有価証券届出書(新規公開時)

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2020/02/21 15:00
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73項目
第1【企業の概況】
(はじめに)
1.設立から株式上場まで
当社は、2001年6月21日、情報・通信システム及びセキュリティシステムの開発・運用・コンサルティング業務を事業目的として設立された、アンビシス株式会社を前身としております。
その後、統合型インターネットセキュリティアプライアンス機器(*1)を利用したマネージドセキュリティサービスの提供を開始し、2003年6月14日には、商号をバリオセキュア・ネットワークス株式会社に変更いたしました。(以下、「バリオセキュア・ネットワークス株式会社①」という。)
マネージドセキュリティサービスは、インターネットサービスプロバイダ及び通信事業者向けセキュリティソリューションとして、ファイアウォール等の機器のレンタルを行い、それらに対し24時間体制で運用・監視・保守を提供するサービスです。当社は、VariOS(*2)を搭載した統合型インターネットセキュリティアプライアンス機器「VSR1000シリーズ」の提供、ICSA(International Computer Security Association)(*3)によるファイアウォール認定を日本企業として初めて取得する等、独立系インターネットセキュリティサービス企業として着実な歩みをたどってまいりました。
そして、2006年6月29日に大阪証券取引所 ニッポン・ニューマーケット「ヘラクレス」(以下、「ヘラクレス市場」という。)に上場いたしました。
(*1)「統合型インターネットセキュリティアプライアンス機器」とは、当社が提供するサービスで利用する多機能セキュリティ機器を言います。ファイアウォール機能(外部から組織内のコンピュータネットワークへの侵入経路を限定し、不正を防ぐシステム)、IDS(不正侵入を検知するシステム)/ADS(不正侵入から内部ネットワークを自動的に防御するシステム)機能、ウィルスプロテクション(ウィルス検知・防御システム)機能など複数のセキュリティサービスを提供しています。
(*2)「VariOS」とは、当社が開発したセキュリティ機器VSR(Vario Secure Router)の基本ソフトウエアです。
(*3)「ICSA」はVerizon Communications Inc.の独立部門としてメーカーに依存しない公平な立場からセキュリティ製品のテストと認定を行っております。
2.上場廃止
アント・キャピタル・パートナーズ株式会社が無限責任組合員を務める、アント・カタライザー3号投資事業有限責任組合が出資する、エー・シー・ピー・ワン・ホールディングス株式会社は、2009年7月30日にバリオセキュア・ネットワークス株式会社①の株式及び新株予約権の公開買付(以下、「本公開買付」という。)を実施いたしました。
上場廃止の背景として、米国のサブプライムローンに端を発した信用収縮と世界的な金融危機の影響により、企業収益の悪化や民間設備投資の減少、個人消費マインドの減速等が生じていた中で、当社においても既存顧客からの解約が増加し、サービス提供箇所の増加ペースが鈍化するなど、成長率に徐々に鈍化が見られました。また、その後も、顧客先における設備投資意欲の低下、コスト削減の徹底等が相当期間継続することが予測されたことから、新たな経営戦略のもと、①販売体制の強化、②新規事業の創出、③サービスメニューの強化が急務の経営課題として挙げられ、その対策が講じられました。
常に変化するネットワークセキュリティ市場において、機動的かつ柔軟な経営体制の下で、スピーディーな経営判断を行い、企業価値の向上を図るには先行投資を伴い、一時的な収益悪化を招く可能性があることから、非上場化を図り、企業価値の向上に専念することとし、本公開買付による非公開化という結論に達しました。
