有価証券報告書-第24期(2025/04/01-2026/03/31)
有報資料
当事業年度における研究開発活動の状況は以下のとおりであり、創薬事業に係る研究開発費の総額は、1,783,367千円となっております。当社は北京泰徳製薬からの配当金により経常利益は黒字基調ですが、営業利益は創業より赤字が続いております。現経営陣は以下に述べますように営業利益の黒字化を目指すと共に、当面の売上の確保にも最大限努めております。
「研究開発活動」
「PC-SOD(LT-1001)」は、当社独自のDDS技術(タンパク質のレシチン化)を用いたバイオ医薬品であり、様々な疾患の原因となる活性酸素を消去できる画期的な新薬です。このような作用機序を持つ薬は世界的にも他になく、世界中の多くの企業・医師・科学者が注目しています。現在当社はCIPN(化学療法誘発性末梢神経障害)を対象疾患にPC-SODの開発を進めております。CIPNはオキサリプラチンやパクリタキセルなどの抗がん剤による副作用の一種で、これら抗がん剤の投与後にしびれなどが生じ、重篤の場合には抗がん剤投与が継続できなくなる(がんの治療や再発予防が困難となる)ことから、臨床現場で大きな問題となっています。また、吐き気などの他の副作用と異なり、CIPNは抗がん剤投与を中止しても回復しにくく、がんが治った後も後遺症として生涯しびれが残る患者もおり、生活の質を著しく低下させています(がん治療法の発展によるがんサバイバーの増加により、今後さらに大きな問題になることが懸念されています)。
現在、このCIPNを予防する方法(薬)が世界的にもないこと、及びCIPNの原因の1つが活性酸素であることに着目した当社は、動物実験によりオキサリプラチンによるCIPNに対してPC-SODが予防効果を示すことを発見し、前期第Ⅱ相臨床試験を実施しました。その結果、一部の副次的評価項目において目標とした有意水準で有効性を確認することができました。さらにこの臨床試験でPC-SODの新たな薬理効果、即ち、オキサリプラチンアレルギーを予防する効果も発見しました。オキサリプラチンアレルギーもCIPNと同様に臨床現場で大きな問題になっている副作用です。オキサリプラチン投与によってアレルギーが生じるとオキサリプラチン投与ができなくなるだけでなく、重篤なアレルギー(アナフィラキシー)は患者生命にも影響を及ぼします。PC-SODがオキサリプラチンアレルギーを抑えるということは科学的にも新しい発見ですので、複数の大学と共同研究契約を結び、メカニズム解明を目的とした基礎研究を進めたところ、当事業年度において複数のアレルギー動物モデルでPC-SODの抗アレルギー効果を確認しました。今後、アレルギーのどのステップをPC-SODが抑えているのかを明らかにしたいと考えております。なお、この前期第Ⅱ相臨床試験結果に関しては、がん分野で最も権威の高い国際学会として知られているAmerican Society of Clinical Oncology 2024(ASCO、米国臨床腫瘍学会)に採択され、発表を行いました。また、当事業年度では、この臨床試験に関する学術論文が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)が発行する国際的な医学誌、ESMO Gastrointestinal Oncologyに採択され掲載されました。この論文は世界中の多くの医師や関係者に注目されています。

一方、この前期第Ⅱ相臨床試験結果に基づき、2024年9月20日に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による対面助言(医薬品第Ⅱ相試験終了後相談)を実施しました。PMDAは、次の臨床試験を第Ⅲ相臨床試験(検証試験)として実施すること、及び当社が提案した臨床試験計画概要(主要評価項目や症例数等)について受入れ可能と判断しました。このことは、第Ⅲ相臨床試験の主要評価項目において統計的有意差を以て有効性が示されれば、PC-SODが医薬品として承認される可能性が高いことを示しています。
第Ⅲ相臨床試験では第Ⅱ相臨床試験に比べより多くの被験者登録が必要であり、さらにこの試験の被験者登録にはいくつかのハードルがあり困難が予想されました。そこで、まず治験実施候補施設(全国約40の病院)を当社CEOが直接訪問し、この臨床試験の意義やPC-SODの開発経緯を説明しました。その結果、ほとんどの施設の医師から「世界初のCIPN予防薬を医療現場へ届けたい」との強い賛同をいただき、積極的な協力をお約束いただきました。また、治験薬の製造、CROの選定、ライセンス活動・資金調達などにも取り組みました。このうち、ライセンス活動・資金調達に関しましては、「事業開発活動」の項目で述べさせていただきます。当事業年度においては、治験実施計画書(プロトコル)を最終決定しPMDAに治験届を提出し、その承認を得ました。そして、2025年8月には、一例目の被験者に治験薬が投与されました。全国の治験参加医師や関係者の熱意と努力により、目標を上回るペースで被験者登録が進み、2026年3月末時点では241名の登録を達成しております。このようなペースで臨床試験が進むことは大変珍しく、この治験に協力いただいている皆様の「世界初のCIPN予防薬を医療現場へ届けたい」との強い熱意の賜物と感謝しております。このペースで進みますと、今年の夏頃には被験者登録を完了できるのではないかと期待しております。
2026年1月に米国・サンフランシスコで開催されたAmerican Society of Clinical Oncology Gastrointestinal Cancers Symposium(ASCO-GI 2026)(米国臨床腫瘍学会 消化器がんシンポジウム)において、この第Ⅲ相臨床試験の概要および試験デザインについての演題が採択され発表しました(発表者:独立行政法人国立病院機構大阪医療センター、がんセンターがん診療部長・下部消化管外科科長 加藤健志先生、当社CEO水島徹を含む10名)。ASCO-GIは、消化器がん領域において世界で最も権威のある国際学会です。今回、演題が採択されたことは、本試験の科学的新規性と大腸がん治療における末梢神経障害(しびれ)予防への高い関心を示すものです。当日、国内外の多くの医師、研究者、企業関係者、投資家等がポスターまで足を運び、PC-SODやこの臨床試験に対する高い関心を示すと共に、発表者と様々な議論を行いました。また、世界初のCIPN予防薬の開発を日本で進める当社に対して、日本以外での開発に対する強い希望が寄せられました。
この第Ⅲ相臨床試験において成功の鍵となるのが、全ての治験実施施設でCIPNを正しく評価することです。これまで多くのCIPN予防薬・治療薬の第Ⅲ相臨床試験が世界中で行われてきましたが、成功しなかった理由はここにあると考えています。そこで当社は、臨床試験開始前に入念に準備を行うと共に、治験参加医師へのトレーニングを徹底的に行っております。例えば、各施設での立ち上げの会(スタートアップミーティング)では、当社CEOが臨床試験の概要だけでなく、このCIPNの評価法のトレーニングを実施しました。また、2025年9月には、治験調整委員会を立ち上げました。治験調整委員会と当社は協力して、CIPN評価方法を含め、各施設から寄せられる質問や相談に対応しております。また、同じく2025年9月には、Investigator Meetingを開催し、本臨床試験にご協力いただいている40施設の治験責任医師・治験分担医師・治験コーディネーターなどの関係者にご参集いただきました(WEBを含めた参加者、約100名)。CIPNの臨床上の問題点、この治験の意義、成功した時に医療に与えるインパクトなどに関して、治験調整委員及び医学専門家としてご指導いただいている医師にご講演いただきました。また、PC-SODの開発経緯や本治験の概要、並びにCIPN評価のポイントに関して、当社CEOも発表しました。さらに、各治験実施施設から進捗をご説明いただき、参加者全員でCIPN評価について議論を行いました。ご参加いただいた方々からは、本治験の革新性・重要性をより深く理解できた、この治験への興味や意欲がより高まった、CIPN評価のポイントがよりよく理解できたなどのコメントをいただきました。また、上述のASCO-GI 2026にはこの第Ⅲ相臨床試験に参加する多くの医師も出席されました。そこで当社は、この機会に約20名の治験参加医師にお集まりいただき、CIPN評価や患者リクルートに関する情報共有と議論のための場を設けました。参加医師からは、有意義な時間を過ごせたとのコメントをいただきました。またこの会議を経て患者登録のペースがさらに速まりました。このように当社は、この第Ⅲ相臨床試験を成功させるためにできることは何でも行うという強い気持ちで、日々考え実行しております。また、治験に協力いただいている多くの医師や関係者の皆様にも、「世界中のCIPNで苦しんでいる患者を救いたい」、「日本から世界初のCIPN予防薬を発信したい」などの気持ちでご尽力いただいております。これまで世界のどの会社も成功しなかったCIPN予防薬の開発は大変難しい課題ですが、このチーム力で乗り越えたいと考えております。なお、当社オリジナル医薬品の第Ⅲ相臨床試験は約30年ぶりです。この臨床試験が成功すれば、当社の企業価値の一層の向上が見込まれます。
さて、第Ⅲ相臨床試験を実施するということは、上市後の様々な準備を開始する必要があることも意味します。特に重要かつ、難しい課題は、上市後の医薬品製造・供給体制を構築することです。これまでPC-SODの治験薬は北京泰德製薬で製造してきましたが、製造スケールが大きくなることから同社での製造は難しいと考えています。そこでシノバイオグループ最大の製薬企業であり、多くの医薬品を製造・販売している正大天晴製薬企業グループ(正大天晴製薬)やCDMO(医薬品開発製造受託機関)などと連携に向けて協議を進めております。2025年3月には、当社、及び北京泰德製薬の製造関係者が正大天晴製薬を訪問し、3社でPC-SODの上市後の製造について協議を行いました。当事業年度においても、毎月この3社で会議を行い、北京泰德製薬から正大天晴製薬への技術移管や製造スケールアップをどのように進めるかの工程表を作成しております。両社の献身的な協力により多くの課題が解決されました。また当社の製造担当者も充実させ、さらにCEOも製造に関する実務に直接当たる体制にしました。PC-SODの製造・供給体制の確立も大変難しい課題ですが、シノバイオグループとのパイプを活かし乗り越えたいと考えております。一方、北京泰德製薬から正大天晴製薬への技術移管や製造スケールアップをいつ頃開始するのかは大変難しい課題です。一日も早く患者にPC-SODを届けるためには、この第Ⅲ相臨床試験中に商用スケールでの製造準備を開始すべきですが、それには多額の資金が必要であり、その投資は第Ⅲ相臨床試験の結果次第では直ぐには売上や利益に繋がらない可能性もあります。当社としては、社会貢献と当社の利益の両面から検討しております。


