有価証券報告書-第17期(2025/07/01-2026/06/30)
有報資料
当社は、AI技術や数理最適化技術を用いたAIエンジン開発、システム開発及び運用・サポートを提供する「AI事業」、並びに系統用蓄電所の設計、開発及び譲渡等を行う「インフラアセット事業」の2つを報告セグメントとしております。以下に示す区分は、セグメントと同一の区分であります。
なお、当社は従来「AI事業」の単一セグメントとしておりましたが、蓄電所の開発を開始したことにより、当事業年度より、報告セグメントの区分を「AI事業」及び「インフラアセット事業」に変更しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」をご参照ください。
当社は、「INFRASTRUCTURE+LIFE+INNOVATION」(インフラ ライフ イノベーション)を企業理念と定め、社会インフラにイノベーションを起こし、インフラ全体の最適化を目指し、社会に貢献することをミッションに活動しております。
現在の社会経済は、エネルギー価格の変動、サプライチェーンの寸断、カーボンニュートラル(注1)に向けたエネルギー消費の効率化、DX化に伴う業務の効率化等、様々なリスクや課題を抱えております。その中で迅速に最適解を選択し、施策や事業を管理運営していくことが、企業ひいては社会の持続的な成長に必要不可欠となっております。
電力、物流、サプライチェーンといった社会インフラも同様に、ビジネス上の様々な要素を考慮した上で計画的に管理運営されておりますが、その計画業務は熟練の人材による多大な労力と時間により成立しており、現在の複雑かつ不確実性の高い環境下で迅速に最適解を選択することは困難な状況となっております。
そこで当社は、属人性を排し、インフラのオペレーションに関わる様々な制約を変数として、複雑かつ不確実性の高い多数の要素も考慮した上で、AI技術を用いて短時間で最適な計画を提供するため、計画最適化事業を展開しております。具体的には、当社の社会インフラに関する業務知識の豊富なエンジニアが各顧客の計画対象業務を数式化することにより、複雑な業務を再現するシミュレータを開発し、デジタル空間上に機器、設備、人、車両等の動きを再現します。シミュレータ上では、仮想的に設備、車両等を動かし、業務のシミュレーションを行うことができるため、ビッグデータを使用せずにシミュレーション結果を生み出すことが可能となります。そしてその結果から得られるデジタルデータを基にKPI(注2)の最大化や計画の最適化を可能とするアルゴリズムを開発し、業務システムに組み込みます。
計画の最適化は、組合せ最適化の一種となります。組合せ最適化とは、一般に、複数の制約を満たす有限個の解から最良の解(最適解)を探し出すことを意味し、その解法として数理最適化(注3)やメタヒューリスティクス(注4)等の手法が用いられてきました。複雑な業務の計画は様々な要素を考慮して策定されるため、最適解を探し出すには膨大な数の組合せを考慮する必要があり、実務に耐えうる時間で最適解を導くことは高い技術を必要とします。
そこで当社では数理最適化やメタヒューリスティクスの手法に加えて、機械学習(注5)や強化学習(注6)等のAI技術を応用し、各種の計画に適した数理最適化の手法とAI技術を組み合わせたアルゴリズムをAIエンジンとして開発することで、最適解を探索する範囲を限定し、実務に耐えうる時間で最適解を導く手法を採用しました。また、AIエンジン開発を中心に、その前段となるコンサルティングフェーズから、AIエンジンを組み込んだシステム実装・運用フェーズまでを手掛けることで顧客生涯価値(CLTV)(注7)を最大化し、かつ運用・サポートサービスを担うことで、安定的な収益に繋げることをビジネスモデルとしております。
[開発プロセス]

AI技術による計画の最適化を事業展開するにあたり、当社が注力している分野は、電力、製造・運輸、都市・交通の3分野となります。
機械学習・強化学習をはじめとしたAIアルゴリズム開発手法に加え、数理最適化等の手法を用い、ビジネス課題の解決に必要な技術手法を用いることで、実効性の高い効率的な各種計画の策定を支援するAI開発事業を展開しております。
以下では(1)事業分野、(2)AI事業の特徴、(3)テクノロジー、についてそれぞれ説明いたします。
(1) 事業分野
自動運転、翻訳、スマートフォン、画像認識等コンシューマー向け分野ではAIの実用化が進んでおりますが、インダストリアル分野、特に社会インフラ領域ではAIの実用化は必ずしも進んでおりません。当社は「インフラと社会を、その先へ」をミッションとし、AI技術の実用化に主眼を置き、社会インフラ領域における計画最適化のエンジニアリング及びサービス事業を展開しております。
計画最適化は生産計画、輸送計画、材料開発、拠点配置計画、スケジューリング計画、適正価格設定等様々な用途で活用が期待されておりますが、組み合わせるシナリオの数の多さに起因して計算量が増大し、現実的な時間内での計算が困難になることや問題の定式化に伴う実装の難しさから導入されている分野は限定的でした。当社は、画像認識、需要予測といった領域で広く利用が進んでいるAI技術を計画最適化に応用し、問題の難易度や要求事項に対して柔軟にAIアルゴリズムを組み合わせることで、エネルギー消費量の削減、輸送効率や生産効率の向上といった顧客の課題を解決しております。また、当社は社会インフラ領域にフォーカスし、特に①電力分野、②製造・運輸分野、③都市・交通分野の3つの分野に注力しており、各分野における計画最適化は化石燃料の削減に直結するため、重要な社会問題であるカーボンニュートラルの実現にも貢献することができると考えております。
[注力する社会インフラ3分野]

① 電力分野
国内電力事業者向けに発電所の需給計画の最適化プログラムを開発納入しております。電力自由化に伴い、電力需要に即した需給計画の立案が今後ますます重要になると思われ、脱炭素社会実現の観点からも効率的な需給計画を立案し、発電所を稼働させることが求められます。当社は電力需要を予測し同予測に基づく発電が可能となるよう、各発電所の需給計画についてAIアルゴリズムで最適化する技術サービスを提供しております。これにより各発電所の発電機を電力需要に即して起電、停電させることで過剰な発電を抑え、発電に要する燃料の使用量を低減させることが可能になります。
② 製造・運輸分野
