有価証券報告書-第11期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/06/24 14:49
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159項目

研究開発活動

当社グループ(当社および連結子会社)は、当社、雪印種苗㈱および雪印ビーンスターク㈱を中心に、コーポレートスローガン「未来は、ミルクの中にある。」に基づき、事業戦略上急務となっている研究開発課題や、中長期的成長の基盤となる基礎研究を幅広く実施しております。
原材料価格の高騰による調達コストの上昇、また国内外の乳・乳製品需給が変動する中、環境変化を先取りして消費者に受け入れられる商品を継続的に提案するために、乳(ミルク)の価値を中軸に「市場対応型商品」と「付加価値型商品」を両輪とした商品開発を行っております。また、商品開発を支える研究開発として、乳(ミルク)の機能を中心として「おいしさ」と「健康機能」の追及を主軸とした基礎研究と技術開発に取り組んでおります。
当連結会計年度の研究開発費の総額は4,297百万円です。
各セグメント別の主な研究開発活動は次のとおりです。
〈乳製品〉
当連結会計年度の研究開発費の総額は1,873百万円です。
●当社
チーズカテゴリーにおいては、かつお節やいぶりがっこなど日本人の食生活に古くから親しまれている燻製に着目し、スモーキーな香りをまとった商品を上市致しました。6Pチーズのバラエティ商品として「6Pチーズスモーク味」、スライスチーズの新たな提案となる「スモーク香るスライスチーズ」、一口サイズでプリっとした外側となめらかな内側の絶妙な食感のコントラストを楽しめるスモークチーズ「なめらかスモークチーズ」を発売。伸長するベビーチーズカテゴリーにはナチュラルチーズが気軽に楽しめる「ブルーチーズ入りベビーチーズ」、焦がした醤油の芳ばしい風味のある「焦がし醤油ベビーチーズ」を発売し、消費税増税後の高まる家飲み需要に対応致しました。またチーズをよりおいしく食べる提案として、16種類の穀物を配合、香ばしい風味とサクッとした食感を実現した「チーズのための玄米クラッカー」を発売致しました。
油脂カテゴリーにおいては、若年層のマーガリン需要獲得を図るため、不二家の「ミルキー」の味が楽しめる「ミルキーソフト」の第三段として「ミルキーソフト いちご味」を発売致しました。
今後も様々な食シーンの提案と、たゆまざる商品力向上へ取り組んで参ります。
乳製品事業における「おいしさ」と「健康機能」に関する研究を行い、おいしさを構成する技術と、当社独自の乳製品の健康機能の深耕を目的に検討を行い、得られた研究成果(新知見、新技術、新手法など)を乳製品の商品開発と商品力強化、および当社独自の機能性素材の価値向上に活用致しました。
主な研究成果は以下の通りです。
・ゴーダチーズの熟成を制御することを目的に、チーズ水分を吸収するアクティブ包装(脱酸素剤・乾燥剤を備えたバリアカップ包装)を用いてゴーダチーズを熟成させ、熟成と風味に与える影響を評価した。その結果、アクティブ包装したゴーダチーズは、リンデッド製法と同様に高い嗜好評点が得られ、アクティブ包装によりゴーダチーズの熟成を制御が出来る可能性が示唆された。
・マーガリンにおけるトリアシルグリセロール(TAG)組成および物理的特性が、マーガリンのざらつきの原因となる粗大結晶形成の挙動に及ぼす影響を調べた。TAG組成が異なる配合のモデルマーガリンを急冷固化し、保存中の結晶化挙動を偏光顕微鏡観察、X線回折、SFC(固体脂含量)測定により評価した結果、油脂結晶の粗大化はTAG組成とSFCの影響を複合的に受けることが示唆された。
