訂正有価証券届出書(新規公開時)
有報資料
当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は、「SLCトランスポーター創薬の新たな可能性を追求し、グローバルベンチャーとして世界中の人々が抱えるアンメット・メディカル・ニーズに応える革新的新薬の開発を通じ、人々が健康を維持し、希望を持ち続けることに貢献します」を企業理念としております。
当社は、当該理念実現に向け、「グローバルベンチャーとして挑戦する情熱」「サイエンスの追求」「コンプライアンスの徹底遵守」を行動規範として定めております。
(2) 経営戦略
① Goals for 2030
当社は、長期的な経営戦略として以下のとおり「Goals for 2030」を定め、段階的かつ着実な取組みを進めております。
※上記は本書提出日現在における当社の目標であり、研究開発の進捗、規制当局対応、薬価及び公的医療保険における償還制度(保険収載の可否及び償還条件)、競合環境、市場環境その他の要因により、実際の結果が異なる可能性があります
② グローバルライセンス活動
・グローバル開発を進めた上でのライセンス契約を目指す理由
当社は、開発化合物の価値をグローバル開発によって最大化し、その成果をグローバルライセンス契約へとつなげることでの収益化を目指しております。日本国内において非臨床又は早期の臨床データのみを基にライセンス契約を締結した場合、契約一時金は相対的に小規模となる例がみられます。一方で、グローバル第3相臨床試験まで進展した化合物を導出した場合、契約一時金の中央値は42百万米ドル(2023年の値:約63億円、1ドル=150円換算)※1と報告されています。
このような現状を踏まえ、厚生労働省の「ヘルスケアスタートアップの振興・支援に関するホワイトペーパー」(2024年)提言13では、「開発の早い段階でのアライアンス契約はスタートアップ側に不利となりうるおそれがある(中略)バイオスタートアップの企業価値を毀損しかねない」と指摘されております。当社はこの認識のもと、可能な限り後期段階までグローバル開発を進めることにより化合物の価値、ひいては企業価値の向上を図ることが重要であると考え、開発戦略を推進しております。
・具体的なグローバルライセンス活動状況
当社は、今年度以降に開始予定の各臨床試験において得られるデータの取得状況に応じて、ライセンス契約の検討が可能となるよう準備を進めております。特に、ナンブランラトのグローバル第3相臨床試験の前半(パート A)については、将来的なライセンス活動を見据え、外部から適切な評価を得られる可能性のある試験デザインとするため、米国バイオベンチャー業界で豊富な経験を有する統計学者や腫瘍専門医(薬事・開発コンサルタント)から助言を得ながら、以下の工夫を治験デザインに組み込みました。
・全生存期間(OS)による効果評価
・実臨床を反映した最善支持療法群(Physician’s Best Choice;FOLFOX, FOLFIRI または緩和ケア)との比較
・利便性を高める46時間持続点滴群(2週に1度の通院で治療可能)の追加
また当社は、ライセンス契約交渉において適時に複数の候補企業と交渉を開始できるよう、ナンブランラト(主に胆道がん)及びJPH034(主に多発性硬化症)の市場特性を踏まえ、相性の良いパートナー候補企業を精査し、すでに一部の企業との協議を開始しております。興味を示す企業とは定期的な情報開示を通じて長期的な信頼関係の構築を進めております。臨床試験の進捗に応じて戦略的かつ円滑にライセンス契約交渉へと移行することを目指し、体制整備を進めておりますが、交渉の開始時期については相手先企業の判断に依存いたします。
ライセンスに向けて継続的にコミュニケーションを取っているパートナー候補企業数
(2026年1月31日時点)
具体的には、ナンブランラトにおいてはグローバル第3相臨床試験 パート A 及び国内での免疫チェックポイント阻害剤(ICI)との併用による医師主導試験が完了する2028年3月期(予定)を、JPH034においては米国での第1相臨床試験が完了する2027年3月期(予定)を、それぞれライセンス契約締結時期の目安として想定しております。
図1:グローバルライセンス契約締結までの計画のイメージ

③ ライフサイクルマネジメント
・ライフサイクルマネジメント概要
医薬品開発においては、一つの成功(POC※2)を起点に、疾患領域の拡大、特許の延長、さらには後継品(Best-in-Class)への展開といったライフサイクル戦略を段階的に実行することで、事業価値を最大化することが重要であると認識しております。当社はLAT1阻害剤開発の先駆者として、胆道がんにおけるPOCを達成し、すでに次なるライフサイクル戦略の検討及び準備を進めております。これらの取組みを、自社に加え研究開発パートナーや事業パートナーと連携しながら推進することで、持続的かつ大きな事業価値の創出を目指しております。
図2:胆道がんを起点とするライフサイクルマネジメント※3

その一環として、当社はナンブランラトの特許強化・延長プロジェクトを推進しております。医薬品分野においては、物質特許が満了した後も、製剤特許や用途特許などを組み合わせることで事業の独占性を延長させた事例が数多く存在します。ナンブランラトについても、グローバル大手製薬企業による成功実績のある手法も参考にしつつ、独占性の延長につながる可能性のある新規特許の取得を目指しています。これにより、より高額なライセンス契約の締結や、長期にわたるロイヤルティ収入につながる可能性があり、当社の中長期的な事業成長に寄与し得るものと考えております。
・SLCトランスポーター創薬のプラットフォーム化に向けて
当社は、現有する開発パイプラインの進捗と事業化を進める一方で、より長期的な成長に寄与するために、SLCトランスポーター創薬のプラットフォーム化を目指しております。当社は、LAT1阻害剤の研究開発を通じて知見を蓄積してきており、クライオ電子顕微鏡※4を用いたSLC構造解析技術※5の確立等により、基質特異性※6に関する理解が進展しております。また、複数のアカデミアとの委託・共同研究を通じて、戦略的パートナーシップを構築しており、研究基盤の広がりと強固さを支えております。