原油、セメント、鉄鋼、製紙、化学品、消費財等様々な分野で生産者は原材料や商品を船舶やトラック等で運搬しており実際の輸送計画は人の経験と知識に基づいて立案されているケースが殆どであります。輸送計画は気象条件、積荷集配箇所、納期等多くの制約条件に基づいて作成されるにもかかわらず、計画最適化に適したソフトウエアが開発されていないため、これまで特定の人材の知識と経験に基づいて計画作成が行われておりました。そのため、輸送計画業務が属人化することや、立案した輸送計画が最適な計画かどうかを検証することが難しいという問題が顕在化しております。
当社は、輸送計画にAIアルゴリズムを取り入れることで輸送計画を最適化する技術サービスを提供しております。様々なビジネス上の制約を加味しながら計算時間を短縮したAIエンジンの開発を行い、最適な輸送計画によって輸送に要する燃料コストの削減を実現しております。
また、輸送計画最適化の応用分野としてサプライチェーン分野での計画最適化の技術サービスも提供しております。調達、在庫、生産、配送、販売に至るサプライチェーンの全工程をデジタル空間に再現し、全体最適や部分最適に関し顧客のKPIに応じて対応可能な技術を有しております。
③ 都市・交通分野
鉄道事業者においては、運行の定時性を維持しながら、ダイヤや乗務員に関する多くの制約条件を満たした上で、車両運用及び乗務員運用を効率的に行うことが求められておりますが、多くの場合、これらの計画業務は熟練担当者の経験や勘に依存しており、専門性の高いノウハウの継承が課題となっております。当社は、AIアルゴリズムを用いて車両及び乗務員の最適な運用計画を自動生成する技術サービスを提供しており、遅延の最小化や人員・車両の効率的な利用の実現に取り組んでおります。具体的には、鉄道会社と共同で、標準構内作業ダイヤや車両検査等の情報を基に構内作業計画を自動生成するシステムを開発するなど、計画策定時間の大幅な短縮と業務の属人化解消を進めております。
また、計画最適化の他にも機械学習を応用した高速道路の渋滞予測システムを提供しており、都市・交通分野における当社のAI活用の幅を広げております。
(2) AI事業の特徴
当社は、新しいテクノロジーにチャレンジするアーリーアダプター顧客(注8)に向けて顧客要望に応じたAIエンジニアリングプロジェクトを成功させ、これまでに確立したノウハウをReNom APPS(注9)として集約し、クラウドサービス化して展開しております。AI技術を用いた社会インフラ領域における計画最適化にフォーカスし、PoC(Proof of Concept:概念実証)ではなく本番導入を前提としたAIエンジンの開発から入り、実装に至る実績を積み上げてまいりましたが、当社は、①明確な経済的導入効果、②CO2削減効果、③大手企業中心の顧客構成、④CLTV最大化、⑤ソリューション提供手法の共通化、⑥クラウドサービス提供、⑦人材戦略といった特徴を有しております。以下では、特徴に関し、それぞれ説明いたします。
① 明確な経済的導入効果
典型的なAI適用領域である画像認識や需要予測は、経済的な導入効果が曖昧といわれておりますが、AIによる計画最適化は、化石燃料削減やオペレーションコスト削減といった直接的なコスト削減効果をもたらすことが可能となります。顧客は利害関係者にAIに対する投資対効果を明確に説明することができ、新しいテクノロジーの価値に見合った規模の投資が可能になります。このようにAI導入効果をROI(注10)として明確に数値化できることは、受注確度を高める効果があり、当社の収益性の基盤となっております。
② CO2削減効果
当社が注力分野としている電力分野、製造・運輸分野、都市・交通分野の社会インフラ3分野はいずれも計画最適化により化石燃料の消費を削減することができ、結果としてCO2削減効果を期待することができます。顧客は利害関係者にカーボンニュートラルの実現に向けた取組みとしてAIに対する投資効果を説明することができ、脱炭素経営の一環としての投資が可能になります。
③ 大手企業中心の顧客構成
電力・石油元売り・プラント・物流・都市交通等、当社がターゲットとする各種社会インフラ分野では、日本経済を支え続けている大手企業が活躍しております。当社の顧客は大半が大手企業となっております。当社は、社会インフラ領域におけるAI技術を用いた計画最適化に特化しているほか、明確な経済的導入効果の提示が可能であること、またCO2削減効果も期待できるといった特徴から大手企業に受け入れられているものと思われます。このような大手企業に最新のAIテクノロジーを提供することで、社会にイノベーションをもたらしていると考えております。
④ CLTV (Customer Life-Time Value)最大化:顧客との長期ライフサイクルビジネス
当社はAI技術の概念実証ではなく実用化をゴールにしていることから、AIエンジンの開発にとどまらずAIエンジンを搭載した業務システムの実装、その後のAIエンジンの性能維持や障害監視・対応を行う運用・サポートまでを総合的に提供することを前提としております。このため、単発のAIエンジン開発のみでは終わらず、顧客との中長期的な関係を構築しております。
⑤ ソリューション提供手法の共通化
当社事業の進め方は、異なる事業分野の計画問題を、共通のアプリケーションや開発メソッドに落とし込み、同一のアーキテクチャーで開発を行うことを特徴としております。既に、電力需給計画最適化、輸送計画最適化、生産計画最適化については、共通の設計思想に基づいてAIエンジンの開発を行っております。これにより、システム全体のアーキテクチャーが統一され、水平展開を行う際には、過去のモジュール等を再利用してソリューションを提供することが可能となります。その結果、計画最適化システムを効率的に開発することができると考えております。
⑥ クラウドサービス提供
ReNom APPSはAI技術を活用した計画最適化のためのアプリケーションとなります。従来、個別プロジェクト用に開発したシミュレータや最適化モデルで利用したアルゴリズムをモジュール化(注11)・体系化の上、顧客ごとに組み合わせてアプリケーションとして提供するとともに、業種ごとの業務ベストプラクティスを前提としたシステム画面を用意しております。サービス提供の事業分野を、社会インフラ3分野に絞り込むことで、各分野内でのノウハウの再利用性を高めることが可能であり、高度な技術を多数の顧客にクラウドサービスとして提供することが可能となります。現在では、日々変動する需要に基づき最適な需給計画を自動立案するReNom POWER、配船の日々の運航計画を自動立案するReNom VESSEL、サプライチェーンにおける生産や物流計画の最適化を行うReNom SCM、鉄道会社における運行や修繕計画等の最適化を行うReNom RailwayをReNom APPSとして展開しております。また、電力制度に関する問い合わせに自然言語で回答する生成AIサービスGeNom for Energyの提供を開始し、クラウドサービスの提供領域を拡大しております。
