有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2018/10/02 15:00
【資料】
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【項目】
101項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、提出日現在において、当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1) 経営方針
当社グループは、「人や社会をベストな未来に導くために、心の通うメディアとコミュニケーションの場を創造」することをグループ経営理念としております。グループ全体で、その使命を全うするためのメディアづくりと広告広報に付随する業務案件の受注を推進しております。
事業の展開にあたっての基本方針は、以下の通りです。
・クライアントのために、専門力と創造力を発揮し、広範な視野で最適なソリューションを提供する。
・ユーザーのために、一人ひとりのライフスタイルに寄り添い、「必要なときに価値ある情報が届く」仕組みを
提供する。
・社員のために、社員の資質と挑戦心、創意工夫を発揮できる働きがいと活力に満ちた職場環境を提供する。
・株主の皆さまと社会のために、倫理観を持って信頼を醸成し、永続的な成長と社会的責任を全うする。
(2) 経営環境
セールスプロモーションを含む広告全体の市場はリーマンショック以前の水準を回復し、さらに継続的に拡大傾向にあることから、今後も旺盛な需要が続くものと考えられます。また、採用広報市場は、経済活動の活発化や少子高齢化の流れを受けた人手不足の顕著化に伴い、人材獲得競争が加速しています。有効求人倍率や求人メディア全体の広告掲載件数が過去最高レベルで推移しており、この傾向は当面続くものと考えられます。学校広報市場は、日本人の18歳人口の減少により、各教育機関とも学生確保に向けた広報を強化しており、特に年々増加している外国人留学生に対する広報にニーズがあります。全体として人口減少や少子化傾向にはありますが、企業や学校では採用・募集広報活動を活発化していることから、現時点において当社グループの各事業を取り巻く環境は、堅調に推移しているものと考えます。
(3) 経営戦略及び対処すべき課題等
① 安定収益基盤の構築と連合企画・個別案件による新規クライアントの開拓
当社グループでは、安定的な取引基盤を構築しており、平成27年9月期にお取引いただいたクライアントのうち、平成29年9月期時点において、約7割(法人数ベース)のクライアントより3年連続での取引をいただいております。また、取引先数も安定的に推移しており、取引法人数は平成27年9月期で2,025件、平成28年9月期で2,282件、平成29年9月期で2,296件となっております。このように、安定収益基盤を築けている背景には、以下のような点が挙げられます。
イ 専門特化した営業体制の整備
当社グループは、プロモーション、就職(採用広報)、進学(学校広報)の3事業を展開しており、平成21年から22年にかけて、より専門特化したサービスを目指して、3社に分社化いたしました。さらにプロモーション事業では主要カテゴリ別の事業部体制を敷いております。このように各事業において、専門知識を持った営業社員が一貫して最後まで責任を持って担当する体制を整えております。
ロ 広告広報に関連した業務代行機能の保有
平成24年より業務推進センターを設置し、広告広報に関連した業務を代行するための機能センターを整えております。これにより、広告広報の企画から制作・データ管理・発送・テレマーケティングに至るまで、トータルで提案・受託できる体制を構築しております。
ハ 景気変動に耐性のある事業構造
当社グループの各事業は対象市場や収益サイクルが異なります。採用広報事業は、景気変動や日本経団連の指針等の影響を受けやすい構造となっておりますが、学校広報事業は景気変動による影響を受けにくい構造となっております。このように、事業が相互に補完関係にあり、景気変動に耐性のある事業構造を築いております。
ニ 連合企画をノック媒体とした新規クライアントの開拓
