーソナルデータを利活用した商品・サービスを開発して顧客企業に提供しております。
当社グループは、国内・海外を問わず、個人情報保護法およびEU一般データ保護規則等の法令または諸規制を遵守し、また、これら法令または諸規制の改定に迅速に対応しており、現時点においてこれらの法令または諸規制が当社グループの事業に悪影響を及ぼすことは想定しておりません。しかしながら、万一個人情報の漏えい等の事故が発生した場合、当社グループの信頼性が損なわれ、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、今後、これら法令または諸規制が改定され、一方、倫理的な観点から、当社グループのパーソナルデータの利活用に何らかの制限が課され、商品・サービスの一部を顧客企業に提供できなくなった場合、当社グループの事業に悪影響を及ぼす可能性があります。
③ 訴訟等に係るリスク
現在、当社グループは、その業績に重大な影響を及ぼし得る訴訟等を抱えておりません。しかしながら、当社グループが広範な領域にわたり遂行している事業は、国内・海外を問わず、常に顧客・媒体社・協力会社等から訴訟を提起されるリスクを内包しております。
(10)災害、事故等に関わるリスク
当社グループが事業を遂行または展開する地域において、自然災害、電力その他の社会的インフラの障害、通信・放送の障害、流通の混乱、大規模な事故、伝染病、パンデミックの再発、戦争、テロ、政情不安、社会不安等が起こった場合には、当社グループ又は当社グループの取引先の事業活動に悪影響を及ぼし、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、地域・マーケット毎に想定される上記の問題に対し、DJNならびにDIのリスク委員会において、クライシス・マネジメントや事業継続計画(BCP)を定期的に検討しております。