有価証券報告書-第50期(2022/04/01-2023/03/31)

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2023/06/21 16:49
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研究開発活動

当社は研究開発活動の長期的主眼を「社会の脱炭素化に寄与する駆動技術の高効率化」と「省資源を促進するモータの小型・軽量化」に置くと共に、基幹部品同士の最適な擦り合わせを通じた機能(モジュール)単位の付加価値創出を追求しております。急変する社会ニーズと当社の持続的成長を確実にリンクさせる研究・開発組織間の技術融合が体制面の重要テーマであります。
注目している市場トレンドは「クルマの電動化」、「ロボット活用の広がり」、「家電製品のブラシレスDC化」、「農業・物流の省人化」、「5G通信に起因する次世代技術の普及」であります。いずれも二酸化炭素排出量の削減や交通事故の低減、高齢化への対処といった世界的課題を背景に生まれた新たなニーズであり、当社の技術的蓄積が活かせる有望市場として経営資源を集中的に投下していく計画であります。2020年に入り世界的脅威へと発展した新型コロナウイルスの感染拡大はこうした市場の志向性を決定づける分水嶺となり、市場構造の変化をもたらしております。省人化・自動化の急速な進展は自動車や無人搬送用ロボット、ドローン等に使用される駆動技術の要求水準を厳格化させ、テレワークの普及拡大と定着を背景とするデータ通信量の増大は、サーバ用途のHDD用モータや冷却モジュールの需要を押し上げると同時にデジタル家電等の多様化を促す要因になります。加えて、5G通信の普及がインフラ面から新技術の実効性を担保します。
また、昨今の地政学リスクやサプライチェーンの混乱を背景に原材料価格が高騰していることから、主要原材料の入手可能性に関わる中長期的リスクの軽減を念頭に置いた製品設計の抜本的見直しを図っております。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費の総額は81,337百万円であります。また、無形資産に計上された内部開発費は、9,812百万円であります。
なお、各事業本部内に設置している開発部門のほか、各セグメントに帰属しない「全社(共通)」として、中央モーター基礎技術研究所(注1)、台湾モーター基礎技術研究所において将来の会社事業に必要なモータ全般の要素技術研究を行っており、グローバル技術開発戦略の中核となる電子回路技術、熱、騒音/振動技術、制御等の要素技術研究の一層の高度化を推進しております。また、生産技術研究所(注2)においては、ロボットやIoTを利用したスマートファクトリーの実現、新素材や新システムの開発、検査技術革新、データ解析、シミュレーション等、既存の製造方法の枠にとらわれない生産技術の進化に主軸を置く研究開発を行っております。これらの研究所ではそれぞれの開発部門と多様化する国内外グループ会社間の技術シナジーを推進し、成長を促進させてまいります。
当連結会計年度に係る研究開発費は5,284百万円であります。
セグメント別の研究開発活動の状況及び研究開発費の金額は次のとおりであります。
(1)SPMS
当セグメントにおいては、精密小型DCモータ及びファンモータ等、精密小型モータ全般にわたる基礎及び応用研究、新製品の研究開発及び各拠点の技術的支援研究を行っております。主な研究開発の内容は次のとおりであります。
ファンモータについては、従来HDD用モータに採用してきたFDB技術をファンモータへ応用した新モデルの開発を行っております。更に、サーバー水冷モジュール、空調ヒートポンプ等の熱ソリューション技術や、小型EV用、電動バイク用、電動自転車用モータ等といったモビリティソリューション分野の開発も行っております。
当連結会計年度に係る研究開発費は15,653百万円であります。
(2)AMEC
当セグメントにおいては、脱炭素社会の実現に貢献する電気自動車(EV)向けの駆動用をはじめとする各種車載用モータ等に関する新製品及び新機種量産化、製品の品質向上を目的とした研究開発を行っております。主な研究開発の内容は次のとおりであります。
車載用モータについては、中国や欧州の顧客を中心とした電気自動車(EV)向けの駆動用モータの開発を強化しております。原材料の使用量を大幅に低減し、小型・軽量化を実現した第2世代EV向け駆動用モータを市場投入すると同時に、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が脱炭素社会の実現に向けて創立したグリーンイノベーション基金事業として、磁石フリーの次世代EV向け駆動用モータの開発も進めております。その他にも、小型・高性能の次世代パワーステアリング用モータ、パワーステアリング以外のアプリケーション(シート・ブレーキ・サンルーフ等)用のモータ及び付帯する電子制御ユニットの開発、デュアル・クラッチ・トランスミッションや油圧・電動システムに使用されるブラシレスモータ等の開発を行っております。また最近では、電気自動車(EV)向けの駆動用モータや車載用モータを、センサー・制御装置と組み合わせたパッケージ開発を行っております。