当社グループでは、連合企画と個別案件を収益基盤の両輪として推進しております。就活・進学情報サイトやイベント、交通広告などを含む連合企画は、イメージがしやすく、新規クライアントの獲得につながりやすい商品となっています。連合企画をノック媒体としてクライアントを開拓し、その後、クライアント毎の個別ニーズに対応する個別案件を受託し、協力会社約650社(平成29年9月期)と連携して取引を拡大することを、当社グループのベストプラクティスと位置付けており、営業展開を積極的に行っております。
ホ 公共性・公益性の高いクライアントとの取引拡大
当社グループ各事業では、官公庁・学校法人・公益法人・大企業を始めとする民間企業など、公共性・公益性の高いクライアントとの取引を重ねております。
当社グループでは、上記の特色を活かし、安定収益基盤の強化に努めてまいります。また、こうした営業基盤を足がかりにして、今後はグループ間のシナジーの創出に力点を置き、事業横断的なサービス展開を図ってまいります。
② イベントノウハウの蓄積とフォーラムスペースの開設
当社グループでは、約20年間に渡るイベント開催実績があり、イベントスペース「フォーラム」がその実績を下支えしております。また、イベント運営ノウハウを活かし、官公庁や企業からイベント運営事務局代行業務を多数受託しております。
イ 約20年間に渡るイベント開催実績
当社グループでは、採用広報事業において、数多くの就活関連イベントの開催実績を保有しております。主に大企業を対象として大学周辺で開催するイベント「UNI-PLATZセミナー」と、主に中堅中小企業を対象とした小規模型イベント「アクセス就活フェア」を中心に事業を構成しております。「アクセス就活フェア」は大学4年生向けのイベントを卒業直前まで毎月開催したり、テーマ性を持たせたイベント「アクセス就活FOCUS」を開催するなど、企業と学生のマッチングニーズをきめ細かく取り込んでおります。
また、近年は50~100社程度の参画を募る大規模型イベント「アクセス就活LIVE」も、渋谷ヒカリエ等で開催しております。「アクセス就活LIVE」は大学とジョイント・連携する合同企業説明会であり、大学数十校と連携して、学生の来場を促進している点に特徴があります。
さらに、ノウハウを学校広報事業にも展開し、外国人留学生向けの「アクセス日本留学フェア」や日本人高校生向けのテーマ型イベント「アクセス進学FOCUS」を開催しており、その回数も増加しております。
<イベント企画数>
平成27年9月期平成28年9月期平成29年9月期
採用広報事業74104117
学校広報事業193348
合計93137165

ロ 自社イベントスペース「フォーラム」の開設
平成19年には、より機動的かつ柔軟に開催できるようにすることを目指して、イベントスペース「アクセス青山フォーラム」を開設いたしました。小規模型イベントに最適化した構造により、開催回数を増やし、企業と学生が膝詰めで話ができる「心の通う」イベントを実現しております。
フォーラムは青山・渋谷・梅田・名古屋駅前の主要駅直結又は至近の4箇所に開設し、いずれも当社グループ各社のオフィスと隣接しております。自社で管理することでイベントの新設や営業状況を見据えた日程・内容の変更にも機動的に対応できるほか、社員が設備や来場者の動線について熟知していることから、外部会場と比べて設営に要する時間やコストを省力化しております。
ハ イベント運営ノウハウを活かしたイベント運営事務局代行業務の受託
採用広報事業と学校広報事業では、イベント運営ノウハウをベースにして、官公庁・学校法人・公益法人・大企業等から、イベント運営事務局の業務を代行する個別案件を受託しております。具体的には、採用広報事業では、各団体が主催する企業説明会の運営事務局や設営・運営業務を代行しており、参加者確保のための施策の実施や予約の受付、準備に向けた参画企業との調整・各種手配、会場設営、当日の運営、アンケートの回収・集計・報告等を行っております。学校広報事業では、各団体が主催する合同進学説明会のほか、個別大学・学校でのオープンキャンパスの運営、国際シンポジウムの運営等を代行し、会の実施に向けて、採用広報事業と同様に各種業務を行っております。このように、連合企画で培ったノウハウをもとに個別案件のイベント運営を受託して実績を積み重ね、さらに自社企画イベントの多様化や、多方面の個別案件イベントの受託を図っております。