今後は、これまでに培ってきた研究基盤を成熟させるとともに、成長に資する要素を取り込みながら発展させることで、SLCトランスポーター創薬に係る技術の体系化及び新規パイプラインの充実を図ってまいります。
(3) 経営環境
① 当社の企業構造及び主要開発品の概観
当社は、研究開発を中核とする創薬ベンチャーとして、SLCトランスポーターを標的とした創薬研究並びに医薬品候補化合物の臨床開発を主たる事業としております。事業運営においては、研究戦略の立案、開発計画の策定、プロジェクトマネジメント及び重要な意思決定等の中核機能を当社が担い、臨床試験の運営・モニタリング等の実務については、国内外のCRO等の外部機関を活用することにより、効率的な研究開発推進体制を構築しております。また、薬事、開発、統計、疾患領域等に関する外部専門家から助言を受けるとともに、アカデミア等との連携を通じて研究開発基盤の強化を図っております。
当社の提供価値は、(i) 医薬品候補化合物の研究開発(臨床開発を含む)及び (ii) これらの研究開発活動を通じて蓄積されるSLCトランスポーター創薬に係る知見・技術基盤であります。当社はこれらを基に、アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域を対象として開発パイプラインを構築しております。現時点における主要開発品等の概要は以下のとおりです。
・ナンブランラト(JPH203):胆道がんを中心にグローバル開発を推進しております。新規作用機序に基づくFirst-in-Classを志向し、標準治療下におけるアンメット・メディカル・ニーズに対する新たな治療選択肢の提供を目指しております。
・JPH034:中枢移行性を特徴とするLAT1阻害剤として、中枢領域の疾患を対象に開発を推進しております。
・その他の開発・研究:既存開発品の適応拡大、ナンブランラトの特許の強化・延長、並びに次世代LAT1阻害剤(Best-in-Class)等の創薬研究について、資金状況及び開発コスト等を踏まえつつ、段階的に推進しております。
② 製薬業界に関する最近の動向
・医薬品市場の成長予測※1
Grand View Research, Inc.の最新レポートによれば、世界の医薬品市場規模は2030年までに2兆3,504億3,000万米ドルに達すると予測されており、2025年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)6.12%で拡大する見込みです。この市場成長の背景には、慢性疾患の有病率上昇、新規治療開発ニーズ拡大があります。洗練された製品の上市や糖尿病・がん・感染症など主要疾患の罹患率増加が、グローバルな医薬品市場の成長を下支えしていると考えられております。
・米国の関税政策とその影響※2
2025年4月、トランプ政権は「国家安全保障」を理由に、医薬品及び医療機器の輸入に対して10%の関税を導入しました。この関税措置は資本市場に不確実性をもたらし、将来の新規治療への投資に悪影響を及ぼす懸念があります。
こうした状況を受け、大手製薬企業は米国内での生産能力強化を目的に、既に数十億米ドル規模の投資を発表しております。ブランド医薬品については価格上昇リスクが限定的と見られる一方で、利益率の低い低価格ジェネリック医薬品の供給は制約を受ける可能性があります。
米国の関税政策は製薬業界にとって大きな転換点となっており、各社には不確実性に対応し得る柔軟な戦略と迅速な意思決定が求められております。
③ がん領域に係る研究開発や市場の動向
・がん治療薬市場の成長予測※1,3
がん治療薬は医薬品市場全体の約18.06%を占めており、その世界市場規模は2032年までに4,916億米ドルに達すると予測されております。2025年から2032年の予測期間においては、年平均成長率(CAGR)12.6%と高い成長が見込まれております。
この市場成長を支える大きな要因の一つとして、がん罹患率の増加が挙げられます。International Agency for Research on CancerのGLOBOCAN調査によれば、2020年には世界で1,930万人の新規がん患者と約1,000万人のがん死亡が報告されたと推定されております。こうした背景から、製薬企業の多くががん領域での研究開発活動に注力しており、新規治療薬の上市が加速しております。
一方で、2027年以降は主要な治療薬がジェネリック医薬品やバイオシミラーとの競争に直面することが見込まれており、これにより患者様・医療保険制度の双方にコスト削減効果をもたらす一方、市場成長率は徐々に鈍化すると予想されます。
・がん領域に関する治療薬の承認 (米国FDA)
2024年、米国FDAは、幅広いがん治療薬を承認しました。その対象は多様ながん種に及び、低分子阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤、二重特異性抗体※4、抗体薬物複合体(ADC)※5、さらには細胞・遺伝子治療製品まで、多様な作用機序を有する製品群が含まれております。
これらの中には、新しい免疫療法や分子標的療法といった画期的な治療法が複数承認されており、特に他の治療法との併用療法としての承認が多く見られる点は、近年のがん治療における重要なトレンドを示しております。さらに、既存薬の適応拡大も承認されており、がん治療が継続的に開発・改良されていることを裏付けております。
・がん領域に係る研究開発※6
がん領域における治験開始件数は、2021年にピークを迎えた後に一時減少しましたが、2024年にはわずかに回復し2,162件となりました。これは2019年比で12%増加しており、2024年に開始されるがん領域の治験の74%が希少がんの治療薬を対象としております。
新薬開発の動きも活発であり、2024年には世界で25の新規有効成分(NAS)が承認され、上市しました。2020年から2024年の年間平均は26件と、それ以前5年間の平均16件を大きく上回っており、がん領域における継続的な革新が示されております。