一方、当社のこれまでの基礎研究(動物試験)により、PC-SODがパクリタキセル(別の抗がん剤)によるCIPNも予防することを見いだしております。オキサリプラチン同様、パクリタキセルによるCIPNも多くの患者(特に、卵巣がんなどの婦人科領域のがん患者)を苦しめ、パクリタキセルによるがん治療を難しくしています。そこで、パクリタキセルによるCIPNに対するPC-SODの前期第Ⅱ相臨床試験を2024年9月に開始しました。本治験においてもご協力いただいている医師の意欲は高く、当事業年度でも予想を上回るペースで登録が進みました。その結果、2025年10月には被験者登録を完了し、2026年3月には治験薬投与が完了いたしました。いずれも目標の時期を5ヶ月上回るもので、試験費用の削減にも繋がりました。今後、臨床試験データの確認や解析と対象となる被験者の確定を行い、2026年中には結果が判明する予定です。

さらに、当社湘南研究所や共同研究先の大学では、PC-SODの次の適応疾患の発見を目指し基礎研究を進めております。当事業年度においても、新しい適応疾患(非開示)を考え動物実験を開始し有望な結果が得られましたので、投与回数・投与量の検討を行っております。今後は、既存治療法との比較や専門医師への相談などを行う予定です。この新しい適応疾患(非開示)は、社会の高齢化に伴い患者数が増えているにも拘らず既存の薬剤治療への満足度が低く、新しい治療薬の開発が強く望まれている領域です。
国立研究開発法人・量子科学技術研究開発機構と進めているPC-SODに関する共同研究では、2025年4月に研究成果を国際科学雑誌「Molecules」で発表しました。本共同研究では、マウス体内において炎症反応に伴い放出される活性酸素をPC-SODが消去すること、その効果はレシチン化修飾がなされていないSODよりも持続することなどを発見しました。また、大学との共同研究により次世代のSOD製剤の開発も進めております。具体的には、細胞内でPC-SODよりも効率よく活性酸素を消去できるようにSODを修飾する方法を変えたり、脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle:LNP)にSODを封入したりしています。当事業年度では、LNP封入SODの薬物動態試験を行いましたが、残念ながらPC-SODを上回る結果は得られませんでしたので、今後は別のタイプの粒子に封入したり、SODを直接修飾した分子を試したりする予定です。また、湘南研究所にはアカデミアでの分子生物学研究で世界的な業績をあげた研究者が当事業年度に入社しましたので、PC-SODの基礎研究を新しい観点から開始しました。具体的には、細胞、及び動物において、PC-SODがどこでどのように作用して様々な薬理効果を発揮しているかを分子レベルで解明しています。この研究は、PC-SODの新しい適応疾患の発見や次世代のSOD製剤の開発に大きく貢献すると考えています。世界的に見ても活性酸素に着目した創薬研究の分野で、当社はその先頭を走っています。このことを当社の企業価値の向上へさらに繋げるためには、活性酸素に着目した創薬研究を多方面から進める必要があると考えております。活性酸素はアンチエイジング(AI、ロボットに並ぶ米国での三大投資対象分野)の分野でも大変注目されています。当社の活性酸素に関する科学や技術の先進性をさらに高めることにより、活性酸素のリーディングカンパニーとして当社の企業価値を向上させることも大変重要な戦略と考えております。

PC-SODの第Ⅲ相臨床試験が世界的に注目されている中、基礎研究者のPC-SODへの関心も高まっています。この機を活かして、PC-SODの周知を高め、次の適応疾患の発見や次世代のSOD製剤の開発を加速したいと考えております。そこで当事業年度において、当社と北京泰德製薬の共催でPC-SODをテーマとした国際スポンサードセミナー(使用言語:英語)を第78回日本酸化ストレス学会学術集会(2025年5月22日~24日)において行いました。本セミナーでは、以下の4名(敬称略)による講演を行いました。
・山口 研成(公益財団法人がん研究会有明病院副院長、同消化器センター消化器化学療法科部長)
講演内容:大腸がん治療におけるオキサリプラチンの重要性とCIPN(化学療法誘発性末梢神経傷害)予防薬の臨床的意義
・Li Wei(北京泰德製薬生物製剤部門責任者)
講演内容:PC-SODの製造とその制御
・Gan Leling(北京泰德製薬薬理研究部門責任者)
講演内容:PC-SODの中国での開発と新しい適応の探索
・水島 徹(当社CEO、崇城大学薬学部教授)
講演内容:日本でのPC-SOD開発の歴史とCIPNに関する第Ⅲ相臨床試験の概要
当日は国内外の医療・研究関係者にお集まりいただき、PC-SODに関する最新の知見及び事業的ポテンシャルについて広く議論・発信することができました。また会場からは、PC-SOD、及びCIPN予防薬への高い期待が寄せられました。
ノーベルファーマ社との共同開発では、同社が既に発売している既承認薬(LT-5001、ホストイン)を三叉神経痛に適応拡大(DR(ドラッグ・リポジショニング))することを目指し開発を進めています。第Ⅲ相臨床試験(医師主導治験)では、主要評価項目及び一部の副次的評価項目において、統計的有意差を以てその有効性を確認することができました。そこで当事業年度において、上市へ向けた最後の臨床試験をどのようなプロトコルで行うかについてPMDAと数回に亘って協議を重ねたところ、検証試験としての第Ⅲ相臨床試験(医師主導治験)を改めて実施することで合意いたしました。2026年3月にはこの第Ⅲ相臨床試験が開始され、一例目の被験者に治験薬が投与されました。三叉神経痛では、既存の医薬品が効かない患者は外科的治療を受ける必要がありますが、手術までの期間の痛みを抑える方法がありません。LT-5001はこの点において大変有用な薬になると期待しています。この第Ⅲ相臨床試験において有効性と安全性が再度確認されましたら、三叉神経痛治療薬としてノーベルファーマ社が承認申請を行う計画です。また上市後当社は、その利益の一部を受け取る予定です。
昨今の医薬品開発においては、開発コストや開発失敗リスクの増大から、製薬企業同士がノウハウを出し合い、リスクをシェアする共同開発の必要性がさらに高まっています。当社もこのような共同開発を積極的に進めていきたいと考えております。

「ドライアイ治療薬(LT-4002)」は、DR研究により当社が見出したパイプラインで、既に後期第Ⅱ相臨床試験を終了しています。当事業年度でも引き続き今後の開発を共同で進めるパートナーを探しました。
「肺線維症治療薬(LT-4010)」は、当社のDR技術と武蔵野大学の肺線維症研究を活かした共同研究により見出された、新しいメカニズムで肺の線維化を改善する既承認薬ですが、当事業年度においてもライセンス活動に注力しました。
湘南研究所では新たなパイプラインの創成を目指して、精力的に研究活動を行っております。当社CEOは、就任以来、経営・事業開発・臨床開発・再上場などに注力してきましたが湘南研究所の研究にも積極的に関与するようになり、研究の進捗が早まっています。例えば、数年前に開始したプロジェクト(対象疾患は非開示)においては、発見した複数の候補薬に関して、既存薬と比較し優位性を検証したり、どのような製剤にすることで医薬品としてのポテンシャルが向上するかを検討したり、諸外国での治療薬の現状を調査したりしました。当事業年度では、候補薬を1つに絞り込み(既承認薬A)、これまではあまり注目してこなかった薬物の体内動態を外部の専門家の指導を受けながら詳細に解析したり、薬物の代謝物を詳細に解析したりするなど、当社の研究の幅を広げることもできました。これらはいずれも後述する新しいDR戦略に則った研究であり、当社のDR創薬が新しいステージに達したことを示しています。また、これらの研究から、この既承認薬A(現在は経口薬として上市されている)を貼付剤にすることが有用であると考えました。そこで、当事業年度においてこの既承認薬Aに関して、貼付剤の開発を得意とするトーヨーケム株式会社(以下、トーヨーケム社)と共同研究契約を締結しました。トーヨーケム社は、生体適合素材の研究、パッチ素材の開発などを手がけており、貼付剤開発に関しても高い技術と実績を持っています。当社のDRに関する知見とトーヨーケム社の貼付剤開発技術とのシナジーにより、この研究のさらなる推進を図っていきたいと考えております。トーヨーケム社とは定期的に研究開発会議を開催し、お互いの研究進捗を共有し科学的・技術的議論を重ねております。また、前事業年度に開始した新しいテーマに関しては、当社の目論見通りこの疾患に対する治療薬開発がこれから大きく発展することが確認できましたので、当社も研究を加速しております。具体的には、他の創薬ベンチャーへの委託研究という形で既承認薬ライブラリからのスクリーニングを行い、複数の候補薬の発見に成功しました。
このように新しい研究プロジェクトを開始すると共に、既存研究プロジェクトの評価も定期的に行っております。「選択と集中」は製薬企業にとって大変重要でありますので、これからも推進してまいります。