・ナチュラルチーズの発酵中の代謝過程の評価に、SPME-GC/MS法を用いた香気成分分析、溶媒抽出-GC/MS法を用いたメタボロミクス技術が適用可能かを検証した。試験管内にて10gのモデルカビ系チーズを調製し、発酵中の経時的な成分解析を実施した。その結果、ジアセチルの分解過程などの公知の代謝過程だけでなく、香気成分前駆物質から香気成分への生成過程を評価できた。以上より、今回の分析法はナチュラルチーズの香気成分制御における発酵条件検討に有用である可能性が示唆された。
これらの研究成果は日本包装学会での発表と、論文としてJournal of American Oil Chemists' Society、Journal of Bioscience and Bioengineeringに掲載致しました。
●雪印ビーンスターク㈱
「赤ちゃんとお母さんをはじめ、家族の健康といきいきしたくらしをサポート」する商品をお客様にご提供するために、「母乳調査研究」、「乳幼児の食生活実態調査」をはじめとする赤ちゃんに関する調査研究、「妊産婦・授乳婦の食事調査」などの調査研究を実施しています。これらの調査研究をもとに、粉ミルク・ベビーフードなどの赤ちゃん向け商品、お母さんのための母親向け商品、シニア世代の健康をサポートする機能性食品などの幅広い商品の開発を行っています。
今年度は、当社の基幹商品の新生児からの乳児用調製粉乳「ビーンスターク・すこやかM1」、ならびに9か月齢からのフォローアップミルク「ビーンスターク・つよいこ」を上期にリニューアル発売しました。「すこやかM1」は、2015年から雪印メグミルク㈱と共同で開始した第3回全国母乳調査における研究成果を生かし、日本で初めて乳児用調製粉乳に「オステオポンチン」を配合しました。
当社初となる乳児用調製液状乳「ビーンスターク・液体ミルク すこやかM1」は、乳児用調製粉乳「ビーンスターク・すこやかM1」と同じ開発思想を基に、「オステオポンチン」「DHA」等の成分を配合し、2020年4月に発売致しました。
女性の社会活躍が進む中での、妊娠中、授乳中、子育て中の女性向け商品として、指定医薬部外品「ビーンスタークマム ママスマイル」を2020年3月に発売致しました。つらい疲れを回復し、肌の不調を改善する、レモン・ライム風味のミニドリンクです。
2018年度に発売した、大人のための“粉ミルク型サプリメント”「プラチナミルク for バランス」は、風味を改良して2020年2月よりリニューアル発売致しました。
当社初となる機能性表示食品「整腸のプロバイオ」を、2020年2月に発売致しました。お通じの改善のために、1日1回6滴で10億個の生きて届くビフィズス菌がとれるオイルタイプのサプリメントです。60℃以下の料理や飲み物に振りかけて使用します。又、機能性表示食品「大人のDHA&EPA」を2020年3月に発売致しました。中高年の気になる中性脂肪を低下し、記憶をサポートするソフトカプセル型のサプリメントです。1日5粒で手軽に有効量のDHAとEPAを摂取することができます。
研究開発では、雪印メグミルク㈱と当社による第3回全国母乳調査を継続して実施しています。今年度は、第52回欧州小児消化器肝臓栄養学会年次総会(イギリス)において、母乳の主要栄養素濃度は分娩後日数経過に応じて変化すること、および新たに母親のn-3系脂肪酸摂取量が母乳中のたんぱく質濃度に関係する可能性を報告しました。さらに、母乳調査研究の参加者募集が完了したことから、本調査研究の概要を明らかにした論文を、学術雑誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に秋田大学大学院医学系研究科と共同で執筆投稿し、オンライン掲載されました(2020年3月13日付)。今後は、収集した母乳の成分と対応する母子の背景情報との関連性を調べてまいります。
〈飲料・デザート類〉
当連結会計年度の研究開発費の総額は1,479百万円です。
●当社