新たながん治療法の中でも、細胞・遺伝子治療、抗体薬物複合体(ADC)、多重特異性抗体は特に大きな注目を集めており、2024年に開始されたがん領域の治験の35%を占めております。過去5年間で世界では9つのADCが承認され、試験開始件数は年平均32%増加しており、固形腫瘍研究における最も急成長する分野となっております。
また、二重特異性抗体は既に14種類が市販されており、多重特異性抗体の治験件数も2019年以降、固形がんを中心に3倍以上に増加しております。さらに、放射性リガンド療法についても、前立腺がんや神経内分泌がんをはじめとする様々な腫瘍で臨床試験が進められており、この5年間で治験開始件数は3倍に拡大しました。
これらの新しい治療法は、単剤療法としての有効性に加え、他の新しい治療法との併用療法としても発展を続けており、今後のがん治療において大きな可能性を秘めております。
④ 胆道がん(胆管がん及び胆嚢がん)の市場動向及び研究開発
胆道がん治療市場は、標的療法、免疫療法、精密医療の進展により、今後も着実な成長が見込まれております。胆道がんは希少疾患であり、2020年までは2次療法に承認薬が存在しませんでしたが、現在では複数の米国FDA承認薬が登場しております。2024年には、胆道がんにおける初のHER2二重標的療法としてザニダタマブが承認され、市場拡大の象徴的な出来事となりました。
ただし、既存の分子標的薬は適応患者が限定されるうえ、耐性の出現(二次変異など)による再発が依然として課題となっております。一方、1次療法では免疫チェックポイント阻害剤(PD-1/PD-L1)において有用性が示され、ペムブロリズマブやデュルバルマブが承認に至っております。
胆道がん治療は過去10年間で大きな進展を遂げてきたものの、依然として治療選択肢は限られており、個別化・分子診断に基づく治療設計が求められております。今後は、早期発見・スクリーニングの強化、併用療法の普及、次世代標的の探索等が重要な論点になると考えられております。
このような環境下において、当社の開発品であるナンブランラトは、LAT1阻害という新規作用機序(First-in-Class)を基盤として、胆道がん2次療法における治療選択肢の拡大に資する可能性がある点が競争上の差別化要因となり得ると考えております。
⑤ がん領域の今後の見通し
がん治療薬市場は急速に進化しており、革新的な治療法や技術革新が市場成長を力強く牽引しております。なかでも、ゲノムプロファイリングやバイオマーカーに基づく個別化医療の普及、免疫チェックポイント阻害剤やCAR-T細胞療法といった免疫療法の拡大、さらにビッグデータ解析やAIを活用した診断精度の向上や治療計画の最適化といったデジタル技術の導入が、成長の主な要因となっております。これらの動向を背景に、がん治療薬市場は今後も持続的な成長が期待され、製薬企業にとって極めて大きな事業機会を提供する分野となっております。
⑥ 事業へ与える影響
製薬業界、とりわけがん領域の市場は今後も大きな成長が見込まれており、その中でも胆道がんは依然としてアンメット・メディカル・ニーズが高い領域であると認識しております。近年は従来とは異なる新規作用機序のがん治療薬が研究開発され、治療選択肢が拡大しているほか、他剤との併用療法の進展も市場拡大を後押ししております。
当社の開発品であるナンブランラトは、単剤療法として、胆道がん2次療法において一定の有望性が示唆されており、意義のある結果であると考えております。
当社は、ナンブランラトの競争優位性を、①LAT1阻害という新規作用機序(First-in-Class)に基づく差別化、②胆道がん2次療法というアンメット・メディカル・ニーズの高い領域における単剤療法としての位置づけ、③将来的な承認取得及びライセンス活動を見据えた臨床開発戦略の三点に整理しております。具体的には、グローバル第3相臨床試験の前半(パート A)において、全生存期間(OS)による効果評価を採用するとともに、実臨床を反映した最善支持療法群との比較、さらに利便性を高める投与群の追加等の工夫を組み込むことで、臨床的意義及び外部からの評価の明確化を図っております。加えて、特許強化・延長、他剤との併用、他の固形がんや自己免疫疾患への展開、Best-in-ClassのLAT1阻害剤の開発といったライフサイクルマネジメントを推進し、独占性の確保と事業価値の最大化に取り組んでおります。
一方で、市場競争の激化や米国における薬価政策・関税動向など不確実性も存在します。そのため、スピード感を持った開発推進に加え、リスク分散と持続的な成長のために開発パイプラインの拡充を進めていくことが不可欠と考えております。
(4) 経営上の目標の達成状況を把握するための客観的な指標等
当社は現在、研究開発段階にあるため、売上高、営業利益等の財務指標を経営上の目標として具体的に設定しておりません。これは、医薬品の承認取得及び上市前の段階においては、財務指標が当社の研究開発活動の進捗や将来の事業価値を必ずしも適切に反映しないと考えるためであります。
当社の企業価値の主要な構成要素は、医薬品候補化合物の研究開発の進捗(臨床開発及び規制対応を含む)並びに研究開発の成果としての開発パイプラインの充実であることから、当社はこれらを経営上の重要課題と位置付け、当該課題の達成状況を把握するための客観的な指標として以下を採用しております。
① 開発パイプラインの進捗状況(計画対比)
各開発品について、臨床試験の開始、被験者登録の進捗(例:最初の被験者登録、登録完了)、データ固定、主要評価項目に係る結果の取得、規制当局との協議及び申請関連手続(例:当局面談、申請資料作成の進捗、申請提出)等の主要な開発マイルストンの達成状況を、計画対比の観点から、四半期又は適宜の頻度でモニタリングしております。
② 開発パイプラインの充実状況
次の開発パイプライン候補の創出に係る進捗(例:候補化合物の絞り込み・選定、前臨床POCの取得、特許申請)等を指標として、パイプラインの拡充状況を評価しております。
なお、研究開発活動は、臨床・非臨床試験の結果、規制当局の判断、臨床試験の実施環境その他の外部要因等の影響を受ける場合があり、各マイルストンの達成時期等が変動する可能性があります。当社は、上記指標を踏まえた目標計画を策定し、研究開発活動及び事業活動を推進してまいります。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 財務基盤の強化
