半期報告書-第24期(2025/04/01-2026/03/31)
有報資料
当中間会計期間における研究開発活動の状況は以下のとおりであり、創薬事業に係る研究開発費の総額は、444,951千円となっております。当社は北京泰徳製薬からの配当金により経常利益は黒字基調ですが、営業利益は創業より赤字が続いております。現経営陣は以下に述べますように営業利益の黒字化を目指すと共に、当面の売上の確保にも最大限努めております。
「研究開発活動」
「PC-SOD(LT-1001)」は、当社独自のDDS技術(タンパク質のレシチン化)を用いたバイオ医薬品であり、様々な疾患の原因となる活性酸素を消去できる画期的な新薬です。このような作用機序を持つ薬は世界的にも他になく、世界中の多くの企業・医師・科学者が注目しています。現在当社はCIPN(化学療法誘発性末梢神経障害)を対象疾患にPC-SODの開発を進めております。CIPNはオキサリプラチンやパクリタキセルなどの抗がん剤による副作用の一種で、これら抗がん剤の投与後にしびれなどが生じ、重篤の場合には抗がん剤の投与が中断もしくは中止となる(がんの治療や再発予防を困難にする)ことから、臨床現場で大きな問題となっています。また、吐き気などの他の副作用と異なり、CIPNは抗がん剤投与を中止しても回復しにくく、後遺症として生涯しびれが残る患者もおり、生活の質を著しく低下させています。
現在、このCIPNを予防する方法(薬)が世界的にもないこと、及びCIPNの原因の1つが活性酸素であることに着目した当社は、動物実験によりオキサリプラチンによるCIPNに対してPC-SODが予防効果を示すことを発見し、前期第Ⅱ相臨床試験を2021年度から実施しました。その結果、主要評価項目においては目標とした有意水準で有効性を示すことはできませんでしたが、一部の副次的評価項目においては目標とした有意水準で有効性を確認することができました。さらにこの臨床試験でPC-SODの新たな薬理効果、即ち、オキサリプラチンアレルギーを予防する効果も発見し、この薬理効果に関して当社は用途特許を出願しました。オキサリプラチンアレルギーもCIPNと同様に臨床現場で大きな問題になっている副作用です。オキサリプラチン投与によってアレルギーが生じるとオキサリプラチンの投与を継続することができなくなるだけでなく、重篤なアレルギー(アナフィラキシー)は患者生命にも影響を及ぼします。PC-SODがオキサリプラチンアレルギーを抑えるということは科学的にも大変興味深い発見ですので、複数の大学と共同研究契約を結び、メカニズム解明を目的とした基礎研究を進めています。なお、前期第Ⅱ相臨床試験結果に関しては、がん分野で最も権威の高い国際学会として知られているAmerican Society of Clinical Oncology 2024(ASCO、米国臨床腫瘍学会)に採択され、発表を行いました。学会では、PC-SODがオキサリプラチンによるCIPNを予防する世界初の薬として、副作用で苦しむ患者やCIPNの発症により抗がん剤治療を継続できずにがんを悪化させてしまう患者を救う可能性に対し高い関心が示されました。

一方、この前期第Ⅱ相臨床試験結果に基づき、2024年9月20日に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による対面助言(医薬品第Ⅱ相試験終了後相談)を実施しました。議論の結果PMDAは、次の臨床試験を第Ⅲ相臨床試験(検証試験)として実施すること、及び当社が提案した臨床試験計画(主要評価項目や症例数等)について受入れ可能と判断しました。このことは、第Ⅲ相臨床試験の主要評価項目において統計的有意差を持って有効性が示されれば、PC-SODが医薬品として承認される可能性が高いことを示しています。
第Ⅲ相臨床試験では第Ⅱ相臨床試験に比べ数倍の被験者を登録することが必要ですが、この試験の被験者登録にはいくつかのハードルがあり困難が予想されました。そこで、まず治験実施候補施設(全国約40の病院)を当社CEOが直接訪問し、この臨床試験の意義やPC-SODの開発経緯を説明しました。その結果、ほとんどの施設の医師から「世界初のCIPN予防薬を医療現場へ届けたい」との強い賛同をいただき、積極的な協力をお約束いただきました。これにより、第Ⅲ相臨床試験の被験者登録もスムーズに進むと期待しております。
第Ⅲ相臨床試験に向けては、実施施設の選定以外にも、治験薬の製造、CROの選定、ライセンス活動・資金調達などに取り組みました。このうち、ライセンス活動・資金調達に関しましては、「事業開発活動」の項目で述べさせていただきます。当中間会計期間においては、治験実施計画書(プロトコル)を最終決定し、PMDAに治験届を提出し、その承認を得ることができました。そして、2025年8月には、一例目の被験者に治験薬が投与されました。全国の治験参加医師の熱意と努力により、目標を上回るペースで被験者登録が進み、2025年9月末時点では、まだ数施設しか被験者登録ができない状況であるにも関わらず、16名の登録を達成しております。
この第Ⅲ相臨床試験において成功の鍵となるのが、全ての治験実施施設でCIPNを正しく評価することです。これまで多くのCIPN予防薬・治療薬の第Ⅲ相臨床試験が世界中で行われてきましたが、成功しなかった理由はここにあると考えられています。そこで当社は、臨床試験開始前に入念に準備を行うと共に、治験参加医師へのトレーニングを徹底的に行っております。例えば、各施設の立ち上げの会(スタートアップミーティング)では、当社CEOが臨床試験の概要だけでなく、このCIPNの評価法のトレーニングを実施しています。また、2025年9月には、この治験に参加している指導的な医師からなる治験調整委員会を立ち上げました。治験調整委員会と当社は協力して、CIPN評価方法を含め、各施設から寄せられる質問や相談に対応しております。また、同じく2025年9月には、Investigator Meetingを開催し、本臨床試験にご協力いただいている40施設の治験責任医師・治験分担医師・治験コーディネーターなどの関係者にご参集いただきました(WEBを含めた参加者、約100名)。CIPNの臨床上の問題点、この治験の意義、成功した時に医療に与えるインパクトなどに関して、治験調整委員及び医学専門家として指導を受けている医師にご講演いただきました。また、PC-SODの開発経緯や本治験の概要、並びにCIPN評価のポイントに関して、当社CEOも発表しました。さらに、各治験実施施設から進捗をご説明いただき、参加者全員でCIPN評価について議論を行いました。ご参加いただいた方々からは、本治験の革新性・重要性をより深く理解できた、この治験への興味や意欲がより高まった、CIPN評価のポイントがよりよく理解できたなどのコメントをいただきました。このように当社は、この第Ⅲ相臨床試験を成功させるためにできることは何でも行うという気持ちで、日々考え実行しております。また、治験に協力いただいている多くの医師や関係者の皆様にも、「世界中のCIPNで苦しんでいる患者を救いたい」、「日本から世界初のCIPN予防薬を発信したい」などの気持ちでご尽力いただいております。これまで世界のどの会社も成功しなかったCIPN予防薬の開発は大変難しい課題ですが、このチーム力で乗り越えたいと考えております。なお、当社オリジナル医薬品の第Ⅲ相臨床試験の開始は約30年ぶりの快挙です。この臨床試験が成功すれば、企業価値の一層の向上が見込まれます。
さて、第Ⅲ相臨床試験を実施するということは、上市後の様々な準備を開始する必要があることも意味します。特に重要かつ、難しい課題は、上市後の医薬品製造・供給体制を構築することです。これまでPC-SODの治験薬は北京泰徳製薬で製造してきましたが、製造スケールが大きくなることは必至であり同社だけでの製造は難しいと考えています。そこでシノバイオの他のグループ企業やCDMO(医薬品開発製造受託機関)などと現在幅広く交渉を行っております。
2025年3月には、シノバイオグループ最大の製薬企業であり、多くの医薬品を製造・販売している正大天晴製薬企業グループを当社、及び北京泰徳製薬の製造関係者が訪問し、3社でPC-SODの上市後の製造について協議を行いました。当中間会計期間においても、毎月この3社で会議を行い、北京泰徳から正大天晴への技術移管や製造スケールアップをどのように進めるかの工程表を作成しております。また当社製造担当者も充実させ、さらにCEOも製造に関する実務に当たる体制にしました。PC-SODの製造・供給体制の確立も大変難しい課題ですが、シノバイオグループとのパイプを活かし乗り越えたいと考えております。

