5423 東京製鐵

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有価証券報告書-第111期(2024/04/01-2025/03/31)

【提出】
2025/06/24 10:16
【資料】
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【項目】
119項目
(3)リスク管理
気候関連リスク・機会の特定・評価については全社の統合リスクマネジメントに組み込まれている。気候関連リスク・機会の評価にあたっては、当社の直接操業及び上下流バリューチェーンに気候変動が及ぼす影響を勘案する必要性が極めて高いことから、これらの短期的、中期的、長期的それぞれのリスク・機会の検討を対象として含めている。当社は、気候問題による経営へのインパクトを重要なリスク・機会として捉えており、その特定・評価に当たっては、いずれも代表取締役社長を最高責任者とする、取締役会及び中央環境委員会・全社カーボンニュートラル推進委員会といった、経営レベルの機関が最終的な判断までのプロセスを担っている。具体的な気候関連リスク・機会の特定プロセスとしては、まず国内4工場(田原工場・岡山工場・九州工場・宇都宮工場)において、それぞれの環境委員会・カーボンニュートラル推進委員会が開催され、自工場におけるバリューチェーンを俯瞰した短期的、中期的、長期的な気候関連リスク・機会についての検討が行われ、四半期に1回以上の頻度で開催される中央環境委員会・全社カーボンニュートラル推進委員会に対して報告される。さらに、中央環境委員会・全社カーボンニュートラル推進委員会において検討された気候関連リスク・機会は、業務執行の最高責任者である代表取締役社長を議長とする取締役会に直接報告され、最終的な全社の気候関連リスク・機会が特定・評価されるプロセスとなっている。こうして特定・評価されたリスク・機会に対しては、それぞれの関連部署にてアクションプランが策定され、中央環境委員会・全社カーボンニュートラル推進委員会にてレビュー・審議され、最終的には取締役会で決議され、各事業部門で実行されている。
・気候関連リスク・機会
リスク・機会タイプ当社におけるリスク・機会の内容想定タイム
スケール
リスク移行
リスク
政策・規制パリ協定を踏まえた気候変動の抑制のための各種規制・制度等の導入に伴うコスト増加。中期
技術生産プロセスの脱炭素化を実現した革新的な新素材の開発による鉄鋼製品の需要減少。中期
市場市場の素材選択の変化により、鋼材需要の増加が見込みにくい事業環境の継続。中期
国内高炉メーカーの電炉参入により、当社製品を取り巻く市場競争及び鉄スクラップ需要増加に伴う獲得競争の激化。中期
評判気候変動に対する社会的意識の高まりや関連する評価制度の進展等と、それに対する当社の対応の不備によるレピュテーション低下。短期
物理
リスク
急性自然災害に伴う生産設備の故障、販売・調達物流網の機能麻痺等に伴う操業の停止。中期
慢性海水面上昇による臨海立地工場や物流拠点等の操業不能。長期
機会資源効率効率的な生産プロセスによる製造コスト削減・生産力増強。効率的な輸送手段の利用。中期
エネルギー源低炭素エネルギー源の利用による製造段階における環境負荷の低減。中期
製品及びサービスパリ協定を踏まえた気候変動の抑制のための各種規制・制度等の導入、また、気候変動に対する社会的意識の高まりによる脱炭素・循環型鋼材の需要拡大。短期
気候変動抑制のために製品別CO2排出量を反映させた公平な税負担が導入された場合にもたらされる脱炭素・循環型鋼材の競争優位の確立。中期
CO2排出量の小さい当社製品の高炉製品に対する環境面での競争優位の確保。短期
当社製品の主原料である鉄スクラップは日本国内で潤沢に発生するため、遠隔地より輸送される高炉原料と比較し、輸送時のCO2排出量が大幅に少ない。これによる当社製品の高炉製品に対する環境面での競争優位の確保。短期
市場新規・新興市場へのアクセスの増大、金融資産の多様化の拡大。短期
レジリエンス再生可能エネルギープログラムの導入や省エネ対策の推進。サプライチェーンの多様化による原料調達網の強靭化。中期
レジリエンス(強靭性/対応力)強化を目的とした製品の需要増加。

