有価証券報告書-第24期(2023/07/01-2024/06/30)

【提出】
2024/09/26 15:02
【資料】
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【項目】
108項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 基本方針
当社は、社会における存在意義を「ITサービスにより安全な物流環境を実現させること」と定め、以下の「経営理念」、「社是」、「社訓」の実践を通じて物流の課題解決に取り組んでおります。現在、「経済の血液」とも称される物流の現場では深刻な労働力不足、「2025年の崖問題」と言われる古い技術基盤システムのブラックボックス化といった課題に直面しております。当社では創業以来の安定したSaaS型WMSシステムの提供に加え、他社システム、物流ロボット並びにマテハン機器との自動連携による省人化・自働化により、これらの課題に対処する事で事業成長を図るとともに、持続可能な社会の実現に取り組んでおります。
<経営理念>創造と革新の物流ITサービス
<社是>知恵と知識を共有する世界に開かれた情報システムを作ろう。
先進の物流システムと安心サービスで安全な物流環境を作ろう。
次世代のソフトウエア開発に創造と革新の精神で取り組もう。
<社訓>① 出荷絶対
お客様の出荷は絶対である。お客様、ましてや荷物を待つ人に迷惑をかけることがあってはならない。
② 不断至上
お客様に待つという作業をさせてはならない。お客様の作業が進むようあらゆる手を尽くせ。
③ 連鎖連結
自己完結主義は棄てよ。お客様、お取引先、製品の全てを大量に連鎖連結するよう知恵をしぼれ。日日より大きく繋げようとする努力こそが己と社業を大きくする。
④ 服務光速
技術、営業、間接とも社業の全てが顧客サービス。己の仕事は1日でも早く完了せよ。後行程への余裕の確保が真のサービスを実現すると心得よ。
⑤ 表明大義
それがよさそうなら上下なく表明せよ。自ら機会を作り出し協力を求め、素早く実現への道を開け。
⑥ 本質求道
顧客の要求の本質を追求し製品とサービスに反映せよ。それは先に繋がるのか、差別化できるのか問いつづけよ。本質的仮説は手間と費用をかけても世に証明するのが我が社の責務と心得よ。
(2) 経営戦略
当社の今後の経営戦略は、以下のとおりであります。
① 製品戦略
製品を利用いただく倉庫・3PL事業者においては、人手不足は引き続き喫緊の課題となっております。当社では、物流ロボット連携やRFID技術などの対応を進めており、また荷主の業務アプリを提供する事業者とのデータ連携を拡充することで、当社の製品・サービスの魅力を高めつつ、顧客の省力化・自動化ニーズに応えて参りました。引き続き多様な他社製品との連携を進め、顧客の利便性に寄与する選択肢の拡大を図りながら今後の物流現場に有用な新技術への研究開発を進めます。
一方、実店舗を所有する小売業においては、オンライン販売強化及び消費者の多様なニーズに応えるために「店舗でもオンラインでも」販売できる仕組みの構築に取り組んでおり、当社への引き合いも増加しております。当社では、OMO在庫管理支援サービスの提供と浸透をもって改題解決に取り組んでまいります。
また、小売企業においては、DX化に取り組むにあたり、既存システムの技術基盤が古くメンテナンスできるエンジニアが確保できないという「2025年の崖問題」に直面している企業が多数存在しており、SaaS型システムへのリプレイスの動きが加速しております。当社では創業以来のSaaS提供実績に基づいた安定した事業者として当該ニーズへの対応を進めます。
② 販売戦略
新規顧客獲得のための効果的な企業・サービスの営業活動は、WEB中心での認知施策を進めつつ、当社の得意とするオフラインでのセミナー開催や展示会への出展、またユーザー向けイベントなどを活発に行います。サービスを利用中のお客様と一層のリレーションシップ強化を図るだけでなく、利用を検討中のお客様にも、これまでに開発したオプションサービスや連携サービスなどの利便性をダイレクトに伝える機会を増加させることで、更なるアカウントの増加やアップセルを実現してまいります。
また、外部企業等との協力体制の強化施策として、製品連携パートナーとの共同プロモーションを促進するほか、ビジネスの相乗効果を求める販売店及び販売代理店の増加施策を進めております。
③ 人材戦略
