有価証券報告書-第33期(平成27年4月1日-平成28年3月31日)

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2016/06/23 14:13
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業績等の概要

(1)業績
当連結会計年度(平成27年4月1日から平成28年3月31日まで)における当社グループを取り巻く事業環境は、世界経済が第3四半期までは先進国を中心に緩やかな回復基調を維持していましたが、中国など新興国での景気減速が強まる中で、欧州での難民問題の深刻化、さらに原油価格の低迷などから、第4四半期に入り世界的な景気の先行き不透明感が急速に広がりました。主要通貨に対する円相場は、前年同期と比べて対米ドルでは円安で推移してきましたが、第4四半期に入り急速に円高へと反転しました。また、アジア通貨に対しても第3四半期に入り円高へと反転し、対ユーロでは年度を通して円高で推移しました。IT分野では、モバイル、クラウド、ソーシャルネットワークなどが社会に浸透することで、業界の構造変化が進むとともに、当社製品を取り巻く市場環境も急激に変化しています。
ブランド製品事業のクリエイティブビジネス分野では、映画やコミック、ゲームといったデジタルコンテンツ制作が、アジアや南米などの新興国で急速な拡大を見せています。また、先進国では、3Dコンテンツへの関心の高まりとともに、従来の2Dから3Dへとアプリケーションの利用移行が進み、その入力デバイスとして直感的な作業に優位性を持つデジタルペンに注目が集まっています。一方、デザイン制作現場では、従来のデスクトップから、場所を選ばないクラウドをベースとしたモバイル環境が広がるとともに、作業効率を高めるカラーマネジメント機能の進化も加速しています。コンシューマビジネス分野では、タブレットに簡単に描画やメモ入力できるスタイラスペン市場が広がりを見せるとともに、紙に手書きしたアイデアをクラウドから編集・保存・検索できる、アナログとデジタルを融合したデジタル文房具が新たな市場を開拓しています。ビジネスソリューション分野においては、医療、教育、金融など幅広い分野でペーパーレス化や電子サイン認証へのニーズが高まっており、デジタルワークフローによるコスト抑制効果や情報セキュリティ向上の観点から、液晶サインタブレットの導入が進んでいます。
テクノロジーソリューション事業の分野では、スマートフォン市場において中低位機種が新興国を中心に急速に成長する一方、上位機種の成長が緩やかになったことから、業界内での競争激化と構造変化が生じています。タブレット市場は、アンドロイドOS搭載モデルの販売低迷などから成長鈍化が見られました。また、ノートPC市場も、買い替えサイクルの長期化やキーボード着脱型タブレットモデルへの需要シフトなどから低調に推移しました。そのような環境の中で、ビジネスや教育用途で、読むだけでなく書くことを可能とするデジタルペン技術へのニーズが、タブレット市場を中心に広がりを見せています。また、幅広いユーザー層を持つ文房具市場においても、デジタル化へ移行する動きが活発化してきており、デジタルペンを使ったソリューションへのニーズが着実に高まっています。
このような急速に変化する事業環境の下、当社はグローバルリーダーとしての地位をより一層強固にするために、各事業での製品ラインの拡充と将来の成長基盤構築のための投資の強化に取り組んでいます。
ブランド製品事業においては、プロフェッショナルからコンシューマーまでの幅広いユーザーのニーズに応えるべく、クラウドをベースとした製品ライン拡充のための製品開発を進めました。テクノロジーソリューション事業においては、アクティブES(Active Electrostatic)方式デジタルペンの既存大手タブレットメーカーへの量産拡大を進めるとともに、新たな顧客獲得にも取り組み、中国大手タブレットメーカーであるファーウェイ社への供給も新規に開始しました。
さらに、顧客基盤のグローバル化やe-コマース(電子商取引)化が急速に進む中、柔軟かつ迅速な生産計画を可能にするサプライチェーンの再構築とIT基盤の整備に長期的かつグローバルな観点から取り組んでいます。あわせて、平成27年4月より顧客カテゴリー別のグローバルビジネスユニット(事業部)の新組織体制に移行し、事業戦略の統合とグローバル規模での事業成長加速に取り組みました。
デジタルインク技術の領域では、OSの違いを越えたデジタルインクの標準化を通じてデジタルインクの交換や共有を可能にする「WILL(Wacom Ink Layer Language)」のパートナー企業の拡大に努めました。その一環として、スマートフォンやタブレットなどに手書き入力したデジタルインクを活用するアプリケーションソフト開発イベント「Inkathon(インカソン)」を開催し、デジタル・ステーショナリー・コンソーシアムの設立に向けた準備を進めました。デジタルペン技術の領域では、マイクロソフト社からウィンドウズ対応のペン技術に関するライセンス供与を受けることを平成28年3月に合意し、今後当社は、独自技術のアクティブES 方式とMicrosoft Penの両技術を1本のペンに搭載していくことが可能となりました。このように、当社は、多くのパートナー企業との協調を前提とするオープンパートナーシップポリシーの下、ペンとインク両方のデジタル技術のイノベーションを通じて、世界中の多くのお客様が様々な用途でクリエイティビティ(創造性)を発揮できるよう取り組んでまいります。
