有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/05/20 15:00
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【項目】
131項目

事業等のリスク

本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 人工宝石ビジネス市場の状況
当社が参入している人工ダイヤモンドの宝石市場は、世界的に拡大傾向が続くものと見込んでおりますが、宝飾品としての人工ダイヤモンドの認知が進まず市場形成が遅れることや、国内外の経済情勢の悪化や景気動向の減退等の理由により、市場の成長が鈍化した場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。ただし、米国を中心に認知度が上がっており、このようなリスクは低いと考えております。
(2) 特定ユーザーへの過度の依存
当社の売上に占める種結晶の比率は、2021年3月期売上高の87.7%となっております。種結晶ビジネスに対する方針として、長期的な受注によって、半年以上先までの生産状況の確定、生産要員の確保を行うことが可能となります。ユーザーからの要求で当社が生産能力を増強する決断には、ユーザーからの情報の信頼性が必要で、このために大規模なユーザーの確保を優先事項としています。これまでに有力なユーザー数社に対し、長期的な受注をもらうことを条件に、優先的に生産能力を確保することを進めてきました。具体的には、要求量の多いユーザーには、①半年以上の発注、②今後の設備増設計画の開示、を要請しています。このような当社の要請を受け入れる形で、ユーザー数社との関係が非常に強くなっております。2021年3月期の売上状況では、インド、日本、イスラエル、米国にある売上上位4社合計で売上の72.2%、2022年3月期第3四半期累計期間の売上状況では、イスラエル、インド、日本、米国にある売上上位4社合計で、売上の78.6%を販売しております。これらの企業の倒産や立地する国や地域の情勢によっては、当社が種結晶を出荷できないといった事態も想定されます。このような事態が発生すれば、大幅な売上の減少により、当社の経営成績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社としましては、このような場合においては、他の大口ユーザー及び多数の小口ユーザーに対して販売量を増加させることで、短期間で売上の減少をリカバーする所存です。このような対応措置が採れるよう、小口ユーザーを引き留めることも営業の方針として進めております。
(3) 知的財産権管理
①産総研との独占実施契約
当社の生産技術は、産総研が開発した手法を元にしており、この技術の知的財産権は産総研が有しております。当
社は、産総研との間において、当社の製造技術に係る産総研特許の独占的通常実施権の許諾契約を締結しております。当該許諾契約に定める特許権の概要及び存続期間満了日、当該許諾契約の解約事由は、「第二部 企業情報 第2 事業の状況 4.経営上の重要な契約等」に記載のとおりであります。
なお、当該許諾契約について、継続に支障をきたす要因は発生しておりませんが、当社の帰責事由により、当該契約が解約され、独占実施契約の契約期間満了前に終了した場合には、当社の財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、独占的通常実施権の契約期間満了後(2023年11月1日以降)は、非独占的通常実施権が特許の存続期間満了日まで付与される契約となっておりますが、他社が産総研に対して実施権を要求すること等により、産総研が他社と非独占的通常実施権を付与する契約を締結した場合は、当該他社は当社の競合となる可能性があり、当社の財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。なお、当社としては、独占実施契約の契約期間満了時に、産総研に対して独占実施契約の継続を申請する予定であり、その際は当社のこれまでの実績に基づき産総研と交渉する方針であります。仮に、他社が産総研から実施権の許諾を受けた場合でも、多くのノウハウの確立や親結晶の作製に年単位の時間が必要と考えられるため、当社が競争優位性を継続して確保できると考えております。
②知的財産権の取得方針、侵害等
当社は、生産技術が漏洩することを防ぐため、これまで特許などの出願を行わない方針としておりました。生産技術には多数のノウハウがあり、これが技術の実現には重要なカギとなっています。しかし、製品に関連する特許などについては、当社が権利を保有することが重要である場合が出てきているため、今後はこのような知的財産権について、権利化できるように、出願及び審査を進めてまいります。また、技術的なよりどころとなっている産総研の特許群については、維持及び他社による模倣状況のチェックを行っております。しかしながら、他社との間で知的財産権を巡る紛争が生じた場合や、他社から知的財産権を侵害された場合には、事業活動に支障が生じ、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。主力製品である種結晶については、これまで出願された特許は見つかっておらず、公知となって長期を経過していることもあり、特許上の係争が起こる可能性は低いと考えております。