牛乳・乳飲料カテゴリーにおいては、「毎日骨太MBP®」(900ml、500ml)、「毎日骨太MBP® 1日分のカルシウム」(LL200ml)および「アカディおなかにやさしく」(900ml、500ml、180ml)を新たな位置づけの商品として発売致しました。「毎日骨太MBP®」は、乳脂肪率を従来の1.0%から1.8%に引き上げ、よりミルクらしい味わいに近づけ、毎日続けやすいおいしさを目指しました。「アカディおなかにやさしく」は、乳糖を分解しながらも「おいしさ特許製法」により、牛乳らしい味わいに仕立てています。いずれも大容量タイプ(900ml)は、「ピュアパックセンス ウェーブ」という口栓付き容器を日本で初採用しました。また、たっぷりボトルで楽しめる本格ラテの「BOTTLATTE」シリーズ(400ml)の容器をスリムタイプの容器(300ml)に変更し、「Bottlatte&Go」シリーズとして3品(カフェラテ、エスプレッソラテ、ロイヤルミルクティ)を発売致しました。持ち運びしやすいスリムな形状、簡単開封できる内フタがないキャップにすることにより、利便性・携帯性を向上させ、さらなる飲用シーンの拡大を目指します。
ヨーグルトカテゴリーでは、「目や鼻の不快感を緩和する」機能で機能性表示食品の届出を完了し、当社独自の乳酸菌である「乳酸菌ヘルベ」を使用したドリンクタイプのヨーグルトを発売致しました。「恵 megumi」ブランドにおいては、シリーズ全体のパッケージデザインをリニューアルしました。商品名のロゴやアイコンを躍動感のあるデザインにして視認性を高め、機能性表示食品の「ガセリ菌SP株ヨーグルト」シリーズは、キャッチコピーを短くして、保健機能「内臓脂肪を減らす」を見やすく表示致しました。
デザートカテゴリーでは、当社が得意とする「チーズ」と、長年培ってきた独自の技術を持つ「デザート」を融合させてつくり上げた、多層で楽しめるチーズスイーツとして、「CHEESE MEETS SWEETS 濃厚チーズプリン」と「CHEESE MEETS SWEETS すっきりレアチーズ」を発売致しました。また、アジアのカフェで出逢えるおいしいデザートをイメージして作った「アジア茶房」ブランドにおいて、アジアンスイーツを2層で楽しむ商品を2品(杏仁マンゴー、黒ごま白ごまプリン)発売致しました。
飲料・デザート類事業における「おいしさ」、「健康機能」に関する研究では、主に当社独自のプロバイオティクス乳酸菌や乳素材の機能性の深耕を目的に検討を行い、得られた研究成果(新知見、新技術、新手法など)を「ヨーグルト」、「牛乳、乳飲料」などの商品開発に応用し、商品力強化に活用致しました。
主な研究は以下の通りです。
・Lactobacillus helveticus SBT2171(以下、LH2171)の口内環境改善作用とそのメカニズムの検討を行った。その結果、LH2171が口腔内で抗菌ペプチドの発現を上昇させることで歯周病の原因となる歯周病菌の増殖を抑制し、歯肉組織の炎症を抑制する可能性が示された。
・当社保有の乳酸菌を加齢線虫に投与した結果、乳酸菌の中でも特にヘテロ発酵を行うLactobacillus属が、加齢線虫における温度記憶能力の低下を抑制した。また、加齢線虫における記憶能力の低下の抑制は、単なる寿命延長や運動機能の維持とは独立した機構であることが示唆された。
・女性長距離ランナー(大学生)に半年間40mgのMBPを摂取して貰い、その結果、MBP摂取前は高骨代謝状態であったが、MBP摂取により、過剰な骨代謝は抑制された。また、MBP摂取期間中に疲労骨折は発生しなかった。MBPの摂取により、若齢女性アスリートの過剰な骨代謝を抑制して骨質を改善する可能性を見出した。
これらの研究成果は、日本栄養・食糧学会大会、日本分子生物学会などの各学会での発表の他、論文として体力・栄養・免疫学雑誌に掲載致しました。
〈飼料・種苗〉
当連結会計年度の研究開発費の総額は945百万円です。
●雪印種苗㈱