気候関連リスク・機会の想定タイムスケジュールは、短期(1~5年)、中期(5~10年)、長期(10~25年)を目安に判断している
シナリオ分析
気候変動による影響は年々拡大しており、企業経営おける大きなリスクと認識している。また、脱炭素社会への移行過程で生じる規制強化や市場ニーズの変化等は企業にとってのリスクになり得ると同時に、新しいビジネス機会を創出させる可能性を含んでいる。TCFD提言では、将来の様々な気温上昇パターンを想定した複数のシナリオを分析し、自社へのリスク・機会を特定・評価し、対応策を検討・公表することを求めている。当社では、この提言を受け、当社の長期環境ビジョン「Tokyo Steel EcoVision 2050」の期間である2030年~2050年について、気候変動に関する1.5 ~2℃未満シナリオ、4℃シナリオの分析を実施し、現時点の当社の環境戦略に一定のレジリエンス(強靭性/対応力)があることを確認した。
●シナリオ分析プロセス
① 気候関連リスク・機会の抽出:
当社バリューチェーンで考えられる気候変動によるリスク・機会を抽出。
② 重要なリスク・機会の特定:
①で抽出したリスク・機会の中から当社の経営に対する影響が大きいと考えられる項目と関連する要素/指標を設定。
③ シナリオの設定・事業への影響評価:
既存シナリオを参照し、②で特定した重要なリスク・機会及び関連する要素/指標の推移等の情報を整理し、当社が受ける将来的な影響を定量的に評価。「1.5 ~2℃未満シナリオ」及び「4℃シナリオ」を設定し、各シナリオでの想定に対する影響を比較・評価。
④ 当社対応方針・戦略の策定:
③で評価された当社への影響に対し、シナリオ別に当社の対応方針・戦略を検討。
●設定シナリオ
区分(気温上昇)概要参照シナリオ
1.5 ~2℃未満
シナリオ
パリ協定での目標である「産業革命以前からの全世界の平均気温の上昇を1.5 ~2℃未満に抑える」未来を想定したシナリオ。物理的なリスクが相対的に軽減される一方で、脱炭素社会への移行に伴うリスクは増加する。●国際エネルギー機関(IEA):
・ 表明公約シナリオ(APS)
・ 2050年ネットゼロ排出シナリオ(NZE)
●国連気候変動に関する政府間パネル:
・ 1.5℃特別報告書
●WWFジャパン:
・ 100%自然エネルギーシナリオ
4℃シナリオパリ協定での国別約束草案(NDC)を含む各国の政策目標がすべて達成されることを想定したシナリオ。2100年までに全世界の平均気温が4℃程度上昇すると予測されている。1.5℃~2℃シナリオと比べ、物理的なリスクが増加する一方で、脱炭素社会への移行に伴う企業リスクは相対的に減少する。●国際エネルギー機関(IEA):
・新政策シナリオ(STEPS)
●国連気候変動に関する政府間パネル:
・RCP6.0シナリオ

●想定されるシナリオと当社への影響及び対応戦略
①1.5℃~2℃未満シナリオ及び当社への影響
・カーボンプライシングの導入
社会シナリオ当社への影響影響度合い
国内におけるカーボンプライシング制度の導入。(先進国のカーボンプライスは、2030年に140ドル/t-CO2、2050年に250ドル/t-CO2と推定。)・カーボンプライシング導入により操業コストが増加。
・サプライヤー側でも同様に操業コストが増えるため、調達コストが増加する可能性あり。
・リスク:大
・機会:大
当社の対応戦略
・全ての鉄鋼メーカーに排出量に応じた公平な炭素税が課された場合、高炉製品と比較して製造段階におけるCO2排出量が概ね5分の1である電炉鋼材は、価格優位性のある製品として需要が拡大することが予想される。当社は脱炭素・循環型鋼材である電炉鋼材の特長を生かし、顧客との対話を通じて高炉鋼材からの置換えを積極的に推し進めることで、販売量の拡大を目指す。
・2030年に$140/t-CO2、2050年に$250/t-CO2の炭素税が導入される場合、2030年に見込んでいる当社のCO2排出量は約120万tであることから、1ドル=145円と仮定すると、炭素税導入による財務影響額は約243億円となる。このため、当社のCO2排出量に対して課せられる炭素税額が極めて膨大になるものと予想されることから、当社の生産プロセスにおける省エネルギーの一層の取り組みが非常に重要となる。その他の取り組みの例としては、当社におけるCO2の直接排出量の削減の観点から化石燃料を伴う設備の電化を目的とした投資や、CO2の間接排出量の大半を占める電力については再生可能エネルギー由来電力への切替え等が挙げられる。2024年度は省エネルギー対策として約19.6億円を投資しており、年間10,141kl分のエネルギー削減効果が得られた。当社は炭素税導入のリスクを踏まえ、今後さらなる省エネルギー投資と再生可能エネルギーへのシフトを進めていく。

