有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/12/28 15:00
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【項目】
124項目

事業等のリスク

以下に、当社の事業展開上のリスク要因になる可能性があると考えられる主な事項を記載しております。また、当社として必ずしも事業上のリスクとは考えていない事項についても、投資判断上あるいは当社の事業活動を理解するうえで重要と考えられる事項については、投資者に対する積極的な情報開示の観点から記載しております。当社は、これらのリスクの発生可能性を認識したうえで、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針であり、当社株式等に関する投資判断は本項及び本項以外の記載内容も合わせて慎重に判断したうえで行われる必要があると考えております。
文中における将来に係る事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。
なお、当社の事業等のリスクの把握及び管理体制については、「第4 提出会社の状況」の「4 コーポレート・ガバナンスの状況等」をご参照ください。
(1) 事業展開のための人員確保について
当社は訪問看護サービス事業を展開するにあたり、事業所数の拡大に伴い看護師及びリハビリ職を積極的に採用して組織体制を強化し、事業所等が所在する地域周辺のコミュニケーションを強化し、地域に根差した訪問看護サービスを展開していく方針です。
労働集約型産業である訪問看護サービス事業の業容の維持と拡大には人材確保、及び適正な要員配置と労働環境整備により従業員の定着を図ることが重要です。しかしながら、求職している看護師及びリハビリ職の中で、訪問看護へ転職しようとする看護師を見出すことには限界があると考えられます。当社は、人材紹介会社を通じて効果的な採用活動を展開するとともに、当社固有のドメインで展開する看護師向けのメディア「ナーステート」を活用する等、人材獲得のための方法を常に模索しております。また、訪問看護が初めての看護師及びリハビリ職でも安心して働けるようにチューターを配置しOJTによりきめ細かい指導を行うとともに、従業員を適切に育成、フォローできるよう役職者にマネジメント研修を実施する等、社内教育体制等を整備することで、人員の定着に努めております。
しかしながら、万が一、安定した人材確保を行うことができない場合、また、マネジメント人材の輩出ができず、人員計画と実際の人員配置に大幅な乖離が生じた場合には、新規利用者の獲得が計画どおりに進捗せず、財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社は、人材確保及び人材定着の観点のみならず、医療従事者がいきいき働ける職場環境を提供することを使命のひとつとしており、月間の平均時間外勤務時間が概ね10時間前後に収まるようにワークライフバランスを確保できる環境の整備に努めております。
(2) 訪問看護サービス事業に関する法的規制について
① 訪問看護の医療及び介護報酬に係るリスク
当社は、「医療保険制度」及び「介護保険制度」のそれぞれに基づく訪問看護サービスを行っております。医療保険制度に基づく診療報酬は、2年に1回、介護保険制度に基づく介護報酬は、3年に1回改定が行われます。
2020年度の診療報酬改定では、より質の高い在宅医療・訪問看護の確保を実現するための改定が実施されました。
2021年4月に行われた介護報酬改定は、新型コロナウイルス感染症や大規模災害が発生する中で「感染症や災害への対応力強化」を図るとともに、団塊の世代の全てが75歳以上となる2025年に向けて、2040年も見据えながら、「地域包括ケアシステムの推進」、「自立支援・重度化防止の取組の推進」、「制度の安定性・持続可能性の確保」を図るものとなりましたが、当社の事業は地域包括ケアシステムの一環として機能しており、当該改定の大きな影響はありませんでした。
今後診療報酬及び介護報酬の見直しにより大幅な下方改定が行われた場合には、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
② 訪問看護サービス事業に必要な指定に係るリスク
当社は、以下のとおり訪問看護サービス事業を行ううえで必要な指定を都道府県知事あるいは地方厚生局長から受けております。それぞれの指定には、従業者の資格要件、人員要件、設備要件及び運営要件等が規定されており、また、療養費算定や加算請求においてもそれぞれの要件規定があり、訪問看護サービス事業はこれらの規定に従って事業を運営し、各種申請を適切に行うことが非常に重要です。
(訪問看護事業者としての指定等の状況)
取得
事業所
所管官庁許認可等の名称許認可の内容有効
期限
主な指定取消事由
全ステーション都道府県訪問看護・介護予防訪問看護事業所の指定介護保険に基づく訪問看護事業者として訪問看護費の請求が可能となる6年ごとの更新介護保険法第77条(指定の取消し等)、115条の9(指定の取消し等)に抵触した場合