一方、当社のこれまでの基礎研究(動物試験)により、PC-SODがパクリタキセル(別の抗がん剤)によるCIPNも予防することを見いだしております。オキサリプラチン同様、パクリタキセルによるCIPNも多くの患者(特に、卵巣がんなどの婦人科領域のがん患者)を苦しめ、パクリタキセルによるがん治療を難しくしています。そこで、前事業年度にパクリタキセルによるCIPNに対するPC-SODの前期第Ⅱ相臨床試験を開始し、2024年9月には最初の被験者が登録されました。本治験においてもご協力いただいている医師の意欲は高く、当中間会計期間でも予想を上回るペースで登録が進みました。2025年9月末時点で目標症例数に近い登録を達成しておりますので、2025年10月には、被験者登録を完了し、2026年夏頃には結果が判明する予定です。

さらに、当社湘南研究所や共同研究先の大学では、PC-SODの次の適応疾患の発見を目指し基礎研究を進めております。当中間会計期間においても、新しい適応疾患(非開示)を考え動物実験を開始しました。その結果、有望な結果が得られましたので、投与回数・投与量の検討や既存治療法との比較などを今後行う予定です。この新しい適応疾患(非開示)は、社会の高齢化に伴い患者数が増えているにも関わらず既存の薬剤治療への満足度が低く、新しい治療薬の開発が強く望まれている領域です。
国立研究開発法人・量子科学技術研究開発機構と進めているPC-SODに関する共同研究では、2025年4月に研究成果を国際科学雑誌「Molecules」で発表しました。本共同研究では、マウス体内において炎症反応に伴い放出される活性酸素をPC-SODが消去すること、その効果はレシチン化修飾がなされていないSODよりも持続することなどを発見しました。また、大学との共同研究により次世代のSOD製剤の開発も進めております。具体的には、細胞内でPC-SODよりも効率よく活性酸素を消去できるようにSODを修飾する方法を変えたり、脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle:LNP)にSODを封入したりしています。当中間会計期間で細胞での薬効評価を行いましたので、今後動物を使った薬物動態及び薬効試験を行う予定です。また、湘南研究所には新たにアカデミアの分子生物学研究で世界的な業績を持つ研究者が当中間会計期間に入社しましたので、PC-SODの基礎研究を新しい観点から進めることにしました。具体的には、細胞、及び動物において、PC-SODがどこでどのように作用して様々な薬理効果を発揮しているかを分子レベルで解明したいと考えています。この研究は、PC-SODの新しい適応疾患の発見や次世代のSOD製剤の開発に大きく貢献すると考えています。世界的に見ても活性酸素に着目した創薬研究の分野で当社は、その先頭を走っています。このことを当社の企業価値の向上へさらに繋げるためには、活性酸素に着目した創薬研究をこのように多方面から進める必要があると考えております。
PC-SODの第Ⅲ相臨床試験が世界的に注目されている中、基礎研究者のPC-SODへの関心も高まっています。そこでこの機を活かして、PC-SODの周知を高め、次の適応疾患の発見や次世代のSOD製剤の開発を加速したいと考えております。そこで当中間会計期間において、当社と北京泰徳製薬の共催でPC-SODをテーマとした国際スポンサードセミナー(使用言語:英語)を第78回日本酸化ストレス学会学術集会(2025年5月22日~24日)において行いました。本セミナーでは、以下4名(敬称略)による講演を行いました。
・山口 研成(公益財団法人がん研究会有明病院副院長、同消化器センター消化器化学療法科部長)
講演内容:大腸がん治療におけるオキサリプラチンの重要性とCIPN(化学療法誘発性末梢神経傷害)予防薬の臨床的意義
・Li Wei(北京泰徳製薬生物製剤部門責任者)
講演内容:PC-SODの製造とその制御
・Gan Leling(北京泰徳製薬薬理研究部門責任者)
講演内容:PC-SODの中国での開発と新しい適応の探索
・水島 徹(当社CEO、崇城大学薬学部教授)
講演内容:日本でのPC-SOD開発の歴史とCIPNに関する第Ⅲ相臨床試験の概要
当日は国内外の医療・研究関係者にお集まりいただき、PC-SODに関する最新の知見及び事業的ポテンシャルについて広く議論・発信することができました。また会場からは、PC-SOD、及びCIPN予防薬への高い期待が寄せられました。
ノーベルファーマ株式会社との共同開発では、同社が既に発売している既承認薬(LT-5001、ホストイン)を三叉神経痛に適応拡大(DR(ドラッグ・リポジショニング))することを目指し開発を進めています。第Ⅲ相臨床試験(医師主導治験)では、主要評価項目及び一部の副次的評価項目において、統計的有意差をもってその有効性を確認することができました。そこで当中間会計期間において、上市へ向けた最後の臨床試験をどのようなプロトコルで行うかについてPMDAと数回に亘って交渉しました。その結果、今年度中には臨床試験を開始できる見通しとなりました。この臨床試験が成功すれば、LT-5001が三叉神経痛治療薬として承認されると考えております。三叉神経痛では、既存の医薬品が効かない患者は外科的治療を受ける必要がありますが、手術までの期間の痛みを抑える方法がありません。LT-5001はこの点において大変有用な薬になることを期待しています。
昨今の医薬品開発においては、開発コストや開発失敗リスクの増大から、製薬企業同士がノウハウを出し合い、リスクをシェアする共同開発の必要性がさらに高まっています。当社もこのような共同開発を積極的に進めていきたいと考えております。

「ドライアイ治療薬(LT-4002)」は、DR研究により当社が見出したパイプラインで、既に後期第Ⅱ相臨床試験を終了しています。当中間会計期間でも引き続き今後の開発を共同で進めるパートナーを探しました。
「肺線維症治療薬(LT-4010)」は、当社のDR技術と武蔵野大学の肺線維症研究を活かした共同研究により見出された、新しいメカニズムで肺の線維化を改善する既承認薬ですが、当中間会計期間においてもライセンス活動に注力しました。
湘南研究所では新たなパイプラインの創成を目指して、精力的に研究活動を行っております。当社CEOは、就任以来、経営・事業開発・臨床開発・再上場などに注力してきましたが湘南研究所の研究にも積極的に関与するようになり、研究の進捗が早まっています。例えば、数年前に開始したプロジェクト(対象疾患は非開示)においては、発見した複数の候補薬に関して、既存薬と比較し優位性を検証したり、どのような製剤にすることで医薬品としてのポテンシャルが向上するかを検討したり、諸外国での治療薬の現状を調査したりしました。当中間会計期間では、候補薬を1つに絞り混み(既承認薬A)、これまではあまり注目してこなかった薬物の体内動態を外部の専門家の指導を受けながら詳細に解析したり、薬物の代謝物を詳細に解析したりするなど、当社の研究の幅を広げることもできました。これらはいずれも後述する新しいDR戦略に則った研究であり、当社のDR創薬が新しいステージに達したことを示しています。また、これらの研究から、この既承認薬A(現在は経口薬として上市されている)を貼付剤にすることが有用であることを見出しました。そこで、当中間会計期間においてこの既承認薬Aに関して、貼付剤の開発を得意とするトーヨーケム株式会社と共同研究契約を締結しました。トーヨーケム株式会社は、生体適合素材の研究、パッチ素材の開発などを手がけており、貼付剤開発に関しても高い技術と実績を持っています。当社のDRに関する知見と、トーヨーケム株式会社の貼付剤開発技術とのシナジーにより、この研究のさらなる推進を図っていきたいと考えております。また、前事業年度に開始した新しいテーマに関しては、当社の目論見通りこの疾患に対する治療薬開発がこれから大きく発展することが確認できましたので、当社も研究を加速しております。具体的には、他の創薬ベンチャーへの委託研究という形で既承認薬ライブラリからのスクリーニングを行い、複数の候補薬の発見に成功しました。
このように新しい研究プロジェクトを開始すると共に、既存研究プロジェクトの評価も定期的に行っております。「選択と集中」は製薬企業にとって大変重要でありますので、これからも推進してまいります。

当社が牽引してきたDR研究は、特にアカデミアで盛んに取り組まれるようになり、創薬の基本戦略として定着しました。当社においてもDRグラントなどを通じて積極的にアカデミアのDR研究を支援しています。しかし、DR研究から生まれたアカデミアのパイプラインが大手製薬企業に導出された成功例はほとんどありません。当社自身のパイプラインも同じ問題を抱えていますが、当社はこの原因を解析し、①既存製剤をそのまま使用するのではなく、新しい製剤・投与法で開発する、②日本では薬価が低く抑えられるため、海外(特に米国)での開発を先行させる、などの新しいDR戦略を立てました。また、当社がこのようなノウハウを蓄積することで、当社だけではなくアカデミアのDR研究から生まれたパイプラインの開発も推進できると考えております。即ち、当社がアカデミアのDR研究に伴走し、アカデミアのパイプラインを製薬企業へ導出する際に障壁となっている問題(特許の排他性、臨床試験の未実施など)を解決するというビジネススキームです。当中間会計期間でも上述のように、当社自身が現在行っているDR研究に関してこの新しい戦略を適用し、これまでにない観点から研究を進めました。