当社では引き続き新規採用及び教育・研修によるスキルアップを通じて組織体制の強化を図り事業成長を実現してまいります。当期において、社員が経営理念・社是・社訓に共感し、当社のミッションの遂行に貢献することで事業戦略を実現させ、社員も会社も共に成長していけるよう人事制度の改訂を行いました。新人事制度では、社是・社訓をベースにした人材ビジョンを設定し、各等級や役職で求められる役割を明確にしました。また、マネジメントとプロフェッショナルの複線型のフレームとし、社員それぞれの特性・志向に応じたキャリアプランを設定できるようにしたほか、「キャリア申告制度」を導入し、複数の業務経験を社員自らが選択し、経験を蓄積できるようにしました。業務を通じて蓄積した知識・経験や教育・訓練で培った知識・技能はタレントマネジメントシステムで管理し、適所適材を実現させてまいります。
④ 海外戦略
当社は、アジア・東南アジアを対象地域とし現地代理店を経由してサービスを提供しております。代理店への直接支援は当社のスタッフが営業支援と継続教育を行っております。昨今は、オンラインツールを活用して各国のスタッフ混合でのプロジェクトチームを組成し、提案と納品活動が可能な体制を構築しております。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、クラウドサービスの継続的な拡大を通じて企業価値を向上させていくことを経営目標としております。当該目標の達成状況を判断するための客観的な指標は、成長と同時に達成していくための売上高、経常利益率としております。
2025年6月期の個別業績目標指数は、売上高は前期比12%増となる2,214,399千円、経常利益は同15.6%増となる400,528千円、経常利益率18.1%であります。また、2024年6月の月間のクラウドサービス売上は、136,545千円でしたが、これを9.2%増となる149,080千円まで積み上げてまいります。
(4) 経営環境
小売業販売額は、経済産業省「商業動態統計速報」では引き続き増加基調が継続しております。しかしながら総務省発表の家計調査では、実質消費支出は低迷が継続している状況です。どちらも物価高がその主因であると推測しております。今後は商品の選択基準が厳格化することに加え、購入の利便性やオンラインの合理性が重視されると想定しております。またこうした機能の具備にあたり、「約8割の企業において、利用しているシステムが老朽化」※し、対応できない事態に直面しているため、小売業界は積極的にシステムリプレイスを伴ったスマート化投資を進めると推測しております。
その一方、物流業界は慢性的な人手不足が解消せず、特にトラックドライバーの不足は深刻であり、当年度には働き方改革関連法の時間外労働の上限規制が適用されたこともあいまって、ついにはモノが運べなくなり経済活動全般に悪影響が及ぶと全ての産業から社会課題と認識され憂慮されており、適切なソリューションが求められております。
※出典 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「デジタル化の進展に対する意識調査」
(5) 優先的に対処すべき事業の課題
①「物流のサステナビリティ」への貢献
以下に掲げる課題は、いずれもIT技術によって相当部分の解決が可能と考えております。当社は、これらに応えるサービスの提供を行うと同時に、成長とリスクに対応できる組織体制を構築して取り組んでおります。
イ.物流作業の省力化・自動化の実現
労働人口の減少を背景に、これまで人手に頼っていた在庫品のハンドリング(※1)を機器に代替させる省力化・自動化への取り組みが増加しております。
当社は、読み取り機器で複数の商品情報処理の一括化を可能とするRFIDや画像認識等の新しい認識技術を製品に導入するほか、マテハン等物流機器や、上位基幹システム・周辺システムとの標準データ連携を積極的に推進して、省力化・自動化に取り組む企業から選ばれるサービスの提供を目指します。
ロ.適用可能業種の拡大
これまでの主要顧客である流通業・Eコマース顧客向けの機能強化を進めつつ、企業間取引の物流分野への機能提供を進めてまいります。これまで企業間取引の物流分野はオンプレミスのレガシーなシステムでの運用でありましたが、DX化の動きが求められる中、クラウドベースシステムへのリプレイス目的での当社への引き合いも活発になっております。当社は積極的なサービスの開発と提供で対応を図ってまいります。
ハ.出荷データの活用による輸配送の効率化
