有価証券報告書-第110期(2024/04/01-2025/03/31)
①人的資本経営の基本方針
当社は、創業以来「資本は人なり」「人が中心の経営」という考え方を何よりも大切にしてきました。1945年、日本は敗戦により多くの企業が事業を失い、借金を抱え、社員の解雇を余儀なくされていました。当社も例外ではなく、海外から引き揚げてくる800名の社員の雇用の維持が極めて困難になっていました。しかし当社の創業者であり当時の社長である出光佐三は「事業は失われ、借金は残っている。しかし、出光興産には海外に800名の人材がいるではないか。これが唯一の資本であり、これが今後の事業をつくる。人間尊重の出光興産は、終戦の混乱に慌てて馘首してはならない。」と述べ、社員を解雇せずに守ることを宣言しました。その後、社員は一層結束力を高め当社の再建の原動力となりました。「社員がしっかり成長していれば、どんな困難にも立ち向かえる」という創業者の思いは「いかなる場合も会社都合で人員整理を行わない」「世の中の役に立ち、尊重される人の育成こそが企業目的であり、事業はそのための手段である」という基本方針として今日まで受け継がれています。
②当社グループが直面している経営戦略上の課題
1949年に元売り指定を受けて以降、当社グループは日本のエネルギーセキュリティを支える使命を担い、国内外に燃料油ビジネスを中心としたネットワークを構築し事業活動を展開してきました。現在当社グループは、「燃料油」「基礎化学品」「高機能材」「電力・再生可能エネルギー」「資源」という5事業セグメントに多様化していますが、この中で化石燃料に由来する収益の割合は9割を超えます。また、燃料油・基礎化学品は、グループ全体の投下資本及び人員数の7割に達しています。もしこのまま手を拱いて事業構造を変革しなければ当社グループは2050年カーボンニュートラル(CN)時代に多くの事業を失うことになります。低廉なエネルギーの安定供給とCNの実現という一見相反する課題の克服を通じて、当社グループは成長機会を見出していかなければなりません。
当社グループの経営戦略上の最大の課題の一つは2050年に向けたリアリティのある成長戦略の構築です。とりわけ、既存事業セグメントはCNエネルギーが事業の柱となる2030年代半ばまでグループを牽引することが期待されており、そのためには従来の延長線上にない視点での商品サービスの拡大、ビジネスモデルの変革が必要です。
③経営戦略と連動した人財戦略
2050年CN時代という一大変革期を迎えるに当たり、現中期経営計画では事業構造改革投資と人的資本投資を車の両輪として位置づけ、全社員がその能力や個性を最大限に発揮できる環境を整え、社員の成長を通じて企業が成長することを目指しています。
そして、「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」を人財戦略の3本柱として推進しています。2024年度に実施した施策の一部を紹介します。
図1 人財戦略の3本柱

