有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2023/05/19 15:00
【資料】
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【項目】
129項目

対処すべき課題


文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
①ミッション
当社は「先端技術を、経済実装する。」をミッションに掲げ、AIをはじめとした新たなソフトウェア技術を、いち早くビジネスの現場にインストールし、次世代の産業創出を加速させることを目的として事業を展開しております。
②バリュー
当社は上記のミッションを実現するために、4つのバリューを設定して行動しております。
1. Client First - すべてはお客様のために
お客様に最高の価値を提供し、期待を超えた感動を追求しよう。
2. Top Speed - 爆速、その先の成長
スピード感ある判断・行動を通じて、高い成長性を実現しよう。
3. Scientific Mindset - 科学者たれ
事実やデータに対して素直に向き合いながら、常に挑戦しよう。
4. One Aidemy – 信頼と尊敬
ミッションを達成するために、全員の力を合わせよう。
(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、より高い成長性と収益性を実現するため、売上高・売上高成長率、売上総利益・売上総利益率、営業利益・営業利益率を重要な経営指標と位置づけ、各経営課題に取り組んでいます。
デジタル技術内製化に向けて必要なデジタル人材の育成支援を行うオンラインDXラーニング「Aidemy Business(アイデミービジネス)」では、社内でデジタル人材を育成したいエンタープライズ企業が主なターゲット顧客であり、数日間のトライアルを実施した上で本導入していただく販売形態であります。売上の計上方法については、「Aidemy Business」、「Aidemy Premium」それぞれの契約金額について、サービス提供期間で按分し、計上しております。また、テーマ選定、PoC開発、システム開発、運用までの全ての領域を「顧客伴走型」で支援する「Modeloy」では、顧客企業側で育成されたデジタル人材と、当社のプロフェッショナル人材が協働してプロジェクトを進行するプロジェクト伴走型支援を実施しております。
そのため、事業運営上重視する経営指標は、長期継続顧客数をKPI(Key Performance Indicators)としております。長期継続顧客数は、当四半期を含む過去4四半期間連続でサービス契約中の顧客企業数と定義しております。
サービス契約継続中の「長期継続顧客数」の推移(単位:社)
2021年5月期2022年5月期2023年5月期
1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q
長期継続顧客数25273645556478848794111

法人向け事業及び個人向け事業の売上高及び全社営業利益の推移(単位:百万円)
2021年5月期2022年5月期2023年5月期
1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q
法人向け売上高8292115125173221235284324351343
個人向け売上高4435466162565269747363
営業利益△32△41△50△56△114463718593158

(注)表中の金額は百万円未満を切り捨てとしているため、各期の売上高及び営業利益の金額の合計とは一致しませ
ん。
(3) 当社の特徴と優位性
①AI/DX市場の成長性及び事業成長を後押しする内製化ニーズの増加
近年、デジタル技術の活用は特に注目されており、そのデジタル技術を駆使するリテラシーの重要性、デジタル人材の育成の必要性が説かれることが多くなっております。近い将来、内閣府や経団連が提唱する"Society5.0"社会になると、どのような業種・業界であってもAI/DX人材が必要となり需要が高まると考えられ、AI/DX市場がさらに拡大すると予測しております。
当社ではAI/DXというテーマで、特にエンタープライズ企業に対して、デジタル技術の内製化を支援するアプローチを実行しております。日本だけでIT人材が78.7万人、AI人材が12.4万人不足すると言われており(出所:「みずほ情報総研 IT人材需給に関する調査報告書2019年3月」)、人材の質にも不足感があるという調査結果(出所:「IPA社会基盤センターIT人材白書2020」)が出ております。
特にコア技術に近い領域に対しては内製化の動きが見られ、DX取り組み企業の約7割は内製化を進めているというデータもあります(出所:「IPA社会基盤センターIT人材白書2020」)。当社は顧客企業内に必要なリソースや人材を揃えた上でシステム開発の内製化を支援しております。
②プロダクトとソリューションを両輪としたビジネス
当社のAI/DXプロダクトとAI/DXソリューションは相互にシナジーを発揮することで好循環するビジネスモデルであります。顧客企業にとって始めやすい価格であり導入ハードルが低いプロダクトである「Aidemy Business」をまず導入していただくことで、強固な顧客基盤を構築することが可能になるため、ドアノックツールとして機能しております。その上で、顧客企業のニーズやデジタル人材育成のノウハウが当社に蓄積されていきます。
