有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/11/19 15:00
【資料】
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【項目】
120項目

対処すべき課題

当社の経営方針、経営戦略等は次のとおりであります。
また、次の文中の将来に関する事項は、提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営理念及び経営方針
当社は、「グリーンテクノロジーを育み、地球と共に歩む」を経営理念(ミッション)として掲げ、研究開発事業とライセンス・製品販売事業の2つのビジネスモデルを軸として、世界中のバイオリファイナリープラントにおいて当社の技術が使われ、「創造的な技術力、提案力でバイオリファイナリー分野を牽引し、常識を変革する企業になる」ことを目指しております。
(2) 経営戦略等
当社の成長は、次の事項により実現してまいります。
① 各化学品市場への参入
各化学品市場へ段階を経て参入していく計画であり、1つ目のフェーズとして、アミノ酸に代表される食品添加物及び飼料添加物、あるいは化粧品原料等の現在でも発酵により生産されている製品の市場において、当社技術をライセンス供与し、ライセンシー企業の製品シェアの拡大を目指しております。
2つ目のフェーズとしては、市場が拡大しているバイオ樹脂原料を対象として、既存の石油製品と比べてコスト競争力のある製品の生産技術を提供し、今後、この分野でもプラットフォーマーとなることを目指しております。
3つ目のフェーズとしては、食品添加物や化粧品原料といった各製品分野において市場価格が高価格帯である、高付加価値品について、当社がバイオリファイナリー分野で蓄積してきたノウハウを使って自社販売で参入し、企業成長を加速させてまいりたいと考えております。
また、4つ目のフェーズとして、バイオ燃料及び可食バイオマスを利用した製品を、更なる成長市場として考えております。これらは、現時点では石油由来の既存品とバイオマス由来製品、可食バイオマス由来の既存品と非可食バイオマス由来製品とを比較して、既存品が安価かつ大量生産が容易であることから、バイオマス由来製品への代替が進んでおりませんが、政府の気候変動対策やSDGsの達成のための法規制等により、企業におけるCO2の削減等の義務が強化された場合には、バイオマス由来の製品の需要が拡大すると想定しております。当社といたしましては、そのような状況を見据え、技術実証を兼ねて事業化に備えた研究開発を進める方針であり、日本発の国産バイオジェット燃料の生産や、ポプラから作った化粧品用エタノールの開発、販売を実施しております。
② パイプラインの拡大
パイプラインの拡大にあたって、1つ目の方針として、新たな製品を生産する菌体の開発(新規)と、既に開発した生産性の高い菌体を基にした類縁製品を生産する菌体の開発(波及)を強化してまいります。
また、2つ目の方針として、当社の技術の多くは、既存の発酵設備を利用できることから、国内外の既存設備で、同時並行で多数のパイプラインの事業化を進めることを目指しております。

(3) 経営環境
2019年6月11日、内閣府(統合イノベーション戦略推進会議)により「バイオ戦略2019」が公表されました。
「バイオ戦略2019」においては、先進国の多くが高齢化、人口減少時代に入るとともに、新興国も労働人口はすでにピークアウトして先進国と同様の課題を抱えつつあり、いずれは世界中が環境問題の深刻化、食料確保の困難化、医薬品需要の増加等の共通した社会課題を抱えることになることを警鐘しております。これらの社会課題の克服につき、持続可能性、循環型社会、健康がキーワードとなると分析し、目指すべき「循環型社会」、「持続的一次生産型社会」、「バイオ化社会」、「医療・ヘルスケア連携社会」の4つの社会像とその実現に向け注力する9つの市場領域が示されております。
そして、2020年6月26日、「バイオ戦略2020(基盤的施策)」が公表され、バイオ戦略2019に沿って遅滞なく取り組むべき基盤的施策(データ関連、バイオコミュニティ形成関連等、制度整備関連等、司令塔機能の強化)が打ち出されており、2021年1月19日には「バイオ戦略2020(市場領域施策確定版)」により、「高機能バイオ素材・バイオプラスチック」や「有機廃棄物・有機排水処理」、「持続的一次生産システム」、「生活習慣改善ヘルスケア、機能性食品等」等の市場領域ごとの市場規模目標が設定され、2030年のバイオ市場規模総額92兆円が掲げられております。