当社は、「第1 企業の概況 3 事業の内容」に記載のとおり、多様な開発パイプラインを有しており、今年度以降も複数の臨床試験を開始する予定です。創薬事業の特性上、多額の研究開発費用が先行するため、営業損失の継続や営業キャッシュ・フローのマイナスが発生しやすく、財務基盤の強化は極めて重要な経営課題であると認識しております。
このため当社は、研究開発を推進しつつ財務基盤を充実させるべく、以下の方針を掲げております。
・自社開発と戦略的パートナリングの組み合わせ
当社は、可能な限り自社主導で臨床試験を実施し、その成果を最大限に取り込むことで将来的な収益機会の確保を目指しております。一方で、臨床後期やグローバル規模での開発・商業化には多額の費用を要するため、各開発プログラムについて適切なリスクとリターンのバランスが確保できる段階までグローバル開発を進め、その上で製薬企業への導出を行う方針としております。これにより、リスク分散と財務の安定性を実現しつつ、持続的な成長を目指してまいります。具体的には、ナンブランラトにおいてはグローバル第3相臨床試験パート A および国内での免疫チェックポイント阻害剤(ICI)との併用による医師主導試験が完了する2028年3月期(予定)を、JPH034においては米国での第1相臨床試験が完了する2027年3月期(予定)を、それぞれライセンス契約締結時期とするのが適切であると考えております。そのため、すでに一部の企業とは協議を開始しております。
・資金調達手段の多様化
株式発行による資金調達に加え、事業会社からの出資や公的資金の活用など、多様な資金調達手段を組み合わせることで、研究開発を安定的かつ継続的に進められる体制を整備してまいります。また、資金調達を実現するためには、現在の開発パイプラインの進捗に加えて、ライフサイクルマネジメントとして、疾患領域の拡大、特許の延長、後継品への展開といった持続的かつ大きな事業価値の創出を目指す活動が重要であると認識し、取り組んでおります。
② 持続的成長と社会的信頼確保のための取組
さらに、財務面にとどまらず持続的な成長と社会的信頼を確保するため、以下の取組みも優先課題として推進してまいります。
・法令遵守の推進
製薬業界に求められる高い倫理性と社会的責任を踏まえ、国内外の関連法規制やガイドラインを遵守するとともに、全社員のコンプライアンス意識の向上を図り、健全かつ透明性の高い事業運営の実現に努めてまいります。
・ガバナンス機能の充実
取締役会を中心としたガバナンス機能を強化し、経営の透明性、公正性、意思決定の迅速性を確保することで、持続的成長を支える経営基盤を確立し、株主をはじめとする全てのステークホルダーからの信頼に応えてまいります。
・組織体制の整備及び人材育成
研究開発から事業化に至る各プロセスを効率的かつ確実に推進するため、最適な組織体制を整備するとともに、社員一人ひとりの専門性とリーダーシップを高める教育・研修を強化してまいります。
・高度人材の獲得と定着
革新的な創薬活動を継続的に推進するためには、優れた専門性を有する人材の採用・定着が不可欠です。当社は、国内外の研究機関や製薬企業からの専門人材のリクルーティングを行うとともに、魅力ある職場環境の整備や柔軟な働き方の推進により、人材が長期的に活躍できる基盤を構築してまいります。これらの取組みを通じて人材競争力を高め、創薬事業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上につなげてまいります。
これらの取組みにより、当社はリスクとリターンのバランスを適切に確保しつつ、パイプライン開発の加速と新規創出を同時に実現し、中長期的な企業価値の向上を目指してまいります。
(1) 経営方針
当社は、「SLCトランスポーター創薬の新たな可能性を追求し、グローバルベンチャーとして世界中の人々が抱えるアンメット・メディカル・ニーズに応える革新的新薬の開発を通じ、人々が健康を維持し、希望を持ち続けることに貢献します」を企業理念としております。
当社は、当該理念実現に向け、「グローバルベンチャーとして挑戦する情熱」「サイエンスの追求」「コンプライアンスの徹底遵守」を行動規範として定めております。
(2) 経営戦略
① Goals for 2030
当社は、長期的な経営戦略として以下のとおり「Goals for 2030」を定め、段階的かつ着実な取組みを進めております。
| Goals for 2030 | 具体的活動 |
| 1.LAT1阻害剤[(ナンブランラト) First-in-Class]単剤療法での、胆道がん治療薬としてグローバル承認獲得 ・日本発のブロックバスター製品(年間売上10億米ドル)を目指す | ・グローバル臨床開発 (第1 企業の概況 3 事業の内容 (2)開発パイプライン記載の通り) ・グローバルライセンス活動 |
| 2.免疫機構に着目した新たな治療薬の可能性を追究し、がん、自己免疫疾患、希少疾患へと展開 | |
| ・ライフサイクルマネジメント | |
| 3.次世代LAT1阻害剤(Best-in-Class)の臨床試験入り | |
| 4.新たなトランスポーター阻害剤の創出によるパイプライン拡充 | |
| 5.種々の創薬技術を取り込みプラットフォーム化し、継続的な創薬と事業化の仕組み作り |
※上記は本書提出日現在における当社の目標であり、研究開発の進捗、規制当局対応、薬価及び公的医療保険における償還制度(保険収載の可否及び償還条件)、競合環境、市場環境その他の要因により、実際の結果が異なる可能性があります
② グローバルライセンス活動
・グローバル開発を進めた上でのライセンス契約を目指す理由
当社は、開発化合物の価値をグローバル開発によって最大化し、その成果をグローバルライセンス契約へとつなげることでの収益化を目指しております。日本国内において非臨床又は早期の臨床データのみを基にライセンス契約を締結した場合、契約一時金は相対的に小規模となる例がみられます。一方で、グローバル第3相臨床試験まで進展した化合物を導出した場合、契約一時金の中央値は42百万米ドル(2023年の値:約63億円、1ドル=150円換算)※1と報告されています。