⑦ 人材戦略
当社は、データサイエンティストやITエンジニアだけではなく、重電や社会インフラ業界出身で現場オペレーションに造詣が深い技術者を積極的に採用し、入社後にデータサイエンス教育(注12)を施すことにより社会インフラの業務知識を兼ね備えたAI技術者を多数育成しております。現場の業務をよく理解している技術者が、自らの業務知識とAI技術を掛け合わせ、実用的かつ効果的な計画最適化アルゴリズムの提供を実現しております。
また、社外取締役を含めAIや産業分野を専門とする大学の研究者と連携することで、最新の研究技術を取り込む体制を構築しております。
(3) テクノロジー
当社は、社会インフラ分野でのAIの実用化を強く意識した独自のAI技術体系を確立しております。
① ReNom APPS
組合せの数の多さに起因して計算量が増大し、現実的な時間内で計算が困難になることや、問題の定式化に伴う実装の難しさといった技術課題に対応するため、シミュレータ開発技術と機械学習・深層学習・深層強化学習を組み合わせた当社独自のデジタルツインテクノロジー(注13)を搭載したReNom APPSを開発しました。シミュレータに実際の制約条件を組み込んでシミュレーションすることで現実に発生しうる状況のみを再現することができ、現実に発生し得ない状況を前提とした組合せを計算するといった無駄を排除しております。また、シミュレーションに基づき機械学習・深層学習・深層強化学習を用いて最適な計画を探索し、その結果策定された計画を評価し、学習することで、より最適な計画を策定することが可能となります。これまでの当社開発実績から共通化できる部分を取り纏め開発用にモジュール化したものの総称がReNom APPSとなります。
ReNom APPSにより、各産業分野における計画最適化のAIエンジン開発の効率化を図るとともに、それを顧客に提供する業務システムやクラウドベースのインフラ基盤を併せてアプリケーション化し、顧客のシステムの導入までのリードタイムを大幅に短縮しております。
② ReNom SIMBASE:シミュレータ開発フレームワーク
シミュレータを開発する際に共通する処理や、拠点、ネットワーク、輸送手段、消費、生産、備蓄といった社会インフラ分野の計画業務全般で用いられる汎用的な機能をフレームワークとして開発し、実際のAIエンジニアリングプロジェクトで活用しております。これにより、複雑な業務を再現するシミュレータを短期間で開発することが可能となっております。
シミュレータを利用することで、デジタル空間上に機器、設備、物、人の流れを再現し、仮想的に設備や車両を動かし、その結果から得られるデジタルデータを基に、KPIの最大化や計画の最適化を行うことが可能になります。例えば、生産設備のシミュレータを利用することで、ボトルネックの発見と改善、在庫の削減、設備・人の稼働率向上、燃料費や材料費の削減を実現します。
③ Algorithm MIX = 最新技術と旧来技術の融合
組合せ最適化とは様々な制約の下で、無数にある選択肢の中から、ある指標(価値)を最も良くする変数の値(組合せ)を求める手法となります。例えばA地点からB地点へ向かうトラックの最短かつ最少燃料になる経路を求めるような問題が挙げられます。これは、無数の組合せの中から解を導く必要がありますが、当社は、最新のAI関連技術である機械学習や強化学習、旧来手法である数理最適化の手法を顧客課題ごとに柔軟に組み合わせることで、実ビジネスの課題を解決する手法を確立しました。例えば、無数の組合せの中から、過去に発生した組合せを機械学習で学習させることで、検討する組合せの範囲を絞り込み、その上で絞り込まれた範囲で、数理最適化の手法を用いることで計算時間を短縮し、実ビジネスで運用可能な計算時間で最適化システムを提供しております。
④ 量子アルゴリズムの研究開発
量子コンピュータ(注14)は次世代のコンピュータとして期待されておりますが、当社は量子アルゴリズム(注15)について2017年より研究開発を行っており、2018年より様々な論文発表、2021年より関連技術の特許出願を行っております。また、2024年にはNEDO(注16)の研究開発事業に採択され、2025年以降はVPP(注17)の需給調整における量子実機やHPC(注18)との比較検証を進めております。現在当社が行っている計画最適化分野においても量子コンピュータは広く活用が期待されている分野であり、計算の高速化や、コンピュータ上に再現できる状態の規模や精度においても現在のコンピュータを上回る可能性が示唆されております。当社は、最新のAI関連技術に加えて量子インスパイアコンピューティング(注19)等も適宜活用し、既存のコンピュータと組み合わせることで、実ビジネスの課題解決を加速していきます。今後さらに本格的な量子コンピュータが実用化された際には、研究開発で得た知見を活かし、量子テクノロジーを駆使したサービスを提供することが可能であると考えております。
以上がAI事業の内容となります。以下では、2026年6月期より新たな報告セグメントとして区分した「インフラアセット事業」について説明いたします。
(4) インフラアセット事業
当社は、AI事業に次ぐ新たな事業として、2024年8月より系統用蓄電池に関連する事業に着手し、2025年6月期第4四半期より系統用蓄電所の開発を本格的に開始いたしました。蓄電所開発に係る売上の重要性が高まったことから、2026年6月期より「AI事業」と並ぶ報告セグメントとして「インフラアセット事業」を新設し、系統用蓄電所の設計、開発及び譲渡、並びに電力系統接続に関する調査及び申込みの名義変更等の接続支援業務その他の蓄電所関連業務を提供しております。
再生可能エネルギーの導入拡大や、生成AIの普及に伴うデータセンター等における電力需要の増加を背景に、電力系統の安定運用に必要な調整力及び供給力の確保を目的として、系統用蓄電池の整備が全国的に進められております。当社は、AI事業において培った電力需給計画の最適化に関する技術及び知見を活かし、系統用蓄電池の需給管理システムの開発から、蓄電所そのものの開発及び運用に至るまでを一気通貫で提供することで、社会全体の電力の安定供給及び再生可能エネルギーの有効活用に貢献してまいります。
① 事業モデル