今後の課題としましては、多様化する採用広報ニーズへの対応と、後述する外国人留学生向けビジネスの拡大が挙げられます。
平成25年6月14日に閣議決定された政府の「日本再興戦略」において、既卒3年まで新卒扱いの定着を目指す方針が打ち出されるなど、若者が活躍できる環境の整備が行われています。また、中堅中小企業においては、昨今の採用動向から予定している採用数を確保できず、新卒・中途に拘らない採用活動を展開する企業が増加しております。
また、人材紹介サービス(民間企業による新卒学生向けの有料職業紹介事業)を利用して就職活動を行う学生も増加するなど、企業側、学生側双方の動きが、ますます細分化・多様化・通年化の方向に進んでおります。
このような動向を受けて、就活関連イベントやサービスについても、今後さらにきめ細かいニーズへの対応が必要となり、当社グループが持つ小規模型イベントの運営ノウハウとフォーラムの活用が、ますます求められると想定されます。このような有形無形の両面の資産を活かして、若年層向けの中途採用分野や新卒紹介分野、外国人留学生の採用分野等に取り組んでまいります。
③ 外国人留学生向けビジネスの拡大
日本に留学する外国人学生は平成29年5月時点で約27万人となっており(日本学生支援機構「平成29年度外国人留学生在籍状況調査結果」)、10年前の平成19年5月時点(約12万人。日本学生支援機構「平成19年度外国人留学生在籍状況調査結果」)に比べ、2倍以上となっています。政府の方針としても、2020年までに留学生を30万人に引き上げる計画が遂行されており、今後も留学生の増加が見込まれます。
外国人留学生の増加に伴い、就職支援や生活支援のニーズも高まっております。平成28年度に大学・大学院を卒業した外国人留学生約23,000人のうち、日本国内で就職した人は約8,600人でした(日本学生支援機構「平成28年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果」)。大学・大学院卒業の全就職者数に占める割合はまだ2%弱(日本学生支援機構「平成28年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果」及び文部科学省「学校基本調査」をもとに当社調べ)ではありますが、毎年増加傾向にあることや、日本国内での就職を希望しながら叶わなかった学生も一定数いると想定されることから、当社グループでは採用広報事業において、外国人留学生を対象とした採用広報を強化しております。具体的には、大学と連携して就職指導プログラムを開発し、外国人留学生向けの合同企業説明会を企画したり、人材紹介サービスでの就職支援を行っております。また、ビジネス日本語能力テストを実施する公益財団法人日本漢字検定協会と連携し、優秀な人材を企業に紹介するスキームも構築しております。
外国人留学生が慣れない日本で進学、生活、就職をするにあたり、安心かつ有益な情報を継続的に受けられることに対して、高いニーズがあると考えております。このニーズに応えるため、プロモーション事業における先行的な取り組みとして、学校広報事業が毎年6月に渋谷ヒカリエで開催する大型イベントで平成28年より生活支援ブースを併設し、プロモーション事業のクライアントを誘致して、プロモーションを行う場を提供しております。
当社グループでは、進学、生活、就職の各ステージにおいて、外国人留学生が必要なときに必要な情報にアプローチでき、支援を受けられる環境の整備を目指しております。その実現に向けて、平成30年6月に外国人留学生向けサイト「アクセス日本留学」をリニューアルし、新たに日本の生活関連情報の掲載ができるようにしたほか、海外在住の外国人留学生候補者への情報提供を開始しております。日本語学校に配本している進学情報誌「アクセス日本留学BOOK」にも同様の情報枠を設け、拡販を可能としております。現時点では、アルバイト情報や賃貸住宅、金融機関等の情報を想定しておりますが、新たな分野の開拓も行っていく予定です。