このような現状を踏まえ、厚生労働省の「ヘルスケアスタートアップの振興・支援に関するホワイトペーパー」(2024年)提言13では、「開発の早い段階でのアライアンス契約はスタートアップ側に不利となりうるおそれがある(中略)バイオスタートアップの企業価値を毀損しかねない」と指摘されております。当社はこの認識のもと、可能な限り後期段階までグローバル開発を進めることにより化合物の価値、ひいては企業価値の向上を図ることが重要であると考え、開発戦略を推進しております。
・具体的なグローバルライセンス活動状況
当社は、今年度以降に開始予定の各臨床試験において得られるデータの取得状況に応じて、ライセンス契約の検討が可能となるよう準備を進めております。特に、ナンブランラトのグローバル第3相臨床試験の前半(パート A)については、将来的なライセンス活動を見据え、外部から適切な評価を得られる可能性のある試験デザインとするため、米国バイオベンチャー業界で豊富な経験を有する統計学者や腫瘍専門医(薬事・開発コンサルタント)から助言を得ながら、以下の工夫を治験デザインに組み込みました。
・全生存期間(OS)による効果評価
・実臨床を反映した最善支持療法群(Physician’s Best Choice;FOLFOX, FOLFIRI または緩和ケア)との比較
・利便性を高める46時間持続点滴群(2週に1度の通院で治療可能)の追加
また当社は、ライセンス契約交渉において適時に複数の候補企業と交渉を開始できるよう、ナンブランラト(主に胆道がん)及びJPH034(主に多発性硬化症)の市場特性を踏まえ、相性の良いパートナー候補企業を精査し、すでに一部の企業との協議を開始しております。興味を示す企業とは定期的な情報開示を通じて長期的な信頼関係の構築を進めております。臨床試験の進捗に応じて戦略的かつ円滑にライセンス契約交渉へと移行することを目指し、体制整備を進めておりますが、交渉の開始時期については相手先企業の判断に依存いたします。
ライセンスに向けて継続的にコミュニケーションを取っているパートナー候補企業数
(2026年1月31日時点)
| ナンブランラト | JPH034 |
| 12社 | 13社 |
具体的には、ナンブランラトにおいてはグローバル第3相臨床試験 パート A 及び国内での免疫チェックポイント阻害剤(ICI)との併用による医師主導試験が完了する2028年3月期(予定)を、JPH034においては米国での第1相臨床試験が完了する2027年3月期(予定)を、それぞれライセンス契約締結時期の目安として想定しております。
図1:グローバルライセンス契約締結までの計画のイメージ

③ ライフサイクルマネジメント
・ライフサイクルマネジメント概要
医薬品開発においては、一つの成功(POC※2)を起点に、疾患領域の拡大、特許の延長、さらには後継品(Best-in-Class)への展開といったライフサイクル戦略を段階的に実行することで、事業価値を最大化することが重要であると認識しております。当社はLAT1阻害剤開発の先駆者として、胆道がんにおけるPOCを達成し、すでに次なるライフサイクル戦略の検討及び準備を進めております。これらの取組みを、自社に加え研究開発パートナーや事業パートナーと連携しながら推進することで、持続的かつ大きな事業価値の創出を目指しております。
図2:胆道がんを起点とするライフサイクルマネジメント※3

その一環として、当社はナンブランラトの特許強化・延長プロジェクトを推進しております。医薬品分野においては、物質特許が満了した後も、製剤特許や用途特許などを組み合わせることで事業の独占性を延長させた事例が数多く存在します。ナンブランラトについても、グローバル大手製薬企業による成功実績のある手法も参考にしつつ、独占性の延長につながる可能性のある新規特許の取得を目指しています。これにより、より高額なライセンス契約の締結や、長期にわたるロイヤルティ収入につながる可能性があり、当社の中長期的な事業成長に寄与し得るものと考えております。
・SLCトランスポーター創薬のプラットフォーム化に向けて
当社は、現有する開発パイプラインの進捗と事業化を進める一方で、より長期的な成長に寄与するために、SLCトランスポーター創薬のプラットフォーム化を目指しております。当社は、LAT1阻害剤の研究開発を通じて知見を蓄積してきており、クライオ電子顕微鏡※4を用いたSLC構造解析技術※5の確立等により、基質特異性※6に関する理解が進展しております。また、複数のアカデミアとの委託・共同研究を通じて、戦略的パートナーシップを構築しており、研究基盤の広がりと強固さを支えております。
今後は、これまでに培ってきた研究基盤を成熟させるとともに、成長に資する要素を取り込みながら発展させることで、SLCトランスポーター創薬に係る技術の体系化及び新規パイプラインの充実を図ってまいります。
| 番号 | 解説または引用 |
| ※1 | Q3 2024 Biopharma Licensing and Venture Report by J.P.Morgan: 2023年の値 中国のみ・欧州のみなどのローカルライセンスを含む |
| ※2 | POC:POC(Proof of Concept)とは、研究開発において仮説や新しい治療法の有効性・安全性について、初期段階でその実現可能性を示すための概念や検証プロセスを指します。創薬の分野では、臨床試験の早期(主に第2相試験)で新薬候補が実際に患者に効果を示すかを確認し、開発を継続するかどうかを判断する重要な節目となります。 |
| ※3 | 当社の事業戦略に関するイメージ図であり、実際の事業展開とは異なる可能性があります。 |
| ※4 | クライオ電子顕微鏡:クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)とは、生体分子や細胞構造を凍結したまま観察できる電子顕微鏡技術です。試料を急速凍結して水分を氷晶化させずに保存することで、タンパク質や複合体をほぼ生理的な状態で高分解能に解析できます。近年は構造生物学や創薬研究において、X線結晶構造解析やNMRに並ぶ強力な手法として注目されております。 |
