有価証券報告書-第49期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

【提出】
2018/06/22 9:49
【資料】
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【項目】
113項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社グループは、平成32年度(2020年度)に向けた中期経営計画を策定し、目標に向けた施策を推進しています。平成32年度のありたい姿を「先端診断分野で存在感のあるグローバルニッチ企業として価値を創出する」としました。これまで当社グループは、2つの柱となる臨床検査薬(In Vitro Diagnostic:IVD)と基礎研究用試薬の事業を有していました。
IVD事業は、バイオテクノロジー基幹技術(抗体作製技術、分子生物学的技術、免疫学的及び遺伝子検出技術)を駆使した自己免疫疾患、がん等を対象とした特殊検査薬の研究開発から高品質な製品の開発、製造と品質管理、国内での認可、学術、販売力が強みです。今日まで自己免疫疾患やがん領域の自己抗体検査薬、及び遺伝子検査薬でユニークな製品群を上市してきました。これまで事業成長させてきたIVD事業を陳腐化させることなく醸成させると同時に、当該事業を発展あるいは変革させ、特徴ある製品開発、新規な事業あるいはサービスを提供していきます。
基礎研究用試薬事業は、ライフサイエンス・トランスレーショナルリサーチ(Life Science Translational Research:LSTR)事業へ再編して、疾病と関連した研究用試薬を上市し、その先に臨床検査薬として開発、製造、認可、販売できる体制に再構築しました。今後、LSTR事業からは、将来の臨床検査薬として製品化できる可能性の高い製品群を上市する方針とし、臨床検査薬事業に選択と集中する事業戦略としています。
今後も、先端臨床検査薬及び関連サービスの提供にチャレンジする企業として、存在感あるグローバルニッチ企業を目指していきます。LSTR製品パイプラインから将来の先端検査薬へ向けた当社グループの取り組みに対して、魅力や成長性を実感していただける企業集団にしていきたいと思います。
企業は人なり、当社グループは人財の尊重・育成と雇用環境の提供を継承していく方針は従来と変わりはありません。
(2) 経営環境及び目標とする経営指標
当期業績は営業利益、経常利益ともに黒字の結果となりました。3期連続の赤字から脱却し、2期連続で営業利益を出せる体制になってきましたが、V字回復へ向けて一層の経営努力が必要です。製造原価の低減と経費の効率的な使途に努めながら、将来の事業拡大に向けた設備や事業の芽への積極的な投資も継続していきます。
当社グループは、先端診断分野で存在感のあるグローバルニッチ企業として価値を創出するため、先端検査薬分野や新規事業への挑戦を続けます。
中期経営計画に基づいた中期及び長期施策(「(3) 中長期的な会社の経営戦略」をご参照ください。)のバランスを取りながら、持続的な企業成長のため、利益体質を強化した企業集団とします。平成32年度には売上高90億円以上、売上高営業利益率10%以上を目指します。
※従来、中期経営計画の策定当時は子会社で、現在は持分法適用関連会社であるMBL International Corporation(MBLI)の計画を含めて「平成32年度には売上高120億円、営業利益率10%を目指す」としておりましたが、グループ企業再編を加味して中期経営計画を見直しました。
(3) 中長期的な会社の経営戦略
当社グループは、平成32年度に向けて先端診断分野で存在感のあるグローバルニッチ企業として価値を創出できるライフサイエンス企業を目指します。LSTR事業を通じて、特に、疾患の発症、早期診断、及び薬剤選択、有効性・有害事象の評価、治療の予後モニターなど治療と関連したバイオマーカー、更にはコンパニオン診断薬などの先端領域に注力した研究開発を推進します。
医療の進歩をキャッチアップし、ライフサイエンス産業の技術進歩を活かして、いち早く先端検査分野で製品を上市していくには、自社技術だけでは開発が困難になってきています。アカデミアとの共同研究による製品開発シーズへのアクセスだけでなく、異業種企業との提携による当社技術とシナジーのある新規事業・サービスなど、社外との戦略的連携が必要と認識しています。
① 中期施策
a.国内市場の堅持