インフラアセット事業では、独自のネットワークを活用した土地の選定、電力系統への接続申込み及び空き容量の確認、蓄電所の設計、EPC(注20)の各プロセスを経て蓄電所を開発し、開発した蓄電所を事業主へ譲渡するデベロップ&セル型の事業モデルを展開しております。加えて、充放電計画を自動制御する当社独自のAIエンジンを活用し、卸電力市場(JEPX)(注21)、需給調整市場(注22)、容量市場(注23)及び長期脱炭素電源オークション(注24)等の複数の電力市場を横断した収益機会の獲得に資する運用支援サービスを事業主に提供しております。系統用蓄電池の運用においては、電力市場価格や需給状況等の変動要因を踏まえた高頻度かつ即応的な充放電制御が求められることから、AI技術による自動化が有効であると考えております。
② 案件規模の拡大
当社は、出力数数MW級の設備を配電用変電所へ接続する高圧プロジェクトに加え、開発リードタイムは長いものの案件当たりの収益規模が大きい、出力数数十MW級の設備を一次変電所等へ接続する特別高圧プロジェクトへと、開発案件規模の拡大を進めております。
③ 今後の事業展開
当社は、系統用蓄電所の開発を通じて蓄積したノウハウ及び独自のAI技術を活用し、再生可能エネルギーにおける出力変動の吸収、データセンターにおける電力需要増への対応やBCP(事業継続計画)への貢献、各種産業分野における電力コストの最適化等、蓄電池を活用した事業領域の拡大を目指しております。
(注) 1.カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを指します。
2.KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、組織の目標達成の度合いを定義する補助となる計量基準群を指します。
3.数理最適化とは、利用可能な値の集合体から、ある条件に対して最も良い値を選択する手法で、複数の変数及び制約条件が与えられた関数(目的関数)を最大又は最小にする変数の値、並びに最大値、最小値を求める数学的方法を指します。
4.メタヒューリスティクスとは、現実空間において膨大な組合せが発生する最適化問題を解くための経験的手法(ヒューリスティクス)を有機的に結合させたアルゴリズムを指します。ある組合せをスタートに、少しずつ変化させていき、その組合せが良ければ採用、良くなければ別の変化を試す、といったことを繰り返して探索することを基本的な考え方とする手法となります。
5.機械学習とは、経験からの学習により自動で改善するコンピュータアルゴリズム又はその研究領域で、人工知能の一種であるとみなされている手法であり、訓練データ又は学習データと呼ばれるデータを使って学習し、その学習結果を用いて何らかのタスクをこなす手法を指します。
6.強化学習とは、人工知能の一種であり、訓練データ又は学習データを使わずに、選択した行動に対する報酬を最大化するようにシステム自身が試行錯誤しながら、行動を最適化する手法を指します。
7.CLTVとは、Customer Life-Time Value(顧客生涯価値)の略で、マーケティングでは、企業にとってある一人の顧客が将来の関係全体に寄与する価値の予測を指します。
8.アーリーアダプター顧客とは、米・スタンフォード大学の社会学者、エベレット・M・ロジャース教授(Everett M. Rogers)が提唱したイノベーション普及に関する理論で、流行に敏感で、情報収集を自ら行い、判断する人であり、他の消費層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれる顧客のことを指します。
9.ReNom APPSとは、シミュレータや最適化モデルを部品化・体系化し、計画最適化サービスをプラットフォームとして提供するためのアプリケーションを指します。
10.ROIとは、return on investmentの略で、投じた費用に対してどれだけの利益を上げられるかを示す指標を指します。
11.モジュール化とは、計画最適化システムのプログラムソースコードを、当該システムを構成する機能単位で分解することを指します。これにより顧客の要望に応じた機能ごとにモジュールを組み合わせて提供することが可能となります。
12.データサイエンス教育とは、データを扱う手法である情報科学、統計学、アルゴリズム等を横断的に扱うための教育で、統計学、パターン認識、機械学習、データマイニング、可視化等、データサイエンティストを育成するための教育を指します。
13.デジタルツインテクノロジーとは、物理空間(現実空間)にある情報を基にデジタル空間上に当該物理空間を再現する技術をいい、当社では顧客のビジネス環境や業務環境全体をデジタル空間上に再現する技術を指します。
14.量子コンピュータとは、重ね合わせや量子もつれといった量子力学的な現象を用いて従来のコンピュータでは現実的な時間や規模で解けなかった問題を解くことが期待されるコンピュータを指します。
15.量子アルゴリズムとは、量子コンピュータ上で動作するアルゴリズムを指します。
16.NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とは、エネルギー及び産業技術に関する研究開発の推進等を行う国立研究開発法人を指します。
17.VPP(仮想発電所)とは、Virtual Power Plantの略で、分散する太陽光発電設備や蓄電池等のエネルギーリソースをIoT等の技術を用いて統合的に制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組みを指します。
18.HPC(高性能計算)とは、High Performance Computingの略で、大規模かつ高速な演算処理を可能にするコンピュータシステムを指します。
19.量子インスパイアコンピューティングとは、量子コンピュータで表現される量子の特性を従来のコンピュータ上で擬似的に表現する技術を指します。
20.EPCとは、Engineering(設計)、Procurement(調達)及びConstruction(建設)の略で、設備の設計から資機材の調達、建設工事までを一括して請け負う契約方式を指します。
21.卸電力市場(JEPX)とは、日本卸電力取引所(Japan Electric Power eXchange)が運営する、電気事業者間で電力を売買するための市場を指します。
22.需給調整市場とは、一般送配電事業者が電力の需給バランスを維持するために必要な調整力を調達するための市場を指します。
23.容量市場とは、将来にわたる電力の安定供給に必要な供給力(kW価値)を取引する市場を指します。