| ※5 | SLC構造解析技術:結晶化困難なSLCをクライオ電顕で可視化することで、輸送メカニズムの解明や創薬応用につなげる技術です。SLCは膜貫通型タンパク質であり、疎水性が高く不安定で、さらに結晶化が困難であるため、従来のX線結晶構造解析やNMRでは詳細な構造情報を得ることが極めて難しいという背景があります。近年ではクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)の進歩により、結晶化を必要とせず、生理的に近い条件下でSLCの立体構造を高分解能に観察できるようになりました。これにより、SLCの基質特異性や輸送サイクルの分子メカニズムが解明され、創薬標的としての理解が大きく進展しております。 |
| ※6 | 基質特異性:酵素や輸送体などの生体分子が、特定の基質(反応する分子や取り込む物質)に対して選択的に作用する性質のことを指します。この特性により、生体内の反応が正確かつ効率的に進行します。 |
(3) 経営環境
① 当社の企業構造及び主要開発品の概観
当社は、研究開発を中核とする創薬ベンチャーとして、SLCトランスポーターを標的とした創薬研究並びに医薬品候補化合物の臨床開発を主たる事業としております。事業運営においては、研究戦略の立案、開発計画の策定、プロジェクトマネジメント及び重要な意思決定等の中核機能を当社が担い、臨床試験の運営・モニタリング等の実務については、国内外のCRO等の外部機関を活用することにより、効率的な研究開発推進体制を構築しております。また、薬事、開発、統計、疾患領域等に関する外部専門家から助言を受けるとともに、アカデミア等との連携を通じて研究開発基盤の強化を図っております。
当社の提供価値は、(i) 医薬品候補化合物の研究開発(臨床開発を含む)及び (ii) これらの研究開発活動を通じて蓄積されるSLCトランスポーター創薬に係る知見・技術基盤であります。当社はこれらを基に、アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域を対象として開発パイプラインを構築しております。現時点における主要開発品等の概要は以下のとおりです。
・ナンブランラト(JPH203):胆道がんを中心にグローバル開発を推進しております。新規作用機序に基づくFirst-in-Classを志向し、標準治療下におけるアンメット・メディカル・ニーズに対する新たな治療選択肢の提供を目指しております。
・JPH034:中枢移行性を特徴とするLAT1阻害剤として、中枢領域の疾患を対象に開発を推進しております。
・その他の開発・研究:既存開発品の適応拡大、ナンブランラトの特許の強化・延長、並びに次世代LAT1阻害剤(Best-in-Class)等の創薬研究について、資金状況及び開発コスト等を踏まえつつ、段階的に推進しております。
② 製薬業界に関する最近の動向
・医薬品市場の成長予測※1
Grand View Research, Inc.の最新レポートによれば、世界の医薬品市場規模は2030年までに2兆3,504億3,000万米ドルに達すると予測されており、2025年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)6.12%で拡大する見込みです。この市場成長の背景には、慢性疾患の有病率上昇、新規治療開発ニーズ拡大があります。洗練された製品の上市や糖尿病・がん・感染症など主要疾患の罹患率増加が、グローバルな医薬品市場の成長を下支えしていると考えられております。
・米国の関税政策とその影響※2
2025年4月、トランプ政権は「国家安全保障」を理由に、医薬品及び医療機器の輸入に対して10%の関税を導入しました。この関税措置は資本市場に不確実性をもたらし、将来の新規治療への投資に悪影響を及ぼす懸念があります。
こうした状況を受け、大手製薬企業は米国内での生産能力強化を目的に、既に数十億米ドル規模の投資を発表しております。ブランド医薬品については価格上昇リスクが限定的と見られる一方で、利益率の低い低価格ジェネリック医薬品の供給は制約を受ける可能性があります。
米国の関税政策は製薬業界にとって大きな転換点となっており、各社には不確実性に対応し得る柔軟な戦略と迅速な意思決定が求められております。
③ がん領域に係る研究開発や市場の動向
・がん治療薬市場の成長予測※1,3
がん治療薬は医薬品市場全体の約18.06%を占めており、その世界市場規模は2032年までに4,916億米ドルに達すると予測されております。2025年から2032年の予測期間においては、年平均成長率(CAGR)12.6%と高い成長が見込まれております。
この市場成長を支える大きな要因の一つとして、がん罹患率の増加が挙げられます。International Agency for Research on CancerのGLOBOCAN調査によれば、2020年には世界で1,930万人の新規がん患者と約1,000万人のがん死亡が報告されたと推定されております。こうした背景から、製薬企業の多くががん領域での研究開発活動に注力しており、新規治療薬の上市が加速しております。
一方で、2027年以降は主要な治療薬がジェネリック医薬品やバイオシミラーとの競争に直面することが見込まれており、これにより患者様・医療保険制度の双方にコスト削減効果をもたらす一方、市場成長率は徐々に鈍化すると予想されます。
・がん領域に関する治療薬の承認 (米国FDA)
2024年、米国FDAは、幅広いがん治療薬を承認しました。その対象は多様ながん種に及び、低分子阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤、二重特異性抗体※4、抗体薬物複合体(ADC)※5、さらには細胞・遺伝子治療製品まで、多様な作用機序を有する製品群が含まれております。
これらの中には、新しい免疫療法や分子標的療法といった画期的な治療法が複数承認されており、特に他の治療法との併用療法としての承認が多く見られる点は、近年のがん治療における重要なトレンドを示しております。さらに、既存薬の適応拡大も承認されており、がん治療が継続的に開発・改良されていることを裏付けております。
