有価証券報告書-第12期(令和3年4月1日-令和4年3月31日)

【提出】
2022/06/28 14:28
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【項目】
135項目

研究開発活動

当社グループは、グループ理念に定めた『エネルギー・資源・素材における創造と革新』を目指し、エネルギー関連と金属関連を中心に研究開発活動を進めています。当連結会計年度における研究開発活動の概要は以下のとおりです。
(1)エネルギー (研究開発費 12,219百万円)
エネルギー・素材関連の研究開発活動は、中央技術研究所と各事業カンパニーの研究開発部が連携をしながら進めています。現在の事業領域については操業安定性向上と競争力強化を主体とした研究開発を進めるとともに、脱炭素・循環型社会の実現に貢献すべく、新規事業の創出、拡大に向けて重点領域を設定して、研究開発を推進しています。また、社外との連携にも力を入れており、大学との産学連携の推進のみならず、ベンチャーキャピタルへの出資やアクセラレータープログラムの実施等を通してベンチャー企業とも連携を図り、オープンイノベーションを促進しています。
①低炭素エネルギー分野
将来に向けた再生可能エネルギーの主力電源化に資する技術として、余剰電力を大規模、長期の貯蔵に適する物質に変換し、長距離の輸送を可能とする技術の開発を進めています。
CO2フリー水素分野では、再生可能エネルギーから得られた電力で直接トルエンを電解水素化することで、貯蔵・輸送が簡単なメチルシクロヘキサン(MCH)を低コストで製造する技術(Direct MCH®)の商業化に向けた開発を進めています。2021年11月に豪州の再生可能エネルギーから本技術を用いてMCHを製造、日本で約6kgのCO2フリー水素を取り出し、燃料電池車に充填、走行する一連の実証に成功しました。2022~23年度には当社の水素ステーションで実際に販売できる量のCO2フリー水素が製造可能な中型電解槽プラント(150kW級)の実証、さらに2025年度をめどに大型電解槽プラント(5,000kW級)の技術開発及び実証を行う予定です。これらは、「直接MCH電解合成(Direct MCH®)技術開発」として、経済産業省及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の進めるグリーンイノベーション基金事業に採択されました。また、CO2フリー水素と工場等や大気から回収したCO2を原料に液体燃料を製造する「合成燃料」の開発についても、グリーンイノベーション基金事業に採択され、プロセス全体の早期技術確立に向けて技術開発を進めています。
バイオ燃料分野では、凸版印刷株式会社と古紙を原料としたバイオエタノール事業の立上げについて協業検討を開始しました。その他、バイオジェット燃料の商業化を目指した技術開発や事業化検討にも取り組んでいます。
再生可能エネルギーの有効活用の実現に向け、再エネ発電量や電力価格、水素需要に応じて水電解装置による水素製造を制御する水素EMS(エネルギーマネジメントシステム)の開発やVPP(仮想発電所)の実証試験に取り組んでいます。水素製造や蓄電池制御の最適化による電力需給バランスの調整などの検証を通して、技術・ノウハウの蓄積を進めるとともに、地産地消エネルギー活用推進の一環として、東京都東村山市において、電気自動車を活用したエネルギーマネジメントシステム実証を2022年9月より開始(予定)するため、最適制御手法を検討しています。
さらに循環型社会の実現に向け、株式会社ブリヂストンと使用済タイヤの精密熱分解によるケミカルリサイクル技術の社会実装に向けた共同プロジェクトを開始しました。本プロジェクトは「使用済タイヤからの化学品製造技術の開発」としてグリーンイノベーション基金事業に採択されました。
社外連携については、早稲田大学キャンパス内に「ENEOSラボ」を設置し共同研究拠点として活用しています。包括的かつ分野横断的なオープンイノベーションを通して、水素、電池材料、ロボット関連の「CO2削減に向けた革新技術の研究」に取り組んでいます。
②燃料油・化学品製造技術分野
製油所、製造所の安全・安定操業、競争力強化、及び液体燃料におけるCO2削減を目指した研究を行っており、中でもデジタル化技術の開発・活用においては、2021年度に国内で初めてAI技術による石油化学プラント自動運転に成功しました。また、エンジンの熱効率向上が期待される革新燃焼技術(超希薄燃焼:スーパーリーンバーン)に適した燃料組成の検討を行い、製油所から得られる留分を利用することによるCO2削減の可能性を示すとともに、自社原料のさらなる有効活用(ケミカルシフト)に向け、触媒・反応技術を活用した石油化学誘導品を開発し、光学材料原料などでユーザーより高い評価を得ています。
③機能材分野
機能材分野では、自動車、生活・産業インフラ、ニュートリションを研究重点領域と設定し、自動車の電動化・軽量化・知能化に寄与する素材や部材、IoT時代の高速通信を支える素材や部材、飼料向け等の人の健康に役立つ素材の開発を推進しています。 具体的には、自動車・インフラ分野では、脂環式構造を有し、高耐熱・透明・高耐光性などの特長を有するモノマー製品群や、低誘電・高耐熱といった特徴を持つポリマー製品群の開発、ニュートリション分野では、優れた抗酸化性能を持つ天然由来レアカロテノイド商品群の開発を進めています。また産学連携として東京工業大学や横浜国立大学と共同研究講座を設置して、素材開発を加速・深化させるオープンイノベーションの拠点としています。
④潤滑油分野