また、採用広報事業においても、学校広報事業のイベント来場者や「アクセス日本留学」サイト利用者の外国人留学生のうち希望する人について、「アクセス就活」に情報を引き継ぎ、就職支援を受けられる仕組みを試験的に実施しており、今後本格化していく予定です。
このように、当社グループでは外国人留学生を支えるビジネスを推進しており、グループの総合力を結集して、営業展開を強化してまいります。
なお、外国人留学生ビジネスの要となっている学校広報事業につきましては、過年度において業績が低迷した時期がありました。これは、主に従前から受託していた日本人向け学校案内の制作等において、コスト管理や受注見通しが緻密に行われていなかったことや、当事業における広告宣伝費が過剰であったことが主な要因となっております。現在はコストを厳しくコントロールするとともに、外国人留学生向けイベントや関連案件の受託をさらに促進することで、利益を創出できる体質へと転換を図っております。また、当社グループの外国人留学生向けビジネスの展開にあたっては、入口にあたる進学者にいかにアプローチするかがキーサクセスファクターとなっております。学校広報事業は、その分野における実績やノウハウ、リレーションを持っていることはもとより、当社の管理経費やフォーラムの地代家賃等も応分の負担をしており、今後ともその役割は大きいと考えております。
当社グループとしましては、3事業それぞれが持つ特色を活かしながら、事業にシナジーが生まれる形での事業展開を検討し、「外国人留学生と言えばアクセスグループ」というポジションを確立するべく、事業を推進していまいります。
④ アナログ・デジタルを融合したフレキシブルな提案力の拡大
昨今の当社グループを取り巻く環境も変化しており、少子化に伴う学生数の減少、外国人留学生や訪日外国人の急増、技術革新によるプロモーション手法のデジタル化など、従来当社グループが提供しているサービス内容やターゲットを超えたソリューションが求められつつあります。
プロモーション事業においては、現在のところDMなどの紙商材やキャンペーン事務局を始めとした業務代行など、アナログ媒体での事業展開が中心となっています。アナログ媒体とデジタル媒体は補完関係にもあるため、市場規模が急激に縮小する可能性は低いものの、電子媒体によるプロモーションも強化していく必要があります。
現状の取り組みとしましては、QRコードとDMの複合提案、会員データを活用するためのスマートフォンアプリの共同開発、位置情報広告、スマートフォンアプリによるAR-3D技術(※)を利用したクリエイティブの制作などの受託事例がありますが、まだ開拓の余地が多く残されている状況です。そのため、プロモーション提案と親和性の高い電子媒体商材を開拓し、クロスメディア型の提案体制を目指してまいります。
採用広報事業においては、VR動画制作を受託している事例があるほか、今後はQRコードを利用した来場者の行動特性の把握や、SNSと連携したイベント動員ツールの導入を予定しております。学校広報事業においては、Web出願システムの拡販を推進しているほか、学習管理アプリの広告枠の代理販売も今後推進してまいります。
また、当社グループでは「アクセス就活」「アクセス進学」「アクセス日本留学」の各Webサイトを運営しておりますが、会員や資料請求データは各サイトで別管理となっており、これを進学・就職・生活に至るまでの一連の情報提供を行える基盤に発展させることが課題となっております。特に、外国人留学生についてはこの情報基盤に対して高いニーズがあると捉えており、「アクセス日本留学」を入口とした外国人留学生向けの自社メディアを構築し、さらに在住外国人向けの情報基盤へと昇華させることが課題となっております。
これらの課題に対応するため、まずは当社グループが持つ情報リソースの整理を行うべく、平成29年10月より各社でデータ処理やWebサイト運営を行っていた社員を当社システム部に移籍し、システム部の拡充を行いました。今後の情報基盤やデータ活用の発展形について、当社が主導しながら、検討を重ねてまいります。
安定収益基盤を拡大しつつ、さらにグループの成長を加速するため、上述した①~④の戦略・施策により、新たな収益軸の育成に取り組んでまいります。
※ 現実の認識対象物に画像や音声を重ねて表示する、拡張現実機能を提供する技術のことを指します。