また、本公開買付の実施においては本公開買付を含む取引が少数株主にとって不利益なものとならないようにする必要があることから、当社は一般投資家への十分な情報開示に努めるとともに、公正性、透明性及び客観性のある意思決定過程を確立するため、第三者委員会を設置しました。第三者委員会は当社から独立した第三者算定機関及びリーガル・アドバイザーからの情報を検討し、当社の取締役会に答申を行い、当社取締役会は、当該第三者委員会の答申を最大限尊重しつつ、本公開買付に関する諸条件について慎重に検討いたしました。その結果、公開買付価格1株当たり100,000円は、当社のヘラクレス市場における買付価格決定前日(2009年7月29日)の終値76,500円に対して30.72%、同日までの過去1か月間の終値の単純平均値78,876円に対して26.78%、同日までの過去3ヶ月間の終値の単純平均値75,320円に対して、32.77%、同日までの過去6か月間の単純平均値69,630円に対して43.62%のプレミアムをそれぞれ加えた価格であり、当社の株主にとって妥当な価格と判断いたしました。
以上のことから、本公開買付は2009年9月11日に成立し、バリオセキュア・ネットワークス株式会社①はエー・シー・ピー・ワン・ホールディングス株式会社の子会社となり、2009年12月18日には、ヘラクレス市場の株式上場を廃止いたしました。
エー・シー・ピー・ワン・ホールディングス株式会社は、2010年6月1日にバリオセキュア・ネットワークス株式会社①を消滅会社とする合併を行い、同日付でバリオセキュア・ネットワークス株式会社に商号変更をしております。(以下、「バリオセキュア・ネットワークス株式会社②」という。)
3.主要株主の異動①
その後、2011年3月31日、1stホールディングス株式会社(現ウイングアーク1st株式会社)は、アント・カタライザー3号投資事業有限責任組合が保有するバリオセキュア・ネットワークス株式会社②の全株式を取得し、両社のリソースを活用した独自のクラウド技術を連携させ、クラウド環境における新たなサービス提供形態の創出を図るため、バリオセキュア・ネットワークス株式会社②を完全子会社としております。
同社は2013年3月1日、バリオセキュア・ネットワークス株式会社②の商号をバリオセキュア株式会社に変更(以下、「旧バリオセキュア株式会社」という。)しております。
4.主要株主の異動②
株式会社BAF5は、旧バリオセキュア株式会社の全株式を取得する目的で、アイ・シグマ・パートナーズ株式会社が管理・運営する、アイ・シグマ事業支援ファンド2号投資事業有限責任組合による投資のための特定目的会社として2015年9月17日に設立されました。株式会社BAF5は、LBO(Leveraged Buyout)を実施し、自己資金の他、金融機関からの借入を実施することで、2016年6月30日にウイングアーク1st株式会社から、旧バリオセキュア株式会社の全株式を取得し、完全子会社としました。その後、株式会社BAF5は2016年9月1日、旧バリオセキュア株式会社を消滅会社とする合併を行い、当社は同日付でバリオセキュア株式会社に商号を変更し現在に至っております。(以下、「新バリオセキュア株式会社」という。)
5.非上場化の効果
当社は非上場化において、経営体制を刷新し、社内のコスト意識を高めるとともに、既存営業力の強化や新たな販売代理店の開拓をとおし業容の拡大に努めるとともに、継続的にセキュリティサービスの品質向上のための研究開発を行いました。結果として、以下のような成果を挙げられました。
①販売体制の強化
当社は、2010年より新規の販売代理店の開拓のほかに、販売代理店がエンドユーザーに対して当社サービス・製品の取り扱いを促進するため、当社の従業員を販売代理店に常駐させ、エンドユーザーに対する同行販売や技術サポート等を行い、連携の強化を図りました。また、2012年4月に大阪支局、2015年7月に福岡営業所を開設し、日本西域においても販売網を拡張する布石を打ちました。以上の施策の結果、当社の統合型インターネットセキュリティサービスが導入された国内拠点数は上場廃止時点から2019年2月期までに2.2倍以上となり、継続して増加しております。
国内拠点数の推移
年度20092010201120122013201420152016201720182019
拠点数3,0733,1703,1543,3013,6374,2935,0235,4905,9596,4036,900

(注)「国内拠点数」とは、各事業年度の年初時点(3月1日)でVSRが設置されている場所の数を指します。
なお、2009年度のみ、8月1日時点の数値となります。
②新規事業の創出