ア.企業理念・ビジョンの体現
社長をはじめとする経営層と社員の直接対話の場である全社タウンホールミーティングを半期に一度開催しています。毎回多くの社員が参加し、経営層から会社の経営状況をタイムリーに伝えるとともに、企業理念やビジョンについても語りかけ、社員への理解・浸透を図っています。また、タウンホールミーティング以外にも、各役員が事業所・支店などの各拠点に赴いた時に、社員と直接対話を行う機会を月30回ほど設けています。一方、2024年10月に東京都港区北青山に当社の理念や歴史を紹介する「出光興産ヒューマンギャラリー」をリニューアルオープンしました。社内の研修用途以外に社外の方にもご利用いただいており、半年で約800名が来館されています。
イ.DE&Iの深化
女性役職者のリーダーシップ向上を目的に、国内でも先進的な事例である「クロスメンタリング」に取り組んでいます。「クロスメンタリング」とは、メンター(支援者、助言者)とメンティ(支援・助言を受ける立場)が異なる企業同士となる組み合わせでメンタリングを行う、企業横断型のキャリア形成支援の取り組みです。この取り組みのユニークさや、ジェンダーロールバイアスの打破に向けた製造現場における女性社員登用の取り組みなどが評価され、3年連続で2024年度のなでしこ銘柄を受賞しました。また、男女問わず育児休業の取得を推進すべく、取得する育休の最初の一か月間を特別有給休暇として扱う「推奨育休」のトライアルを実施しています。トライアル期間は2025年9月までとし、その期間での抽出した課題を反映後、本格導入に入る予定です。
ウ.個々人の能力・個性の発揮
2024年度は「一般社団法人出光社員会」を設立し、より良い会社と組織風土を創るために、役職者含む社員一人ひとりが議論に参加できる「場」を提供することを目的として活動を開始しています。非管理職の社員から選出された社員会の専任理事と各職場の社員会の代表がより良い職場・やりがいのある職場に向けた議論を重ね経営層への提言を行うことを通じて、やりがいのある職場づくりなどに取り組んでいます。
また社員一人ひとりが自律的にキャリアを考えることを支援する「キャリアデザイン部」を設立し、手上げ式の研修やライフキャリアを検討するツールなどの展開を始めています。
エ.出光エンゲージメントインデックス向上の取り組み
既存事業の構造改革を通じた持続的な成長を実現するために、当社はゴール指標として出光エンゲージメントインデックス(出光EI)を重視しています。これは、当社が独自に開発した指標で、組織に対する社員のコミットメントを測定するもので、「高い当事者意識」「当社に帰属する誇り」「自己の成長実現」「組織への貢献意欲」「企業理念の体現」「組織の垣根を超え変革に挑戦」の6つの要素で構成されています。この出光EIに強い影響を及ぼす要素を明らかにすべく、やりがい調査の質問項目を独立変数、出光EIを従属変数とした重回帰分析を実施し、特に高い寄与率を示すキードライバー6項目を抽出しています。
図2 出光EIとキードライバー

各キードライバーに対する課題と打ち手を講じ、2024年度の出光EIは70%となりました。(2022年度: 67%、2023年度: 69%)
④2025年度の重点課題
中計最終年度を迎えるに当たって、本年重点的に取り組む、人財戦略上の課題を中心に記載していきます。
ア.Post Merger Integration(PMI)に区切りをつけ新たな行動指針を制定
主力製品の内需減少は経年の課題であり、慢性的な供給過剰に陥った業界構造を打開すべく2019年、出光興産・昭和シェル石油は経営統合しました。燃料油セグメントを中心として、統合シナジーを速やかに追及、実現する一方、PMI活動については、生い立ちの違う、100年以上の歴史を持つ企業同士の統合であることから、慎重を期して丁寧に進めました。現在の人事制度及び行動指針は、経営統合時にどちらかの会社の制度に片寄せするのではなく、新しいコンセプトを打ち出すという方針のもと策定・制定されました。しかし、行動指針などで使われた用語が汎用的であるために当社らしい価値観が反映されていない、評価の際の基準が曖昧になりやすいという問題点を抱えていました。そこで、2021年4月に成文化した企業理念「真に働く」に基づき、今般当社らしさにこだわり、新たな行動指針を制定しました。制定した新行動指針は、「徹底的当事者意識」「飽くなき成長意欲」「誠実・相互信頼」の3つの基本姿勢と、「大胆に挑み続ける」「常に考え決断する」「相違を乗り越える」「人を活かす」の4つの能力から構成されています。
表1 新行動指針

この行動指針をもとに人事制度を刷新し、社員が日常業務を通じて企業理念を体現し、持続的な成長を遂げることを目指します。約5年かけたPMI活動に名実ともに区切りをつけ新たなスタートを切ることにします。人財戦略のプラットフォームになるのが人事制度であり、評価項目及びその基準となる「新行動指針浸透率」を新たにKPIとして設定し進捗を確認していきます。
イ.出光成長スコアの設定
前述のとおり、これまでの出光EIは漸次改善している一方、2025年度目標: 75%を達成するためには一段と思い切った施策が必要です。
従来の出光EI分析は、平均値をもとにした対応策検討に終始していたという反省を踏まえ、今般各職場のリーダー層30名強を抽出し、匿名かつ記述式のアンケートを実施して現場の社員が実感している課題を抽出することにしました。アンケート結果を分析したところ、
・成長実感が得られない
・職場での貢献実感が得られない
・個人のキャリアを描けない
の3点が課題として浮かび上がってきました。この3点は、特に出光EIとの寄与率が高いキードライバー6項目のうち、「当社には能力を伸ばし成長する機会がある(成長実感)」「現在の仕事に対する自身の取組みと成果に満足している(貢献実感)」「今後当社でのキャリアを思い描ける(キャリアを描ける)」の3項目と一致しています。
図3 出光成長スコアの設定