さらに、医療情報や基礎研究情報が豊富にある既承認薬の特徴を活かし、DX(デジタルトランスフォーメーション)をDRに活かすことも大変重要な戦略です。当中間会計期間においては、当社CEOがアカデミア時代から共同研究を行ってきたこの分野の第一人者(堀本勝久博士)が創業した会社、ソシウム株式会社(以下、ソシウム社)と共同研究契約を締結しました。AI技術を活用した独自のデジタル創薬プラットフォームを有するソシウム社との連携により、「バイオロジー×AI」の融合型DRエコシステムの構築が可能になります。この新たなエコシステムでは、両社の強みを融合させることで既承認薬の持つ新しい薬理効果を戦略的に探索し、従来のアプローチでは見出せなかった創薬シーズを発掘し、治療選択肢の限られた患者さんへの新たな解決策を提供します。具体的な両社の役割は、ソシウム社はAIを駆使し既承認薬や開発中薬剤から新たな適応疾患候補(創薬シーズ)を短期間にかつ定量的に特定することで、当社は得られた創薬シーズを独自の疾患モデル系で詳細に解析・評価したうえで臨床試験の実施につなげることです。今後は、本共同研究を通じて生まれるシナジーを最大限に活かし、DR創薬のさらなる加速を図ってまいります。
一般に、日本から優れた医薬品を世界に発信するためには、アカデミアと製薬企業の連携が重要といわれており、その架け橋として必要不可欠なのが創薬ベンチャーです。しかし、誕生したばかりの「アカデミア発ベンチャー」は製薬企業の事情が分からず、「製薬企業からスピンアウトしたベンチャー」はアカデミアの事情が分からず、架け橋として機能できない状況にあります。当社は大学発ベンチャーでありますが、30年以上製薬企業と共に医薬品開発を行ってきた経験を持っていますので、真の架け橋になれると自負しております。

一方、前事業年度に当社は一般社団法人アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会(当社創業者の水島裕は、本協会の母体組織の立ち上げに携わっています)に入会し、同時に当社CEO水島徹が理事に就任しました。さらに、当中間会計期間において、当社CEOは日本バイオテク協議会の理事に就任しました(2025年5月)。日本バイオテク協議会は、官民対話を通じてバイオテクの推進を図り、我が国の医療への貢献並びに医療産業及び会員各社の健全な発展に寄与することを目的とした、バイオベンチャー企業の業界団体です。当社は同協議会の会員であり、これまでも同協議会を通じたジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミットへの出展や同協議会主催の講演会への参加等の活動を行ってまいりました。当中間会計期間の9月17日開催の中央社会保険医療協議会(略称:中医協)薬価専門部会では、日本バイオテク協議会理事として当社CEOが出席し、薬価制度改革に対する意見陳述を行いました。中医協は日本の薬価基準制度や診療報酬点数などについて審議する厚生労働大臣の諮問機関です。中医協薬価専門部会では、業界団体から薬価制度に対する意見を聴取する仕組みがあります。今回、創薬ベンチャーにとって事業性を得るために必要な薬価が得られない現状と課題を当社CEOが説明し、その具体的解決策を提案しました。今後とも、当社の研究開発活動に支障のない範囲内で、我が国から画期的な新薬が生まれるための基盤構築に関しましても、所属業界団体を通じて積極的に貢献していきたいと考えております。
「事業開発活動」
当社は、「ポートフォリオ型創薬ベンチャー」を目指しています。これは、自社研究開発に絞り込むのではなく、資金力などを活用して環境や状況に応じて外部の経営資源を有効に活用し、安定的にリターンを獲得する事業戦略です。そこで、事業開発活動を研究開発活動と並ぶ当社の柱と位置づけています。

ライセンス活動では当中間会計期間に、アメリカ・ボストンで開催された製薬関連企業が集まる世界最大規模のカンファレンスであるBIO International Convention(通称:Bio)」に当社CEOと事業開発担当者が参加し、米国の製薬企業や投資会社等と面談を行いました。PC-SODの開発に関しては、後述のように日本での開発パートナーは既に決定しており、欧州に関しても開発パートナーの候補企業と契約の交渉を進めていますので、本カンファレンスでは、米国を含むそれ以外の国での開発へ向けた足がかりを作ることを目的にしました。具体的には、米国等の製薬企業にこの開発の概略を紹介したり、米国の投資会社とこの開発への投資スキームについて議論したりしました。多くの企業と有意義な面談を行うことが出来、今後の米国等での事業展開において重要なステップとなりました。例えば、本カンファレンスで面談したある企業とはその後も交渉を続け、秘密保持契約を締結しました。今後、PC-SODに関する様々な秘密情報を先方へ提供すると共に、ライセンス契約へ向けた交渉を開始します。またこの会議で、米国での共同開発を進めるためには米国の医薬品に関する規制当局であるFDAと交渉し開発の概略を決定することが重要であることを学びました。そこでこのような活動をサポートしてくれるコンサルタント会社との交渉も開始しました。
当中間会計期間で最も注力したのは、日本におけるCIPN予防薬としてのPC-SODに関する事業開発活動です。第Ⅲ相臨床試験(検証試験)では第Ⅱ相臨床試験に比べ必要な被験者数も多くなり多額の費用を要しますので、製薬企業とのライセンス契約・共同開発契約、あるいは出資・融資による資金調達が重要となります。国内製薬企業との提携に関しては複数の製薬企業と交渉を進めましたが、当初交渉は順調には進みませんでした。これは、現在開発中のPC-SODは世界初(first in class)のCIPN予防薬、つまりこれまで世界中でどの製薬企業も開発できなかった分野の薬であり、国内の製薬企業が自社のみで開発リスクを負うことは難しいと判断しているためです。そこで当社は、医薬品卸会社や臨床試験受託会社、あるいはベンチャーキャピタル等の金融機関からの資金調達など、幅広く提携先を検討しました。また、ライセンス契約や資金調達が第Ⅲ相臨床試験実施の最大のハードルと考え、CEO自ら精力的に活動しました。その結果、複数の製薬企業が当社とのライセンス契約を希望し、タームシート(契約骨子案)を当社へ提出しました。また、複数企業が当社への資金提供、並びに共同開発を申し込みました。早期の契約締結へ向けて最優先で取り組んだ結果、アルフレッサとPC-SODに関する共同開発契約を当中間会計期間の2025年4月に締結しました。アルフレッサは医薬品卸売事業のみならず、製薬、臨床試験受託業務(CRO)、調剤薬局など多岐にわたるヘルスケア関連事業を展開する企業グループであり、2024年3月期の連結売上高が2兆8,000億円を超える日本を代表する東証プライム市場上場企業です。同社は有望な医薬品の開発を行っている企業へ資金と開発・製造・流通・販売等を一貫して支援する「トータルサプライチェーンサービス」を提供する事業を展開しており、当社のPC-SODのCIPN予防薬としての開発が評価されその対象となりました。特に、PC-SODを世界初のCIPN予防薬として開発し多くのがん患者の治療に貢献するという研究開発理念と実現可能性にご賛同いただいたものと理解しています。本契約に基づき、アルフレッサは第Ⅲ相臨床試験に係る研究開発費の一部を当社に提供すると共に、同社傘下企業が以下の役割を担うことで当社の開発活動を多面的に支援します。具体的には、同社は上市後の流通権を獲得すると共に、治験及び製造販売後調査(PMS)等に関わるCRO業務や品質確保を目的とした検査や二次包装などの業務の受託に関する優先権や製造販売権の優先交渉権を獲得します。これによりアルフレッサは、開発から製造・流通・販売に至るまでの一貫した支援体制を通じてPC-SODの早期上市に貢献することになります。契約締結後、月例の研究開発会議を両社で開催し様々な案件を議論したり、全国の治験参加施設で行われているスタートアップミーティングにアルフレッサ、及びその子会社の方が参加したりするなど、両社の共同開発は順調に滑り出しました。長年に亘り当社の重要課題であったPC-SODに関する国内パートナー企業の確定は、当社にとって極めて大きな意義を持つ成果であり、企業としての大きな飛躍の契機となるものと確信しております。また、この契約に伴い、今後第Ⅲ相臨床試験の進捗に従って当社は売上を計上いたします。当中間会計期間においても少額ながらその売上を計上しました。
海外に関しましても、ライセンスの国際カンファレンスをきっかけに多くの製薬企業が本剤の開発に関心を持ち、秘密保持契約を取り交わし交渉を行いました。特に、一昨年のBIO Europe 2023 Munich、及び昨年のBIO International Convention 2024 San Diegoで面談したある欧州製薬企業はPC-SODに高い興味を持ちライセンス協議を当社へ提案し、両社は数か月に亘り議論を進めました。その間、秘密保持契約を結び日本での前期第Ⅱ相臨床試験結果などを提供、また先方からの多岐に亘る質問に回答するなどの対応を行いました。また同社はこの分野における欧州の著名な医師にヒアリングしたり、PC-SODの欧州での開発可能性について社内検討したりしました。その結果、オキサリプラチンによるCIPN予防薬の臨床ニーズが極めて高いこと、及びPC-SODが世界初の薬として承認される可能性が十分にあると判断し、タームシート案を当社に提出しました。その案を基に両社で協議を重ねた結果、2025年3月に合意に至りました。本タームシートでの契約案では、当社は欧州におけるPC-SODの開発、承認登録、商業化を独占的に実施する権利を当該製薬企業へ許諾し、その対価として、契約一時金、開発マイルストン(開発が進むごとに受け取る一時金)、セールスマイルストン(売上が一定額を超えるごとに受け取る一時金)、ロイヤリティ(売上に一定の割合を掛けた金額)を受け取ることになります。なお、臨床試験を含む全ての欧州での開発は当該製薬企業が行い、当社はそれに全面的に協力するとなっています。なお、このタームシートには法的拘束力はなく、今回のタームシートの締結は最終的な契約の締結を保証するものではありません。同社と当社は、2025年6月までに最終的な契約を締結する予定でしたが、契約締結までにはなお一定の時間を要する見込みです。遅延の理由は、世界初(First in Class)のCIPN予防薬の開発であるために、欧州での開発戦略の方向性を決めるのに予想以上の時間が掛かっていることなどがあげられます。当社にとって海外開発のための契約は企業価値の向上に繋がる大変重要な案件ですので、今後とも真摯に取り組んでいきたいと考えております。CIPNに関しては予防薬・治療薬が全くなく、世界的に見ても当社がその開発のトップランナーとして走っています。そこで、海外開発パートナーをなるべく早く決定し、この薬を世界中の患者に届けたいと考えております。
アカデミアとのDR共同研究を推進するため、アカデミアから提案された優れたアイデアに対して、既承認薬ライブラリだけでなく研究費も当社が提供するという取組(DRグラント)を推進しております。最近では応募件数、研究提案の質が共に向上しています。応募いただいた多くの提案の中から当中間会計期間では1件を採択しました。具体的には、国立大学法人山口大学大学院医学系研究科で構築された脳神経分野の疾患モデルと当社の既承認薬ライブラリを用いて、この疾患に対する治療薬を探索する共同研究を実施することを決定し、共同研究契約を結びました。また、研究費は支給しないものの、2件の提案に関しては、既承認薬ライブラリを提供し共同研究を実施することを決定し、共同研究契約を結びました。この3件の他、現在16件のDR共同研究が進行中です。
このDRグラントはアカデミアとの共同研究を推進するのに大変優れたシステムです。そこで、PC-SODの新しい適応疾患の発見を目指した研究提案を日本国内の研究者を対象に広く募集することにしました(PC-SODグラント)。具体的には、PC-SODの新しい適応疾患を検討したいアカデミアから研究提案をいただき、優れた提案に対してはPC-SODと研究費を支給し共同研究を実施します。当中間会計期間では1件を採択しました。具体的には、国立大学法人山口大学大学院医学系研究科が患者由来iPS細胞を用いることでより病態に近い細胞モデルを構築した成果を受けて、このモデル、及び動物モデルを用いてPC-SODの効果を評価します。なお、この研究はPC-SODグラントの最初の採択研究となりました。