当社が牽引してきたDR研究は、特にアカデミアで盛んに取り組まれるようになり、創薬の基本戦略として定着しました。当社においてもDRグラントなどを通じて積極的にアカデミアのDR研究を支援しています。しかし、DR研究から生まれたアカデミアのパイプラインが大手製薬企業に導出された成功例はほとんどありません。当社自身のパイプラインも同じ問題を抱えていますが、当社はこの原因を解析し、①既存製剤をそのまま使用するのではなく、新しい製剤・投与法で開発する、②日本では薬価が低く抑えられるため、海外(特に米国)での開発を先行させる、などの新しいDR戦略を立てました。また、当社がこのようなノウハウを蓄積することで、当社だけではなくアカデミアのDR研究から生まれたパイプラインの開発も推進できると考えております。即ち、当社がアカデミアのDR研究に伴走し、アカデミアのパイプラインを製薬企業へ導出する際に障壁となっている問題(特許の排他性、臨床試験の未実施など)を解決するというビジネススキームです。当事業年度でも上述のように、当社自身が現在行っているDR研究に関してこの新しい戦略を適用し、これまでにない観点から研究を進めました。

さらに、医療情報や基礎研究情報が豊富にある既承認薬の特徴を活かし、DX(デジタルトランスフォーメーション)をDRに活かすことも大変重要な戦略です。当事業年度においては、当社CEOがアカデミア時代から共同研究を行ってきたこの分野の第一人者(堀本勝久博士)が創業した会社(ソシウム株式会社、以下、ソシウム社)と共同研究契約を締結しました。AI技術を活用した独自のデジタル創薬プラットフォームを有するソシウム社との連携により、既承認薬の持つ新しい薬理効果を戦略的に探索し、従来のアプローチでは見出せなかった創薬シーズを発掘し、治療選択肢の限られた患者さんへの新たな解決策を提供します。具体的な両社の役割は、ソシウム社はAIを駆使し既承認薬や開発中薬剤の新たな適応疾患候補(創薬シーズ)を短期間にかつ定量的に特定することで、当社は得られた創薬シーズを独自の疾患モデル系で詳細に解析・評価したうえで臨床試験の実施につなげることです。一方、別の国内ベンチャー企業とは、同社が持つ医薬品と標的タンパク質の結合を、AIなどを用いて立体的に予測する技術を活かした共同研究へ向けた話し合いも進めております。また、後述するBio-Europe2026で面談した米国のAI関連企業とも、AIを活かした次世代のDR創薬について議論を進めております。当社は現在第Ⅲ相臨床試験を精力的に進めておりますが、企業の継続的な発展のためには、次のパイプラインの創成に向けた基礎研究を加速すべき時期でもあります。その際、最近技術革新の著しい分野でこれまでに当社が余り取り入れていなかった技術(AI、構造生物学、製剤開発など)を積極的に取り入れることが重要と考え、実践しております。

一般に、日本から優れた医薬品を世界に発信するためには、アカデミアと製薬企業の連携が重要と言われており、その架け橋として必要不可欠なのが創薬ベンチャーです。しかし、誕生したばかりの「アカデミア発ベンチャー」は製薬企業の事情が分からず、「製薬企業からスピンアウトしたベンチャー」はアカデミアの事情が分からず、架け橋として機能できない状況にあります。当社は大学発ベンチャーでありますが、30年以上製薬企業と共に医薬品開発を行ってきた経験を持っていますので、真の架け橋になれると自負しております。

前事業年度に当社は一般社団法人アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会(当社創業者の水島裕は、本協会の母体組織の立ち上げに携わっています)に入会し、同時に当社CEO水島徹が理事に就任しました。さらに、当事業年度において、当社CEOは日本バイオテク協議会の理事に就任しました(2025年5月)。日本バイオテク協議会は、官民対話を通じてバイオテクの推進を図り、我が国の医療への貢献並びに医療産業及び会員各社の健全な発展に寄与することを目的とした、バイオベンチャー企業の業界団体です。当社は同協議会の会員であり、これまでも同協議会を通じたジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミットへの出展や同協議会主催の講演会への参加等の活動を行ってまいりました。2025年9月17日開催の中央社会保険医療協議会(略称:中医協)薬価専門部会では、日本バイオテク協議会理事として当社CEOの水島徹が出席し、薬価制度改革に対する意見陳述を行いました。中医協は日本の薬価基準制度や診療報酬点数などについて審議する厚生労働大臣の諮問機関です。中医協薬価専門部会では、業界団体から薬価制度に対する意見を聴取する仕組みがあります。今回、創薬ベンチャーにとって事業性を得るために必要な薬価が得られない現状と課題を当社CEOが説明し、その具体的解決策を提案しました。今後とも、当社の研究開発活動に支障のない範囲内で、我が国から画期的な新薬が生まれるための基盤構築に関しましても、所属業界団体を通じて積極的に貢献していきたいと考えております。

「事業開発活動」
当社は、「ポートフォリオ型創薬ベンチャー」を目指しています。これは自社による研究開発に絞り込むのではなく、資金力などを活用して環境や状況に応じて外部の経営資源を有効に活用し、安定的にリターンを獲得する事業戦略です。すなわち、事業開発活動を研究開発活動と並ぶ当社の柱と位置づけています。

ライセンス活動では、2025年6月にアメリカ・ボストンで開催された製薬関連企業が集まる世界最大規模のカンファレンスであるBIO International Convention(通称:Bio)に当社CEOと事業開発担当者が参加し、また、2025年11月にはオーストリア・ウィーンで開催された欧州最大級の医薬品開発分野のパートナーシップ会議であるBio-Europeに当社CEOが参加しました。PC-SODの開発に関しては、後述のように日本での開発パートナーは既に決定しており、欧州に関しても開発パートナーの候補企業と契約の交渉を進めていますので、これらカンファレンスでは、米国を含むそれ以外の国での開発へ向けた足がかりを作ることを目的にしました。BIO International Conventionでは、米国等の製薬企業にこの開発の概略を紹介したり、米国の投資会社とこの開発への投資スキームについて議論したりしました。多くの企業と有意義な面談を行うことができ、今後の米国等での事業展開において重要なステップとなりました。またこの会議で、米国での共同開発を進めるためには米国の医薬品に関する規制当局であるFDAと交渉し開発の概略を決定することが重要であることを学びました。そこでこのような活動をサポートしてくれるコンサルタント会社との交渉も開始しました。一方、Bio-Europeでは、AIをDRに活かす方策を調査・検討するため10を超えるAI関連会社と議論し、日々進歩するAIの活用がDR推進に必要不可欠であることを改めて認識しました。そこで、これらAI関連会社から選んだ米国の会社とWEB会議などで情報共有と議論を行いました。その結果、AIを用いた新しいDR戦略が見えてまいりましたので、今後さらに議論を進めていきたいと考えております。
当事業年度で最も注力したのは、日本におけるCIPN予防薬としてのPC-SODに関する事業開発活動です。第Ⅲ相臨床試験(検証試験)では第Ⅱ相臨床試験に比べ必要な被験者数も多くなり多額の費用を要しますので、製薬企業等とのライセンス契約・共同開発契約、あるいは出資・融資による資金調達が重要となります。国内製薬企業との提携に関しては複数の製薬企業と交渉を進めましたが、当初交渉は順調には進みませんでした。これは、現在開発中のPC-SODは世界初(first in class)のCIPN予防薬、つまりこれまで世界中でどの製薬企業も開発に成功しなかった分野の薬であり、国内の製薬企業が自社のみで開発リスクを負うことは難しいと判断しているためです。そこで当社は、医薬品卸会社や臨床試験受託会社、あるいはベンチャーキャピタル等の金融機関からの資金調達など、幅広く提携先を検討しました。また、ライセンス契約や資金調達が第Ⅲ相臨床試験実施の最大のハードルと考え、CEO自ら精力的に活動しました。その結果、アルフレッサホールディングスとPC-SODに関する共同開発契約を当事業年度の2025年4月に締結しました。アルフレッサホールディングスは医薬品卸売事業のみならず、製薬、臨床試験受託業務(CRO)、調剤薬局など多岐に亘るヘルスケア関連事業を展開する企業グループであり、2026年3月期の連結売上高が3兆1,000億円を超える日本を代表する東証プライム市場上場企業です。同社は有望な医薬品の開発を行っている企業へ医薬品等の導入・開発、製造から物流・販売、市販後調査・ラストワンマイルまでを一貫して支援する「トータルサプライチェーンサービス」を提供する事業を展開しており、当社のPC-SODのCIPN予防薬としての開発が評価されその対象となりました。特に、PC-SODを世界初のCIPN予防薬として開発し、多くのがん患者の治療に貢献するという研究開発理念と実現可能性にご賛同いただいたものと理解しています。本契約に基づき、アルフレッサホールディングスは第Ⅲ相臨床試験に係る研究開発費の一部を当社に提供すると共に、同社傘下企業が以下の役割を担うことで当社の開発活動を多面的に支援します。具体的には、同社は上市後の流通権を獲得すると共に、治験及び製造販売後調査(PMS)等に関わるCRO業務や品質確保を目的とした検査や二次包装などの業務の受託に関する優先権や製造販売権の優先交渉権を獲得します。これによりアルフレッサホールディングスは、開発から製造・流通・販売に至るまでの一貫した支援体制を通じてPC-SODの早期上市に貢献することになります。契約締結後、毎月の研究開発会議を両社で開催し様々な案件を議論したり、全国の治験参加施設で行われているスタートアップミーティングにアルフレッサホールディングス、及びその子会社の方が参加したりするなど、両社の共同開発は順調に進んでおります。アルフレッサホールディングスとの協業は、当社、及びこの第Ⅲ相臨床試験への医療機関の信用度・安心感を高める効果などにより、この試験の推進に大きく貢献しています。一方、同社からは「医療従事者との交流や医薬品開発に関するノウハウの吸収で、既に多くのメリットを得ている」とのコメントをいただいております。今後もこの共同開発のシナジー効果を活かしてまいりたいと考えております。長年に亘り当社の重要課題であったPC-SODに関する国内パートナー企業の確定は、当社にとって極めて大きな意義を持つ成果であり、企業としての大きな飛躍の契機となるものと確信しております。また、この契約に伴い、第Ⅲ相臨床試験の進捗に従って当社は売上を計上します。当事業年度においても、4億円を超える売上を計上しました。