・燃料価格の動向
社会シナリオ当社への影響影響度合い
天然ガス価格は世界的に同水準を維持し、日本では現状より安くなると想定。(国内における天然ガス価格:2025年現在$15.0/MBtu、2030年は$5.5/MBtu、2050年は$5.3/MBtuと推定。)国内における操業コストに対する重大な影響は想定していないものの、エネルギー転換や省エネ設備投資等は引き続き発生する可能性あり。・リスク:中
・機会:中
当社の対応戦略
今後CO2排出量に応じた炭素税の導入や新たに必要となる省エネルギー投資といった多額の費用が生じる可能性が極めて高いものの、燃料コスト・電力コストの大きな変動は予想されていない。このため、生産プロセスの見直しや使用する燃料の切替え等を通じて、燃料・電力原単位の一層の低減を行うことでコストダウンをはかっていく。

・エネルギーミックス
社会シナリオ当社への影響影響度合い
・世界の全発電量に占める再生可能エネルギーの割合が大幅に増加。化石燃料の割合は大幅に減少。
・わが国の全発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、2030年時点で50%、2050年で100%と想定。
・再生可能エネルギー調達のため、エネルギーコストが増える可能性あり。
・わが国における再生可能エネルギー由来の発電量増加に伴い、発電時のCO2排出原単位が低下し、当社の電力由来CO2排出量が減少。
・リスク:中
・機会:中
当社の対応戦略
わが国最大の電炉メーカーである当社は、生産プロセスにおいて膨大な電力を消費しており、当社のスコープ1.2のCO2排出量のうち、電力由来の排出量は全体の70%以上を占めている。したがって、再生可能エネルギー由来の電力を生産に用いることで、生産時におけるCO2排出原単位の大幅な削減が可能となるため、自社の再生可能エネルギーの使用比率を上昇させる必要性があると考えている。今後、全世界における再生可能エネルギー発電量の割合が大幅に上昇することが想定される中で、わが国の再生可能エネルギーシェアは2030年で50%、2050年で100%になるとWWFジャパンの「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」によって示されている。当社は、社会の再生可能エネルギーの普及に加え、電炉プロセスの操業の柔軟性を生かし、電力の低需要時において余剰となった太陽光等に由来する再生可能エネルギーを受け入れることで、さらなる使用量の拡大を目指す。また、自社の遊休地や工場建屋屋根等への再生可能エネルギー発電設備の導入を推進し使用量の増加をはかっていく。