潤滑油分野では、地球環境に配慮した高性能潤滑油、グリースの製品開発に取り組んでいます。一例として、最新国際規格であるAPI SP/ILSAC GF-6の適合性能に加え、省燃費性能、加速性能、乗り心地性に優れるエンジン油「ENEOS X PRIME」を開発しました。このほかにも省燃費型駆動系油、安全・環境配慮型工業用潤滑油、自動車・産業用高性能グリース、新冷媒対応・省エネルギー型冷凍機油といった製品の開発を新規材料、新規解析評価技術を取り入れながら推進するとともに、高品質の製品を安定かつ効率的に製造するための製造技術の開発も行っています。さらに、脱炭素化の世界的潮流を背景に加速するモビリティの電動化シフトに対応するため、潤滑性能はもとより冷却性能や電気絶縁性能等を高次元で両立し得る電動車用潤滑油やグリースの技術開発にも注力しています。
⑤デジタル技術分野
デジタル技術を活用して自社業務の効率化や新たな価値を生み出すことを目指した研究を行っています。具体的には、プラントデータを活用した運転効率化、画像解析による安全・安定操業支援に加え、革新的な素材・触媒探索技術の研究を推進しています。一例として、AI技術の産業応用に向けた先進的な検討を推進している世界的なトップランナーである株式会社Preferred Networks(PFN社)と戦略的な協業体制を構築し、主にプラント自動運転や素材探索においてAI技術を活用した革新的事業創出に取り組んでいます。MI(マテリアルズ・インフォマティクス)分野ではPFN社との協業により、高速かつ高精度な汎用原子レベルシミュレータMatlantisTMの開発に成功しました。第一原理計算による従来法と比較して、最大約2,000万倍高速に分子の状態を予測することができます。さらにPFN社とJV「株式会社Preferred Computational Chemistry」を設立し、2021年7月よりクラウドサービスとしての提供を開始しました。デジタル技術を活用した新たなビジネス創出につなげることも目指し、国内外のスタートアップ企業などとの連携も活発化させています。
(2)石油・天然ガス開発
該当事項はありません。
(3)金属 (研究開発費 11,077百万円)
金属事業では、長年培ってきたコア技術の進化・活用に加え、グループ企業内での技術コラボレーション、大学等研究機関との共同研究、外部企業とのパートナーシップ構築等、様々な形の共創を推進し、研究開発を行っています。データ社会の進展に寄与する次世代の先端素材の開発や、脱炭素や資源循環といった地球規模のESG課題解決に向けた製品・技術開発、車載用リチウムイオン電池(LiB)のリサイクル技術開発等に積極的に取り組んでいます。
①新規事業開発
CVD用塩化物、3Dプリンター用金属粉、銅微粉、LiBリサイクル及び電池材料の開発等について、事業部、関係会社等を跨ぎ全社横断で早期事業化に向けた取り組みを強化しています。
電池関連では、今後のEVの進展と資源循環社会への貢献に向けてLiBリサイクルと電池材料開発を一元的に進めるため、2021年8月に「電池材料・リサイクル事業推進室」及び「技術開発センター電池材料グループ」を設置した他、同日に欧州でJX Metals Circular Solutions Europe GmbHを設立し、当法人を拠点に欧州自動車メーカー等と連携し、実証試験を進めていきます。またJX金属サーキュラーソリューションズ(福井県敦賀市)が2021年10月より操業を開始し、中規模実証試験を実施しています。
また、3Dプリンター用の金属粉の開発推進に向け、2020年1月に出資した金属3Dプリンター向けの合金設計等の事業を行う英国スタートアップ企業Alloyed社と協業を進めている他、次々世代のパワーデバイスの材料として期待される酸化ガリウム基板及びデバイスの開発を手掛けるノベルクリスタルテクノロジー社に2020年6月の出資に続き2022年2月に追加出資をして協業を加速する等、各スタートアップとの共創を通したスピーディな新規事業創出の取り組みを進めています。
②事業別(資源分野)
資源分野では、選鉱工程に適用する自動化技術や鉱石からのレアメタル回収技術の開発を進めています。また、環境負荷低減に向けて、鉱山で使用する重機等のCO2排出量削減に資する技術等の調査を進めています。
③事業別(金属・リサイクル分野)
銅製錬におけるリサイクル原料処理拡大に向け、リサイクル原料から回収する貴金属及びレアメタル等の金属種拡大のための技術開発や、銅製錬工程からの有価金属回収工程の効率化を推進しています。2040年にリサイクル原料処理量を50%とするハイブリッド製錬を実現することを目指し、技術開発を進めています。
④事業別(薄膜材料分野)
薄膜材料分野では、高純度化技術及び材料組成・結晶組織の制御技術をベースに、半導体・電子部品用途向け製品に関する開発を進めています。半導体用ターゲット、フラットパネルディスプレー用ターゲット、磁気記録膜用ターゲット等の各種スパッタリング用ターゲットや、その他電子材料における新規製品開発及び関連プロセスの技術開発に継続的に取り組んでいます。
⑤事業別(機能材料分野)
機能材料分野では、コネクタ等の用途に、精密な組成制御、独自の圧延加工プロセス及びユーザーニーズに適合した評価技術を用いて、強度・導電性・加工性・耐久性に優れた高機能銅合金の開発を進めています。次世代材料として、コルソン系及びチタン系新規銅合金の開発等、更なる高機能製品化に取り組んでいます。また、プリント配線板材及び シールド材用途等では、屈曲性、エッチング性、密着性等の高い機能を付加した銅箔等の開発・バージョンアップを進めています。
⑥基盤技術開発
分析及びシミュレーションについて最先端技術の導入・開発を進め、それらを駆使することにより技術開発の促進・効率化を図っています。
これらに、その他の事業における研究開発費855百万円を加えた当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は、24,151百万円です。