当連結会計年度に係る研究開発費は25,244百万円であります。
(3)MOEN
当セグメントにおける主な研究開発対象は以下のとおりであります。
・電力貯蔵装置
‐BESS(電力貯蔵システム)
‐電気自動車充電スタンド
‐再生可能エネルギー用電力品質ソリューション
・産業用オートメーション
‐自動倉庫システム用モバイルロボット
‐ロボットアーム
・産業用・データセンター用発電機
‐産業/商業/住宅/建設用発電機
‐通信基地局用発電機
・建機・商用車電動化装置
‐大型トラクションモータ
‐マテリアルハンドリング、高所作業者用モータ・ギア・制御装置
・駆動装置
‐マイクロドライブ(コマンダーS)
‐ポンプ用及びHVAC用ドライブ
‐インフラ用高出力ドライブ
・エレベーター
‐MRL(マシーンルームレス・エレベーター)用スリム巻上機、貨物エレベーター用ギアレス巻上機
‐制御機器及び周辺機器
‐巻上機及び制御機器のパッケージソリューション
・電気自動車関連部品
‐EVトラクションモータ
・その他、新市場向け開発製品
‐電動トレーラー/冷蔵ユニット駆動用モータ
‐高高度(亜成層圏)対応プラットフォームシステム
‐電動垂直離陸・着陸機体用モータ
脱炭素社会の実現を目指す世界的潮流は産業界の電動化・省エネ化を急速に促し、とりわけエネルギー効率の高い産業用機器の必要性が高まっております。同時に、労働人口の不足を反映した生産自動化システムの需要も拡大しております。
こうした市場環境を背景に、現在、電力の効率的利用を可能にするバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)や、データセンター用発電機、自動倉庫用モバイルロボット、産業車両駆動用モータ等の研究開発に重点を置いております。特に脱炭素化に資する製品の開発は急速に重要度を増しており、その筆頭と言えるBESS開発の主眼は安価な電力の安定供給並びに産業設備が排出する温室効果ガスの低減にあり、再生可能エネルギーの発電、蓄電、送配電までを統合するソリューションを開発しております。2022年8月にはノルウェーの半固体リチウムイオン電池メーカーである FREYR BATTERY SA と合弁契約を締結し、蓄電池技術の強化を図っております。また、産業車両駆動用モータの開発においては建機・農機等大型車両のハイブリッド化・電動化への寄与を主軸に据えると同時に、地政学上・人権上の問題に関与しがちなレアアースを使わないSRモータ(Switched Reluctance Motor)をエンコーダ等の制御部品と組み合わせるモジュール化を進めております。
当連結会計年度に係る研究開発費は5,085百万円であります。
(4)ACIM
当セグメントにおいては、主に住宅/商業・家電・産業用モータの研究開発を行っております。主な研究開発対象は以下のとおりであります。
・住宅/商業用:空調設備や商業冷蔵機器に使用されるモータ、その他
・家電用:洗濯機、乾燥機、食洗機、コンプレッサーに使用されるモータ、及び冷蔵庫コンプレッサー
・産業用:IE3(プレミアム効率)・IE4・IE5対応モータ、及び上下水道・灌漑施設・ガス採掘に使用される各種ポンプ用モータ
同事業では特にスーパープレミアムクラス(IE4・IE5)の高効率モータの研究開発に焦点を置いており、モータによる電力消費量の低減を通じて産業設備の省エネルギー化に寄与しております。
当連結会計年度に係る研究開発費は7,062百万円であります。
(5)日本電産サンキョー(注3)
当セグメントにおいては、メカのカラクリ技術と事業多角化の中で構築されたモータ技術、サーボ技術を融合させた「カラクリ・トロニクス」製品として、ステッピングモータ、スマートフォン・ゲーム関連、モータ駆動ユニット商品群、システム機器関連の開発を行っております。
ステッピングモータについては、車載用への展開において、小型化・高性能化・コストパフォーマンスの改善に向けた開発を行っております。また、当社独自のスマートフォン用光学手ブレ補正機能(TiltAC)、並びにゲーム機器やAR/VR用途で使われる触覚デバイスの開発を進めております。モータ駆動ユニット商品群については、車の電動化に伴う熱冷却需要を充たす車載サーマルマネージメント商材や、産業機器市場への参入を目指し、小型高出力モータ、センサー、サーボ制御、制御ソフトウエアをメカニカルユニットに融合させる商品群への展開を進めております。システム機器関連事業においては、各種カードメディアに対する周辺機器のセキュリティ強化、液晶・有機EL ディスプレイ関連、半導体ロボット分野、真空装置内搬送への積極的な展開を行っております。
