有価証券報告書-第14期(令和2年1月1日-令和2年12月31日)
有報資料
文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
「素材」は、全ての産業を支える最も重要な社会的基盤の一つです。新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけとして、全世界的に持続可能な社会への転換に向けた動きが加速する中、長期的に見れば、大半のエネルギーは再生可能エネルギーに転換されることが見込まれ、今後、素材分野においては、原料を枯渇資源に頼らない(脱化石資源)ことと、生態系への影響・環境汚染が懸念されるプラスチックを中心とするゴミが環境中に蓄積しないこと、が重要な視点となります。特に、使用中にプラスチックが環境中に放出されるリスクのある製品群、例えば衣類(洗濯排水から流れ出る化学繊維)、種々の使い捨て用品、化粧品や洗顔料に添加剤として使用されるプラスチック、使用中に摩耗する製品などは、海洋分解性を含む環境分解性を持った素材に転換していくことが望ましいと考えられます。しかしながら、農作物などの再生可能資源をもとにつくられ、海洋分解性を含む環境分解性を備えた循環型素材の選択肢は、現状極めて限られていると言わざるをえません。当社グループが開発・産業化を進めてきた「タンパク質」は、正にその社会的要請に応え、人類の持続可能な素材の選択肢を拡張することに大きく貢献する可能性を秘めた素材です。その潜在力と将来性、当社の本領域における圧倒的な競争優位性、普及に向けた確実な進捗を評価いただくことができ、当連結会計年度において、株式の希薄化を伴わない事業価値証券化により、250億円の資金調達を実現することができました。その背景には、コロナ対策としての異次元の金融緩和・財政出動が大きく影響していることは認識しつつも、気候変動や環境汚染、食料問題や人権問題などを放置することで長期的に社会が負担しなければならなくなるコストに対する認知・理解が進み、ESGを重視する企業やSDGsに取り組む企業の収益性・成長性が、中長期的かつ相対的に高まっていくことの蓋然性の高さを投資家を含む資本主義経済の参加者の多くが認識しつつある、という全社会的な意識の変化があると考えております。
こうした経営環境の中、タンパク質の分子・材料設計技術及び合成生物学的アプローチによる高効率発酵生産技術を含むタンパク質素材の超低コスト生産技術を核として、持続可能なサプライチェーンを設計・構築、それぞれの業界を牽引するトップ企業との適切な連携のもと、ビジネスの実行に不可欠な知的財産の独占的基盤を構築し、タンパク質素材分野における圧倒的な競争優位性を確立するという当社グループの長期戦略実現に向け、以下の課題に継続して取り組んで参ります。
(1)着実な収益基盤の構築
素材量産販売を開始し、着実に収益基盤を構築することが当社グループの重要なマイルストーンです。生産面では、2018年より建設を進めているタイの発酵生産プラントにつきまして、当連結会計年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大により多少の影響は生じたものの、大きな影響を受けることなく、当初予定通り2021年の商業生産開始に向け、引き続き順調に進捗しております。また、現地人材の採用・鶴岡での研修等も概ね完了しており、オペレーション面での準備も滞り無く、進んでおります。他方、当社グループにとって初めての海外での発酵生産プラントであることに鑑み、あらゆる可能性を想定しながら、パートナー企業との連携等を通じ、引き続き慎重に準備を進めてまいります。販売面においては、当連結会計年度にアパレル分野において当社の素材を用いた3製品が、いずれもグローバルで販売され、製品を通じたBrewed Protein™の認知を国内外で拡大することが出来ました。また、2020年2月には、従前より協業関係にあったアパレル・ブランド「YUIMA NAKAZATO」への出資を行い、当社グループとしてアパレル産業における本格的な協業を開始しました。新型コロナウイルス感染症の拡大による影響で、パリ・ファッション・ウィーク史上初の試みとなるオンラインイベントに、唯一の日本ブランドとして参加し、新たな衣服作りへのアプローチを行うYUIMA NAKAZATOの挑戦を一つの映像作品にまとめ発表しました。異例の開催の中、その対応力の高さから、国内外で多くのメディアに取り上げられ、世界的なラグジュアリーブランドと肩を並べる評価を得ております。アパレル分野を中心にサステナブルな素材に対する需要がこれまでにも増して高まる中、多数の潜在顧客からの素材供給に関する要望を頂いており、素材販売契約の交渉を引き続き進めると同時に、量産規模でのビジネス開始に向けたサプライチェーンマネジメントの体制整備にも努めてまいります。
(2)更なる事業成長を見据えた先行投資
本素材の大規模な普及・拡大のためには、更なる成長のための準備を現段階から進めることが重要と認識しております。素材生産規模の拡大という観点では、タイでの量産開始以降の速やかな生産規模拡大を見据え、米国における大規模生産体制の構築に向けた準備を進めております。これにより、より安価且つ大規模に素材を供給することが可能となり、新産業のパイオニアとして圧倒的な地位を確立することが可能になると考えております。当連結会計年度においては、大手穀物メジャーであるArcher-Daniels-Midland Companyとの間で、同社が現在米国に保有する発酵設備等を活用し長期に亘り生産委託を行うことについて正式に合意いたしました。Spiber Holdings America Inc.及びSpiber America LLCの設立、Spiber America LLCのアイオワ州によるEconomic Development Incentive Packageの対象企業としての正式採択(条件達成により最大120万米ドルの支援)等、現地行政とも強固に連携の上、米国での生産拡大に向けた取り組みが本格的に始動しております。また、素材の更なる用途拡大を見据えた研究開発基盤の拡張も並行して進めてまいります。具体的には、鶴岡パイロット設備の改良・設備増強、本社研究棟内における実験室(主にバイオテクノロジー領域・有機化学領域)の拡張を予定しております。当連結会計年度に確立したシーズ技術を中心に研究開発を進め、事業の柱となる素材用途の拡充に努めてまいります。
(3)事業戦略遂行のための大規模資金調達
当社グループでは本素材お普及拡大を図るため多額の研究開発投資と生産設備投資を行う必要があります。これらの資金需要を満たすため、当連結会計年度においては、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社をアレンジャーとして、事業価値証券化により総額250億円を調達しております。本資金調達は、革新的な手法として国内外で多くの注目を集めております。他方、計画している全ての投資を遅滞なく行うためには、更に一定規模の資金調達が必要となりますので、引き続きエクイティファイナンスや事業価値証券化等による資金調達を継続してまいります。
また、新規株式上場を見据え、社内管理体制の強化も本格化しております。事業の進捗や資本市場の動向に応じ、柔軟に資本政策を選択できるよう、盤石な社内体制・オペレーションの構築に努めてまいります。