また、当社は、急激な経営環境の変化を踏まえて、新規市場の開拓と既存事業の更なる強化に取り組むことなどにより事業成長を図る「ワコム戦略経営計画 SBP-2019」(平成28年3月期から平成31年3月期まで)を平成27年4月に発表いたしました。同計画に沿って、平成31年3月期に連結売上高1,200億円、連結売上高営業利益率12%、連結株主資本利益率20%以上の達成を目標として、更なる企業価値向上を目指してまいります。
これらの結果、当連結会計年度の業績は売上高が77,568,014千円(前年同期比4.0%増)となり、営業利益は3,664,362千円(同40.3%減)、経常利益は3,776,509千円(同37.7%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は2,309,514千円(同33.5%減)となりました。
セグメントの業績は、次のとおりであります。
① ブランド製品事業
クリエイティブビジネスやコンシューマビジネスにおける新製品の投入効果や中国市場の継続的拡大、為替の影響などで、売上高は前年同期を順調に上回りました。
<クリエイティブビジネス>○ ペンタブレット製品
「Intuos(インテュオス)」の中国での売上が第2四半期までに大きく伸長しました。また、平成27年9月に発表した新製品が、よりきめ細かく顧客セグメントのニーズに対応した製品ラインアップで高い評価を受け、順調に推移しました。これらにより、売上高は前年同期を上回りました。
○ モバイル製品
前期末に発表した、高機能クリエイティブタブレット「Cintiq Companion(シンティックコンパニオン)2」が、引き続き市場で好感され、特に平成27年5月に発表した最上位モデルが売上に大きく貢献しました。さらに、自社のWebサイトでの限定販売から特定量販店に販売網を拡大したことが売上に寄与しました。一方で下期に入り、競争環境の変化や製品ライフサイクルの移行期による需要の減少が見られました。これらにより、モバイル製品全体の売上は、前年同期から順調に伸長しました。
○ ディスプレイ製品
前期末に発表した、高精細な大型ディスプレイとカラーマネジメント機能を備え色再現力に優れたフラッグシップモデル「Cintiq(シンティック) 27QHD」及び「Cintiq 27QHD touch」が順調に推移し、3D制作ツールとしても新たな市場を開拓しました。さらに、大型ディスプレイと操作性を兼ね備えた「Cintiq 22HD」、省スペースでありながら十分な描画エリアを確保した「Cintiq 13HD touch」など、すべての製品ラインアップで売上を伸ばしたことから、売上は前年同期を上回りました。
<コンシューマビジネス>デジタル文房具への新たな取り組みとの一環として平成27年9月に発表した、手書きノートをデジタル化し、クラウドで共有できる新製品「Bamboo Spark(バンブースパーク)」の販売が順調に推移しました。一方で、スタイラスペン製品は、同9月に発表した「Bamboo Fineline(バンブーファインライン)2」が好評を得たものの、一部のアジア・オセアニア地域を除いて苦戦しました。これらの結果、コンシューマビジネス全体の売上高は、前年同期を大きく上回りました。
<ビジネスソリューション>前年同期に大型案件があった反動や対ユーロでの円高影響などにより欧州での売上高が大幅に減少しました。さらに、世界的な景気の先行き不透明感が広がる中で、複数の顧客企業での設備投資案件の長期化が見られたことなどから、ビジネスソリューション全体での売上高は、前年同期を下回る結果となりました。
<地域別>米州では、ディスプレイ製品を中心に販売が伸び、さらに円安の恩恵を受けたことで、売上高は前年同期から順調に伸長しましたが、現地通貨ベースでは、ペンタブレット製品の売上高が減少したことなどで、前年同期を僅かに上回る程度の伸びとなりました。欧州では、クリエイティブビジネスの販売が堅調に推移し、また、コンシューマビジネスの「Bamboo Spark」の販売も順調に推移したことで、ビジネスソリューションの売上高が前年同期を下回ったものの、全体としては前年同期並みの売上高となりました。日本国内では、クリエイティブビジネスが順調に売上高を伸ばし、ビジネスソリューションの販売も順調だったため、コンシューマビジネスの売上高が前年同期を下回ったものの、全体の売上高では前年同期から順調に伸長しました。アジア・オセアニア地域は、デジタルコンテンツ制作が急速に拡大していることなどから、中国を中心にすべての地域で売上高が前年同期を上回りました。
