有価証券報告書-第163期(平成27年4月1日-平成28年3月31日)

【提出】
2016/06/27 11:02
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【項目】
111項目

事業等のリスク

当社グループは業績や財務状況、社会的信用に影響を及ぼす可能性のある主なリスクについて、以下の通り、識別した上で、発生の回避・低減、発生した場合の影響の低減などのため、種々の対応に努めている。なお、以下の内容は当社グループにかかわるすべてのリスクを網羅したものではない。また、将来に関する事項が含まれているが、当連結会計年度末現在において判断したものである。
(1) 取材報道
取材報道は日刊新聞を発行する当社の基幹業務であり、重大な誤報や取材方法の逸脱、取材先との癒着などのリスクが顕在化した場合、当社及び朝日新聞に対する信用を毀損し、業績に影響を及ぼす可能性がある。2014年8月以降、過去の慰安婦報道や「吉田調書」に関する一部記事を取り消したことで、こうしたリスクが顕在化した。当社及び朝日新聞に対する信用を毀損し、業績に影響を及ぼす結果となった。当社は15年1月に「信頼回復と再生のための行動計画」を策定し、再発防止に向けた取り組みに着手した。15年4月にはパブリックエディター(PE)制度を導入し、社外から3人のPEを迎え、社外の声や評価を背景に、編集部門とは独立した立場で報道内容についてチェックすることにした。同時に、広報部の増強や編集部門の危機管理担当者の増員など、リスク管理態勢を強化した。また、編集権は取締役会に帰属するが、日常的な業務は編集部門に委任しており、経営陣は記事や論説の公平性を担保するため、その内容に直接的な介入をしないことを原則とする。関与は、経営に重大な影響を及ぼす事態であると判断した場合に限ることを徹底し、その際には、複数の社外有識者から助言を受けることとした。このための常設組織「編集権に関する審議会」を15年4月に新設した。一方、報道による名誉棄損、プライバシー侵害、差別などの人権問題が生じるリスクが顕在化した場合も、同様の影響を及ぼす可能性がある。国民の知る権利に奉仕する報道の自由を守ると同時に、報道による権利侵害事案の救済を図るため、当社は第三者機関として「報道と人権委員会」を設け、社外委員による調査と審理を通じて再発防止にも取り組んでいる。これらのリスクは、情報発信を生業とする当社グループ全体に関わるものであり、当社を中心にグループ全体でリスク顕在化の予防に努めていく。
(2) インサイダー取引
当社は取材などを通じて企業の未公表事項に接する機会が少なくないことから、07年4月に全従業員を対象に、有価証券取引に関する社内ルールを施行し、インサイダー取引の禁止を徹底した。さらにインサイダー情報に触れる機会の多い取材・編集部門などでは上乗せルールを設けている。しかしながら、他の報道機関では、インサイダー取引によって当局の摘発を受けた実例があり、当社でもこうしたリスクが顕在化した場合、業績や信用に影響を及ぼす可能性がある。
(3) 外部要因による新聞発行障害
大規模な地震、台風などの自然災害や新型インフルエンザ、テロ、長時間停電、重大事故等が発生して従業員や印刷工場などの生産設備が被害を受けた場合、取材・編集、朝夕刊の製作、印刷、輸送、配達などの業務に影響を及ぼす可能性がある。また、人的・物的などの直接被害だけでなく、生産諸資材(紙・インキ等)の調達難による業務への影響も考えられる。当社では、大規模地震を想定した対応マニュアルに加え、全社的な事業継続計画(BCP)を策定し、大災害等で大きな被害を受けても、東京本社もしくは大阪本社が中心になって根幹事業である新聞発行とデジタル発信が継続出来る態勢を整備している。また、年1回防災訓練を実施し、従業員の安全確保を図っている。さらに、BCPに沿った非常時の業務移管対応に着目した訓練も毎年実施し、部門間連携や流通経路の確保を含め、非常時の態勢が有効に機能するように運用面での準備を充実させる。
(4) ITシステム
記事の出稿や編集などから製版、印刷、発送などに至る新聞製作のインフラを担うコンピュータシステム(ATOMシステム)は、当社の経営情報の収集、分析、提供も行う基幹システムである。また、ニュースサイトの朝日新聞デジタルを中心にインターネットを通じてニュースや情報を配信している。このように事業活動の大半を情報通信システムに依存しており、広範囲かつ長時間にわたってシステムダウンが発生すると、業績や信用に影響を及ぼす可能性がある。新聞製作のほか主要なシステムでは大阪にも予備システムと監視要員を配置し、トラブル発生時に即対応できる運行監視体制をとっている。
(5) 経営環境
活字離れや媒体価値の低下、消費税が10%に増税されることに伴う消費行動の変化などの市場変化リスクは当社の販売、広告などの収入に影響を及ぼす可能性がある。
(6) 法規変化
日本の新聞が同一紙であれば全国同一価格で、ほぼどこでも宅配される仕組みは国民の知る権利を守る上で欠かせない。この仕組みを担保しているのが、独占禁止法で認められている再販売価格維持行為や地域・読者によって異なる定価をつけたり、値引きしたりすることを禁じた特殊指定である。しかしながら、公正取引委員会は競争政策促進の立場から制度の見直しを検討し、再販については01年3月に当面の存続を決め、特殊指定についても06年5月、廃止の当面見合わせを決定した経緯がある。このため、今後再び見直される可能性がある。また、高年齢者雇用安定法および労働者派遣法の改正により、労働者の確保や人件費に影響を及ぼす可能性がある。
(7) 情報流出関連
一連の記事取り消しの対応をめぐり、社内の機密情報が外部に漏れ、危機管理の業務遂行に支障を来し、報道機関としての信頼を損なう結果となった。社内の情報管理を徹底し、意図的な機密情報の漏洩が明らかになった場合は厳正に処罰することを社内に改めて周知するなど、対策を強化していく。また、さまざまな個人情報を取得し、重要な経営資源として有効に活用しつつ、個人情報保護法に基づき社内規定を整備し、慎重に取り扱っているが、適切な管理を怠った場合は信用失墜につながり、個々のケースに応じて賠償責任を負うこともありうる。社内研修を行うとともに、コンテンツ保護システムを導入するなど、多角的に予防策を講じている。
ソーシャルメディアでは、これまで予想しえなかった新たなリスクの発生も懸念され、注意が必要になっている。本社は編集部門を中心に、取材・報道分野でソーシャルメディアの積極活用を進めている。意図しない問題を引き起こすリスクを避けるため、職務で利用する際に遵守すべき基本指針として、「ソーシャルメディアの職務利用ガイドライン」を設けた。また、職務外の私的なソーシャルメディアの利用は、個人の責任において適切になされるものだが、利用者の発言が時として意図しない形で流布・拡散し、本社に影響を及ぼすリスクもある。このため、本社で働くすべての従業員を対象に、「ソーシャルメディアの私的利用ガイドライン」を設け、報道機関で働く自覚を持ち、個人の責任で適切に私的利用するよう求めている。
(8) 投資リスク
12年11月に開業した大阪・中之島フェスティバルタワーと同ビル西地区の中之島フェスティバルタワー・ウエスト(17年春完成予定)からなる「中之島プロジェクト」や、東京・銀座で建て替え中の「東京銀座朝日ビルディング」に関する投資については、当社の財務状況や景気・需給の将来予測などを踏まえて慎重に判断しているが、投資額の増加や途中での計画変更、完成時期の遅延、テナント募集の不振などのリスクがあり、業績に影響を及ぼす可能性がある。