有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2024/03/07 15:00
【資料】
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【項目】
135項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 会社の経営方針
当社は、「ハンモックでくつろげるような快適なシステムを組織で働くすべての人々に提供したい」という考えのもと、「組織を強くするIT環境をすべての人へ」をミッションに顧客の課題、ニーズ、困りごとをITで解決するため、今まで世の中になかった機能をスピーディーに開発し、必要な機能を高品質で、適切な価格で提供することを目指しております。
様々な業務領域において、それまでになかった機能を備えたシステム分野において高付加価値のIT製品を提供することで業務の生産性・信頼性を向上させ、顧客の企業価値の向上を図ることにより、時代の変化とともに、新たなITソリューションを提供することで、社会になくてはならないリーディングカンパニーを目指しております。
当社の製品及びサービスは業種業態を問わず必要とされるもので、かつ、中堅中小企業でも導入可能とすることで、企業規模を問わず導入できるものを目指しております。
(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は創業以来、政策的に広告宣伝費等に投資した第27期(2021年3月期)を除き、安定的に利益を計上しております。今後も事業を成長させるとともに、安定した利益を計上していくことを目指しております。主にリカーリング型のビジネスモデルを展開していることから、継続的に売上を成長させていくことが重要となり、重要な経営指標として以下のものを掲げております。
・売上高成長率
・営業利益
当事業年度を含む、直近2事業年度の指標の推移は以下のとおりであります。
2022年3月期2023年3月期
売上高成長率(%)16.59.5
営業利益(千円)385,777508,053

(3) 経営環境
我が国は課題先進国と称されるように、諸外国に先んじて人口減少、少子高齢化がすすんでおり、労働人口の減少に直面しております。内閣府が作成した「令和4年高齢化白書」では、2065年には約2.6人に1人が65歳以上という高齢化社会の未来が到来することを示しており、今後の日本社会では、労働人口が減少する前提のもとで生産性を向上していくことが重要視されています。また、「テレワーク」に代表されるオフィスにとらわれない働き方が広まっており、東京都が2022年10月に実施した「テレワーク実施率調査」によると、東京都内企業(従業員30人以上)においては、54.1%の企業がテレワークを実施している現状があります。企業のIT投資動向に目を向けてみると、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会が発表した「企業IT動向調査報告書 2023」によれば、2023年度のIT予算の増加理由は「事業変革に向けたデジタル化対応」が最も伸び率が高く、2023年度が36.2%となっており、2022年度の27.7%から8.5%増加しています。
労働人口の減少に伴いDXによる生産性向上のニーズが高まっております。また、テレワークの拡大により企業のセキュリティ対策やクラウド化が進んでおります。これに伴い、企業の生産性向上及び信頼性向上に寄与する製品及びサービスを提供する当社を取り巻く市場は、拡大していくことが期待されます。
[ネットワークソリューション]
テレワークに代表される新たな働き方や、令和2年に施行された改正個人情報保護法などの動向と、外部からのサイバー攻撃や組織内部者の不正による情報漏えい事件が多発していることから情報セキュリティ対策の必要性が高まっております。株式会社富士キメラ総研による市場調査「2023 ネットワークセキュリティビジネス調査総覧」によると、ネットワークセキュリティビジネス市場は、2022年度は6,551億円でしたが、2023年度は7,224億円と見込まれております。
[セールスDXソリューション]