そこで、この3つを新たに中間指標として「出光成長スコア」を設定することにしました。なお、出光成長スコアと出光EIの相関係数は0.8です。現状開示を行っている「出光EI」はゴール指標として継続的に開示を行い、出光EIの向上に繋がる先行プロセスであり、喫緊の重要組織課題達成のための中間指標「出光成長スコア」を経営上の重要指標として追跡し、かつ社員全員で向上のためのムーブメントを起こしていきます。これが結果的に既存事業の成長にも繋がっていくものと考えています。
図4 出光成長スコアと出光EIの関係

なお、2024年の出光成長スコアは64%でしたが(2022年60%、2023年62%)、全45部門を3分割すると、上位3分の1に入る15部門の平均スコアが70%であるのに対し、下位3分の1に入る15部門の平均スコアは58%と12ポイントの差がありました。事業内容、所属するメンバー特性など、部門ごとに出光成長スコアにばらつきがあり、部門別のきめ細かな丁寧なアプローチが必要であることを再認識しました。
ウ.出光成長スコアに資する打ち手の展開
出光成長スコアの向上に向けて、本年は以下の4点に取り組みます。
(ア)キャリアを主体的に考える機会の拡大
出光成長スコアを構成する「今後当社でのキャリアを思い描ける」のスコアが51%に留まっていることが課題です。当社では様々なキャリア支援策を用意し、社員に選択肢を提供していますが、それを自分事として受け止め、自ら主体的にキャリアを描ける社員の割合がまだまだ不足しているのが現状です。これを打開すべく、全部門が一堂に会し他部門の業務理解、自身のキャリアを考える機会となる「ジョブフェスティバル」、現職務を継続しながら20%の時間を他部門の業務に充てることができる「社内副業制度」、部門を超えたプロジェクトへの参画、社外への越境学習などへ参加した人の割合を測定する「自部門外活動参加率」をKPIとして設定します。また、これらの経験を経て自ら主体的にキャリアに関し意思決定する社員を後押しする「自律的キャリア意向比率」を併せてKPIとして設定しフォローしていきます。これらは出光EIを構成する「組織の垣根を超え変革に挑戦」にも寄与すると考えています。
(イ)キャリア支援の実感向上と、次世代リーダー層の拡大
各種キャリア支援策や上司をはじめとする周囲の人たちのサポートが社員にどのように実感されているのかを測定し、適宜軌道修正できるようにしていきます。そのため、「キャリア周辺サポート比率」を新たにKPIとして設定します。また、自らのキャリアプランを明確にする過程で当社において現在の女性役職者比率だけではなく、リーダーとして活躍したいと考えている社員の層に厚みを持たせたいと考えています。そのため「リーダー層希望比率」を中間指標として測定していきます。これにより、性差のない将来のリーダー層・役職者のパイプラインを形成します。
(ウ)役職者の面談力向上による、キャリア支援力の向上
部下のキャリア支援に当たって直属の上司の役割は極めて重要です。本年上期は新行動指針に基づく人事制度の考課者訓練、そして本年下期以降、2年をかけて重点的に面談力(傾聴・フィードバック)向上に資する研修を全役職者対象に実施していきます。まずは、上司である役職者に対し、部下の成長実感、貢献実感の向上に資する面談を実施できているかどうかを確認する「効果的面談実施率」をKPIとして設定します。
(エ)人的資本の可視化と最大活用
当社は、人的資本の可視化と最大活用を図るため、生成AI技術を活用したプラットフォームを構築しています。これにより、社員のスキルやキャリアポテンシャルを可視化し、最適な配置や育成計画に役立てています。本年は上記で設定したKPI情報を有機的に組み合わせ、経営情報としての活用を図っていきます。
当社の人的資本経営に関するKPI及び中間指標は下表のとおりです。
図5 当社のKPI及び中間指標