(4) 生産技術の模倣
当社は、産総研の特許の独占実施契約を締結して利用しております。(契約期限:2023年10月31日、契約に含まれる特許数:国内外の総件数17件、独占実施権の継続はその時点で産総研と協議を予定、独占実施期間終了後も各特許の存続期限まで非独占実施権は継続されます。)当社では、特許の技術による種結晶製造のノウハウを確立するため、産総研と共同研究を行って来ており、製品化までのノウハウについては特許に記載されていないこともあり、他社が容易に模倣することは難しいと考えております。しかしながら、他社が当社の技術を模倣し種結晶等の製造を行うことになった場合、事業活動に支障が生じ、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
なお、現在の実施権契約は17件の特許を包括的に締結していますが、個々の特許の存続期限が2024年以降に次々に到来するので、それらの重要性に鑑み、契約書の内容を変化する必要が出てくると考えられます。その時には、当社の事業継続と特許の期限を迎えていない技術の占有状況が維持でき、リスクを最小限とするよう、産総研と契約内容を協議いたします。
(5) 退職者による技術・ノウハウ流出
当社の生産技術には産総研の特許権のほかに生産ノウハウがありますが、当社は漏洩が起こらないよう常に管理を行なっており、役職員の退職時には秘密保持誓約書を提出させることとしております。しかし、生産ノウハウ等の情報流出が発生し、他社が当社の生産技術を模倣した場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。産総研特許の範囲である基幹技術については、独占実施権で守られておりますので、流出してもリスクは大きくないと判断しております。
(6) 競合他社について
①ユーザーが自家生産する種結晶との競合
当社は種結晶を独自技術により製造し人工宝石製造会社等に販売しておりますが、当社の販売先である人工宝石製造会社から取引に際して当社から購入した種結晶から種結晶を再製作しない旨の宣誓書を入手しております。しかし、当社の販売先である人工宝石製造会社の一部が、当社から購入した種結晶を利用して成長させた結晶を薄く切断して、その表面を研磨することで、種結晶を製作しています。その場合には、当社と競合することになります。このやり方の製造コストは、現時点では当社より高いと判断しておりますが、宝石製造会社の技術進捗や購入する装置が安価化することによって、当社の製造コストの優位性がなくなり、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。既にこの手法で種結晶を生産しているユーザーもありますが、継続して当社種結晶を購入していることから、生産性などの観点では、リスクはそれほど大きくないと判断しております。
②多結晶ダイヤモンドを種結晶として用いる手法が出来た場合
現在の人工宝石の製造では、単結晶を種結晶とすることが必須の条件となっています。多結晶を用いても、宝石用のダイヤモンドを製造できるようになれば、大面積で製造できるため、単結晶に比べて安価になる可能性があります。ただし、現時点では多結晶の成長は、単結晶に比べて成長速度が遅いため、大面積の結晶が出来ることの利点は、加工コストを下げることだけに限定されると考えております。ヘテロ成長と呼ばれる、ダイヤモンド以外の物質(例えば、金属とかセラミクス等)への成長を行って作られたダイヤモンドを使う動きは、既に見られております。当社は、当社製品に比べて大幅に価格が安くなるとは想定していませんので、それほど大きな脅威とは考えていませんが、そのような事態となれば、当社種結晶の優位性が失われ、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(7) 生産装置の陳腐化
当社では種結晶の成長装置の性能向上等を目的として、産総研と成長装置の基礎的開発を共同で実施することや、装置製造会社との開発活動を実施しております。しかし、競合他社である人工ダイヤモンド宝石製造会社が成長装置の技術革新を実現した場合、当社の成長装置の性能が陳腐化することでコスト競争力が失われ、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。また、産総研とも共同研究などを通じて、成長装置の高度化を進める所存で、リスクを下げるような各種の対策を講じております。
(8) 島工場建設に係る建設資材、生産装置の価格高騰による資金不足及び建設スケジュールの遅延