新型コロナウイルス感染症の拡大以降、テレワークでの営業活動は一般的なものになりました。非対面を前提とした顧客接点や営業プロセスのデジタル化・非属人化への取り組みが中長期的に継続すると想定されます。当ソリューションが属するCX/デジタルマーケティング(CRM(営業)、メールマーケティング、マーケティングオートメーション)の市場規模は、2022年度は1,046億円まで拡大しています(株式会社富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2023年版」(2023年7月)より)。「ホットプロファイル」及び「ホットアプローチ」は名刺管理やMA、新規開拓領域まで広範囲の機能を有しており、顧客ニーズに応じてサービス領域を拡大してきたことから、当該市場に留まらず幅広い市場の開拓余地があるものと考えております。
[AIデータエントリーソリューション]
少子高齢化、労働契約法改正、働き方改革推進などを背景として組織内の従業者だけでは従来業務に対応できない人手不足の状況が生まれてきています。紙のデータを活用するために人間がシステムに転記する「入力業務」は業界業種を問わず発生しており、業務改善の余地が大きく効率化がより一層必要とされます。このような環境下において、人による作業を大幅に削減できる当社の、AIデータエントリーソリューションのビジネス需要も更に拡大することが見込まれます。
デロイトトーマツミック経済研究所株式会社「OCRソリューション市場動向 2023年度版」(URL:https://mic-r.co.jp/mr/02710/)によると、OCRソリューション全体の市場規模は、2022年度の見込が532億円であり、2021年度実績の500億円に比べて拡大しております。
(4) 中期経営戦略
当社においては、安定した成長率と利益を継続して確保してまいりました。今後は、成長をさらに加速させ、利益率の向上を図っていく方針でございます。
当初は、オンプレミス型の製品の販売が主流でしたが、ネットワークソリューションの製品のクラウド化や、クラウド製品であるセールスDXソリューションの成長に伴い、当社事業のビジネスはリカーリング型のビジネスモデルに移行しております。
1.成長性の向上
売上は、新規顧客獲得と既存顧客の契約継続等に大別されます。リカーリング型のビジネスモデルへの移行に伴い既存顧客の契約の継続による売上の比率が拡大してまいります。成長性を向上させるためには、新規顧客の獲得とともに既存顧客の契約の継続率の向上が重要となります。
① 事業領域の拡大
市場ニーズを的確に捉え、自社開発にて製品化し、提案していくというサイクルを高速で回すことにより常にニーズを捉えた製品をスピーディーに顧客に提供していくことが可能となり、新機能、新製品を開発提供することで事業領域を拡大し、新規顧客の獲得、既存顧客の契約の継続率の向上、契約単価のアップを図り成長を加速させてまいります。
② 顧客における効果的な利用
既存顧客の契約の継続率の向上、すなわち、顧客に当社の製品を利用し続けて頂くためには、顧客において当社製品を、より効果的に利用して頂くことが重要となります。そのために、導入支援や運用支援等のオンボーディング支援を行い顧客の満足度の向上を図っております。
このようなカスタマーサクセスの強化を図り、既存顧客の契約の継続率を高めてまいります。
2.利益率の向上
リカーリング型のビジネスモデルへの移行に伴い、既存顧客の継続利用が高まることで、長期的に安定的な収益の確保が可能となり、開発費用等の固定費の売上全体に対する比率を低減させ、利益率の向上を図ってまいります。また、売上を意識した営業費用、広告宣伝費等の顧客獲得費用のコストコントロールを実施することで、利益率の向上を図ってまいります。
安定した利益を継続して確保しているネットワークソリューションを主軸に、セールスDXソリューションの成長を加速させ、AIデータエントリーソリューションの新技術となるダブルAI OCR(注)の売上拡大を目指してまいります。
世の中のクラウド化の流れの中、当社においても全ソリューションでクラウド化対応しており、オンプレミス型で提供している製品においても、クラウド型製品を開発し、提供形態の拡大を図ってまいります。これにより、導入可能な企業等の業種、規模などを、さらに拡大してまいります。
(注) ダブルAI OCRとは、異なった機械学習方法により特性の異なる2つのAI OCRを搭載したものです。
[ネットワークソリューション]