引き続き、当社は人的資本経営を推進し、社員の成長と企業の持続的成長を両立させるための取り組みを続けていきます。
当社は、創業以来「資本は人なり」「人が中心の経営」という考え方を何よりも大切にしてきました。1945年、日本は敗戦により多くの企業が事業を失い、借金を抱え、社員の解雇を余儀なくされていました。当社も例外ではなく、海外から引き揚げてくる800名の社員の雇用の維持が極めて困難になっていました。しかし当社の創業者であり当時の社長である出光佐三は「事業は失われ、借金は残っている。しかし、出光興産には海外に800名の人材がいるではないか。これが唯一の資本であり、これが今後の事業をつくる。人間尊重の出光興産は、終戦の混乱に慌てて馘首してはならない。」と述べ、社員を解雇せずに守ることを宣言しました。その後、社員は一層結束力を高め当社の再建の原動力となりました。「社員がしっかり成長していれば、どんな困難にも立ち向かえる」という創業者の思いは「いかなる場合も会社都合で人員整理を行わない」「世の中の役に立ち、尊重される人の育成こそが企業目的であり、事業はそのための手段である」という基本方針として今日まで受け継がれています。
②当社グループが直面している経営戦略上の課題
1949年に元売り指定を受けて以降、当社グループは日本のエネルギーセキュリティを支える使命を担い、国内外に燃料油ビジネスを中心としたネットワークを構築し事業活動を展開してきました。現在当社グループは、「燃料油」「基礎化学品」「高機能材」「電力・再生可能エネルギー」「資源」という5事業セグメントに多様化していますが、この中で化石燃料に由来する収益の割合は9割を超えます。また、燃料油・基礎化学品は、グループ全体の投下資本及び人員数の7割に達しています。もしこのまま手を拱いて事業構造を変革しなければ当社グループは2050年カーボンニュートラル(CN)時代に多くの事業を失うことになります。低廉なエネルギーの安定供給とCNの実現という一見相反する課題の克服を通じて、当社グループは成長機会を見出していかなければなりません。
当社グループの経営戦略上の最大の課題の一つは2050年に向けたリアリティのある成長戦略の構築です。とりわけ、既存事業セグメントはCNエネルギーが事業の柱となる2030年代半ばまでグループを牽引することが期待されており、そのためには従来の延長線上にない視点での商品サービスの拡大、ビジネスモデルの変革が必要です。
③経営戦略と連動した人財戦略
2050年CN時代という一大変革期を迎えるに当たり、現中期経営計画では事業構造改革投資と人的資本投資を車の両輪として位置づけ、全社員がその能力や個性を最大限に発揮できる環境を整え、社員の成長を通じて企業が成長することを目指しています。
そして、「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」を人財戦略の3本柱として推進しています。2024年度に実施した施策の一部を紹介します。
図1 人財戦略の3本柱

