半期報告書-第85期(令和4年1月1日-令和4年12月31日)

【提出】
2022/08/29 13:59
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【項目】
96項目

研究開発活動

当社グループは、持続的成長と新たなグループブランドの確立に向けて、お客様満足と収益力の向上に貢献する技術開発はもとより、未来のサステナブル社会の実現及び社会課題解決を先導する新たなソリューションの創出を目指して研究開発に取り組んでいる。その際、社会から求められる技術の異分野領域への拡大、柔軟なアイデアの獲得を通じた技術力の向上について、オープンイノベーションの活用を推進している。また世界の技術関連機関と連携し、協業するための「竹中オープンラボ」の構築を図っている。
重点的に取り組むべき領域として、建設基盤技術、環境・社会、未来・先端の3つに大別し、全社的に研究開発活動を遂行している
当中間連結会計期間における研究開発に要した費用の総額は40億円余であり、このうち当社が取り組んだ主な技術開発事例は次のとおりである。
(建設事業)
(1)建設基盤技術領域
①新しい防災ツール「免震総合モニタリングシステム」を開発
免震建物を総合的にモニタリングし、日常から地震後までより一層の安全・安心を提供する「免震総合モニタリングシステム」を開発した。地震後直ちに建物の健全度の目安が把握できるメニュー「建物健全度推定支援」に加え、当社開発の免震建物用の2つの機能、日常の維持管理点検に活用する「免震装置変形遠隔監視」、地震後の免震層点検要否を表示する「免震層モニタリング」を組合せ、さらに免震層の状況を目視確認する「画像監視」を合わせた4つのメニューを統合した。免震建物を採用するお客様のみならず、防災対策ニーズをお持ちのお客様全般に本システムを幅広く展開し、地震後の事業継続、都市のレジリエンス向上に貢献していく。
②NEDOグリーンイノベーション基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」にコンソーシアムとして提案し採択
鹿島建設㈱、デンカ㈱と共同で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から公募された「グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」のコンクリート分野において、3社を実施予定先とする民間企業 44社、10大学、1研究機関によるコンソーシアムを構成して提案を行い採択された。本事業を通じて、高いレベルで汎用性のあるカーボンネガティブコンクリートを実現するとともに、施工技術の開発、品質評価技術を確立することで、実社会への本格的な普及を目指す。併せて、本事業の技術開発で取り組む積極的なコンクリートへのCO2固定化により、脱炭素から「活炭素」へのステージ移行をさらに推し進め、温室効果ガス削減という社会課題解決に貢献していく。
③透光性と断熱性を兼ね備えるエアロゲルガラスパネルを開発・適用
新光硝子工業㈱と共同で、光を通し断熱性の高い半透明のエアロゲル素材を窓部分に適用することで、空調・照明エネルギーを削減する、エアロゲルガラスパネルを開発(特許出願済)し、当社の北海道地区FMセンターに初適用した。本パネルの適用により、ブラインド付き高性能ガラスを採用した場合のオフィスゾーンと比較して10~20%のエネルギー削減を確認した。本パネルは、通常のガラスと同様の方法で取り付けることが可能なことから、パネルの厚さを一般流通材と合わせることで、市場への訴求を目指す。
(2)環境・社会領域
①亜寒帯気候に適合した木造木質中規模ウェルネスオフィスを実現
当社の北海道地区FMセンターの建て替えにあたり、脱炭素社会を目指した非住宅分野の建築における木材利用を推進することを目的とし、木造木質中規模ウェルネスオフィスを実現した。北海道の亜寒帯気候に適合した道内トップクラスの環境性能を持つことに加え、働く人の健康増進や生産性向上にも貢献する。木造木質建物としたことにより、一般的な鉄骨造建物と比べCO2の発生を70%低減した。また、執務スペースを「亜寒帯気候の縁側」で囲む入れ子構成とし、外壁には半透明で断熱性能の高い素材を採用し多くの日射を取得することで、冬季の暖房エネルギーを抑え、環境性能と快適性を両立したオフィスとなっている。環境認証として「CASBEEスマートウェルネスオフィス」の最高位となる「Sランク」と「建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)」の「★★★★★(ZEB Ready)」を取得した。