24.長期脱炭素電源オークションとは、脱炭素電源への新規投資を促進するため、電源等の固定費を長期間にわたり回収できる収入を確保する入札の仕組みを指します。
[AI事業 事業系統図]

[インフラアセット事業 事業系統図]

なお、当社は従来「AI事業」の単一セグメントとしておりましたが、蓄電所の開発を開始したことにより、当事業年度より、報告セグメントの区分を「AI事業」及び「インフラアセット事業」に変更しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」をご参照ください。
当社は、「INFRASTRUCTURE+LIFE+INNOVATION」(インフラ ライフ イノベーション)を企業理念と定め、社会インフラにイノベーションを起こし、インフラ全体の最適化を目指し、社会に貢献することをミッションに活動しております。
現在の社会経済は、エネルギー価格の変動、サプライチェーンの寸断、カーボンニュートラル(注1)に向けたエネルギー消費の効率化、DX化に伴う業務の効率化等、様々なリスクや課題を抱えております。その中で迅速に最適解を選択し、施策や事業を管理運営していくことが、企業ひいては社会の持続的な成長に必要不可欠となっております。
電力、物流、サプライチェーンといった社会インフラも同様に、ビジネス上の様々な要素を考慮した上で計画的に管理運営されておりますが、その計画業務は熟練の人材による多大な労力と時間により成立しており、現在の複雑かつ不確実性の高い環境下で迅速に最適解を選択することは困難な状況となっております。
そこで当社は、属人性を排し、インフラのオペレーションに関わる様々な制約を変数として、複雑かつ不確実性の高い多数の要素も考慮した上で、AI技術を用いて短時間で最適な計画を提供するため、計画最適化事業を展開しております。具体的には、当社の社会インフラに関する業務知識の豊富なエンジニアが各顧客の計画対象業務を数式化することにより、複雑な業務を再現するシミュレータを開発し、デジタル空間上に機器、設備、人、車両等の動きを再現します。シミュレータ上では、仮想的に設備、車両等を動かし、業務のシミュレーションを行うことができるため、ビッグデータを使用せずにシミュレーション結果を生み出すことが可能となります。そしてその結果から得られるデジタルデータを基にKPI(注2)の最大化や計画の最適化を可能とするアルゴリズムを開発し、業務システムに組み込みます。
計画の最適化は、組合せ最適化の一種となります。組合せ最適化とは、一般に、複数の制約を満たす有限個の解から最良の解(最適解)を探し出すことを意味し、その解法として数理最適化(注3)やメタヒューリスティクス(注4)等の手法が用いられてきました。複雑な業務の計画は様々な要素を考慮して策定されるため、最適解を探し出すには膨大な数の組合せを考慮する必要があり、実務に耐えうる時間で最適解を導くことは高い技術を必要とします。
そこで当社では数理最適化やメタヒューリスティクスの手法に加えて、機械学習(注5)や強化学習(注6)等のAI技術を応用し、各種の計画に適した数理最適化の手法とAI技術を組み合わせたアルゴリズムをAIエンジンとして開発することで、最適解を探索する範囲を限定し、実務に耐えうる時間で最適解を導く手法を採用しました。また、AIエンジン開発を中心に、その前段となるコンサルティングフェーズから、AIエンジンを組み込んだシステム実装・運用フェーズまでを手掛けることで顧客生涯価値(CLTV)(注7)を最大化し、かつ運用・サポートサービスを担うことで、安定的な収益に繋げることをビジネスモデルとしております。
[開発プロセス]

AI技術による計画の最適化を事業展開するにあたり、当社が注力している分野は、電力、製造・運輸、都市・交通の3分野となります。
機械学習・強化学習をはじめとしたAIアルゴリズム開発手法に加え、数理最適化等の手法を用い、ビジネス課題の解決に必要な技術手法を用いることで、実効性の高い効率的な各種計画の策定を支援するAI開発事業を展開しております。
以下では(1)事業分野、(2)AI事業の特徴、(3)テクノロジー、についてそれぞれ説明いたします。
(1) 事業分野
自動運転、翻訳、スマートフォン、画像認識等コンシューマー向け分野ではAIの実用化が進んでおりますが、インダストリアル分野、特に社会インフラ領域ではAIの実用化は必ずしも進んでおりません。当社は「インフラと社会を、その先へ」をミッションとし、AI技術の実用化に主眼を置き、社会インフラ領域における計画最適化のエンジニアリング及びサービス事業を展開しております。
計画最適化は生産計画、輸送計画、材料開発、拠点配置計画、スケジューリング計画、適正価格設定等様々な用途で活用が期待されておりますが、組み合わせるシナリオの数の多さに起因して計算量が増大し、現実的な時間内での計算が困難になることや問題の定式化に伴う実装の難しさから導入されている分野は限定的でした。当社は、画像認識、需要予測といった領域で広く利用が進んでいるAI技術を計画最適化に応用し、問題の難易度や要求事項に対して柔軟にAIアルゴリズムを組み合わせることで、エネルギー消費量の削減、輸送効率や生産効率の向上といった顧客の課題を解決しております。また、当社は社会インフラ領域にフォーカスし、特に①電力分野、②製造・運輸分野、③都市・交通分野の3つの分野に注力しており、各分野における計画最適化は化石燃料の削減に直結するため、重要な社会問題であるカーボンニュートラルの実現にも貢献することができると考えております。
[注力する社会インフラ3分野]

① 電力分野
国内電力事業者向けに発電所の需給計画の最適化プログラムを開発納入しております。電力自由化に伴い、電力需要に即した需給計画の立案が今後ますます重要になると思われ、脱炭素社会実現の観点からも効率的な需給計画を立案し、発電所を稼働させることが求められます。当社は電力需要を予測し同予測に基づく発電が可能となるよう、各発電所の需給計画についてAIアルゴリズムで最適化する技術サービスを提供しております。これにより各発電所の発電機を電力需要に即して起電、停電させることで過剰な発電を抑え、発電に要する燃料の使用量を低減させることが可能になります。
② 製造・運輸分野
原油、セメント、鉄鋼、製紙、化学品、消費財等様々な分野で生産者は原材料や商品を船舶やトラック等で運搬しており実際の輸送計画は人の経験と知識に基づいて立案されているケースが殆どであります。輸送計画は気象条件、積荷集配箇所、納期等多くの制約条件に基づいて作成されるにもかかわらず、計画最適化に適したソフトウエアが開発されていないため、これまで特定の人材の知識と経験に基づいて計画作成が行われておりました。そのため、輸送計画業務が属人化することや、立案した輸送計画が最適な計画かどうかを検証することが難しいという問題が顕在化しております。
