有価証券報告書-第62期(2022/09/01-2023/08/31)

【提出】
2023/11/30 13:01
【資料】
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【項目】
141項目
②戦略
パリ協定の達成に向けて、世界の平均気温上昇を抑えるための取り組みを強化しています。また、気候関連のリスクと機会がもたらす事業への影響を把握し、戦略の策定、実行を進めています。
Ⅰ温室効果ガス排出量の削減に向けた取り組み>
有明プロジェクトの推進・有明プロジェクトを推進し、より高いレベルで実行することで、「無駄なものをつくらない、運ばない、売らない」を実現し、お客様満足の向上と、環境負荷の低減につなげていきます。
・世界中の店舗やEコマースを通じて集まるお客様のご要望など、膨大な情報を分析することで、お客様のニーズを起点にした商品づくりを行っています。エアリズム、ウルトラライトダウン、ヒートテックなどの機能性のある服により、お客様が日々の生活を快適に過ごせるだけでなく、冷暖房の過度なご使用を控えることで、お客様のエネルギー使用量削減への貢献も期待されます。
自社領域(店舗と主要オフィス)・店舗では、電力の使用そのものを減らす省エネルギーと、自ら電気を生み出す創エネルギーに取り組んでいます。さまざまな省エネ技術による消費電力の削減や、太陽光パネルによる発電など、エネルギー効率を高める工夫を採用したロードサイド店舗(ユニクロ 前橋南インター店)をオープンするなど、今後も検証を進めながら、省エネルギーの店舗を増やしていきます。
・再生可能エネルギー100%の目標達成に向けて、太陽光発電設備の設置や電力会社の提供する再エネメニューの購入、再エネ電力証書の購入などを進めています。
サプライチェーン領域・ユニクロ・ジーユーの生産量の約9割を占める主要工場を対象に、国や地域、工場の特性によって異なる個別の課題を把握し、丁寧に対応して解決に取り組むことで、省エネルギー施策、脱石炭の推進、再生可能エネルギーの導入を着実に推進しています。
商品領域・リサイクル素材など温室効果ガス排出量の少ない素材への切り替えを進めています。化学繊維はリサイクル技術が比較的発達しているため、リサイクル素材への切り替えが進めやすく、現在では特にポリエステルにおいて取り組みが進んでいます。コットン・ウールなどの天然素材については、研究開発を取引先パートナーと進めており、既存商品と同等の品質、着心地のよさを実現できる素材の開発に取り組んでいます。
・回収ペットボトルからつくられたリサイクルポリエステルを使用したフリースやポロシャツ、回収したダウン商品からダウン・フェザーを取り出し再利用したリサイクルダウンジャケットなど、新技術やリサイクル原材料を採用した商品の開発にも力を入れています。
RE.UNIQLOの推進・ユニクロでは、お客様のもとで不要になった服を回収し、服に新しい価値を与えて次へと活かす、お客様参加型の取り組み「RE.UNIQLO」を行っています。
・難民・国内避難民への衣料支援(REUSE)に加え、回収した服を新しい服や資材としてよみがえらせるリサイクル(RECYCLE)を進めています。また、商品のライフサイクルを通じて余分な廃棄物、温室効果ガス排出量、資源使用量の削減(REDUCE)につなげています。
・さらに、ユニクロの「RE.UNIQLO STUDIO」では、愛着ある服を大切に着続けていただくため、リペア(REPAIRE)やリメイク(REMAKE)などのカスタマイズサービスを提供しています。

Ⅱ気候変動に関するリスク・機会のシナリオ分析
当社は、事業に対する顕在的・潜在的なリスクを想定したうえで、リスクを予防し、適切に管理および対応することが、事業の持続的な成長に不可欠だと考えています。売上の約80%を占める主力事業のユニクロ事業に関して、以下の2つのシナリオを参照し、2100年までの平均気温の上昇が2℃未満の場合と、4℃の場合について、2030年までを対象期間として、気候変動が自社およびサプライチェーンにもたらすリスクと機会、対応策を検討しました。
・国際エネルギー機関(IEA)の「持続可能な開発シナリオ」および「2℃未満シナリオ(B2DS)」
・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「第5次報告書(RCP8.5)」