②低炭素型コンクリート「ECMコンクリート®」のCO2排出削減により「J-クレジット制度」の認証を取得
高炉スラグを多く含む低炭素型コンクリート「ECMコンクリート®」を適用したオフィスビルにおいて、国(経済産業省、環境省、農林水産省)が運営する「J-クレジット制度」を活用し、コンクリートによるCO2排出削減量を売買などが可能なクレジットとして活用できる認証を受けた。今回クレジットの認証を取得したのは、日鉄高炉セメント㈱の本社ビルであり、地下躯体部分をCO2削減に資する「ECMコンクリート」に置き換えたことによる、CO2排出削減量64トン分について、クレジットを取得した。
③東京大学社会連携講座「サステナブルなまちの創生」を開設
サステナブルなまちづくりをテーマとする社会的課題の解決と産業の発展に寄与する共同研究を目的とした社会連携講座を開設した。当社の技術・ノウハウに裏付けられた豊富なまちづくりの実績と、東京大学の卓越した学術的知見・技術というお互いの強みを連携し、技術分野における相互の知的・人的・物的資源の交流や、共同研究開発活動の推進による新しい価値の創造を図る。連携を通じて、省エネ推進や再生可能エネルギー活用による脱炭素化、災害リスクに対するレジリエンス強化、サーキュラーエコノミーによる農村・郊外・都市の連携強化を図ることで、まちづくりのあるべき姿を描くとともに、その実現に向けた技術・事業・サービスの開発に取り組んでいく。
④魅力分析ツール「ソーシャルヒートマップ®」が、渋谷区のシティダッシュボードに初採用
人々が感じたことを自由に投稿するSNSなどのつぶやきから、まちに対する「ひとの想い」を把握し、その想いをまちづくりに活かすためのデータ集積と分析を行うツールである「ソーシャルヒートマップ®」が渋谷区のシティダッシュボード(渋谷区が基本構想に掲げる7つのビジョンのもと、区の置かれている現状を、グラフや地図等で可視化するツール)に初採用された。「ひとの想い」を反映したまちの特徴・特性を定量的に把握できることが、渋谷区内における「アメニティ性や生活の質」の向上につながると期待され採用された。今後はポップアップストア(期間限定店舗)などのイベントにおける反響分析・似た属性ごとのトレンドを掴む商圏分析・エリア間でのまちの特徴・特性に関する比較分析などを積極的に展開していく。
⑤社会のあるべき姿を提案する多世代居住型健康スマートタウン「Suita サスティナブル・スマートタウン(SST)」がまちびらき
当社が、健康まちづくりコードの策定支援とそれに基づく空間創出のアドバイス、街のエネルギーレジリエンス向上のための全体設計支援を担当した、「Suita SST(大阪府吹田市)」は、ファミリー分譲マンション、シニア分譲マンション、単身者共同住宅、ウェルネス複合施設(サービス付き高齢者向け住宅、認知症高齢者グループホーム、在宅介護施設、学習塾、認可保育所)、交流公園、複合商業施設で構成される。まちづくりを通し、街全体の消費電力を実質再生可能エネルギー100%で賄う日本初の「再エネ100タウン」を実現し、特にカーボンニュートラルが当たり前の社会や、誰もが幸せに生きられるウェルビーイング社会の実現を目指す。
⑥中高層木造建築物等の推進による木材利用拡大を目指して農林水産省と「建築物木材利用促進協定」を締結
2021年10月1日の「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」施行に伴う制度に基づき、当社は農林水産省と「建築物木材利用促進協定」を締結した。事業者と国又は地方公共団体が、建築物における木材利用促進を図りながら、脱炭素社会・持続可能な社会の実現を目指す協定であり、当社は本協定を通じて、木のイノベーションによる国産材利用の拡大、森林資源と地域経済が持続的に循環する「森林グランドサイクル®」の構築を進めていく。
(3)未来・先端領域
①チャットアプリ「direct(ダイレクト)」上に「位置認識プラットフォーム」で取得した位置情報を通知するサービスを開発