IT資産管理市場では、リモートワークの拡大・定着に伴い、社外に持ち出されるPC等の数が増えており、これらのIT資産を管理する必要性が高まっています。社内のネットワーク環境の外にあるIT資産の管理にはクラウド環境が適しているため、IT資産管理ツールをクラウドサービスとして採用・運用する顧客が増加しています。
ネットワークセキュリティビジネス市場の中で、当社が最も注力している市場は、IT資産管理ツールのクラウドの市場になります。株式会社富士キメラ総研「2023 ネットワークセキュリティビジネス調査総覧」によると、端末管理・セキュリティ管理ツール市場(IT資産管理ツールと同義になります)は2022年度に321億円の市場規模であり、2023年度には348億円の見込みとなっています。また、同市場のうちクラウドの市場は2022年度に68億円の市場規模であり、2023年度には95億円の見込みとなっています。
当社のクラウドサービスも、2018年のサービス提供開始以来、毎年顧客数が増えており、ネットワークソリューションの売上に占めるクラウド売上の割合も、2022年3月期の15.2%に対して、2023年3月期は24.9%と拡大しています。
「AssetView」はオンプレミス型とクラウド型を提供しておりますが、クラウド型を検討・導入する顧客が増加しており、市場動向においてもクラウド型の伸び率がオンプレミス型の伸び率より高くなっています。このような市場動向や顧客のニーズを踏まえ、クラウド型の継続的な提案及び新ブランドである「AssetView Cloud+」の投入や、ネットワークセキュリティ市場における事業領域の拡大等により売上拡大を図ることを基本方針としております。
地方公共団体に関しては、2020年12月に総務省が公表した「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に準拠したクラウド型資産管理ツールの提供を行ってまいります。また、2021年5月に文部科学省が公表した「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」にて提示された教育委員会におけるクラウド型の活用に合わせて、IT資産管理のクラウド型への提案を促進してまいります。
また、民間企業に関しては、「AssetView」の特徴と、コンサルティングサービスや運用支援サービスを生かして新規顧客獲得を行うと共に、オンプレミス型を利用している既存顧客のクラウド型への移行を促進してまいります。
これにより、リカーリング型のビジネスモデルへの移行を促進してまいります。
[セールスDXソリューション]
当ソリューションはリカーリング型のビジネスモデルが主であり、安定的かつ継続的な収益獲得が可能な収益モデルとなっております。また、法人営業の営業活動を支える3つの領域「名刺管理」「SFA/CRM」「MA」を統合し、一つの製品で実現できる競合優位を有しております。
さらなる事業成長のため、以下に取り組んでまいります。
・事業領域の拡大
顧客のニーズを捉え、その課題を解決することにより名刺管理やSFA、新規顧客開拓ツールなどの新製品を提供し営業支援の領域で事業を拡大してまいりました。
今後は、さらに営業職を深く掘り下げ業種特有のニーズや営業手法(新規開拓営業やルート営業等)ごとのニーズなど、専門性の高い製品を提供することで更なる事業領域の拡大を図ってまいります。
・販売チャネルの拡大
新規顧客獲得のため、新たな販売チャネルを開拓し、販路拡大を図ってまいります。業種や事業規模などの顧客特性に応じて最適な販売代理店や仲介パートナーと協業し顧客との接点を増やしてまいります。また、OEM提供など販売代理店の販売施策に合わせた製品提供を実現することで、様々な販売チャネルとの連携を図り、売上拡大を図ってまいります。
※OEM:OEMとは、Original Equipment Manufacturingまたは Original Equipment Manufacturerの略語で、委託者のブランドで製品を生産すること、または生産するメーカーのことです。
・カスタマーサクセスの強化
顧客の個別ニーズに合わせてカスタマイズしたサポートを提供するために、専任担当者が顧客のビジネス状況を理解し、中長期的な伴走支援を行います。これにより顧客満足度を向上させ、顧客の成功を最大化し、継続利用率の向上を図ります。
[AIデータエントリーソリューション]