・がん領域に係る研究開発※6
がん領域における治験開始件数は、2021年にピークを迎えた後に一時減少しましたが、2024年にはわずかに回復し2,162件となりました。これは2019年比で12%増加しており、2024年に開始されるがん領域の治験の74%が希少がんの治療薬を対象としております。
新薬開発の動きも活発であり、2024年には世界で25の新規有効成分(NAS)が承認され、上市しました。2020年から2024年の年間平均は26件と、それ以前5年間の平均16件を大きく上回っており、がん領域における継続的な革新が示されております。
新たながん治療法の中でも、細胞・遺伝子治療、抗体薬物複合体(ADC)、多重特異性抗体は特に大きな注目を集めており、2024年に開始されたがん領域の治験の35%を占めております。過去5年間で世界では9つのADCが承認され、試験開始件数は年平均32%増加しており、固形腫瘍研究における最も急成長する分野となっております。
また、二重特異性抗体は既に14種類が市販されており、多重特異性抗体の治験件数も2019年以降、固形がんを中心に3倍以上に増加しております。さらに、放射性リガンド療法についても、前立腺がんや神経内分泌がんをはじめとする様々な腫瘍で臨床試験が進められており、この5年間で治験開始件数は3倍に拡大しました。
これらの新しい治療法は、単剤療法としての有効性に加え、他の新しい治療法との併用療法としても発展を続けており、今後のがん治療において大きな可能性を秘めております。
④ 胆道がん(胆管がん及び胆嚢がん)の市場動向及び研究開発
胆道がん治療市場は、標的療法、免疫療法、精密医療の進展により、今後も着実な成長が見込まれております。胆道がんは希少疾患であり、2020年までは2次療法に承認薬が存在しませんでしたが、現在では複数の米国FDA承認薬が登場しております。2024年には、胆道がんにおける初のHER2二重標的療法としてザニダタマブが承認され、市場拡大の象徴的な出来事となりました。
ただし、既存の分子標的薬は適応患者が限定されるうえ、耐性の出現(二次変異など)による再発が依然として課題となっております。一方、1次療法では免疫チェックポイント阻害剤(PD-1/PD-L1)において有用性が示され、ペムブロリズマブやデュルバルマブが承認に至っております。
胆道がん治療は過去10年間で大きな進展を遂げてきたものの、依然として治療選択肢は限られており、個別化・分子診断に基づく治療設計が求められております。今後は、早期発見・スクリーニングの強化、併用療法の普及、次世代標的の探索等が重要な論点になると考えられております。
このような環境下において、当社の開発品であるナンブランラトは、LAT1阻害という新規作用機序(First-in-Class)を基盤として、胆道がん2次療法における治療選択肢の拡大に資する可能性がある点が競争上の差別化要因となり得ると考えております。
⑤ がん領域の今後の見通し
がん治療薬市場は急速に進化しており、革新的な治療法や技術革新が市場成長を力強く牽引しております。なかでも、ゲノムプロファイリングやバイオマーカーに基づく個別化医療の普及、免疫チェックポイント阻害剤やCAR-T細胞療法といった免疫療法の拡大、さらにビッグデータ解析やAIを活用した診断精度の向上や治療計画の最適化といったデジタル技術の導入が、成長の主な要因となっております。これらの動向を背景に、がん治療薬市場は今後も持続的な成長が期待され、製薬企業にとって極めて大きな事業機会を提供する分野となっております。
⑥ 事業へ与える影響
製薬業界、とりわけがん領域の市場は今後も大きな成長が見込まれており、その中でも胆道がんは依然としてアンメット・メディカル・ニーズが高い領域であると認識しております。近年は従来とは異なる新規作用機序のがん治療薬が研究開発され、治療選択肢が拡大しているほか、他剤との併用療法の進展も市場拡大を後押ししております。
当社の開発品であるナンブランラトは、単剤療法として、胆道がん2次療法において一定の有望性が示唆されており、意義のある結果であると考えております。
当社は、ナンブランラトの競争優位性を、①LAT1阻害という新規作用機序(First-in-Class)に基づく差別化、②胆道がん2次療法というアンメット・メディカル・ニーズの高い領域における単剤療法としての位置づけ、③将来的な承認取得及びライセンス活動を見据えた臨床開発戦略の三点に整理しております。具体的には、グローバル第3相臨床試験の前半(パート A)において、全生存期間(OS)による効果評価を採用するとともに、実臨床を反映した最善支持療法群との比較、さらに利便性を高める投与群の追加等の工夫を組み込むことで、臨床的意義及び外部からの評価の明確化を図っております。加えて、特許強化・延長、他剤との併用、他の固形がんや自己免疫疾患への展開、Best-in-ClassのLAT1阻害剤の開発といったライフサイクルマネジメントを推進し、独占性の確保と事業価値の最大化に取り組んでおります。
一方で、市場競争の激化や米国における薬価政策・関税動向など不確実性も存在します。そのため、スピード感を持った開発推進に加え、リスク分散と持続的な成長のために開発パイプラインの拡充を進めていくことが不可欠と考えております。
| 番号 | 解説または引用 |
| ※1 | 株式会社グローバルインフォメーション 当該ウェブページを 2025年10月2日閲覧。URL: https://www.gii.co.jp/report/grvi1679414-pharmaceutical-market-size-share-trends-analysis.html |
| ※2 | Sean D. Sullivan, et al., JMCP org., 2025, 31, Number 6. “The consequences of pharmaceutical tariffs in the United States” |