㈱L is Bと共同で、チャットアプリ「direct」上に「位置認識プラットフォーム」で取得した位置情報を通知するサービスを開発した。当社が開発した「位置プラス®」シリーズの「位置認識プラットフォーム」で取得した建設現場内の位置情報を、㈱L is Bが展開する「direct」に連携して活用することで、建設現場内における業務指示に位置情報を追加して確実に伝達し、指示伝達に伴う手間を削減する。当社作業所職員へのヒアリング結果によれば、従来のチャットアプリでの業務指示と比較すると、本機能によって60分/日の業務指示時間削減が期待できる。
②「位置プラス®」シリーズの業務アプリ「高車管理」と㈱リバスタの提供する作業間連絡調整サービス「Buildee」との連携機能の開発に着手
当社が開発する「位置プラス®」シリーズは、ビーコンなどのIoTデバイスで建設現場内の人や資機材の位置情報をリアルタイムに把握する位置認識プラットフォームと建設現場の管理業務を効率化する業務アプリから成るサービスで、比較的大規模の建設現場で利用されており、業務アプリ「高車管理」は高所作業車の管理に特化している。一方、㈱リバスタの「Buildee」は建設現場の施工管理の基本サービスであり、特に作業打合せ・作業安全管理・重機等の予定調整・巡視・実績報告等を効率化する「Buildee調整会議」は、元請会社から協力会社まで様々な規模の建設現場で幅広く利用されている。両者の連携機能を開発することで、幅広い建設現場向けに「位置プラス」シリーズの普及を図るとともに、両サービスを利用する建設現場の更なる生産性向上に寄与することを目指す。
③建設業界初となるドップラーライダーを用いた風況データソリューションの有効性を確認
三菱電機㈱、㈱アクティオと共同で、ドップラーライダーで取得する風速や風向などの3次元の風況データを用いた建設業界向けソリューションの開発を目指し、実証実験を行い、建設現場の課題解決に向けた有効性を確認した。3社で開発を進めるこのソリューションは、建設現場特有の風況を精細に把握し、ソフトウエアサービスを通じて、顕在的・潜在的リスクを直感的に分かりやすく作業現場に伝達することが可能になる。タワークレーンや工事用エレベーター等の安全性と生産性をさらに向上させるとともに、建設業界の DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速、現場作業員の安全のさらなる向上を目指す。
④位置プラス®「高車管理」のキーレスシステムを開発
㈱東海理化、㈱東海理化クリエイト、㈱レンタルのニッケンと共同で、位置プラス®「高車管理」のキーレスシステムを開発した。位置プラス®「高車管理」は、当社が開発した高所作業車の位置把握や予約等を行う業務アプリで、他社も含めて幅広く利用されている。今回さらに当アプリの予約機能と㈱東海理化のデジタルキーを連動することで、高所作業車の鍵のスマートフォンアプリでの解錠が可能となり、元請会社・協力会社の鍵管理の手間を大幅に削減する。大阪市内の建設現場にて実証試験を完了し、現在本システムの実用化に向け供給体制を構築した。本システムは、国内の建設現場で運用されている22種類の高所作業車に取付け可能である。
⑤BIMとiPadを用いた設備施工管理記録の作成・管理手法を開発
㈱YSLソリューションと共同で、BIMとiPadを用いて設備工事の各種検査・試験の記録作成を行いデジタルで一元管理をする新しい設備施工管理手法を開発した。iPad上でBIMモデルを確認しながら、スリーブ検査・区画貫通記録・配管圧力試験・配管排水試験・その他汎用記録の各種検査・試験を実施し、その記録を自動作成する。また、これら複数の異なる検査・試験の記録を、BIMモデルと紐づけてデジタルデータとして一元的に管理することで、記録のペーパーレス管理、進捗管理が可能となる。これらにより、当社ならびに設備協力会社の書類作成の省力化と、BIMとデジタルデータに基づく確実な施工エビデンスの記録・管理を実現し、生産性向上を図るとともに建設現場の働き方改革の推進、建設業の魅力向上を目指す。
また、子会社における研究開発の主なものは次のとおりである。
㈱竹中土木施工の効率化・自動化技術デジタルサイネージサービス「BANKENサイネージ」の試験運用を開始

(開発事業及びその他)
研究開発活動は特段行われていない。