「中国関連事業」
北京泰徳製薬は、当社と中国の政府系病院である中日友好病院が1995年に中国で設立した会社です。当社が発明した医薬品を中国で開発・発売することにより、中国有数の製薬企業に成長しました。当社が北京泰徳製薬から受け取っている配当金は、当社の発明と投資に対する果実であり、北京泰徳製薬への支援や中国関連事業の推進は当社の発展のために重要であると現経営陣は考えております。
当中間会計期間においても包括的支援契約を延長し、北京泰徳製薬への支援に尽力しました。例えば、北京泰徳製薬が開発している医薬品を日本でも開発したいという希望を受け、日本での開発戦略や提携すべきパートナー企業に関する助言を行いました。また、上述のように、当社と北京泰徳製薬の共催でPC-SODをテーマとした国際スポンサードセミナーを第78回日本酸化ストレス学会学術集会(2025年5月22日~24日)において開催しました。
一方、北京泰徳製薬はPC-SODの開発においても重要なパートナーです。特に、臨床試験で使用する治験薬の製造を当社はこれまで同社へ委託してきました。上述のように、PC-SODの上市後の製造は大規模になるために同社では行えず、同じシノバイオグループの正大天晴製薬企業グループやCDMO(医薬品開発製造受託機関)などで行う予定です。このためには、北京泰徳製薬が持つ製造技術を正大天晴製薬企業グループ等へ移管する必要があります。この技術移管に関しては多くの難しい課題がありますが、北京泰徳製薬の真摯な協力のお陰で着々と進んでおります。
なお、北京泰徳製薬については、一時的な要因の影響により、当中間会計期間において配当に関する決議が行われませんでした。このため、当社が受け取るべき配当金額は現時点では未確定です。当社としては、今後の動向を注視し、必要に応じて適切に対応してまいります。
一方、北京泰徳製薬の親会社であるシノバイオとの連携を深めることも当社の企業価値の向上に繋がると考え、協議を継続的に行ってまいりました。その中で、当社の技術・ノウハウ・人材・パイプラインを評価したシノバイオが、当社との資本業務提携を目的とした公開買付けを実施し、2021年3月にシノバイオと当社は資本業務提携基本契約を締結しました。この提携は、当社の研究開発の加速や収益の多角化(北京泰徳製薬の配当以外の収入源の確保)に繋がると期待しております。

その後当社は、シノバイオに対して当社ができる支援業務を提案しパイロット的に実施しました。これを評価したシノバイオは、当社との間で業務提携契約を2022年12月に締結しました(2023年12月と2025年2月に更新)。本業務にあたり、当社はシノバイオから毎月一定の報酬を受け取り、シノバイオが日本企業とライセンス契約を結ぶなど支援業務が成功した場合には成功報酬も受け取ります。業務提携の内容は多岐に亘りますが、例えば、日本の優れた医薬品の同社へのライセンスを当社が支援する業務、同社が中国で開発・販売している医薬品の日本企業へのライセンスを当社が支援する業務などが含まれます。当中間会計期間においても様々な支援業務を行いました。例えば、シノバイオのパイプラインを日本の製薬企業へ売り込むための資料を当社が作成し、実際にライセンス活動を代行する業務を行いました。特に、シノバイオが中国で多くのバイオシミラー(バイオ医薬品のジェネリック)を販売・開発していること、及びその中には日本でまだ販売されていないバイオシミラーが多いことに着目し、シノバイオのバイオシミラーを日本企業に売り込むことに注力しました。その結果、ある日本企業がシノバイオとの包括的な提携を希望するに至りましたので、秘密保持契約を3社で結び、ライセンス契約交渉を行いました。このようにシノバイオとの強固なパイプを活かした新しいビジネス(日中間の医療橋渡しビジネス)は当社にしかできない独自の取組みで、近い将来当社の売上に大きく貢献すると期待しています。

シノバイオとのパイプを活かした別のビジネスも実施しております。これまで医薬品開発においては、中国に比べ日本の研究開発のレベルが高かったため日本の優れた医薬品を中国へ導出することが多く、北京泰徳製薬もこのスキームで急成長しました。しかし最近では中国での医薬品開発のレベルが急速に向上し、一部分野では既に日本を上回っています。実際、中国では販売されているが日本では開発されていない新薬は多くあります。これらを日本で開発・販売することは日中両国にとって大きなメリットがありますが、あまり成功例は出ていません。その理由は中国でのデータをどのように日本での承認に繋げるかなどのノウハウが蓄積されていないためです。そこで当社は、シノバイオの優れた医薬品をまず当社が日本で開発し、それを日本企業へ導出するという新しいビジネスを目指しています。これにより中国発新薬を日本で開発するためのノウハウを当社が蓄積できれば、将来的にはシノバイオグループ以外の医薬品に関しても同様の事業を行い、大きな利益を獲得できると考えております。当中間会計期間においては、1つのシノバイオの医薬品に関して、どのような開発を日本で行えば医薬品として承認されるのかについてPMDAと相談しました。この医薬品は中国では大きな売上を記録していますが、日本では開発・販売されていません。相談結果を基に日本での開発戦略を策定しましたが、この開発に多額の費用がかかることなどから、最終的にはこのプロジェクトはこれ以上進めないことになりました。しかしシノバイオは、当社のこの活動を高く評価し、別のパイプラインに関しても日本開発に向けて今後とも協力して欲しいとの申し入れを行いました。シノバイオ、日本の製薬企業、そして当社が連携して、この医薬品の日本での開発に成功すれば大きな利益が見込まれますので、今後もその実現に向けて尽力してまいります。