| ※3 | H&Iグローバルリサーチ株式会社 当該ウェブページを 2025年10月2日閲覧。URL:https://www.globalresearch.co.jp/cancer-therapeutics-market/ |
| ※4 | 二重特異性抗体:1つの抗体分子で2種類の異なる抗原(またはエピトープ)を同時に認識できるように設計された抗体です。 |
| ※5 | 抗体薬物複合体(ADC, Antibody-Drug Conjugate):抗体に強力な低分子の抗がん薬(細胞傷害性薬物)を結合させた標的型治療薬です。 |
| ※6 | IQVIA Institute Report "Global Oncology Trends 2025" |
(4) 経営上の目標の達成状況を把握するための客観的な指標等
当社は現在、研究開発段階にあるため、売上高、営業利益等の財務指標を経営上の目標として具体的に設定しておりません。これは、医薬品の承認取得及び上市前の段階においては、財務指標が当社の研究開発活動の進捗や将来の事業価値を必ずしも適切に反映しないと考えるためであります。
当社の企業価値の主要な構成要素は、医薬品候補化合物の研究開発の進捗(臨床開発及び規制対応を含む)並びに研究開発の成果としての開発パイプラインの充実であることから、当社はこれらを経営上の重要課題と位置付け、当該課題の達成状況を把握するための客観的な指標として以下を採用しております。
① 開発パイプラインの進捗状況(計画対比)
各開発品について、臨床試験の開始、被験者登録の進捗(例:最初の被験者登録、登録完了)、データ固定、主要評価項目に係る結果の取得、規制当局との協議及び申請関連手続(例:当局面談、申請資料作成の進捗、申請提出)等の主要な開発マイルストンの達成状況を、計画対比の観点から、四半期又は適宜の頻度でモニタリングしております。
② 開発パイプラインの充実状況
次の開発パイプライン候補の創出に係る進捗(例:候補化合物の絞り込み・選定、前臨床POCの取得、特許申請)等を指標として、パイプラインの拡充状況を評価しております。
なお、研究開発活動は、臨床・非臨床試験の結果、規制当局の判断、臨床試験の実施環境その他の外部要因等の影響を受ける場合があり、各マイルストンの達成時期等が変動する可能性があります。当社は、上記指標を踏まえた目標計画を策定し、研究開発活動及び事業活動を推進してまいります。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 財務基盤の強化
当社は、「第1 企業の概況 3 事業の内容」に記載のとおり、多様な開発パイプラインを有しており、今年度以降も複数の臨床試験を開始する予定です。創薬事業の特性上、多額の研究開発費用が先行するため、営業損失の継続や営業キャッシュ・フローのマイナスが発生しやすく、財務基盤の強化は極めて重要な経営課題であると認識しております。
このため当社は、研究開発を推進しつつ財務基盤を充実させるべく、以下の方針を掲げております。
・自社開発と戦略的パートナリングの組み合わせ
当社は、可能な限り自社主導で臨床試験を実施し、その成果を最大限に取り込むことで将来的な収益機会の確保を目指しております。一方で、臨床後期やグローバル規模での開発・商業化には多額の費用を要するため、各開発プログラムについて適切なリスクとリターンのバランスが確保できる段階までグローバル開発を進め、その上で製薬企業への導出を行う方針としております。これにより、リスク分散と財務の安定性を実現しつつ、持続的な成長を目指してまいります。具体的には、ナンブランラトにおいてはグローバル第3相臨床試験パート A および国内での免疫チェックポイント阻害剤(ICI)との併用による医師主導試験が完了する2028年3月期(予定)を、JPH034においては米国での第1相臨床試験が完了する2027年3月期(予定)を、それぞれライセンス契約締結時期とするのが適切であると考えております。そのため、すでに一部の企業とは協議を開始しております。
・資金調達手段の多様化
株式発行による資金調達に加え、事業会社からの出資や公的資金の活用など、多様な資金調達手段を組み合わせることで、研究開発を安定的かつ継続的に進められる体制を整備してまいります。また、資金調達を実現するためには、現在の開発パイプラインの進捗に加えて、ライフサイクルマネジメントとして、疾患領域の拡大、特許の延長、後継品への展開といった持続的かつ大きな事業価値の創出を目指す活動が重要であると認識し、取り組んでおります。
② 持続的成長と社会的信頼確保のための取組
さらに、財務面にとどまらず持続的な成長と社会的信頼を確保するため、以下の取組みも優先課題として推進してまいります。
・法令遵守の推進
製薬業界に求められる高い倫理性と社会的責任を踏まえ、国内外の関連法規制やガイドラインを遵守するとともに、全社員のコンプライアンス意識の向上を図り、健全かつ透明性の高い事業運営の実現に努めてまいります。
・ガバナンス機能の充実
取締役会を中心としたガバナンス機能を強化し、経営の透明性、公正性、意思決定の迅速性を確保することで、持続的成長を支える経営基盤を確立し、株主をはじめとする全てのステークホルダーからの信頼に応えてまいります。
・組織体制の整備及び人材育成
研究開発から事業化に至る各プロセスを効率的かつ確実に推進するため、最適な組織体制を整備するとともに、社員一人ひとりの専門性とリーダーシップを高める教育・研修を強化してまいります。
・高度人材の獲得と定着
革新的な創薬活動を継続的に推進するためには、優れた専門性を有する人材の採用・定着が不可欠です。当社は、国内外の研究機関や製薬企業からの専門人材のリクルーティングを行うとともに、魅力ある職場環境の整備や柔軟な働き方の推進により、人材が長期的に活躍できる基盤を構築してまいります。これらの取組みを通じて人材競争力を高め、創薬事業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上につなげてまいります。
これらの取組みにより、当社はリスクとリターンのバランスを適切に確保しつつ、パイプライン開発の加速と新規創出を同時に実現し、中長期的な企業価値の向上を目指してまいります。