有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2020/11/20 15:00
【資料】
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【項目】
124項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1)会社の経営方針
当社創業者が掲げる経営信条は、「商いの原点に忠実たれ」「商いの王道を歩む」であります。当社の経営理念・企業理念・事業理念・行動指針等はすべてこの経営信条から生まれたものであり、当社はこの価値基準に従いビジネスを展開する方針であります。
当社の経営理念は「歯科医療に夢と未来を」提供すること、企業理念は「徹底的な顧客サポート体制と圧倒的な開発力を備えた、ナンバーワン歯科電子カルテメーカーを目指す」ことであります。
当社が「夢と未来を」提供する対象は、顧客である歯科医院とその患者であり、双方の満足度を高める新しいコンピューターシステムやアプリケーションを開発し、これを手厚い顧客サポートで普及させることで業界シェア首位を目指すとともに、歯科医療全体の社会的地位の向上と歯科医院の繁栄に寄与し、もって日本経済の発展に貢献することを基本方針としております。
また当社の事業理念は「サポートなくして販売なし」 「お客さまの笑顔、お客さまの満足が私たちの喜び」「顔が見え、心が触れ合う 」であり、創業者の経営信条を反映させております。さらにこれを具体化した「地域密着のサポート」「精緻なサポート」「最先端の技術と知識を駆使したお客様の為の電子カルテシステムの開発」を行動指針として取り組んでおります。
当社が考える「商いの原点」とは「顔が見え、心が触れ合う」ことであり、この信条・理念を忠実に実践するためには、顧客一人一人と向き合い対話を重ね、信頼関係を構築することが重要となります。そのため当社は、短期的な事業規模の拡大や利殖を追求せず、中長期的な視点での営業拠点の拡大及び顧客数の増加を志向し、緩やかでありますが確たる土台を築いた上で成長・発展する方針です。
(2)経営戦略
当社の経営戦略の根基は、末永い顧客との取引関係の構築であります。現在、2022年度(2023年9月期) を最終年度とする「東和ハイシステム株式会社 中期経営計画2021」を立案し、その達成に向けて下記のような戦略で取り組んでまいります。
(高い付加価値を意識した商品開発)
当社は、新しい技術と知識を駆使して、顧客である歯科医院及びその患者の満足度を高める商品開発に注力します。特にAI(人工知能)等を導入した商品開発や、新型コロナウイルス感染症の影響によるオンライン診療や在宅勤務での業務に対する顧客ニーズの高まりを捉えて、クラウド基盤を活用した商品・サービスの開発投資を行ってまいる所存です。
(独自サービスの提供)
当社は、創業以来、「ソフトウェア三無主義」を提唱しております。一般的なコンピューターシステム業界では、保守料による安定収益を確保するビジネスモデルが採用されておりますが、当社は歯科医院向けパッケージとして歯科電子カルテ統合システムを三無主義により今後も提供する所存です。
(営業拠点の展開)
当社は、西日本を中心に本社を含めた23か所に営業拠点を展開しておりますが、全国的には展開の余地が残されております。そこで、顧客一人一人を個別訪問する直販体制を維持するために必要な人員の採用・育成を強化し、顧客基盤を拡大する方針です。そのためには今後、既存の営業地域に加え関西ブロック及び関東ブロックでのシェア拡大を課題に、人員の投入・新規営業拠点の展開・知名度の向上に取り組んでまいります。
(人材の育成)
上記の営業拠点展開を実現するには、歯科業務、保険診療、自社商品及びIT機器等の幅広い知識を備えた上で、コミュニケーション能力と提案能力の高い人材が必須となります。「サポートなくして販売なし」を事業理念とする当社において、サポート可能な顧客数には上限があり、また物理的にサポートできない遠方に所在する顧客もあります。この状況を打開するためには優秀な人材を一人でも多く確保することが肝要であり、外部採用及び自社内での教育・育成に何より注力する所存です。
(知名度の向上)
当社がより良い人材を確保し、また顧客に対する認知度を向上させるためには、当社の知名度の向上が不可欠です。そのため、広告宣伝活動やデンタルショーなどの展示会への出展を積極的に進める所存です。
(財務的安全性の堅持)