飼料分野では草地における雑草比率増加や異常気象下での刈遅れなどによって自給飼料の品質が低下してしまう問題に対し、繊維分解酵素にマンガンを添加して飼養するとさらに消化性が高まることを確認致しました。一方、サイレージ添加用乳酸菌について、現行品に配合しているセルラーゼよりも繊維分解活性が高い酵素を開発し、特許出願致しました。次年度以降、実用化に向けた取り組みを進める予定です。また、オーチャードグラスの高糖含量新品種「えさじまん」の給与・産乳性試験結果3年分をまとめ、農水省委託プロジェクト会議で報告致しました。統計的な有意差は確認できなかったものの、対照品種と比較して試験牛群において採食量・泌乳量が多い傾向が観察されました。試験方法に関して、飼料研究の今後の課題として検討していきます。子牛育成においては近年急速に普及した代用乳多給法によって発生する飼養管理の課題を回避することを目的として、脱脂粉乳/ホエイ比を再検討する試験を実施致しました。ホエイ比を高めると下痢の発生率が高まる傾向が認められたため、超音波検査装置を用いた消化管内カード形成観察法の併用によって最適な比率の検討に取り組みます。
牧草・飼料作物種子分野では栄養価が高く、道東においても越冬性が優れるフェストロリウム「ノースフェスト」を品種採択しました。また、オーチャードグラス「東北8号OG」およびシロクローバ「アバラスティング」が北海道優良品種に選定されました。「アバラスティング」については次年度から発売する予定です。府県向け飼料作物としてソルガム「FS1701bmr」の親系統とエンバク「夏疾風」の品種登録出願を進めています。トウモロコシに関しては府県・道内の両地域で栽培できる耐病性品種「LG30500」が現地試験でも好評だったことから、次年度発売予定と致しました。
畑作・園芸種苗分野では近年の温暖化に対応し、耐暑性を付与したエダマメ「GLYSB1023」の品種登録出願を行いました。また、ブロッコリーのニッチ市場に向けて耐寒性早生品種「ドームツリー」を品種採択し、各地で普及を進めました。緑肥用ヒマワリとしてはバーティシリウム病抵抗性である「NS KRUNA」を選抜し、次年度に道内・府県の双方で現地試験を展開することと致しました。また、緑肥用ソルガム「つちたろう」を盛夏栽培することによってアブラナ科根こぶ病胞子密度を抑制できることを確認致しました。SDGsに関連する当社の取組みのひとつとして現地試験を強化推進していきます。
花卉分野ではポットカーネーション国内トップシェアを目指し、新色を含む7系統を品種登録出願致しました。また、次の戦略商品として多芽性ユリ3系統を品種登録出願致しました。併行して、採算性に問題があったF1シクラメン開発からの撤退を決定し、選択と集中を進めました。
生理活性物質関係では将来的なバイオスティミュラントの興隆による競争激化に備、発根促進液肥「闘根242」、「根真人232」の低コスト製法を開発し、パイロットプラントによる試作品の肥料登録を行いました。さらに、北大共同研究において、「闘根」を処理することにより水稲種子が嫌気条件下で発芽するために必要な遺伝子の発現が顕著に昂進されることを明らかにしました。また、スイートコーン冷凍食品工場で発生し、廃棄されている煮汁中の天然植物ホルモンを乳酸菌培養により強化し、液肥原料とする調製方法を開発致しました。SDGsの観点からも実用化を進めて行きます。
環境緑化分野ではウィンターオーバーシード用のアニュアルライグラス「フェアウェイⅢ」を商品採択致しました。また、ゴルフ場グリーン向け種子繁殖性クリーピングベントグラスとして一世を風靡した「CY-2」の耐暑性・耐病性・冬季緑度をさらに改良した後継品種「CY-4」について品種登録出願準備を進めると共に全米芝質評価試験 NTEPへ事前エントリーを行いました。国内外での実用化を目指します。
当社グループは、今後もコーポレートスローガンである「未来は、ミルクの中にある。」を基本に、乳(ミルク)の可能性の追求および酪農生産への貢献を目指した、高付加価値で独自性のある商品の開発を進めてまいります。