官民問わず様々な分野で政府主導によるDXが推進されており、その対応の第一歩として情報を「紙で管理する」のではなく、「デジタルで管理する」ことが求められており、紙のデータ化に貢献するOCRの市場は拡大していくと考えております。
情報管理の問題や処理スピードの観点からオンプレミス製品においても、引き続きニーズは多く、「AnyForm OCR」においては、安定した売上の獲得を目指してまいります。
また、2021年に製品リリースした高いクラウド化のニーズに対応した「WOZE」は、OCR結果の人手による確認を顧客ではなく、当社が行うという新しいサービス形態によりOCR製品市場からBPO(注)事業者をターゲットとしたデータエントリー市場全体へ事業領域の拡大が可能となり、これにより売上成長を目指してまいります。
(注) Business Process Outsourcing(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の略であり、企業活動における業務プロセスの一部を一括して専門業者に外部委託すること意味します。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社が対処すべき主な課題は以下の通りと認識しております。
① 優秀な人材の確保
当社においては、最も重要な資産は人材であるとの考えのもと、当社の継続的な成長のためには、営業、開発、カスタマーサクセス、管理の各部門において優秀な人材を確保することが重要と考えております。そのためには、当社のミッションに共感し、高い意欲をもった人材を採用するとともに教育体制の強化、従業員へのミッションの浸透、資格取得支援などにより人材の定着率の向上に努めてまいります。
② 製品力の強化
当社においては、顧客の事業に貢献できる優れた製品を継続的に提供することが、事業成長において重要と考えております。顧客ニーズを的確に掴むマーケティング力の強化、そのニーズを高品質かつスピーディーに開発する開発体制の強化をすることにより、ニーズを捉えた新機能の開発及び機能の向上を行い製品力の強化を図ってまいります。
③ 顧客の獲得
継続的な事業成長のためには、新規顧客の獲得が重要と考えております。そのために、セミナーの実施や各種プレスリリースの公表、展示会への出展等でリード(見込み客)を獲得し、案件の創出から成約までの商談ステージの管理を行う等、営業戦略及び体制の強化を図ってまいります。
④ カスタマーサクセスの強化
当社の製品は「オンプレミス型」と「クラウド型」が混在しておりますが、収益構造としては、リカーリング型のビジネスモデルが主軸となっております。そのため、カスタマーサクセスを強化することにより、新規顧客に対する製品の導入サポート、既存顧客に対する運用サポートを充実させ、製品の利用率の向上を図り、より有効に当社製品を活用して頂くことで、取引を継続して頂くことが重要と考えております。その指標となるチャーンレートを一定以下にすることを目指しております。
⑤ 情報セキュリティ体制の強化
当社は、個人情報など重要な情報を取り扱っております。これらの情報資産の管理の徹底が製品の信頼性を担保するためには必須であります。そのために、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)及びPマークの取得、これらに対する社員への継続的な研修や試験を実施することで、情報セキュリティ体制の強化を図っております。
⑥ 経営基盤の強化
当社の企業理念を実現し、継続的な事業成長を行っていくために、コーポレート・ガバナンスの強化を図り、リスクマネジメントによる守りと同時に攻めを強固にし、同時に迅速な意思決定ができるように、経営基盤を強化してまいります。監査役並びに内部監査による監査を適切に行うことや社外取締役を2名体制にすることにより、経営陣や業務執行に対する適切な監督体制を整備し、コーポレート・ガバナンスの強化を図ってまいります。
⑦ 財務基盤に関する状況
当社においては、安定的に利益を計上してきたこと、また、売上金について前受で受取ることが基本となることから、有利子負債はなく、手許資金も十分確保しているため、財務基盤は安定していると考えております。クラウド型製品の提供、顧客のサーバーにおいて稼働するオンプレミス型製品の保守サービスにおいて、製品及びサービスの提供ができなくなる可能性は非常に低いですが、災害等の想定外の事態が発生し、製品及びサービスの提供ができない場合に備え、流動比率の確保に注力してまいります。