2012年11月より小規模な企業においても高まってきたセキュリティニーズを取り込むため、運用監視サービスを伴わない、簡易で安価なサービスであるセキュリティ機器VCR(Vario Communicate Router)の販売を開始しました。VSRは従業員数が100名~2,000名規模の中堅、中小企業をターゲットとしたサービスである一方、VCRは従業員数が50名未満を対象としており、より小規模な企業のユーザーニーズである安価なセキュリティ機器に対する需要に応えることができるようになりました。また、ネットワークインフラの機器の調達や構築などを行うインテグレーションサービスの提供を開始し、ネットワーク/セキュリティの周辺領域でのソリューションビジネスにも業容を拡大しシステムインフラニーズを取り込みました。さらに、2014年1月にクラウドとアプライアンス機器(注)を利用したハイブリッド型のデータバックアップサービスVDaP(Vario Data Protect)を開始しました。
(注)特定用途向けのOSやソフトウエアをハードウエアに組み込んだ形で提供される専用機器
③サービスメニューの強化
上場廃止以降、統合型インターネットセキュリティサービスをはじめ、さまざまなサービスの投入や機能の拡充を図り、サービスメニューを強化しました。
年 月サービスメニュー内 容
2010年9月メールセキュリティ機能強化「アタッチ&アップロード」メールで送信される添付ファイルからの情報漏えい対策として、自動的Zip暗号化とパスワード送付に対応しました。
2011年8月管理者用コントロールパネルを全面的に刷新サービスをご利用いただくユーザー企業のIT担当者様向けに提供する管理画面を刷新し、サービスの稼働状況をより把握し易くするような改善を実施しました。
2012年3月IPv6対応のマネージドセキュリティサービスの提供を開始世界的なIPv4のIPアドレスの枯渇対策として、マネージドセキュリティサービスとしては早期のIPv6対応を実施しました。
2012年11月VCRの販売開始Cyberoam Inc.(現SOPHOS Ltd.)からUTM(Unified Threat Management)機器のOEM供給を受け、VCRの販売を開始しました。
2013年1月最上位機種VSR5000シリーズの提供開始サービス提供企業規模の拡大を目的とした、大規模ネットワーク対応の最上位機種をリリースしました。
2013年5月仮想環境でのマネージドセキュリティサービスを実現する仮想VSRを提供開始サーバーの仮想化やクラウド利用ニーズへの対応として、仮想環境でのマネージドセキュリティをサポートしました。
2013年5月VSR による BGP 対応マネージドセキュリティサービスの提供を開始インターネット上で AS(Autonomous System)間の経路情報をやり取りすることから、経路制御プロトコル BGP(Border Gateway Protocol)の運用には高い信頼性が求められます。BGP の運用を、専用機器 VSR と、24時間365日対応の運用・保守を含むサービスとしての提供を開始しました。
2014年1月データバックアップサービス(VDaP)開始企業において情報管理やBCP対策が求められる中、データを安全に保管し同時に運用負荷の軽減とコストの面から訴求したサービスの提供を開始しました。
2015年6月VDaPの刷新と大容量化への対応バックアップ業務の簡略化を実現するバックアップサービスの刷新と大容量化ニーズへの対応を実施しました。
2016年9月VDaPオプションを追加社内データのバックアップやランサムウェア対策を自社内での対応が困難な中小規模企業向けに、マネージドセキュリティサービスのオプションとしてVDaPをご利用いただけるようにしました。
2017年8月エンドポイントセキュリティサービスを提供開始サイバー攻撃の巧妙化への対応として、従来のゲートウェイセキュリティにエンドポイントセキュリティを追加し多層防御の強化を図りました。
2018年12月ローカルブレイクアウトオプションの提供を開始企業において利用頻度の高いクラウドサービスをより安定的にご利用いただくための機能を追加しました。

[用語の説明]
用 語説 明
IPv6インターネットプロトコルのバージョンのひとつ。インターネット上の通信における手順などを定めた規格であり、その規格の中にインターネットの住所に該当するIPアドレスが規定され、約340澗(かん)のIPアドレスが用意できる。