全ステーション厚生労働省
地方厚生局
訪問看護ステーションの指定医療保険に基づく訪問看護事業者として訪問看護療養費の請求が可能となる介護保険の指定・更新により自動更新される。介護保険法第77条(指定の取消し等)、115条の9(指定の取消し等)に抵触した場合

当社は常に上記指定に基づく従業者の資格要件、人員要件、設備要件及び運営要件等、定められた基準に従って管理運営を行っております。看護師及びリハビリ職の入退職、及び事業所の開設・移転時には、必要な変更届や更新手続きに漏れがないよう社内の手続きやフローを整備した管理体制を構築し、細心の注意を払って運営しております。また、毎年、内部監査において、これらの手続きに不備がないか、重点的に監査を実施しております。
しかし、何らかの手違いにより、万が一、これらの指定要件を満たさなくなった場合、また報酬を不正に請求していることが発覚した場合等においては、指定の取消または停止処分を受ける可能性があります。当社では、保険適用サービスに係る売上高は全社売上の98.5%を占めており(第8事業年度)、指定の取消または停止処分を受ける場合、財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
なお、現時点において、指定の取消事由、更新欠落に該当する事実はありません。
(参考)保険適用サービスに係る売上高と保険適用外サービスに係る売上高の構成割合の推移
売上種類第7期事業年度
(自 2019年1月1日
至 2019年12月31日)
第8期事業年度
(自 2020年1月1日
至 2020年12月31日)
第9期第3四半期累計期間
(自 2021年1月1日
至 2021年9月30日)
保険適用サービスに係る
売上高の構成割合
介護保険55.4%58.0%60.4%
医療保険42.2%40.5%38.0%
97.6%98.5%98.4%
保険適用外サービスに係る
売上高の構成割合
2.4%1.5%1.6%


(3) 訪問移動中の交通事故に係るリスク
当社が提供する訪問看護サービスは、ほとんどの従業員が自動車または自転車を使用して利用者様の自宅へ訪問し提供しており、訪問移動中に交通事故に遭ってしまった場合はサービスを提供することが困難となる可能性があります。
当社は、訪問看護サービスを提供する看護師及びリハビリ職に対して、交通事故防止のための教育研修を実施しており、事故発生時にもサービスへの影響を最小限に抑えるための多様な状況に対応できるマニュアルを整備する等により、事故の発生防止や事故発生後の事態に対応できるよう備えております。
しかし、災害等なんらかの事情により交通事故が多発し、当社の従業員の多くに被害があった場合には、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社の従業員が加害者となる重大交通事故を起こしてしまった場合には、社会的信用が低下し、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(4) 訴訟リスクについて
当社の看護師及びリハビリ職は、主治医の指示書を遵守することを大前提として訪問看護サービスを提供しております。当社は訪問看護サービスを提供する看護師及びリハビリ職に対して、社内及び外部機関を利用した教育研修を実施し、また、事業所等で発生したインシデント事案と再発防止策の共有、利用者様の多様な状況に対応できるマニュアルを整備する等、サービス提供に係る事故の発生防止や利用者様の容態悪化等の緊急事態に対応できるように備え、事業における最重要事項として取り組んでおります。
しかしながら、サービス提供に係る重大なトラブル・クレームの発生、過失による医療事故の発生、あるいは当社のサービスとの因果関係が認められない場合であっても利用者様の病状悪化等による訴訟等で過失責任が問われるような事態が生じ、損害賠償金の支払いや、それに伴う社会的信用の低下等があった場合には、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
なお、「注記事項(貸借対照表関係) 2.偶発債務」に記載のとおり、当社及び代表取締役社長である大河原峻は、2019年4月に、訪問看護契約先であったA氏(故人)の親族(以下、原告)より、当社に対しては訪問看護契約の債務不履行、大河原に対しては不法行為を理由として、死亡したA氏の損害賠償金及び慰謝料の合計110百万円超の支払いを求めて、東京地方裁判所に提訴され、本書提出日現在も係属しております。
当社は、A氏との訪問看護契約に基づき、看護師の資格を有する大河原が定期的な訪問看護を行っておりましたが、大河原が食事介助を行っていた際、A氏が誤嚥による窒息を起こし、大河原は救急救命措置を施したものの、救急車で搬送された病院にて死亡したことに対する訴訟であります。