国内では、自己免疫疾患やがん領域の市場を堅持していきます。自己免疫疾患やがん領域において自己抗体検査薬(MESACUPシリーズ、ステイシアMEBLuxシリーズ)を柱化して企業成長を遂げてきました。国内では長年にわたり製品の品質や信頼によって競合製品群から市場を堅守していますが、今後は、競合他社との価格競争により事業の維持が激化していきます。当社は、自己抗体事業を発展あるいは変革させ、差別化された製品開発と上市、新規な事業あるいはサービスを創出することが重要課題と認識しています。遺伝子検査薬は自己抗体検査薬に続く第2の柱として製品群を発売してきました。既存の遺伝子検査製品に加え、がん関連及び感染症関連の新たな診断項目の開発によって製品群を充実させ、成長させます。
b.中国事業の強化
中国では、当社子会社である北京博尔邁生物技術有限公司が基礎研究用試薬やJSRの商品を中国市場で販売しています。中国検査薬市場での本格拡大を図るべく、中国市場のニーズに合った新製品の迅速な市場投入及び生産コスト低減の実現を目的として、平成29年2月に恩碧楽(杭州)生物科技有限公司を設立しました。平成30年1月から診断薬の中間体・原料の商業生産を開始して、北京博尔邁生物技術有限公司から中国診断薬メーカーへ販売を開始しました。また広大な国土と急速なデジタル化が進む中国市場の特性を勘案して、デジタルマーケッティングを市場ニーズ、学術、販売促進、販売の有効なツールとして活用していきます。
c.選択と集中及び技術集約によるIVD開発効率の向上と製品化
「先端診断分野で存在感のあるグローバルニッチ企業として価値を創出する」の方針を実現していくには、更に研究開発機能を臨床検査薬の開発に選択・集中することが必要と認識しています。そのために、研究開発費と人的な原資を臨床検査薬の研究開発にシフトしていきます。それによって、新規で差別化された製品群をタイムリーに市場に投入していきます。
d.品質マネジメントシステムの強化
高品質な先端診断薬を世に提供していくためには、研究開発、製造、品質管理、品質保証、マーケッティング、学術、販売に至るまで、全社レベルでの品質保証、品質マネジメント(QMS)に対する真摯な姿勢が重要であることを認識しています。更なるQMS体制強化のため、平成30年1月に信頼性保証部を新設しました。
② 長期施策
a.免疫システムを利用した検査事業への展開
疾患と関連した研究用試薬を上市して臨床医や疾病研究者に評価していただくことで、将来の臨床検査薬に繋げることを企図しています。特に、疾患の発症、早期診断、及び薬剤選択、有効性・有害事象の評価、治療の予後モニターなど治療と関連したバイオマーカー、コンパニオン診断薬などの個別医療や精密医療に注力した製品開発を推進します。
MHCテトラマーは抗原特異的細胞傷害性T細胞の免疫機能をモニタリングする有用なLSTR製品です。国内では10年以上にわたり技術開発を続け、基礎研究分野に製品を提供してまいりました。平成25年3月より米国関連会社BION Enterprises Ltd.でも製造し、米国と欧州市場でも販売を開始して以来、売上が順調に伸長しています。今後、グローバルトップメーカーを目指すと共に、免疫療法のバイオマーカーなどの新規用途も開拓していく計画です。
b.最先端の臨床検査及び高度な研究・治験受託サービスを通じた新規事業への展開
当社は一般財団法人 聖路加財団と共同で、自己免疫疾患やがんの領域で精密医療を実現する最先端の臨床検査や高度の研究・治験の提供を目的として株式会社 聖路加医学生物学研究所を設立し、サービス事業を開始しました(平成30年1月)。新会社では自己免疫疾患やがんの領域で精密医療を実現する最先端の臨床検査や高度の研究・治験を提供します。聖路加国際病院が保有する国際的にも通用する医療環境、豊富な臨床データや治験・臨床研究のノウハウ、及び当社がこれまで研究開発型企業として培ってきた高度な免疫学的検査及び遺伝子検査に関する技術・ノウハウ、製品開発力、体外診断用医薬品としての認可能力など両者の特長を活かして、免疫療法、細胞治療、再生医療の基礎研究、臨床研究、治験に付随するサービスの提供を目指します。今後、新会社はCLIA/CAPラボ登録をする予定です。CLIA/CAP ラボとして登録されることにより、FDA(米国食品医薬品局)にもデータを提供できる品質水準で、国際治験や多施設共同研究などの試験が実施できることになります。
c.新規事業シーズの創出
JSRが学校法人慶應義塾大学と共同で設立したJSR・慶應義塾大学医学化学イノベーションセンター(JKiC)が平成29年10月に開所されました。当社はJSRグループのライフサイエンス事業の中核企業として、共同研究計画策定への参画やJKiCへの人員派遣によって、研究と事業の創造にコミットします。
