有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/08/24 15:00
【資料】
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【項目】
134項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針・経営戦略等
当社は、「社会に貢献する企業として、高品質の商品とサービスの提供により、顧客満足度を高め、社員一人一人が高いモラルを維持し、社会にとってなくてはならない会社を目指します。」という理念のもと、お客様をはじめとする全てのステークホルダーに対し、常に最適な商品・サービスを提供するため、先進的で創造性溢れる技術に挑戦し、成長・発展する企業を目指しております。
こうした経営方針の下、当社は多店舗展開を行う小売事業者を主なターゲット顧客とし、キャッシュレス決済に係るシステム開発と決済サービスの提供を行っております。
キャッシュレス決済の普及は当社にとって追い風となっておりますが、更なる収益の向上と持続的な成長を確保するため、利用いただくカード会社加盟店にとって導入が容易(ワンストップ)で低コストとなるクラウド型の決済ASPサービスの拡充に努めてまいります。また、自社で決済システムを管理・運用を行っている既存顧客についても、リプレースを迎える際に決済ASPサービスに誘導することにより、ストックビジネスであるアウトソーシングサービス売上を伸長する戦略を行っております。
① 情報システム開発
<成長戦略>a.コンタクトレス決済などの多様化する決済手段の対応により、幅広い顧客層への普及をめざす。
b.当社独自の標準決済端末の開発と展開により開発コストの低減と高性能端末の提供を進める。
② アウトソーシングサービス
<成長戦略>a.当社が保有する国際ブランド決済ネットワーク(注1)接続資格を活用することにより、カード会社加盟店にこれまでより廉価な決済環境を提供するとともに、トランザクションフィービジネスとすることで収益の増加を目指す。
b.決済ASPサービスにおける決済手段拡張により、キャッシュレスシーンを拡大させ、一層のキャッシュレス決済の普及に貢献する。
(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、持続的な成長と企業価値向上を図るため、主な経営指標として売上高及び売上高営業利益率を重視しております。また、経営基盤の安定化に資するアウトソーシングサービス売上の成長率を経営指標としております。算出は以下の方法により行っております。
経営指標算出方法評価、モニタリング
売上高月次、四半期、年次
売上高営業利益率営業利益÷総売上高四半期、年次
アウトソーシングサービス売上の成長率前期比、前年同期比四半期、年次

また、取引先とエンドユーザーを継続的に増加させること並びに契約額の大きい取引先を獲得することがアウトソーシングサービス売上の継続的な成長の支えであることから、アウトソーシングサービスのエンドユーザーの契約数及び月額平均単価について、それぞれ重視しております。

(3) 当社の強み
① 技術力・開発力について業界内で一定の評価
当社は開業以来25年間、キャッシュレス決済システムの開発と決済サービスの提供を継続的に行なってきたことから、技術力・開発力については業界内で一定の評価を頂いていると認識しております。中でも大手システムインテグレータに当社製品への通信接続が簡易に実現できるモジュールを提供したことや、ソフトウェアのパッケージ化によってユーザーがシステムの利用を早期かつ安定的に実現できる環境を整えてきたことから、引き合いを受けるケースがございます。また国内の決済ネットワーク運営法人である株式会社エヌ・ティ・ティ・データがサービス提供するCAFIS(注2)や株式会社日本カードネットワークのCARDNET(注3)に対し、当社パッケージが製品登録されている事からも信用と評価に繋がっていると考えられます。
(注)
1 国際ブランド決済ネットワーク :クレジットカード決済などの統合ネットワークシステムの一種のことを言います。全国のカード会社加盟店(お店・企業)とクレジットカード会社や金融機関をつなぎ、取引や決済を処理しています。各国際ブランドが運営しており、ビザはVisaNet(ビザネット)、マスターカードはBANKNET(バンクネット)という決済ネットワークを運営しています。世界各地で標準的に利用されていますが、日本ではほとんどのクレジットカード決済が以下に記載するCAFISまたはCARDNETを利用して行われています。
