有価証券報告書-第167期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/25 11:00
【資料】
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【項目】
137項目

事業等のリスク

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
(1) 取材報道
取材報道は日刊新聞を発行する当社の基幹業務であり、記事や論説の公平性を担保するために様々な対策を取っている。編集権は取締役会に帰属するが、日常的な業務は編集部門に委任し、経営陣はその内容に直接的な介入をしないことを原則としている。編集部門とは独立した読者代表の立場で、社外から招いたパブリックエディター(PE)らが報道内容をチェックする制度を運用し、さらに社外の声を生かすためPEを中心とする「あすへの報道審議会」を定期的に開催している。また、国民の知る権利に奉仕する報道の自由を守ると同時に、報道による権利侵害事案の救済を図るため、第三者機関の「報道と人権委員会」を設け、社外委員による調査と審理を行っている。それでも、重大な誤報や取材方法の逸脱、取材先との癒着などのリスクが顕在化した場合、当社及び本紙に対する信用を毀損し、業績に影響を及ぼす可能性がある。
(2) インサイダー取引
当社は取材などを通じて企業の未公表事項に接する機会が少なくないことから、全従業員を対象に有価証券取引に関する社内ルールを施行し、インサイダー情報に触れる機会の多い取材・編集部門などには上乗せルールを設けている。定期的に全従業員にインサイダー取引の禁止を周知徹底しているが、他の報道機関ではインサイダー取引の摘発を受けた実例があり、当社でもこうしたリスクが顕在化した場合、業績や信用に影響を及ぼす可能性がある。
(3) 外部要因による新聞発行障害
大規模な地震、台風などの自然災害や新型コロナウイルスなど感染症の大流行、テロ、長時間停電、重大事故等が発生した場合、従業員や印刷工場などの生産設備が被害を受けたり、生産諸資材(紙・インキ等)の調達難が起きたりするおそれがある。こうした事態に備え、当社では、新聞発行とデジタル発信を継続するための対応マニュアルや事業継続計画(BCP)を策定し、毎年、全社BCP訓練を実施している。また、事業所ごとに年1回以上、防災訓練を実施し、従業員の安全確保を図っている。ただ、被害の程度によっては、取材・編集、朝夕刊の製作、印刷、輸送、配達などの業務に影響を及ぼす可能性がある。
(4) ITシステム
記事の出稿や編集などから製版、印刷、発送などに至る新聞製作のインフラを担うコンピュータシステム(ATOMシステム)は、当社の経営情報の収集、分析、提供も行う基幹システムである。また、ニュースサイトの朝日新聞デジタルを中心にインターネットを通じてニュースや情報を配信している。主要システムは東京以外にも予備システムと監視要員を配置し、トラブルに対応する体制をとっているが、広範囲かつ長時間にわたるシステムダウンが発生すると、業績や信用に影響を及ぼす可能性がある。
(5) 経営環境
活字離れや媒体価値の低下、消費税が10%に増税されたことに伴う消費行動の変化などの市場変化リスクは当社の販売、広告などの収入に影響を及ぼす可能性がある。
(6) 法的規制
日本の新聞が同一紙であれば全国同一価格で、ほぼどこでも宅配される仕組みは国民の知る権利を守る上で欠かせない。この仕組みを担保しているのが、独占禁止法で認められている再販売価格維持行為や地域・読者によって異なる定価をつけたり、値引きしたりすることを禁じた特殊指定である。公正取引委員会は競争政策促進の立場から制度の見直しを検討したが、再販については01年3月に当面の存続を決め、特殊指定についても06年5月、廃止の当面見合わせを決定した。今後再び見直されて制度が変わることがあれば、業績に影響を及ぼす可能性がある。また、労働法制の見直しなどにより、労働者の確保や人件費に影響を及ぼす可能性がある。
(7) 情報流出関連
社内の機密情報が外部に漏れたり、個人情報の適切な管理を怠ったりすると、報道機関としての信頼を損なうことになる。意図的な機密情報の漏洩が明らかになった場合の処罰方針の周知や、17年5月の改正個人情報保護法全面施行に基づく社内規定の整備などにより情報管理の徹底を図っているが、これに反する問題が起きた場合、当社の信用失墜を招き、業績に影響を及ぼす可能性がある。
(8) ソーシャルメディア
当社は編集部門を中心に、取材・報道分野でソーシャルメディアの積極活用を進めており、職務で利用する際に遵守すべき基本指針として、「ソーシャルメディアの職務利用ガイドライン」を設けているほか、編集部門向けにはさらに、「朝日新聞社編集部門ソーシャルメディア・ガイドライン」を設けている。また、職務外の私的なソーシャルメディアの利用でも、すべての従業員を対象に、「ソーシャルメディアの私的利用ガイドライン」を設け、報道機関で働く自覚を持ち、個人の責任で適切に私的利用するよう求めているが、利用者の発言が時として意図しない形で流布・拡散する可能性や、利用者自身による不用意な発信が生じた場合、信用や業績に影響を及ぼす可能性がある。
(9) 労務リスク
2019年4月から「働き方改革関連法」が施行され、時間外労働の上限規制、年次有給休暇の取得義務化、正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止等が導入された。当社は長時間労働の是正や休日取得の促進等、法令順守に取り組んでいるが、万一、法令違反が起きた場合、信用や業績に影響を及ぼす可能性がある。
(10) 投資リスク
新たな事業展開及び既存事業の拡充・強化等を図るため、新会社の設立や既存の会社への投資等を行っている。これらの投資については投資効果とリスクを定性的かつ定量的に把握し、社内規定に基づく稟議を経るなど慎重を期しているが、投資先企業の企業価値が低下した場合には、経営成績及び財政状態に影響を与える可能性がある。
また、不動産事業に関する投資については、当社の財務状況や景気・需給の将来予測などを踏まえて慎重に判断していくが、投資額の増加や途中での計画変更、完成時期の遅延、テナント募集の不振などのリスクがあり、業績に影響を及ぼす可能性がある。