・脱炭素・循環型鋼材の需要
社会シナリオ当社への影響影響度合い
・鉄スクラップのリサイクル・リユース量が増加。
・2060年までの粗鋼生産量は微増傾向。
・世界の鉄鋼業における熱エネルギー消費量は、2014年で約15EJ、2060年で約13EJ。
脱炭素・循環型鋼材の需要増加に伴う、生産量及び販売機会の拡大。機会:大
当社の対応戦略
・世界の粗鋼生産量は基準年である2014年以降、2060年にかけて緩やかに増加すると予測されている。一方で、世界の鉄鋼業における熱エネルギー消費量は、2014年で約15EJ、2060年で約13EJと、粗鋼生産量の増加に反して減少することが2℃未満シナリオによって示されている。これは従来の鉄鋼生産プロセスが、よりエネルギー効率の良いプロセスへとシフトしていることが要因の一つとして考えられる。電炉プロセスは高炉-転炉プロセスと比較して、製造段階におけるCO2排出量が少ないプロセスであることから、将来的に電炉鋼材の生産量は拡大していくものと予想される。さらに、電炉鋼材の主原料となる鉄スクラップの発生量の増加によるリサイクル・リユースの拡大も予想されることから、電炉プロセスによって脱炭素・循環型鋼材を生産する当社にとっては大きな追い風となる。
・脱炭素・循環型鋼材の需要増加は、需要家ニーズの多様化に繋がることが想定されるため、電炉鋼材のさらなる高機能化を推し進める可能性がある。当社は、鉄スクラップのリサイクルを促進し、付加価値の高い鉄鋼製品の供給を目指していく。この実現により、当社は産業界の広範な需要を捉えることが可能となるため、世界経済の変動等に左右されにくい安定した経営基盤の確保が可能となる。
・脱炭素・循環型鋼材の需要拡大を受け、顧客とのエンゲージメントの拡大が期待される。わが国の貴重な資源である鉄スクラップのリサイクルを促進し、顧客とのクローズドループのスキーム構築を幅広く提案することで、脱炭素・循環型鋼材である電炉鋼材の普及拡大をはかっていく。

②4℃シナリオ及び当社への影響
・物理リスク(慢性・急性)
社会シナリオ当社への影響影響度合い
・世界平均気温が上昇し、極端な高温や熱波の発生頻度がさらに増加。
・中緯度の陸域の大部分で極端な降水の発生頻度及び強度がより増加。
・21世紀末までの海水面上昇は0.33-0.63m。
・異常気象や自然災害の激甚化により、原料調達・操業・製品出荷等が困難になる可能性あり。
・海水面上昇によって自社工場や中継地、需要家等幅広いエリアで浸水被害が発生する可能性あり。
・わが国の国土強靭化政策に伴う鋼材ニーズの拡大。(当社製品ラインアップの拡充、生産量拡大の機会)。
・リスク:中
・機会:大
当社の対応戦略
・気候変動の進展により、異常気象の発生による原料調達の困難化が想定される。これにより、原料調達の停止や遅滞による当社の操業及び収益へのリスクが生じる。当社は、同一製品を複数工場で生産し、調達ソースを分散化すること等により、リスクの最小化をはかっていく。
・気候変動の進展に伴う海水面の上昇や、大型化する台風、頻発する豪雨による河川氾濫等の影響により、当社の操業が停止するリスクが想定される。当社は既に国内4工場において適応対策を実施しており、リスクは限定的であると捉えている。また、当社では主力品種であるH形鋼について、国内3工場での生産体制を構築しており、一部の生産サイズをラップさせることにより、気候変動リスクの分散をはかっている。ただし、想定以上の激甚災害の発生時においては、操業不能に陥る可能性がある。異常気象の発生などによって生産設備の故障、販売・調達物流網の機能麻痺、または、海水面上昇による臨海立地工場や物流拠点等の操業停止が2週間発生し、売上高が3.8%(14日÷365日)減少した場合、2024年度売上高3,267億円を前提とすると、売上減による財務影響額は約124億円となる。
・気候変動の進展は異常気象の多発を誘発するが、一方で国土強靭化のニーズが高まる可能性が想定される。当社は、脱炭素・循環型鋼材である電炉鋼材の製品ラインアップの拡充を進め、生産量を拡大していくことで、わが国のインフラ強化に貢献していく。

●評価結果/今後の方向性
今回のシナリオ分析の結果から、長期環境ビジョン「Tokyo Steel EcoVision 2050」を通じて当社が目指すこれからの「あるべき姿」や、その実現に向けて掲げた目標・取組みの方向性は適切であることが確認できた。また、当社の現時点における環境戦略に一定のレジリエンス(強靭性/対応力)があることも明確となった。

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