有価証券報告書-第34期(平成28年4月1日-平成29年3月31日)

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2017/06/26 9:39
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業績等の概要

(1)業績
当連結会計年度(2016年4月1日から2017年3月31日まで)における当社グループを取り巻く事業環境は、IT分野において、モバイル、クラウド、ソーシャルネットワークが社会に浸透する中で、IoT(モノのインターネット)やVR(仮想現実)などといった新たな分野が立ち上がるなど急激な変化を見せました。主要通貨に対する円相場は、英国のEU離脱の選択に端を発した世界的なリスク回避志向により、対米ドル、対ユーロともに円高が第2四半期連結累計期間において急速に進み、中国元など新興国通貨に対しては対米ドル以上の円高が進行しました。しかし、11月以降は一転して、米ドル全面高につられる形で主要通貨に対する円安が進みました。
このように急速に変化する事業環境の下、当社は、クリエイティブユーザー向けペンタブレット市場のグローバルリーダーとして、より付加価値の高い製品群を提供するために、次世代デジタルペン技術の開発や製品ラインの強化、将来の成長基盤構築のための投資の強化に取り組みました。
ブランド製品事業においては、プロフェッショナル市場におけるユーザーニーズの変化を先取りし、市場でのリーダーシップを強化すべく、次世代デジタルペン技術を搭載し、3D機能、カラーマネジメント機能などを強化した次世代製品ラインの開発を進め、市場投入しました。また、デジタル文具における新たな市場の開拓に向けて、クラウドを活用した製品ラインを拡充しました。さらに、セキュリティー(安全性)に関わるビジネスの強化を目指し、デジタルペンとソフトウエアを組み合わせたソリューションの充実を図りました。このような中、当連結会計年度で見ると、円高の影響、競争関係の変化、製品サイクルの移行期の影響による需要の減少及び一部新製品の市場投入遅れなどにより、すべての製品ラインの売上が前年同期を下回る結果となりました。
テクノロジーソリューション事業においては、サムスン社のGalaxy Note7が品質問題により10月に生産中止となったことが事業活動に大きな影響を与えました。一方、アクティブES(Active Electrostatic)方式デジタルペンの量産を進めるとともに、新規顧客の獲得に取り組みました。さらに、マイクロソフト社のWindows10搭載のタブレット端末向けや、グーグル社のChrome(クローム)対応のノートPC向けにそれぞれ共通で使用できる標準デジタルペンの開発を進めるとともに、デジタルペンの小型インクカートリッジ化と自動生産に取り組みました。このような中、当連結会計年度で見ると、スマートフォン向けでの販売の減少及び円高の影響を受けたことなどから、売上は前年同期を下回りました。
コーポレート部門においては、事業領域拡大に向けて、OSの違いを越えたデジタルインクの新たな標準である「WILL(Wacom Ink Layer Language)」を提唱し、パートナー企業の拡大に努め、その普及を促進するためのイベント「Connected Ink(コネクティドインク)」を世界4カ国で開催しました。さらに、「デジタルステーショナリーコンソーシアム」を9月に設立して「WILL」の普及促進とデジタル文具市場の発展に取り組みました。また、デジタルペン技術の領域では、2016年3月にマイクロソフト社とのWindows対応のデジタルペン技術に関するライセンス供与について合意するなど、パートナー企業との協調を前提とするオープンパートナーシップ戦略により、ペンとインクの両方のデジタル化を推進しました。
なお、当社グループでは、2015年4月に「ワコム戦略経営計画 SBP-2019」(中期経営計画)を策定し、新たなグローバル事業組織の下で、新規市場の開拓と既存事業の強化に取り組みつつ、それを支える社内のグローバルIT基盤を確立するために大型設備投資を実行してまいりました。しかし、そのグローバル基幹業務システムについては、導入開始当初において前提としていた売上成長規模を見込めなくなったことから、現在の成長規模に見合うよう当連結会計年度において導入規模・範囲の見直しを行い、これらの投資に係る無形固定資産について減損損失(4,223,720千円)を計上しました。
この結果、当連結会計年度の業績は、売上高が71,313,987千円(前年同期比8.1%減)となり、営業損失は1,171,194千円(前年同期は営業利益3,664,362千円)、経常損失は870,228千円(前年同期は経常利益3,776,509千円)、親会社株主に帰属する当期純損失は5,534,484千円(前年同期は親会社株主に帰属する当期純利益2,309,514千円)となりました。
セグメントの業績は、次のとおりであります。
① ブランド製品事業
<クリエイティブビジネス>クリエイティブビジネスにおいては、業界にイノベーションを起こして市場でのリーダーシップをさらに強化するために、次世代デジタルペン技術の開発と市場投入に取り組みました。製品ミックスの変化や新モデルへの移行時期の遅れにより、売上は前年同期から7%程度下回ったものの、新興国の急成長などが貢献し、出荷台数ベースでは5%程度成長しました。
○ ペンタブレット製品
「Intuos Pro(インテュオス プロ)」は、第4四半期に次世代デジタルペン技術を搭載した新モデルを投入するなど製品競争力の強化を図りました。通期では、売上は前年同期から低調に推移した一方で、特にアジア圏の好調に支えられ、出荷台数ベースでは前年同期を僅かに上回りました。「Intuos」は、部品供給の停滞や円高の影響などにより売上は低調に推移したものの、9月に発表した「Intuos 3D」の販売が売上に貢献しました。さらに、新興地域向けの低価格エントリーモデル「One by Wacom(ワン バイ ワコム)」の出荷台数が前年同期から4割程度増加しており、新規ユーザーの獲得に貢献しました。