海外に関しましても、ライセンスの国際カンファレンスをきっかけに多くの製薬企業が本剤の開発に関心を持ち、秘密保持契約を取り交わし交渉を行いました。特に、BIO-Europe、及びBIO International Conventionで面談したある欧州製薬企業はPC-SODに高い興味を持ちライセンス協議を当社へ提案し、両社は数ヶ月に亘り議論を進めました。その間、秘密保持契約を結び日本での前期第Ⅱ相臨床試験結果などを提供したり、また先方からの多岐に亘る質問に回答したりするなどの対応を行いました。また同社はこの分野における欧州の著名な医師にヒアリングしたり、PC-SODの欧州での開発可能性について社内検討したりしました。その結果、オキサリプラチンによるCIPN予防薬の臨床ニーズが極めて高いこと、及びPC-SODが世界初の薬として承認される可能性が十分にあると判断し、タームシート(契約骨子)案を当社に提出しました。その案を基に両社で協議を重ねた結果、2025年3月にタームシートの合意に至りました。本タームシートでは、当社は欧州におけるPC-SODの開発、承認登録、商業化を独占的に実施する権利を当該製薬企業へ許諾し、その対価として、契約一時金、開発マイルストン(開発が進むごとに受け取る一時金)、セールスマイルストン(売上が一定額を超えるごとに受け取る一時金)、ロイヤリティ(売上に一定の割合を掛けた金額)を受け取ることになります。なお、臨床試験を含む全ての欧州での開発は当該製薬企業が行い、当社はそれに全面的に協力するとなっています。なお、このタームシートには法的拘束力はなく、今回のタームシートの締結は最終的な契約の締結を保証するものではありません。同社と当社は、2025年6月までに最終的な契約を締結する予定でしたが、契約締結までにはなお一定の時間を要する見込みです。遅延の理由は、世界初(First in Class)のCIPN予防薬の開発であるために、欧州での開発戦略の方向性を決めるのに予想以上の時間が掛かっていることなどがあげられます。当社にとって海外開発のための契約締結は企業価値の向上に繋がる大変重要な案件です。そこで、2026年1月には、当社CEOが同社を直接訪問し、新しい形の協業を提案しました。同社はこの提案を高く評価し、その方向での検討を開始したり、同社のCEOが当社を直接訪問したりしています。CIPNに関しては予防薬・治療薬が全くなく、世界的に見ても当社がその開発のトップランナーとして走っています。そこで、海外開発パートナーをなるべく早く決定し、この薬を世界中の患者に届けたいと考えております。
アカデミアとのDR共同研究を推進するため、アカデミアから提案された優れたアイデアに対して、既承認薬ライブラリだけでなく研究費も当社が提供するという取組(DRグラント)を推進しております。最近では応募件数、研究提案の質が共に向上しています。応募いただいた多くの提案の中から当事業年度では2件を採択しました。具体的には、国立大学法人山口大学大学院医学系研究科で構築された脳神経分野の疾患モデルと当社の既承認薬ライブラリを用いて、この疾患に対する治療薬を探索する共同研究を実施することを決定し、共同研究契約を結びました。また、関西医科大学より申請された自己免疫疾患を対象とした研究を採択し、同大学と共同研究契約を締結しました。なお、研究費は支給しないものの2件の提案に関しては、既承認薬ライブラリを提供し共同研究を実施することを決定し、共同研究契約を結びました。この4件のほか、現在14件のDR共同研究が進行中です。
このDRグラントはアカデミアとの共同研究を推進するのに大変優れたシステムです。そこで、PC-SODの新しい適応疾患の発見を目指した研究提案を日本国内の研究者を対象に広く募集することにしました(PC-SODグラント)。具体的には、PC-SODの新しい適応疾患を検討したいアカデミアから研究提案をいただき、優れた提案に対してはPC-SODと研究費を支給し共同研究を実施します。当事業年度では1件を採択しました。具体的には、国立大学法人山口大学大学院医学系研究科が患者由来iPS細胞を用いることでより病態に近い細胞モデルを構築した成果を受けて、このモデル、及び動物モデルを用いてPC-SODの効果を評価します。なお、この研究はPC-SODグラントの最初の採択研究となりました。


「中国関連事業」
北京泰德製薬は、当社と中国の政府系病院である中日友好病院が1995年に中国で設立した会社です。当社が発明した医薬品を中国で開発・発売することにより、中国有数の製薬企業に成長しました。当社が北京泰德製薬から受け取っている配当金は、当社の発明と投資に対する果実であり、北京泰德製薬への支援や中国関連事業の推進は当社の発展のために重要であると現経営陣は考えております。
当事業年度においても包括的支援契約を延長し、北京泰德製薬への支援に尽力しました。例えば、北京泰德製薬が開発している医薬品を日本でも開発したいという希望を受け、日本での開発戦略や提携すべきパートナー企業に関する助言を行いました。また、上述のように、当社と北京泰德製薬の共催でPC-SODをテーマとした国際スポンサードセミナーを第78回日本酸化ストレス学会学術集会において開催しました。また北京泰德製薬が必要な研究器具で中国での調達が間に合わないものに関して、当社が日本で購入し輸出する支援も行いました。なお、この支援契約に関しては、変化する同社のビジネスに対応するために、その発展的見直しを両社で検討しております。
一方、北京泰德製薬はPC-SODの開発においても重要なパートナーです。特に、臨床試験で使用する治験薬の製造を当社はこれまで同社へ委託してきました。上述のように、PC-SODの上市後の製造は大規模になるために同社では行えず、同じシノバイオグループの正大天晴製薬やCDMOなどで行う予定です。このためには、北京泰德製薬が持つ製造技術を正大天晴製薬企業グループ等へ移管する必要があります。この技術移管には多くの難しい課題がありますが、北京泰德製薬の真摯な協力のお陰で着々と進んでおります。
なお、北京泰德製薬については、一時的な要因により董事会が延期され、2025年9月までに配当に関する決議が行われませんでした。しかし、当社CEOが同社を訪問し交渉したこともあり、2025年中に董事会が開催されました。董事会で報告された2024年の北京泰德製薬の業績は、前年に比べ売上・利益共に増加し、そのため配当金も増配(一株当たり、1.25中国元)となりました。
一方、北京泰德製薬の親会社であるシノバイオとの連携を深めることも当社の企業価値の向上に繋がると考え、協議を継続的に行ってまいりました。その中で、当社の技術・ノウハウ・人材・パイプラインを評価したシノバイオが、当社との資本業務提携を目的とした公開買付けを実施し、2021年3月にシノバイオと当社は資本業務提携基本契約を締結しました。この提携は、当社の研究開発の加速や収益の多角化(北京泰德製薬の配当以外の収入源の確保)に繋がると期待しております。

その後当社は、シノバイオに対して当社ができる支援業務を提案しパイロット的に実施しました。これを評価したシノバイオは、当社との間で業務提携契約を2022年12月に締結しました(2023年12月と2025年2月に更新)。本業務にあたり、当社はシノバイオから毎月一定の報酬を受け取り、シノバイオが日本企業とライセンス契約を結ぶなど支援業務が成功した場合には成功報酬も受け取ります。業務提携の内容は多岐に亘りますが、例えば、日本の優れた医薬品の同社へのライセンスを当社が支援する業務、同社が中国で開発・販売している医薬品の日本企業へのライセンスを当社が支援する業務などが含まれます。当事業年度においても様々な支援業務を行いました。例えば、シノバイオのパイプラインを日本の製薬企業へ売り込むための資料を当社が作成し、実際にライセンス活動を代行する業務を行いました。特に、シノバイオが中国で多くのバイオシミラー(バイオ医薬品のジェネリック)を販売・開発していること、及びその中には日本でまだ販売されていないバイオシミラーが多いことに着目し、シノバイオのバイオシミラーを日本企業に売り込むことに注力しました。その結果、ある日本企業がシノバイオとの包括的な提携を希望するに至りましたので、秘密保持契約を3社で結び、ライセンス契約交渉を行いました。このようにシノバイオとの強固なパイプを活かした新しいビジネス(日中間の医療橋渡しビジネス)は当社にしかできない独自の取組みですので、今後も進めていきたいと考えております。なお、シノバイオとの業務提携契約に関しては、当初計画していた業務がほぼ完了したことから、別の形での支援に関して現在協議を進めております。

シノバイオとのパイプを活かした別のビジネスも実施しております。これまで医薬品開発においては、中国に比べ日本の研究開発のレベルが高かったため日本の優れた医薬品を中国へ導出することが多く、北京泰德製薬もこのスキームで急成長しました。しかし最近では中国での医薬品開発のレベルが急速に向上し、一部分野では既に日本を上回っています。実際、中国では販売されているが日本では開発されていない新薬は多くあります。これらを日本で開発・販売することは日中両国にとって大きなメリットがありますが、あまり成功例は出ていません。その理由は中国でのデータをどのように日本での承認に繋げるかなどのノウハウが蓄積されていないためです。そこで当社は、シノバイオの優れた医薬品をまず当社が日本で開発し、それを日本企業へ導出するという新しいビジネスを目指しています。これにより中国発新薬を日本で開発するためのノウハウを当社が蓄積できれば、将来的にはシノバイオグループ以外の医薬品に関しても同様の事業を行い、大きな利益を獲得できると考えております。当事業年度においては、1つのシノバイオの医薬品に関して、どのような開発を日本で行えば医薬品として承認されるのかについてPMDAと相談しました。この医薬品は中国では大きな売上を記録していますが、日本では開発・販売されていません。相談結果を基に当社は日本での開発戦略を策定しましたが、この開発に多額の費用がかかることなどから、最終的にはこのプロジェクトはこれ以上進めないことになりました。しかしシノバイオは当社のこの活動を高く評価し、今後も同様の支援を期待しておりますので、当社としても機会があれば積極的に支援したいと考えております。