事故当時、A氏は100歳を超え、要介護認定及び認知症を患っており、それまでも食事中に頻繁に誤嚥を起こし、訪問看護を受託するリスクが高い状況でありましたが、終末期医療と正面から向き合うことは当社の経営方針であり、社長である大河原自らが訪問看護を担当することとした経緯があります。
当社としては、大河原は事故当時も速やかに適切な救急救命措置を施しており、過失責任はなく、原告が主張するような債務不履行や不法行為はないものと判断しており、医療事故に知見のある弁護士を代理人として、裁判上で請求の棄却を求めて引き続き争う方針であります。
当社の主張が認められず、原告の主張に従って、裁判にて損害賠償が認定された場合であっても、当社は賠償責任保険(支払限度額150百万円)に加入しており、損害賠償金が当該保険の保険給付の対象となることについて、当社の代理人弁護士より保険会社へ確認済であります。
本書提出日現在において、敗訴した場合の具体的な賠償額(判決容認額)を算定するのは困難でありますが、当社では万が一敗訴したとしても、賠償額が保険会社による保険給付額を超える可能性は低く、当社の財政状態及び経営成績への影響は限定的と判断しております。
(5) 個人情報の漏洩について
当社では、訪問看護サービス事業の特性上、利用者様の氏名(ご家族も含む)、住所、生年月日、病歴等の重要な個人情報を取り扱っております。
当社は、個人情報保護の理念を明確にしたうえで個人情報保護方針を定めるとともに、これを適切に管理運用するために「個人情報保護管理規程」を制定しております。また、「情報システム管理規程」を定め、組織全体の情報セキュリティ・リスクを識別のうえ、情報セキュリティの適切な確保に努めております。情報システム部門は、情報システムのセキュリティ状況についてモニタリングを実施しており、内部監査において、情報セキュリティの適切な確保について、監査を行っております。また、介護ビジネスを中心に展開しているIT企業が提供する請求システムを使用することで、適切な情報セキュリティの確保に努めております。
このように、当社は、情報管理につきまして情報漏洩防止の厳重な対策を講じておりますが、万が一システム等からの情報流出等が発生し、当社の社会的信用が低下した場合には、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(6) 風評等の影響について
訪問看護サービス事業は、利用者様やそのご家族のみならず地域住民や行政・医療機関に係る方々からの信頼のもとに成り立つものと認識しております。当社の従業員には企業理念である「もう一人のあたたかい家族」、「在宅生活の安心を届ける」、「地域社会へ貢献」を浸透させ、安定的かつ質の高い訪問看護を提供するよう指導、教育を行っております。しかしながら利用者様にご満足いただけなかった場合、従業員の不祥事等何らかの事象の発生等により、当社に対して不利益な情報や風評が流れた場合には、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(7) 大規模な災害や感染症流行の影響について
当社は、東京都では新宿区にステーションを設置し、以西にサテライト事業所を置くドミナント展開を基本としておりますが、これとは別に地方進出に挑戦し、全国的な事業所展開を推進しております。しかしながら、当社が拠点展開している地域において、大規模な地震、台風、洪水等災害の発生により、事業所あるいは看護師やリハビリ職の従業員並びに利用者様が被災した場合、また、全国的なインフルエンザ等の感染症の流行等により訪問看護サービスの提供ができなくなった場合には財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
新型コロナウイルス感染症の流行による2020年4月の緊急事態宣言は当社の事業に影響を及ぼし、発出された当時は訪問看護サービスの中止・キャンセルが相次ぎ、当初の計画に比して訪問件数が伸び悩む結果となりました。しかしながら、利用者様のADL(注1)が低下する等、利用者様やそのご家族の日常生活に影響を及ぼすことになるため、訪問看護サービスの利用を控える状況は長く続かず、2020年5月の緊急事態宣言解除以後の訪問看護サービスご利用状況は順調に回復・伸長し、第8期事業年度を通して経営成績に与えた影響は限定的でした。その後、2021年1月以降に緊急事態宣言が再発令された際にも同様に訪問看護サービスの中止・キャンセルがありましたが、初回の発令ほどの影響はなかったものの、今後も緊急事態宣言が発令された場合は訪問件数が減少し、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性は否定できません。