デジタル人材育成に対する顧客企業の期待は、育成された人材が社内で活躍し、新たな価値を創出することであり、そのニーズに対して「Modeloy」を通じたサポートをすることでビジネスの共創が可能であります。当社のプロフェッショナル人材と共同で開発することで、当社も顧客企業の属する業界特有の課題を把握でき、顧客企業との強い信頼関係も構築できます。そして共同のプロジェクトを通じて得られたノウハウやナレッジを当社のプロダクトにも還元させ、さらに次の新規プロダクト開発に活かしていくことが可能であります。実際にそのようなノウハウやナレッジを「Aidemy Business」のコンテンツ制作に還元しており、また「Aidemy Business」に続く新規プロダクトの開発も進めております。
③プロダクトアプローチに強みを持つユニークなモデル
当社はAI/DXプロダクトの売上高比率が約72%(2023年5月期第3四半期累計期間)であります。特に「Aidemy Business」という強力なプロダクトで、当社サービスの導入ハードルが低いことが強みであります。当社からすぐにサービスを提供でき、その後プロダクトを通じて顧客企業との長期接点が期待できます。
さらに、プロダクトを提供する中で顧客企業から課題をヒアリングでき、特定した課題をオーダーメイドで解決するソリューションを提案可能な体制となっております。ソリューション提供で得られたナレッジ・ノウハウをプロダクトにもフィードバック可能であり、サービスの起点がプロダクトにあることがユニークなポイントであります。
収益構造も分散しており、「Aidemy Business」における上位10社累計の売上高構成比は約25%以下(2023年5月期第3四半期累計期間)となっております。「Aidemy Business」の標準契約企業及びトライアル契約企業数の合計導入顧客企業数は185社(2023年5月期第3四半期末時点)であり、エンタープライズ企業の割合は95%以上(2023年5月期第3四半期末時点)となっております。
④「一気通貫」かつ「顧客伴走型」のAI/DXソリューションの高い競争力
AI/DXソリューションでは、主にエンタープライズ企業向けにテーマ選定、PoC開発、システム開発、運用までの全ての領域を「一気通貫」かつ「顧客伴走型」で支援する「Modeloy」のサービスを提供しております。従来型のAI/DXベンダーでは、人材育成のサービスがほとんど提供されていないと当社では考えております。また、テーマ選定、PoC開発、システム開発、運用などのフェーズごとに分断されたサービスが提供されていると当社では考えております。近年、一気通貫型のAI/DXベンダーが増えておりますが、顧客企業の関与が限定的で、仕組みがブラックボックス化しやすく顧客企業内でイニシアチブを取ってシステム開発がなされないため、顧客企業側に知見が残らないという懸念があると当社では認識しております。
一方、当社のアプローチは、まず「Aidemy Business」を使ってデジタル人材の育成を行い、後続工程では育成された人材に当社のプロフェッショナル人材が伴走してソリューションを提供することで、顧客企業内にデジタル知見をインストールします。こうした独特な開発プロセスが他社にはない特徴となっております。
⑤専門人材とのコラボレーション
当社では常に新しい技術をキャッチアップできる体制を構築しております。当社のAIコンサルタントやエンジニアは、日本を代表するデジタル企業から参画しており、多様なバックボーンを持つ社内人材が揃っております。これにより、顧客企業のニーズに対応した総合的なソリューションを提案することが可能であります。また、業界最先端の知見を有する東京大学の教授陣と提携しており、最新の技術動向についてフィードバックをいただいております。AI/DXソリューションのサービス提供にあたっては、外部パートナーとチームを組成することもあり、協働して最先端技術を提供できるチームを構築することが可能であります。外部パートナーは「Aidemy Business」のコンテンツを制作する際に協働した専門家や法人であります。
(4) 経営環境及び事業対象となる市場
当社が提供するAI/DXに関するプロダクト・ソリューション事業は、法人向けのAI/DXプロダクト、AI/DXソリューション、個人向けのAI/DXリスキリングに係るサービスを提供しており、AI/DXビジネスの国内市場に属しております。AI/DXビジネスの国内市場は成長を続けており、2030年度には5兆1,957億円にも及ぶ想定(出所:「富士キメラ総研 2022デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望」)であり、国内におけるAI/DXビジネスの拡がりが見込まれます。特に製造業や金融業、サービス業など幅広い各産業でAI/DXの導入に向けた取り組みが進んでおります。また、国内外の競争力を維持・向上させるために、政府もデジタル変革を推進する施策を積極的に展開しております。
当社は、AI/DXプロダクトの分野での持続的な競争優位性を築くため、デジタル人材育成の領域において顧客企業のニーズを的確に捉えたコンテンツの開発力、顧客を第一に考えたUI/UX(ユーザーインターフェイス/ユーザーエクスペリエンス)を反映したシステム開発力が重要と考えており、これらの組織能力を築くための継続的な投資・改善に努めております。また、競争優位性を保つために、市場の動向を常に監視し、競合他社の戦略や新技術の出現に対して、適時かつ適切に対応する体制を構築しております。
そして、AI/DXソリューションでは、多くのAI/DXベンダーがサービスの一つとして類似のサービスを提供しております。当社は、他社との差別化としてAI/DXプロダクトでのデジタル人材育成を通じて把握した顧客企業のニーズをもとに、顧客企業のデジタル変革支援を提供しており、かつ伴走型支援とすることで顧客企業内にノウハウを残すことができます。これにより、顧客企業からの信頼を獲得し、長期的なビジネス関係を構築することができると考えております。