「研究開発活動」
「PC-SOD(LT-1001)」は、当社独自のDDS技術(タンパク質のレシチン化)を用いたバイオ医薬品であり、様々な疾患の原因となる活性酸素を消去できる画期的な新薬です。このような作用機序を持つ薬は世界的にも他になく、世界中の多くの企業・医師・科学者が注目しています。現在当社はCIPN(化学療法誘発性末梢神経障害)を対象疾患にPC-SODの開発を進めております。CIPNはオキサリプラチンやパクリタキセルなどの抗がん剤による副作用の一種で、これら抗がん剤の投与後にしびれなどが生じ、重篤の場合には抗がん剤の投与が中断もしくは中止となる(がんの治療や再発予防を困難にする)ことから、臨床現場で大きな問題となっています。また、吐き気などの他の副作用と異なり、CIPNは抗がん剤投与を中止しても回復しにくく、後遺症として生涯しびれが残る患者もおり、生活の質を著しく低下させています。
現在、このCIPNを予防する方法(薬)が世界的にもないこと、及びCIPNの原因の1つが活性酸素であることに着目した当社は、動物実験によりオキサリプラチンによるCIPNに対してPC-SODが予防効果を示すことを発見し、前期第Ⅱ相臨床試験を2021年度から実施しました。その結果、主要評価項目においては目標とした有意水準で有効性を示すことはできませんでしたが、一部の副次的評価項目においては目標とした有意水準で有効性を確認することができました。さらにこの臨床試験でPC-SODの新たな薬理効果、即ち、オキサリプラチンアレルギーを予防する効果も発見し、この薬理効果に関して当社は用途特許を出願しました。オキサリプラチンアレルギーもCIPNと同様に臨床現場で大きな問題になっている副作用です。オキサリプラチン投与によってアレルギーが生じるとオキサリプラチンの投与を継続することができなくなるだけでなく、重篤なアレルギー(アナフィラキシー)は患者生命にも影響を及ぼします。PC-SODがオキサリプラチンアレルギーを抑えるということは科学的にも大変興味深い発見ですので、複数の大学と共同研究契約を結び、メカニズム解明を目的とした基礎研究を進めています。なお、前期第Ⅱ相臨床試験結果に関しては、がん分野で最も権威の高い国際学会として知られているAmerican Society of Clinical Oncology 2024(ASCO、米国臨床腫瘍学会)に採択され、発表を行いました。学会では、PC-SODがオキサリプラチンによるCIPNを予防する世界初の薬として、副作用で苦しむ患者やCIPNの発症により抗がん剤治療を継続できずにがんを悪化させてしまう患者を救う可能性に対し高い関心が示されました。

一方、この前期第Ⅱ相臨床試験結果に基づき、2024年9月20日に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による対面助言(医薬品第Ⅱ相試験終了後相談)を実施しました。議論の結果PMDAは、次の臨床試験を第Ⅲ相臨床試験(検証試験)として実施すること、及び当社が提案した臨床試験計画(主要評価項目や症例数等)について受入れ可能と判断しました。このことは、第Ⅲ相臨床試験の主要評価項目において統計的有意差を持って有効性が示されれば、PC-SODが医薬品として承認される可能性が高いことを示しています。
第Ⅲ相臨床試験では第Ⅱ相臨床試験に比べ数倍の被験者を登録することが必要ですが、この試験の被験者登録にはいくつかのハードルがあり困難が予想されました。そこで、まず治験実施候補施設(全国約40の病院)を当社CEOが直接訪問し、この臨床試験の意義やPC-SODの開発経緯を説明しました。その結果、ほとんどの施設の医師から「世界初のCIPN予防薬を医療現場へ届けたい」との強い賛同をいただき、積極的な協力をお約束いただきました。これにより、第Ⅲ相臨床試験の被験者登録もスムーズに進むと期待しております。
第Ⅲ相臨床試験に向けては、実施施設の選定以外にも、治験薬の製造、CROの選定、ライセンス活動・資金調達などに取り組みました。このうち、ライセンス活動・資金調達に関しましては、「事業開発活動」の項目で述べさせていただきます。当中間会計期間においては、治験実施計画書(プロトコル)を最終決定し、PMDAに治験届を提出し、その承認を得ることができました。そして、2025年8月には、一例目の被験者に治験薬が投与されました。全国の治験参加医師の熱意と努力により、目標を上回るペースで被験者登録が進み、2025年9月末時点では、まだ数施設しか被験者登録ができない状況であるにも関わらず、16名の登録を達成しております。
この第Ⅲ相臨床試験において成功の鍵となるのが、全ての治験実施施設でCIPNを正しく評価することです。これまで多くのCIPN予防薬・治療薬の第Ⅲ相臨床試験が世界中で行われてきましたが、成功しなかった理由はここにあると考えられています。そこで当社は、臨床試験開始前に入念に準備を行うと共に、治験参加医師へのトレーニングを徹底的に行っております。例えば、各施設の立ち上げの会(スタートアップミーティング)では、当社CEOが臨床試験の概要だけでなく、このCIPNの評価法のトレーニングを実施しています。また、2025年9月には、この治験に参加している指導的な医師からなる治験調整委員会を立ち上げました。治験調整委員会と当社は協力して、CIPN評価方法を含め、各施設から寄せられる質問や相談に対応しております。また、同じく2025年9月には、Investigator Meetingを開催し、本臨床試験にご協力いただいている40施設の治験責任医師・治験分担医師・治験コーディネーターなどの関係者にご参集いただきました(WEBを含めた参加者、約100名)。CIPNの臨床上の問題点、この治験の意義、成功した時に医療に与えるインパクトなどに関して、治験調整委員及び医学専門家として指導を受けている医師にご講演いただきました。また、PC-SODの開発経緯や本治験の概要、並びにCIPN評価のポイントに関して、当社CEOも発表しました。さらに、各治験実施施設から進捗をご説明いただき、参加者全員でCIPN評価について議論を行いました。ご参加いただいた方々からは、本治験の革新性・重要性をより深く理解できた、この治験への興味や意欲がより高まった、CIPN評価のポイントがよりよく理解できたなどのコメントをいただきました。このように当社は、この第Ⅲ相臨床試験を成功させるためにできることは何でも行うという気持ちで、日々考え実行しております。また、治験に協力いただいている多くの医師や関係者の皆様にも、「世界中のCIPNで苦しんでいる患者を救いたい」、「日本から世界初のCIPN予防薬を発信したい」などの気持ちでご尽力いただいております。これまで世界のどの会社も成功しなかったCIPN予防薬の開発は大変難しい課題ですが、このチーム力で乗り越えたいと考えております。なお、当社オリジナル医薬品の第Ⅲ相臨床試験の開始は約30年ぶりの快挙です。この臨床試験が成功すれば、企業価値の一層の向上が見込まれます。
さて、第Ⅲ相臨床試験を実施するということは、上市後の様々な準備を開始する必要があることも意味します。特に重要かつ、難しい課題は、上市後の医薬品製造・供給体制を構築することです。これまでPC-SODの治験薬は北京泰徳製薬で製造してきましたが、製造スケールが大きくなることは必至であり同社だけでの製造は難しいと考えています。そこでシノバイオの他のグループ企業やCDMO(医薬品開発製造受託機関)などと現在幅広く交渉を行っております。
2025年3月には、シノバイオグループ最大の製薬企業であり、多くの医薬品を製造・販売している正大天晴製薬企業グループを当社、及び北京泰徳製薬の製造関係者が訪問し、3社でPC-SODの上市後の製造について協議を行いました。当中間会計期間においても、毎月この3社で会議を行い、北京泰徳から正大天晴への技術移管や製造スケールアップをどのように進めるかの工程表を作成しております。また当社製造担当者も充実させ、さらにCEOも製造に関する実務に当たる体制にしました。PC-SODの製造・供給体制の確立も大変難しい課題ですが、シノバイオグループとのパイプを活かし乗り越えたいと考えております。

一方、当社のこれまでの基礎研究(動物試験)により、PC-SODがパクリタキセル(別の抗がん剤)によるCIPNも予防することを見いだしております。オキサリプラチン同様、パクリタキセルによるCIPNも多くの患者(特に、卵巣がんなどの婦人科領域のがん患者)を苦しめ、パクリタキセルによるがん治療を難しくしています。そこで、前事業年度にパクリタキセルによるCIPNに対するPC-SODの前期第Ⅱ相臨床試験を開始し、2024年9月には最初の被験者が登録されました。本治験においてもご協力いただいている医師の意欲は高く、当中間会計期間でも予想を上回るペースで登録が進みました。2025年9月末時点で目標症例数に近い登録を達成しておりますので、2025年10月には、被験者登録を完了し、2026年夏頃には結果が判明する予定です。

