有価証券報告書-第102期(2022/04/01-2023/03/31)

【提出】
2023/06/23 13:40
【資料】
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【項目】
136項目
(Ⅱ)戦略
a. シナリオ分析
当社は、気候変動問題を世界が直面する重要な課題の一つとして捉え、気候変動の影響が大きい事業を選定し、TCFD提言に沿った形でシナリオ分析を実施しております。
事業への影響については、影響が大きい要素を選定してシナリオ分析を実施いたしました。リスクでは移行リスク(政策・規制、技術、市場、評判)及び物理リスク(急性・慢性)を、機会では資源効率、エネルギー源、製品及びサービス、ならびに市場を考慮しております。
また、当社グループでは2030年にGHG排出量を2019年比50%削減することを目指しており、今回のシナリオ分析においても同様に2030年を分析のタイムフレームとしております。
<参照シナリオ>気候変動に起因して、当社グループの事業環境が大きく変化した際に、新たなビジネスの機会及び事業レジリエンスを評価し、事業への影響を分析することを目的として、IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)及びIPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの下記シナリオを参照しております。
区分シナリオの概要主な参照シナリオ
1.5℃/2℃
未満シナリオ
脱炭素社会の実現へ向けた政策・規制が実施され、世界全体の産業革命前からの気温上昇幅が1.5℃/2℃未満に抑えられるシナリオ。4℃シナリオと比べ、移行リスクは高いが、物理リスクは低く抑えられる。・IEA Net Zero Emissions by 2050 Scenario (NZE)
・IEA Sustainable Development Scenario (SDS)
・IPCC RCP2.6
4℃シナリオ新たな政策・規制は導入されず、CO₂排出量は継続的に増加するシナリオ。1.5℃/2℃未満シナリオと比べ、移行リスクは低いが、物理リスクは高くなる。・IEA Stated Policies Scenario (STEPS)
・IPCC RCP8.5

<対象事業選定>当社グループ事業のうち、気候変動の影響が大きい事業(下記A~Dの観点)をシナリオ分析の対象事業として選定し、リチウム事業、アルミ溶湯事業、再生可能エネルギー事業、自動車販売事業についてシナリオ分析を実施いたしました。今後、対象事業の範囲を拡充してまいります。
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当シナリオ分析におけるシナリオ・事業環境認識は、国際的な機関などが提示する主なシナリオを基にしており、当社の中長期の見通しではありません。
b. 各事業におけるシナリオ分析結果
<リチウム事業>当社グループは、電動車に不可欠な車載用リチウムイオン電池の原料を供給するため、アルゼンチンのオラロス塩湖で炭酸リチウムの生産を2014年に開始しております。また、日本国内では、福島県双葉郡楢葉町において水酸化リチウムの製造工場を建設しており、2022年に生産を開始しております。
気候関連・リスク機会
区分内容
リスクアルゼンチン炭酸リチウム生産事業における災害・異常気象などによる生産量への影響
機会自動車の電動化などによるリチウム製品需要の変動

各シナリオ下における事業への影響
・いずれのシナリオにおいてもリチウム電池を使用する電動車や蓄電池の需要増加が見込まれる。
・アルゼンチン炭酸リチウム生産事業における、降雨に伴うリチウム生産効率悪化のリスクについては、2022年実績比較で降雨量に変化が見られず、リチウム生産への影響は軽微と想定される。
・1.5℃/2℃未満シナリオと4℃シナリオを比較すると、1.5℃/2℃未満シナリオの方が電動車や蓄電池需要の大きな増加が見込まれ、当事業全体の機会は拡大すると想定される。
当社グループの対応策
電動車の本格的な普及に伴うリチウムの需要増加に対し、既存能力の増強により長期安定的な供給体制構築を目指しております。また、今後の電池高容量化に伴う水酸化リチウムの需要増加を見込み、事業領域を拡大し、安定供給に向けた体制構築を進めてまいります。
<アルミ溶湯事業>当社グループは、再生アルミをよりCO₂削減効果のある溶湯状態でお客さまへ供給しており、世界トップクラスの取り扱いとなっております。今後、電動車の普及は加速し、それに伴い軽量化に必要となるアルミ部品の需要が高まってまいります。また、環境への配慮から、アルミスクラップの再資源化による再生アルミの需要の増加も見込まれております。
気候関連・リスク機会
区分内容
リスクガソリン車と電動車の販売構成比の変化に伴う事業への影響
炭素税などの導入に伴う事業への影響
機会電動化に伴うアルミ需要の変動
アルミ新地金から再生アルミへの置き換え需要の変動