「研究開発活動」
「PC-SOD(LT-1001)」は、当社独自のDDS技術(タンパク質のレシチン化)を用いたバイオ医薬品であり、様々な疾患の原因となる活性酸素を消去できる画期的な新薬です。このような作用機序を持つ薬は世界的にも他になく、世界中の多くの企業・医師・科学者が注目しています。現在当社はCIPN(化学療法誘発性末梢神経障害)を対象疾患にPC-SODの開発を進めております。CIPNはオキサリプラチンやパクリタキセルなどの抗がん剤による副作用の一種で、これら抗がん剤の投与後にしびれなどが生じ、重篤の場合には抗がん剤投与が継続できなくなる(がんの治療や再発予防が困難となる)ことから、臨床現場で大きな問題となっています。また、吐き気などの他の副作用と異なり、CIPNは抗がん剤投与を中止しても回復しにくく、がんが治った後も後遺症として生涯しびれが残る患者もおり、生活の質を著しく低下させています(がん治療法の発展によるがんサバイバーの増加により、今後さらに大きな問題になることが懸念されています)。
現在、このCIPNを予防する方法(薬)が世界的にもないこと、及びCIPNの原因の1つが活性酸素であることに着目した当社は、動物実験によりオキサリプラチンによるCIPNに対してPC-SODが予防効果を示すことを発見し、前期第Ⅱ相臨床試験を実施しました。その結果、一部の副次的評価項目において目標とした有意水準で有効性を確認することができました。さらにこの臨床試験でPC-SODの新たな薬理効果、即ち、オキサリプラチンアレルギーを予防する効果も発見しました。オキサリプラチンアレルギーもCIPNと同様に臨床現場で大きな問題になっている副作用です。オキサリプラチン投与によってアレルギーが生じるとオキサリプラチン投与ができなくなるだけでなく、重篤なアレルギー(アナフィラキシー)は患者生命にも影響を及ぼします。PC-SODがオキサリプラチンアレルギーを抑えるということは科学的にも新しい発見ですので、複数の大学と共同研究契約を結び、メカニズム解明を目的とした基礎研究を進めたところ、当事業年度において複数のアレルギー動物モデルでPC-SODの抗アレルギー効果を確認しました。今後、アレルギーのどのステップをPC-SODが抑えているのかを明らかにしたいと考えております。なお、この前期第Ⅱ相臨床試験結果に関しては、がん分野で最も権威の高い国際学会として知られているAmerican Society of Clinical Oncology 2024(ASCO、米国臨床腫瘍学会)に採択され、発表を行いました。また、当事業年度では、この臨床試験に関する学術論文が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)が発行する国際的な医学誌、ESMO Gastrointestinal Oncologyに採択され掲載されました。この論文は世界中の多くの医師や関係者に注目されています。

一方、この前期第Ⅱ相臨床試験結果に基づき、2024年9月20日に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による対面助言(医薬品第Ⅱ相試験終了後相談)を実施しました。PMDAは、次の臨床試験を第Ⅲ相臨床試験(検証試験)として実施すること、及び当社が提案した臨床試験計画概要(主要評価項目や症例数等)について受入れ可能と判断しました。このことは、第Ⅲ相臨床試験の主要評価項目において統計的有意差を以て有効性が示されれば、PC-SODが医薬品として承認される可能性が高いことを示しています。
第Ⅲ相臨床試験では第Ⅱ相臨床試験に比べより多くの被験者登録が必要であり、さらにこの試験の被験者登録にはいくつかのハードルがあり困難が予想されました。そこで、まず治験実施候補施設(全国約40の病院)を当社CEOが直接訪問し、この臨床試験の意義やPC-SODの開発経緯を説明しました。その結果、ほとんどの施設の医師から「世界初のCIPN予防薬を医療現場へ届けたい」との強い賛同をいただき、積極的な協力をお約束いただきました。また、治験薬の製造、CROの選定、ライセンス活動・資金調達などにも取り組みました。このうち、ライセンス活動・資金調達に関しましては、「事業開発活動」の項目で述べさせていただきます。当事業年度においては、治験実施計画書(プロトコル)を最終決定しPMDAに治験届を提出し、その承認を得ました。そして、2025年8月には、一例目の被験者に治験薬が投与されました。全国の治験参加医師や関係者の熱意と努力により、目標を上回るペースで被験者登録が進み、2026年3月末時点では241名の登録を達成しております。このようなペースで臨床試験が進むことは大変珍しく、この治験に協力いただいている皆様の「世界初のCIPN予防薬を医療現場へ届けたい」との強い熱意の賜物と感謝しております。このペースで進みますと、今年の夏頃には被験者登録を完了できるのではないかと期待しております。
2026年1月に米国・サンフランシスコで開催されたAmerican Society of Clinical Oncology Gastrointestinal Cancers Symposium(ASCO-GI 2026)(米国臨床腫瘍学会 消化器がんシンポジウム)において、この第Ⅲ相臨床試験の概要および試験デザインについての演題が採択され発表しました(発表者:独立行政法人国立病院機構大阪医療センター、がんセンターがん診療部長・下部消化管外科科長 加藤健志先生、当社CEO水島徹を含む10名)。ASCO-GIは、消化器がん領域において世界で最も権威のある国際学会です。今回、演題が採択されたことは、本試験の科学的新規性と大腸がん治療における末梢神経障害(しびれ)予防への高い関心を示すものです。当日、国内外の多くの医師、研究者、企業関係者、投資家等がポスターまで足を運び、PC-SODやこの臨床試験に対する高い関心を示すと共に、発表者と様々な議論を行いました。また、世界初のCIPN予防薬の開発を日本で進める当社に対して、日本以外での開発に対する強い希望が寄せられました。
この第Ⅲ相臨床試験において成功の鍵となるのが、全ての治験実施施設でCIPNを正しく評価することです。これまで多くのCIPN予防薬・治療薬の第Ⅲ相臨床試験が世界中で行われてきましたが、成功しなかった理由はここにあると考えています。そこで当社は、臨床試験開始前に入念に準備を行うと共に、治験参加医師へのトレーニングを徹底的に行っております。例えば、各施設での立ち上げの会(スタートアップミーティング)では、当社CEOが臨床試験の概要だけでなく、このCIPNの評価法のトレーニングを実施しました。また、2025年9月には、治験調整委員会を立ち上げました。治験調整委員会と当社は協力して、CIPN評価方法を含め、各施設から寄せられる質問や相談に対応しております。また、同じく2025年9月には、Investigator Meetingを開催し、本臨床試験にご協力いただいている40施設の治験責任医師・治験分担医師・治験コーディネーターなどの関係者にご参集いただきました(WEBを含めた参加者、約100名)。CIPNの臨床上の問題点、この治験の意義、成功した時に医療に与えるインパクトなどに関して、治験調整委員及び医学専門家としてご指導いただいている医師にご講演いただきました。また、PC-SODの開発経緯や本治験の概要、並びにCIPN評価のポイントに関して、当社CEOも発表しました。さらに、各治験実施施設から進捗をご説明いただき、参加者全員でCIPN評価について議論を行いました。ご参加いただいた方々からは、本治験の革新性・重要性をより深く理解できた、この治験への興味や意欲がより高まった、CIPN評価のポイントがよりよく理解できたなどのコメントをいただきました。また、上述のASCO-GI 2026にはこの第Ⅲ相臨床試験に参加する多くの医師も出席されました。そこで当社は、この機会に約20名の治験参加医師にお集まりいただき、CIPN評価や患者リクルートに関する情報共有と議論のための場を設けました。参加医師からは、有意義な時間を過ごせたとのコメントをいただきました。またこの会議を経て患者登録のペースがさらに速まりました。このように当社は、この第Ⅲ相臨床試験を成功させるためにできることは何でも行うという強い気持ちで、日々考え実行しております。また、治験に協力いただいている多くの医師や関係者の皆様にも、「世界中のCIPNで苦しんでいる患者を救いたい」、「日本から世界初のCIPN予防薬を発信したい」などの気持ちでご尽力いただいております。これまで世界のどの会社も成功しなかったCIPN予防薬の開発は大変難しい課題ですが、このチーム力で乗り越えたいと考えております。なお、当社オリジナル医薬品の第Ⅲ相臨床試験は約30年ぶりです。この臨床試験が成功すれば、当社の企業価値の一層の向上が見込まれます。
さて、第Ⅲ相臨床試験を実施するということは、上市後の様々な準備を開始する必要があることも意味します。特に重要かつ、難しい課題は、上市後の医薬品製造・供給体制を構築することです。これまでPC-SODの治験薬は北京泰德製薬で製造してきましたが、製造スケールが大きくなることから同社での製造は難しいと考えています。そこでシノバイオグループ最大の製薬企業であり、多くの医薬品を製造・販売している正大天晴製薬企業グループ(正大天晴製薬)やCDMO(医薬品開発製造受託機関)などと連携に向けて協議を進めております。2025年3月には、当社、及び北京泰德製薬の製造関係者が正大天晴製薬を訪問し、3社でPC-SODの上市後の製造について協議を行いました。当事業年度においても、毎月この3社で会議を行い、北京泰德製薬から正大天晴製薬への技術移管や製造スケールアップをどのように進めるかの工程表を作成しております。両社の献身的な協力により多くの課題が解決されました。また当社の製造担当者も充実させ、さらにCEOも製造に関する実務に直接当たる体制にしました。PC-SODの製造・供給体制の確立も大変難しい課題ですが、シノバイオグループとのパイプを活かし乗り越えたいと考えております。一方、北京泰德製薬から正大天晴製薬への技術移管や製造スケールアップをいつ頃開始するのかは大変難しい課題です。一日も早く患者にPC-SODを届けるためには、この第Ⅲ相臨床試験中に商用スケールでの製造準備を開始すべきですが、それには多額の資金が必要であり、その投資は第Ⅲ相臨床試験の結果次第では直ぐには売上や利益に繋がらない可能性もあります。当社としては、社会貢献と当社の利益の両面から検討しております。