さらに、当社湘南研究所や共同研究先の大学では、PC-SODの次の適応疾患の発見を目指し基礎研究を進めております。当中間会計期間においても、新しい適応疾患(非開示)を考え動物実験を開始しました。その結果、有望な結果が得られましたので、投与回数・投与量の検討や既存治療法との比較などを今後行う予定です。この新しい適応疾患(非開示)は、社会の高齢化に伴い患者数が増えているにも関わらず既存の薬剤治療への満足度が低く、新しい治療薬の開発が強く望まれている領域です。
国立研究開発法人・量子科学技術研究開発機構と進めているPC-SODに関する共同研究では、2025年4月に研究成果を国際科学雑誌「Molecules」で発表しました。本共同研究では、マウス体内において炎症反応に伴い放出される活性酸素をPC-SODが消去すること、その効果はレシチン化修飾がなされていないSODよりも持続することなどを発見しました。また、大学との共同研究により次世代のSOD製剤の開発も進めております。具体的には、細胞内でPC-SODよりも効率よく活性酸素を消去できるようにSODを修飾する方法を変えたり、脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle:LNP)にSODを封入したりしています。当中間会計期間で細胞での薬効評価を行いましたので、今後動物を使った薬物動態及び薬効試験を行う予定です。また、湘南研究所には新たにアカデミアの分子生物学研究で世界的な業績を持つ研究者が当中間会計期間に入社しましたので、PC-SODの基礎研究を新しい観点から進めることにしました。具体的には、細胞、及び動物において、PC-SODがどこでどのように作用して様々な薬理効果を発揮しているかを分子レベルで解明したいと考えています。この研究は、PC-SODの新しい適応疾患の発見や次世代のSOD製剤の開発に大きく貢献すると考えています。世界的に見ても活性酸素に着目した創薬研究の分野で当社は、その先頭を走っています。このことを当社の企業価値の向上へさらに繋げるためには、活性酸素に着目した創薬研究をこのように多方面から進める必要があると考えております。
PC-SODの第Ⅲ相臨床試験が世界的に注目されている中、基礎研究者のPC-SODへの関心も高まっています。そこでこの機を活かして、PC-SODの周知を高め、次の適応疾患の発見や次世代のSOD製剤の開発を加速したいと考えております。そこで当中間会計期間において、当社と北京泰徳製薬の共催でPC-SODをテーマとした国際スポンサードセミナー(使用言語:英語)を第78回日本酸化ストレス学会学術集会(2025年5月22日~24日)において行いました。本セミナーでは、以下4名(敬称略)による講演を行いました。
・山口 研成(公益財団法人がん研究会有明病院副院長、同消化器センター消化器化学療法科部長)
講演内容:大腸がん治療におけるオキサリプラチンの重要性とCIPN(化学療法誘発性末梢神経傷害)予防薬の臨床的意義
・Li Wei(北京泰徳製薬生物製剤部門責任者)
講演内容:PC-SODの製造とその制御
・Gan Leling(北京泰徳製薬薬理研究部門責任者)
講演内容:PC-SODの中国での開発と新しい適応の探索
・水島 徹(当社CEO、崇城大学薬学部教授)
講演内容:日本でのPC-SOD開発の歴史とCIPNに関する第Ⅲ相臨床試験の概要
当日は国内外の医療・研究関係者にお集まりいただき、PC-SODに関する最新の知見及び事業的ポテンシャルについて広く議論・発信することができました。また会場からは、PC-SOD、及びCIPN予防薬への高い期待が寄せられました。
ノーベルファーマ株式会社との共同開発では、同社が既に発売している既承認薬(LT-5001、ホストイン)を三叉神経痛に適応拡大(DR(ドラッグ・リポジショニング))することを目指し開発を進めています。第Ⅲ相臨床試験(医師主導治験)では、主要評価項目及び一部の副次的評価項目において、統計的有意差をもってその有効性を確認することができました。そこで当中間会計期間において、上市へ向けた最後の臨床試験をどのようなプロトコルで行うかについてPMDAと数回に亘って交渉しました。その結果、今年度中には臨床試験を開始できる見通しとなりました。この臨床試験が成功すれば、LT-5001が三叉神経痛治療薬として承認されると考えております。三叉神経痛では、既存の医薬品が効かない患者は外科的治療を受ける必要がありますが、手術までの期間の痛みを抑える方法がありません。LT-5001はこの点において大変有用な薬になることを期待しています。
昨今の医薬品開発においては、開発コストや開発失敗リスクの増大から、製薬企業同士がノウハウを出し合い、リスクをシェアする共同開発の必要性がさらに高まっています。当社もこのような共同開発を積極的に進めていきたいと考えております。

「ドライアイ治療薬(LT-4002)」は、DR研究により当社が見出したパイプラインで、既に後期第Ⅱ相臨床試験を終了しています。当中間会計期間でも引き続き今後の開発を共同で進めるパートナーを探しました。
「肺線維症治療薬(LT-4010)」は、当社のDR技術と武蔵野大学の肺線維症研究を活かした共同研究により見出された、新しいメカニズムで肺の線維化を改善する既承認薬ですが、当中間会計期間においてもライセンス活動に注力しました。
湘南研究所では新たなパイプラインの創成を目指して、精力的に研究活動を行っております。当社CEOは、就任以来、経営・事業開発・臨床開発・再上場などに注力してきましたが湘南研究所の研究にも積極的に関与するようになり、研究の進捗が早まっています。例えば、数年前に開始したプロジェクト(対象疾患は非開示)においては、発見した複数の候補薬に関して、既存薬と比較し優位性を検証したり、どのような製剤にすることで医薬品としてのポテンシャルが向上するかを検討したり、諸外国での治療薬の現状を調査したりしました。当中間会計期間では、候補薬を1つに絞り混み(既承認薬A)、これまではあまり注目してこなかった薬物の体内動態を外部の専門家の指導を受けながら詳細に解析したり、薬物の代謝物を詳細に解析したりするなど、当社の研究の幅を広げることもできました。これらはいずれも後述する新しいDR戦略に則った研究であり、当社のDR創薬が新しいステージに達したことを示しています。また、これらの研究から、この既承認薬A(現在は経口薬として上市されている)を貼付剤にすることが有用であることを見出しました。そこで、当中間会計期間においてこの既承認薬Aに関して、貼付剤の開発を得意とするトーヨーケム株式会社と共同研究契約を締結しました。トーヨーケム株式会社は、生体適合素材の研究、パッチ素材の開発などを手がけており、貼付剤開発に関しても高い技術と実績を持っています。当社のDRに関する知見と、トーヨーケム株式会社の貼付剤開発技術とのシナジーにより、この研究のさらなる推進を図っていきたいと考えております。また、前事業年度に開始した新しいテーマに関しては、当社の目論見通りこの疾患に対する治療薬開発がこれから大きく発展することが確認できましたので、当社も研究を加速しております。具体的には、他の創薬ベンチャーへの委託研究という形で既承認薬ライブラリからのスクリーニングを行い、複数の候補薬の発見に成功しました。
このように新しい研究プロジェクトを開始すると共に、既存研究プロジェクトの評価も定期的に行っております。「選択と集中」は製薬企業にとって大変重要でありますので、これからも推進してまいります。

当社が牽引してきたDR研究は、特にアカデミアで盛んに取り組まれるようになり、創薬の基本戦略として定着しました。当社においてもDRグラントなどを通じて積極的にアカデミアのDR研究を支援しています。しかし、DR研究から生まれたアカデミアのパイプラインが大手製薬企業に導出された成功例はほとんどありません。当社自身のパイプラインも同じ問題を抱えていますが、当社はこの原因を解析し、①既存製剤をそのまま使用するのではなく、新しい製剤・投与法で開発する、②日本では薬価が低く抑えられるため、海外(特に米国)での開発を先行させる、などの新しいDR戦略を立てました。また、当社がこのようなノウハウを蓄積することで、当社だけではなくアカデミアのDR研究から生まれたパイプラインの開発も推進できると考えております。即ち、当社がアカデミアのDR研究に伴走し、アカデミアのパイプラインを製薬企業へ導出する際に障壁となっている問題(特許の排他性、臨床試験の未実施など)を解決するというビジネススキームです。当中間会計期間でも上述のように、当社自身が現在行っているDR研究に関してこの新しい戦略を適用し、これまでにない観点から研究を進めました。