米国や欧州等では、すでにバイオテクノロジーと経済活動を一体化させた「バイオエコノミー」という概念に基づく総合的な戦略のもとに技術開発や政策が推進されております。経済協力開発機構(OECD)の公表する「The Bioeconomy to 2030(2009年)」によれば、世界のバイオエコノミーの市場規模は2030年にOECD加盟国のGDPの2.7%にあたる約1.6兆ドルに到達するとし、2000年代半ばと比較して約3倍の成長が予想されます。まだ一般的に「バイオ」で連想されるのは健康、医療及び農業でありますが、2030年に向けては燃料や樹脂等の工業用途が増加し、市場規模のうち工業分野の比率は最も大きい39%(農業分野36%、健康、医療分野25%)、6,000億ドルと予測されております。
米国及び欧州を中心に微生物利用の工業化の競争が激化しておりますが、現在において微生物の効率的、安定的な利用が可能な微生物の開発は、世界においてもいまだ停滞しており、当社のバイオリファイナリー事業はこの新興市場へ先駆的に乗り出すものであります。
日本においては、国際民間航空機関(ICAO(International Civil Aviation Organization))が掲げる2050年時点での航空業界の二酸化炭素排出量半減の目標を受けて、経済産業省や国土交通省により東京オリンピックを指標としたバイオジェット燃料によるフライトの実現が推進され、また、世界の廃プラスチックの受け皿となっていた中国における2017年からの段階的な廃プラスチックの輸入制限、海洋プラスチック問題に端を発し、欧州を主体に広がりつつある使い捨てプラスチックの規制の潮流が樹脂を取り扱う業界各社に及んでいるところであります。
また、「バイオエコノミー」と並行して、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」という概念が取り上げられ、これまでは廃棄物としてみなされていたものを有用物に変換することが求められています。当社は、非可食バイオマスを原料として、バイオリファイナリー技術により、バイオ化学品に変換する技術、ノウハウを有しており、これらを使った新しいソリューションを提供してまいります。
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
優先的に対処すべき財務上の課題として、設立時より研究開発のための設備や人件費等を先行投資しており、2020年9月期までにおいては継続的な営業損失を計上しております。研究開発サービスを提供する、当社のような技術開発型ベンチャーにおいては、商用化可能な技術基盤の確立のための設備投資を含む研究開発費用が先行して計上されるに伴って、赤字計上となることに特徴があります。
当社においては、上述の先行投資の結果、2019年9月期以降、大型の研究開発契約の締結による研究開発収入やライセンス契約の締結によるライセンス一時金等を計上し、2020年9月期の売上高は前期比65.5%増加の実績となっており、営業損失率は改善してきております。
今後も、技術基盤の強化のための研究開発活動への投資を継続するとともに、次の事業上の課題である「開発から商用化というビジネスモデルの確立」及び「成長を支える体制の確立」に取り組むことで、中長期的な利益及びキャッシュ・フローの最大化に努めてまいります。
また、優先的に対処すべき事業上の課題は次のとおりであります。
① 開発から商用化というビジネスモデルの確立
当社は、バイオリファイナリーという新しい市場で生き残り、成長していくために、自社で開発、生産、販売するという単純なビジネスモデルではなく、様々なニーズや課題を抱える他社との研究開発を実施し、事業化可能な技術レベルまで発展させ、最適な商用化の形(ライセンス契約又は自社販売)を選択するというビジネスモデルで収益を確保してまいります。
そのため、中期目標とし、今後3年間において、次の項目を実施してまいります。
a 国内外企業との研究開発の推進
社会が求めるバイオ化学品を選び出して、その開発のために最適なパートナー企業を探し出し、研究開発を進めております。特に最近では、地球環境問題等に対する関心が高まり、非石油由来のバイオ樹脂や生分解性のバイオ樹脂に対するニーズが強まっているものと考えております。また、バイオマスを原料とする場合、原料調達費、人件費、物流コスト、供給安定性等から、低コスト化のためには、海外での商用化がカギを握っております。さらに、近年、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」ということが叫ばれ、廃棄物の有効利用が求められており、当社が有している非可食バイオマスの利用とバイオリファイナリーの知見を使ったソリューションを提供してまいります。
こうした状況を踏まえ、今後3年間において、バイオ樹脂原料の研究開発、海外企業とのバイオ化学品の研究開発、食品残渣・農業残渣由来のバイオ化学品のパイプラインを実施してまいります。
b 開発製品の商用化
継続的かつ安定的な収益の確保のためには、研究開発費による一時的な売上だけではなく、開発した技術及び製品の商用化(ライセンス契約、共同出資会社による生産及び販売、又は自社販売)が重要であります。製品の価格、用途、市場規模、パートナー企業の有無等の状況に応じて、どの形態が最適かを判断し、商用化を進めてまいります。