一方、当社のこれまでの基礎研究(動物試験)により、PC-SODがパクリタキセル(別の抗がん剤)によるCIPNも予防することを見いだしております。オキサリプラチン同様、パクリタキセルによるCIPNも多くの患者(特に、卵巣がんなどの婦人科領域のがん患者)を苦しめ、パクリタキセルによるがん治療を難しくしています。そこで、パクリタキセルによるCIPNに対するPC-SODの前期第Ⅱ相臨床試験を2024年9月に開始しました。本治験においてもご協力いただいている医師の意欲は高く、当事業年度でも予想を上回るペースで登録が進みました。その結果、2025年10月には被験者登録を完了し、2026年3月には治験薬投与が完了いたしました。いずれも目標の時期を5ヶ月上回るもので、試験費用の削減にも繋がりました。今後、臨床試験データの確認や解析と対象となる被験者の確定を行い、2026年中には結果が判明する予定です。

さらに、当社湘南研究所や共同研究先の大学では、PC-SODの次の適応疾患の発見を目指し基礎研究を進めております。当事業年度においても、新しい適応疾患(非開示)を考え動物実験を開始し有望な結果が得られましたので、投与回数・投与量の検討を行っております。今後は、既存治療法との比較や専門医師への相談などを行う予定です。この新しい適応疾患(非開示)は、社会の高齢化に伴い患者数が増えているにも拘らず既存の薬剤治療への満足度が低く、新しい治療薬の開発が強く望まれている領域です。
国立研究開発法人・量子科学技術研究開発機構と進めているPC-SODに関する共同研究では、2025年4月に研究成果を国際科学雑誌「Molecules」で発表しました。本共同研究では、マウス体内において炎症反応に伴い放出される活性酸素をPC-SODが消去すること、その効果はレシチン化修飾がなされていないSODよりも持続することなどを発見しました。また、大学との共同研究により次世代のSOD製剤の開発も進めております。具体的には、細胞内でPC-SODよりも効率よく活性酸素を消去できるようにSODを修飾する方法を変えたり、脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle:LNP)にSODを封入したりしています。当事業年度では、LNP封入SODの薬物動態試験を行いましたが、残念ながらPC-SODを上回る結果は得られませんでしたので、今後は別のタイプの粒子に封入したり、SODを直接修飾した分子を試したりする予定です。また、湘南研究所にはアカデミアでの分子生物学研究で世界的な業績をあげた研究者が当事業年度に入社しましたので、PC-SODの基礎研究を新しい観点から開始しました。具体的には、細胞、及び動物において、PC-SODがどこでどのように作用して様々な薬理効果を発揮しているかを分子レベルで解明しています。この研究は、PC-SODの新しい適応疾患の発見や次世代のSOD製剤の開発に大きく貢献すると考えています。世界的に見ても活性酸素に着目した創薬研究の分野で、当社はその先頭を走っています。このことを当社の企業価値の向上へさらに繋げるためには、活性酸素に着目した創薬研究を多方面から進める必要があると考えております。活性酸素はアンチエイジング(AI、ロボットに並ぶ米国での三大投資対象分野)の分野でも大変注目されています。当社の活性酸素に関する科学や技術の先進性をさらに高めることにより、活性酸素のリーディングカンパニーとして当社の企業価値を向上させることも大変重要な戦略と考えております。

PC-SODの第Ⅲ相臨床試験が世界的に注目されている中、基礎研究者のPC-SODへの関心も高まっています。この機を活かして、PC-SODの周知を高め、次の適応疾患の発見や次世代のSOD製剤の開発を加速したいと考えております。そこで当事業年度において、当社と北京泰德製薬の共催でPC-SODをテーマとした国際スポンサードセミナー(使用言語:英語)を第78回日本酸化ストレス学会学術集会(2025年5月22日~24日)において行いました。本セミナーでは、以下の4名(敬称略)による講演を行いました。
・山口 研成(公益財団法人がん研究会有明病院副院長、同消化器センター消化器化学療法科部長)
講演内容:大腸がん治療におけるオキサリプラチンの重要性とCIPN(化学療法誘発性末梢神経傷害)予防薬の臨床的意義
・Li Wei(北京泰德製薬生物製剤部門責任者)
講演内容:PC-SODの製造とその制御
・Gan Leling(北京泰德製薬薬理研究部門責任者)
講演内容:PC-SODの中国での開発と新しい適応の探索
・水島 徹(当社CEO、崇城大学薬学部教授)
講演内容:日本でのPC-SOD開発の歴史とCIPNに関する第Ⅲ相臨床試験の概要
当日は国内外の医療・研究関係者にお集まりいただき、PC-SODに関する最新の知見及び事業的ポテンシャルについて広く議論・発信することができました。また会場からは、PC-SOD、及びCIPN予防薬への高い期待が寄せられました。
ノーベルファーマ社との共同開発では、同社が既に発売している既承認薬(LT-5001、ホストイン)を三叉神経痛に適応拡大(DR(ドラッグ・リポジショニング))することを目指し開発を進めています。第Ⅲ相臨床試験(医師主導治験)では、主要評価項目及び一部の副次的評価項目において、統計的有意差を以てその有効性を確認することができました。そこで当事業年度において、上市へ向けた最後の臨床試験をどのようなプロトコルで行うかについてPMDAと数回に亘って協議を重ねたところ、検証試験としての第Ⅲ相臨床試験(医師主導治験)を改めて実施することで合意いたしました。2026年3月にはこの第Ⅲ相臨床試験が開始され、一例目の被験者に治験薬が投与されました。三叉神経痛では、既存の医薬品が効かない患者は外科的治療を受ける必要がありますが、手術までの期間の痛みを抑える方法がありません。LT-5001はこの点において大変有用な薬になると期待しています。この第Ⅲ相臨床試験において有効性と安全性が再度確認されましたら、三叉神経痛治療薬としてノーベルファーマ社が承認申請を行う計画です。また上市後当社は、その利益の一部を受け取る予定です。
昨今の医薬品開発においては、開発コストや開発失敗リスクの増大から、製薬企業同士がノウハウを出し合い、リスクをシェアする共同開発の必要性がさらに高まっています。当社もこのような共同開発を積極的に進めていきたいと考えております。

「ドライアイ治療薬(LT-4002)」は、DR研究により当社が見出したパイプラインで、既に後期第Ⅱ相臨床試験を終了しています。当事業年度でも引き続き今後の開発を共同で進めるパートナーを探しました。
「肺線維症治療薬(LT-4010)」は、当社のDR技術と武蔵野大学の肺線維症研究を活かした共同研究により見出された、新しいメカニズムで肺の線維化を改善する既承認薬ですが、当事業年度においてもライセンス活動に注力しました。
湘南研究所では新たなパイプラインの創成を目指して、精力的に研究活動を行っております。当社CEOは、就任以来、経営・事業開発・臨床開発・再上場などに注力してきましたが湘南研究所の研究にも積極的に関与するようになり、研究の進捗が早まっています。例えば、数年前に開始したプロジェクト(対象疾患は非開示)においては、発見した複数の候補薬に関して、既存薬と比較し優位性を検証したり、どのような製剤にすることで医薬品としてのポテンシャルが向上するかを検討したり、諸外国での治療薬の現状を調査したりしました。当事業年度では、候補薬を1つに絞り込み(既承認薬A)、これまではあまり注目してこなかった薬物の体内動態を外部の専門家の指導を受けながら詳細に解析したり、薬物の代謝物を詳細に解析したりするなど、当社の研究の幅を広げることもできました。これらはいずれも後述する新しいDR戦略に則った研究であり、当社のDR創薬が新しいステージに達したことを示しています。また、これらの研究から、この既承認薬A(現在は経口薬として上市されている)を貼付剤にすることが有用であると考えました。そこで、当事業年度においてこの既承認薬Aに関して、貼付剤の開発を得意とするトーヨーケム株式会社(以下、トーヨーケム社)と共同研究契約を締結しました。トーヨーケム社は、生体適合素材の研究、パッチ素材の開発などを手がけており、貼付剤開発に関しても高い技術と実績を持っています。当社のDRに関する知見とトーヨーケム社の貼付剤開発技術とのシナジーにより、この研究のさらなる推進を図っていきたいと考えております。トーヨーケム社とは定期的に研究開発会議を開催し、お互いの研究進捗を共有し科学的・技術的議論を重ねております。また、前事業年度に開始した新しいテーマに関しては、当社の目論見通りこの疾患に対する治療薬開発がこれから大きく発展することが確認できましたので、当社も研究を加速しております。具体的には、他の創薬ベンチャーへの委託研究という形で既承認薬ライブラリからのスクリーニングを行い、複数の候補薬の発見に成功しました。
このように新しい研究プロジェクトを開始すると共に、既存研究プロジェクトの評価も定期的に行っております。「選択と集中」は製薬企業にとって大変重要でありますので、これからも推進してまいります。

当社が牽引してきたDR研究は、特にアカデミアで盛んに取り組まれるようになり、創薬の基本戦略として定着しました。当社においてもDRグラントなどを通じて積極的にアカデミアのDR研究を支援しています。しかし、DR研究から生まれたアカデミアのパイプラインが大手製薬企業に導出された成功例はほとんどありません。当社自身のパイプラインも同じ問題を抱えていますが、当社はこの原因を解析し、①既存製剤をそのまま使用するのではなく、新しい製剤・投与法で開発する、②日本では薬価が低く抑えられるため、海外(特に米国)での開発を先行させる、などの新しいDR戦略を立てました。また、当社がこのようなノウハウを蓄積することで、当社だけではなくアカデミアのDR研究から生まれたパイプラインの開発も推進できると考えております。即ち、当社がアカデミアのDR研究に伴走し、アカデミアのパイプラインを製薬企業へ導出する際に障壁となっている問題(特許の排他性、臨床試験の未実施など)を解決するというビジネススキームです。当事業年度でも上述のように、当社自身が現在行っているDR研究に関してこの新しい戦略を適用し、これまでにない観点から研究を進めました。

