有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/05/23 15:00
【資料】
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【項目】
128項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針
(a)経営理念
当社は経営理念として「自らが輝き、人を元気にする」を掲げております。当社のお客様は、体に不都合を持たれている方が多く、その影響で心も沈みがちになっている方もいるかもしれません。当社は介護という仕事を通して、お客様の「心」を元気にしたいと考えております。その為には、お世話をさせて頂く私たちが暗く後ろ向きではいけません。お客様がその方らしく輝いて生きる事を応援させて頂くために、私たち自身が仕事を通じて自らを磨き自分らしく輝いて生きる事が必要であり、当社社員が輝けば、利用者様の「心」が更に輝き出すと考えております。
(b)ミッション
当社は下記をミッションとして定めております。
① 福祉の職場をもっと魅力的に!
私たちサンウェルズは夢と誇りを持って志事(しごと)に取り組み、皆があこがれる業界づくりにチャレンジします。
② 介護サービスに進化と変化を!
私たちサンウェルズは介護の常識にとらわれることなく、利用者様の立場に立ったより良いサービスづくりにチャレンジします。
③ 未来を作る「人」を育成する!
私たちサンウェルズは仕事を通じてクリエイティブに発想し、自ら行動する「輝く大人」づくりにチャレンジします。
(2)目標とする経営指標
当社では、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目的としており、収益力の強化と経営の効率化を図るため、売上高及び経常利益率を重要な経営指標と位置づけ、各経営課題の改善に取り組んでまいります。
また、有料老人ホームの運営による売上高が、当社全体の売上高に占める比率が高いことから、「PDハウス」を含めた有料老人ホームにおける提供可能室数及び稼働率も経営成績に影響を与える主要な経営指標として捉えております。
(3)経営戦略
わが国では、2007年に超高齢社会(公益財団法人長寿科学振興財団の定義)を迎え、更に2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」)となる一方で、若年層の人口は減少の一途をたどり、より一層の少子高齢化が加速していくものとみられております。これにより、医療業界における需要と供給のバランスが崩れ、病院数の減少や医師不足といった問題が生じるおそれがあり、介護へのニーズはますます増加するものと考えられます。
当社は2006年に介護施設としてデイサービスをスタートさせ、15年の歳月をかけてパーキンソン病に焦点を絞った「PDハウス」の全国展開にまで業容を拡大させてまいりました。
今後は、北陸エリアのデイサービス、有料老人ホーム事業は業容を維持しつつ、「PDハウス」を経営戦略の中心に位置づけ、パーキンソン病専門施設として「PDハウス」での提供サービスを磨き上げること、また、新サービスを創造することによって差別化を実現し、中長期的に安定的かつ持続的な成長と企業価値の拡大を目指すことを計画しております。
具体的には、以下を当社の経営戦略の骨子としております。
① 「PDハウス」のブランド構築
パーキンソン病は治療手段について世界中で多くの研究が行われておりますが、いまだに根治する方法が確立されていない進行性神経難病になります。患者数は進行性神経難病の中でも最も多く、関連疾患も含めると約14.2万人(厚生労働省「2020年度衛生行政報告例」(2020年度末現在)、特定医療費(指定難病)受給者証所持者数)の患者がいると推定されております。年齢層も60歳以上が約9割(同上)を占め、症状についても筋肉がこわばる(筋固縮)、体が動かしにくくなる(無動)、手足が震える(振戦)などの動きに関連する症状のほかに、幻覚や幻視、自律神経障害、睡眠障害など様々な生活障害を呈する疾患であり、ケアをするにも高い専門知識と経験、技術が必要になります。
また、この疾患には正しい薬物療法と十分なリハビリテーションが重要とされますが、薬剤に関して多い方では1日10回程度に分けて薬を服用するケースもあり、リハビリテーションにおいても現行の介護施設では十分量のリハビリテーションを提供できる所が非常に少ないのが現状です。適切な服薬管理と十分な回数のリハビリテーションが提供できれば病気の進行を遅らせ、天寿を全うしていただくことも可能だと考えております。しかしながら、病気の初期段階や軽度要介護度の患者に対しての改善に関するリハビリ報告・治療研究報告は多く存在しますが、病気が進行し重度化した場合の改善事例が非常に少ないのが現状であります。
