有価証券報告書-第16期(2022/06/01-2023/05/31)

【提出】
2023/08/30 15:01
【資料】
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【項目】
151項目

対処すべき課題

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は以下の通りです。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものです。
(1)会社の経営の基本方針
当社グループは、企業理念において「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションの下、「ビジネスインフラになる」というビジョンを掲げています。このミッション、ビジョンの実現に向けて、さまざまなビジネス課題を抱える企業やビジネスパーソンの働き方を変え、DXを促進するサービスを展開しており、これらの事業活動の推進が社会課題の解決に寄与し、ひいては当社グループの株主価値及び企業価値の最大化につながるものと考えています。
(2)重視する経営指標と中期目標
2023年5月期から2025年5月期にかけての中期的な目標として、売上高成長と利益成長の両立を目指します。まず、最も重要な経営指標である連結売上高については、20%中盤以上の堅調な成長の継続を目指します。なお、従来は2023年5月期から2025年5月期にかけての連結売上高の目標を20%台以上の成長としていましたが、2023年5月期の堅調な実績を受け、目標値を変更しています。
次に、重視する利益指標として、株式報酬関連費用や企業結合に伴い発生する費用を控除した調整後営業利益(注1)を採用し、各事業の売上高成長に向けた必要な投資を行いながらも、毎連結会計年度における調整後営業利益率の向上を目指します。利益率の向上を実現するに当たっては、2025年5月期における「Sansan」「Bill One」サービス合計(注2)の調整後営業利益100億円以上の計上と、Eight事業における通期での安定的な調整後営業利益の計上を目指します。
(注)1. 調整後営業利益:営業利益+株式報酬関連費用+企業結合に伴い生じた費用(のれん償却額及び無形固定資産の償却費)
2. Sansan/Bill One事業における「Sansan」「Bill One」の合計値であり、「その他」は除く
(3)中長期的な会社の経営戦略
当社グループの事業や事業領域には次のような特徴があり、これらに基づいて中長期的な経営戦略を立案しています。
①広大な市場機会
新型コロナウイルス感染症による働き方の変化やDXへの意識改革、SaaSビジネスへの関心の高まり等によって、当社サービスに関連する市場は拡大が続いています。DX市場は2030年において5兆1,957億円(2020年比3兆8,136億円増)(注3)、国内SaaS市場は2026年には1兆6,681億円(2022年比5,790億円増)(注4)の規模に達すると予想されています。
また、名刺や請求書、契約書といった書類は、現在でも紙のままで日常的に利用されていてデジタル化が進んでおらず、業務効率化や有効活用の余地が大きく残されていると考えています。各サービスの潜在市場について、「Sansan」は、法人向け名刺管理サービス市場において81.6%(注5)のシェアを有していますが、日本国内の総労働人口を対象として捉えた場合、「Sansan」利用者数の割合は約3%(注6)に留まっており、広大な開拓余地が残されていると考えています。次に「Bill One」では、無料利用を含めた契約企業と、各契約企業に対して請求書を送付する企業で構成されるインボイスネットワークを構築していますが、2023年5月末時点におけるネットワーク参加企業数は、日本国内の企業の約4%(注6)に当たる約9.0万社に過ぎないため、広大な開拓余地が存在していると考えています。
(注)3.「2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編、ベンター戦略編」富士キメラ総研
4.「ソフトウェアビジネス新市場 2022年版」富士キメラ総研
5.「営業支援DXにおける名刺管理サービスの最新動向2023」(2022年12月 シード・プランニング調査)
6.分母となる国内の総企業数及び従業者数は、総務省統計「令和3年経済センサス活動調査」を基に算出
②アナログ情報のデータ化精度99.9%を実現する仕組みとテクノロジー