さらに、医療情報や基礎研究情報が豊富にある既承認薬の特徴を活かし、DX(デジタルトランスフォーメーション)をDRに活かすことも大変重要な戦略です。当事業年度においては、当社CEOがアカデミア時代から共同研究を行ってきたこの分野の第一人者(堀本勝久博士)が創業した会社(ソシウム株式会社、以下、ソシウム社)と共同研究契約を締結しました。AI技術を活用した独自のデジタル創薬プラットフォームを有するソシウム社との連携により、既承認薬の持つ新しい薬理効果を戦略的に探索し、従来のアプローチでは見出せなかった創薬シーズを発掘し、治療選択肢の限られた患者さんへの新たな解決策を提供します。具体的な両社の役割は、ソシウム社はAIを駆使し既承認薬や開発中薬剤の新たな適応疾患候補(創薬シーズ)を短期間にかつ定量的に特定することで、当社は得られた創薬シーズを独自の疾患モデル系で詳細に解析・評価したうえで臨床試験の実施につなげることです。一方、別の国内ベンチャー企業とは、同社が持つ医薬品と標的タンパク質の結合を、AIなどを用いて立体的に予測する技術を活かした共同研究へ向けた話し合いも進めております。また、後述するBio-Europe2026で面談した米国のAI関連企業とも、AIを活かした次世代のDR創薬について議論を進めております。当社は現在第Ⅲ相臨床試験を精力的に進めておりますが、企業の継続的な発展のためには、次のパイプラインの創成に向けた基礎研究を加速すべき時期でもあります。その際、最近技術革新の著しい分野でこれまでに当社が余り取り入れていなかった技術(AI、構造生物学、製剤開発など)を積極的に取り入れることが重要と考え、実践しております。

一般に、日本から優れた医薬品を世界に発信するためには、アカデミアと製薬企業の連携が重要と言われており、その架け橋として必要不可欠なのが創薬ベンチャーです。しかし、誕生したばかりの「アカデミア発ベンチャー」は製薬企業の事情が分からず、「製薬企業からスピンアウトしたベンチャー」はアカデミアの事情が分からず、架け橋として機能できない状況にあります。当社は大学発ベンチャーでありますが、30年以上製薬企業と共に医薬品開発を行ってきた経験を持っていますので、真の架け橋になれると自負しております。

前事業年度に当社は一般社団法人アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会(当社創業者の水島裕は、本協会の母体組織の立ち上げに携わっています)に入会し、同時に当社CEO水島徹が理事に就任しました。さらに、当事業年度において、当社CEOは日本バイオテク協議会の理事に就任しました(2025年5月)。日本バイオテク協議会は、官民対話を通じてバイオテクの推進を図り、我が国の医療への貢献並びに医療産業及び会員各社の健全な発展に寄与することを目的とした、バイオベンチャー企業の業界団体です。当社は同協議会の会員であり、これまでも同協議会を通じたジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミットへの出展や同協議会主催の講演会への参加等の活動を行ってまいりました。2025年9月17日開催の中央社会保険医療協議会(略称:中医協)薬価専門部会では、日本バイオテク協議会理事として当社CEOの水島徹が出席し、薬価制度改革に対する意見陳述を行いました。中医協は日本の薬価基準制度や診療報酬点数などについて審議する厚生労働大臣の諮問機関です。中医協薬価専門部会では、業界団体から薬価制度に対する意見を聴取する仕組みがあります。今回、創薬ベンチャーにとって事業性を得るために必要な薬価が得られない現状と課題を当社CEOが説明し、その具体的解決策を提案しました。今後とも、当社の研究開発活動に支障のない範囲内で、我が国から画期的な新薬が生まれるための基盤構築に関しましても、所属業界団体を通じて積極的に貢献していきたいと考えております。

「事業開発活動」
当社は、「ポートフォリオ型創薬ベンチャー」を目指しています。これは自社による研究開発に絞り込むのではなく、資金力などを活用して環境や状況に応じて外部の経営資源を有効に活用し、安定的にリターンを獲得する事業戦略です。すなわち、事業開発活動を研究開発活動と並ぶ当社の柱と位置づけています。

ライセンス活動では、2025年6月にアメリカ・ボストンで開催された製薬関連企業が集まる世界最大規模のカンファレンスであるBIO International Convention(通称:Bio)に当社CEOと事業開発担当者が参加し、また、2025年11月にはオーストリア・ウィーンで開催された欧州最大級の医薬品開発分野のパートナーシップ会議であるBio-Europeに当社CEOが参加しました。PC-SODの開発に関しては、後述のように日本での開発パートナーは既に決定しており、欧州に関しても開発パートナーの候補企業と契約の交渉を進めていますので、これらカンファレンスでは、米国を含むそれ以外の国での開発へ向けた足がかりを作ることを目的にしました。BIO International Conventionでは、米国等の製薬企業にこの開発の概略を紹介したり、米国の投資会社とこの開発への投資スキームについて議論したりしました。多くの企業と有意義な面談を行うことができ、今後の米国等での事業展開において重要なステップとなりました。またこの会議で、米国での共同開発を進めるためには米国の医薬品に関する規制当局であるFDAと交渉し開発の概略を決定することが重要であることを学びました。そこでこのような活動をサポートしてくれるコンサルタント会社との交渉も開始しました。一方、Bio-Europeでは、AIをDRに活かす方策を調査・検討するため10を超えるAI関連会社と議論し、日々進歩するAIの活用がDR推進に必要不可欠であることを改めて認識しました。そこで、これらAI関連会社から選んだ米国の会社とWEB会議などで情報共有と議論を行いました。その結果、AIを用いた新しいDR戦略が見えてまいりましたので、今後さらに議論を進めていきたいと考えております。
当事業年度で最も注力したのは、日本におけるCIPN予防薬としてのPC-SODに関する事業開発活動です。第Ⅲ相臨床試験(検証試験)では第Ⅱ相臨床試験に比べ必要な被験者数も多くなり多額の費用を要しますので、製薬企業等とのライセンス契約・共同開発契約、あるいは出資・融資による資金調達が重要となります。国内製薬企業との提携に関しては複数の製薬企業と交渉を進めましたが、当初交渉は順調には進みませんでした。これは、現在開発中のPC-SODは世界初(first in class)のCIPN予防薬、つまりこれまで世界中でどの製薬企業も開発に成功しなかった分野の薬であり、国内の製薬企業が自社のみで開発リスクを負うことは難しいと判断しているためです。そこで当社は、医薬品卸会社や臨床試験受託会社、あるいはベンチャーキャピタル等の金融機関からの資金調達など、幅広く提携先を検討しました。また、ライセンス契約や資金調達が第Ⅲ相臨床試験実施の最大のハードルと考え、CEO自ら精力的に活動しました。その結果、アルフレッサホールディングスとPC-SODに関する共同開発契約を当事業年度の2025年4月に締結しました。アルフレッサホールディングスは医薬品卸売事業のみならず、製薬、臨床試験受託業務(CRO)、調剤薬局など多岐に亘るヘルスケア関連事業を展開する企業グループであり、2026年3月期の連結売上高が3兆1,000億円を超える日本を代表する東証プライム市場上場企業です。同社は有望な医薬品の開発を行っている企業へ医薬品等の導入・開発、製造から物流・販売、市販後調査・ラストワンマイルまでを一貫して支援する「トータルサプライチェーンサービス」を提供する事業を展開しており、当社のPC-SODのCIPN予防薬としての開発が評価されその対象となりました。特に、PC-SODを世界初のCIPN予防薬として開発し、多くのがん患者の治療に貢献するという研究開発理念と実現可能性にご賛同いただいたものと理解しています。本契約に基づき、アルフレッサホールディングスは第Ⅲ相臨床試験に係る研究開発費の一部を当社に提供すると共に、同社傘下企業が以下の役割を担うことで当社の開発活動を多面的に支援します。具体的には、同社は上市後の流通権を獲得すると共に、治験及び製造販売後調査(PMS)等に関わるCRO業務や品質確保を目的とした検査や二次包装などの業務の受託に関する優先権や製造販売権の優先交渉権を獲得します。これによりアルフレッサホールディングスは、開発から製造・流通・販売に至るまでの一貫した支援体制を通じてPC-SODの早期上市に貢献することになります。契約締結後、毎月の研究開発会議を両社で開催し様々な案件を議論したり、全国の治験参加施設で行われているスタートアップミーティングにアルフレッサホールディングス、及びその子会社の方が参加したりするなど、両社の共同開発は順調に進んでおります。アルフレッサホールディングスとの協業は、当社、及びこの第Ⅲ相臨床試験への医療機関の信用度・安心感を高める効果などにより、この試験の推進に大きく貢献しています。一方、同社からは「医療従事者との交流や医薬品開発に関するノウハウの吸収で、既に多くのメリットを得ている」とのコメントをいただいております。今後もこの共同開発のシナジー効果を活かしてまいりたいと考えております。長年に亘り当社の重要課題であったPC-SODに関する国内パートナー企業の確定は、当社にとって極めて大きな意義を持つ成果であり、企業としての大きな飛躍の契機となるものと確信しております。また、この契約に伴い、第Ⅲ相臨床試験の進捗に従って当社は売上を計上します。当事業年度においても、4億円を超える売上を計上しました。