「PDハウス」では、全国のパーキンソン病研究の専門医(順天堂大学医学部 服部信孝教授、福岡大学医学部 坪井義夫教授、医療法人北祐会 北海道脳神経内科病院 濱田晋輔理事長)と研究を進め、より効果的な新サービスの創造を目指しております。順天堂大学とは共同研究講座講を開設し、3次元オンライン診療システムの検証、ウェアラブル端末による活動検知の検証及びオンラインセミナーを実施しております。福岡大学とは寄付講座を開設し、ダンスプログラムによる症状改善の検証、病状を数値化し、進行速度を比較解析及び提供するサービスに関する合同検討会を行っております。医療法人北祐会 北海道脳神経内科病院とは共同研究講座講を開設し、リハビリ機器、訓練アプリの効果検証、提供するサービスに関する合同検討会及びオンラインセミナーを実施しております。また、原正彦医師(株式会社mediVR 代表取締役社長)が開発に携わったVR(仮想現実)技術を用いた医療機器(VRリハビリ機器「カグラ」)の効果検証を行っております。新たな専門サービスの開発により同業者の模倣困難性の向上に努めております。
これからの社会保障制度においては、入院期間の短期化や介護療養病床の廃止などにより、まだ専門的な治療が必要にもかかわらず地域に退院してくる方が増大することが予想されます。介護施設においても病院医療機関のように専門化(脳神経内科、消化器科、循環器内科など)を図り、地域包括ケアの中において専門性の高いケアを受けられる施設は重要と考えており、「PDハウス」はその一端を担える事業と自負しております。
② 「PDハウス」の事業拡大
パーキンソン病患者は2020年度末で約14.2万人(厚生労働省「2020年度衛生行政報告例」2020年度末現在 指定医療費(指定難病)受給者証所持者数)といわれております。そのため、地域毎に必要とされる床数を展開していきたいと考えております。
2022年4月末時点では、北海道、関東、関西、九州、北陸にて「PDハウス」を全国に12施設(613床)運営しております。2023年3月期末ではさらに8施設(434床)の新規開設によって、20施設(1,047床)の展開を予定しており、今後も「PDハウス」展開を成長ドライバーとして位置づけ、大都市圏や地方の中核都市を中心に更なる全国展開を計画しております。大都市圏では期間を空けずに新規開設することにより、エリアの囲い込みと従業員の適正配置を行い、利益の最大化を図ります。地方の中核都市では、まずは一つ目を開設することにより、そのエリアにくさびを打ち、ニーズに合わせて周辺エリアに新規開設することで同業他社の進出を阻むと共に、中期的にはそのエリアでの高シェアを図ります。
また、当社はこれまで北陸エリア定着に向けて、有料老人ホーム、グループホーム、デイサービス、福祉用具事業、加圧トレーニング事業といった介護系サービスを展開し、1人の利用者に対して手厚く包括的なケアの提供を行い、安定した経営基盤を築きました。北陸エリアで得た収益を今後の「PDハウス」の事業拡大への人材採用、教育といった投資、本社費用を賄い、「PDハウス」事業拡大を目指します。
「PDハウス」の開設においては、開設2か月前からリーダー職員を採用、入居ペースに合わせた採用を行い、入念な研修を経て開設を迎えます。更に周辺の医療機関や施設からの紹介、TV、新聞、Web等による広告で集客をすることにより、早期黒字化を図ります。開設時期が集中すると一旦は業績を押し下げる要因となりますが、早い段階で業績に寄与するようになるとともに、「PDハウス」を利用される方は長期に亘り施設を利用いただくので、安定した稼働率で推移し、定常的な業績を目指します。
③ 「PDハウス」を中心とした事業の展開
現在、「PDハウス」はパーキンソン病が進行された方を中心に利用していただいております。そこで得たリハビリテーションのノウハウ等を活かし、中期的には軽度の方にも利用していただけるリハビリテーションサービスを提供することを計画しております。各地の「PDハウス」でのノウハウをコアにし、インターネットでリハビリテーションが受けられるサービスを展開することにより、より多くのパーキンソン病患者の方にサービスを提供してまいります。さらに海外でもこのインターネットでのサービスを展開することを計画してまいります。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 人材の採用及び定着
少子高齢化により労働人口が減少する中、介護を必要とする人の数は増えており、介護業界では人員不足の状況が続いております。
このような状況のもと、当社は経営理念及びミッションのとおり、お客様に満足していただくには従業員自らが輝く必要があると考えており、魅力的な職場づくりに取り組むとともに、従業員の採用力強化、及び定着率の向上に取り組んでおります。