2 CAFIS :クレジットカード決済などの統合ネットワークシステムの一種のことを言います。NTTデータが運 営しており全国のカード会社加盟店(お店・企業)とクレジットカード会社や金融機関をつなぎ、取引や決済を処理しています。日本国内専用の決済ネットワークとなっております。
3 CARDNET:クレジットカード決済などの統合ネットワークシステムの一種のことを言います。JCBグループの株式会社日本カードネットワークが運営しており全国のカード会社加盟店(お店・企業)とクレジットカード会社や金融機関をつなぎ、取引や決済を処理しています。日本国内専用の決済ネットワークとなっております。
② 開発から保守までのワンストップサービス
システム開発やサービス構築の設計から開発までを内製しており、更にヘルプデスクや保守サービス、運用サポートも自社内で運営していることから、システムの導入から運用までをワンストップで提供可能となっております。さらに、ユーザーの環境に合わせたカスタマイズ対応も自社内で可能なことは強みとなっており、顧客の安心感や満足度は高いと自負しております。
③ 安定的な経営を支えるストック売上
当社のユーザーに提供している決済ASPサービスや保守運用サービスは、端末台数に応じた定額料金制であり、サブスクリプション方式であるため、安定した売上を確保しております。アウトソーシングサービス売上は、2016年6月期以降、毎年10%程度の成長を続けておりますが、今後は新たなサービスの投入により一層の成長を見込んでおり更に安定的な経営が図ることができると考えております。
④ 高いセキュリティと信頼性
キャッシュレス決済では、顧客(消費者)の決済に関わる情報を取り扱います。これが漏えいすると、不正使用につながりその被害は甚大になる可能性があります。当社は情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格であるISO/IEC 27001(ISMS)やPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)を取得・準拠し、不正アクセスや情報の不正使用、情報漏えいなどセキュリティインシデントのリスク低減に努めております。これらによって当社のセキュリティレベルは高く評価され、カード会社加盟店やシステムインテグレータ、カード会社などから高い信頼を得ております。
⑤ 多様な決済端末への対応
当社は国内外の多種多様な決済端末、POSシステムとの接続実績がありカード会社加盟店のニーズに応えてまいりました。POSシステムを開発するシステムインテグレータへ当社サービスへの接続プログラムを無償で提供することにより、リーズナブルな価格で且つ短期間にシステム構築を実現させることを可能にしております。そのため、カード会社加盟店が使用する決済端末やPOSシステムのメーカーを問わず信用照会データや債権データを中継し決済を成立させるシステムとなっております。
⑥ 国際ブランド決済ネットワーク接続
当社は国際ブランドであるVISAとの契約によりVISAの決済ネットワークであるVISANETに直接接続する権利を有しております。この契約により国内専用の決済ネットワークの利用を迂回するシステムを構築することで、カード会社やカード会社加盟店のコスト負担を低減することが可能となります。国際ブランド決済ネットワーク接続は、今後は当社にとって大きな強みになると考えております。
(4) 経営環境
当社は、情報サービス産業に属しており、中でもクレジットカード等によるキャッシュレス決済システムの開発やクラウド方式による決済ASPサービスの提供を中核事業としております。日本におけるキャッシュレス決済の比率は、2019年の時点で26.8%(注)となっており、韓国97.7%(注)、中国70.2%(注)といったキャッシュレス先進国と比較すると大きく出遅れています。こうした現状を受け、経済産業省はキャッシュレス決済比率を40%、将来的には世界最高水準の80%を目指す(注)という方針を打ち出しております。
また、2020年に開催予定であった東京オリンピック、パラリンピックに向け、クレジットカードの安全性を高めインバウンド需要を取り込むことを目的として改正割賦販売法が施行されました。これにより、2020年3月を完了時期として、カード会社加盟店がカード情報を保持できないようにすること、クレジットカード及びこれを取り扱う決済端末は全てIC化すること(両者を合わせて「ICクレジット対応」といいます)、カード情報を保持する事業者はPCI DSSへ準拠すること等が定められました。更に2019年10月1日の消費税率引き上げに伴うキャッシュレス・ポイント還元事業がスタートしました。これらキャッシュレス化推進とカードセキュリティ向上への取り組みは、当社にとって特需ともいえる急激な受注の増加につながり、2020年6月期は創業以来最高の売上と営業利益を計上しております。キャッシュレス市場はオンラインショッピングを中心に利用率・利用額ともに増加傾向にあり、今後も利用シーンの多様化が進み、更なる市場規模の拡大が見込まれるものと想定しております。