UTM機器Unified Threat Management(統合脅威管理)の略で、複数のセキュリティ機能を1つに集約して運用するネットワークセキュリティ対策のこと
OEM供給他社ブランドの製品を製造し供給すること。
仮想環境コンピュータ上にソフトウエアによって仮想的に構築されたコンピュータ(仮想マシン)が備える仕様や機能の総体のこと。

用 語説 明
AS(Autonomous System)「自律システム」とも呼ばれ、統一された運用ポリシーによって管理されたネットワークの集まりを意味する。
経路制御プロトコル BGP(Border Gateway Protocol)現在のインターネットにおいて、相互接続時にお互いの経路情報をやり取りするために使われる経路制御の取り決め。
BCP企業や官公庁などで、通常業務の遂行が困難になる事態が発生した際に事業の継続や復旧を速やかに遂行するために策定される事業継続計画(Business Continuity Plan)。
ランサムウェア「ランサム(ransom)」とは、身代金の意味の英単語で、感染するとユーザーに身代金を支払うように要求する犯罪目的のプログラムのこと。
エンドポイントセキュリティネットワークに接続されたパソコンや、スマートフォン、タブレットなどのモバイル端末、サーバーなどのネットワーク端末のセキュリティ対策のこと。
ゲートウェイインターネットと企業ネットワーク(LAN)の境界。

このような様々な施策を行った結果、インターネットセキュリティサービス企業としてのブランドの再構築、企業の組織力強化を持続的に行い、非上場化の目的であった企業価値の向上を実現することができたと考えております。
6.再上場の目的
当社は非上場化を行ったことで、販売体制の強化や新規事業の創出を通じて、多くの経営課題を解決することができました。組織の面においても、本部制を導入し、責任と権限を明確にすることで迅速な組織運営を行うことのできる体制へと移行することができました。以上のことから、当初の非上場化の目的は達成できたものと考えております。
今後も当社が持続的な成長を実現し、企業価値を高めていくためには、機動的かつ多様な資金調達手段を確保することが重要であります。当社は、再上場することで、当社の社会的信用の更なる向上、優秀な人材の確保や従業員の労働意欲の向上、適正な株価形成と流動性を目指すことができると考えております。
①人材採用の拡大
ネットワークセキュリティ分野では、最先端の技術を持った優秀な技術者による新規技術の研究開発が必要です。上場による知名度・信頼度の向上を得ることで、優秀な技術者を獲得し、当社の基幹技術の更なる発展及び新規サービスの開発を行う予定です。
②経営基盤の強化、従業員のモラル向上
当社はこれまでも、プライバシーマーク、ITSMS(ITサービスマネジメントシステム)の国際規格「ISO20000」、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の国際規格「ISO/IEC 27001:2013」、「JIS 27001:2014」認証の取得などを通じ、経営基盤の強化に取り組んできました。そして、上場企業として相応しいJ-SOXやIRへの対応を通じて、更なる経営基盤の充実をめざし、また、上場企業に勤める社員であることを自覚することによる従業員のモラル向上にも期待したいと考えております。
③資金調達の多様化
多様な資金調達手段を確保することで、将来的には、当社の基礎技術をさらにスピーディーに進化させるため、人工知能やIoT(Internet of Things)など新しい技術を持ったベンチャー企業や、ネットワーク周辺領域におけるインテグレーションサービスを手掛ける企業の買収の機会を逃すことなく実行できると考えております。
上場後におきましては、上場企業としてその社会的責任を一層重く受け止め、更なるコンプライアンス経営の強化に取り組むことで、すべてのステークホルダーに安心を届けたいと考えております。
当社の事業運営主体の変遷は以下のとおりです。
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また、設立以降の当社の変遷は以下のとおりです。
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