具体的には、今後3年間において、既に開発に着手している、新規アミノ酸、非可食バイオマス利用及び食品向け素材のパイプラインの商用化を計画しております。
c 商用化済製品の収益拡大
当社は、既に2種類のアミノ酸のライセンス、並びに化粧品用エタノールの自社販売という形で商用化を実現しており、これらの商用化済製品からの収益の拡大にも取り組む必要があります。
具体的には、今後3年間において、改良技術の提供等を通じたライセンシー企業の製品の売上高拡大によるロイヤリティ収益の拡大を図ります。
② 成長を支える体制の確立
当社が「バイオリファイナリー産業における技術プラットフォームを提供する企業」となるためには、短期間で大きな成長を実現していく必要があります。そのためには、事業の拡大を支える体制を確立する必要があります。そのため、中期目標として今後3年間において、次の項目を実施してまいります。
a 内部統制システムの構築
規程類の整備とその適正な運用、必要となる組織の新設及び変更並びに適切な人員の採用及び配置、予実管理及び決算体制の整備、会計システムのワークフローの確立及び人的作業からシステム制御への移行、内部監査の実施、リスク及びコンプライアンス管理の実施等を実行して、法令に準拠し、また当社の事業構造に適応した内部統制システムの構築を進めてまいります。
b 人材の確保
世界的な石油資源からバイオマスへの転換の波による、大企業におけるバイオプロセスの研究開発への投資や少子化による研究者の絶対数の減少等により、研究者は現在売り手市場であると考えております。当社は技術開発型ベンチャーであり、独自の技術開発が事業の根幹となることから、優秀な研究者の確保が必要不可欠であります。
また、上述の内部統制システムの構築や、適時開示及びIR等、付加的業務への対応のため、企画、管理部門についても増員が必要であり、適時の採用活動を行っていきます。
c 研究施設及び設備の充実
当社のビジネスモデルの特徴として、自ら大規模な製造設備を持たないことで、大きな設備投資を必要としないことにありますが、成長のためには、多くの製品の開発を行う必要があり、人員の拡大に伴う研究施設の拡張、発酵槽等の研究開発設備への追加投資が必要であります。また、研究開発の迅速化のための自動洗浄機や高速分析装置等を導入することを計画しております。
d 当社の認知度及び信用力の向上
研究開発は、必ずしも目標値を達成し、成果を確約するものではなく、また新規技術は市場における実績も少ないことから、取引先の拡張にあたっては、当社の認知度及び信用力を向上させ、当社の技術に対しても信用を持たせることが重要であります。
当社は、商用化実績を着実に積み上げるとともに、上場による知名度の上昇及び企業としての信頼の獲得を目指します。
③ SDGsへの取組み
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、2015年9月開催の国連サミットで加盟国により採択された、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標であり、17のゴール(目標)と169のターゲットから構成されます。
当社の事業は、17のゴールのうち次の6つの達成に寄与するものと考えており、当社の事業成長が持続可能な社会の実現に繋がることを志しております。
産業と技術革新の
基盤をつくろう
(目標9)
:当社独自のバイオリファイナリー技術は、様々な社会問題の解決に貢献してまいります
つくる責任
つかう責任
(目標12)
:当社の技術により、廃棄物から化学品を作り、廃棄物削減に貢献してまいります
エネルギーをみんなに
そしてクリーンに
(目標7)
:当社の技術により、石油燃料をバイオ燃料に置き換えることで、クリーンエネルギーの実現に貢献してまいります
飢餓をゼロに
(目標2)
:当社の技術により、可食バイオマス由来の化学品を
非可食バイオマス由来に置き換えることで、食料問題と競合しない社会の実現に貢献してまいります
気候変動に
具体的な対策を
(目標13)
:当社の技術により、石油由来の化学品を
バイオマス由来に置き換えることで、CO2を削減し、カーボンニュートラルの実現に貢献してまいります
海の豊かさを
守ろう
(目標14)
:当社の技術により、生分解性樹脂の原料となる化学品を
バイオマス由来に置き換えることで、海洋プラスチックの問題解決に貢献してまいります

※ SDGsのロゴ及びアイコンについては、国連本部へ使用許諾の申請中です。
(5) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、バイオリファイナリー事業により、今まさに新たな市場を作りだしている過渡期であります。
市場成長の初期段階において先駆者として実績を積むことは、当該市場において高い優位性に繋がることから、第一に売上高を経営指標とし、パイプラインの拡大を基盤とする販売実績の増加を目指しております。