当社グループが提供する各サービスにおけるアナログ情報のデータ化精度は、サービスの本質的な品質・競争力に資するものであり、99.9%の精度を実現する仕組みとテクノロジーを有していることが当社グループ事業共通の強みとなっています。当社グループのサービスでは、機械学習等によって日々進化するテクノロジーと、人力の組み合わせによってアナログ情報のデータ化を行っており、創業以来、人力によるデータ入力を中心に、膨大な名刺をはじめとするアナログ情報をデータ化してきたことで、現在では、大量のアナログ情報を正確かつ効率的にデータ化する独自システムの開発・運営が可能となりました。この技術力と独自の仕組みが競争力の源泉であり、継続的なサービス品質・競争力の向上に向けて、新技術の開発やオペレーションの改善を追求しています。また、これらの仕組みやテクノロジーは、さまざまなビジネス分野で活用が可能であるという特徴を有しています。
③高い安定性を誇る財務・収益モデル
「Sansan」「Bill One」の課金モデルは、継続収入が見込めるサブスクリプション(月額課金)が中心となっており、安定的かつ継続的な事業成長が見込めるモデルです。また、サービスの月次解約率は直近12か月平均で1.0%未満に留まっており、契約当たり売上高の拡大に努めることで、顧客LTV(ライフタイムバリュー)の最大化を推進しやすいことから、魅力的なモデルであると捉えています。
具体的な当社グループの経営戦略は、以下の通りです。
(ⅰ)Sansan/Bill One事業の売上最大化
「Sansan」及び「Bill One」は業種や業態を問わず、多くの企業を対象とするサービスであり、日本国内だけでも大きな顧客開拓余地があります。2024年5月期期首より、今後の売上高のさらなる成長に向けて「Sansan」「Bill One」それぞれに専属の営業部門を設け、主に中堅・大企業を対象とした営業体制を強化しました。今後も積極的な人員採用を継続することで営業体制をさらに強化し、「Sansan」においては、ユーザー企業の全社員によるサービス利用(全社利用)を前提とした新規顧客獲得や既存顧客の利用拡大の促進等について継続的に取り組み、「Bill One」においては新規顧客獲得やオプション機能の充実による、さらなる売上高の拡大を図ります。
また、サービス面においては、「Sansan」「Bill One」ともに、さらなる機能の充実化によって顧客にとってのサービス価値向上を図ります。「Sansan」においては、顧客とのメールを自動で「Sansan」上に蓄積・可視化する機能等、営業活動のDXを促進する機能の追加に取り組みます。「Bill One」においては、オプションサービスとして追加した法人カードサービスの利便性向上や、経理業務の効率化につながるさまざまな機能の拡充に取り組みます。
また、「Sansan」で培った技術を活用した新たなサービスの創出や、立ち上げた新サービスの強化にも取り組みます。契約DXサービス「Contract One」においては、契約書の要約に生成AIを活用する等、契約書の全社利用に向けたサービス開発に注力していきます。
(ⅱ)Eight事業の収益化
登録ユーザー330万人を有する「Eight」のネットワークを活用し、ビジネスイベント等のBtoBサービスのマネタイズを強化するほか、より収益性を重視する事業運営に移行することで、事業全体で通期での調整後営業利益の黒字化を目指します。
(ⅲ)M&Aの活用
2023年3月にグループ会社化したクリエイティブサーベイ株式会社と、2023年6月にグループ会社化した株式会社言語理解研究所の企業価値向上に向けた施策を推進するとともに、当社グループの既存サービスとのシナジー創出に取り組みます。また、M&Aの活用は重要な成長戦略の1つに位置付けており、今後も積極的な検討を進めます。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
上記の経営戦略を進めるに当たって、当社グループの対処すべき主な課題は以下の通りです。
①セキュリティリスクに対する管理体制の継続的な強化
当社グループは個人情報等の重要な情報資産を多く扱っており、情報管理体制を継続的に強化していくことが重要であると考えています。現在においても個人情報保護方針及び情報セキュリティ方針を策定した上で、情報資産を厳重に管理する等、個人情報保護に係る施策には万全の注意を払っていますが、今後も社内体制や管理方法の強化・整備を行っていきます。
②優秀な人材の採用・育成と多様性の確保
当社グループの持続的な成長のためには、多岐にわたる経歴をもつ優秀な人材を多数採用し、営業体制や開発体制、管理体制等を整備していくことが重要であると捉えています。当社グループの企業理念や事業内容に共感した優秀な人材が、高い意欲を持って働ける環境や仕組みの構築を進めるとともに、人材の多様性確保にも取り組みます。
③技術力の強化
アナログ情報を正確にデジタル化する技術は、当社グループの競争力の源泉であり、当社グループが手掛けるさまざまなサービスの成長を支える共通基盤でもあることから、継続的な改善、強化が重要であると考えています。優秀な技術者の採用や先端技術への投資・モニタリング等を通じて、国内を代表する技術者集団になるべく、技術力の向上に取り組みます。