さらに、医療情報や基礎研究情報が豊富にある既承認薬の特徴を活かし、DX(デジタルトランスフォーメーション)をDRに活かすことも大変重要な戦略です。当中間会計期間においては、当社CEOがアカデミア時代から共同研究を行ってきたこの分野の第一人者(堀本勝久博士)が創業した会社、ソシウム株式会社(以下、ソシウム社)と共同研究契約を締結しました。AI技術を活用した独自のデジタル創薬プラットフォームを有するソシウム社との連携により、「バイオロジー×AI」の融合型DRエコシステムの構築が可能になります。この新たなエコシステムでは、両社の強みを融合させることで既承認薬の持つ新しい薬理効果を戦略的に探索し、従来のアプローチでは見出せなかった創薬シーズを発掘し、治療選択肢の限られた患者さんへの新たな解決策を提供します。具体的な両社の役割は、ソシウム社はAIを駆使し既承認薬や開発中薬剤から新たな適応疾患候補(創薬シーズ)を短期間にかつ定量的に特定することで、当社は得られた創薬シーズを独自の疾患モデル系で詳細に解析・評価したうえで臨床試験の実施につなげることです。今後は、本共同研究を通じて生まれるシナジーを最大限に活かし、DR創薬のさらなる加速を図ってまいります。
一般に、日本から優れた医薬品を世界に発信するためには、アカデミアと製薬企業の連携が重要といわれており、その架け橋として必要不可欠なのが創薬ベンチャーです。しかし、誕生したばかりの「アカデミア発ベンチャー」は製薬企業の事情が分からず、「製薬企業からスピンアウトしたベンチャー」はアカデミアの事情が分からず、架け橋として機能できない状況にあります。当社は大学発ベンチャーでありますが、30年以上製薬企業と共に医薬品開発を行ってきた経験を持っていますので、真の架け橋になれると自負しております。

一方、前事業年度に当社は一般社団法人アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会(当社創業者の水島裕は、本協会の母体組織の立ち上げに携わっています)に入会し、同時に当社CEO水島徹が理事に就任しました。さらに、当中間会計期間において、当社CEOは日本バイオテク協議会の理事に就任しました(2025年5月)。日本バイオテク協議会は、官民対話を通じてバイオテクの推進を図り、我が国の医療への貢献並びに医療産業及び会員各社の健全な発展に寄与することを目的とした、バイオベンチャー企業の業界団体です。当社は同協議会の会員であり、これまでも同協議会を通じたジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミットへの出展や同協議会主催の講演会への参加等の活動を行ってまいりました。当中間会計期間の9月17日開催の中央社会保険医療協議会(略称:中医協)薬価専門部会では、日本バイオテク協議会理事として当社CEOが出席し、薬価制度改革に対する意見陳述を行いました。中医協は日本の薬価基準制度や診療報酬点数などについて審議する厚生労働大臣の諮問機関です。中医協薬価専門部会では、業界団体から薬価制度に対する意見を聴取する仕組みがあります。今回、創薬ベンチャーにとって事業性を得るために必要な薬価が得られない現状と課題を当社CEOが説明し、その具体的解決策を提案しました。今後とも、当社の研究開発活動に支障のない範囲内で、我が国から画期的な新薬が生まれるための基盤構築に関しましても、所属業界団体を通じて積極的に貢献していきたいと考えております。
「事業開発活動」
当社は、「ポートフォリオ型創薬ベンチャー」を目指しています。これは、自社研究開発に絞り込むのではなく、資金力などを活用して環境や状況に応じて外部の経営資源を有効に活用し、安定的にリターンを獲得する事業戦略です。そこで、事業開発活動を研究開発活動と並ぶ当社の柱と位置づけています。

ライセンス活動では当中間会計期間に、アメリカ・ボストンで開催された製薬関連企業が集まる世界最大規模のカンファレンスであるBIO International Convention(通称:Bio)」に当社CEOと事業開発担当者が参加し、米国の製薬企業や投資会社等と面談を行いました。PC-SODの開発に関しては、後述のように日本での開発パートナーは既に決定しており、欧州に関しても開発パートナーの候補企業と契約の交渉を進めていますので、本カンファレンスでは、米国を含むそれ以外の国での開発へ向けた足がかりを作ることを目的にしました。具体的には、米国等の製薬企業にこの開発の概略を紹介したり、米国の投資会社とこの開発への投資スキームについて議論したりしました。多くの企業と有意義な面談を行うことが出来、今後の米国等での事業展開において重要なステップとなりました。例えば、本カンファレンスで面談したある企業とはその後も交渉を続け、秘密保持契約を締結しました。今後、PC-SODに関する様々な秘密情報を先方へ提供すると共に、ライセンス契約へ向けた交渉を開始します。またこの会議で、米国での共同開発を進めるためには米国の医薬品に関する規制当局であるFDAと交渉し開発の概略を決定することが重要であることを学びました。そこでこのような活動をサポートしてくれるコンサルタント会社との交渉も開始しました。
当中間会計期間で最も注力したのは、日本におけるCIPN予防薬としてのPC-SODに関する事業開発活動です。第Ⅲ相臨床試験(検証試験)では第Ⅱ相臨床試験に比べ必要な被験者数も多くなり多額の費用を要しますので、製薬企業とのライセンス契約・共同開発契約、あるいは出資・融資による資金調達が重要となります。国内製薬企業との提携に関しては複数の製薬企業と交渉を進めましたが、当初交渉は順調には進みませんでした。これは、現在開発中のPC-SODは世界初(first in class)のCIPN予防薬、つまりこれまで世界中でどの製薬企業も開発できなかった分野の薬であり、国内の製薬企業が自社のみで開発リスクを負うことは難しいと判断しているためです。そこで当社は、医薬品卸会社や臨床試験受託会社、あるいはベンチャーキャピタル等の金融機関からの資金調達など、幅広く提携先を検討しました。また、ライセンス契約や資金調達が第Ⅲ相臨床試験実施の最大のハードルと考え、CEO自ら精力的に活動しました。その結果、複数の製薬企業が当社とのライセンス契約を希望し、タームシート(契約骨子案)を当社へ提出しました。また、複数企業が当社への資金提供、並びに共同開発を申し込みました。早期の契約締結へ向けて最優先で取り組んだ結果、アルフレッサとPC-SODに関する共同開発契約を当中間会計期間の2025年4月に締結しました。アルフレッサは医薬品卸売事業のみならず、製薬、臨床試験受託業務(CRO)、調剤薬局など多岐にわたるヘルスケア関連事業を展開する企業グループであり、2024年3月期の連結売上高が2兆8,000億円を超える日本を代表する東証プライム市場上場企業です。同社は有望な医薬品の開発を行っている企業へ資金と開発・製造・流通・販売等を一貫して支援する「トータルサプライチェーンサービス」を提供する事業を展開しており、当社のPC-SODのCIPN予防薬としての開発が評価されその対象となりました。特に、PC-SODを世界初のCIPN予防薬として開発し多くのがん患者の治療に貢献するという研究開発理念と実現可能性にご賛同いただいたものと理解しています。本契約に基づき、アルフレッサは第Ⅲ相臨床試験に係る研究開発費の一部を当社に提供すると共に、同社傘下企業が以下の役割を担うことで当社の開発活動を多面的に支援します。具体的には、同社は上市後の流通権を獲得すると共に、治験及び製造販売後調査(PMS)等に関わるCRO業務や品質確保を目的とした検査や二次包装などの業務の受託に関する優先権や製造販売権の優先交渉権を獲得します。これによりアルフレッサは、開発から製造・流通・販売に至るまでの一貫した支援体制を通じてPC-SODの早期上市に貢献することになります。契約締結後、月例の研究開発会議を両社で開催し様々な案件を議論したり、全国の治験参加施設で行われているスタートアップミーティングにアルフレッサ、及びその子会社の方が参加したりするなど、両社の共同開発は順調に滑り出しました。長年に亘り当社の重要課題であったPC-SODに関する国内パートナー企業の確定は、当社にとって極めて大きな意義を持つ成果であり、企業としての大きな飛躍の契機となるものと確信しております。また、この契約に伴い、今後第Ⅲ相臨床試験の進捗に従って当社は売上を計上いたします。当中間会計期間においても少額ながらその売上を計上しました。
海外に関しましても、ライセンスの国際カンファレンスをきっかけに多くの製薬企業が本剤の開発に関心を持ち、秘密保持契約を取り交わし交渉を行いました。特に、一昨年のBIO Europe 2023 Munich、及び昨年のBIO International Convention 2024 San Diegoで面談したある欧州製薬企業はPC-SODに高い興味を持ちライセンス協議を当社へ提案し、両社は数か月に亘り議論を進めました。その間、秘密保持契約を結び日本での前期第Ⅱ相臨床試験結果などを提供、また先方からの多岐に亘る質問に回答するなどの対応を行いました。また同社はこの分野における欧州の著名な医師にヒアリングしたり、PC-SODの欧州での開発可能性について社内検討したりしました。その結果、オキサリプラチンによるCIPN予防薬の臨床ニーズが極めて高いこと、及びPC-SODが世界初の薬として承認される可能性が十分にあると判断し、タームシート案を当社に提出しました。その案を基に両社で協議を重ねた結果、2025年3月に合意に至りました。本タームシートでの契約案では、当社は欧州におけるPC-SODの開発、承認登録、商業化を独占的に実施する権利を当該製薬企業へ許諾し、その対価として、契約一時金、開発マイルストン(開発が進むごとに受け取る一時金)、セールスマイルストン(売上が一定額を超えるごとに受け取る一時金)、ロイヤリティ(売上に一定の割合を掛けた金額)を受け取ることになります。なお、臨床試験を含む全ての欧州での開発は当該製薬企業が行い、当社はそれに全面的に協力するとなっています。なお、このタームシートには法的拘束力はなく、今回のタームシートの締結は最終的な契約の締結を保証するものではありません。同社と当社は、2025年6月までに最終的な契約を締結する予定でしたが、契約締結までにはなお一定の時間を要する見込みです。遅延の理由は、世界初(First in Class)のCIPN予防薬の開発であるために、欧州での開発戦略の方向性を決めるのに予想以上の時間が掛かっていることなどがあげられます。当社にとって海外開発のための契約は企業価値の向上に繋がる大変重要な案件ですので、今後とも真摯に取り組んでいきたいと考えております。CIPNに関しては予防薬・治療薬が全くなく、世界的に見ても当社がその開発のトップランナーとして走っています。そこで、海外開発パートナーをなるべく早く決定し、この薬を世界中の患者に届けたいと考えております。
アカデミアとのDR共同研究を推進するため、アカデミアから提案された優れたアイデアに対して、既承認薬ライブラリだけでなく研究費も当社が提供するという取組(DRグラント)を推進しております。最近では応募件数、研究提案の質が共に向上しています。応募いただいた多くの提案の中から当中間会計期間では1件を採択しました。具体的には、国立大学法人山口大学大学院医学系研究科で構築された脳神経分野の疾患モデルと当社の既承認薬ライブラリを用いて、この疾患に対する治療薬を探索する共同研究を実施することを決定し、共同研究契約を結びました。また、研究費は支給しないものの、2件の提案に関しては、既承認薬ライブラリを提供し共同研究を実施することを決定し、共同研究契約を結びました。この3件の他、現在16件のDR共同研究が進行中です。
このDRグラントはアカデミアとの共同研究を推進するのに大変優れたシステムです。そこで、PC-SODの新しい適応疾患の発見を目指した研究提案を日本国内の研究者を対象に広く募集することにしました(PC-SODグラント)。具体的には、PC-SODの新しい適応疾患を検討したいアカデミアから研究提案をいただき、優れた提案に対してはPC-SODと研究費を支給し共同研究を実施します。当中間会計期間では1件を採択しました。具体的には、国立大学法人山口大学大学院医学系研究科が患者由来iPS細胞を用いることでより病態に近い細胞モデルを構築した成果を受けて、このモデル、及び動物モデルを用いてPC-SODの効果を評価します。なお、この研究はPC-SODグラントの最初の採択研究となりました。