一方で、決済手段は多様化の一途をたどっており、スマートフォンを利用したバーコード決済やQRコード決済(総称して「コード決済」といいます)や、乱立と言われるほどの多種多様な電子マネーによる決済が普及し大きな環境の変化も起きております。これらの変化に柔軟な事業戦略を有していること、そこで求められる新技術やノウハウを常に先行して蓄積していること、それらを可能にする体制が構築されていることが重要であると考えております。
一方、足元では新型コロナウィルス感染症の世界的な拡大が続き、経済環境の先行きは不透明な状況が続いております。現時点において大きな影響はありませんが、引き続き状況を注視してまいります。
(注)
各国のキャッシュレス決済比率の状況(2017年)
出典:世界銀行「Household final consumption expenditure(2017年(2019/12/19更新))」
BIS「Redbook(2017年)」
「Euromonitor International」
一般社団法人キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ2020」
成長戦略フォローアップ(令和元年6月21日閣議決定)
経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」(平成30年4月11日 キャッシュレス検討会策定)
(5) 中長期的な経営戦略
経営環境に記載した通り、キャッシュレス市場は急速な勢いで拡大を続けております。しかしながら、同時に競合する事業者の参入も加速されることとなり、差別化は喫緊の課題であると認識しております。創業以来築き上げてきたノウハウ並びに顧客からの信用をベースに、多様化する決済手段への柔軟な対応と、顧客の利便性・経済性を一層高めるためのサービスを追求することにより、キャッシュレス決済市場の拡大とともに売上を伸長させてまいります。
他方、新型コロナウィルス対策としては、従業員及びその家族の健康に配慮すべく、在宅勤務制度導入等により事態の長期化に備えることで、経営基盤の安定化を図ることが重要と考えております
① ストック収益の拡大
当社のサービスは前述のとおり「情報システム開発」及び「アウトソーシングサービス」の両輪であります。景気動向による顧客のIT投資意欲に左右される「情報システム開発」は時に大きな商談をもたらしますが、変動のあるフロー収益であり開発要員の確保や売上計画における不確定要素となります。これに対し、「アウトソーシングサービス」は定期契約に基づくストック収益であり、経営基盤の強化につながっております。過去に「情報システム開発」として納めたシステム等が更新を迎える時は、当社の「アウトソーシングサービス」の基軸であります決済ASPサービスに誘導することで顧客の負担を軽減するとともに当社のストック収益を増強してまいります。また、以下に掲げます新たなサービスを追加することで他社との差別化を図り、顧客ニーズに沿ったサービスの提供に努めます。
② 国際ブランド決済ネットワーク接続によるカード会社加盟店コスト低減とトランザクションフィー売上の強化
当社は国際ブランドであるVISAとの契約によりVISAの決済ネットワークであるVISANETに直接接続する権利を有しております。現在我が国においては国内専用の決済ネットワークが運用されており、そこには国内のカード会社が接続され信用照会や債権データの取引が行われております。歴史的に見れば国内専用の決済ネットワークが前述のVISANETに先駆けて構築された為でありますが、世界的には稀な仕組みであり、結果的に我が国の決済コストを高めています。カード会社加盟店の手数料が他国より比較的高額であるのはこの事実と無関係ではありません。当社の決済ASPサービスは現在国内専用の決済ネットワークに接続されておりますが、この契約を有効的に活用し、2022年4月よりVISANETへ順次切り替えてまいります。これによりカード会社の運用コストを引き下げ、ひいてはカード会社加盟店の手数料などのコスト低減を進めることにより、当社の決済ASPサービスを契約するカード会社加盟店を増加させる計画です。
一方、カード会社(アクワイアラ)がこれまで負担していたトランザクションフィー(取引1件ごとに加算される手数料)は国内専用の決済ネットワーク事業者に支払われておりましたが、この分が減額されることから、その一部を当社収益とすることで、ストック収益の増加につなげます。