この結果、売上高は48,931,153千円(前年同期比12.2%増)、営業利益は8,035,559千円(同34.7%増)となりました。
※ クリエイティブビジネス:
ペンタブレット製品 ……………………………………Intuosシリーズ
(旧Bambooペンタブレットを含む。)
モバイル製品 ……………………………………………Cintiq Companion、Intuos Creative Stylus
ディスプレイ製品 ………………………………………Cintiqシリーズ
コンシューマビジネス:
スタイラスペン製品、タッチパッド製品、…………Bambooシリーズ
デジタル文房具製品
ビジネスソリューション:
液晶サインタブレット製品 ……………………………STUシリーズ
液晶ペンタブレット製品 ………………………………DTシリーズ

② テクノロジーソリューション事業
タブレット向けペン・センサーシステムの出荷が順調に推移し、デジタル文房具市場など新規分野の開拓にも努めましたが、ノートPC向けペン・センサーシステムの売上高が大きく減少したことで、売上高は前年同期を小幅に下回りました。
<スマートフォン向けペン・センサーシステム>ペンカートリッジ化による自動生産や新規顧客の獲得に取り組んだ中、サムスン電子のGalaxy Note5向けの量産出荷が前モデル向けを下回って推移したことで、売上高は前年同期と比べて低調に推移しました。
<タブレット向けペン・センサーシステム>教育タブレット案件のトルコ共和国政府向けの量産出荷が売上拡大に大きく貢献したことや、当社独自の新技術であるアクティブES方式デジタルペン技術が、米系大手タブレットメーカーであるHP社やデル社、中国大手のレノボ社など既存顧客での評価を得て量産化が進んだことや、新規顧客の獲得にも取り組み、中国大手のファーウェイ社への供給も新規に開始したことなどで、売上高は前年同期を上回りました。
<ノートPC向けペン・センサーシステム>キーボード着脱型タブレットの増加によりデジタルペンの需要がノートPCからタブレットにシフトしたことやノートPC市場全体の在庫調整などから、売上高は前年同期から大幅に減少しました。
これらの結果、売上高は27,974,243千円(前年同期比7.6%減)、営業利益は3,130,082千円(同32.6%減)となりました。
③ その他
新製品「ECAD dio(イーキャドディオ)DCX R2」や「ECAD dio 2016」の出荷があった一方、マイクロソフト社がWindows XPのサポートを終了したことに伴う買い替え需要が落ち着いたことで、売上高は前年同期を僅かに上回る程度となりました。
これらの結果、売上高は662,618千円(前年同期比1.2%増)、営業利益は35,767千円(同35.1%減)となりました。
※ グローバル組織機構改革に伴い、事業及び製品区分は以下のとおりとなっております。
前期当期名称変更
ブランド製品事業ブランド製品事業
クリエイティブビジネスクリエイティブビジネス
コンシューマビジネスコンシューマビジネス
特定業務分野向けビジネスビジネスソリューション
コンポーネント事業テクノロジーソリューション事業
ソフトウェア事業エンジニアリングソリューション

(2)キャッシュ・フロー
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は、前連結会計年度末と比べ、2,321,588千円減少(前年同期は1,292,680千円増加)し、14,365,031千円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果得られた資金は、2,009,164千円(前年同期は6,782,233千円の収入)となりました。主な増加は、税金等調整前当期純利益3,597,489千円、減価償却費2,003,718千円及び賞与引当金の増加額422,113千円であり、主な減少は、仕入債務の減少額2,780,336千円及び法人税等の支払額1,634,978千円です。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は、4,878,124千円(前年同期は3,277,764千円の使用)となりました。主な内訳は、工具、器具及び備品等の有形固定資産の取得による支出1,166,777千円、グローバルITインフラ等のソフトウエアの取得による支出3,924,963千円です。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果得られた資金は、1,209,282千円(前年同期は2,849,518千円の使用)となりました。主な内訳は、短期借入れによる収入3,400,000千円(純額)、長期借入れによる収入2,000,000千円、自己株式の取得による支出1,244,532千円及び配当金の支払額2,991,749千円です。