当社は、輸送計画にAIアルゴリズムを取り入れることで輸送計画を最適化する技術サービスを提供しております。様々なビジネス上の制約を加味しながら計算時間を短縮したAIエンジンの開発を行い、最適な輸送計画によって輸送に要する燃料コストの削減を実現しております。
また、輸送計画最適化の応用分野としてサプライチェーン分野での計画最適化の技術サービスも提供しております。調達、在庫、生産、配送、販売に至るサプライチェーンの全工程をデジタル空間に再現し、全体最適や部分最適に関し顧客のKPIに応じて対応可能な技術を有しております。
③ 都市・交通分野
鉄道事業者においては、運行の定時性を維持しながら、ダイヤや乗務員に関する多くの制約条件を満たした上で、車両運用及び乗務員運用を効率的に行うことが求められておりますが、多くの場合、これらの計画業務は熟練担当者の経験や勘に依存しており、専門性の高いノウハウの継承が課題となっております。当社は、AIアルゴリズムを用いて車両及び乗務員の最適な運用計画を自動生成する技術サービスを提供しており、遅延の最小化や人員・車両の効率的な利用の実現に取り組んでおります。具体的には、鉄道会社と共同で、標準構内作業ダイヤや車両検査等の情報を基に構内作業計画を自動生成するシステムを開発するなど、計画策定時間の大幅な短縮と業務の属人化解消を進めております。
また、計画最適化の他にも機械学習を応用した高速道路の渋滞予測システムを提供しており、都市・交通分野における当社のAI活用の幅を広げております。
(2) AI事業の特徴
当社は、新しいテクノロジーにチャレンジするアーリーアダプター顧客(注8)に向けて顧客要望に応じたAIエンジニアリングプロジェクトを成功させ、これまでに確立したノウハウをReNom APPS(注9)として集約し、クラウドサービス化して展開しております。AI技術を用いた社会インフラ領域における計画最適化にフォーカスし、PoC(Proof of Concept:概念実証)ではなく本番導入を前提としたAIエンジンの開発から入り、実装に至る実績を積み上げてまいりましたが、当社は、①明確な経済的導入効果、②CO2削減効果、③大手企業中心の顧客構成、④CLTV最大化、⑤ソリューション提供手法の共通化、⑥クラウドサービス提供、⑦人材戦略といった特徴を有しております。以下では、特徴に関し、それぞれ説明いたします。
① 明確な経済的導入効果
典型的なAI適用領域である画像認識や需要予測は、経済的な導入効果が曖昧といわれておりますが、AIによる計画最適化は、化石燃料削減やオペレーションコスト削減といった直接的なコスト削減効果をもたらすことが可能となります。顧客は利害関係者にAIに対する投資対効果を明確に説明することができ、新しいテクノロジーの価値に見合った規模の投資が可能になります。このようにAI導入効果をROI(注10)として明確に数値化できることは、受注確度を高める効果があり、当社の収益性の基盤となっております。
② CO2削減効果
当社が注力分野としている電力分野、製造・運輸分野、都市・交通分野の社会インフラ3分野はいずれも計画最適化により化石燃料の消費を削減することができ、結果としてCO2削減効果を期待することができます。顧客は利害関係者にカーボンニュートラルの実現に向けた取組みとしてAIに対する投資効果を説明することができ、脱炭素経営の一環としての投資が可能になります。
③ 大手企業中心の顧客構成
電力・石油元売り・プラント・物流・都市交通等、当社がターゲットとする各種社会インフラ分野では、日本経済を支え続けている大手企業が活躍しております。当社の顧客は大半が大手企業となっております。当社は、社会インフラ領域におけるAI技術を用いた計画最適化に特化しているほか、明確な経済的導入効果の提示が可能であること、またCO2削減効果も期待できるといった特徴から大手企業に受け入れられているものと思われます。このような大手企業に最新のAIテクノロジーを提供することで、社会にイノベーションをもたらしていると考えております。
④ CLTV (Customer Life-Time Value)最大化:顧客との長期ライフサイクルビジネス
当社はAI技術の概念実証ではなく実用化をゴールにしていることから、AIエンジンの開発にとどまらずAIエンジンを搭載した業務システムの実装、その後のAIエンジンの性能維持や障害監視・対応を行う運用・サポートまでを総合的に提供することを前提としております。このため、単発のAIエンジン開発のみでは終わらず、顧客との中長期的な関係を構築しております。
⑤ ソリューション提供手法の共通化
当社事業の進め方は、異なる事業分野の計画問題を、共通のアプリケーションや開発メソッドに落とし込み、同一のアーキテクチャーで開発を行うことを特徴としております。既に、電力需給計画最適化、輸送計画最適化、生産計画最適化については、共通の設計思想に基づいてAIエンジンの開発を行っております。これにより、システム全体のアーキテクチャーが統一され、水平展開を行う際には、過去のモジュール等を再利用してソリューションを提供することが可能となります。その結果、計画最適化システムを効率的に開発することができると考えております。
⑥ クラウドサービス提供
ReNom APPSはAI技術を活用した計画最適化のためのアプリケーションとなります。従来、個別プロジェクト用に開発したシミュレータや最適化モデルで利用したアルゴリズムをモジュール化(注11)・体系化の上、顧客ごとに組み合わせてアプリケーションとして提供するとともに、業種ごとの業務ベストプラクティスを前提としたシステム画面を用意しております。サービス提供の事業分野を、社会インフラ3分野に絞り込むことで、各分野内でのノウハウの再利用性を高めることが可能であり、高度な技術を多数の顧客にクラウドサービスとして提供することが可能となります。現在では、日々変動する需要に基づき最適な需給計画を自動立案するReNom POWER、配船の日々の運航計画を自動立案するReNom VESSEL、サプライチェーンにおける生産や物流計画の最適化を行うReNom SCM、鉄道会社における運行や修繕計画等の最適化を行うReNom RailwayをReNom APPSとして展開しております。また、電力制度に関する問い合わせに自然言語で回答する生成AIサービスGeNom for Energyの提供を開始し、クラウドサービスの提供領域を拡大しております。
