有価証券報告書-第48期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/30 16:47
【資料】
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【項目】
153項目

研究開発活動

当連結会計年度の研究開発活動は、科学技術の急速な進展により医薬品の開発環境が大きく変化している中、新しい環境にも迅速に対応した質の高い開発支援ができるよう、当社グループの各セグメントにおいて最先端と思われる技術を開発利用しております。
当連結会計年度における研究開発費は、392,238千円であり、各セグメント別の研究開発活動は、次のとおりであります。
(1) CRO事業
当社の安全性研究所及び薬物代謝分析センターをはじめとする研究施設では、迅速で質の高い試験成績を委託者に提供できるよう、バックグラウンドデータの蓄積や解析を行うだけではなく、事前検討の実施や新技術獲得のための基礎研究や技術改良に日々取り組んでおります。また、いずれの施設も動物福祉に積極的に取り組み、国際的な認証団体であるAAALAC Internationalにより適合施設として認証されております。
医薬品の主流は、低分子化合物から抗体や核酸、ペプチドに代表されるバイオ医薬品、iPS細胞に代表される再生医療あるいは遺伝子治療に移行しております。当社は、これらの業界の動きに対応するため、種々の評価系や試験系の検討を実施しております。例えば、抗体医薬ではこれまで日本では受託できる機関がなかった組織交差反応性試験を立ち上げ受託実績を積み上げました。抗体の特性評価をより詳細に実施するためのキャピラリー電気泳動や免疫学的測定法の一つであるELISAの自動測定装置Gyrolabでの受託も開始しております。さらに、既存技術より高感度でバイオマーカーを測定できる高感度免疫分析装置ErennaやElispotを用いた受託では、高品質な測定結果について製薬企業より評価頂いております。抗体医薬は霊長類のみに反応性がみられるものが殆どであり、日本で唯一の霊長類を用いた生殖発生毒性試験を実施できる施設として、次世代への影響を評価する試験実績を増やしております。
再生医療の分野では、iPS細胞を含む各細胞の機能解析にも応用可能な高機能細胞分析装置Attune NxTを導入し、研究受託機器を強化しております。Attune NxTのような高機能細胞分析装置を導入しているCROはほとんどないため、既に臨床検体の解析等も受託しており、前臨床だけでなく臨床試験の受託増加が見込めます。
近年新規ながん治療として注目されているがん免疫療法の分野におきましても、その有効性評価が可能な細胞機能解析装置であるフローサイトメーターを導入しました。当該機種LSRFortessa X-20は、国内CROでいち早く立ち上げ、非臨床分野のみならず、臨床分野にも応用可能な高性能機種です。
遺伝子治療の領域では、PCR装置を用いた評価系が必須となっております。当社では他社に先駆けてPCR検査エリアの設置と処理能力の増強を図りました。その上で、第二世代のdigital droplet PCRを2020年に導入し、実績を積み上げております。
また、霊長類の感染実験が実施可能な施設を活用し、各種ウイルスに対するワクチンなどに関して企業や大学との共同研究を行っており、フェレットやマウスを用いた感染実験も確立しております。
これまでの安全性研究所における収益の柱であった安全性評価に加え、近年では医薬品の有効性評価に関わる業績が向上しております。特に当社は霊長類を用いた前臨床試験では国内でトップクラスの業績を有しており、これまで培ってきた実績を基礎に霊長類を主体とした各種病態モデルを確立し、臨床への外挿性が高い有効性評価手法が国内外の製薬企業より評価を頂いております。それら病態モデルの中でも、臨床でiPS細胞の適用が進められている加齢性黄斑変性症の薬効試験は国内でも少数の試験施設でしか受託体制は整っていないため、当該モデルの確立後から既に複数試験の受託をしております。引き続き、加齢黄斑変性症のみならず、時代に応じて変化する創薬ニーズに対応した新しい病態モデルの確立も積極的に進めております。