工場建設やそれに伴う生産装置の設置には、長期の準備期間が必要であります。当該準備期間に建設資材、生産装置の価格が高騰し、当初の計画での調達資金では資金が不足する事態が考えられます。また、当該準備期間に建設資材の調達遅れや自然災害、新型コロナウイルス感染症対策等の影響で、島工場の物件の引き渡し遅れや、それに伴う生産設備の設置遅れが発生し、島工場の建設スケジュールが当初のスケジュールから遅延する事態が考えられます。その場合には、計画通りの島工場の建設ひいては計画通りの増産ができず、一部のユーザーとの契約が履行できないような事態となる可能性があります。それによって当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。特に、新型コロナウイルス感染症の影響で世界的に資材不足が顕在化しており、島工場については、このようなリスクがあると考えております。なお、島工場の建設スケジュールについては、「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画 (1) 重要な設備の新設」に記載のとおりであります。
(9) 重要な生産装置の重大な故障
当社の生産工程において、必ず使用する必要があるイオン注入装置を1台しか保有していません。当社では定期的な設備点検により故障を防止する対策を行っておりますが、主要部品が壊れるなど長期にわたって当該装置が稼働できないという状況になった場合には、生産が完全に止まることとなり、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。今後、生産能力の拡張を進める中で、イオン注入装置の追加導入を進めてまいります。島工場を建設し、イオン注入装置が2台となった場合には、リスクは大幅に低減します。
(10) 特定人物への依存
これまでの当社の新製品開発や新技術開発については、当社の代表取締役社長である藤森直治を中心として推進してまいりました。当社は、産総研ダイヤモンド研究センター長であった藤森直治を中心に、ダイヤモンド単結晶製造技術の事業化を目的として設立されており、その技術の知見に対する依存度は極めて高いと言えます。開発や生産に係る技術者を雇用、育成することで、藤森直治に依存しない体制の構築を進めておりますが、何らかの理由により業務執行できない事態となった場合、新製品の開発遅れや、生産効率化の遅れなどにより、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(11) 小規模組織であること及び人材確保
当社は小規模な組織であり、現在の人員構成における最適と考えられる内部管理体制や業務執行体制を構築しております。当社は事業の拡大を目指していますが、その実現には管理体制強化及び絶え間ざる技術革新が必要であり、管理部門、生産部門、開発部門で幅広く人材確保を進めています。しかしながら、計画通りの採用が実現できなかったり、必要とする能力を有する人材の応募が無かったりした場合には、適切な人材配置が困難となり事業拡大に制約が発生するなどにより、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(12) 感染症等の影響(新型コロナウイルス感染症問題)について
当社は新型コロナウイルス感染症対策として、役職員に対し、テレワークやオフピーク通勤を奨励しており、定期的にPCR検査を実施しております。また、遠距離の出張の原則禁止や宴会を行わないこととしております。しかし、当社において感染症等が蔓延した場合、業務停止及び遅延によって、売上の減少、納期遅延等が生じる可能性があります。また、当社の顧客に感染症等が蔓延した場合、顧客からの発注が止まることや、出荷停止、遅延等が生じる可能性があります。さらに、当社の仕入先や外注先に感染症等が蔓延した場合には、調達及び製品製造の停止や遅延等が生じる可能性があります。これら諸要因の動向によっては、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(13) 自然災害等
当社の活動拠点の本社、横江第1工場及び横江第2工場は、大阪府北摂地区に立地し、外注先は愛知県西部の臨海地域に立地と、活動拠点は分散しているため、両地域が同時に台風や地震で壊滅的な被害を受ける可能性は低い、と判断しております。しかしながら、当社の生産能力の大部分は大阪府北摂地域に集中しているため、大阪府北部で大地震やその他操業に影響する災害などが発生した場合には、売上の減少、装置類の損傷による多額の補修費用の発生、停電による情報管理ネットワークの遮断等により、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(14) 当社製品へのクレーム
当社では生産する全ての製品について、万全の品質管理に努めるとともに、全ての工場の設備の予防保全に努めており、現時点において、品質に関する重大なクレーム及び納期に関するクレーム等は発生しておりません。また、軽度のクレームには迅速に対応し、顧客の信頼を損ねないような対応を行っておりますが、将来、製品の重大な品質クレームや重大な生産トラブルによる納期クレームが発生した場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(15) 為替リスク