③ 研究開発から創出する新事業
既存ビジネスだけにとらわれると、市場のシュリンクまたは様変わりによって持続的な成長が阻害される恐れがあります。そのため、研究開発に力を入れ、以下の2つの柱で取り組んでまいります。
a.既存ビジネスの改善と新たな付加価値の創造に係る開発
b.大学研究機関との共同研究による実証研究開発
北海道大学並びに専修大学との共同研究を行っており、決済にまつわる各種情報の流通理論や地域通貨を研究対象とし、各種実証実験にも取り組んでおります。
(6) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社では、キャッシュレス決済分野に特化した高品質なサービスの提供により、業界における存在価値を高めるため、以下の課題に取り組み、経営基盤の強化を図ってまいります。
① システム開発力と競争力の強化
当社は、長年蓄積されたノウハウを生かし、多様なキャッシュレス決済ニーズに対応したシステムを提供しております。情報通信の技術革新は日進月歩であり、常に新技術、新サービスが出現する状況です。当社は競争力のある商品・サービスをお客様にご提供するために、それらの技術やサービスをタイムリーにキャッチし、先行して対応することが重要と認識しております。システム開発においては、プロジェクトの見える化を推進し、問題点の把握・早急な対応策の実施等をとおして、品質、コスト、納期の三面からの管理に取り組んでおります。また、リリース時の検証に十分な時間をかけ、安全性と信頼性の高いサービスの提供に取り組んでまいります。
② 優秀な人材の獲得及び育成
当社は、新しい技術への対応が常に要求される事業を営んでおります。最先端の技術を習得し、高度な技術力に裏付けられた、顧客にとって使いやすく、顧客業務の効率化に資する商品・サービスの提供を目指しております。決済端末やサーバー関連の技術力及び高品質なサービスの企画・開発力が競争力の源泉になると認識しております。その確保のためには、優秀なスタッフと、それらによって構成された開発体制が必要になります。今後の当社の成長のため、積極的な人材採用活動を進めるとともに、人材育成のために外部機関などを活用し計画的に研修を行ってまいります。
③ サービス品質の向上
当社は、サービスの一層の品質向上に向けて、開発技術の精錬に努め、トラブルや不具合などが発生しないよう保守及び運用サービスを強化すると共に、品質保証による信頼を獲得、維持することが重要であると考えております。そのため、品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善するために要求される国際標準規格であるISO 9001の認証を取得しておりますが、引き続き、品質管理を徹底し、企業価値の向上に努めてまいります。
④ 情報セキュリティの強化
当社が提供するシステムやサービスの顧客数が増加しデータの規模が拡大するのに伴い、外部からの不正な手段による侵入等によって、決済情報やクレジットカード情報等の重要なデータが消去される、あるいは、外部に流出するリスクも増加することになります。これらの情報の保護等の体制強化のため、当社は情報セキュリティマネジメントシステムの国際標準規格であるISO 27001(ISO/IEC 27001)及びクレジットカード業界のセキュリティ基準であるPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standards)の認証を取得しておりますが、在宅ワークの普及や、情報犯罪の高度化により、情報漏洩またはコンピュータウィルスの侵入リスク等に晒されていることを認識しております。そのため、情報セキュリティ事務局を置き、情報管理やアクセス管理を実施するとともに、情報の取扱いに関する教育・訓練等を含め、情報セキュリティ管理体制の継続的な強化に努めてまいります。
⑤ 内部管理体制の強化
当社は、現在成長途上にあるため、企業規模が比較的小さく、内部管理体制も企業規模に相応の体制となっております。そのため、内部管理部門の強化を図ってまいります。コンプライアンスに関する社内研修や定期的な内部監査の実施によるコンプライアンス体制の強化を行い、コーポレート・ガバナンス機能の充実等を図ってまいります。
⑥ 財務基盤の強化
当社は、事業の拡大に伴う運転資金の増加に対応するため、主として金融機関からの借入により調達してきたこと、及び第25期においては、新型コロナウイルス感染症拡大に備えたことから有利子負債が増加傾向にあります。有利子負債の圧縮と自己資本比率の向上により財務基盤を強化し、企業経営の健全化に努めてまいります。