海外に関しましても、ライセンスの国際カンファレンスをきっかけに多くの製薬企業が本剤の開発に関心を持ち、秘密保持契約を取り交わし交渉を行いました。特に、BIO-Europe、及びBIO International Conventionで面談したある欧州製薬企業はPC-SODに高い興味を持ちライセンス協議を当社へ提案し、両社は数ヶ月に亘り議論を進めました。その間、秘密保持契約を結び日本での前期第Ⅱ相臨床試験結果などを提供したり、また先方からの多岐に亘る質問に回答したりするなどの対応を行いました。また同社はこの分野における欧州の著名な医師にヒアリングしたり、PC-SODの欧州での開発可能性について社内検討したりしました。その結果、オキサリプラチンによるCIPN予防薬の臨床ニーズが極めて高いこと、及びPC-SODが世界初の薬として承認される可能性が十分にあると判断し、タームシート(契約骨子)案を当社に提出しました。その案を基に両社で協議を重ねた結果、2025年3月にタームシートの合意に至りました。本タームシートでは、当社は欧州におけるPC-SODの開発、承認登録、商業化を独占的に実施する権利を当該製薬企業へ許諾し、その対価として、契約一時金、開発マイルストン(開発が進むごとに受け取る一時金)、セールスマイルストン(売上が一定額を超えるごとに受け取る一時金)、ロイヤリティ(売上に一定の割合を掛けた金額)を受け取ることになります。なお、臨床試験を含む全ての欧州での開発は当該製薬企業が行い、当社はそれに全面的に協力するとなっています。なお、このタームシートには法的拘束力はなく、今回のタームシートの締結は最終的な契約の締結を保証するものではありません。同社と当社は、2025年6月までに最終的な契約を締結する予定でしたが、契約締結までにはなお一定の時間を要する見込みです。遅延の理由は、世界初(First in Class)のCIPN予防薬の開発であるために、欧州での開発戦略の方向性を決めるのに予想以上の時間が掛かっていることなどがあげられます。当社にとって海外開発のための契約締結は企業価値の向上に繋がる大変重要な案件です。そこで、2026年1月には、当社CEOが同社を直接訪問し、新しい形の協業を提案しました。同社はこの提案を高く評価し、その方向での検討を開始したり、同社のCEOが当社を直接訪問したりしています。CIPNに関しては予防薬・治療薬が全くなく、世界的に見ても当社がその開発のトップランナーとして走っています。そこで、海外開発パートナーをなるべく早く決定し、この薬を世界中の患者に届けたいと考えております。
アカデミアとのDR共同研究を推進するため、アカデミアから提案された優れたアイデアに対して、既承認薬ライブラリだけでなく研究費も当社が提供するという取組(DRグラント)を推進しております。最近では応募件数、研究提案の質が共に向上しています。応募いただいた多くの提案の中から当事業年度では2件を採択しました。具体的には、国立大学法人山口大学大学院医学系研究科で構築された脳神経分野の疾患モデルと当社の既承認薬ライブラリを用いて、この疾患に対する治療薬を探索する共同研究を実施することを決定し、共同研究契約を結びました。また、関西医科大学より申請された自己免疫疾患を対象とした研究を採択し、同大学と共同研究契約を締結しました。なお、研究費は支給しないものの2件の提案に関しては、既承認薬ライブラリを提供し共同研究を実施することを決定し、共同研究契約を結びました。この4件のほか、現在14件のDR共同研究が進行中です。
このDRグラントはアカデミアとの共同研究を推進するのに大変優れたシステムです。そこで、PC-SODの新しい適応疾患の発見を目指した研究提案を日本国内の研究者を対象に広く募集することにしました(PC-SODグラント)。具体的には、PC-SODの新しい適応疾患を検討したいアカデミアから研究提案をいただき、優れた提案に対してはPC-SODと研究費を支給し共同研究を実施します。当事業年度では1件を採択しました。具体的には、国立大学法人山口大学大学院医学系研究科が患者由来iPS細胞を用いることでより病態に近い細胞モデルを構築した成果を受けて、このモデル、及び動物モデルを用いてPC-SODの効果を評価します。なお、この研究はPC-SODグラントの最初の採択研究となりました。


「中国関連事業」
北京泰德製薬は、当社と中国の政府系病院である中日友好病院が1995年に中国で設立した会社です。当社が発明した医薬品を中国で開発・発売することにより、中国有数の製薬企業に成長しました。当社が北京泰德製薬から受け取っている配当金は、当社の発明と投資に対する果実であり、北京泰德製薬への支援や中国関連事業の推進は当社の発展のために重要であると現経営陣は考えております。
当事業年度においても包括的支援契約を延長し、北京泰德製薬への支援に尽力しました。例えば、北京泰德製薬が開発している医薬品を日本でも開発したいという希望を受け、日本での開発戦略や提携すべきパートナー企業に関する助言を行いました。また、上述のように、当社と北京泰德製薬の共催でPC-SODをテーマとした国際スポンサードセミナーを第78回日本酸化ストレス学会学術集会において開催しました。また北京泰德製薬が必要な研究器具で中国での調達が間に合わないものに関して、当社が日本で購入し輸出する支援も行いました。なお、この支援契約に関しては、変化する同社のビジネスに対応するために、その発展的見直しを両社で検討しております。
一方、北京泰德製薬はPC-SODの開発においても重要なパートナーです。特に、臨床試験で使用する治験薬の製造を当社はこれまで同社へ委託してきました。上述のように、PC-SODの上市後の製造は大規模になるために同社では行えず、同じシノバイオグループの正大天晴製薬やCDMOなどで行う予定です。このためには、北京泰德製薬が持つ製造技術を正大天晴製薬企業グループ等へ移管する必要があります。この技術移管には多くの難しい課題がありますが、北京泰德製薬の真摯な協力のお陰で着々と進んでおります。
なお、北京泰德製薬については、一時的な要因により董事会が延期され、2025年9月までに配当に関する決議が行われませんでした。しかし、当社CEOが同社を訪問し交渉したこともあり、2025年中に董事会が開催されました。董事会で報告された2024年の北京泰德製薬の業績は、前年に比べ売上・利益共に増加し、そのため配当金も増配(一株当たり、1.25中国元)となりました。
一方、北京泰德製薬の親会社であるシノバイオとの連携を深めることも当社の企業価値の向上に繋がると考え、協議を継続的に行ってまいりました。その中で、当社の技術・ノウハウ・人材・パイプラインを評価したシノバイオが、当社との資本業務提携を目的とした公開買付けを実施し、2021年3月にシノバイオと当社は資本業務提携基本契約を締結しました。この提携は、当社の研究開発の加速や収益の多角化(北京泰德製薬の配当以外の収入源の確保)に繋がると期待しております。

その後当社は、シノバイオに対して当社ができる支援業務を提案しパイロット的に実施しました。これを評価したシノバイオは、当社との間で業務提携契約を2022年12月に締結しました(2023年12月と2025年2月に更新)。本業務にあたり、当社はシノバイオから毎月一定の報酬を受け取り、シノバイオが日本企業とライセンス契約を結ぶなど支援業務が成功した場合には成功報酬も受け取ります。業務提携の内容は多岐に亘りますが、例えば、日本の優れた医薬品の同社へのライセンスを当社が支援する業務、同社が中国で開発・販売している医薬品の日本企業へのライセンスを当社が支援する業務などが含まれます。当事業年度においても様々な支援業務を行いました。例えば、シノバイオのパイプラインを日本の製薬企業へ売り込むための資料を当社が作成し、実際にライセンス活動を代行する業務を行いました。特に、シノバイオが中国で多くのバイオシミラー(バイオ医薬品のジェネリック)を販売・開発していること、及びその中には日本でまだ販売されていないバイオシミラーが多いことに着目し、シノバイオのバイオシミラーを日本企業に売り込むことに注力しました。その結果、ある日本企業がシノバイオとの包括的な提携を希望するに至りましたので、秘密保持契約を3社で結び、ライセンス契約交渉を行いました。このようにシノバイオとの強固なパイプを活かした新しいビジネス(日中間の医療橋渡しビジネス)は当社にしかできない独自の取組みですので、今後も進めていきたいと考えております。なお、シノバイオとの業務提携契約に関しては、当初計画していた業務がほぼ完了したことから、別の形での支援に関して現在協議を進めております。

シノバイオとのパイプを活かした別のビジネスも実施しております。これまで医薬品開発においては、中国に比べ日本の研究開発のレベルが高かったため日本の優れた医薬品を中国へ導出することが多く、北京泰德製薬もこのスキームで急成長しました。しかし最近では中国での医薬品開発のレベルが急速に向上し、一部分野では既に日本を上回っています。実際、中国では販売されているが日本では開発されていない新薬は多くあります。これらを日本で開発・販売することは日中両国にとって大きなメリットがありますが、あまり成功例は出ていません。その理由は中国でのデータをどのように日本での承認に繋げるかなどのノウハウが蓄積されていないためです。そこで当社は、シノバイオの優れた医薬品をまず当社が日本で開発し、それを日本企業へ導出するという新しいビジネスを目指しています。これにより中国発新薬を日本で開発するためのノウハウを当社が蓄積できれば、将来的にはシノバイオグループ以外の医薬品に関しても同様の事業を行い、大きな利益を獲得できると考えております。当事業年度においては、1つのシノバイオの医薬品に関して、どのような開発を日本で行えば医薬品として承認されるのかについてPMDAと相談しました。この医薬品は中国では大きな売上を記録していますが、日本では開発・販売されていません。相談結果を基に当社は日本での開発戦略を策定しましたが、この開発に多額の費用がかかることなどから、最終的にはこのプロジェクトはこれ以上進めないことになりました。しかしシノバイオは当社のこの活動を高く評価し、今後も同様の支援を期待しておりますので、当社としても機会があれば積極的に支援したいと考えております。