当社は数多くの海外顧客との取引があり、海外顧客との取引(日本の商社経由の取引を含む)は外貨建て取引を採用しており、当社の取引高に占める外貨建の取引の割合は2021年3月期が87.5%、2022年3月期第3四半期累計期間が94.4%となっております。現時点では為替リスク対策をとっていないことから急激な為替変動による為替リスクが生じる可能性があり、為替損失等が発生した場合には当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。為替に関して円高のトレンドが明確となった場合には、為替予約によってリスクを回避することを検討いたします。最近3年間くらいの変動状況から、100円/$以上の円安の水準では、為替予約を基本的には行わず、100円/$の水準に近づいた段階で為替予約を執行することを検討いたします。
(16) 中近東の政治情勢
当社の主要な販売先としてイスラエルの企業が含まれるため、当社では、販売対象地域の状況把握に努めておりますが、政治情勢が不安定となり戦争の勃発等の事態となった場合、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(17) 情報漏洩
当社は、開発段階から顧客と共同で取り組んでいる案件について、秘密保持契約を締結し情報管理を行っております。また、共同開発(研究)契約を締結して進めている案件もあります。これらの契約は、契約していること自体が重要情報である場合もあり、役職員にはこの重要性を知らしめ、啓発、教育を行うと共に、秘密保持誓約書を提出させる等、情報漏洩の防止には万全を期しております。
しかし、情報の漏洩が発生した場合には、当社が賠償責任を負う可能性があり、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(18) 訴訟に関するリスク
当社の事業又は活動に関連して、知的財産権、環境、労務等、様々な訴訟、紛争、その他の法的手段が提起される可能性があります。現在、当社の経営成績と財政状態に重大な影響を及ぼす訴訟は提起されておりませんが、将来において、重要な訴訟等が提起された場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。特に、主要製品である種結晶に関する係争については、注意を払っております。
(19) ストック・オプションの行使による株式価値の希薄化
当社は、取締役、監査役及び従業員等に対するインセンティブを目的として、ストック・オプションを付与しております。これらのストック・オプションが権利行使された場合、当社株式が新たに発行され、既存の株主が有する株式の価値及び議決権割合が希薄化することとなり、将来における株価に影響を及ぼす可能性があります。本書提出日現在のこれらのストック・オプションによる潜在株式数は、135,300株であり、発行済株式総数2,185,300株の6.2%に相当しております。
(20) 配当政策
当社はこれまでの経営状況から、配当を行っておりません。将来の社債発行や増資に際して、配当を行っていないことでの不利が発生し、必要な資金調達が出来ない事態がリスクとなる可能性があります。それによって、必要な設備投資ができなかったり、遅れたりすることで、ビジネスの拡大が妨げられたり、顧客を失ったりする可能性があります。当社は、上場後においては、利益を確保できれば、配当の実施を検討いたしますが、現時点では未確定です。
(21) 各工場の賃貸借契約が解除され、継続使用が困難となるリスク
当社が活動している各工場は、賃貸借契約で入居しております。災害あるいは貸主の都合によっては、この契約を解除され、退出を余儀なくされれば、生産活動に支障を来たします。工場の移転期間中の減産や、インフラ設備の除去費用、さらに移転費用の負担があり、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。現状の契約期間は、横江第1工場が3年、横江第2工場が2年と比較的短期間であることから、今後、契約期間の長期化に向けた対応を検討いたします。
(22) 法的規制等
当社は事業活動において、製造物責任法、外国為替及び外国貿易法、特許法、下請代金支払遅延等防止法、建築基準法、借地借家法、労働安全衛生法、消防法、廃棄物処理法、大気汚染防止法等の各種法的規制を受けておりますが、上記法的規制等の新設や改正等が行われた場合には、当社の事業活動が制約を受け、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、当社は、法令等の遵守に努めておりますが、何らかの理由で上記法的規制等への抵触が発生した場合、当社の事業活動が制約を受け、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。