Ⅲ気候変動に関するリスク・機会
項目リスク機会
2℃未満の場合
規制炭素税・カーボンプライシング、排ガス規制炭素税などの税制または規制強化により、サプライチェーンにおいてコストが上昇し、その結果生産コストが上昇するリスク省エネルギー推進や再生可能エネルギー導入などにより、サプライチェーンにおけるコスト上昇を抑制し、生産コストの低下につながる
炭素税などの税制または規制強化により、自社の店舗のコストが上昇するリスク・再生可能エネルギーの導入・省エネルギー推進により、自社の店舗のコスト上昇を抑制し、コスト削減につながる
・お客様の評判の向上によるブランドイメージの向上
EUの燃費・排ガス規制など、中国、ベトナム、バングラデシュ、インドネシアの拠点を中心とする生産国や、日本、東南アジア、EUなどの販売国における規制強化により、物流費が上昇するリスク有明プロジェクトの推進を通じて、物流の効率化を実現
市場お客様の価値観の変化お客様が環境負荷の低い素材、商品やサービスを好まれるようになり、変化するニーズに対応できない場合、売上が減少、評判が低下するリスク温室効果ガス排出量の少ない素材を開発することで、新たな需要の創造、お客様の評判の向上
環境変化に対応した商品の需要増加
リサイクル活動の加速により、需要の創造、お客様の評判の向上
サステナビリティ活動の強化によるお客様の評判の向上
4℃の場合
急性・慢性自然災害の増加自然災害による原材料への影響、生産施設の被害やサプライチェーン寸断による生産停止・素材調達・企画・生産・物流・販売・在庫管理など、すべての過程を一貫して行うSPA(アパレル製造小売業)であるため、高い対応力を有しており、リスクの最小化・低減が可能であり、需要の維持・創造につなげることができる
・調達先・取引先と強固なパートナーシップを築いていることに加え、適応策の強化を図っていることで、災害発生時の被害を最小化(レジリエントなビジネスの構築)
気温の上昇気温の変化に対応しない商品構成による売上低下新しい機能性素材で新しい需要を創造

Ⅳ気候変動に関するリスク・機会への対応戦略
・2℃未満に気温の上昇が抑えられた場合と、4℃まで気温が上昇した場合、どちらのシナリオが実現した場合でも、服、特にLifeWearへの需要は変わらないと考えています。温室効果ガス排出量がより少ない素材や、循環型の商品、気候変動に対応した商品(例えば、ヒートテックやエアリズム)といったお客様のニーズに合った商品を開発することで、市場優位性が増し、売上は拡大すると考えています。
・2℃未満の場合、サプライチェーンへの影響としては、炭素税などの税制、規制強化、電気料金の上昇など、生産や店舗におけるコストが上昇するリスクがありますが、省エネ推進や再エネ導入で、リスクを低減させることができます。自動車やトラックの燃費・排ガス規制など、EUをはじめ世界各国で規制強化が進む場合、物流費が上昇するリスクがありますが、ハイブリッド車・EV車への移行を促進することや、有明プロジェクトを通じた物流効率の向上などを行うことで、リスクの低減が可能です。
・4℃の場合は、干ばつや大雨など異常気象の多発や、水不足などの物理的リスクにより、生産、物流、販売のサプライチェーン全体に甚大な影響を及ぼすことが想定されますが、原材料、生産工場などの調達先の分散や、長期的な契約・パートナーシップにより、リスクを低減することが可能です。物流や店舗についても、地域の分散や、BCPの観点からの立地などの選定、災害訓練により、物理的なリスクを最小限に抑えることができます。
・当社はSPAであるため、潜在的、顕在的なリスクに対し、柔軟に対応を行うことが可能です。お客様のニーズの変化に対応した服づくりや、原材料、生産工場などの調達先の分散化、輸送形態の多様化、物流拠点の選定、販売店舗の立地の選定にBCPの視点を取り入れるなど、気候変動への対策が進まず、気温上昇が抑えられなかった場合を想定した対応策を講じています。
・これらの戦略の妥当性と進捗については、適切な情報開示を行い、機関投資家をはじめステークホルダーの皆様との対話や、各種ESG評価の指標への対応を行うことにより、持続的な企業価値向上につながると考えています。