当社が東大医科学研究所にて開設している社会連携研究部門「システム・イムノロジー」において、個別医療や精密医療に必要な疾患別全DNA解析や、腸内細菌メタゲノム解析の基盤となるデータベースの構築を目指しています。
③ 人財育成
体系的人事施策による人財育成を中期計画の骨子としてまいります。グローバルに活躍できる人財を育成すべく、計画的な社内ローティションやJSRとの人財交流など活発、積極的に実践してまいります。
(4) 会社の対処すべき課題
① 製品開発戦略・事業化戦略を立案、実行する機能
新規の製品開発や事業化においては、ライフサイエンス産業動向(医療トレンド、知財、技術、製品化、薬事及びその他の規制対応、産業変化)を的確にとらえて事業環境変化に対応し、時代のニーズにマッチした迅速な製品開発やサービスの提供が重要視されると考えています。そのためには、製品開発戦略を立案、実行する機能が必要と認識しています。
製品開発戦略における課題は、先端的な製品開発と継続的な製品上市があげられます。平成27年10月からJSRグループの一員となったことで、JSRライフサイエンス事業の重要な一翼を担うことになりました。JSRとの協業を最大化して成果を出すことが喫緊の課題です。免疫システムを利用した検査事業への欧米戦略もJSR Micro, Inc.(カリフォルニア州サニー・ベール)及びMBLI(マサチューセッツ州ウォーバン)と策定、事業化を実現してまいります。
当社製品を単に海外市場で販売するだけではなく、米国、欧州、中国の海外拠点からもライフサイエンスの最先端情勢や動向の分析を行い、マーケティング活動から新製品も開発することを目指します。
② グローバル市場への展開強化
当社の販売する臨床検査薬は、中国、米国、欧州など国・地域ごとに体外診断用医薬品として認可後に販売可能となります。日本で開発した新製品を海外でも遅延なく認可を取得して上市することが重要課題と捉えています。国・地域ごとに薬事規制当局が要求する認可要件、及び販売戦略や価格などの市場ニーズに精通した人財を現地法人で育成していくことが、グローバル化の必要条件と認識しています。「次頁 製品販売:MBLによる中国展開及びJSR欧米拠点の活用」に記載したように、中国、欧米の拠点における地域ごとにJSRグループとの製品販売の協力関係を強化し、人財を育成してまいります。
③ 高品質で安全な製品の安定生産と供給
a.当社グループでは、ISO13485 品質方針として、ⅰ) 品質マネジメントシステムの有効性の維持、継続的な改善を図り、顧客の視点に立った品質を提供すること、ⅱ) 顧客からの情報に耳を傾け、丁寧且つ迅速に対応すること、ⅲ) 法令・規制要求事項の遵守を最優先し、安全で安心な製品とサービスを提供すること、を定めています。
b.当社グループでは、患者様の生命に関わる診断、治療方針、薬剤選択を決定する重要な臨床検査薬を製造・販売しています。更に、今後拡大するグローバル販売のために、従来よりも高品質な臨床検査薬の製造体制、及び高度な品質管理とマネージメント体制(QMS)の継続的改善が課せられた義務です。
c.臨床検査薬の製品開発においては、製品を設計し、開発、製造、基礎性能試験、臨床性能試験、体外診断用医薬品としての認可、販売から学術支援までをシームレスに実行する機能が重要と認識しています。臨床検査薬の発売後は、原料購入から安定生産まで高品質な製品の供給体制、グローバル市場に供給可能な製造体制(薬事対応、規制対応、ISO13485)、製品に関する問い合わせ、苦情対応の体制の完備、及び是正措置対応に関する機能が重要と認識しています。先端診断薬分野においては、市場の多様化に適応した学術情報の提供、販促活動、営業体制も重要と認識しています。
④ コンプライアンスの強化について
当社グループは、一般社団法人 日本臨床検査薬協会が定めた「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」の理念を踏まえ、「企業活動と医療機関等の関係の透明性に関する指針」を策定し、当社の「企業倫理基準」及び「企業行動規範」とともに行動指針とし、当社の企業活動が医療をはじめとするライフサイエンスの発展に寄与していること、及びその活動が高い倫理性を担保したうえで行われていることを、広く社会に示すことを目的としております。
また、策定した指針に基づき、当社が医療機関及び医療関係者等との連携活動に伴う資金提供の情報の公開を行います。