当社では、AI/DXプロダクト及びAI/DXソリューションにおいてコアなターゲット領域と位置づけているエンタープライズ企業数(従業員1,000名以上の企業数4,000社、当社定義)とそれら顧客企業の売上高の中央値(1,500億円)、売上高に占めるIT予算比率の中央値(1.0%、注1)、内製化率(70%、注2)から約4.2兆円を初期的な市場規模(TAM、注3)と想定しております。
また、TAMのうち、当社がターゲットとしている市場規模(SAM、注4)は、IT予算全体に占めるDX関連予算は23.3%(注5)であり、SOM(注6)は、コアなターゲット領域と位置づけているエンタープライズ企業数(4,000社)、内製化率、当社の1社当たり最大売上高5,000万円を元に想定しております。
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(注)1.一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS) 企業IT動向調査報告書 ~ユーザー企業のIT投
資・活用の最新動向(2020年度調査)
2.IT人材白書2020、調査対象:業界団体(JUAS、JEITA)の会員企業 /地域の業界団体の会員企業/民間データベ
ース登録企業(情報システム部門)
3.TAMはTotal Addressable Marketを表し、あるサービス・プロダクトにおいて様々な条件が満たされた時に実
現する最大の市場規模を意味しております。このため当社が掲載するTAMの数値は当社が本書提出日現在で営
む事業に係る客観的な市場規模を示すものではありません。当社グループの提供する各種サービス・プロダク
トのTAMは、外部の統計資料や公表資料を基礎として、当社社内の事業進捗や知見に基づく一定の前提を用い
て当社が推計した金額であるため、高い不確実性を伴うものであり、今後実際に実現する市場規模は大きく変
動する可能性があります。
4.SAMはServiceable Available Marketを表し、TAMの中でターゲティングした部分の市場規模を意味しておりま
す。
5.一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS) 企業IT動向調査報告書 ~ユーザー企業のIT投
資・活用の最新動向(2019年度調査)より、IT予算に占めるバリューアップ予算の割合をDX予算として想定し
ております。
6. SOMはServiceable Obtainable Marketを表し、実際に商品・サービスを市場に投入した時に、実際にアプロー
チして獲得できる可能性のある市場規模を意味しております。
当社では、このような環境下において、特にAI/DXの導入に注力するエンタープライズ企業を中心に、AIをはじめとした新たなソフトウェア技術を、いち早くビジネスの現場にインストールし、次世代の産業創出を加速させることが重要であると認識しており、AI/DX人材の育成及びAI/DXプロジェクトに貢献するサービスの開発、提供を目指してまいります。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
①「Aidemy Business」及び「Aidemy Practice」の強化
当社の「Aidemy Business」及び「Aidemy Practice」はデジタル人材育成支援という特徴から、特定の産業に依存しないサービス展開ができております。また、既存の事業・サービスに限らず、まだAI/DX化が進んでいない新たな産業分野においても、サービス展開が可能であると考えております。また、当社は充実した法人顧客基盤から生じる顧客ニーズを取り入れたコンテンツの充実を図っております。具体的には、経済産業省のDXリテラシー標準に準拠したコンテンツを増加させております。当社は今後も、一層のシステム、コンテンツ、サポートの強化を図ることで今後課題となる可能性がある過剰な価格競争に陥ることなく、顧客満足度のさらなる拡大、提供するサービスの拡充による当社ブランドの確立に取り組んでまいります。
②「Modeloy」の拡大
当社は、「Aidemy Business」の顧客基盤を主なターゲット顧客として、テーマ選定、PoC開発、システム開発、運用までの全ての領域を「顧客伴走型」で支援しており、営業活動を展開しております。その結果として、「Modeloy」が売上高全体に占める割合は、2023年5月期第3四半期末時点で約11%まで拡大しております。
今後も、顧客企業のデジタル変革ニーズを捉えるため、「Modeloy」における伴走型支援サービスを拡大し、新規プロダクトの開発につなげていきたいと考えております。
③優秀な人材の確保及び育成
「先端技術を、経済実装する。」というミッションに共感する優秀な人材を適時採用するとともに、持続的な成長を支える人材の育成を強化してまいります。また、当社の事業領域において市場のリーダーシップを構築していくため、新しい顧客価値を創造できる次世代を担うリーダーの育成にも注力してまいります。
また、カーボンニュートラル(炭素中立のための活動)やGX(グリーントランスフォーメーション、企業における温室効果ガスの排出源である化石燃料や電力の使用を、再生可能エネルギーや脱炭素ガスに転換することで、社会経済を変革させること)などに関連する新規事業の開発も進めており、その分野の専門知識を持った人材の採用も進めております。
これらの人材を確保及び育成することで、顧客企業のデジタル人材育成及びデジタル変革を伴走型で支援し、主にエンタープライズ企業のデジタル化を促進させてまいります。
④財務上の課題
当社は、自己資金及び営業キャッシュ・フローによる安定的な財務基盤を確保できているものと考えております。今後の成長戦略の展開に伴い、内部留保の確保と営業キャッシュ・フローの拡大で、さらに財務体質を強化するとともに、株式市場からの必要な資金確保と金融機関からの融資等を選択肢とすることにより多様な資金調達を図ってまいります。