当連結会計年度に係る研究開発費は4,063百万円であります。
(6)日本電産テクノモータ(注4)
当セグメントにおいては、空調・家電用モータの開発を福井及び中国、産業用モータの開発を福岡で行っております。
空調・家電用モータについては、グローバル視点での新製品開発及びバリューエンジニアリング(VE)開発について取り組みを強化しております。特に中国を中心とした省エネ規制の引き上げによるDCモータの需要拡大や、主要素材となる銅線・鋼材・樹脂材の高騰という背景により、モータ構造を一新した軽薄短小モータの新製品を業界に先立ち投入する事で事業拡大を加速しております。
当連結会計年度に係る研究開発費は1,224百万円であります。
(7)日本電産モビリティ(注5)
当セグメントにおいては、電子制御並びにモータ制御技術を軸に自動車のボディ制御事業とパワーエレクトロニクス事業を展開しており、日本・米国・カナダ・ブラジル・中国・韓国の6か国で、開発または設計機能を有しております。
ボディ制御事業では、ボディコントロールモジュール、パワーウィンドウスイッチを含むドア周辺制御ユニット、二輪車用スマートシステムなどを主に、パワーエレクトロニクス事業では、電動パワーステアリング、電動車向けDC/DCコンバータ、車載充電器などを主に開発しております。また、最近ではNIDECグループシナジーを発揮し、車載用モータを組みあわせた電動ウォーターポンプ、電動オイルポンプ、電気自動車向けトラクションユニットの構成要素の1つであるインバータなどの技術開発とパワーパック化による商品開発も進めております。
当連結会計年度に係る研究開発費は7,289百万円であります。
(8)日本電産シンポ(注6)
当セグメントにおいては、機械、電気一体の技術を用いた減速機関連製品の開発を日本、中国及びドイツで行っており、また、プレス機関連製品については、小型高速精密プレス機から超大型サーボプレス機、更には周辺機器である高速送り装置まで幅広い製品ラインナップの開発を日本、米国及びスペインにて行っております。
減速機関連製品としては、精密制御用減速機であるFLEXWAVE や各種物流の無人化、省人化や工場のFA化に貢献するAGV用のモータドライバ、S-CARTの開発を行っており、特にFLEXWAVEについては日本のみならずアジア・欧米の市場をターゲットとして、ロボット・半導体装置等の産業機器、民生機器への搭載を目的とした製品開発に注力しております。プレス機関連製品としては、EVプレスラインの中国・韓国・欧米の電気自動車駆動用モータコア等の市場に向け、コイル材供給装置の研究等を行っております。
当連結会計年度に係る研究開発費は2,012百万円であります。
(9)日本電産リード(注7)
当セグメントにおいては、半導体パッケージ基板やプリント回路基板上に配線された電子回路の良否を判定するための検査装置の開発を行っております。
電子機器、自動車等に使用される電子デバイスの機能や性能、搭載数量は増加、多様化しており、様々な基板を正確に高速に検査できる新型検査装置の開発を行っているほか、それら検査装置に搭載する検査治具の生産効率改善、納期短縮を目的として工程自動化のための研究開発を進めております。
また、拡大するEV市場をターゲットとして、トラクション(駆動用)モーターの性能試験、耐久試験を行う装置の開発、IGBTモジュールの各特性検査を常温・高温環境下において自動で行うための装置の開発も行っております。
当連結会計年度に係る研究開発費は2,531百万円であります。
(10)その他
当セグメントにおいては、車載用製品、機器装置、電子部品及びその他小型モータ等の研究開発活動を行っております。
当連結会計年度に係る研究開発費は5,888百万円であります。
(注)1.2023年4月1日付で、「中央モーター基礎技術研究所」は「ニデック新川崎テクノロジーセンター」に事業所名を変更しております。
2.2023年4月1日付で、「生産技術研究所」は「ニデックけいはんなテクノロジーセンター」に事業所名を変更しております。
3.2023年4月1日付で、日本電産サンキョーグループの中核をなす「日本電産サンキョー㈱」は「ニデックインスツルメンツ㈱」に社名変更しております。
4.2023年4月1日付で、日本電産テクノモータグループの中核をなす「日本電産テクノモータ㈱」は「ニデックテクノモータ㈱」に社名変更しております。
5.2023年4月1日付で、日本電産モビリティグループの中核をなす「日本電産モビリティ㈱」は「ニデックモビリティ㈱」に社名変更しております。
6.2023年4月1日付で、日本電産シンポグループの中核をなす「日本電産シンポ㈱」は「ニデックドライブテクノロジー㈱」に社名変更しております。
7.2023年4月1日付で、日本電産リードグループの中核をなす「日本電産リード㈱」は「ニデックアドバンステクノロジー㈱」に社名変更しております。