「中国関連事業」
北京泰徳製薬は、当社と中国の政府系病院である中日友好病院が1995年に中国で設立した会社です。当社が発明した医薬品を中国で開発・発売することにより、中国有数の製薬企業に成長しました。当社が北京泰徳製薬から受け取っている配当金は、当社の発明と投資に対する果実であり、北京泰徳製薬への支援や中国関連事業の推進は当社の発展のために重要であると現経営陣は考えております。
当中間会計期間においても包括的支援契約を延長し、北京泰徳製薬への支援に尽力しました。例えば、北京泰徳製薬が開発している医薬品を日本でも開発したいという希望を受け、日本での開発戦略や提携すべきパートナー企業に関する助言を行いました。また、上述のように、当社と北京泰徳製薬の共催でPC-SODをテーマとした国際スポンサードセミナーを第78回日本酸化ストレス学会学術集会(2025年5月22日~24日)において開催しました。
一方、北京泰徳製薬はPC-SODの開発においても重要なパートナーです。特に、臨床試験で使用する治験薬の製造を当社はこれまで同社へ委託してきました。上述のように、PC-SODの上市後の製造は大規模になるために同社では行えず、同じシノバイオグループの正大天晴製薬企業グループやCDMO(医薬品開発製造受託機関)などで行う予定です。このためには、北京泰徳製薬が持つ製造技術を正大天晴製薬企業グループ等へ移管する必要があります。この技術移管に関しては多くの難しい課題がありますが、北京泰徳製薬の真摯な協力のお陰で着々と進んでおります。
なお、北京泰徳製薬については、一時的な要因の影響により、当中間会計期間において配当に関する決議が行われませんでした。このため、当社が受け取るべき配当金額は現時点では未確定です。当社としては、今後の動向を注視し、必要に応じて適切に対応してまいります。
一方、北京泰徳製薬の親会社であるシノバイオとの連携を深めることも当社の企業価値の向上に繋がると考え、協議を継続的に行ってまいりました。その中で、当社の技術・ノウハウ・人材・パイプラインを評価したシノバイオが、当社との資本業務提携を目的とした公開買付けを実施し、2021年3月にシノバイオと当社は資本業務提携基本契約を締結しました。この提携は、当社の研究開発の加速や収益の多角化(北京泰徳製薬の配当以外の収入源の確保)に繋がると期待しております。

その後当社は、シノバイオに対して当社ができる支援業務を提案しパイロット的に実施しました。これを評価したシノバイオは、当社との間で業務提携契約を2022年12月に締結しました(2023年12月と2025年2月に更新)。本業務にあたり、当社はシノバイオから毎月一定の報酬を受け取り、シノバイオが日本企業とライセンス契約を結ぶなど支援業務が成功した場合には成功報酬も受け取ります。業務提携の内容は多岐に亘りますが、例えば、日本の優れた医薬品の同社へのライセンスを当社が支援する業務、同社が中国で開発・販売している医薬品の日本企業へのライセンスを当社が支援する業務などが含まれます。当中間会計期間においても様々な支援業務を行いました。例えば、シノバイオのパイプラインを日本の製薬企業へ売り込むための資料を当社が作成し、実際にライセンス活動を代行する業務を行いました。特に、シノバイオが中国で多くのバイオシミラー(バイオ医薬品のジェネリック)を販売・開発していること、及びその中には日本でまだ販売されていないバイオシミラーが多いことに着目し、シノバイオのバイオシミラーを日本企業に売り込むことに注力しました。その結果、ある日本企業がシノバイオとの包括的な提携を希望するに至りましたので、秘密保持契約を3社で結び、ライセンス契約交渉を行いました。このようにシノバイオとの強固なパイプを活かした新しいビジネス(日中間の医療橋渡しビジネス)は当社にしかできない独自の取組みで、近い将来当社の売上に大きく貢献すると期待しています。

シノバイオとのパイプを活かした別のビジネスも実施しております。これまで医薬品開発においては、中国に比べ日本の研究開発のレベルが高かったため日本の優れた医薬品を中国へ導出することが多く、北京泰徳製薬もこのスキームで急成長しました。しかし最近では中国での医薬品開発のレベルが急速に向上し、一部分野では既に日本を上回っています。実際、中国では販売されているが日本では開発されていない新薬は多くあります。これらを日本で開発・販売することは日中両国にとって大きなメリットがありますが、あまり成功例は出ていません。その理由は中国でのデータをどのように日本での承認に繋げるかなどのノウハウが蓄積されていないためです。そこで当社は、シノバイオの優れた医薬品をまず当社が日本で開発し、それを日本企業へ導出するという新しいビジネスを目指しています。これにより中国発新薬を日本で開発するためのノウハウを当社が蓄積できれば、将来的にはシノバイオグループ以外の医薬品に関しても同様の事業を行い、大きな利益を獲得できると考えております。当中間会計期間においては、1つのシノバイオの医薬品に関して、どのような開発を日本で行えば医薬品として承認されるのかについてPMDAと相談しました。この医薬品は中国では大きな売上を記録していますが、日本では開発・販売されていません。相談結果を基に日本での開発戦略を策定しましたが、この開発に多額の費用がかかることなどから、最終的にはこのプロジェクトはこれ以上進めないことになりました。しかしシノバイオは、当社のこの活動を高く評価し、別のパイプラインに関しても日本開発に向けて今後とも協力して欲しいとの申し入れを行いました。シノバイオ、日本の製薬企業、そして当社が連携して、この医薬品の日本での開発に成功すれば大きな利益が見込まれますので、今後もその実現に向けて尽力してまいります。