物流業界における「2024年問題(※2)」や「ラストワンマイル(※3)問題」は、慢性的な人手不足により、深刻な労働負荷をもたらしております。また、トラックの貨物積載率を向上させ、ドライバー単位あたりの輸送量を増加させるといった課題については、大手企業が「共同配送」の取り組みを始めたものの根本解決にはいたっておりません。これらの課題を解決するためには、複数企業の仕向け先単位(※4)の貨物情報を元に、効率良い混載(※5)を可能とすることがポイントとなります。そして、在庫管理システムはその仕向け先単位の貨物情報の最初の起点と位置づけられます。当社は、IoT(※6)などの新技術の活用を視野に入れつつ、効率的な配送計画を実現したい企業に向けて、配送システムと連携活用できるデータの提供を行ってまいります。
二.在庫データの活用によるOMOの実現
Eコマースとリアル店舗が融合されたマーケティングの発展に伴い、「必要数がいつ、どこで手に入るのか」といった付加価値を伴った在庫情報が、商品の購入決定に際して重要となると考え、当社は、在庫管理システムで培った場所別在庫管理のノウハウと、クラウドサービスならではのリアルタイムに在庫更新ができる特徴を活かし、倉庫に加え店舗等の在庫引当と出荷機能の提供のほか、効果的な在庫配置のための提案機能を含んだ在庫情報を新しい活用分野としてサービスの提供を目指します。
② 人的資本への投資による人材の確保・育成
イ.人的資本への投資
当社サービスの顧客価値は、物流に知見の高い社員の関与によって最大化されます。この人材の質と量を確保することは事業成長に直結すると同時に、当社の理念である「安心・安全な物流環境」を実現するために最も重要な課題と認識しております。当社は積極的な人材採用ならびに成長への機会提供を重要な先行投資と位置づけ、将来の業界を牽引できる質の高い人材育成に向けて投資を継続してまいります。
ロ.働く環境の整備への投資
当社は、社員が働く環境の整備が持続的な企業成長の源泉と考えております。また、多様化するニーズに対応するためには、多様な価値観を取り込む必要があると認識しており、DEI(Diversity,Equity&Inclusion)を意識した環境を整備して参ります。当社はリモートワーク制度の導入や勤務時間の選択的シフト制により、さまざまなライフステージにある社員へのサポートを行っておりますが、引き続きライフイベントを積極的にサポートし、社員が継続的に勤務出来る制度を整備してまいります。
③ 事業リスクの軽減
イ.サイバーセキュリティーへの対応
昨今、サイバー攻撃や情報漏えい事故が増加しており、サイバーセキュリティー確保の重要性がますます高まっております。当社はインターネットをベースとするクラウドサービス企業であり、サイバーセキュリティーを担保することは事業継続に必須であります。今後、過激化するサイバー攻撃等に対し技術的な投資をすることはもちろんのこと、内部の情報取り扱いなどの運用も常に見直すことで、安全なサイバーセキュリティー管理体制の維持を継続してまいります。
ロ.機器・デバイスの流通の滞りによる機会損失リスクの回避
地政学的リスクの高まりによりサプライチェーン(※7)の見直しが各産業で行われております。当社が提供する機器、デバイスにおいても、製造者からの供給に影響が生じ、売上に影響が生じる可能性があります。引き続き製造者と綿密に連携し供給状況の動向に注視し、確実に確保できる対応を図ってまいります。
※1:ハンドリングとは、物をつかんで移動させる行為のことです。
※2:2024年問題とは、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用され、これまでより労働時間が短くなることで輸送能力が不足するなどの社会問題のことです。
※3:ラストワンマイルとは、商品が最寄りの配送センターから顧客への配達地点まで移動する道のりのこと、つまり荷物受け渡しまでの最後の区間を指します。
※4:仕向け先単位とは、貨物を配達する方面や場所などの単位のことです。例えば、東京から大阪へ貨物を配達する場合は、大阪を仕向け先と表現し、輸送は貨物を仕向ける行為とその物量によって車両が手配されます。
※5:混載とは、特定の同じ地域や、同じ方面へ複数の荷主のもつ多くの貨物をひとつの輸送車両等に積み合わせて輸送することです。
※6:IoTとは、「Internet of Things」の略称で、センサーによって取得したモノの情報を、インターネットを通じてクラウドサーバーに蓄積し、蓄積された情報の分析結果を、人やモノへフィードバックすることで相互に制御を実現する仕組みのことです。
※7:サプライチェーンとは、商品や製品が消費者の手元に届くまでの、調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費といった一連の流れのことです。