採用力強化につきましては、採用担当者を増員し、Web面接や採用専用ダイヤルの設置、リファラル採用(当社社員からの紹介による採用)の導入など新しい取り組みを導入し、採用力を増強しております。特に将来の大きな戦力となる新規卒業者の採用にも注力し、優秀な人材の獲得に向け、就職フェア等へのイベント参加を積極的に行っております。また、「PDハウス」の都市部展開に伴う対応として、新規参入地における採用担当者を雇用し、採用力を強化してまいります。
定着率の向上につきましては、キャリアアップ制度の構築や給与等の待遇改善に注力するとともに離職率の低いリファラル採用に力を入れ、従業員の定着につなげてまいります。
② 専門知識の習得、向上
当社では、介護事業を行っていくうえで、サービスの質の向上及び平準化は重要な事項だと認識しており、従業員に対し、研修項目を多数設けるほか、専門職が集結する部会などを実施し、従業員教育を行っております。また、介護士の知識・技術の高水準・均一化を図るため、独自の介護技術認定制度(MCライセンス)を導入しております。
当社の従業員が安定した質の高い介護サービスが提供できるよう、無資格・未経験の従業員に対しては、介護職員初任者研修の受講費用を負担するなど、人材育成に力を入れております。
また、「PDハウス」の全職員へは、専門医によるオンラインセミナーや事例検討会を実施し、パーキンソン病ケアのプロフェッショナルスキルを擁した専門人材の育成に力を注いでおります。
③ 利用者満足度の向上
当社の社会的使命は、利用者様に心から満足いただけるサービスを提供することだと考えております。当社がサービスを提供する各施設においては、利用者様に安心安全に、安定したサービスを提供するとともに、各利用者様のご要望に沿えるよう柔軟に対応することが必要になります。当社では、人材の確保、サービス基盤の拡充等に加え、各施設内、施設間の連携を強化し、急な状況変化にも耐えうる体制を整備しております。
④ 「PDハウス」のブランド力強化及び知名度向上
2021年3月期において、専門医連携型のパーキンソン病専門介護施設である「PDハウス有田」、「PDハウス西野」及び「PDハウス相模大野」の3施設を開設いたしました。2022年3月期においては、上期に「PDハウス今宿」、「PDハウス西宮の沢」、「PDハウス岸部」、下期に「PDハウス藤沢」、「PDハウス門真」、「PDハウス板橋」と計6施設を開設いたしました。今後も都市部を始め全国へと展開を進め、「PDハウス」のブランド力強化と知名度の向上に努めてまいります。
⑤ 情報管理体制の構築及び強化
当社は、事業を行う上で入手した顧客に関する様々な個人情報を保有しております。万が一これらの情報が外部に漏えいした場合、当社に対する信用失墜や損害賠償請求等によって当社の業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
情報管理については、従業員との情報管理に関する誓約書の締結、社内規程の整備及び従業員教育の徹底等、管理体制の強化に努めることで情報流出を抑止しております。又、インターネットセキュリティの強化及び事業所の防犯対策等の実施により外部者の不正な情報取得を防ぐなど、可能な限りの対策を取っております。
IT社会の発展に伴い、当社でも稟議の電子決裁、保存書類のペーパーレス化、Webでの入社面接、TV会議等、業務の効率化を図るためITを導入して参りました。ネットワークの管理に関しましてはIT統合管理システムを導入し、事業の拡大とともに増加するPC機器等の管理を行えるように致しました。それにより災害時でも耐えうる情報管理体制の構築に取り組んでおります。
⑥ 財務体質の強化
当社は、金融機関からの借入金の割合が株主資本に対して高い比率となっております。今後は、運転資金拡大に加え、施設開設のための資金の確保も必要であることから、有利子負債とのバランスを勘案し自己資本の拡充を図ってまいります。
⑦ 内部管理体制の強化
利用者満足度の高いサービス提供のためには、利用者様からの信頼を獲得することが必要であり、そのため当社では個人情報管理体制をはじめとした、内部管理体制の強化を継続して推進していくこと及び事業規模拡大に対応した十分な内部管理体制の整備が必要であると認識しております。当社は内部管理部門についても積極的な人材採用を進めるとともに、社内業務のIT化・アウトソーシングなどを活用し、効率的な内部管理体制を整備してまいります。
⑧ 流動性の向上及び企業価値の拡大
本書提出日現在の当社の株主構成は、当社の代表取締役社長である苗代亮達と同氏が代表を務める資産管理会社である株式会社杏となっており、当社が上場に伴い実施する公募(自己株式の処分)及び売出しによって当社株式の流動性の確保に努めることとしておりますが、取引所の定める流通株式比率は新規上場時において25.0%にとどまる見込みです。今後は、当社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上の観点等から、公募(自己株式の処分を含む)及び売出し等の実施可能な資本政策を適宜検討し、流動性向上に努める方針としております。