各シナリオ下における事業への影響
・1.5℃/2℃未満シナリオでは、燃費規制の強化などに伴い、総販売台数に占めるガソリン車の割合が減少するが、一方で電動車の販売比率が増加することによる軽量化の需要増加、加えてグローバルでのリサイクル材の需要増加が見込まれ、当事業全体の機会は拡大することが想定される。
・4℃シナリオでは、1.5℃/2℃未満シナリオで想定される燃費規制の強化などが行われないことが見込まれ、当事業全体への影響は限定的であると想定される。
当社グループの対応策
当事業は重点分野である「循環型静脈事業」の一つと位置付けられており、アルミリサイクルバリューチェーンの川上から川下までの機能強化をグローバルに進めてまいります。炭素税導入などによるコスト増加に対してはGHG排出量削減に向け、新技術などの活用により排出削減に努めてまいります。
<再生可能エネルギー事業>当社グループは、風力、太陽光、水力、地熱、バイオマスなどの発電事業を全世界規模で展開しており、アフリカ、新興国での開発促進、洋上風力開発などの事業にも注力しております。
気候関連・リスク機会
区分内容
リスク再生可能エネルギー関連政策(固定価格買取・補助金・減税など)の見直しによる事業への影響
機会再生可能エネルギーニーズ増加に伴う事業への影響

各シナリオ下における事業への影響
・1.5℃/2℃未満シナリオでは、再生可能エネルギー政策の見直しによる固定価格買取制度の廃止などの影響を受ける可能性はあるものの、全世界において政策の進展や再生可能エネルギーに対する需要の大幅な増加に伴い、関連する技術革新の進展、再生可能エネルギーが基幹エネルギーとなることなどが見込まれる。よって、再生可能エネルギーに対する需要に対応して開発を進めていくことで当事業全体の機会は拡大することが想定される。
・4℃シナリオでは、政策の見直しにより固定価格買取制度が廃止されることなどの可能性があるが、再生可能エネルギーに対する需要は、1.5℃/2℃未満シナリオほどの高まりはないものの一定の増加が見込まれることから、当事業全体への影響は限定的である。
当社グループの対応策
当事業は当社グループの重点分野と位置付けられており、既存ビジネスモデルを強化してグローバル展開を加速させるとともに、電源メニューの多様化やエネルギーマネジメントなど、事業領域の拡大を図っております。競争力ある再生可能エネルギーの安定供給で、より良い地球環境づくりに貢献してまいります。
<自動車販売事業>当社グループは、トヨタグループを中心とした自動車・輸送用機器メーカーが国内外で生産する乗用車、バス・トラックなどの商用車、産業車輌、補給部品を世界各国へ輸出しております。また、世界150カ国に及ぶグローバルネットワークを通じて、輸入販売総代理店や販売店の事業を展開しております。
気候関連・リスク機会
区分内容
リスクガソリン車と電動車の販売構成比の変化に伴う事業への影響
機会電動車需要の変動

各シナリオ下における事業への影響
・いずれのシナリオにおいても、新興国を中心にグローバルでの新車総販売台数の増加が見込まれるため、当事業全体のリスクは軽微と想定される。
・1.5℃/2℃未満シナリオでは、燃費規制の強化などに伴い、総販売台数に占めるガソリン車の販売割合が減少するものの、電動車の販売割合が増加することが見込まれ、当事業全体の機会は拡大することが想定される。
・4℃シナリオでは、1.5℃/2℃未満シナリオで見込まれる燃費規制の強化などが行われず、ガソリン車及び電動車の販売割合への影響は小さいため、当事業全体への影響は限定的である。
当社グループの対応策
新車販売市場は新興国を中心に今後も拡大していくことが想定されていることから、当社グループは全世界での販売体制を強化してまいります。また、電動車ラインアップの拡充に併せて、その基幹部品である電池素材の資源確保や電池の3R(リビルト、リユース、リサイクル)の事業領域を開拓し、電動車の普及を促進いたします。