また、有効性評価の実績には、業界に先駆けて導入を進めた各種イメージング機器を用いた前臨床試験数の増加も寄与しております。当社で導入しているMRI、CT、及び血管造影装置はすべて臨床でも使用している機器となります。そのうち近年更新したMRIでは脳活動の機能的評価も可能となりました。すなわち、サルなどの大動物を用いてヒトと近似の病態モデルを作出し、ヒトと同じ機器を用いて動物を傷つけることなく薬物の評価を継時的にできる技術が高く評価されております。従来、前臨床試験ではイメージングを用いた有効性評価及び安全性評価は一般的ではありませんでしたが、新薬創出の難易度が高まり、動物福祉のさらなる向上が求められている製薬業界において、イメージングを用いた新しい評価系へのニーズは国内外の製薬企業を問わず今後も増加することが予想されます。
これらの研究活動には、外部アカデミア等との共同研究も含まれております。すなわち、京都大学iPS細胞研究所とは再生医療分野の安全性研究について、岐阜薬科大学とは寄附講座を開設した上で眼科疾患を中心とした病態モデル作出について、九州大学とは共同研究講座を開設した上でがん免疫研究について協働しております。
なお、これらの研究成果については海外や国内の学会等において発表したり、国内外の学術雑誌へ論文として掲載されたりしております。
以上の活動における研究開発費は、181,359千円であります。
(2) トランスレーショナル リサーチ(TR)事業
TRカンパニーにおいては、血液-脳関門の存在により、静脈注射でも脳内に送達できない薬物につき、経鼻投与技術(NDS)の新たな応用として鼻から脳へと薬物を送達させる技術(Nose-to-Brain送達技術)の研究開発活動に注力しております。中枢神経疾患に有効な薬品へのアンメットメディカルニーズは非常に高く、治療薬の開発は製薬企業における重点領域となっています。本技術研究では、細胞間隙から脳への通過を実証解析するのみならず、薬物を能動的に中枢神経細胞へ移行させるメカニズムを探索しております。鼻腔内標的である嗅部への薬物送達、そこから脳内への送達、さらに脳内分布や薬効判定などをいかに安全に効率的に行うかについて、神経細胞の培養実験や外部アカデミアと共同して、薬物の脳移行イメージング解析などを駆使しながら鋭意研究を進めております。中枢における様々な薬物の動態解析方法や既存薬の新規薬理作用を同定して、具体的な開発薬品を定め臨床研究ステージへと飛躍させることを目標といたします。併せて大手製薬企業との共同研究を幅広くおこなう予定です。
一方、NDSを用いた従来型の薬物吸収フィージビリティ試験や自社での製剤研究結果を用いて、国内外での事業化のために自社開発候補化合物を複数特定しております。また的確な鼻内部位への送達と低価格化を実現すべく、新規デバイスのプロトタイプが創出されております。製剤研究については、外部機関との協働をも検討しており、当カンパニーの重点領域と考えております。当社よりスピンアウトした経鼻偏頭痛薬の開発会社である Satsuma Pharmaceuticals, Inc. (米国 カリフォルニア州)は、2019年3月に米国NASDAQ市場への上場を遂げ、複数の第Ⅲ相臨床試験を施行中であり、当カンパニーは引き続きその研究開発支援をおこないます。また、神経変性疾患の患者に対してレスキュー投与で速やかに症状の改善を目的とする治療薬の臨床開発を担う株式会社SNLDが、2020年10月に当社の完全子会社として設立され、国内での第1相臨床試験を準備中です。
さらに、基礎研究室をカンパニー内に設置しました。遺伝子情報をwet(実験)とdry(大容量ICT)の両環境で扱い、特定の疾患で発現遺伝子の量的変化を解析し、マーカーの同定や治療法の特定に寄与することを目標としています。現在、神奈川がんセンター等のアカデミアと共同研究を進めております。
以上の活動における研究開発費は、145,787千円であります。
(3) その他
その他の研究開発費は、65,091千円であります。