⑦ 人材戦略
当社は、データサイエンティストやITエンジニアだけではなく、重電や社会インフラ業界出身で現場オペレーションに造詣が深い技術者を積極的に採用し、入社後にデータサイエンス教育(注12)を施すことにより社会インフラの業務知識を兼ね備えたAI技術者を多数育成しております。現場の業務をよく理解している技術者が、自らの業務知識とAI技術を掛け合わせ、実用的かつ効果的な計画最適化アルゴリズムの提供を実現しております。
また、社外取締役を含めAIや産業分野を専門とする大学の研究者と連携することで、最新の研究技術を取り込む体制を構築しております。
(3) テクノロジー
当社は、社会インフラ分野でのAIの実用化を強く意識した独自のAI技術体系を確立しております。
① ReNom APPS
組合せの数の多さに起因して計算量が増大し、現実的な時間内で計算が困難になることや、問題の定式化に伴う実装の難しさといった技術課題に対応するため、シミュレータ開発技術と機械学習・深層学習・深層強化学習を組み合わせた当社独自のデジタルツインテクノロジー(注13)を搭載したReNom APPSを開発しました。シミュレータに実際の制約条件を組み込んでシミュレーションすることで現実に発生しうる状況のみを再現することができ、現実に発生し得ない状況を前提とした組合せを計算するといった無駄を排除しております。また、シミュレーションに基づき機械学習・深層学習・深層強化学習を用いて最適な計画を探索し、その結果策定された計画を評価し、学習することで、より最適な計画を策定することが可能となります。これまでの当社開発実績から共通化できる部分を取り纏め開発用にモジュール化したものの総称がReNom APPSとなります。
ReNom APPSにより、各産業分野における計画最適化のAIエンジン開発の効率化を図るとともに、それを顧客に提供する業務システムやクラウドベースのインフラ基盤を併せてアプリケーション化し、顧客のシステムの導入までのリードタイムを大幅に短縮しております。
② ReNom SIMBASE:シミュレータ開発フレームワーク
シミュレータを開発する際に共通する処理や、拠点、ネットワーク、輸送手段、消費、生産、備蓄といった社会インフラ分野の計画業務全般で用いられる汎用的な機能をフレームワークとして開発し、実際のAIエンジニアリングプロジェクトで活用しております。これにより、複雑な業務を再現するシミュレータを短期間で開発することが可能となっております。
シミュレータを利用することで、デジタル空間上に機器、設備、物、人の流れを再現し、仮想的に設備や車両を動かし、その結果から得られるデジタルデータを基に、KPIの最大化や計画の最適化を行うことが可能になります。例えば、生産設備のシミュレータを利用することで、ボトルネックの発見と改善、在庫の削減、設備・人の稼働率向上、燃料費や材料費の削減を実現します。
③ Algorithm MIX = 最新技術と旧来技術の融合
組合せ最適化とは様々な制約の下で、無数にある選択肢の中から、ある指標(価値)を最も良くする変数の値(組合せ)を求める手法となります。例えばA地点からB地点へ向かうトラックの最短かつ最少燃料になる経路を求めるような問題が挙げられます。これは、無数の組合せの中から解を導く必要がありますが、当社は、最新のAI関連技術である機械学習や強化学習、旧来手法である数理最適化の手法を顧客課題ごとに柔軟に組み合わせることで、実ビジネスの課題を解決する手法を確立しました。例えば、無数の組合せの中から、過去に発生した組合せを機械学習で学習させることで、検討する組合せの範囲を絞り込み、その上で絞り込まれた範囲で、数理最適化の手法を用いることで計算時間を短縮し、実ビジネスで運用可能な計算時間で最適化システムを提供しております。
④ 量子アルゴリズムの研究開発
量子コンピュータ(注14)は次世代のコンピュータとして期待されておりますが、当社は量子アルゴリズム(注15)について2017年より研究開発を行っており、2018年より様々な論文発表、2021年より関連技術の特許出願を行っております。また、2024年にはNEDO(注16)の研究開発事業に採択され、2025年以降はVPP(注17)の需給調整における量子実機やHPC(注18)との比較検証を進めております。現在当社が行っている計画最適化分野においても量子コンピュータは広く活用が期待されている分野であり、計算の高速化や、コンピュータ上に再現できる状態の規模や精度においても現在のコンピュータを上回る可能性が示唆されております。当社は、最新のAI関連技術に加えて量子インスパイアコンピューティング(注19)等も適宜活用し、既存のコンピュータと組み合わせることで、実ビジネスの課題解決を加速していきます。今後さらに本格的な量子コンピュータが実用化された際には、研究開発で得た知見を活かし、量子テクノロジーを駆使したサービスを提供することが可能であると考えております。
以上がAI事業の内容となります。以下では、2026年6月期より新たな報告セグメントとして区分した「インフラアセット事業」について説明いたします。
(4) インフラアセット事業
当社は、AI事業に次ぐ新たな事業として、2024年8月より系統用蓄電池に関連する事業に着手し、2025年6月期第4四半期より系統用蓄電所の開発を本格的に開始いたしました。蓄電所開発に係る売上の重要性が高まったことから、2026年6月期より「AI事業」と並ぶ報告セグメントとして「インフラアセット事業」を新設し、系統用蓄電所の設計、開発及び譲渡、並びに電力系統接続に関する調査及び申込みの名義変更等の接続支援業務その他の蓄電所関連業務を提供しております。
再生可能エネルギーの導入拡大や、生成AIの普及に伴うデータセンター等における電力需要の増加を背景に、電力系統の安定運用に必要な調整力及び供給力の確保を目的として、系統用蓄電池の整備が全国的に進められております。当社は、AI事業において培った電力需給計画の最適化に関する技術及び知見を活かし、系統用蓄電池の需給管理システムの開発から、蓄電所そのものの開発及び運用に至るまでを一気通貫で提供することで、社会全体の電力の安定供給及び再生可能エネルギーの有効活用に貢献してまいります。
① 事業モデル