当社のビジネスモデル上、途切れのないサポートを維持することは顧客、患者及び歯科医療全体に対する責任であると認識しております。そのためには今般の感染症の蔓延等の不測の事態が勃発しても、顧客が当社の事業運営の継続性に懸念を抱かないような財務的安全性の確保が重要と考えております。現状、一定の自己資本比率を堅持できておりますが、今後も油断なく取り組む所存です。
(3)目標とする経営指標
当社は、企業価値の向上を目指すにあたり、収益力と業界シェアを重視しております。
重視する目標判断するための指標
収益力営業利益率
業界シェア顧客数

(4)経営環境
当社が直面している経営環境は、制度、業界、顧客の3つの側面があります。
なお、新型コロナウイルス感染症が当社の経営環境に与える影響は、現時点において限定的なものではありますが、先行きは不透明な部分もあり、継続的に注視してまいります。具体的には、プログラム改定売上高等については制度的な変更に伴うものであるため、影響は極めて軽微であります。一方システム売上高については、2020年4月から5月にかけての緊急事態宣言を受けた全国的な訪問自粛により対面営業自粛の影響を受けておりましたが、2020年6月以降、概ね回復していることを確認しております。本書提出日現在、足許で新型コロナウイルス感染症の大きな影響はないと判断しております。
(制度的側面)
わが国の医療制度は、医療費財源を賄う医療保険などの医療保障制度と、病院や医師等に関する医療提供制度の両面で成立しております。このうち医療保障制度の面では、近年の少子高齢化と医療費の膨張から、保険財政の悪化が課題となっております。そこで、2年に一度、厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会等により診療報酬の改定が行われます。特に歯科については、診療報酬の計算が年々複雑化しており、都道府県単位で解釈や表記方法が相違するケースも出ております。
また医療提供制度の側面については、効率的かつ質の高い医療提供体制の構築が叫ばれており、地域における医療及び介護の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築・推進も提唱されております。歯科においても、「認知症施策推進総合戦略」(2015年1月 厚生労働省策定「新オレンジプラン」)における役割(早期発見、在宅医療等)の重要性に注目が集まっております。
(業界的側面)
当社が属する歯科医療業界では、一般的に「歯科材料商」と呼ばれる代理店を通して、歯科医院の運営に必要な器具・備品等を調達することが一般的であります。そのため歯科用レセプト・コンピューターを手掛ける同業他社も、「歯科材料商」に販売業務を委託しておりました。
しかし近年、歯科用コンピューターの役割について、レセプト単独目的の使用から、電子カルテを始めとする種々のアプリケーションとの連携や、一定の条件化ではありますがオンライン診療の容認など、IT技術を歯科医院の運営に活用する素地が整ってきており、当社が提案する歯科電子カルテ統合システムの需要が高まってくると考えております。
また新型コロナウイルス感染症は、歯科治療が濃厚接触に該当するとの認識から、診療時間帯・診療スタッフの員数・診療方法などの見直しの契機となっております。こうした状況のもと、歯科医院運営においても非対面型や非接触型、あるいは自宅で事務処理業務をこなす在宅勤務等にかかるニーズが注目されつつあり、今後、一層のIT化が進展すると期待されております。
(顧客的側面)
当社の顧客である歯科医院は全国に約68千件(出典:厚生労働省「医療施設動態調査(令和2年1月末概数)」)が開業されていますが、医院数は年々減少しております。主な要因としては、歯科医師の高齢化による引退医院数が新規開業医院数を上回っていることによります。一般に引退が始まると言われる60歳以上が、歯科医院全体の30.9%(出典:厚生労働省「2018年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」)を占めていることから、今後も引退医院が増加し、全体として歯科医院は減少するものと予想されております。
一方で、当社は電子化を推進している又は推進する予定の医院を対象顧客と考えております。すなわち、約68千件のうち、電子カルテを一部もしくは完全導入済である歯科医院数の約43千件(厚生労働省「平成29年医療施設(静態・動態)調査上巻」より2017年10月時点での導入済医院数39,344件と2020年までに導入予定医院3,588件の合計)を対象としております。