○ モバイル製品
高機能クリエイティブタブレット製品「Cintiq Companion(シンティック コンパニオン)2」は、競争環境の変化に加え、製品サイクルの移行期に入り苦戦しました。一方で、10月に発表した「Wacom MobileStudio Pro(ワコム モバイルスタジオ プロ)」は、次世代デジタルペン技術、3D対応、カラーマネジメント機能などを強化したことにより、市場から高い評価を受け、販売回復に貢献しました。これらの結果、モバイル製品全体では、売上は前年同期を僅かに下回る結果となったものの、出荷台数は堅調に推移しました。
○ ディスプレイ製品
プロフェッショナル向け液晶ペンタブレット製品「Cintiq(シンティック) 13HD」、「Cintiq 22HD」及び「Cintiq 22HD touch」の米州での販売が振るわなかったことや円高の影響により、売上は、前年同期から低調に推移しました。12月に販売を開始した、次世代デジタルペン技術に対応した液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 13インチ」が順調な滑り出しを見せ、特にアジアや欧州での販売が順調に推移した一方で、「Wacom Cintiq Pro 16インチ」の販売開始が2017年4月にずれ込んだこともあり、ディスプレイ製品全体の出荷台数は、前年同期から小幅の増加にとどまりました。
<コンシューマビジネス>旧製品の「Bamboo Spark(バンブー スパーク)」やiPad向けスタイラスペン製品全体の不振により、コンシューマビジネス全体の売上、出荷台数ともに前年同期を大きく下回りました。一方で、9月には、次世代デジタル文具「Bamboo Slate(バンブー スレート)」と「Bamboo Folio(バンブー フォリオ)」、1月には、「Bamboo Folio small(バンブー フォリオ スモール)」と第3世代のスタイラスペン「Bamboo Fineline(バンブー ファインライン)」をそれぞれ発表し、特にアジアを中心に販売回復の兆しを見せました。
<ビジネスソリューション>液晶サインタブレット製品「STU(エスティーユー)」シリーズは、デジタルサインやセキュリティ分野での利用が進み、新興地域において前年同期から大幅に売上を伸ばしたものの、特に欧州での競争関係の変化や案件長期化に円高の影響が加わり、全体では売上、出荷台数ともに低調に推移しました。また、液晶ペンタブレット製品「DT(ディーティー)」シリーズは、円高の影響などにより売上、出荷台数ともに前年同期を大きく下回りました。この結果、ビジネスソリューション全体の売上は、前年同期を大きく下回りました。
この結果、売上高は43,873,985千円(前年同期比10.3%減)、営業利益は5,684,510千円(同29.3%減)となりました。
② テクノロジーソリューション事業
<スマートフォン向けペン・センサーシステム>Galaxy Note7の品質問題による生産中止の影響を大きく受けました。また、円高の影響もあり、売上は、前年同期を大きく下回りました。
<タブレット向けペン・センサーシステム>アクティブES方式デジタルペン技術は、タブレットメーカー各社から高い評価を得て採用が拡大しております。特に、レノボ社、ヒューレット・パッカード社、東芝社、デル社向け出荷が好調に推移したことで、売上は、前年同期を大きく上回りました。また、EMR方式(電磁誘導方式)ペン製品も、グーグル社のChrome対応製品向けに採用されるなど新規分野への広がりを見せました。
<ノートPC向けペン・センサーシステム>キーボード着脱型タブレットの増加によりデジタルペンの需要がノートPCからタブレットにシフトしたことで、売上は前年同期から大幅に減少しました。
この結果、売上高は26,757,642千円(前年同期比4.3%減)、営業利益は2,443,353千円(同21.9%減)となりました。
③ その他
エンジニアリングソリューションにおいて、9月に「ECAD(イーキャド) DCX 2017」を発表しました。売上は前年同期から若干の増加となりました。また、同時期に製品ライフサイクルを見直したことで売上原価が増加しました。
この結果、売上高は682,360千円(前年同期比3.0%増)、営業損失は32,420千円(前年同期は営業利益35,767千円)となりました。
(2)キャッシュ・フロー
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は、前連結会計年度末と比べ、160,103千円減少(前年同期は2,321,588千円減少)し、14,204,928千円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果得られた資金は、121,928千円(前年同期は2,009,164千円の収入)となりました。主な増加は、減価償却費2,572,795千円、減損損失4,223,720千円、仕入債務の増加額1,494,252千円及びその他1,002,444千円であり、主な減少は、税金等調整前当期純損失5,690,859千円、売上債権の増加額1,471,111千円及びたな卸資産の増加額1,790,974千円です。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は、3,479,898千円(前年同期は4,878,124千円の使用)となりました。主な内訳は、工具、器具及び備品等の有形固定資産の取得による支出1,400,125千円、グローバルITインフラ等のソフトウエアの取得による支出2,567,092千円です。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果得られた資金は、3,298,702千円(前年同期は1,209,282千円の収入)となりました。主な内訳は、短期借入金の返済による支出1,000,000千円、長期借入れによる収入8,000,000千円、自己株式の取得による支出753,330千円及び配当金の支払額2,958,250千円です。