インフラアセット事業では、独自のネットワークを活用した土地の選定、電力系統への接続申込み及び空き容量の確認、蓄電所の設計、EPC(注20)の各プロセスを経て蓄電所を開発し、開発した蓄電所を事業主へ譲渡するデベロップ&セル型の事業モデルを展開しております。加えて、充放電計画を自動制御する当社独自のAIエンジンを活用し、卸電力市場(JEPX)(注21)、需給調整市場(注22)、容量市場(注23)及び長期脱炭素電源オークション(注24)等の複数の電力市場を横断した収益機会の獲得に資する運用支援サービスを事業主に提供しております。系統用蓄電池の運用においては、電力市場価格や需給状況等の変動要因を踏まえた高頻度かつ即応的な充放電制御が求められることから、AI技術による自動化が有効であると考えております。
② 案件規模の拡大
当社は、出力数数MW級の設備を配電用変電所へ接続する高圧プロジェクトに加え、開発リードタイムは長いものの案件当たりの収益規模が大きい、出力数数十MW級の設備を一次変電所等へ接続する特別高圧プロジェクトへと、開発案件規模の拡大を進めております。
③ 今後の事業展開
当社は、系統用蓄電所の開発を通じて蓄積したノウハウ及び独自のAI技術を活用し、再生可能エネルギーにおける出力変動の吸収、データセンターにおける電力需要増への対応やBCP(事業継続計画)への貢献、各種産業分野における電力コストの最適化等、蓄電池を活用した事業領域の拡大を目指しております。
(注) 1.カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを指します。
2.KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、組織の目標達成の度合いを定義する補助となる計量基準群を指します。
3.数理最適化とは、利用可能な値の集合体から、ある条件に対して最も良い値を選択する手法で、複数の変数及び制約条件が与えられた関数(目的関数)を最大又は最小にする変数の値、並びに最大値、最小値を求める数学的方法を指します。
4.メタヒューリスティクスとは、現実空間において膨大な組合せが発生する最適化問題を解くための経験的手法(ヒューリスティクス)を有機的に結合させたアルゴリズムを指します。ある組合せをスタートに、少しずつ変化させていき、その組合せが良ければ採用、良くなければ別の変化を試す、といったことを繰り返して探索することを基本的な考え方とする手法となります。
5.機械学習とは、経験からの学習により自動で改善するコンピュータアルゴリズム又はその研究領域で、人工知能の一種であるとみなされている手法であり、訓練データ又は学習データと呼ばれるデータを使って学習し、その学習結果を用いて何らかのタスクをこなす手法を指します。
6.強化学習とは、人工知能の一種であり、訓練データ又は学習データを使わずに、選択した行動に対する報酬を最大化するようにシステム自身が試行錯誤しながら、行動を最適化する手法を指します。
7.CLTVとは、Customer Life-Time Value(顧客生涯価値)の略で、マーケティングでは、企業にとってある一人の顧客が将来の関係全体に寄与する価値の予測を指します。
8.アーリーアダプター顧客とは、米・スタンフォード大学の社会学者、エベレット・M・ロジャース教授(Everett M. Rogers)が提唱したイノベーション普及に関する理論で、流行に敏感で、情報収集を自ら行い、判断する人であり、他の消費層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれる顧客のことを指します。
9.ReNom APPSとは、シミュレータや最適化モデルを部品化・体系化し、計画最適化サービスをプラットフォームとして提供するためのアプリケーションを指します。
10.ROIとは、return on investmentの略で、投じた費用に対してどれだけの利益を上げられるかを示す指標を指します。
11.モジュール化とは、計画最適化システムのプログラムソースコードを、当該システムを構成する機能単位で分解することを指します。これにより顧客の要望に応じた機能ごとにモジュールを組み合わせて提供することが可能となります。
12.データサイエンス教育とは、データを扱う手法である情報科学、統計学、アルゴリズム等を横断的に扱うための教育で、統計学、パターン認識、機械学習、データマイニング、可視化等、データサイエンティストを育成するための教育を指します。
13.デジタルツインテクノロジーとは、物理空間(現実空間)にある情報を基にデジタル空間上に当該物理空間を再現する技術をいい、当社では顧客のビジネス環境や業務環境全体をデジタル空間上に再現する技術を指します。
14.量子コンピュータとは、重ね合わせや量子もつれといった量子力学的な現象を用いて従来のコンピュータでは現実的な時間や規模で解けなかった問題を解くことが期待されるコンピュータを指します。
15.量子アルゴリズムとは、量子コンピュータ上で動作するアルゴリズムを指します。
16.NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とは、エネルギー及び産業技術に関する研究開発の推進等を行う国立研究開発法人を指します。
17.VPP(仮想発電所)とは、Virtual Power Plantの略で、分散する太陽光発電設備や蓄電池等のエネルギーリソースをIoT等の技術を用いて統合的に制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組みを指します。
18.HPC(高性能計算)とは、High Performance Computingの略で、大規模かつ高速な演算処理を可能にするコンピュータシステムを指します。
19.量子インスパイアコンピューティングとは、量子コンピュータで表現される量子の特性を従来のコンピュータ上で擬似的に表現する技術を指します。
20.EPCとは、Engineering(設計)、Procurement(調達)及びConstruction(建設)の略で、設備の設計から資機材の調達、建設工事までを一括して請け負う契約方式を指します。
21.卸電力市場(JEPX)とは、日本卸電力取引所(Japan Electric Power eXchange)が運営する、電気事業者間で電力を売買するための市場を指します。
22.需給調整市場とは、一般送配電事業者が電力の需給バランスを維持するために必要な調整力を調達するための市場を指します。
23.容量市場とは、将来にわたる電力の安定供給に必要な供給力(kW価値)を取引する市場を指します。
24.長期脱炭素電源オークションとは、脱炭素電源への新規投資を促進するため、電源等の固定費を長期間にわたり回収できる収入を確保する入札の仕組みを指します。
[AI事業 事業系統図]

[インフラアセット事業 事業系統図]