ア.企業理念・ビジョンの体現
社長をはじめとする経営層と社員の直接対話の場である全社タウンホールミーティングを半期に一度開催しています。毎回多くの社員が参加し、経営層から会社の経営状況をタイムリーに伝えるとともに、企業理念やビジョンについても語りかけ、社員への理解・浸透を図っています。また、タウンホールミーティング以外にも、各役員が事業所・支店などの各拠点に赴いた時に、社員と直接対話を行う機会を月30回ほど設けています。一方、2024年10月に東京都港区北青山に当社の理念や歴史を紹介する「出光興産ヒューマンギャラリー」をリニューアルオープンしました。社内の研修用途以外に社外の方にもご利用いただいており、半年で約800名が来館されています。
イ.DE&Iの深化
女性役職者のリーダーシップ向上を目的に、国内でも先進的な事例である「クロスメンタリング」に取り組んでいます。「クロスメンタリング」とは、メンター(支援者、助言者)とメンティ(支援・助言を受ける立場)が異なる企業同士となる組み合わせでメンタリングを行う、企業横断型のキャリア形成支援の取り組みです。この取り組みのユニークさや、ジェンダーロールバイアスの打破に向けた製造現場における女性社員登用の取り組みなどが評価され、3年連続で2024年度のなでしこ銘柄を受賞しました。また、男女問わず育児休業の取得を推進すべく、取得する育休の最初の一か月間を特別有給休暇として扱う「推奨育休」のトライアルを実施しています。トライアル期間は2025年9月までとし、その期間での抽出した課題を反映後、本格導入に入る予定です。
ウ.個々人の能力・個性の発揮
2024年度は「一般社団法人出光社員会」を設立し、より良い会社と組織風土を創るために、役職者含む社員一人ひとりが議論に参加できる「場」を提供することを目的として活動を開始しています。非管理職の社員から選出された社員会の専任理事と各職場の社員会の代表がより良い職場・やりがいのある職場に向けた議論を重ね経営層への提言を行うことを通じて、やりがいのある職場づくりなどに取り組んでいます。
また社員一人ひとりが自律的にキャリアを考えることを支援する「キャリアデザイン部」を設立し、手上げ式の研修やライフキャリアを検討するツールなどの展開を始めています。
エ.出光エンゲージメントインデックス向上の取り組み
既存事業の構造改革を通じた持続的な成長を実現するために、当社はゴール指標として出光エンゲージメントインデックス(出光EI)を重視しています。これは、当社が独自に開発した指標で、組織に対する社員のコミットメントを測定するもので、「高い当事者意識」「当社に帰属する誇り」「自己の成長実現」「組織への貢献意欲」「企業理念の体現」「組織の垣根を超え変革に挑戦」の6つの要素で構成されています。この出光EIに強い影響を及ぼす要素を明らかにすべく、やりがい調査の質問項目を独立変数、出光EIを従属変数とした重回帰分析を実施し、特に高い寄与率を示すキードライバー6項目を抽出しています。
図2 出光EIとキードライバー

各キードライバーに対する課題と打ち手を講じ、2024年度の出光EIは70%となりました。(2022年度: 67%、2023年度: 69%)
④2025年度の重点課題
中計最終年度を迎えるに当たって、本年重点的に取り組む、人財戦略上の課題を中心に記載していきます。
ア.Post Merger Integration(PMI)に区切りをつけ新たな行動指針を制定
主力製品の内需減少は経年の課題であり、慢性的な供給過剰に陥った業界構造を打開すべく2019年、出光興産・昭和シェル石油は経営統合しました。燃料油セグメントを中心として、統合シナジーを速やかに追及、実現する一方、PMI活動については、生い立ちの違う、100年以上の歴史を持つ企業同士の統合であることから、慎重を期して丁寧に進めました。現在の人事制度及び行動指針は、経営統合時にどちらかの会社の制度に片寄せするのではなく、新しいコンセプトを打ち出すという方針のもと策定・制定されました。しかし、行動指針などで使われた用語が汎用的であるために当社らしい価値観が反映されていない、評価の際の基準が曖昧になりやすいという問題点を抱えていました。そこで、2021年4月に成文化した企業理念「真に働く」に基づき、今般当社らしさにこだわり、新たな行動指針を制定しました。制定した新行動指針は、「徹底的当事者意識」「飽くなき成長意欲」「誠実・相互信頼」の3つの基本姿勢と、「大胆に挑み続ける」「常に考え決断する」「相違を乗り越える」「人を活かす」の4つの能力から構成されています。
表1 新行動指針

この行動指針をもとに人事制度を刷新し、社員が日常業務を通じて企業理念を体現し、持続的な成長を遂げることを目指します。約5年かけたPMI活動に名実ともに区切りをつけ新たなスタートを切ることにします。人財戦略のプラットフォームになるのが人事制度であり、評価項目及びその基準となる「新行動指針浸透率」を新たにKPIとして設定し進捗を確認していきます。
イ.出光成長スコアの設定
前述のとおり、これまでの出光EIは漸次改善している一方、2025年度目標: 75%を達成するためには一段と思い切った施策が必要です。
従来の出光EI分析は、平均値をもとにした対応策検討に終始していたという反省を踏まえ、今般各職場のリーダー層30名強を抽出し、匿名かつ記述式のアンケートを実施して現場の社員が実感している課題を抽出することにしました。アンケート結果を分析したところ、
・成長実感が得られない
・職場での貢献実感が得られない
・個人のキャリアを描けない
の3点が課題として浮かび上がってきました。この3点は、特に出光EIとの寄与率が高いキードライバー6項目のうち、「当社には能力を伸ばし成長する機会がある(成長実感)」「現在の仕事に対する自身の取組みと成果に満足している(貢献実感)」「今後当社でのキャリアを思い描ける(キャリアを描ける)」の3項目と一致しています。
図3 出光成長スコアの設定