(5)事業上及び財務上の対処すべき課題
当社が「歯科医療に夢と未来を」を経営理念に歯科医院への提案型営業を推進し、更なる成長を目指すためには、「人材の確保」、「新しい技術を取り入れた商品開発」、「営業拠点の展開」に対処することが必要と考えております。
① 人材の確保について
当社の最大の財産は、「人」であります。当社の営業サポート社員は、歯科医療や保険診療等の電子カルテメーカーとして必須の専門知識、ソフトウェア及びハードウェアに係るITスキル、知識とスキルを駆使して行う説明会講師や顧客ニーズを引き出すコミュニケーション能力の3点が求められます。
従来、当社は、新卒採用及び中途採用の社員に対して入社時の約3か月の入社研修、1年目・2年目の社員を対象としたフォローアップ研修等に取り組んで育成に注力してまいりました。
しかしながら、今後の成長戦略実現のためには、より優秀な社員を一人でも多く確保できるよう採用体制を強化することが必要となります。特に、新型コロナウイルス感染症の蔓延からリクルート活動もWEB面接が主流となるなどの変化が現れております。こういった時代の変化に応じて、リクルート活動の拡充を図ってまいります。
② 新しい技術を取り入れた商品開発について
当社はこれまで、電子カルテ機能とレセプト機能を備えた基幹システムに、タブレット端末を活用したインフォームドコンセント機能及び歯科医院の運営管理の効率化を推進する機能を融合させ、これらを一元的に管理・運営する統合システムを独自に開発し、2020年2月には受付と精算を担う全自動精算機など顧客ニーズに応えた商品を提供してまいりました。
しかしながら現在、新型コロナウイルス感染症の影響により、非対面型・非接触型のツールや、在宅での事務作業が可能となる業務推進ツール、そして限定的ではありますが解禁されたオンライン診療等に高い関心が寄せられております。さらに、厚生労働省による「オンライン資格確認システム」(注)の導入も推進されており、今後の歯科医療業界は一層の電子化の進展が見込まれると予想されます。特に歯科医院においては、従来のカルテ、レセプト、オンライン診療、経営分析等を医院運営の業務効率改善の観点から一元的に管理したいとする需要が高まると予想され、ビジネス環境は大きな転換点を迎えていると考えております。
このようなニーズに対して当社は、AI(人工知能)を活用した新商品や、クラウド基盤を経由した電子カルテ統合システムと各種のアプリケーションやツールとの連携を図ることで対応することが重要と考えております。2020年6月には、歯科医院自ら新型コロナウイルス感染症の影響の程度を分析することも可能とするアプリケーションとして「Doctor アシスト Pro」をリリースいたしましたが、より一層の利便性ある商品・サービスの開発に注力する所存です。
具体的には、スマホやタブレットを活用した予約システムや経営分析システムの開発、SNSとの連携による医院と患者の新しいコミュニケーションの実現、スマホ診察券の導入、オンライン診療機能などを備えたクラウド型統合システムの開発が重要と考えております。また、「オンライン資格確認システム」への対応として「Hi Dental 資格確認パック」(資格確認端末PC、連携ソフト、電子カルテ連動作業) のリリースを企画しております。
(注)オンライン資格確認システムについて
厚生労働省が推進する「オンライン資格確認システム」とは、マイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号・番号により、オンラインで資格情報の確認ができることをいい、現在、2021年3月開始のスケジュールに沿って推進されております。
③ 営業拠点の展開
当社は西日本を中心に営業拠点を展開してまいりました。当社の営業はサポート業務と一体であることから、更なる成長を目指すためには、十分な人材を教育・育成した上で、既存の営業地域の深耕だけでなく、多数の対象顧客が開業している関西ブロック及び関東ブロックでのシェア拡大が必要です。
まず関西ブロックでは現在、大阪市、神戸市、姫路市、堺市と展開しており、今後も新たな営業拠点の展開を図ってまいります。
また関東ブロックにおいては、レセプト機能を主体に運用している歯科医院が多いことから、電子カルテ統合システムを提供している当社及び当社商品の認知度は低く、これが事業展開の障害の一つとなっております。そのため、広告宣伝活動及びセールスプロモーションを積極的に行い、歯科医院への個別訪問活動の効果を高めていくことで、新たな営業拠点の展開が可能となる土壌を整えてまいる所存です。