なお、当社では、緊急事態宣言下においては、社内や訪問先での換気等のルール付け、従業員の「密閉、密集、密接」の環境回避の徹底、訪問看護サービスの際は必要に応じてN95マスク(注2)の着用等の感染リスク低減の措置を講じ、また、役職員の移動や密集を避けるため、本社・拠点間の連絡・指示・情報共有にはリモート会議を活用しております。しかしながら、これらの対策に拘らず、訪問看護師等に罹患者が多数発生した場合には、訪問計画に支障が生じ、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(注) 1.ADL(Activities of Daily Living)とは日常生活動作の指標であり、「運動ADL」の13項目と「認知ADL」5項目で構成され、食事・更衣等のセルフケア、排尿・排便等の排泄、椅子・ベッド・トイレ・浴槽等への移乗、歩行・階段等の移動、視覚・聴覚等による理解、音声・非音声による表出等のコミュニケーション、社会的交流・問題解決・記憶等の社会認識の状況を評価したものです。
2.N95とはNIOSH(米国労働安全衛生研究所)が制定した呼吸器防護具の規格基準であり、5μm以下の飛沫核に付着した病原体を捕集し、着用者の肺への病原体進入リスクを低減することから医療従事者等に使用されているマスクです。
(8) 新規参入の脅威について
当社が属する訪問看護業界は、人員基準、初期投資額の観点から参入障壁が低いうえに、高齢化社会の一層の進展や医療機関における病床数の減少等により在宅医療ニーズのさらなる増加が見込まれるという社会的背景により、異業種からの新規参入や同業他社の事業規模の拡大が予想されます。
当社では、前述の重点課題(「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営方針、中長期的な会社の経営戦略及び対処すべき課題等 ⑤今後当社が対処すべき重点課題」をご参照)の遂行により、事業を成長させることに努める所存ですが、他の事業者との競争の激化が生じた場合、当社の財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。
(9) 拠点展開について
当社は拠点別採算を勘案した出退店基準に基づき事業所展開を調整しリスクの低減を図っておりますが、看護師等の採用や新規利用者獲得数が計画通りに進捗せず、開設後の採算悪化が続いた場合や、拠点閉鎖に至った場合には、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(10) 代表取締役社長への依存
当社の代表取締役社長である大河原 峻は、当社の創業者であり、創業以来、経営者として当社の経営方針や経営戦略を決定するとともに、経営者として訪問看護サービス事業の責任者として全従業員に対してリーダーシップを発揮する等重要な役割を担っております。
当社は、事業規模の拡大に応じた権限の委譲や人員の拡充等を通じて、大河原 峻に過度に依存しない経営体制の構築を進めておりますが、万一、大河原 峻による職務の執行が困難となるような事態が生じた場合、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(11) ベンチャーキャピタル等の株式保有比率
本書提出日現在、当社の発行済株式総数は1,316,000株(潜在株式を除く)であり、そのうちベンチャーキャピタルが組成した投資事業組合等(以下、「VC等」という。)が所有する株式数は329,000株であり、25%を占めております。
一般的に、VC等が未公開株式に投資を行う目的は、公開後に当該株式を売却することによるキャピタルゲインの獲得であることから、当社の株式公開後においてもVC等による所有株式の売却が想定されます。当該株式売却により、一時的に需給のバランスの悪化が生じる可能性があり、当社株式の市場価格が低下する可能性があります。
(12) 資金使途について
当社がさらに成長していくためには、利用者数の増加は当然のことながら、その前提として当社が求める資格、経験を有する優秀な人材を確保し、事業所規模拡大及び拠点展開による事業所数拡大を継続していくことが必要です。そのため、株式上場時における公募増資の資金使途については、人材確保のための資金に充当する予定です。
しかしながら、当社を取り巻く経営環境の変化に対応するため、調達資金を計画以外の使途に充当する可能性があります。上記資金使途とは異なる使途に充当する必要が生じた場合には、速やかに開示致します。また、計画どおりに資金を使用した場合であっても、期待どおりの効果をあげられない可能性もあります。これらの場合、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(13) システム障害について
当社は、売上債権管理や各利用者様の請求管理に関してシステムを利用しており、また、高収益を実現する重要な要素のひとつであるIT推進のために、システム管理の専門部署を設置するとともに、社内規程やマニュアルを整備し施策を講じております。
しかしながら、何らかの事情によりシステム障害が発生した場合、適切な売上請求等を行うことができず、売上債権の回収ができなくなる恐れがあります。この場合、資金繰りの悪化やIT推進施策の遅延等が生じ、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。