そこで、この3つを新たに中間指標として「出光成長スコア」を設定することにしました。なお、出光成長スコアと出光EIの相関係数は0.8です。現状開示を行っている「出光EI」はゴール指標として継続的に開示を行い、出光EIの向上に繋がる先行プロセスであり、喫緊の重要組織課題達成のための中間指標「出光成長スコア」を経営上の重要指標として追跡し、かつ社員全員で向上のためのムーブメントを起こしていきます。これが結果的に既存事業の成長にも繋がっていくものと考えています。
図4 出光成長スコアと出光EIの関係

なお、2024年の出光成長スコアは64%でしたが(2022年60%、2023年62%)、全45部門を3分割すると、上位3分の1に入る15部門の平均スコアが70%であるのに対し、下位3分の1に入る15部門の平均スコアは58%と12ポイントの差がありました。事業内容、所属するメンバー特性など、部門ごとに出光成長スコアにばらつきがあり、部門別のきめ細かな丁寧なアプローチが必要であることを再認識しました。
ウ.出光成長スコアに資する打ち手の展開
出光成長スコアの向上に向けて、本年は以下の4点に取り組みます。
(ア)キャリアを主体的に考える機会の拡大
出光成長スコアを構成する「今後当社でのキャリアを思い描ける」のスコアが51%に留まっていることが課題です。当社では様々なキャリア支援策を用意し、社員に選択肢を提供していますが、それを自分事として受け止め、自ら主体的にキャリアを描ける社員の割合がまだまだ不足しているのが現状です。これを打開すべく、全部門が一堂に会し他部門の業務理解、自身のキャリアを考える機会となる「ジョブフェスティバル」、現職務を継続しながら20%の時間を他部門の業務に充てることができる「社内副業制度」、部門を超えたプロジェクトへの参画、社外への越境学習などへ参加した人の割合を測定する「自部門外活動参加率」をKPIとして設定します。また、これらの経験を経て自ら主体的にキャリアに関し意思決定する社員を後押しする「自律的キャリア意向比率」を併せてKPIとして設定しフォローしていきます。これらは出光EIを構成する「組織の垣根を超え変革に挑戦」にも寄与すると考えています。
(イ)キャリア支援の実感向上と、次世代リーダー層の拡大
各種キャリア支援策や上司をはじめとする周囲の人たちのサポートが社員にどのように実感されているのかを測定し、適宜軌道修正できるようにしていきます。そのため、「キャリア周辺サポート比率」を新たにKPIとして設定します。また、自らのキャリアプランを明確にする過程で当社において現在の女性役職者比率だけではなく、リーダーとして活躍したいと考えている社員の層に厚みを持たせたいと考えています。そのため「リーダー層希望比率」を中間指標として測定していきます。これにより、性差のない将来のリーダー層・役職者のパイプラインを形成します。
(ウ)役職者の面談力向上による、キャリア支援力の向上
部下のキャリア支援に当たって直属の上司の役割は極めて重要です。本年上期は新行動指針に基づく人事制度の考課者訓練、そして本年下期以降、2年をかけて重点的に面談力(傾聴・フィードバック)向上に資する研修を全役職者対象に実施していきます。まずは、上司である役職者に対し、部下の成長実感、貢献実感の向上に資する面談を実施できているかどうかを確認する「効果的面談実施率」をKPIとして設定します。
(エ)人的資本の可視化と最大活用
当社は、人的資本の可視化と最大活用を図るため、生成AI技術を活用したプラットフォームを構築しています。これにより、社員のスキルやキャリアポテンシャルを可視化し、最適な配置や育成計画に役立てています。本年は上記で設定したKPI情報を有機的に組み合わせ、経営情報としての活用を図っていきます。
当社の人的資本経営に関するKPI及び中間指標は下表のとおりです。
図5 当社のKPI及び中間指標

引き続き、当社は人的資本経営を推進し、社員の成長と企業の持続的成長を両立させるための取り組みを続けていきます。